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女医絹代先生

1937年、松竹大船、池田忠雄脚色、野村浩将原作+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

桜が満開の大学を帰りかけた山岡絹代(田中絹代)を「絹代ちゃん!」と呼び止めたのは、級友の神田和子(東山光子)だった。

今聞いたドイツ語がわからないとノートを見せるので、和子は頭悪いわねと嫌みを言いながらも、絹代はすぐに読んで訳してみせると、今度の試験に出るから忘れちゃダメよと念を押す。

和子は、誰がドイツ語なんて面倒なもの発明したのかしらと嘆くと、医者とドイツ語は付き物よと和子に説教する。

今度こそ忘れないと言いながら先を急ぐ和子に、「忘れちゃいやよ〜♩」と流行歌で呼びかける絹代。

それに対し「忘れないわ〜♩」と、こちらも流行歌で返す和子。

青バスを降りた絹代は、タバコを吸いながら歩いて来る二人の大学生を見かけ、思わず微笑んで会釈する。

一人は、近所で幼なじみの浅野安夫(佐分利信)だったからだ。

しかし、安夫は絹代を知らんぷりして通り過ぎたので、かちんと来た絹代は、つかつかと早歩きし、安夫たちを追い抜くが、安夫も追いかけて来て、競争になった途端、ヒールのかかとが片方取れてつまずいてしまう。

安夫と同行していた小山(大山健二)が、絹代がそのまま放っていったかかとを拾って渡そうとするが、絹代はそれをはねつけて帰って行く。

高さが違うヒールを履いたまま帰る絹代は、前から来た足の悪い男とすれ違う形となり、何となくばつが悪そうな表情になる。

何だいあの娘?と小山が驚いて見送っていると、医者の娘だよと苦々しそうに安夫は説明するが、安夫の方も、靴の底が抜けてしまっていた。

小山は、君と付き合っているのか?と聞き、近所で幼なじみだから、会ったら会釈くらいはすると答えた安夫に、お前負けるぞ。あの子、開業したら、患者が殺到するだろうからなと忠告する。

彼らも医大生だったからだ。

安夫は忌々しそうに、俺は外科だと言い、俺の親父が早死にしたのも、あいつの親父と商売で競争しすぎた為だ。あんな生意気な女なんて大嫌いだと吐き捨てる。

絹代の父、山岡鉄斎(坂本武)は、まだ現役の漢方医だった。

帰って来た絹代が壊したヒールを残念そうに観ているのを知ると、おてんばだなと呆れるが、今しがた、浅尾安夫と出会ったので追い抜いてやったらこうなったのだと言う娘の説明を聞くと良くやったと感心し、あの家の親父には患者を良く取られたものだと苦々しそうにつぶやく。

一方、帰宅した安夫の方は、壁にかかった父親の遺影にただいまと挨拶をすると、腹が減ったと母親に催促する。

すると、妹のとし子(島田富英子)も同じようにねだり出したので、母親のよね(吉川満子)は、もうすぐ夕飯だから我慢しなさいとなだめながらも、安夫の靴が壊れたことを案じていた。

安夫は、明日から下駄で行くと言いながらも、山岡の娘と競争したことを話すと、よねも喜んで、しゃくな娘だね。赤ん坊の頃から気に入らなかった。亡くなったあの人が先方と競争するのは並大抵の苦労じゃなかった。いわば、あの人が早死にしたのは、山岡のせいみたいなものだ。あんな娘なんか、ぎゅーっとしちゃいなさいよとけしかけるのだった。

その後、安夫は、勉強を済ませたと言うとし子とじゃれ合うのだった。

約一年の後

絹代は、内科 小児科 山岡医院と言う看板を掲げ、自宅で開業していた。

患者は絹代目当ての男客で溢れていた。

メガネをかけた患者(小林十九二)は、診察中も、しきりと絹代に色目を使っていた。

絹代はチャイムを鳴らして薬剤師になった和子を呼ぶと、目配せして、患者を診察室から追い出してもらう。

絹代は、来る患者は皆健康な男ばかり、どうして私は客筋が悪いのかしらと嘆くが、和子は「何言ってるのよ。あどうせ良い女よ、あんた」と絹代をからかう。

離れでは、鉄斎が老人の患者の脈を診ていたが、しきりと首をひねっていた。

次の絹代の患者は赤ん坊を抱いて来たので、喜んだ絹代が赤ん坊の衣服を脱がそうとすると、病気なのは私の方ですと父親(県秀介)が言い出す。

呆れた絹代は、赤ん坊を和子に預けると、父親の方の問診を始める。

和子は赤ん坊を抱きながら、先ほどのメガネの客に薬を渡すが、客は、先生にくれぐれも風邪を引かないようにと伝言を頼むので、風邪はあなたの方でしょう!と叱りつけ、さっさと窓口を閉めてしまう。

