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花形選手

1937年、松竹大船、鯨屋当兵衛+荒田正男脚本、清水宏監督。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

大学の校庭で銃の手入れをする学生たち。

その後、校庭には、三人の大学生が残って居眠りをしていた。

グラウンドで一人走っていた陸上部の谷(笠智衆)は、どうも調子良くないとつぶやくと、寝ている学生たちに気づき、同じ陸上部の関(佐野周二)を起こしに行くと、練習しろと文句を言う。

谷は、勝ちゃ良いんだろ?とふてくされながら起き上がるとグラウンドに戻る。

一緒に起こされた森(日守新一)と木村(近衛敏明)は、その様子を見おくりながら、俺たちゃ、寝りゃ良いんだと言い合うと、又その場に横になる。

ユニフォーム姿になった関は谷と、グラウンド一周の勝負を始めるが、結果は関の勝ち。

関は当然そうな顔をして、又、元のジャージに戻ると、元の場所へ寝に戻る。

その様子を観ていた教練の隊長(大山健二)は、あいつはやっぱり花形選手だと感心する。

その後、関や谷らも含めた学生たちは、隊長を先頭に、行軍練習に出かける。

隊長が一節ずつ歌う「敵は幾万」に合わせ、学生たちも一節ずつ歌いながら交信を続ける。

それに気づいた村の子供たちが集まって来て、道の両脇に並ぶと、万歳をして学生たちを歓迎する。

隊長は、それに敬礼をして答える。

やがて、物売りの女や旅の僧侶を追い抜くが、向こうから、農民が引く「肥え桶」を積んだ荷車とすれ違うときは、皆鼻をつまみながら歌うので、声が変わってしまう。

さらに進んで行くと、ハイキングをしていた娘たち(水戸光子、小牧和子、東山光子、森川まさみ、槇芙佐子)の一行を追い抜く。

娘たちは、遠ざかって行く学生たちの中に、花形選手の関がいたことに気づき騒ぎ出す。

一方、行進を続ける関たちも、今の若い娘らのことが気にかかり、追って来るだろうか?と隣の谷に聞くと、デートリッヒだったら追って来るさなどと、「カサブランカ」の例えを出す。

気がつくと、背後からトラックが迫って来たので、学生たちは道の両側に別れて道を譲るが、その荷台には、先ほどの娘たちがちゃっかり乗せてもらっていた。

荷台の娘たちは、嬉しそうに学生たちに手を振る。

先の方で、その娘たちがトラックから降りるのを観た隊長は、待ち構えていると気づき、駆け足体勢になる。

後ろから付いて来ていた子供たちも駆け足になって付いて行く。

学生たちが走って通過したので、娘たちも一斉に駆け出すが、さすがに学生たちの列に追いつけない。

やがて、学生らは土手を下り河原に降りて来ると、そのまま浅瀬の川の中を走り、突撃体勢になる。

河原に取り残された娘たちは、見逃しちゃったわと残念がる。

反対側の岸に上がった学生たちは休憩になるが、関、木村、森の3人は、又、昼寝を始める。

それに呆れた谷は、関を起こすと、さっきの突撃は俺がトップだった。グラウンドで負けても、実地で勝ちゃ良いんだと威張り、一緒について来ていた村の子供たちに、勝ちゃ良いんだと教えると、「勝った方が良い!」と調子をつけて踊り出す。

子供たちも、喜んで真似をし出す。

眠りかけていた関は、側で、谷が「勝った方が良い!」と何度も子供たちをはやし立てているので、頭に来て立ち上がり、学生服を脱ぐと勝負しようとするが、その時、休憩終わりの声が響いたので集合する。

