1957年、松竹大船、野田高梧脚本、小津安二郎脚本+監督作品。
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銀行で監査役を勤める杉山周吉(笠智衆)は、小料理屋「小松」で、女将(浦辺粂子)相手に、岡部君も来るかね?などと雑談をしながら酒を飲んでいた。
あけみちゃんは?と聞くと、スキー、清水トンネルの向こうだと女将は答え、このわたがあると言うので、それを聞いた隣の客(田中春男)も、同じものを注文し、牡蠣を酢牡蠣にしてくれと注文する。
周吉も、賢島まで行ったことがあると答えると、この前、沼田先生が生徒を二人連れて来たが、その時、帽子を忘れて行ったと女将が思い出す。
その時、隣の客が周吉に酒を勧めて来る。
帰宅してみると、嫁いだ長女の孝子(原節子)が来ており、赤ん坊がすやすや眠っていた。
お手伝いの富沢さんは?と聞くと、夕方帰ったと孝子は答える。
周吉は、孝子の夫の沼田は元気か?著書の「自由の転向」は面白かった。お前、遅くなっていいのか?などと聞くと、聞こえていない振りをするので、次女の明子が、この頃、面白くないことあるんでしょうと横から口を出すが、もう一度問いかけると、ええと孝子は答えたので、又、何かあったのか?どうかしたのかい?と心配して聞くが、孝子は答えず、お床敷きましょうか?などと話をはぐらかす。
周吉は、孝子を座らせると事情を問いただすと、沼田は、この赤ん坊をいじめるなど、ノイローゼなのだと言う。
会ってみようと周吉が言うと、あっても不愉快になるだけ、そんな人よと、孝子は諦めたような口調で言う。
翌日、銀行にいた周吉の元に、妹の重子(杉村春子)がやって来て、一緒に昼食にウナギでも食べようと言うことになる。
ウナギ屋に着いた重子は、個人的な電話をした後、父親の13回忌どうすると話を切り出すと、明ちゃんどうしています?4、5日前、うちに来て、金を5000円貸してくれと言いに来たのだと言う。
それを聞いた周吉は驚き、早く嫁にやった方が良いのかも知れんと答える。
とある駅の側にある「相生荘」と言うアパートへやって来た明子は、木村憲二(田浦正巳)の部屋をノックし不在だと知ると、近くの富さんこと富田三郎(須賀不二夫)の部屋で花札をしていた男たちに、ケンちゃんは?と聞く。
彼女を観たのんちゃんこと川口登(高橋貞二)は、あいつ痩せたぞ。どこに惚れたんだ?とからかうい、明べえ、お前のこと、知ってるおばさんいたぞ。五反田の麻雀屋「寿荘」のおばさんと教える。
そんな話には興味もなさそうに、明子はその部屋を後にすると、もう一度、憲二の部屋をノックして帰って行く。
その日、孝子の夫の沼田康雄(信欣三)に会いに行った周吉が、孝子のことなんだが…と切り出すと、沼田は、一昨日、よく考えてみたいと言い、昨日出て行ったのだと、一人ウィスキーなど飲みながら答える。
雪が降って来た中、周吉が帰宅すると、孝子がいたので、赤ん坊の美智子は?と聞くと、もう寝ましたと言う。
沼田のことを話そうとすると、孝子は席を立ってしまったので、周吉は、昔は明るい男だった。お前には済まないような気がして…、こんなことなら、佐藤の方が良かった…、お前には無理して勧めて…と、独り言のようにつぶやく。
そこに、明子(有馬稲子)が帰って来たので、叔母さんの所へ金を借りに行ったんだってね?と周吉が問いかけると、もう良いの、友達が困っていたんですもの。お父様もいらっしゃらなかったし…と明子は答える。
周吉は、風呂に入ることにする。
五反田の麻雀屋「寿荘」で、ある日、明子は松下昌太郎(長谷部朋香)らと麻雀をしていた。
どこかの小僧が、麻雀をしていた主人を呼びに来る。
のんちゃんが顔を見せ、「寿荘」の女将相馬喜久子(山田五十鈴)が店にやって来たので、おばさんが聞いていたの、この娘だよと明子のことを指差す。
明子が一勝負終え、席を離れたので、東五軒町にいらしたでしょう。私はご近所にいたんですと喜久子は明子に話しかけて来る。
家族のことを聞きたがるので、兄には2歳になる女の子の赤ん坊がいるし、兄は26年の夏に谷川岳で死んだと明子は教える。
そこに「寿荘」の主人(中村伸郎)が帰って来る。
明子はさらに、今は雑司ヶ谷に住んでおり、自分は速記を習っていると続ける。
しかし、明子は、待っていた憲二が姿を見せないので、そのまま帰ってしまう。
