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母の恋文

1935年、松竹キネマ(蒲田映画)、稲田草人 「突貫花嫁」原作、池田忠雄脚本、野村浩将監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

馬に乗った西洋の騎士が、松竹マークが入った盾を持って走ってるレリーフの会社ロゴ。

タイトル

愛するものは幸福なり…イエス・キリスト

庭先で、山添夢子(坪内美子)の父親進太郎(坂本武)が、木刀の素振りをしているが、その腰つきは危なっかしい。

兄の利一(山内光)は、部屋で詩の朗読をしていたが、父の気合いの声がうるさくてうんざりしていた。

そんな兄を、別室にいた夢子が、日曜日に家でくすぶっているなんて、学校でもろくな文士になれませんよと、窓越しにからかう。

利一は、なんだ、おきゃん!と叱りつけるが、夢子は、稽古を終えて家に入って来た父親の汗を拭いてやりながら、今日、友達の所へ行くんだけど、お土産持って行かないと変でしょう?と甘えた声でねだり、小遣いをせしめて出かけて行く。

信太郎は、お前とあれとが逆だったら良かったんだが。お前が文科などに行かず、軍人になっていれば、俺の 甲源一刀流を教えてやるんだが…と、正反対の性格の兄妹のことを嘆く。

とある大学の体育館では、柔道部が練習をしていた。

その中心となって後輩たちに指導していたのは、ここの卒業生の高瀬良一(小林十九二)。

壁際には、その高瀬の妹の八重子(高杉早苗)が、ガムを時々手で口から引っ張りながら見学していた。

すると、大学生部員の副将の吉川(磯野秋雄)が、その隣のイスに座り、嬉しそうに八重子の方に挨拶をする。

すると、他の学生(笠智衆ら)も八重子の周囲に集まり、お兄さんが一番強いなどとお世辞を言ったりし始める。

それに気づいた良一は、何をしとる!と叱りつけ、副将のお前は弱いし、キャプテンは弱いし、こんなことじゃあ優勝できんぞと喝を入れ、部員全体に向かい、昔に比べ質的に低下していると、高瀬良一は警告を発するぞと小言を始める。

そこに、女性事務員がやって来て、高瀬さんのもう一人の妹さんがお見えになりましたと告げる。

良一と八重子は、不思議そうな顔をしてやって来る女性を観ていたが、それは、良一の恋人山添夢子だった。

良一はすっかり喜び、他の部員たちも、好奇のまなざしで新しく出現した美人に注目する。

八重子は、兄さん良いの?と言いながら、良一の腕をつねる。

良一は、妹の八重子と山添夢子をそれぞれ紹介し、自分は着替えて来ると言う。

着物に着替え戻って来た兄と一緒に帰りかけた八重子は、私も驚いたわ。私の他に、もう一人妹来たんですものと笑い、嘘をついた夢子もちょっと恥ずかしがる。

私あなた、好きになったわと言う八重子は、ガムをつまんだ手で握手を求めたので、夢子はちょっと驚くが、気がついた八重子はスカーフで手を拭いて、仲良くしましょうねと言いながら握手をする。

八重子は夢子に、お母さん、最近、兄さんの結婚問題の準備工作しているよと教えると、夢子は、私も断然、立候補しますと宣言する。

それを聞いた八重子は、今から家に行って紹介しない?と兄の良一に伝えると、良一は照れるな…と答えたので、八重子は、柄じゃないわと言いながら。兄のソフト帽を引っ張り、良一の方も姉の帽子を引っ張り返す。

行きましょうよと八重子は夢子を誘う。

高瀬家の応接間で夢子と二人になり喜んだ良一だったが、すぐ側で、弟の順次郎(突貫小僧)が、板をトンカチでトントン打ち付けて何かを作っている。

あっちに行けと良一が促しても、嫌だと言うので、菓子を与えて下がらせようとするが、順坊は、大目に菓子を奪って部屋を出て行く。

良一は、あんなわんぱくもいるんですよと恐縮し、お宅のお父さんやお兄さんに気に入っていただけるかどうかと心配すると、夢子の方も、そんなことはありません。柔道4段のあなたは父のお気に入りです。それより私のこと、お母様のお気に召さないのじゃないかしらと不安がる。

