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早春('56)

1956年、松竹大船、野田高梧脚本、小津安二郎脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

朝、電車が走る。

杉山昌子(淡島千景)は、隣で亭主を送り出している田村たま子(杉村春子)と朝の挨拶をすると、夫の杉山正二(池部良)を起こすと、今日はパンよ、夕べ、お茶漬け食べたじゃないと告げる。

やがて正二は駅で、いつもの通勤仲間たちに出会うと、蒲田始発大宮行きの列車に乗り込む。

東京駅近くの会社に到着した正二は、窓から、出勤して来るサラリーマンたちの様子を眺めながら、サラリーマンの反乱ですねとつぶやく。

東京駅で降りる人口は34万人、仙台の人口くらいらしいと同僚が教える。

病気で休んでいる同僚のことを聞いた正二は、良くないらしいとの返事を聞く。

その日の昼休み、通勤仲間が集まり、ハイキングの相談をしていた。

前回の相模湖でのハイキングでは一人400円徴収したので、今回も400円で、江ノ島から歩くハイキング、蒲田に8時集合と言うことにしようと話がまとまる。

午後、正二の所に、先輩の小野田喜一(笠智衆)が訪ねて来る。

何でも、大きな仕事を取ったのだが、今日は常務がいないので仕事ができないと言い、河合の所へ行かないかと正二を誘う。

大森は大阪営業所になるらしいと小野田が言うので、あなたはこっちに帰るのでは?と正二が聞くと、まだ当分島流しさと、今、大津支社にいる小野田は答える。

退社後、二人は、かつての同僚であった河合豊(山村聡)がやっているバー「ブルーマウンテン」にやって来る。

河合が、病欠している三浦はどうしていると聞くと、正二は、胸をやられて三ヶ月だと答える。

河合の妻雪子(三宅邦子)が奥の部屋に二人を誘い、河合と三人で酒を飲み始める。

山村は小野寺と共に、昔、ボートをやっていたのだと話す。

小野寺は、俺もこんな生活嫌になると愚痴り、正二に君も辞めるなら今の内だぜと忠告する。

しかし、河合も、俺だってサラリーマンだ。天からサラリーもらっていると答え、杉山に泊まっていくんだろう?と誘うが、小野寺は、今日は杉山の家に泊まると答える。

正二は小野寺を伴い帰宅すると、昌子に小野寺のとこの準備をさせると、先に休ませる。

昌子は、小野寺さん、少し、お老けになったわねと正二に告げる。

正二は、今度、電車仲間でハイキングへ行くと言うと、昌子は、「金魚」ってあだ名の女の人の由来を聞きたがる。

正二は、目が大きくてズベ公、つまり、煮ても焼いても食えないからさと答える。

ハイキング当日、その「金魚」こと金子千代(岸恵子)と並んで歩く形になった正二は、妻は今日、実家に行ったと話していた。

男たちは、歩くことに飽きており、ハイキングはあまり面白くないななどとぼやいていた。

やがて、金魚は、後ろから走って来たトラックを止めると、正二と共にその荷台に乗せてもらうことにする。

先を歩いていた男たちは、自分たちを追い抜いて走って行くトラックの荷台に、金魚と正二の仲睦まじい二人を発見、追いかけようとするが、荷台の二人はどんどん離れて行く仲間たちに手を振って笑うのだった。

その頃、おでん屋をやっている実家の母親北川しげ(浦辺粂子)は、帰って来た昌子に、今日、一緒にハイキングに行けば良かったじゃないかと話していた。

猫のミーコを抱き上げた昌子が、おなかが大きいんじゃない?と猫のことを聞くと、しげは、あんたは赤ん坊はできないのかい?あの子が生きていれば、来年小学生…と、亡くなった昌子と正二の子供の話をする。

