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三本指の男

1947年、東横映画、横溝正史原作、比佐芳武脚本、松田定次監督作品。

※この作品はミステリであり、後半に謎解きがありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

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石壁風背景に三角マークの東映ロゴ

琴の音と共にキャストロール

最後の「三本指の男」には「?」マークが出る。

明るいメロディーに乗り、列車が走る。

眼帯をかけた男が乗っている。

別の窓際には、本を読む男(片岡千恵蔵)と、眼鏡をかけた美女白木静子(原節子)が向かい合って座っていた。

トンネルが近づいたので、窓を閉めようと、二人がほぼ同時に立ち上がり、窓枠に手をかけたので、二人の手は自然に触れ合うことになり、静子は羞恥心から思わず手を離したしまう。

その直後、トンネルの中に汽車が入って社内が真っ暗になるが、静子は悲鳴を上げる。

トンネルを過ぎ、車内が明るくなった時、立ちすくんでいた静子は、何かが首筋に触ったと不気味そうに辺りを見回す。

すると、向かいに座っていた男が、笑いながら静子の足下を指差す。

そこには、ヤドカリが一匹うごめいており、それを拾い上げた金田一は、にやにやしながら自分の荷物の中にしまい込むのだった。

静子は、汽車を降り、バスに乗って目的地に向かっていたが、汽車で一緒だったあの男が乗っていたので警戒する。

やがて、目指す「久保果樹園」の前に来たので、バスを停めてもらった静子は、バスを降り果樹園に向かうが、何と、あの男まで一緒にバスを降り、自分と同じ方向を歩いて来るではないか。

さすがに恐怖心を覚えた静子は、小走りに久保家の温室前まで来ると、その場にいた女高時代の級友春子(風見章子)がうれしそうに出迎えてくれたのに対し、変な男に付けられているので追い払って欲しいと頼む。

しかし、春子と、玄関から出て来たお徳(松浦築枝)は、後ろからやって来た男を見ると、「耕助さん!良く来てくださったわね」とうれしそうに声をかけたので、静子は、その男も、春子の知り合いだったことに気づくのだった。

春子が静子に説明するには、金田一耕助と言う人物は、おじさんがアメリカに行った頃世話してやった人であり、今は探偵業をやっているのだと言う。

静子が部屋に入ると、久保家の庭の池にいた金田一耕助は、土産として持って来たヤドカリを池の中に入れながら、これがこちらのお嬢さんにいたずらしましてねと、愉快そうにお徳に教えたので、静子はちょっとむっとするのだった。

部屋に入って来た金田一は、春子のために用意された花嫁道具を観て感心する。

お徳は、何しろ、春子が結婚する相手は、昔、偉い人が旅の途中で休んだ本陣だった、由緒正しい家だから、こちらもそれなりに準備しないと金田一に説明するのだった。

静子も金田一も、春子の結婚式を祝うために呼ばれてやって来たのだった。

その頃、金田一を呼んだ久保銀造(三津田健)は、仲人の高津から、春子には、女高時代、田谷照造と言う男がいたのではないかと聞かれていた。

何でも今朝方、先方のご刀自の所にそう言うことを書いた手紙が届いたのだと言う。

銀造は、婚礼の直前になってそんな中傷があったことに驚き否定する。

その頃、春子の嫁ぎ先である一柳家でも、その手紙にことが話題になっていた。

一柳鈴子(八汐路恵子)が琴を弾いている中、伊兵衛おじさんが式に列席してくれるそうだと報告に帰って来た息子で頭首の賢蔵(小堀影男)に、ご隠居の一柳糸子(杉村春子)が、手紙の内容を教え、今回の婚礼は元々家風の上で無理があるねと告げていたのだった。

しかし、賢蔵は、そんな事実があったのなら春子は自分に教えるはずだし、家風の違いなど今の世の中にはそぐいませんよと、そんな皮肉を言うの派止めて下さいと反論する。

結局、式には、その場にいた賢造の従兄弟良介(上代勇吉)、明子夫婦、賢造の弟三郎(青山健吉)、鈴子らが出席することになるが、次男の隆二はこの結婚に反対なので来ないと糸子は告げる。

さらに糸子は、婚礼の席では一柳家のしきたりとして、花嫁には琴を弾いてもらわねばならぬが…と言い出したので、賢蔵は、春子はアメリカ帰りなのでピアノは弾けるかも知れないが、琴は無理でしょうし、そんなことをさせる必要はないでしょうと困惑する。