その時、又、順坊が部屋に入って来て、残っていた菓子を全部取って行ってしまう。

その頃、八重子は母親の勇子(吉川満子)に、しきりと夢子を売り込んでいたが、勇子の方は、今日はじめて会ったばかりだし、他にもたくさん候補はある。直に相手の男の家に来るのもどうかね?などと、慎重な態度で受け答えしていた。

八重子は、私たちが無理に連れて来たんだから…と、何とか夢子を母親に気に入らせようとプッシュしていた。

夢子のいる応接室に来た八重子は、そろそろお暇しようかしらと言い出した夢子に帰ってはダメと言い、その場に倒れ込む。

良一があわてて水を取りに部屋を出ると、急に笑った八重子は、母さんの前で、献身的に看病するのよと夢子にアドバイスする。

仮病の八重子をベッドに寝かせ、言われた通り、看病のまねごとをした夢子を見ていた母の勇子はすっかり騙されて、夢子に感謝するのだった。

目的が達成されたと感じた八重子は、ベッドの中から夢子に密かに腕時計を指し示し、その意図を悟った夢子は、そろそろ御邪魔しますと告げる。

八重子は、そんな夢子に、明日もきっと来てね、きっとよ…と甘えた言葉をかけ、ドアを出かけた夢子は、そっと八重子にウィンクをして返すのだった。

勇子はすっかり夢子を気に入り、八重子に、お前は目が高い。本当にあの人は親切で行き届いていて…と、八重子の狂言に騙されたことにも気づかなかった。

後日、夢子との結婚が決まった良一が会社で髪を撫で付けたりしてにやけているので、同僚たちは呆れていた。

そこに、夢子から電話があり、出かけたいと誘って来るが、良一は、今日は会社の連中が、僕の為に一席張って、御祝いしてくれると言うのでダメなんだと申し訳なさそうに断る。

夢子は、だったら行かないと行けないわね。よわないで下さいねと可愛いことを言う。

電話ボックスから出た夢子に声をかけて来たのは、友人の悦子(松井潤子)だった。

クラスメイトの高橋さんから聞いたけど、今度結婚なさるんですって?と言うので、今日、宴会に行ってるのよと夢子が教えると、それは行かせない方が良い。あんた、甘いのね…と、何事かを耳打ちし始める。

それを聞いた夢子は、どうしましょう?と悩み出す。

宴会は、芸者をあげてのらんちき騒ぎだった。

特に、良一には、蔦丸(大塚君代)と言う芸者が付きっきりで世話をしている。

蔦丸はすっかり良一が気に入ったらしく、部長の古田(斎藤達雄)に、この人の給料を上げてやってよなどと無茶なことまで言い出す。

良一は、そろそろ帰ると言い出し、料亭の外に出るが、蔦丸はそこまで追いかけて来て良一にしなだれかかる。

ちょうどそこにタクシーが通りかかったので、良一は「大森まで50銭!」と運転手と交渉し、車に乗り込んで出発する。

しばらく走っていると、助手席に座っていた男が、後部座席の良一を振り返ると、その助手に化けていたのは夢子だった。

夢子は、運転手に協力の礼を言うと、良一さん、降りて、少し酔いを醒まして下さいと言うと、その場で一緒に車を降りるのだった。

結婚写真

式を終え、出社した良一は、同僚から「おめでとう」の声をかけられる。

古田部長も、長く休みを取らせてもらった礼を言いに行くが、古田部長は、君は細君に参っとると言う評判が高い。それははなはだ結構だが、押さえられてはいかんぞ。始めに嘗められると一生頭が上がらんぞと、先輩としての注意をする。

良一が部屋を出ると、古田部長は、机の引き出しに入れていた蔦丸の写真を眺めてにやけるのだった。

結婚して、高瀬家に入った夢子が、妻らしい日本髪を結って着物を着た姿を見た八重子は、姉さんらしい風格がでちゃったわね、これからも同盟を組みましょうと互いに握手する。