弟の幸一のことを昌子が聞くと、アルバイトをやっていると言う。

それを聞いた昌子も、杉山の給料が1000円上がるの大変なのよと愚痴る。

土産に、しげが、正二が好物のこんにゃくを持たせようとすると、昌子は芥子も忘れないでねと付け加え、帰ることにする。

ある日、会社でタイプを打っていた金子千代は、終止ニコニコしていた。

その日の昼食時、正二と会った千代は、今日、姉さんの所へ行くと教える。

その日、昌子の家には、バツイチの富永栄(中北千枝子)が遊びに来ており、昌子から借りたアイロンを使っていた。

富永は、男の間でもまれているうちに、目が肥えて、簡単に再婚などできなくなったと話していた。

そこに正二が帰宅し、飯はまだかと聞いて来たので、昌子はすき焼きでも食べない?と言い出し、富永が、肉代は自分が出すと言い出す。

その後、正二は、田辺(須賀不二男)のアパートの部屋で麻雀を楽しんでいた。

そこに、スカさんの所へ行ったら、ここだって聞いたと言いながら、千代もやって来る。

後日、農林省に出向いた野村 (田中春男)は、金魚が電車の中でスカートを挟まれたらしい。ハイキングのときの罰やと仲間に話す。

正二は、同僚から、病欠の三浦は入院を嫌がっているらしいが、母親が故郷から出て来るくらい悪いらしいと同僚から聞かされていた。

正二は、今日、三浦の所へ行くと話していたがそこに電話がかかり、家で用ができたので行けなくなったと言い出す。

しかし、正二の用とは、お好み焼き屋で千代と二人で会うことだった。

千代は、奥さんなんてつまんない。あんたが黙っていて、私が黙っていたら、分かりっこないじゃないと迫り、何となく二人はキスをしてしまう。

その時、店の女がお呼びですか?と部屋に来たので、二人はあわてて身体を話すが、女を遠ざけた後、千代はあんたが呼び鈴をふんだんじゃないと怒る。

その日は、正二は千代と一緒に旅館に泊まってしまう。

千代は、今日、休めないの?ねえ、後悔している?と話しかけて来るが、正二の方は、早く出社しようとしていた。

それでも、千代は、私、自分が分からなくなった。今まで、あなたの奥さんのこと、何とも思っていなかったけど、今じゃ、憎らしくなった。焼いてんのかな?私、とってもあなたを好きになっちまったと打ち明ける。

昌子の所に寄っていた母親のしげは、杉山さん、時々帰らないことあるのかい?と聞き、麻雀で遅くなることはあっても、帰って来なかったのは夕べだけと昌子は答えていた。

そこに正二が帰って来る。

しげは、今日は川崎(競輪)から来たと正二に告げる。

正二は、三浦の所へ陣中見舞いに行ったら、母親に泣かれて帰れなくなり、木村の家に泊まったと昌子に話す。

それで、麻雀行ったの?と昌子は皮肉を言う。

正二は銭湯へ出かけ、しげは、ごはんだよと言う。

野村は、昼食時、喫茶店でホットドッグをチャコこと本田久子 (山本和子)と食べながら、金魚が正二と二人で歩いていておかしかったと言う話を聞いていた。

話を聞いた野村も、最近、金魚と正二は、一緒の電車に乗らなくなったと不思議がる。

隣のたま子が昌子の所にやって来て、内野も若い頃、たまきと言う玉突きの女をアパートに住まわせていた。うちのもたまには遅く帰ってくれば良いのになどと雑談していた。

今日は?と聞かれた昌子は、兵隊の集まりだって言ってたと答える。

かつての戦友たちと会っていた正二は「ツーレロ節」など唄って盛り上がっていた。

中国では、良く犬を殺してすき焼きを食った。三浦は、犬を捕まえるのがうまかったなとか、戦死した奴の千人針の中から面白い絵が出て来たなどどと、戦時中を懐かしむ戦友たち。