すると、賢蔵の妹鈴子(八汐路恵子)が、私が弾くと無邪気に言い出す。

久保果樹園に戻って来た銀造は、郵便配達人から手紙を渡される。

中を読むと、「裏切り者…」と中傷文が書かれてあったので握りつぶそうとしたとき、近くにいた金田一耕助がどうしましたと声をかけて来たので、仕方なく手紙を見せながら、今しがた、仲人の高津から聞いて来た話を聞かせる。

話を聞いた金田一は、僕に任せてくれと答える。

その日の夕食時、金田一は春子に、軽い世間話をするような調子で、田谷君帰って来たんだってね?と問いかける。

銀造は驚いたように金田一の顔を見るが、春子はぽかんとした表情で、田谷さんって?と聞き返す。

田谷照造君ですよと金田一が補足したのを横で聞いていた静子が、女高の近くにあった寄宿舎にいた医科大学生じゃない?一度あなたに手紙をくれたわねと助け舟を出すと、そう言えばそんなことがあったかしらと春子は答える。

それを聞いた金田一は銀造と目配せし、春子と田谷との関係など全くなかったのだと直感する。

しかし、春子は、静子が田谷が3年沖縄に行っており、最近復員して来たらしいと言う話を聞き、どうしてそんなに詳しいのか聞き返してた。

静子は、名古屋の駅前で偶然出会ったのだと教え、田谷はすっかり面変わりしており、顔には傷があり、左手の指が三本しかなかったと言う。

金田一が、田谷は春子の結婚のことを知っていたかと聞くと、そのことも話していたと静子は答えるのだった。

翌日、春子の嫁入り道具を積んだトラックが町中を一柳家の方に走って行き、それをまぶしそうに町民たちが見送っていた。

その時、一人の見慣れぬ復員兵姿の男が近づいて来て、水を一杯いただけませんかと頼んで来る。

一人の女房が水をコップに入れて持って来る間、復員兵姿の男は、一柳家に行くにはどう行けば良いのかと訪ねたので、自転車でその場に来ていた役場の岡村が、この道を5町ばかり言った所にある大きなお屋敷だと教える。

女房がコップに入れた水を持って来てやると、男はそれまでポケットに入れていた右手を出して受け取ると、水を飲み始めるが、その指が3本しかないので、それを目にした女房も岡村も驚く。

水の礼を言った復員服姿の男は、今夜一柳家では婚礼があるそうで?と聞くので、岡村が、何か用でもあるのかと問い返すと、男は何でもありませんと言い、その場を立ち去る。

この噂は、岡村の口から一柳三郎を経て賢蔵の耳にも届くが、賢蔵はどう言うことがあろうと自分たちの結婚はやる!と息巻くが、その会話を、廊下で糸子がじっと立ち聞きしていた。

その日の夕方、結婚式の準備をしていた一柳家の勝手口に現れた三本指の男は、応対した従兄弟の良介に、お当主さんに渡してくれと手紙を差し出す。

良介はそれを賢蔵に見せると、またもや中傷文だったので、賢蔵はその場で手紙を握りつぶすと、庭の植え込みに捨ててしまう。

それを三郎が拾うのを、三本指の男が物陰から観ていた。

春子の花嫁衣装の着付けを手伝っていた白木静子は、ふと観た窓の外に、不気味な傷跡の男が立っていたので悲鳴を上げる。

驚いた銀蔵は何事かと静子に事情を聞くが、ちょうどその時、町で知り合いと会ったので、つい長話をしてしまったと言い訳をしながらひょっこり金田一耕助が帰って来て、静子の話を聞くと、めでたい春子さんの婚礼の日なんですから、それはすべて幻影だったと言うことにしましょうと静子に言い聞かせる。

支度がすんだ春子が、金田一耕助に挨拶をして来たので、金田一も照れくさそうにあわてて頭をかきながら正座をすると挨拶を返す。

銀造、お徳夫婦も、娘の挨拶を受け、向こうは格式の高い家柄だから何かと不自由があるだろうけど我慢すること、自分が小作農の子であることで卑屈になるんじゃないよと言い聞かすのだった。

金田一と静子も、春子に励ましの言葉をかけ送り出す。

そんな中、お徳は涙ながらに、死んだ弥吉兄さんに一目見せたかったと湿っぽいことを言い出したので、銀造がなだめる。

春子は、車で一柳家へ向かう。

その夜、10時40分

久保家に残っていた白木静子は、あの不気味な男のことを気にしていたが、一緒に残っていた金田一は、おそらく関係ないので気にしない方が良い、そうそろそろ式も済んだ頃だろうと答えながらも、静子の眼鏡の度数を質問する。