結婚祝い用の大きな鯛の置物を前に、これ食べたら何人前かな?などと無邪気なことを言っていた順次郎にも、夢子は買っておいたどら焼きを与えて手なずけたので、八重子はその操縦法に感心する。

そして、小姑と仲が良いのはあまり良くないらしい。母親にしてみれば寂しく感じるらしいので、お母さんの前でだけは、私が右と言ったら、あなたは左と言ってねと夢子は八重子に助言する。

そこに、母の勇子がやって来て買い物に行くので、二人で付いて来てと頼むが、八重子は今夢子に言われた通り、自分は義姉さんとは趣味が違うので行きたくないと拒否する。

その後、八重子と夢子は互いに見合って、舌を出すのだった。

八重子は、帰りに白粉買って来てと頼み、夢子は、クラブだったわねと確認する。

八重子の方も外出し、喫茶店で、恋人で、東京研究所で「血液型論文」なる研究に打ち込んでいた白川喬(徳大寺伸)と落ち合い、自分はあなたのご成功の日をいつまでも待っていますと告げる。

そこに学生服を着た山添利一が、彼女らしき女性連れて近くのイスに座ったので、八重子と利一は目が合ってしまい、一応互いの御相手を紹介しあい、今日のことは他言無用と約束し合うが、その後は何となく気まずくなってしまう。

ある夜、1時になっても、夢子が家計簿をつけているので、それに付き合っていた良一は、自分の小遣いが6円と言うのは、もうちょっとどうにかならないのか。母親の援助もあるんだからとクレームをつける。

しかし、夢子は、結婚して三ヶ月も経って、家計を立てられないようでは主婦ではないわと毅然とした態度で出て来たので、良一は降伏するしかなかった。

今後、家計一切はお前に任せる。自分は明日早いので寝かせてくれと弱音を吐くが、その時、応接室の方でもの音がしたので、二人は聞き耳を立てる。

そっと、応接室のドアを開き中の様子を観ると、泥棒(小倉繁)が物色中だったので、締めちゃおうと良一は張り切るが、夢子は怪我でもしたら大変、私に任せておいてよと制する。

泥棒は、マントルピースの上に置いてあった獅子をかたどった置き時計を取ろうとするが、重くて持てないので諦める。

続いて、絨毯にコインが落ちているのを見つけたので、それを拾うが、それはお菓子のチョコレートだった。

テーブルに、菓子が置いてあったので、それを食べていると、急に部屋の電気がつき夢子が入って来たので、泥棒はナイフを出して、騒ぐと命はないぞとすごむ。

すると、夢子は、あんたこそ命が危ない。今あんたが食べた菓子には猫いらずが入っているのよ。すぐにお医者様に言った方が良いと言い出したので、驚いた泥棒は、急に腹の調子がおかしくなったようで、すごすごと屋敷を出て行く。

勇子や八重子も怯えながらやって来るが、夢子はすまして、今のは嘘よと言い放つ。

この夢子の機転は、「新妻の機智、泥棒を走らす」と新聞記事になるほど話題になる。

これには、良一の大学の柔道部の後輩たちも、会社の同僚も驚いてしまう。

同僚たちなど、こんなことがあったら、高瀬の奴、尻に敷かれるぜ。仲間としての疎通欠いて来るかもななどと噂し合っているのを、出社した良一は、柱の陰で聞いてしまったのですっかり気落ちしてしまう。

その頃、夢子は台所で、お手伝いのしげ(出雲八重子)に、料理の味付けを塩を何gなどと杓子定規に教えていた。

見かねた勇子が、料理は私がやるからと助け舟を出すが、夢子は科学的に覚えさせた方が良いと譲らなかった。

勇子は、夢子が席を外したとき、申し分ない嫁なんだけど、理屈が多すぎるよとしげにつぶやき、しげも苦笑する。

その時、郵便屋が来て、八重子宛のハガキを渡すのを見た夢子に、八重子はクラス会の下相談するのと言うが、早く行ってらっしゃいよと夢子が勧めると、姉さんだけに打ち明けるけれど、これは本当は私の彼氏との暗号で、手紙の右隅に3って書いてあるでしょう?これは、紙の角角が、新橋、日比谷公園、都でパート、帝劇と言うことになっているので、今日は帝劇で3時に会いましょうと言うことなのと説明する。

