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悪魔の囁き

1955年、新東宝、植草甚一原案、川内康範脚本、内川清一郎監督作品。

※この作品はミステリであり、後半で謎解きがありますが、最期まで詳細にストーリーを書いていますのでご注意ください。コメントはページ下です。

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雨の京浜国道でスピード違反の検知をしている警官。

それを土手の上から見下ろす傘

一台のマーキュリーがスピード違反と判明、やって来た該当車を制止した警官は、運転手に違反を告げると外に呼び出す。

後部座席に乗っていたのは、都会議員の村越甚吉(永井智雄)だった。

その時、雨合羽を着た一人の警官が土手の上から転げ落ちて来た傘に気づき、持ち主に戻そうと土手の上に上がってみると、上の道路のトンネルの中に一人の男がうずくまっていたので、助け起こすと、その男は絶命していた。

ただちに、杉山警部(細川俊夫)ら捜査陣が検証を始めるが、死んだ男は死後1時間経過しており、側には、イヤホン付きの無線の受信機が放置されていた。

中塚刑事(舟橋元)から、それを見せられた杉山警部は男はこの受信機で指示されていたに違いない。犯人は囁く男だ!とつぶやく。

タイトル

東京駅

車から降りた初老の男、田中(松本克平)が、首から箱のようなものを首から下げ、イヤホンを耳にはめ、構内に入ろうとしていたが、その前に立ちふさがったのが杉山警部と中塚刑事だった。

杉山警部は、奥さんから連絡があったと説明するが、田中はほっといてくれ!娘が殺される!と二人を拒絶し、指示されている時間は3時半、もう40分なんだ!と興奮気味に言いながら、構内に入るが、周囲の群衆は、木箱を首から下げた田中を好奇の目で取り囲み、田中は身動きできなくなる。

そんな中、イヤホンに耳を傾けながら、田中は、故障中と書かれた公衆電話の前にたどり着くが、刑事がドアを開けると、口から血を吐いた娘の遺体が転がり出る。

娘の死体を目の当たりにした田中は、どうしてくれる!わしは金なんかどうでも良かったんだ。娘を殺したのはあんたたちだ!と、周囲を取り囲んだ群衆にヒステリックに叫ぶのだった。

この「囁く男」事件はたちまちマスコミでも大きく報道されるようになり、平田哲夫(中山昭二)が昼食のパンを食べていた博物館の職員室でも、音楽を流していたラジオが急に重大ニュースを申し上げますと言い始めたので、職員たちは第4次世界大戦でも始まったんじゃないだろうな?などと冗談を言いながら聞き耳を立てるが、京浜国道事件を発端に、電波を使った「囁く男」による誘拐事件が発生した。今度、木箱を持っている人物を観たら、それは被害者なので、直ちに警察に知らせるようにとの内容だったので、平田や職員たちは自分たちには無関係と知り、興味を失うのだった。

光泉幼稚園を経営している大山晴久(上原謙)は、このニュースを聞きながら、その内、世の中でまともなのは、子供たちだけと言うことになるかもしれませんよと、寄付の署名を依頼に来た村越甚吉に話しかけていた。

足が悪い大山は、妻を2年前に亡くていたが、マコちゃんことマコト(二木まこと)と言う幼子を育てながら、妻の夢だった幼稚園をやるようになって満足していると村越に語りながら、50万も寄付した村越の名が最初に書いてある寄付署名書に、自分も名を書き加える。

その後、大山は、民生委員の寄り合いがあると、幼稚園の先生をやっている久美陽子(筑紫あけみ)に告げ、平田君が君と結婚したら、博物館を辞めてもらい、ここで働いてもらいたいなどと話して出かけて行く。

その後、その平田が大山から住まいとして借りている離れに帰って来て、待っていた陽子に会うと、結婚資金が少しも溜まらないので金が欲しいななどと言いながら、600万円を横領した事件を報ずる新聞記事に、つい目を留めてしまうのだった。

その時、窓から、まこちゃんが覗いていたので、一瞬心に芽生えた悪心を打ち消すように、平田はだっこしてあやすのだった。

陽子は、まこちゃん見送られ幼稚園を後にするが、ちょうど同じ幼稚園に通う娘の啓子 (二木てるみ)を車に乗せ帰ろうとしていた村越に声をかけられ、自宅である同栄会アパートの前まで送ってもらう。