赤ん坊の父親を診察していた絹代の元にやって来た鉄斎は、自分の患者の病気がどうも良く分からんと説明し出す。

その症状を聞いた絹代は、ただちに虫が湧いたんでしょう。虫下しでも出しておけば?と勧める。

それを聞いた鉄斎は、嬉しそうに離れに戻ると、さも、自分が診立てたように、老人患者に病状を説明し、虫下しを渡すのだった。

赤ん坊の父親は、半年前、妻に死なれ、その後、絹代を観た瞬間から胸がずきずきして来たのだと訴えるので、絹代は、自分はそう言う症状の方の専門ではないと断るが、父親は諦めようとしない。

そこにやって来た鉄斎は、苦い漢方の煎じ薬を、その場で無理矢理、父親に飲ませて退治するのだった。

そんな繁盛している山岡医院の前を通りかかったよねととし子は悔しがり、いつになったら安夫は開業できるのかね?と愚痴る。

大学病院で勤務していた安夫は、泣きじゃくる中学生の指の治療を終えていた。

毎日毎日、こうした簡単な治療しかさせてもらえない安夫は、看護婦に、もう飽き飽きだよ。たまには盲腸の手術くらいやりたいよと訴えるが、同情する看護婦も、小山さんをご覧なさいよと言う。

小山も同じ大学に勤めていたが、彼に与えられた仕事と言うのは、実験動物の飼育だった。

動物小屋の中の掃除をしていた小山は、教授から実験動物の散歩をすぐに運動させるよう命じられる。

小山はウサギを3羽、紐をつけて散歩に連れ出す。

山岡家の朝、毎日多忙を極める絹代は、住み込みの和子と共に、遊びに行きたいななどと縁側でくつろいでいた。

側で、薬を擦っていた鉄斎に小遣いを渡した絹代は、映画でも動物園でもどこでも行って来なさいと言いながら、そんなことをしても客なんか来るはずがないからと言い含める。

鉄斎は、もう少しくれと、小遣いをせびると出かけて行く。

その後、和子は歌い出し、その和子の身体を絹代は抱き寄せるが、その時、女中が患者ですと知らせに来る。

和代が薬部屋から待合室を覗くと、かねてより思いを寄せていた富豪の息子、前田総一郎(谷麗光)が座っていたので、嬉しくなった和子は化粧を念入りにし、前田の前に来ると、絹代先生は今準備中だと説明する。

総一郎の目当てもやっぱり絹代の方だったのだ。

総一郎を診察した絹代は、右胸が痛くて、先生に触られるだけで直るんですなどと言いながら、自ら服を脱ぎ始める。

絹代は呆れて薬剤室に来ると、和坊、あんたの彼じゃない。あんたが診なさいよと勧め、診察を交代すると、鳴り出した電話を受け取る。

電話は、総一郎の父親、前田総八からだった。

診察室の総一郎にお父様のお加減が悪いそうよを知らせると、親父の奴も、先生に目をつけたんだな。僕も一緒に帰りますと言い出す。

絹代は、洒落た小型オープンカーダットサンで出かけるが、助手席に座った総一郎が、何かと運転する絹代に触ろうとするので、一旦車を停めた絹代は、後部トランク部分を引き出し、そこに付いている座席に総一郎を座らせる。

再び出発した車だが、総一郎はソフト帽を飛ばしてしまい、その帽子は別の車に轢かれてしまうのだった。

その頃、富豪の前田総八(水島亮太郎)は、広大な庭で、大好きなゴルフの練習をしていたが、書生の石田(磯野秋雄)が絹代が来たと知らせると、すぐに寝室のベッドに向かい潜り込む。