夢子が、相手の人、不良じゃないの?と心配すると、立派な医学士よと八重子は憤慨し、私だって、姉さんの為に尽くしたんだから、私の為に、骨折って下さってもいいんじゃない?と言うので、あんたと一緒に平川さんに会うわ。自分の命に換えてもあなたたちの話をまとめてあげるわと約束する。

その後、喫茶店で平川と会った夢子は、あんなに立派な方ならきっと引き受けると太鼓判を押した夢子は、この後は会社に寄って良一と一緒に帰ると言い、八重子と別れる。

八重子は席に戻って来ると、平川にオーケーだったわと教える。

良一の会社である「春日商会」にやって来た夢子だったが、ちょうど、帰宅しかかっていた雄一が同僚の斎藤(大山健二)と三島(谷麗光)に誘われている所だった。

良一は、金がないと断っていたが、斉藤と三島は、友情を裏切るのかとしつこく迫っていた。

お前にとても会いたがっている芸者がいるんだ。女房がそんなに怖いのかなどと説得されていた良一は、つい、なんだあんなおかめ!僕が殴る所を見せてやるよと言ってしまう。

それを物陰から聞いていた夢子は、夫の前に姿を表すと、あなた殴ってみなさいよと挑発したので、良一は真っ青になってしまう。

さらに、斉藤と三島には、もう付き合わないで下さい。宅のは善良な紳士なんですからと叱りつけて帰る。

あっけにとられた斉藤と三島は、是が非とも、今度の日曜には引っ張り出そうと話し合う。

その日、帰宅した良一は夢子と言い争いをしていた。

僕に文句を言うのはいいが、俺の友達に食って掛かるのは失礼だろう。それが、出過ぎ者って言うんだ。女のたしなみだろう!と言うのだ。

そこに勇子がやって来て、八重子の見合いの話があり、相手は谷川さんと言う日本橋の木綿問屋の長男なのだと嬉しそうに話して来る。

それを聞いた夢子は戸惑い、八重子さんが何と言うか…と言葉を濁す。

勇子は不審がり、八重子の見合いが悪いとでも言うことがあるんですか?と聞きながら、あんたにぴったりの良い帯があったので、頼んでおいたよと言ってくれる。

その話を聞いた夢子は、私、御引き受けしますわと返答したので、勇子は、それでは、明後日、東劇のレビュー観に行くと言うことにして、浴びは明後日あたり、出来上がってくるわと教える。

夢子は、帯のことが気になるらしく、私、待ち遠しいわと喜ぶのだった。

東劇では、娘たちによる日本舞踊が演じられていた。

母親と来た見合い相手の谷川の長男は、双眼鏡を使って、夢子が連れて来た八重子の様子をそれとなくのぞいていた。

息子はすっかり八重子のことが気に入ったようだった。

劇が終わった後、何か食べない?と食堂へ向かった夢子は、フルーツポンチ、何杯食べられる?私なんか、昔、6敗くらいは平気だったわといきなり八重子に言い出す。

事情を知らない八重子は、負けん気を出して、フルーツポンチを6杯も頼み、それを平らげ始める。

その様子を別のテーブルから観ていた谷川親子は、八重子の意外な行動に少し幻滅した様子で、すごすごと帰って行く。

それを観ていた夢子は、無理して大食し、苦しそうな八重子にもう食べなくて良いのよ。あなたのピンチを切り抜けたのよ。ここ2、3日で、あなたと白川さんの間に、大問題ができかかっていたのよと事情を打ち明けるのだった。