18度ですと静子が答えると、その程度の近視なら眼鏡をかけず、多少の不便は克服なさった方が良いと金田一は言い出す。

なぜですの?と聞く静子に、眼鏡があなたの美貌を損ねているように思えるからですと金田一は言う。

あなたは眼鏡を取ったら、かなり美人だと思うんですがと言う金田一の言葉を聞いていた静子は、あなたは良い人かも知れないが、女性に対しては無神経な所がある。かなり美人と言うのではなく、きっと美人だと言ってご覧なさい。その方が女性は喜びますと言い返し、あなたはどうして探偵になったんですかと逆に聞く。

金田一は、犯罪を憎むからです。犯罪がない明るい社会を作りたいからなんですが、あなたは探偵が嫌いですか?と問いかける。

静子は、別に関心を持っていませんと答えるが、金田一は、僕の直感によると、あなたはやがて探偵に関心を持つはずですし、探偵と結婚する気がしますとぬけぬけと言い出す。

それを聞き流した静子は、お徳に断って、春子が残して行ったピアノを弾き始めるのだった。

同じ頃、一柳家では、鈴子が琴を披露していた。

次の朝4時

一柳家の隣にある水車小屋の水車が回り始める。

寝ていた一柳家の家人たちは、離れの方から聞こえて来た恐ろしい男のうめき声と、琴糸が切れたような物音で目覚める。

鈴子も目覚め、お母様、お琴が鳴ったわと、隣で寝ていた糸子に聞くが、布団に入ったまま糸子は「しっ!」と黙らせるのだった。

良介夫婦やその日、泊まっていた久保銀造、三郎が離れの方に向かってみると、先に到着していた使用人の源七を見つける。

全員で離れの雨戸を叩き、中にいるはずの賢蔵と春子を起こそうとするが、何の応答もないので、異変を察した彼らは、三郎に斧を取りに行かせる。

それを待つ間、銀造や良介らは、庭の石灯籠の側に垂直に突き立った刺身包丁を発見する。

斧が到着したので、それで雨戸を破って中に入ってみた良介らは、賢蔵と春子の無惨な遺体を発見する。

さらに、部屋の屏風には、くっきり血まみれの手を痕が残っており、その指は三本しかなかった。

この知らせは5時45分には久保家にも届き、寝ていた金田一耕助も起きてきて事情を聞くと、僕が悪かった…。もう少し大事を取るんだった…と悔しそうな表情をする。

のことだった。一柳家の離れでは、到着した警察関係者たちが現場検証を行っていた。

鑑識の話では、二人を殺害した凶器は刺身包丁で、死亡時刻は朝の3時から4時頃らしかった。

そこに、久保銀造、金田一耕助、白木静子の三人が到着する。

応対した県警本部の磯川警部(宮口精二)が銀造が連れて来た金田一の素性を聞くと、金田一は磯川に名刺を手渡すと、静子のことは、殺された春子の女高時代の親友で、ただいまは僕の助手を務めていますと紹介する。

それを聞いた静子も、助手の白木静子ですと表情も変えずに頭を下げる。

金田一のことを知っていた磯川警部は、二人を歓迎するのだった。

静子は春子の死体を観ると取り乱しかけるが、それを観た金田一は、事件現場に感情は有害です。冷静な判断が必要ですときっぱり言い聞かすと、屏風に付いた三本指の手形を観察しながら、この手形には指紋がないと磯川に教える。

床の間に立てかけてあった琴は糸が切れていたが、金田一からこれは何と言うのかと聞かれた静子は「琴柱(ことじ)です」と教えながら、その事柱が一つなくなっていることを金田一から教えられる。

さらに、金田一は、琴爪を静子にはめてもらい、爪の部分が指の腹に来ることを指摘しながら、指紋を隠すのにも使えると言う。

金田一は、事件発見者である良介、明子夫婦、三郎らに事情を聞き始める。

勝手口の戸締まりを確認された良介は、女中のお清が言うには、昨夜は鍵をかけ忘れていたと答える。

つまり、昨夜は外部からの侵入は容易だったことになる。

三本指の男を観かけなかったかと言う静子の問いには、昨夜8時頃、勝手口にやって来たが、口から右頬にかけて三寸ほどの傷があり、右手の指が三本しかなかったと良介は答える。