この後、平田と会うことを楽しみに、自室の玄関前まで上がって来た陽子だったが、突然背後から、黒ずくめの男に口を押さえられてしまう。

その後、約束の喫茶店にやって来た平田は、陽子の姿が見えないのに気づき不思議がるが、ボーイが手紙を男の人から預かっていると手渡すと、それを読んで顔色が変わってしまう。

そこには、囁く男に誘拐されてしまったので、至急、私のアパートへ来て下さいと書かれてあったからだ。

同栄会アパートの陽子の部屋にやって来た平田は、ドアに鍵がかかっておらず、中には誰もいないことを知るが、そこに不思議な木箱が置いてあることに気づく。

木箱の中にイヤホンが入っている。それを耳に付けろ。5時きっかりに命令を与えると書かれた紙が付いているのを読んだ平田は、今、4時50分であることを腕時計で確認すると、階段に置いてある共同電話から大山を呼び出すと、事の次第を相談しようとするが、大山の声を聞くと、陽子の怯えた顔がちらつき、つい何も言わずに電話を切ってしまう。

陽子の部屋に戻った平田は、水車小屋型の置き時計が5時になっているのを確認すると、木箱の中のイヤホンを取り出し、耳に付ける。

すると、不気味な男の声(滝口順平)が聞こえて来て、平田君、命令通り動かんと、人質の命がないぞ。博物館には、世田谷の人間から寄贈された金無垢の勢至菩薩像があるはずだが、それを、今夜の宿直を利用して盗み出すんだ。次は明朝5時に命令を出すと指示がある。

その翌朝4時半、見回りを終えて職員室に戻って来た同僚の山下から交代を告げられた平田は、懐中電灯を持って見回りに行く振りをして、持って来た受信機のイヤホンを耳につけると、よし、仕事に取りかかれ!外に出たらタクシーを拾うんだ。5時20分、再び命令を出すと言う「囁く男」の指令を聞く。

勢至菩薩を置いてある部屋に入り、それを盗み出した平田は、指示通りタクシーを拾うが、イヤホンを付けた平田の耳には、渋谷に向かえとの指示が届く。

平田は、途中で交番の前に立っている警官の姿を観て通報しようかと迷うが、人質の命はないぞと脅された「囁く男」の命令を思い出すと、何もすることはできなかった。

運転手は、何も知らず、平田に語りかけて来るが、バックミラーに映った平田がイヤホンをし、木箱を持っていることに気づくと、急に怯え出し、クラクションを鳴らしながら渋谷に向かい出す。

それに気づいた平田は、余計なことをしないでくれと頼むが、気がつくと、異常に気づいた中塚刑事が乗り込んだパトカーが並走していた。

中塚刑事は、あなたはそのまま指示通りに動いてくれと、窓越しに平田に声をかけて来る。

平田は、受信機から「新橋駅へ行け」と指示を受ける。

指示通り、9時18分「桜木町行き」の電車に乗り込んだ平田の横には、一緒に乗り込んだ中塚刑事が座り、しっかり貼り付いていた。

受信機の指示は「左側の窓を開けろ。次の駅で注意しろ」だった。

やげてトンネルを通過した時、「陸橋を過ぎたら、白い旗を振ってるのが見えるはずだから、それが見えたらバッグを窓から捨てろ」と新たな指示が出る。

やがて、陸橋にかかり、向かい側の土手で、ジープの脇に立ち、大きな白い端を振る男の姿が見えたので、平田は、勢至菩薩像が入ったバッグを車窓から投げ捨てる。

地面に落ちたバッグを拾った男は、ジープに乗ってその場を逃走する。

それを驚いたように目撃した中塚刑事は、平田がイヤホンを外したので、それを受け取り、自分の耳につけてみたが、もはや通信は切れていた。

電車を止めろ!と叫んだ中塚刑事に呼応するかのように、電車は緊急ブレーキをかける。

その後、捜査本部では、警視庁から来た杉下警部らが、多摩川脇でジープが見つたが、指紋は採取できなかったと言う報告を受けていた。

捜査員から、電波探知機を使って発信地を特定したらどうかと言う意見が出るが、探査機を使っても探知に時間がかかること、「囁く男」は常に移動していること、毎回、異なる周波数を使っているなどを挙げ、その捜査法の困難さを指摘するだけだった。