後日、八重子が庭で鉢植えに水をやっていると、順次郎が「売れ残り!」と言うので、どこでそんな言葉を覚えたのか?と聞くと、母さんが言っていたと言う。

勇子は、縁談が上手くいかなかったのがよほど残念だったのか悔しがっていた。

良一も、こいつが付いていながら、フルーツポンチを6敗も食わせるなんて…と、側にいた夢子を恨めしそうに観ながら言う。

日本橋の山千と言えば、1、2の問屋だってね…と、勇子がいつまでも愚痴るので、雄一は夢子のことをお前の責任だ!バカ、アホ!呼ばわりし始める。

夢子は、これには深い訳があるのよと弁明するが、その時、会社の同僚、斉藤と三島がやって来て、雄一を麻雀に誘うので、雄一は、すぐ出かけようと着替えに向かう。

そこへやって来た夢子は、今日は母や弟たちとご飯を食べに行くことになっておりますので、いずれ改めて迎えにきて下さいませんでしょうか?とやんわり説明したので、斉藤と三島は帰るしかなく、しょっぺえ女だな。残念ながら歯が立たないよとこぼしながら帰って行く。

その時、着替え終わった良一が戻って来て、友人二人が帰ったことを知ると、また、出過ぎた真似をしたんだな?と夢子をにらむと、しげに、稽古着を持って来させる。

夢子や勇子は、怒り猛った良一を何とかなだめようとするが、良一は、うるさい!家になんていられるか!と癇癪を起こす。

柔道部の練習にやって来た良一は、後輩たちを次々に投げ飛ばし始めたので、後輩の吉川と川田(南部耕作)は、今日はどうしたんだろう?といぶかしがりながら逃げようとするが、良一に見つけられ、投げ飛ばされて気絶してしまう。

その後、斉藤と三島を料亭に呼び、無理矢理酒を飲み始めた良一だったが、斉藤と三島は、すっかりしらけ意気消沈していた。

良一は、酌をしていた蔦丸にも、お前も女じゃないか!女なんて大嫌いだ!女房が何だい!あんなの怖くて生きていかれるか!断然、怖くない!と豪語する。

それを聞いていた蔦丸は、わざと良一にしなだれかかり、良一からぶたれると、ぶたれて本望よ。殺して頂戴!と過激なことを言いながら、さらに良一に抱きつく。

泥酔して帰宅した良一の背広をたたんでいた夢子は、ポケットの中から簪を見つける。

そこに、勇子がやって来て、もう一度、谷川さんの所へ行って来る。この縁談、どうしても欲しくてね。もう一度見合いさせたいんだ。今度こそ、私に任せておくれと言うと、亡くなった夫と一緒になる時こしらえたと言う着物に着替え、夢子が制するのも聞かず出かけて行ってしまう。

その後、夢子は、結婚の日が待ち遠しいなどと書かれた恋文を発見したので、さすがに切れた夢子は、寝ていた良一を叩き起こして、簪を突きつける。

まだ酔いが冷めない良一は、事情が飲み込めなうらしく、そんなものは知らないとしらばっくれるが、夢子は、嘘おっしゃい!じゃあこれは何よ?と手紙を取り出すと、あなたは悪魔よ!大悪人よ!と言いながら泣き出してしまう。

良一は、たまに酒を飲んだくらいで因縁をつけるのか?と反抗したので、どうせ私は邪魔でしょうよ!出て行きます!と言い返した夢子は、怒ったまま部屋を出ようとして鴨居に頭をぶつけ、額が落ちて来て頭を強打したので、さらに泣き出す。

良一も、勝手にしろ!と怒鳴るしかなかった。

夢子は実家に戻っていた。

利一は、帰れよ。ここにいればややこしくなると妹に忠告するが、夢子は、高瀬には他に女がいますと言い張る。

利一は、お前の方から折れて行けばどうにかなるよと説得するが、いつものように木刀の素振りを終えた父、進太郎がやって来て、利一に、まだ学校へ行かんのか?又落第するぞと叱りつけると、夢子には、お湯にでも入って少し休んだらどうかといたわる。