帰宅した明子は、二階にいた孝子に、妙なおばさんに会った。姉さんや兄さんのことを知っていたので、何とはなしに、お母さんじゃないかって思ったと伝える。
それは、明子が三つの時に、家を出て行った母親のことだった。
後日、「珍々軒」と言う店にやって来た明子は、木村憲二いないかと聞くが、主人(藤原釜足)は最近見かけない模様。
続いて、バーテンの富さんが働いているバー「Gerbera」に憲二を探しにやって来た明子は、帰り際、ちょうど店に入って来た憲二にばったり出くわす。
港にやって来て座った明子は、憲二に、自分が嘘を言っていると思うの?私の方が困ってるわ。あれから、あんた、逃げてるじゃないと問いつめる。
しかし、憲二は、本当にぼくの子かな?と疑っている様子。
そんなのんきな返事をする憲二に絶望したのか、明子は、私、一体、どうしたら良いのよ?と泣き出すが、憲二は、もっと二人で考えようよと慰めるだけだった。
その後、憲二は、6時半までに大塚先生の所へ行かなければいけないので、エトアールで待っててくれ。9時半までにはきっと行くからと言い残し去って行く。
その言葉を信じ、「エトワール」でその夜、一人で待っていた明子だったが、マスクをかけた男が近づいて来て、何か心配事でもあるの?と声をかけて来る。
明子が無視して店を出ようとすると、その男は、うちどこ?時々この辺で見かけるね?うちどこです?とさらに聞いて来る。
男は、風紀係の刑事だったのだ。
警察署に補導された明子を、マスクをした孝子が迎えに来る。
父が都合があるので、姉の自分が迎えに来たと刑事に頭を下げると、刑事は、深夜一人で喫茶店なんて感心しませんから…と刑事は補導した理由を説明する。
部屋の隅に座っていた明子に近づいた孝子は、どうしたの?明ちゃんと言葉をかけるが、明子は泣いているだけだった。
自宅前まで戻って来た明子だったが、明子は入りたくないと言い出す。
孝子は、大丈夫よ、お父様、ご存じないんだからと慰め、一緒に家の中に入るが、帰って来ていた周吉は、二人を部屋に呼ぶ。
明子に、どこに行ってたんだ?警察から電話があったと言い、なぜ、隠していた?なんで呼ばれたんだ?うちには、警察に呼ばれるような人間いない!何の用で待ってたんだ?言えないのか?そんな子は父さんの子じゃない!と厳しく問いつめるが、明子は何も答えなかった。
そんな周吉をなだめ、明子を二階に上げた孝子に、どうしてあんな風になったかと周吉は嘆く。
孝子は、明ちゃんは、お母さんを知らないで育って来たので寂しいのよと教える。
それを聞いた周吉は、お前がひがむんじゃないかと思うくらい、あいつをかわいがって来たつもりだったんだが…、子供を育てると言うのは難しいもんだと考え込む。
周吉はその後就寝する。
二階に上がった孝子に、私は余計な子ね…、母さんがあんなだったんですもの、私、生まれて来ない方が良かったと明子は告げる。
翌朝、竹内重子が周吉の家にやって来ると、明ちゃんは?と聞くので、学校へ行ったと周吉は答える。
重子は、孝子に土産に持って来た新製品のクリームを渡しながら、民自党の代議士の次男よと、明子の見合い相手の写真を出し、そのついでに、一昨日、大丸で喜久子 に会った。一昨年の暮れ、引き上げて来たんですってと周吉に教える。
男と一緒だっただったが、楢崎は抑留中に亡くなったって。今は五反田で麻雀屋をやっているらしいと重子は続ける。
そんな重子の話を、孝子は台所でじっと聞いていた。
後日、マスクをして「寿荘」にやって来た孝子は、母親である喜久子に会う。
名乗った孝子に、いらっしゃいよと座敷に上げた喜久子はうれしそうに茶を入れる。
孝子は、お願いがあって来た。明ちゃんに、お母さんだと言って欲しくないんです。お父さんが可哀想。そうお思いになりません?と言い残すと、すぐに帰ってしまう。
そこに入れ違うように亭主が帰って来て今の人は誰かと聞いたので、この前、松下さんと一緒に来た娘さんの姉さんと喜久子は教える。
亭主は、室蘭に仕事がありそうなので、一緒に行ってくれと頼む。
笠原産婦人科医院
女医の笠原(三好栄子)は、明子から堕胎を頼まれ、その方が良い。あんたは身体が弱そうだからと答え、麻酔は2〜3時間安静にしていれば良い。今日しますか?と問いかけ、料金は3000円だと教える。
明子は、その後帰宅するが、具合が悪そうで、明子の娘である美智子がよちよち近づいて来るのを見ると、思わず「嫌!」と顔を伏せると、そのまま二階に駆け上がり寝込んでしまう。