その際、まだ寝ていた木村と森を蹴って起こす関だった。

整列し、点呼を終えた学生たちは行軍を再会し、それをまねた子供たちも、整列し点呼を取ると、自分たちの村の方に帰って行く。

隊長は「天に代わりて不義を討つ♩」と「日本陸軍」を歌い出す。

すると、木村が突然腹痛を訴え出す。

隊長は歌を続け、行進は進行させながら、木村を列の外に連れ出した森と共に、様子を見るが、森に事情を聞くと、自分の分の食事まで奪って大食いをしたと言う。

隊長は、大食いで寝てばかりいるからこうなるんだと木村を叱りつけながらも歌は続け、とにかく森に、木村を送って来るようにと言いつけて、自分は行進の先頭に戻る。

森は仕方なく、太った木村を背負って列を追うことにするが、道は果てしなく遠かったし、背負った木村はいつの間にか眠って鼾などかいている。

やがて、後ろから空の荷車を引いた農民が近づいて来たので、それに二人とも乗せてもらうことにする。

一方、行進を続けていた隊長の方も、森一人に木村を任せたことに不安になったのか、関に様子を見に行ってくれと頼む。

一人道を戻って行った関は、途中で、門附の女(坪内美子)、三味線を持った男の子(爆弾小僧)、小さな女の子(長船フジヨ)の三人連れに出会ったので、二人組の学生を見かけなかったか?と聞くが、女は知らないと言う。

途中で、自転車に乗せてもらい道を戻っていた関は、荷車に乗っていた木村と森を発見、自転車を飛び降りると近づこうとするが、自転車の運転者の荷物を自分が背負ってことに気づき、持ち主に謝罪して戻す。

そして、自分も荷車に乗り込む。

眠っている木村と森の側に柿が置いてあったので、これ幸いとかぶりついてみるが、渋柿だったので吐き捨てる。

やがて、先ほどの門附三人組を追い抜いた時、女の子が荷車に乗ろうとしたので、関が乗せてやり、あれは君の姉さんかい?と女を指すと、ううんと女の子は否定する。

じゃあ、お母さんかい?と聞いても、同じように否定するので、じゃあ誰何だい?と聞くと、何だか知らないと女の子は答える。

関は、残っていた柿を女の子にやる。

関たちは、村で待っていた隊長たちと合流する。

整列をし点呼を終えた学生たちに、隊長は、この村のご好意で、今夜は各民家に分宿するので、これからは自由行動にすると告げる。

関は木村と同じ農家にお世話になることになり、その家の主人から酒を勧められる。

木村が嬉しそうにそれを受けるので、隣にいた関は呆れて、腹痛を起こして、今日一人だけ脱落したお前は、少しは遠慮しろと止めるが、木村は気にする風もなく盃を干す。

そんな木村や関たちをみて、主人は、良く食べるのは良い。自分にもあなたたちと同じくらいの息子がいたが、胃弱で死んでしまったと打ち明ける。

どうせ死ぬなら、戦争へ行って、弾にでも当たって死んでくれれば良かったんだが、苦労して大学まで行かしたが、卒業間近に死んでしまったと話すので聞いてた学生たちは沈み込んでしまう。

別の民家では、学生の一人が自慢の咽を披露し民謡を歌っていたが、近くの民家から響いて来る「勝った方が良い!」と言う囃子詞に邪魔され、顔をしかめる。

関もその囃子詞を聞き、てっきり谷の仕業だと思い込んだ関はその家に乗り込み表に出ろ!と怒鳴りつけるが、「勝った方が良い!」と大声ではやしながら踊っていた学生は谷ではなく森だった。

谷は、民謡を歌っていた学生の家にいた。

そこにやって来た関を観た谷の方が、騒いでいたのはお前じゃなかったのか?と逆に聞く。

しらけた関が自分の民家に戻ろうとしたとき、昼間出会った門附の男の子に出くわす。

どうしたのかと聞くと、チビがお腹が痛くなったので、医者さんを呼びに行って来た所と言う。

それを聞いた関は、昼間荷車で自分が渡した柿が悪かったのではないかと察し、一緒に見舞いに行く。

女の子は、木賃宿の二階で医者(仲英之助)に診てもらっていたが、その診察の最中、下から大きな歌声が聞こえて来たので、下に降りた関は注意しに行く。

そこには、4人の男が酒を飲んでいたが、関が注意して上へ登ると、黒めがねをかけた与太者(若林広男)が、俺を誰だか知っているのか!と不機嫌になり、一緒に飲んでいた飴売り(堺一二)、洋傘直し(赤城正太郎)、薬屋(油井宗信)たちとこそこそ話を始める。