その時、白川がやって来て、玄関口で利一に出会うと、八重子さんから何とかならんかと言われて来たと説明する。

そんな白川を、進太郎は、敵か味方か知らせていただきたいと、厳しい顔で出迎える。

白川は、自分は博士であり、敵も味方もない。先方の八重子さんにも世話になっていると説明する。

利一は、同情して慰めにきて下さったんですよと父親を説得すると、偉いことになりましたね。あなたがいないと、僕と八重子さんのこともめちゃめちゃになりますよ。考え直して下さい。八重子さんにも、重大な縁談が起きているのですと、白川は利一に訴える。

利一は妹に、芸者と一晩遊んだだけじゃないかとなだめようとするが、証拠があるのよ!と夢子は譲らない。

先ほどから話を聞いていた進太郎は、白川に向かい、あんたは敵方じゃないかと迫る。

石川は夢子に、証拠を見せて下さいと夢子に頼み、その手紙を読んだ後、こうなりゃ、断然、僕はあなたの味方になります!僕は正義の為なら、恋愛なんか犠牲にしてもいいんですとまで言い切る。

利一はあわてて利一を止めようとするが、白川の言葉を聞いた進太郎は逆に喜んで、利一の方を押さえつける。

その頃、良一は自宅に、同僚の斉藤や三嶋、大学の後輩、吉川や川田を招き、上機嫌で酒を振る舞っていたが、招かれた方は、ちっとも楽しんでない様子。

そんな良一の様子を台所で真お会いする勇子と八重子たち。

そこに、しげが、白川さんと言うつっけんどんな方が御見えになっていますと良一に告げる。

良一はそんな奴知らんなと不思議がり、夢子のことのようだと聞くと、因縁付けにきやがったな?と不機嫌になる。

会わなきゃ、上がって来て良いかと言っていますが?としげが伝えると、自分たちが追い返して来ましょうと言いながら、吉川と川田が玄関に出て行く。

白川が、君たちは誰だ?と聞いたので、高瀬先輩の弟子だと答えた吉川らは、帰れ!表へ出ろ!とすごみ出す。

それを心配そうに見つめる勇子や八重子たち。

一旦、吉川らと表に出た白川だったが、すぐに戻って来ると、八重子に、兄さんを出したまえと迫る。

玄関先には、あっけなく投げ飛ばされた吉川と川田が転がっており、ぼろぼろに避けた自分たちのズボンを観て泣き出していた。

良一が姿を表すと、八重子は、兄さん、乱暴してはいけません。その方は良い方ですと言いながら止めようとする。

良一が用件を聞くと、白川は恥を知れ!と言い放つ。

二人はにらみ合ったまま互いに組み合うと、玄関前に出て行くが、そこにやって来た斉藤は、組み合っている白川を観て、白川!俺を観忘れたか?と声をかける。

白川は、不思議そうに斉藤の顔を眺め、斉藤じゃないかと気づく。

斉藤は良一に、僕の国の中学の1年上で、中学時代から2段だったんだと紹介する。

それを聞いた良一は、面白い、もう一遍やろうと言い出すが、その背後で、吉川と川田がすごすごと帰って行く。

ズボンはもう用をなしておらず、パンツの上を覆う布切れと化していたので、二人は、「強え野郎だったな…」「皆に、黙っていような」と情けなさそうに話し合いながら、ズボンをたくし上げ帰るしかなかった。

白川は八重子に、今までのことは夢になるかも知れませんよ。全てはお兄さんの返事次第ですと言いながら、件の恋文を取り出す。

それを見た良一は本当に知らんのですと否定するが、一緒に手紙を覗き込んでいた母親の勇子は驚いて、誰がこんなもん見つけたんだろうと焦る。

すぐに、良一を連れ、山添家を訪れた勇子は、進太郎と夢子に対面し、この手紙は、自分が30年も前に、前の夫に宛てて書いた私の恋文なのだと打ち明ける。

何しろ、あの人も、梅幸のような顔立ちでしてね。ある秋の夜、虫の寝に釣られつい、これをしたためたんですよと言う。

籍はどうしたんです?と思わず母に聞く良一。

進次郎は、白昼堂々、のろけなんか…、黙らっしゃい!と怒鳴る。

勇子は、夢子さんを御返しくださいと頭を下げるが、良一の方は頑固な相手に愛想を尽かし、もう帰りましょうと母親をなだめる。

それでも、勇子は、元はと言えば、このラブレターだけじゃありませんか。あなたは、一度や二度、書いたことあるんじゃないですか?と問いつめると、進次郎も、そりゃ、まあ…と口を濁す。