そこに、孝子が上がって来て、叔母さんが見合い写真を持って来たと話しかけるが、明子は、お嫁なんて行きたくない!と拒絶する。
孝子も、そうね…、私みたいになっても困るけど…と答え、でも幸せな夫婦もあると言い添えるが、明子は少し寝かしといて!とかんしゃくを起こし、姉を遠ざけた後、布団の中で一人泣き出すのだった。
周吉が銀行に出社すると、秘書がフジマ自動車の方が来ておられますと報告に来る。
周吉は、いつもの所行ってるから、知らせてよと秘書に頼み出かけて行く。
周吉が出かけると、秘書たちは、杉山監査役、好きね、パチンコ…と噂し合う。
周吉が近所でパチンコをしていると、そこに関口積(山村聡)がやって来る。
関口は、長谷部が帰って来たので、今度クラス会をやろう。自分は大阪に行かなければいけないので、お前が幹事をやってくれと言う。
さらに、明子が金を貸してくれとうちに言って来たらしく、家内が黙って貸したと言うので、周吉は5000円か?と聞き、奥さんに悪しからずだと詫びる。
後日の「寿荘」
又、明子がやって来て憲二が来ていないかと探すが、新宿へ行ったと答えた登は、どうかしたのか?と聞く。
さらに、主人の相馬も、あんたの姉さん、きれいな人だね。あんたを探しに、4、5日前に来たと教える。
明子が帰った後、登と麻雀をしていた女が、どうして憲ちゃん、逃げるの?と聞くと、富田さんのせいですと登は答える。
男たちは、野球解説者の小西得郎の口調で、富田が、明子が速記をやるようになってから憲二とくっつけ、悪漢の仲間になった。それで、ラージポンポン…とちゃかしながら教える。
その話を、店の主人も黙って聞いていた。
帰宅した明子は、孝子を二階に呼ぶと、五反田の麻雀屋に行ったの?と聞く。
孝子は、重子叔母さんが…と言葉を濁していたが、明子に詰め寄られると、叔母さん、お会いになったのよ。お母さんよと教える。
なぜ、姉さん、言ってくれなかったの?なぜ、来られないの?どうして、お父さんと別れたの?と次々に問いかけて来る。
お父さんは昔、京城の支店にいたの…と、孝子は重い口を開き始める。
その間、山崎補佐役がうちに来ていた…と言う孝子の言葉を聞いた明子は、じゃあ、母さん、その人と?と答える。
父さん帰って来て、一緒に動物園に行った。あなたを背負って帰って来たら、家の表戸がしまってて…、それきり母さん、いなくなったの…と孝子は辛そうに教える。
明子は、私はお父さんの子じゃないんじゃない?母さんの汚い血だけ流れているんだものと吐き捨てる。
そこに、周吉が帰って来たので、明子は、お父さんに聞いて来る!と言うなり下に降り、お父さん、私…と言いかけたので、思わず孝子は止める。
明子はそのまま家を飛び出すと、寿荘に戻り、喜久子を呼び出す。
外に出ると、おばさんと二人きりで話したかったの…と明子は切り出す。
喜久子は、近所の焼き鳥屋の離れを借り、そこに明子を座らせる。
明子は、おばさん、私、一体誰の子なの?と、いきなり問いただす。
喜久子は、そんなに私のこと、信じられないの?そのことだけは疑わないでと落ち着いて答える。
明子は泣き出すが、分かってくれるわね…と喜久子はなだめるように言い聞かすのだった。
お客さんが言ってたそうだけど、赤ちゃん、できたそうだけど…と喜久子が聞くと、私、赤ちゃんなんて生みません。母さんみたいに捨てたりしない。思いっきりかわいがってやる。お母さん、嫌い!と言い捨てて、明子は帰って行く。
「Bar Gerbera」に来た明子はカウンターで泣いていた。
富田は、もっとがっしりしたのを見つけろよと慰めるが、明子は怒って帰り、その後、富田は彼女のことを「ズベ公ですよ」と客(増田順二)に説明する。
しかし、その客は、女はズベ公の方が良いんだなどと言い出す。
明子は「珍々軒」に来ると、酒をくれと言う。
冷酒を持って来た主人は、木村さん、アパート替わるんですってと教え、会いましたか?と聞くが、ぐっとコップ酒をあおった明子はおかわりをする。
そこに、木村憲二がふらりと立ち寄り、ずいぶん探していたんだ。心配していたんだなどと歯の浮くようなことを言うので、木村の頬を叩いた明子は店を出て行く。
そこに、コップ酒のおかわりを持った主人が出て来て、気の強い女だね。木村さんもしっかりしなくちゃあと、事情も知らず語りかけるが、その時、表で電車の警告音が鳴り響く。
