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秋刀魚の味('62)

1962年、松竹大船、野田高梧脚本、小津安二郎脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

会社の重役室でハンコを押している平山周平(笠智衆)は、入って来た佐々木洋子(浅茅しのぶ)に、常務への書類を託すと、ここ2、3日来ない女性社員の田口がどうしたのかと聞く。

洋子は、近々結婚するようだと答えたので、いくつだと平山は聞き、23、4じゃないでしょうかと言う答えを聞くと、答えた女性社員も父親と二人暮らしだと知っていたので、いずれはお婿さんだねと声をかける。

そこに、中学以来の級友である河合秀三(中村伸郎)が、横浜まで来たと言いながら訪ねて来る。

河合は、路子ちゃん、いくつになったと聞いて来たので、平山が24だと答えると、医大の助手をやっている男と見合いさせてみないかと勧めて来る。

平山の方は、堀江から、今夜「若松」で同窓会をやろうと言って来たので、その相談をするので一緒に行こうと誘うが、河合は、横浜球場に「大洋、阪神戦」のダブルヘッダーを観に行くからダメだと断る。

しかし、何度も口説き落として、結局、そのナイター中継をやっているテレビのある「若松」に河合を連れて来た平山は、同じく中学以来の級友、堀江晋(北龍二)と落ち合う。

堀江は、電車で菅井に会ったと切り出し、漢文のひょうたんを呼ぼうと提案するが、あいつが来るなら自分はクラス会に出ないと河合は嫌な顔をする。

そこに女将(高橋とよ)が挨拶に来る。

河合は、最近、若い女房と再婚した堀江は、どこに行くのも細君と一緒だとからかい、平山も、飲んでいるのか?あの方と、真顔で堀江に聞く。

河合は、女将にも飲んでいるの?と聞いたので、女将は呆れる。

堀江は、良いもんだぞ、若いのも。結構、うまくいくもんだと、にやけた顔で言う。

若い細君は、娘と3つしか違わないと言う堀江は、やはり、妻に先立たれた平山にも、第三の人生どうだと勧める。

そこに、その若い細君(環三千世)がやって来る。

堀江は、ビタミン剤を買って来てくれたかと細君に聞く。

河合たちは同席を勧めるが、細君が帰りたそうな雰囲気だったので、堀江も、飯は家で食う、クラス会の話は任せた。批評は後で聞くなどと捨て台詞を残し、さっさと細君を連れ帰ってしまう。

せっかく、ナイター観戦を棒に振ってまでやって来た河合は、ああなるか…、ああはなりたくないね。嫌だ、嫌だと呆れる。

帰宅した平山を迎えたのは、娘の路子(岩下志麻)だった。

路子から、兄さんに会わなかった?今帰った所だと知らされる。

そこに弟の和夫(三上真一郎)がやって来て、兄が土産としておいて行ったドーナツの残りを食べる。

お手伝いの富沢さんは、兄さんのお嫁さんが亡くなったので来ないと聞いた平山は、又新しい人を探さなければと答える。

路子は、これから、遅くなる時は電話してよと平山と和夫に念を押す。

平山は、幸一は何しに来たのかな?と首を傾げる。

帰宅した幸一(佐田啓二)は、迎えた妻の秋子(岡田茉莉子)に、父の所に行って来たと伝える。

秋子は、三階の共和生命の山岡さん、赤ちゃんが生まれたので退院してきたが、赤ちゃんに幸一って名付けるらしいと伝え、幸一って、あなた一人でたくさんと言い出す。

ブドウを買っているので食べる?と聞かれた幸一だったが、床を敷いてくれと頼むと、私は食べるから、自分で敷いてよと秋子は答え、冷蔵庫は一時払いの方が得らしいわよなどと話しながら、ダイニングで一人ブドウを食べ始める。

ある日、大和商事の河合の部屋に入って来たのは、この会社で働いている路子だった。

河合は路子に、縁談の話を聞いたか?と聞くが、路子は初耳らしかったので、お嫁に行く気はないかと改めて聞いてみると、路子は、私がお嫁に行くと、うちが困りますと答える。

河合はそんな路子に、お父さんは、今日のクラス会に来ると言っていたかね?と聞くと、はいと答える。

料亭に集まった同級生たちの前で、招待された「ひょうたん」こと佐久間清太郎(東野英治郎)は、良く飲み、良く食べていた。

当時の先生たちの近況を尋ねると、数学の「ライオン」こと宮本先生は亡くなった。歴史の「天皇」こと塚本先生は鳥取県にいる。物理の「たぬき」こと天野先生は、息子さんが参議院議員になり今では楽隠居とひょうたんは教える。