部屋に入って来た絹代が、早速総八の脈を取り、早いですねと指摘すると、ゴルフをやっていたものでと言いながら、逆に、自分の方が絹代の手首を握り脈を診始めたりする。

そんな大旦那の様子を、ドアの外から心配そうに盗み聞きしているのは総一郎と石田だった。

石田は、ラブしてるんじゃないか?と父親の心配をする総一郎に、別の主治医を見つけることですと進言する。

後日、「本日午后休診」の看板を病院の門に掲げた絹代は、和代と二人でドライブに出かけていた。

和子は楽しそうに歌い出すが、やがて、衝撃音と共に車が停まる。

前輪のパンクだった。

がっかりした絹代は、和子に手伝ってもらって、タイヤ交換を使用とするが、そこは非力な女の子のこと、一向にタイヤのねじが外れなかった。

そこに通りかかったのが安夫で、一旦は無視して通り過ぎようとするが、気を取り直して、絹代の身体を黙って押しのけると、自分がタイヤのねじを外し始める。

それを見た絹代は思わず微笑んでしまうが、はっと我に帰ると、むすっとし始める。

そんな絹代の気持ちを疑った和子は、お父さんに言いつけるわよと脅す。

やがて、油まみれになった安夫がタイヤを交換し終えて立ち上がったので、絹代はハンカチを差し出して渡す。

安夫はそのハンカチで顔と手を拭くと、汚れたハンカチをその場に捨て、黙って去って行く。

その後ろ姿を観ていた絹代は、思わず「憎いな…」とつぶやくんだった。

その後、城の石垣の所にやって来た絹代は、先ほどの安夫のことを想ってうっとりしていたが、和子の方も、良い顔だなあ…と安夫のイケメン振りを思い出し、褒めるのだった。

一方、前田総一郎は、近所の酒屋で鉄斎と会っており、自分は絹代さんと結婚したら、大きな病院を作ろうと想っていると、設計図を見せていた。

その時、客の一人が腹痛を起こしたのを知った鉄斎は、持っていた秘伝の薬を飲ませると、自己紹介をした後、今は、娘の絹代が最新医療の病院を開業していますと宣伝し、他の客たちに名刺を渡すのだった。

すっかり良い気持ちになり、鼻歌混じりに帰宅していた鉄斎は、偶然、安夫の母よねとすれ違ったので、ご子息はいつ開業ですか?この勝負は、うちの娘に軍配が上がったようですなと嫌みを言ってしまう。

怒って帰ったよねは、夜、夕食の準備をしながら悔し涙を浮かべていた。

それをとし子から知らされた安夫が台所に入り、訳を聞くと、山岡の奴が娘自慢をし、お前をバカにしたんだと言うではないか。

早く出世して、見返し手遅れと泣きつく母親の前で、安夫は複雑な表情をするしかなかった。

その頃、晩酌をしていた鉄斎は、絹代にも勧めながら、縁談の話を始める。

絹代は喜んで、父さんの気に入った人なら良いじゃないと答えるので、わしじゃない、お前のだと答える鉄斎。

相手を聞くと、前田総一郎で、病院を建てて下さるそうだと言うので、絹代は即座に、私、嫌よ。お断りして!おせっかいねと部屋を飛び出しそじゅになったので、鉄斎は、その手を握りしめるが、引っ掻かれて逃げられてしまう。

怒って、後を追いかけようとした鉄斎だったが、それを押しとどめたのは、話を聞いていたらしい和子だった。

自分の部屋に戻った絹代は、車のタイヤ交換をしてくれたときの安夫の姿を思い出してうっとりするのだった。

一方、鉄斎の晩酌をしながら、和子が話相手になっていた。

和子は、絹代には訳がある。浅野さんが大好きなのよ。死ぬほど好きなのよと教えると、鉄斎はけしからん!と激怒するが、絹代さんの気持ちを分かってあげないと、私、同性心中しちゃうからと脅す。

翌日、大学の飼育箱掃除をしていた小山の所に来た安夫は、女医には軽蔑されるし、おふくろには泣かれるし、ここの所形無しさと吐露する。

その時、小屋からウサギが逃げ出したので、小山と安夫は追いかけて行くが、そのウサギを難なく捕まえてくれた青年がいた。

一緒にいた看護婦に患者か?と聞くと、安夫への面会人だと言う。

ウサギを返した青年とは、前田家の書生石田であった。

石田は、安夫に、家の大旦那を診て欲しいと頼み、それを聞いた小山も引き受けるべきだと勧める。

その後、前田家の寝室に往診にやって来た安夫は、そこに絹代が診察していたので戸惑うが、絹代の方も、突然現れた安夫に狼狽する。

総一郎が父親に、自分の一存で御呼びした先生だと安夫を紹介した後、主事の山岡先生だと安夫に絹代を紹介する。

安夫は努めて冷静な態度で、絹代から総八の症状を聞くと、自分も独自に身体を献身し、足にリウマチがあることを発見する。

安夫は、このリウマチが悪化する恐れがあるのでゴルフは控えてもらいたいと指摘するが、総八は、ゴルフを許してもらえないくらいなら、死んだ方がましだとわがままを言い出す。