そこに、勢至菩薩像を寄付した大山がやって来て、あれは、近々、フランスの展覧会に出品する予定だったので困ったことになったと嘆くが、そこに、平田が連れて来られると、彼はいわば被害者であり、自分が親代わりになるから、一時釈放して欲しいと願い出る。

そこに、同栄会アパートで張っていた中塚刑事から連絡が入る。

中塚刑事は、陽子が戻っていないか確認する為彼女の部屋に向かうと、鍵を貸してくれた管理人のおばさんに鍵を戻し、部屋の中で待つことにする。

すると、しばらくして、陽子が帰って来る。

悄然とした様子の彼女に事情を聞くと、今朝方から、アパートの屋上の小屋の中に監禁されていたと言う。

彼女を伴い、その小屋に行ってみると、綱が置いてあった。

陽子はその綱の一部が首に巻き付いていたと言う。

中塚刑事が、外に伸びた綱を調べると、隣のビルに繋がっており、引っ張ると、陽子の首に巻いた綱か絞首刑のように締まる仕掛けになってたことを知る。

その時、大山が運転する光泉幼稚園の車で送られて来た平田がやって来て、陽子の部屋に来るが、陽子の姿が見えないことに気づくとがっかりする。

そこへ、管理人のおばさんが電話だと知らせに来る。

階段途中の共同電話を受けた平田に聞こえて来たのは「囁く男」の声だった。

恋人は帰ったろう?と聞くので、いないと平田が答えると、仲間のものが心得違いをしたかもしれない。西銀座6丁目の「アルル」と言う美容室に向かい、マニキュアをしてくれと頼めば、恋人の手がかりがあるかもしれないと「囁く男」は告げる。

平田は陽子会いたさに、そのまま同栄会アパートを後にするが、それとすれ違いで部屋に戻って来た中塚刑事は、陽子の部屋の窓から、タクシーを止め、どこかへ出かけた平田に気づくと、下で張っていた同僚の刑事たちに尾行するよう呼びかける。

西銀座の「アルル」にやって来た平田は、「囁く男」の指示通り、マニキュアを依頼するが、応対した谷あき子(荒川さつき)は、当店では男性は応対していないと言う。

その時、女主人の朝子(角梨枝子)がやって来て、表にもう一大車が停まったことを教えると、平田を二階に連れて上がる。

すると、あき子までずうずうしく上がって来て、マニキュアのことを聞きながら、好奇心丸出しで二人の様子をうかがうようなそぶりを見せたので、ちょっと叱りつけて下がらせた朝子は、ラジオの中に無線機があると平田に教える。

ラジオから聞こえて来た「囁く男」は、警察が付けて来ていることを知っているだろう。直ちにマニキュアにかかれと命じる。

光泉幼稚園にやって来た杉山刑事は、平田は一体どこへ行ったのだろうと心配する大山と陽子に、今回は非常に特殊な事件だと感想を述べただけで帰って行く。

陽子は、自分は一体どうしたら良いのか?と大山に泣きつくが、その時、平田から大山に電話がかかって来る。

すぐに陽子が電話を代わり、早く帰って来て下さいと頼むが、実は、僕…、「囁く男」に…と平田が言いかけた所で、切れてしまう。

電話を許したのは朝子(ともこ)のサービスだったのだ。

今や、平田は、メガネをかけ、口ひげを蓄えた、白髪まじりの中年男に変貌していた。

朝子が変装メイクしたのだった。

朝子は、あなたは今狙われた男なのだと、変装させた訳を話すと、ラジオの中の無線機のスイッチを入れ「SQ1 SQ1」と呼び出す。

すると、又、ラジオから「囁く男」の声が聞こえて来て、「陽子は帰っていただろう?」と平田に確認させると、金無垢の勢至菩薩像が戻らんと大変なことになるぞ。今後は朝子の言う通りにするんだと命じる。