最後は、俺たち、死なないで帰って来て良かったなと言う話になる。

その夜、昌子が布団を敷いて待っていると、深夜、正二が泥酔した戦友の平山(三井弘次)と岡崎(永井達郎)を連れて帰って来る。

昌子は正二に、本当だったのね、兵隊の会と皮肉を言うと、正二は、嘘だと思っていたのか?と憮然とした表情になる。

さらに、二階に上げ、寝かせようとした正二に、酔った平山が、もっと飲みたいなと言い出す。

昌子はすっかり怒り、何よ、酔っぱらいを連れて来て!馬鹿にしてるわと正二に当たる。

そこに岡崎が降りて来て、酒屋に行くと言うが、昌子は不機嫌そうに、もう深夜の1時過ぎですと突っぱねる。

岡崎は、自分は品川で鋳物工場をやっていると昌子に話し始めるが、正二は、そんな岡崎を二階に上げ、もう寝ろと命じる。

昌子は、明日はどうするの?坊やの命日よと正二に当たるが、正二は、行くに決まっているだろうとむっとする。

二階に上がった正二を、平山たちは、こうして戦争時代みたいに一緒に寝るのも久しぶりだ。良いもんだな、戦友って…と絡み付いて来る。

下では、昌子が怒ったまま布団に入る。

朝、目覚めた平山は、鶴見に行くのに、蒲田で降ろされたとぼやき、正二に、お前良いよなサラリーマンでと言い、岡崎の方も、人間やっぱり、学問がないといけねえなと言い出す。

しかし、正二は、サラリーマンなんて、昔、一銭五厘で集められた兵隊みたいなものだと言い返す。

その頃、先に家を出て墓参りに出た昌子は、近所の田中に挨拶して行く。

田中が家の中に入ると、鏡台の前に座った妻の則子が、化粧の乗りが悪い。妊娠したかも知れないと言い出したので、田中はあわてて、そんな訳ないんだけどなあ?気のせいじゃないのかとうろたえる。

しげのおでん屋では、常連のツーさん(菅原通済)が、自分が教えた競馬の情報で負けさせたことを謝っていた。

そこに昌子が入って来て、夕べ泊まった戦友二人が下品だと言い出し、あんなだから日本は負けたのよとしげに告げ口し、この前も正二のハンカチに口紅が付いていたのよと愚痴る。

おでん持っていくかい?としげが聞いても、持っていかないわよ!と昌子がすごい剣幕なので、ずいぶんおへそを曲げちゃったんだねとしげは呆れる。

その頃、通勤仲間たちは田辺のアパートの部屋に集まり、チャコに聞くまで分からなかった。ここは一つ、査問会をやろうと言うことになる。

野村は、さっそく正二に電話をかけ、うどんの会をやるので来るように依頼する。

その直後、正二は荒川総務部長(中村伸郎)に呼ばれる。

用件は、三石に言ってもらいたいと言う転勤の話だった。

長くて2~3年だろうと言う。

自分の机に戻って来た正二は考え込んでしまう。

その頃、田辺は、うどんの会用の皿を近くの部屋から借り受けていた。

しかし、正二は来ないと言うことが分かる。

一方、金魚こと千代の方は何も知らずにやって来た。

うどんを食べ始めた千代に、男たちは、正二とのことを色々言い出し、相手には奥さんがいるのだから反省が大切だと責める。

一人責められる立場になった千代は、あんたたち色眼鏡で観てる。とっても迷惑よ。小姑みたいに。卑怯よ!と言い返すと、怒って帰ってしまう。

残った男たちは、自分たちがしたことを恥じしゅんとしてしまう。

野村だけが、あの二人、どっちが先にモーションかけたんやろか?と漏らし、スギ、うまいことやったな…と、最後はうらやましがる始末。

それを聞いていた仲間は、ヒューマニズムって窮屈なものだ。うらやましがってはいけないと諭す。

その頃、正二は、自宅療養中の三浦勇三(増田順二)を見舞っていた。

三浦は、もう休暇を取って100日を超えた。この間は木村が来てくれた。君も来てくれるはずだって言ってたと布団に寝たまま言う。

寝ていると、サラリーマン時代の生活を思い出す。塩川さんのことを思い出すと三浦が言うので、今年定年だと正二は教える。

秋田県の中学の修学旅行で初めて観た丸ビルは、外国みたいだった…と三浦は遠い昔を懐かしむように語る。

そこへ、銭湯から三浦の母親さと(長岡輝子)が戻って来て、この子には嫁さんもらって欲しいと語り出すので、三浦はうるさがる。

正二が帰ろうとすると、今日は本当に気持ちが良いので、もう少しいてくれと三浦は止める。

その頃、昌子は夕食の用意をして待っていたが、そこに正二が戻って来たので、良く泊まって来なかったわねと、又嫌味をぶつけ、さっき、金魚さん来たわよ。会いたそうだったわよ、あなたにと教える。