自分は、妻に先立たれ、今では娘一人と暮らしているのだと言う。

ひょうたんから、昔副級長だったねと言われた堀江は、今でもこいつは副級長で、細君が級長ですと、河合からからかわれる。

ひょうたんは、食べていた椀ものに舌鼓を打ち、これは何ですかと聞くので、ハモだと教えると、これが魚へんに豊と書くハモですかと感心する。

中学出て40年、皆さん立派におなりになり、今日は、こんなに歓待していただきありがとうございましたと挨拶をしたひょうたんは帰ろうとする。

飲み残しのダルマを土産に持たせ、平山と河合が家まで送って行くことにする。

残った生徒たちは、ひょうたん、ハモ食ったことなかったらしい、字は知っていたけどなどと噂し合うが、そんな中、菅井(菅原通済)は、しなびたひょうたんか…、でも、良い功徳だったよとつぶやく。

ひょうたんの家は「燕来軒」と言う場末のラーメン屋だった。

出て来た娘の伴子(杉村春子)は、送って来た平山と河合に礼を言うが、あの高級なウィスキーは?と酔ってなお意地汚いことを言う父親の姿に呆れ、平山たちが帰ると、腰掛けに座ると、酔いつぶれた父親の姿を観ながらむせび泣き始める。

「若松」で飲み直すことにした平山と河合だったが、まさか、ひょうたんがラーメン屋をやっていたとは堀江も知らなかっただろうと話し、娘もぎすぎすして変だったと噂し合う。

女将が挨拶に来て、堀江さんは?と聞くので、死んだ。夕べお通夜と河合が答え、平山も、明日が告別式と真顔で言うので、女将は、本当ですか?と半分信じかける。

血圧が高かったなどと、まだ河合たち悪ふざけを言い合っていると、そこに当の堀江がやって来たので、女将はからかわれていたことに気づく。

堀江の顔を観た平山は、良かったよ、達者で…と真顔で出迎える。

ひょうたんに、何か送ろうと言うことになり、大体皆賛成したと報告に来た堀江に、2000円づつ集めろ、そうすると大体2万円になると河合が提案し、店が家に近い平山に、持っていってやれと頼む。

後日、「燕来軒」にやって来た平山は、伴子に挨拶をし、ひょうたんを呼んでもらう。

ラーメン屋の親父として出て来たひょうたんに、平山は、記念品でもと思ったんですが…と言いながら、紙包みを手渡そうとするが、ひょうたんは固辞する。

そこに客が入って来たので、ひょうたんはカウンターの方に入り、平山は、箸置きの下に紙包みを置くと帰りかける。

そのとき、今来てカウンターに腰掛けていた客が「艦長!」と呼びかけて来る。

どなたですか?と平山は戸惑うが、駆逐艦「あさかぜ」に乗っていた坂本芳太郎(加東大介)だと名乗るではないか。

今は、近所で自動車修理工場をやっていると言い、今注文したばかりのチャーシューメンは止めて、どこかで飲みましょうと平山を誘う。

ここのはあまり旨くないからなどと言いながら、平山を連れて坂本が店を出ると、それを送り出したひょうたんは、脱力したように、がっくり椅子に腰を降ろすのだった。

バー「泉」に平山を連れて来た坂本は、どうして日本は負けたんですかね?自分は戦後ずいぶん苦労して、娘を二人片付けましたなどと語りながら酒を飲み始める。

平山も、先輩のお陰で今の会社に入れたけど、自分も苦労はあったと答える。

坂本は、戦争に勝っていたら、今頃、ニューヨークで、青い目をした連中が、まげを結ってチューインガム噛みながら三味線弾いてましたよなどと空想話を繰り広げる。

そこに、銭湯から帰って来たマダム(岸田今日子)が、かけましょうか?と坂本に聞く。

坂本が頼み、店内には、坂本が好きらしい「軍艦マーチ」が鳴り響く。

坂本は上機嫌になり、敬礼をしながら、一人で床を行進し始める。

それに付き合うように、平山もマダムも敬礼を返す。

上機嫌で帰宅した平山は、路子から、兄さんが来ていると教えられる。

幸一と路子を前に座った平山は、28、9のバーの女が、ちょっと若い頃の母さんに似ているんだと話し始める。

それを興味深そうに聞いていた幸一と和夫は、母さんはいつも着物を着ていたなどと思い出し、その店に一緒に行ってみようかななどと言い出すが、路子だけは行きたくないと言う。