朝子に連れられ「アルル」を出た平田だったが、近くの喫茶店で茶を飲んでいた男(丹波哲郎)が、その二人の姿を観かけ、慌てたように店を飛び出して行く。

中塚刑事も付近を警戒中だったが、変装した平田とすれ違っても、全く気づかなかった。

喫茶店の男は、そんな平田と朝子を尾行し始める。

二人はとあるホテルのロビーに来る。

そこに待ち受けていたボーイ(江見俊太郎)が、「アルル」の方はいかがですか?と朝子に馴れ馴れしく語りかけて来る。

朝子は、平田を自分専用の部屋に連れて来ると、これからはここを自由に使って良いと言う。

かけ慣れぬメガネを外した平田に、メイクを落としたら、あなたは指名手配の男になるのよと忠告する朝子に、平田は、一体僕にどんな仕事をさせようとしているんだ!と癇癪を起こす。

そんな平田に、朝子は、仲間になったら、時間厳守ねと言いながら、部屋の鍵と時刻表を手渡す。

時刻表を開くと、中がくりぬかれており、拳銃が入っていた。

それを驚いたように見つめる平田に、間違っても自殺しちゃダメよと言い残し、一旦、朝子は「アルル」に戻ることにする。

その帰り道、外で待ち構えていた喫茶店の男が、朝子に「よし子!」と呼びかけ近づいて来る。

たまたま近くにおり、男に襲われ怯える朝子に気づいた中塚刑事が駆けつけ、男を投げ飛ばすと、男が落とした荷物が「囁く男」事件と同じ受信機だったことが分かる。

その夜、陽子は、光泉幼稚園の手伝いをしている婆や(五月藤江)から、平田のパジャマを着せられ、幼稚園に泊まることにしていた。

寝ようとしていた陽子は、ドアの外に怪しげな光が見えたので緊張するが、それは大山だった。

大山は、母屋の方で寝ても良いんだよと優しく言葉をかけ、ゆっくり母屋に帰って行く。

その姿を窓から眺めながら、陽子は部屋の灯りを消す。

警視庁に連れて来られた男は、杉山刑事から事情を聞かれていた。

男は、戦時中、中支の特務機関いたらしく、その時に、電波の研究をしていたらしいと言う話をする。

かつての妻、よし子が当時スパイをしていた関係で電波関係のことは知っているかも知らないが、彼女は「囁く男」に殺されて、もうこの世にはいないかもしれないと言う。

後日、サングラスをかけた朝子が平田の部屋にやって来る。

その頃、大山は、幼稚園の運動会用の風船と記念品をたくさん購入し、車に乗り込もうとしていた。

その時、手を離れた二つの風船が空に浮かび上がって行く。

カーラジオからは、大森レースで、木田三次郎選手が「囁く男」から脅され、着外にわざとなったため、配当金300万を手に入れた人物がいるとのニュースを報じていた。

光泉幼稚園では、明日の運動会用に、陽子らが子供たちに旗をたくさん作らせながらも、平田のことで心を痛めていたが、同僚の先生から、園長先生もいつも心配しているのよと励まされていた。

中塚刑事は「アルル」に来て、平田が来なかったかと写真を見せながら聞くが、応対したあき子は来たと答える。

そこに、朝子が来て、二階に案内すると、写真の男は確かに来たが、パーマをかけてくれと言われたので、男の方はしてないと断ると、髪の形を変えたいと言い、その後、裏口から出してくれと頼まれたと言う。

ホテルで一人酒を飲んでいた平田は、突然やって来た例の馴れ馴れしいボーイが、日比谷でブルースカイの演奏をやっているので聞きませんかと、一方的にラジオのスイッチを入れたので、平田は止めろと癇癪を起こす。

そこへ朝子がやって来て、改めてラジオを付けると、「囁く男」の声が聞こえて来る。

あき子は、今日がはじめてではない。もう限度だ。No.6の平田君、左のスイッチを回せ。それで、互いに会話ができるようになると言う。

平田は、君は誰だと呼びかけるが、中を探ろうと思って、仲間になった振りをしているなら無駄だ。No.3がいつも君を監視していると言う声を聞きながらボーイを見ると、彼はいつの間にかイヤホンをしていた。