安夫は、こんな病気を見逃していた絹代の不手際を注意するが、絹代は、それに関して何もおっしゃらなかったので…と言うしかなかった。

安夫は、悪化して弁膜症にもなったらどうするつもりですと追求するが、総八から帰ってくれと言われたので、自分は帰ることにする。

その後、帰宅した絹代の方は、自室で泣き崩れ、事情を知らない和子や鉄斎を心配させるのだった。

後日、果物籠を携えた鉄斎と和子が浅野家の玄関までやって来る。

中に入るのを嫌がる鉄斎に、あの日から、絹代ちゃんが様変わりしてしまったことに気づかないの?と後押しした和子は先に帰って行く。

勇気を奮い起こした鉄斎は、玄関から声をかけると、出てきたよねに、とにかく上がらせていただくと言いながら部屋に入ると、自分の娘が、お宅の息子さんに懸想いたしまして…と打ち明け、つきましてはこれまでの両家のいきさつは水に流して下さらんかと詫びるが、よねは、家とお宅とは今でも仇同士ですと、毅然として拒否をすると、そこを何とかと頭を下げる鉄斎にマフラーやコートを着せ、果物籠も返すと、さっさと帰るように命ずる。

ある日、車に乗っていた絹代は、小山と一緒に帰って来る安夫に出会うが、その時、絹代に気づいた安夫が車の前に立ちふさがり、車を止めると、先日は大変なことをしてしまいました。ずけずけと言ってしまってと謝罪する。

しかし絹代は、恥ずかしさと気まずさからその場を去ろうとするが、安夫が邪魔して車を出させてくれない。

前田の家は往診なさいましたか?と聞いて来た安夫にいいえと答えると、それはいけない。あそこはお任せしますと安夫は食い下がる。

それでも、素直になれない絹代は、車を迂回させ、その場から去ってしまう。

側で話をそれとなく聞いていた小山は、何をごてごてしているんだ?あの女と、そんな込み入った仲なのか?と冷やかすが、動物飼いに何が分かると安夫から言われてしまうと返す言葉がなかった。

帰宅した安夫は、いつものように父の遺影にただいまを言い自室に戻ろうとするが、母親がやって来て、お前まさか、山岡の娘と話でもしちゃったんじゃないだろうね?と聞くので、狼狽した安夫は、そんなはずはなく、まかり間違ったら、坊主になって詫びますとまで言う。

よねが、実は、山岡の親父が来て、娘とあなたとを一緒にさせようと言って来たのだと打ち明けると、急に晴れやかな顔になった安夫は、それで?と聞き返す。

もちろん、追い返してやったとよねが答えると、やっぱりそうですか…と安夫は落胆する。

そんな息子の気持ちなど知らないよねは、近頃の女はモーションが早いそうだから気をつけるんですよ。山岡当地とは親の代から仇同士なんですからと付け加えようとするが、イスを立ち上がった安夫は、もう良いです。ミミにたこですよと言って、部屋を飛び出して行く。

山岡医院の方でも、すっかり絹代先生が落ち込んでしまい、診察も満足にできなくなったので、和子が、自分か漢方の鉄斎先生なら診察できますがと患者に伝えるが、最初から絹代先生にしか興味がない客は帰ってしまう。

娘を心配した鉄斎は、どこか気の晴れる所へでも娘を連れて行ってくれないかと和子に頼む。

和子はちゃっかり、軍資金と称し、小遣いをせびる。

鉄斎は仕方なさそうに自分の財布ごと渡すが、その中を確認した和子は、一銭も入ってないことを確認、鉄斎は、懐の中から紙に包んだへそくりを渡すしかなかった。

鉄斎は、「本日休診」の札を門に掲げていたが、それを通りかかって観かけたよねは、お暇で結構ですねと嫌味を言う。

鉄斎は怒り、あんまり患者が多いので、人員整理をしていただけだと反論し、最後にはその札を外してしまう。

絹代を連れ町に出た和子は、映画にする?レビューにする?と色々気を使っていたが、どれも沈んだ絹代には興味なさそうだった。

その時、和子は、とあるショーウィンドーに近づくと、スキーに行きましょうと言い出す。

すると、絹代も、はじめて興味を示したので、スキーショップで板を買った和子は、私たちはスキーをやったことがないのでコーチがいる。前田さんを連れてってよと頼む。

かくして、雪山にやって来た3人は馬車に乗って旅館までやって来る。

その旅館には、「城北医科大学スキー部」も合宿していたが、その中に、先輩として参加していた小山と安夫の姿もあった。

小山は宿の隅で沈み込んでいる安夫に、滑れるのは、今日と明日の二日しかないので、ぐずぐずしないですぐに滑りに行こう。滑れば憂鬱なんて吹っ飛ぶさと無理矢理外に連れ出す。