平山は、幸一の話を聞くために、洗面所の方へ誘う。

幸一は、5万ばかり金がいる。冷蔵庫を買うんだと言うので、平山は、今すぐにはないので、2、3日内に路子に持たせると約束する。

後日、アパートの隣の家で、買ったばかりの掃除機を見ながら、トマトを二つ借りていた秋子は、ちょうど帰って来た幸一と廊下で出会い、一緒に部屋に入る。

幸一は、どこかからか持って来たゴルフクラブを開けてみながら、路子は金を持って来たかと聞く。

秋子は、そのクラブは何?と聞き、友達が新しいのを買ったので譲ると言うんだが、これ、掘り出し物なんだと悦に入る幸一の態度に腹を立て、勝手にお小遣い使っている。返して来て!大体、あんた程度のサラリーマンが、ゴルフするなんて…、止しちゃえ、止しちゃえ!とまくしたてる。

翌日、ゴルフ練習場でクラブを振っていた幸一は、マクレガー良いですよねと話しかけて来た後輩社員の三浦豊(吉田輝雄)に、ま、止めとくよ。女房に、後で祟られるからと答える。

日曜日、アパートで秋子は、時計のねじを巻いてくれと頼んでも返事をしないでふて寝していた幸一に、早く何でも好きなものを買えるような身分になれば良いじゃないと呆れる。

渋々、時計のねじを幸一が巻き始めた所にやって来たのが路子で、父親から預かって来た金を取り出す。

それを幸一が受け取ろうとすると、横からさっと秋子が奪い取り、不機嫌な兄の様子を不思議がる秋子に、この人、欲しいものがあったのよ。それで、お父さんから余計に拝借してねと説明してやる。

そこに、今度は、三浦がやって来て、友達に話したら、ぜひにって言うんですよと応対した幸一に迫る。

月賦で良い。毎月2000円で10ヶ月…と粘る三浦の話を聞いていた秋子は、何を思ったか、その場で2000円差し出したので、見ていた路子は、良かったわね、兄さんと声をかける。

三浦が帰った後、路子も友達の所へ行くと言い出し、幸一夫婦の部屋を後にする。

二人きりになると、秋子は急に、私も白い側のハンドバッグ買っちゃうから、割と高いのよと言い出し、幸一は面食らうのだった。

石川台の駅で、路子は三浦と一緒になる。

ある日、会社の平山の部屋に、結婚退社する田口房子(牧紀子)が挨拶に来る。

年を聞き、路子と同じ24と知った平山だったが、そこに、別の女子社員が名刺を持って来客を告げに来る。

平山は、帰ろうとする房子に、もう一度後で寄るように伝えると、客を部屋に通してもらう。

客は、ひょうたんだった。

先日、箸置きの下にあった紙袋の金を見つけたので、今日はその礼をしに、生徒たちを回って、ここが最後だと言う。

退社時間間近だった平山は、それではこれから一緒に飲みましょうと誘い、房子に渡す金を封筒に入れる。

「若松」には河合も呼び、ひょうたんと3人で飲んでいたが、ひょうたんはすぐに酔ってしまう。

ひょうたんは、あなたたちは幸せじゃ。わしは寂しいよ。人生は一人です。一人ぽっちです。私は失敗しました。つい便利に使うてしまって…、家内がおらんので…、私は失敗しましたと愚痴ると、その場に寝てしまう。

その哀れな様子を見た河合は、お前も気をつけないとこうなるぞ。路子ちゃんが、ひょうたんの娘みたいになったら困るからなと、平山にしみじみ話しかける。

帰宅した平山は、路子を呼び寄せると、お前、お嫁に行かないか?本気なんだよと話してみる。

突然の話に面食らう路子だったが、私が行ったら、困りゃしない?と問いかけると、平山は、ついお前を便利に使って…と言う。

しかし路子は、まだまだお嫁に行けないのよ。お父さんや和ちゃんはどうするの?私は今のままが良いの。考えたのなら、もうそんな勝手なこと、言わないで頂戴と答えるだけだった。

そこに、和夫が帰って来て、飯を食うと言い出すが、路子は返事をしないで部屋を出て行く。

平山は和夫に、姉さん、好きな人でもあるのか?と聞くと、あるだろう。俺もあるもの。清水とみ子って言うんだ。バスの車掌で、小さいんだ。太っているんだ。可愛いんだと調子に乗り出したので、お前、台所で食って来い。自分のことは自分でするんだと平山は叱る。