その夜、平田は朝子を乗せ、自動車を運転して、あるビルの下にやって来る。

そこにはすでに、黒ずくめの男たちが数名待ち構えていた。

朝子が車を降り、ビルの屋上を見上げると、屋上から黒ずくめの仲間が合図を寄越す。

それを見た朝子は、道路から「あき子さ〜ん!」と呼びかける。

すると、ビルの真ん中辺りの窓が開き、谷あき子が顔をのぞかせる。

ここは、彼女の住まいだったのだ。

その時、屋上の仲間が降ろしたロープが、窓から乗り出して下を観たあき子の首に引っかかる。

下にいた朝子はすぐに車に乗り、運転席で待機していた平田に発射するよう命じる。

訳も分からず、車を発射した平田だったが、バックミラーを見ると、車に結ばれていた綱の先に、あき子が引きずられていることに気づく。

結果的に、殺しに手を貸したことに気づいた平田が怯えていると、助手席に座った朝子は、あの娘は、男ができて、へま重なったんで殺された。こういうとき、国籍のない人は便利ねと、平田をからかう。

翌日、光泉幼稚園では運動会が行われていた。

そんな中、来賓として訪れていた村越と一緒に、テントから出て来ようとしない啓子に、風船を持って来て機嫌を取ろうとした大山だったが、なぜか啓子は受け取ろうとせず、大山の手から離れた風船が空に浮かび上がったので、他の園児たちが大喜びする。

ベッドで起きた朝子は、横の部屋でずっと起きていたらしい平田を発見する。

平田は、夕べのことをいまだに後悔しているらしく、俺が殺したも同然だと悩み抜いていた。

そんな平田に寄り添った朝子は、もう少し待ってと慰めるのだった。

その時ラジオから、「囁く男」の声が聞こえて来る。

No.6平田君、君はついに人を殺したね。君は君の責任に置いて殺したことになる。せっかく血を分け合った同士が…と責めるように言うと、今度は、村越啓子を某所から某所へと運んでもらいたいと新たな任務を言いつける。

ホテルのNo.3の所へ行ってくれと続ける「囁く男」に、平田は、嫌だ!と抵抗する。

すると、「囁く男」は、君は陽子に危険が迫っているのを知っているのだな?と脅して来る。

その陽子は、幼稚園のグラウンドで「キラキラ星」をオルガンで弾いている所だった。

平田が部屋を出て行った後、又人影が戻って来たので、朝子は平田が戻って来たのかと思い込むが、部屋に入って来たのは「囁く男」だった。

ガラス越しに、朝子を抱きしめる「囁く男」だったが、朝子が、いつ平田さんに本当のことを話すの?と聞くと、「囁く男」は平田には、俺の代わりに頑張ってもらおうと思うと告げる。

朝子が、早く会ってあげてよと頼むと、お前の口から言うのは絶対に許さん!と「囁く男」は朝子に釘を刺し、打ち合わせを始めようとした時、当の平田が戻って来たので、「囁く男」は慌てて別室に身を隠す。

平田は朝子に、何故部屋の鍵をかけた?「囁く男」が来ていたんだろう?と迫るが、朝子は、「囁く男」って、そんな悪魔じゃないわと反論するだけだった。

別室に身を隠していた「囁く男」が銃を握りしめて様子をうかがっていると、平田は、化けの皮をひんむいてやる!と意気込んだ後、部屋を出て行くのだった。

合同捜査本部

杉山警部は、最近、「囁く男」は双方で通信しているらしい。探査を続けている所だが、どうやら「囁く男」の発信元は、新橋方面に絞られて来たと、捜査員たちに教えていた。

その時、電話がかかって来たので、中塚刑事が出てみると、幼稚園児がさらわれたとの報告がある。

村越甚吉は、心配する妻と共に、「囁く男」に要求された金を用意してた。

今回誘拐されたのは、娘の啓子だけではなく、大山の息子のマコちゃんも一緒であり、大山が車で今夜12時に来てくれることになっていた。

大山と共に、誘拐されたマコちゃんのことを陽子が幼稚園で案じて泣いている所に、婆やが、平田さんのと押し入れから出て来たと言いながら、博物館から盗まれた勢至菩薩像を持って来る。

それを見た大山は、「囁く男」の正体が平田君だったなんて…と驚く。

その頃、平田の運転する車で指示された場所に向かっていた朝子は、「囁く男」は恐ろしい相手ではないから、この辺で清算したいから、おとなしく相談してくれと話しかけていた。