スキーのうまい安夫に対し、小山は下手なのですぐに転んでしまったが、その安夫にぶつかって来たのが絹代だった。

両者は互いに見知った顔だったので、こんな所であった奇遇に驚く。

そこに、先に進んでいた安夫も戻って来て、絹代と再会、互いに思わず笑顔で挨拶をし合う。

前田と和子も合流し、和子は皆一緒に滑りましょうと誘うが、安夫はそれを断り、一人で滑って行ってしまったので、残された絹代はがっかりする。

前田と二人で滑ることになった絹代は、分かってるでしょう?結婚して下さいと前田から迫られるが、分かってるでしょう?和ちゃん、あなたのことばかり考えているのよと切り返す。

宿での夕食のときも、絹代の表情は晴れなかった。

前田も、一人でする食事は味気ないからと、絹代と和子の部屋に合流して来る。

和子は喜び、自分のおかずと前田のおかずを交換したりするが、その時女中がやって来て、前田に電報が届いたと言う。

その場で開封して確認した前田は真剣な顔になる。

聞けば、父親が急にいけなくなって、絹代の来るのを待っていると言うのだ。

それを聞いた和子は、浅野さんにも一緒に来てもらいましょうと提案し、部屋でくすぶっていた安夫を引っ張って来る。

かくして、絹代、和子、総一郎、安夫、小山の面々は、夜行列車で東京へ舞い戻ることになる。

ベッドに寝ていた前田総八は、駆けつけて来た絹代の顔を見て喜ぶが、遅れて入って来た安夫の顔を見ると、何だ、又来たのか!と不機嫌になる。

総八は雨の中でゴルフをやっていたと言い、ゴルフの為なら死んでも良いんじゃとわがままを言うが、すぐさま診察を始めた安夫は、足のリウマチが悪化しており、膝にまで病状が広がっていると指摘すると、それを一緒に診ていた絹代に内科の診察をしたまえ!と命じる。

安代はすぐさま胸を検診、症状が悪いことを安夫に報告すると、大至急治療を始めることにする。

絹代は胸に湿布、安夫は右足に湿布を施し、治療は深夜にまで及ぶ。

安夫は絹代に、君は少しでも休んで下さい。後で困りますからと伝える。

絹代はその言葉に甘え、別室に引き下がって、ソファに横になり仮眠を取ろうとするが、気になって寝室に戻ると、イスに座った安夫が居眠りをしていた。

絹代はそっと寝室に入ると、安夫の肩に毛布を優しくかけてやり、隣に自分が座って総八の容態を見守る。

すぐに目覚めた安夫は、毛布に気づくと、ダメですね。言うことを聞いてくれなくてと言いながら、絹代を別室へ連れて行く。

絹代は嬉しそうな表情になる。

ソファに寝かせた絹代に毛布と、自分のコートを駈けてやった安夫は、今度起きて来たらこれですよと言いながら、げんこを出してみせる。

絹代は思わず、安夫さん!と呼び、部屋を出かけた安夫が何です?と振り返ると、いいえ、おやすみなさいと伝える。

安夫が出て行くと、絹代は幸せそうに微笑むのだった。

翌朝、二人は洗面所で一緒に顔を洗う。

一つの石けんを、泡だらけの顔のまま手探りで探し合っているうちに、いつしか手が触れ合ったりする。

総八もベッドで目覚めており、総一郎を呼ぶと、気持ちの良い朝だと伝え、夕べは危険な状態だったと言う総一郎に、そうらしいなと事情を察した後、だが、まだまだお前に家宅は譲らんぞと笑う。

部屋に絹代と共に入って来た安夫は、色々、今後のことを注意して、足の方は私の方が引き受けますから、後は、山岡先生にお任せしますと言い残して先に帰ることにする。

絹代は部屋を出る安夫に対し何か言いたがるが、その場では言い出せず、家の門を出ようとした安夫を追いかけて呼びかける。

あなた、私の家と仲直りして下さいませんの?と訴えかけると、安夫は、喧嘩なんかしてないじゃないですか。僕は君が好きなんだ。あまり聞かないで下さいと言い残し帰って行く。