進次郎が、お前は?と話を振った夢子が、あなたごめんなさいと頭を下げたので、観ちゃいられない。若いもんは若いもん同士、年寄りは年寄り同士と言いながら勇子を部屋の外に誘い出す。

その後、利一は、彼女を連れ梅の木の下で、「楽しい春がやって来た…」などと、詩を読んでいた。

白川も八重子とデートしながら、このごろ、仕事に手が就かないんだと打ち明けていた。

それを聞いた八重子は、いっそのこと、論文なんか止めちゃいなさいよとけしかける。

勇子は、進次郎に、茶などを立てて勧めていた。

互いにすっかり仲良しになっていた。

良一と共に喫茶店に来ていた夢子は、レモンスカッシュをお代わりして良いか?と聞き、すでに4杯も飲み干していた。

良一は呆れ、そんなに酸っぱいものばかり飲んでいると、歯が浮いちゃうよと注意するが、夢子はさらにお代わりをねだるので呆れてしまう。

夢子は、だって、だってこのごろ変なのよ。こんなものばかり欲しいのよ。酸っぱいものばかり欲しいのよと訴えるが、鈍感な良一は変だね?と言うばかり。

さすがにかちんと来た夢子は、ちっとも変じゃないのよ。できたのよと言うが、やはり鈍感な雄一は何が?と聞く。

赤ちゃんが…と恥ずかしそうに教えた夢子に、誰の?と良一は聞くが、あなたと私のよと聞くと、さすがに事情が理解できたのか、良一は慌てたように、夢子の着物を拭いてやりながらも顔はほころんでいた。

そんなおかしなカップルの様子を観ていたボーイ(阿部正三郎)は、運んでいたトレイのコップを落としてしまう。

どこもかしこもラブシーン

これには神様でさえ呆れました。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

戦前の小説を原作にしたラブコメディ映画。

戦前にも、こんな明るい話があったのか!と驚かされるほど、洒落た内容になっている。

まず、登場する女性たちが、皆、ドライで頭が良く、可愛らしいキャラクターで描かれている所が凄い。

戦前と言えばまだ、女性の身分が低く、経済力もないので、男に頼らなければ、なかなか一重では暮らして行けない時代だったはずなのだが、そうした卑屈な感じはこの作品には全くない。

まるで、戦後の女性像を観ているかのような錯覚さえ覚える。

もちろん、女性客、若い婦人客辺りを狙った「一時の現実逃避の夢物語」として描かれていると言うのは理解できるが、それでも、ここに描かれている女性像が全く現実離れした絵空事だったのかどうかは分からない。

意外と、当時から、男を操縦してそれなりに明るく生きていたのかもしれないと思わせるような所がある。

ここに登場する山添家にしても高瀬家にしても、かなり裕福な家庭と言うこともポイントなのだろう。

それにしても、男たちの前で、チューインガムを口の外に伸ばしたりするあっけらかんとした娘と言うキャラクターはインパクトがある。

これが、当時のモガ(西洋文化の影響を受けた先端的なモダンガール)の表現なのだろうか?

女性たちが、皆、賢くちゃっかり風に描かれているのに対し、ここに登場する男たちは、全員、愚か者ばかりである。

かろうじて、若き徳大寺伸が演じている白川と言う研究者が、まじめ一徹の好青年として描かれているだけ。

この辺も、女性客を意識した「映画の中だけでも、思う様男を見下す」と言う、女性の日頃のうっぷんを晴らし、溜飲を下げる描き方のような気がする。

では、男が観ると不愉快に感じるかと言うとそうでもなく、その辺が、ユーモアものの良い所である。

多少、当時の言葉で理解できないものも二三出て来たりするが、全体としては、今観ても少しも古びた感じがしない楽しい作品になっている。