例え死刑になっても、今の私は、今までの私とは違うと訴えて来る朝子は、どうやら平田に思いを寄せているらしかった。

夜中の12時、幼稚園に残っていた婆やは、本箱を動かすと、その背後にある秘密の部屋の中のベッドに縛られて眠っている村越啓子ちゃんとマコちゃんの様子をじっと監視する。

その秘密の部屋の中には、無線装置の他にも、印刷途中の偽札やら札束がたくさん積まれていた。

大山が運転する車に乗り込んだ陽子と村越は、「囁く男」からの次の指示を待つため、受信機のイヤホンを付けて指示された方向へ向かっていた。

その時、大山が急に気分が悪くなったといい、イヤホンを陽子に手渡すと、後部座席に移動しうつぶせに伏せる。

後部座席の下に隠してあった無線機に手を伸ばした大山は、「午前三時 月島の巴橋」と小声で連絡する。

それを運転席人っていた村越と陽子はイヤホンを通じて聞く。

「囁く男」の正体は、大山だったのだが、二人は気づかない。

巴橋の所で車を停めろ。すると、別の車が近づいて来るはずだから、その車の相手にバッグを渡せと言う指示だった。

一方、車で移動していた朝子も、同じ指令を「囁く男」から受けていた。

その指示を聞いた平田は、朝子から拳銃を奪う。

大山の方も、気分が良くなったと言いながら運転席に戻ると、陽子から受信機を受け取るのだった。

やがて、月島の巴橋に到着したので、車を停めた大山は、もう一台の車が近づき、少し通り過ぎた所で停まると、自分のバッグと村越のバッグを持って外に出て、村越には、陽子を頼むと託す。

少し先に停まった車から降りて来たのは、変装した平田だった。

出るのを止めようとした朝子を殴って失神させ、近づいて来る男を「囁く男」だと思い銃を向けて待つ平田。

その平田に向かって、金の入ったバッグを二つ提げて近づいて来た大山。

その姿を間近で確認した平田は、園長の大山と知り驚く。

大山は、平田君驚いただろう?俺が「囁く男だよ」と小声で話しかけて来る。

その声は、まさしく、受信機から聞こえて来たあの「囁く男」の声だった。

これから生死を共にしないか?と誘う「囁く男」に、悪魔の祝福はごめんだと拒否する平田。

すると大山は、今、後ろの車にいる陽子たちから見れば、拳銃を持って私に突きつけている君の方が「囁く男」のしか見えないはずだ。

今、私が君を射殺すれば、後ろの二人が証人になってくれるんだと言う大山の手には、いつの間にか銃が握られていた。

背後の車の中から、そうした二人の様子をうかがっていた陽子は、恋人の直感で、大山と対峙しているのが平田であると気づくが、車の外に出ようとするのを、村越が必死に止める。

撃てるものなら撃ってみろと嘲る大山に対し、平田は発砲するが、慣れない銃が当たるはずもなく、よろけたように橋の欄干の下にうずくまった大山が撃った銃弾の方が平田の肩を貫く。

その時、気がついた朝子が車から降りて来るが、大山は、その朝子にも発砲する。

平田は必死に発砲を続けるが、最期の一発が何とか大山を貫く。

互いに手負いになった平田と大山だったが、平田の執念は凄まじく、死んでたまるか!お前を絞首台に送るまでは…と言いながら、大山に飛びかかって行く。

二人は殴り合い、車の中の陽子は何とか飛び出そうとするが、やはり、村越が押さえるので動けない。

取っ組み合った大山と平田はそのまま川に落ちるが、大山の方が先に上がって来て、道路上に置いていた金のバッグの所まで這いずって来ると、傷を負っていた朝子が、「亡者!金の亡者!」と叫びながら倒れる。

必死に朝子の車に乗り込んだ大山は、その場を走り去る。

少し遅れてその場にたどり着いた平田は、走り去る車に向かい「待て!悪魔!」と叫ぶが、金を奪った大山の車は走り去ってしまう。

倒れていた朝子は、駆け寄った平田に、平田さん、すみません…、「囁く男」の第一号…と言いかけて息絶えるのだった。

そこに、陽子が走って来て、「哲夫さん!」と平田に飛びつく。

平田は、「俺は死なんぞ、絶対に死なん!」とつぶやく。

濡れ鼠になりながらも村越の金を奪った大山は、うれしそうに笑って車を飛ばしていた。

その時、雨に濡れた道路の真ん中に、啓子ちゃんやマコトが立っている姿を観たような気がした大山は、あわててハンドルを切り、崖から車は転落してしまう。

大破した車からは、金を握りしめた大山の手だけが覗いていた。

その事故車の様子を、崖の上から見下している何者かの傘があった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