診察を終えた医者は、見送る女に、車代1円、診察代1円、水薬代30銭、粉薬代三日分50線と告げて帰る。

門附の女は困った様子で、宿の老婆(双葉かほる)に金を借りる。

女が二階に戻ると、同じ部屋に泊まっていた行者(石山隆嗣)が、さっきから医者の往診などさせて失礼じゃないか、自分が祈祷で腹痛くらい直してしんぜると言い出し、女や関の目の前で、女の子に祈祷を始める。

直ったじゃろう?と得意げに聞いた行者だったが、女の子はううんと首を振る。

焦った行者は、沙汰に熱心に拝んで、今度こそ直ったじゃろう?と聞くが、やはり女の子は首を振るだけだった。

行者はばつが悪そうだったが、その時、老婆が「ふじさん!」と女に声をかけ、何事かを小声で伝える。

女は、今困るわと困惑するが、老婆の方も私も困るよと答えているのを、女の子の側に座っていた関は観ていた。

その直後、女は部屋を出て行ったので、病人がいるのにどこに行くんだろう?と関が不思議がると、行者が、そんなこと分かり切っているじゃないか。病気などになったら稼ぎがない。街道者に病気と雨は禁物ですわい…などと訳知り顔で話す。

関は、戻って来たら、女に渡してくれと、自分が持っていた金を行者に預けると帰ることにするが、行者が嬉しそうに金を受け取ったので、あんたにあげるんじゃないですよと関は念を押す。

関が下に降りると、女が老婆から冷や酒を一杯もらい飲み干している所だった。

老婆は、女に、小松屋と言う飲み屋を知っているだろう?と確認する。

宿を出ようとした関に、先ほどの黒めがねの男が、俺たちの歌を聴かせてやるから表に出ろと口を出して来る。

関が宿を出ると、二階から階段を降りて来た行者が、老婆に一本つけてくれと嬉しそうに頼みに来る。

老婆は珍しそうに、ずいぶん景気が良いんだねと冷やかす。

外に出た関は、ちょうど、木村と森がやって来たので、この人たちの歌を聴いてやってくれと言い残すと、女の後を追って行く。

のんきに立ち止まった木村と森だったが、与太者が腕まくりをしているのに気づくと、まずいことに巻き込まれたと察する。

一方、女に追いついた関は、どこに行くんだい?と聞くと、女はお座敷に行くのだ。芸人がお座敷に行くのは当たり前でしょう?と言う。

芸人なら、なぜ三味線を持っていかないんだ?と関が聞くと、女は黙ってしまい、関も後が続かなくなって黙り込んでしまう。

その頃、木村と森は、「大変だ!」と大声を上げて、周囲の民家に散らばった他の学生たちを呼び集めていた。

その声に応じ、学生や隊長らが集まって来るが、彼らが目にしたのは、黙って戻って来る関と女の姿だったので、大変なのはあの女のことか?と隊長が木村らに聞く。

木村たちも、与太者たちの姿が消えたので何も言えずにいると、勝手に関と女のことを勘ぐった隊長が、これは、いくら花形選手といえども、規定外だぞと叱りつける。

関はそれに対して一言も反論できなかったが、その関に近づいて来た谷が、いきなり関を殴りつける。

関は黙って殴られるだけ。

それを観ていた隊長は、本来なら停学処分になる所だが、谷の制裁、良く分かったかと言い、今回の件は不問にすることを知らせる。

起き上がった関は谷に礼を言い、谷の方も、俺がどうして殴ったか、分かってくれりゃ良いんだと笑顔で返す。

就寝ラッパが聞こえて来たので、隊長や他の学生たちは、それぞれの民家に帰って行く。

翌朝、女は宿で物思いに沈んでいた。

雨で外出できないのだった。

しかし、学生たちは雨の中、出立していた。

さすがに、濡れ鼠の行進はつらく、隊長もくしゃみをしている。

やむなく、早めの休憩で雨をやり過ごすことにする。

やがて雨が上がり、模擬偵察に行っていた二人が戻って来て、この先10kmの所に敵陣があると隊長に報告をする。

隊長は、学生たちを集めると状況を説明し、これから夜襲をかける。駆け足!と命じる。

学生たちは整列し、一斉に駆け足で進み始めるが、これに気づいたのが、一足先を歩いていた行者。

後ろから迫って来る学生の一団を観た彼は、ゆうべ、自分がねこばばした学生の金の仕返しに来たのだと思い込み、急いで逃げ出すと、先行していた飴売りに、奴らが仕返しに来た!と知らせる。