それを聞いた静子は、確かに右手だったんですねと念を押す。

その三本指の男から渡された手紙は、賢蔵が庭の植え込みに捨てたと答えた良介は、田谷照蔵のことは知っているかとの金田一の言葉に、仲人の高津さんから聞いたと答える。

石川警部は、事件現場である離れの間は雨戸が締切られていて、外から侵入した痕跡がなく、一種の密室状態だったこと、凶器の刺身包丁は庭の石灯籠の側に刺さっていたことなどを金田一に教える。

庭に降り立った金田一に、銀造は、包丁は垂直に地面に刺さっていたと教える。

一緒に庭を観回っていた白木静子は、紛失していたものらしい琴柱が一つ落ちているのを発見する。

それを知った金田一は、あなたの眼鏡の効用が今分かりましたよと愉快そうに告げる。

さらに金田一は、一本の気の幹に刺さった鎌を発見、その後、静子の背後に近づいた彼は、いきなり静子を抱え上げると、塀の上に置いてあった竹筒の中をのぞかせ、中抜きになっていないかと聞く。

静子は、確かに節が抜いてあり、向こう側が見えると教える。

その塀の裏口から外に出た金田一は、水車小屋の横に立っていた小作人の小森周吉なる男から、今朝はいつものように4時に水門を開け、水車を回したと聞くと、思わず「悪党目!」と中空を見据え、口走るのだった。

屋敷内では、東京から帰って来た次男一柳隆二(水原洋一)が、糸子や良三らと、これで一柳家の家名も終わったと話し合っていた。

三郎の部屋にやって来た金田一は、何かを三郎が隠している様子を見ながら、それは何だと問いかけ、三本指の男が持って来た手紙を兄が庭先に捨てたものだと、三郎から見せられる。

それを見た金田一は、かなり良い紙だが、一体どこで手に入れたのだろうとつぶやく。

その後、糸子のいる部屋にやって来た金田一は、隆二を良介から紹介される。

金田一は、糸子に、今回の事件の犯人に心当たりは?と聞くが、糸子はあなたはどう言う人です?と毅然と問いかける。

良三から、警察に協力している探偵だと聞かされると、この事件の下手人は三本指の男、田谷照蔵ですと糸子は断言する。

しかし、それを聞いていた静子は、田谷さんの三本指は左手であり、顔の傷も全く違うので、昨日屋敷に現れたのは別人ですと否定する。

蔵の中を拝見したいと金田一が申し出ると、糸子が即座に断ったので、今の言葉を聞くかぎり、事件の核心は、倉の中にあると言う確かな暗示がありますねと告げる。

その夜、久保家に戻っていた静子は、机の上で何事かを熱心に書いていた。

何を書いているのかと金田一が聞くと、数学の応用ですわと言いながら、静子は、離れの間の見取り図と、色々な証拠品があった場所を記した図を見せる。

金田一は銀造に、あの一柳家の家は相当古い建物かと聞くと、明治頃からある屋敷だろうが、大正の中頃に改修したはずだと答える。

さらに金田一は静子に、一柳家の土蔵から見つけて来た古文書の「街道の上り下り、高貴な御方ご宿泊のみぎり…」と書かれたページの次のページが破り取られていることを指摘し、あなたなら、その文章の続きはどういう風になっていたか想像できますかと聞く。

静子は少し考え、「非常のことあるおもんばかり…」と声に出してみるが、それ以上は分からないと答える。

しかし、それを聞いた金田一は銀造に向かい、事件は明日中に解決してみせますよと断言する。

翌朝、金田一は銀造に、今日の2時までに一柳家にこの品物を取り揃えて持って来てくれと、品目を記した紙を渡し、東京への問い合わせ電報が届いているはずだから、それも取って来て欲しいと頼む。

そして、お徳には、自分が来ていながら、こんなことになって済まなかった。これからは、自分がお二人の力になりますと約束し、それを聞いていた静子も、私も!と力づけるのだった。

そこにやって来た磯川警部は、先に到着していた金田一に、銀造が受け取った手紙に差出人として書いてあった「K・T生」と言う文字は、田谷照蔵の筆跡ではなかったと教える。

金田一は、今日3時から、ちょっとした実験をしたいので、一柳家の離れに列席して欲しいと頼む。

一柳家の離れにやって来た金田一は、仕掛けを施した後、静子に被害者を燃した藁人形を座敷の中に持って来させると、その胸に琴糸を繋いだ刺身包丁を突き立てる。

やがて、3時になると、かねてから打ち合わせ通りに、隣の水車小屋の水車が回り始める。

すると、水車の軸に琴糸が巻かれて行き、藁人形に刺さっていた刺身包丁は、琴糸が引かれ抜け落ちると、床の間に立てかけられた琴糸を切断し、不気味な音を立てながら、鴨居の方に向かって行く。