会社からアパートへ帰って来た秋子は、先に帰宅していた幸一がハムタマ(エッグ)を作っているので、自分もハンバーグを買って来たと教える。

秋子はさらに、今日路子ちゃんが会社に来て、お父さんがお嫁に行けって言われたんだってと教える。

このごろ毎晩のように言われるらしく、私が、お嫁に行きたくないのって聞くと、そうでもなさそうなの。何となく分かるわ、路子ちゃんの気持ち…と秋子は続ける。

そこに、当の平山が訪ねて来て、幸一に話があるのでちょっと一緒に出ないかと誘う。

部屋の隅に幸一を呼んだ秋子は、きっと路子ちゃんのことよと耳打ちする。

平山にバー「泉」に連れて来られた幸一は、チャーハンを食べながら、マダムの様子をちら見し、マダムが隣の部屋に出て行くと、似てるかな?似てませんよと平山に耳打ちする。

平山は、そう似てもいなかったかなどと惚けながら、路子に岡崎の旧家の男を見合いさせたいんだが、あれは三浦って男を好きらしいんだと用件を話し出す。

それを聞いた幸一は、三浦だったら訳ないんだがな、あの男なら良いですよと答え、早速話を聞いてみると約束する。

隣から出て来たマダムが、この間のあれ、かけましょうか?と聞いて来るが、平山は、もう良いよと断る。

あいつがいなくなったら寂しくなりますねと幸一がつぶやくと、もう、やらないとねと平山は答える。

翌日、トンカツ屋に三浦を誘った幸一は、結婚する気はないかと水を向けてみるが、弱っちゃったな、実はあるんですよ、いるんですよ、あなたも知っている庶務課の井上美代子…と、三浦はすでに付き合っている相手がいると言うではないか。

内心がっかりした幸一だったが、相手の名を聞かれたので、路子だと言うと三浦は残念がる。

前にあなたに聞いたら駄目だって言ったじゃないですか!惜しいことしたなと三浦も悔しそうだったので、幸一は、うまくいかないもんだなとため息をつき、その夜、平山にそのことを報告に来る。

平山も落胆し、お前の口から言ってやってくれと頼むが、幸一は、お父さんの口から言ってやって下さいと食い下がる。

そこに、路子がやって来たので、平山は三浦の話をし、お父さんがうっかりしていて悪かったと謝る。

しかし、聞いていた路子は、そんなら良いの。後で後悔したくなかったのと答えたので、幸一は、お父さんの話の人に一度会ってみないかと勧める。

路子は、ええ、お任せしますと返事をして部屋を後にする。

平山は、これで良かった。泣かれでもしたら困ったことになったと安堵の表情を浮かべていたが、そこにやって来た和夫が、姉さん、どうしたの?泣いていたよと教える。

二階に上がった平山は、机の前に座っていた路子に、どうしたんだ?お父さんの話、無理に進めているんじゃないんだよ。嫌だったら、断っても良いんだと優しく語りかけ、路子もええと答えたので、下でお茶でも飲まないかと平山は誘う。

平山が先に下に降りた後、残った路子はじっと考え込んでいた。

ある日、平山は河合の自宅を訪れる。

河合の妻ののぶ子(三宅邦子)が出迎え、縁側では河合と堀江が碁をやっていた。

それに合流した平山は、あの話、本人同士会わせたいんだが…と河合に話しかけるが、待った!をかけてもらっては困る。俺の方が先に、24になる助手の妹を見合いさせたんだから、俺の返事を先にしてくれと堀江が言い出す。

驚いた平山に、決まりそうなんだ。両方とも、バカに気に入ったらしいんだと、堀江はうれしそうに話し、河合も、お前、遅かったよ、悪いけど…とすまなそうに言うので、平山は落胆しかけるが、奥で肴の準備をしていたのぶ子が、噓なんですよ、担ごうって、相談していたんですよと声をかけて来る。

お前もこの前、俺を殺したじゃないかと堀江が言うので、ようやく騙されたと悟った平山は安堵し、噓で良かったと漏らす。

見合いさせれば、そんな時は、お互い気に入るもんだ。俺の時もそうだったと堀江が訳知り顔で言い、その言葉通り、すんなり話が決まった路子の結婚式当日となる。

学生服姿の和夫が、外に停まっている二台の車以外に、もう一台小型車を電話で呼び、モーニング姿の幸一は平山に、誰か見つかるまで、秋子を寄越すよと伝えていた。

そんな幸一に平山は、お前の方はまだかい?赤ん坊だよ。できないようにしているのかいと問いかけ、ええと答えた幸一は、ぼくが生まれたのはお父さんがいくつの時でしたと聞き、26だったとの平山の返事を聞く。