飴売りも一緒に逃げ出すと、さらに先行していた洋傘直しに声をかけ、一緒に逃げ出す。

さらに先行していた薬屋と与太者にも知らせるが、与太者は相手になってやると意気込む。

しかし、背後から迫って来る学生の一団を目にすると、とても敵わないと察し、他の連中と一緒に逃げ出す。

もちろん、学生たちは、そんな連中のことなど全く関係なく進軍していたのだが、与太者たちは、自分たちを追って来ているとしか思えなかった。

やがて、土手の草むらに隠れた与太者たちだったが、学生たちはその草むらに分け入って来たので、与太者たちは河原から川に入るしかなかった。

ずぶぬれになった着物を絞って乾かしている時、一番遅れた木村が、森を背負って川を渉って来る。

木村の方は、河原で着物を干していた与太者一行を観て立ちすくむが、与太者たちの方は、やはり夕べの仕返しに来たと思い込み、あたふたと逃げ出してしまう。

その様子を唖然としながら見送った木村と森は、急に虚勢を張って、逃げて行く連中を怒鳴りつけるのだった。

その頃、川を渉り休憩していた学生たちだったが、谷に近づいて来た関は、さっきは俺の方が勝ちだった。いざ鎌倉って時に勝ちゃ良いんだと威張る。

その後、行軍を続ける学生たちは、出征する兵隊一行に出会い、道を空けて見送る。

後日、学校のグラウンドで駈け比べをする関と谷の姿があった。

対抗レースで勝ちゃ良いんだなどと、まだ言い合っている。

その後ろには、運動部に入った森と木村も、俺たちも花形選手になれるかな?などと話し合いながらよたよたと走っていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

関口宏の実父である佐野周二の若い頃の作品で、戦前の映画である。

あの笠智衆までもが、爽やかな運動部の学生として登場しているので、いかにも古い作品のようだが、実際は、1953年の「東京物語」で老いた父親役を演じていた笠智衆の、わずか16年前の姿である。

黒々とした髪もふさふさだし、痩せて精悍そうに見えるが、当時33歳くらいで、声は後年とあまり違っていないので、すぐに本人と分かる。

佐野周二も若々しい二枚目時代で、上原謙、佐分利信と共に「松竹三羽がらす」と呼ばれた頃であろう。

話そのものは、太平洋戦争直前の学生の教練を中心に、それに参加した運動部の花形選手と門附女との関わりを描いた軽いタッチのもので、全体的にはユーモラスな作品なのだが、女の部分は結構考えさせるものを含んでいる。

身体を売るなと諭す主人公の姿勢は正しいが、では、その女や子供たちは、当時、どうやって生きて行けば良いのか?

子供の病気や雨に祟られ、金に困り宿で考え込んでいる女の姿は、同情だけでは解決しない重いテーマを背負っている。

女性の身分自体が低く、女性が現金を得る仕事などほとんどなかった時代の話である。

今観ると、教練でやって来た学生たちを宿泊させる農家の方も大変だと感じた。

戦争に勝つために、村も総出で協力すると言う国威高揚も含んだ建前なのだろうが、貧しい農家が、縁もゆかりもない学生たちに酒や食べ物を振る舞うと言うのは、相当な痛手だったはずである。

何かしら、軍の検閲を意識して作られた設定ではなく、ごく普通の当時の状況を描いているのだとしたら、日本全国でこういうことが行われていたと言うことでなり、それはそれで、戦前の姿を知る貴重な内容だと思う。

門附の女を演じている女優であるが、映画の配役には「坪内美子」と出ているのに、DVDの解説文には「吉川満子」と書いてある。

同時代の他作品を確認してみた所、キャストロール通り「坪内美子」が正解だと分かった。