主人は何事かと店の表に出てみるが、その間も、木村はテーブルに座り、一人悩んでいた。
町の医院の看護婦(千村洋子)が、明子をベッドに寝かせており、それを心配げに「珍々軒」の主人が見守っていた。
そこに、知らせを聞いた周吉と孝子が駆けつけて来たので、下村義平と名乗った「珍々軒」の主人は、うちの店を出た所で、明子が電車にはねられたのだと説明する。
病院から帰るとき、下村は看護婦に、自分の店の名前をしっかり教えて行く。
ベッドの明子が目覚め、死にたくないとつぶやく。
お父さん、私、出直したい。もう一度始めから出直したい…と訴える。
数日後、喪服を来た孝子が車で寿荘に乗り付けると、喜久子に会い、明ちゃん、死にましたよと無表情に告げる。
いつ?何で!と驚いた喜久子だったが、お母さんのせいですわ!と言い残し、明子はさっさと帰ってしまう。
一人になった喜久子は、呆然とし、そのままふらりと外に出ると、焼き鳥屋に来て、一本つけてくれと頼む。
熱燗を飲んでいると、相馬がやって来て隣に腰掛ける。
相馬さんの話、どうなった?私、もう東京が嫌になっちゃったと喜久子は言い出す。
どうして?と聞いた亭主だったが、行ってくれるか?と室蘭行きの話を持ち出すと、喜久子はええと承諾する。
二人は互いに酒をつぎ合う。
亭主は、二人連れなら温かえや。行ってくれるか、そりゃあありがたいと喜ぶ。
後日、周吉の家にやって来た喜久子は、応対に出て来た孝子に、今晩9時30分の汽車で北海道に行くと教え、明子へのお供えとして花を渡す。
もうこれで会えないかも知れないけれど、いつまでも元気で…と挨拶し、喜久子は帰って行く。
花束を抱きかかえていた孝子は、泣き出していた。
その夜、上野駅の「つがる号」に亭主と共に窓際に座っていた喜久子は、ずっとホームの方を気にしていた。
亭主は、来やしないよ、諦めろよ。来る訳ないんだから…と、喜久子に言い聞かす。
その頃、孝子は、家の台所にいた。
事情を薄々知っていた周吉が、お前、行ってやらないのか?まだ、間に合うだろう?お父さんに気兼ねしなくて良いと話しかけるが、孝子は、私、帰ろうと思うんですと、沼田の家に戻ることを打ち明ける。
赤ん坊を見ながら、この子に明ちゃんみたいな思いをさせたくない。やっぱり、明ちゃん、寂しかったんですと孝子が言うと、周吉も、そうかも知れんね。やっぱり、自分では母親とは違っていたのかも知れないと答え、沼田とはやっていけるか?と心配する。
孝子は、やっていかなければ行けないと思う。美智子もだんだん大きくなりますから…と決意を述べ、今度こそ、お父さんに心配させないようにやってみますと答えるが、でも、私があっちに行ったら、父さん、どうなさるの?と案ずる。
孝子が沼田の家に戻ったある朝、明子の仏壇の前に座った周吉は、明子が忘れていった赤ん坊用のガラガラを見つけ、ちょっと振ってみた後、いつものように銀行へ出社するのだった。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
お馴染みの、淡々とした何でもない家庭生活ではなく、この作品での家庭はかなり複雑な設定になっている。
女房に逃げられ、その後、男手一つで二人の娘を育てて来た父親だったが、長女の方は、紹介した相手との中がうまくいっておらず、次女の方は、自堕落な生活に身を堕とし、その結果、誰にも相談できない妊娠と言う問題を抱え込み終始悩んでいる…。
全編を通して、暗く重い雰囲気が漂っている。
元気なのは、父親の妹と次女の男友達だけ。
東京に戻って来て、別の男と生活をしている母親も、自分の娘たちと再会することで、過去の自分の罪と否応なく向き合うことになる。
今や、家族は崩壊し、家を出て行った妻も、捨てられた父親も、そして、寂しい少女時代を送った娘たちも、家族全員が孤独な状態に陥っている。
辛い内容と言えばそうなのだが、それでも、この映画は、何か惹き付けるものがある。
どこの家庭にも、こうした孤独やちょっとした闇の部分が、多かれ少なかれあるからではないだろうか。
特に、そうした孤独に敏感な若い世代特有の悩みを、有馬稲子が実に良く演じている。
救いのない結末ではあるが、彼女が演じた明子と言うキャラクターは、いつまでも心に引っかかる存在になっている。
小津作品の中では異色作かも知れないが、これはこれで、見応えのある名品であることに変わりはない。