正二は、今日、姫路の先の岡山県に転勤の話があった。大変な山の中だぜと教える。

そんな正二に、あんた、行きたくないの?と問いかける昌子は、良いことあるんじゃない、こっちに…と意味ありげに続ける。

ちょうどそこに、又、金魚こと千代がやって来て、ちょっと出られない?と正二に言う。

外に出た正二に、奥さんのみになって考えろって言うの?と言いながら、千代が抱きついて来る。

正二は、もうお休み…と千代を帰そうとするが、千代は、嫌!もう少し一緒に歩いてよと甘える。

しかし、正二はさっさと一人で帰ってしまう。

家では、昌子が電気を消して先に寝ていた。

正二が電気をつけると、自分の分の布団は敷いてなかったことが分かる。

二階に上がろうとすると、昌子が上がって来て話があるので座ってよと言う。

正二が言われた通りに座ると、あんた、この頃、私に色んなこと隠すわね。金魚さんとはどう言う関係?ワイシャツどうしたの?この前も、ハンカチに紅が付いていたわ。馬鹿にしないで!そんなの嫌いなの!坊やのことなどすっかり忘れてる…と思いの丈を吐き出した昌子は、下に降り、ちょっと泣いて、就寝するのだった。

翌朝、二階で起きた正二が目覚め、下に降りると、もう昌子の姿はなかった。

隣のたま子が、奥さん、五反田の家に早く行かれましたよと声をかけて来て、預かった家の鍵を正二に渡す。

出社した正二は、三浦が死んだと同僚から教えられる。

睡眠剤を飲んでいたので、タンが切れなかったそうだと言う。

他の同僚からも呼ばれ、総務部長から転勤の話があったんだってなと聞かれ、それにしても、32か3で死んじゃったらつまらないよなと、三浦の話になる。

三浦の通夜に出かけた正二は、三浦の母のさとから、三浦の姉の亭主を紹介され、三浦の兄もマニラで戦死したので、これで、男は一人もいなくなったと聞かされる。

河合も来ており、あいつも、会社の嫌な面を知らずに死んだのも幸せかも知れんよと言うので、正二は、あいつは飽きませんよ。独身だっただけに幸せだったかも知れないと答える。

その頃、昌子は、富永栄のアパートに来ていた。

栄は、男のように、会社帰りのビールを飲み干すと、お宅の旦那、転勤はどうしたと聞いて来る。

東京は離れないはずよと昌子が言うと、亭主は夜が遅くなったら警戒警報よ。歴史は夜作られると栄は忠告する。

ここに電話があったのよ。すぐ切っちゃったと昌子が教えると、栄は偉い偉い。うんと懲らしめなくちゃ駄目よとけしかけるのだった。

翌日、ノン公が荷造り中だった正二の家に来たので、正二は月曜日に出ると教える。

奥さんとは?とノンちゃんが聞くので、ちょっとけんかしたんだと正二は答える。

赤ん坊できた時、どう思った?とノンちゃんが聞くので、別にうれしくなかったな。赤ん坊一人くらい、どうにでもなると思っていたけど、可愛い盛りに、疫痢であっという間に死なれたと正二は続ける。

じゃあ、生ましちゃおうかとノンちゃんが言っている所に、千代がふらりとやって来たので、雷魚が送別会するって言ってたぞと伝えて、ノンちゃんは帰って行く。

千代は正二に、あんた、転勤するんだって?黙って行くつもりだったの?私から逃げるつもりだったのねと言い出したので、正二は、あって謝りたいと思ったと答える。

なぜ黙って逃げるの?私が嫌なら嫌で良いのよ。どうしてはっきり言ってくれないの?ごまかしたって駄目よ!と言いながら、正二の頬を殴ると、何さ!と言い捨てて帰って行く。