ミステリ好きのコラムニストとして活躍していた植草甚一氏のアイデアの映画化。

途中、黒澤の「天国と地獄」の有名なシーンを連想するような秀逸なアイデアがあったりして驚かされるが、全体としては「怪人二十面相」風の古風な通俗活劇になっている。

主役の平田を演じているのは、「ウルトラセブン」のキリヤマ隊長こと中山昭二、幼稚園の園長大山を演じているのは加山雄三の実父で、「海底軍艦」などにも出演していた往年の二枚目上原謙、杉山警部を演じているのは、「光速エスパー」などにも出ていた細川俊夫であったりするのも興味深い。

誘拐を素材とした犯人探しかと思ってまじめに観ていると、最初の方から、特定の人物を明らかに怪しげに撮ってあったりするのでちょっとしらける。

そもそもミステリとしてはおかしな部分が目立ち、大人が観るには気になる所だらけ。

一番気になるのは、平田が巻き込まれる恋人久美陽子誘拐事件の目的が釈然としないことである。

「囁く男」が平田の仕事を利用し盗ませたのは、「囁く男」自身が博物館に貸した勢至菩薩像。

つまり、これは「被害者」と「犯人」が同一人物の狂言だったことになる。

その狂言の目的は、平田に悪事を働かざるを得ない状況に陥れ、その弱みを脅して悪の仲間に引きずり込む罠のつもりらしいが、なぜ、そんな面倒なことをするのかが分からない。

気の弱い男を仲間に引き入れるだけなら、もっと簡単な脅しの罠はいくらでもあるはず。

すでに警察も世間も注目している誘拐脅迫事件の犠牲者にしてしまったのでは、世間の同情を引くことはあっても、犠牲者本人の弱みにはならないはず。

日頃、住まいを借りている恩人の大切な品物を、脅かされたためとは言え、盗んでしまったと言う自責の念に駆られた平田が気落ちしていると言うのはあるかもしれないが、その後の展開は、全くの偶然としか思えない。

大山の車で送ってもらい恋人陽子のアパートにやって来た平田が、戻って来ていた陽子と無事再会していれば、その後の展開はなかったはずだからだ。

その時、陽子が屋上にいたのは「囁く男」の計画ではなく、中塚刑事の捜査の為で、その後陽子が部屋に戻って来たのと、平田が部屋に来た時間がすれ違うのは全くの偶然以外の何者でもない。

中塚刑事が「囁く男」の仲間とでも考えなければ、彼が帰宅した陽子とどう行動するかは、「囁く男」一味には予測できないからである。

幼稚園の先生である陽子誘拐事件の後、又、同じ幼稚園児を誘拐すると言うのも、捜査陣に犯人を絞り込ませる格好の手がかりを与えているだけであり、賢い犯罪者がする行動とも思えない。

この手の通俗ものでは、捜査陣が観客よりも間抜けに描かれているだけなのだ。

なぜ、「囁く男」が二種類の声を使い分けることができるのか?(無線を通した機械的なトリックでないことは、後半、平田と対峙した「囁く男」が、普通に声を変えている所から観ても明か)など、謎のままの部分も多い。

「囁く男」の声を演じている滝口順平の名は、冒頭のキャストロールの最後に堂々と登場しているが、それを見落としていると、誰なのかちょっと分からない。

後年のアニメなどの声とは、かなり雰囲気が違っているからだ。

それにしても、「ドクロベエ様」が、往年の二枚目俳優の声を吹き替えていたことがあったとは…

ラストの車で逃亡する犯人が、路上に子供の姿を観てハンドルを切りそこね、事故死すると言う展開は、大映作品「誘拐」(1962)のラストにも使われている。

幼稚園の手伝いの婆やを演じている五月藤江は、「九十九本目の生娘」(1959)を始め、新東宝のきわもの映画ではお馴染みの存在である。