そこへ、二階にいた手伝いの女性が仕度ができたと告げに来たので、平山は二階に上り、花嫁衣装が完成した路子を見る。

路子は三つ指をつき、「お父さん点」と挨拶をし始めたので、平山は「ああ、分かっている。しっかりおやり。幸せにな」と言葉をかけてやる。

平山に促され、秋子と共に路子は出かけ、二階の鏡台の前には誰もいなくなる。

式の後、河合の家に来て飲み直していた平山に、今度はお前の番だなと堀江が言うと、俺は最近、お前が不潔に見えると平山が言い出す。

のぶ子が、幸一さんの所へ行くんでしょう?と聞くと、和夫がいますから、しばらくこのままと答えた平山は、奥さん、やっぱり子供は男ですな。女はつまらんとこぼす。

年寄りだけが残るのか…と河合が言うと、俺だって嫁にやったよと堀江が話に加わって来る。

育てがいがないもんだと平山がぼやくと、ひょうたんも言ってたじゃないか、結局、人生は一人ですって…と河合が言う。

酔った平山は、一人で駅まで帰ると言い出し、河合家を後にする。

その様子を見送った堀江がどうしたんだろう?と不思議がると、河合が、一人になりたかったんだよ。寂しいんだよ。せっかく育てた奴をやっちまうんだからな。あっけないもんだよと訳知り顔で解説する。

バー「泉」に立ち寄ったモーニング姿の平山を観たマダムは、今日はどちらのお帰り?お葬式?と聞いて来たので、まあ、そんなもんだよと答える平山。

あれ、かけましょうか?とマダムが聞いて来たので、平山は頼む。

「軍艦マーチ」が響き出すと、カウンターに座っていた客たち(須賀不二男)が、大本営発表の物まねを始める。

自宅では、幸一、秋子、和夫たちが、帰りの遅い父親を待ちわびていた。

そこに酔った平山が帰って来る。

秋子は平山に、路子ちゃんはしっかりしてますもの、大丈夫ですわと声をかけ、幸一と共に帰って行く。

和夫は、おい、お父さん、あんまり飲むなよ。身体大切にしてくれよと殊勝な言葉をかけて来る。

座った平山は、まもるもせめるもくろがねの~♬と軍艦マーチを口ずさみ始めたので、和夫は呆れて、もう寝ろよ。明日も早いんだから。先に寝るぞと声をかけ、布団に入るが、平山はなかなか寝ようとしなかった。

明日、俺が飯を炊いてやるからと和夫は父親に話しかける。

ああ、ひとりぽっちか…と平山はつぶやく。

二階の鏡台の周りにはもう誰もいなかった。

急に泣き出した平山は、台所で、一人水を飲み、力なく椅子に腰を降ろすのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

昭和37年度芸術祭参加作品で、小津監督の遺作でもある。

妻に先立たれ、娘に頼り切って一緒に暮らしていた中年男が、自分を想い、なかなか結婚したがらない娘が婚期を逸しつつあると気づき、何とか説得して送り出すまでを描いたストーリー展開そのものは、過去に何度か描かれて来たものの焼き直しである。

その娘役を今回演ずるのは岩下志麻。

この当時の岩下志麻は本当に美しいと同時に気も強そうで、この役にぴったりである。

バーのマダムとして登場する岸田今日子も初々しい。

吉田輝雄の登場は、その新東宝時代の作品を知っているとちょっと意外感があるが、それでもそれなりに小津作品のキャラクターとして収まっているから不思議である。

兄嫁を演じている岡田茉莉子の可愛らしさもまだ健在で、夫を操縦する茶目っ気ぶりなどは絶品。

中年男たちのなれ合い会話、彼らにからかわれる飲み屋の女将高橋とよも、お馴染みのネタの繰り返しであり、笠智衆の父親の哀感など、何度観たか分からないほど定番なのだが、なぜか、何度観ても飽きない小津ワールドと言うしかない。

そこに描かれているのが、今やどこかしら懐かしさを感じる、古き良き時代の日本人とその家族像だからかも知れない。

秋子が、隣から「トマト」を借りるなどと言う風習も、今となっては珍しくなった。

昔は、砂糖や醤油などを、隣近所に借りに行ったものだ。

今回の見所は、落ちぶれた元教師を演じている東野英治郎の哀れさ。

かつての生徒たちからのおごり酒や食事に、浅ましいほどに食らいついて来るその遠慮のなさ、貧乏くささ、プライドの喪失が、滑稽さを超えて胸に突き刺さって来る。

全体的に新鮮さはないが、ユーモアも多く、安定感がある作品になっている。