その後、正二は、五反田の昌子のおでん屋に昌子を迎えに来て、明後日の晩、発つことになりましたと報告する。

しげは、昌子の弟の幸一(田浦正巳)を呼んで、目白の富永栄のアパートへ姉を呼びに行かそうとするが、正二は自分で行くと言い、店を出て行く。

その様子を観ていた幸一は、のこのこ迎えにいくから、姉ちゃん、調子に乗るんだよと大人びたことを言う。

しげはうちのなんか、私がここへ嫁に来た日に吉原行ったよ。女に三界に家なしだからね…と古いことを言い出す。

そこに、昌子が浴衣を取りに戻って来たので、しげは、蒲田へお帰り、焼きもちもいい加減におしよ!取り返しのつかないことになるよと叱りつける。

正二はその後、河合の店で飲んでいた。

すると、転勤の話と気づいた隣で飲んでいた中年男が急に名刺を出しながら、正二に話しかけて来る。

服部東吉(東野英治郎)と言うその男も、来年で定年だそうだ。

31年、会社に勤めたと言う。

退職後は、小学校の側で文房具屋でもやるつもりだったが、サラリーマンなんて、退職金を前に寂しがるだけ。この前、商工会で大磯に行ったら、池田のお屋敷前でバスが故障したので、三井財閥の大重商工大臣の元屋敷の中をのぞいてみたら、イカダカヅラと言う南方植物が咲いていた。哀れなもんだ。はかないもんだ…と話しを続ける。

私も、息子だけはサラリーマンにしたくなかったが、毎日背広を着て鞄を持って通っている。蛙の子は蛙ですわ…と服部と言う男は哀しげに話を終える。

河合と服部と正二は、その場で乾杯をする。

その後、田辺のアパートに集まった通勤仲間たちも、正二の送別会で、蛍の光を唄ってくれていた。

そこに、千代もやって来て、何事もなかったかのように、正二に握手を求めて来る。

そして、千代も交えた全員で、又、蛍の光を合掌するのだった。

翌日、正二は小野寺と会って、自分が間違いを起こしたことを告白していた。

それを聞いた小野寺は、奥さんだけが頼りだ。いざとなると、会社なんて冷たいしなと答える。

その時、二人が座っていた橋の下の川を、学生たちが漕ぐボートが通って行く。

あの時分が人生の春だね。なるべく早く、奥さんに来てもらうんだね。仲人にあんまり心配させるなよと小野寺は笑う。

その後、正二は、山の中に煙突が立ち並ぶ三石支社の事務所で働いていた。

下宿先に帰って来た正二は、部屋の中に見覚えのある鞄が置いてあることに気づく。

いつ来たんだと聞くと、姿を現した昌子が、お昼ちょいと前よと答える。

手紙を見たかと正二が聞くと、見た、小野寺さんからもらったと昌子は答え、間違いは、小さな頃に修復しろって書いてあったと言う。

こんな小さな町で2、3年は辛いけど、お互い期が替わって良いかも知れないと言う昌子に、正二は本当にすまなかったと詫びる。

もう言わないでと言葉を遮った昌子は、人の噂によると、会社から帰って来ると、ずっと本を読んでいるんだって?私、それ聞いてうれしかったと昌子は言う。

もう一辺、始めからやり直しだ!と正二が言うと、しっかりねと昌子も励ます。

窓の外から、走り去って行く列車が見えたので、あれに乗ると、明日朝には東京に着くんだな…と正二はつぶやくが、2、3年なんてすぐよ、すぐ経っちゃうわよと昌子が教える。

煙突の向こうを、列車が通り過ぎて行く。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

池部良を迎えて送る、小津作品としては良くある「夫婦間の心理的危機」と「その回避」を描くエピソード

岸惠子が浮気相手を演じているが、劇中で言っているようにズベ公には見えず、むしろ一途で可憐な娘に見える。

池部良もいつものように淡々としている。

淡島千景が、終止気が強く不機嫌な妻を演じており、それを緩和するように、その母親役の浦辺粂子や友人の中北千枝子が、現実派でさばさばしたキャラクターになっている。

この夫婦間のエピソードと同時に、転職した同僚と病気で会社を長期休暇している同僚を絡ませることで、サラリーマンの悲哀と言うテーマも描かれている。

この頃の若者たちの数少ないレジャーとして、ハイキングが出て来る所なども興味深い。