それを聞いた絹代は喜んで、安夫に駆け寄ろうとするが、又ヒールのかかとが片方取れてしまい、よろけて安夫に抱きついてしまう。

安夫の左の靴も底が抜けてしまっていた。

そうした仲睦まじい二人の様子を、門の影から、総一郎が見つめていた。

セーラー服に着替えたとし子は、夕べ帰って来なかった兄安夫のことを心配していたが、そこに安夫が帰って来る。

安夫は、何か悩み事があるかのように、家の中に入ってもソフト帽を取らずうろうろしているので、よねが、どうしたのさ?帽子くらいお取りなさいと言いながらソフト帽を取ると、安夫の髪は坊主頭になっていた。

僕、偉いことをしたんですよ。母さんの一番嫌いな女を好きになったんですと告白する安夫に、誰のことですとよねが聞くと、山岡絹代のことだと言う。

よねは、よりによって…とため息をつくが、どうにでもおし、どうせ、お前がここの家の主なんだから…と諦め、壁にかかった某夫の遺影を眺めるのだった。

その遺影の位置がおかしいと注意しているのは絹代だった。

結婚した二人が、新居である絹代の病院の方に、父の遺影をかけ直していたのだ。

その頃、和子とデートしていた総一郎は、君の為に病院を作ろうと思うんだと言いながら、設計図を見せていた。

あの日以来帽子を取らなくなった安夫に、よねは、家の中くらい取りなさいよと呆れるが、安夫は頑として取らなかった。

「内科 小児科 外科 浅岡医院」と門にかかった看板を見ながら、鉄斎とよねは喜んでいた。

「山岡」「浅野」と言う両家の姓を合わせて「浅岡」としたのだった。

すっかり仲直りした両親たちは、二人して新生病院に入って行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

可愛らしい時代の田中絹代主演のラブコメ映画。

戦前にこんな洒落たラブコメがあったのかと驚かされるほどモダンな作りになっている。

互いに好き合っているのに、両家が親の代からのライバル同士だったので、素直にそれを口にできないすれ違い。

少女コミックにでも良くありそうなパターンだが、この時代からすでに繰り返されていたことになる。

田中絹代は、いわゆる美人顔と言うより、京都の舞子はんのような和風人形風の童顔なのだが、この時代の彼女は、まだ少女っぽさが残っており、ラブコメのヒロインとしてぴったりな感じがする。

デビュー当時の原田知世に近い清楚なタイプと言っても良いかもしれない。

対する佐分利信も、生真面目な学生と言う雰囲気が良く出ており、当時、人気があったのが良く分かる好青年である。

この作品で一番気になったのは、絹代と和子の関係である。

二人は女子医大の同級生であり、学生時代からの大の仲良しだったので、絹代が自宅で開業した時、住み込みの薬剤師兼看護婦のような形で雇ったと言うことなのだろうが、その仲良し振りが度を超しているように見えるのだ。

朝、縁側に座り込んで歌う和子を、背後から絹代が抱きしめて…などと言う表現は、単なる友情だけではないのではないかと疑いたくなるほど。

おそらく昔から女学生の間で「S」などと称され流行っていたらしい、ちょっと同性愛的な意味合いを含んでいるのではないかと推測したくなるのだ。

もちろんそれは、観客の少女たちを意識して意図的に演出されているのだと思う。

少女期特有の「疑似恋愛行為」とでも言うのだろうか?

嫌らしさや不自然さを感じない一歩手前で止めている感じである。

ラストで、絹代だけではなく、和子の方にもちゃんと相手ができて丸く収まるようにまとめてあるのは、単にハッピーエンドを狙っているだけではなく、観客に、絹代と和子には何も変な関係はないですよと説明する為のようにも感じる。

冒頭に出て来る、ちょっと角張ったベレー帽と制服姿の田中絹代の出で立ちとか、屋根がない小型自動車ダットサンなど、出て来るアイテムも愛らしいものばかり。

今観ても、十分楽しめる娯楽映画になっている。

ちなみに、佐分利信の母親役を演じているのは吉川満子で、この作品と同年公開の「花形選手」の門附けの女としてDVDの解説文に書かれている女優だが、確かに顔立ちは似ているが年齢が違うし、吉川満子の方は、眉の間に比較的大きなほくろがあるのに対し、「花形選手」の女にはほくろがないので、明らかに別人だと思う。