さらに、水車に引っ張られるまま、庭の石灯籠の近くまで迫って来た包丁は、琴糸の張りと共に持ち上がり、やがて、屋根の上に置いてあり、糸の張りを支えていた琴柱を弾き飛ばす。

その弾みで、琴柱は、庭先に落ちる。

さらに張り切った琴糸は、木の幹に刺さっていた鎌の歯に切断され切れ、その瞬間、ぶら下がっていた包丁は、地面に垂直に突き立ち、その時外れた琴糸は、石灯籠の空洞の中を通過し、空洞の竹筒の中を通って、そのまま隣の水車の軸に巻き取られて行った。

その一部始終を目撃した磯川警部は、では、今回の事件は自殺だったのか?その理由は?と聞くと、動機は賢蔵の春子の純血に対する疑念であり、他殺に見せかけたのは、保険金50万円を遺族に残すためと、家名の維持に汲々としたためでしょう…と言いかけた金田一だったが、そう推理させたかったんでしょうが、これは自殺ではなく殺人ですと、急に言葉を翻す。

その時、白木静子が、古文書の続きを思いついたと言い出す。

「その離れと母屋に秘密の通路をしつらえた」

それを聞いた金田一は、用意しておいた斧を手に、離れの床の間の板をぶち抜く。

すると、その下には想像通り、秘密の通路があることを発見する。

中に入ってみた金田一と静子は、そこに置かれていた三本指の片腕を発見する。

怯える静子に、「蝋細工です」と教える金田一。

さらに、その近くにあった柱に、くっきり残った犯人の指紋を発見するのだった。

そんな二人が出て来たのは、糸子や隆二が控えていた奥の間の押し入れの中だった。

金田一は糸子の側に来ると、あなたの今の表情の中には、我が子を殺したものを知りながら、かばわなければならぬものの苦悩が現れていますねと皮肉りながら、鈴子に向かって、あの朝、このふすまを開けて入って来た男を見ましたね?と問いかける。

鈴子は、すぐに何かを思い出したようだったが、その様子を見た金田一は、重要な証人がここにいますと磯川に告げるのだった。

金田一は、この事件は、三本指の男なる怪人物の存在を知った犯人が、それを利用して考えた殺人計画だったが、時間不足のために、三本指の男の侵入経路が離れにないなどと言う不自然なことが起こってしまったのだと説明し始める。

さらに隆二に対した金田一は、東京の興信所に問い合わせた所、あなたは春子の過去を調べさせていますね?と聞き、あなたは、私たちと同じ汽車で帰って来たにもかかわらず、春木屋と言う旅館に二泊した後、昨日東京から帰って来たかのように装って、この家に戻りましたね?と続ける。

白木静子は明子の側に来ると、あなたは事件前、琴柱や琴糸などを町で購入なさったようですが、その目的は?と問いただす。

明子が黙って俯くのを見ていた金田一は、賢蔵の保険金は、良介の女房の明子に入ることになっていますね?と聞くと、良介は、賢蔵はわしらの老後のことを心配してくれていたから…と答える。

さらに、金田一は、あなたは武芸に優れ、柔道4段の腕前だそうですが、それだけの腕前があれば、一突きで相手を刺し殺すことも簡単でしょうねと問いつめる。

良介が答えに窮していると、金田一は、あなたは、三本指の男が書いたと言う手紙を自作し、それを小森周吉に頼んで私に頼んだんです。

三本指の男は僕ですよと金田一は言い、その姿に三本指の男を重ねた良介は驚く。

相手の出方を見るために、三本指の男に成り済まし、この辺を徘徊していたのだと金田一は告白する。

さらに、証人として小森周吉を呼び寄せると、一昨日の3時、良介さんから三本指の男を探せと言われたので、裏山にいた三本指の男を見つけたので、手紙を渡し、ご当主様に渡すように頼んだのだと庭先から答えるのだった。

あなたは、筆跡をごまかすため、左手で書いた脅迫文の手紙を三本指の男に届けさせ、それを自分が何食わぬ顔で受け取って、賢蔵に渡したのですと金田一は続ける。

もはやこれまでと悟ったのか、座敷を飛び出した良介は、警官たちを次々に投げ飛ばして逃走しようとする。

それを追いかけた金田一も、良介に背負い投げを食らうが、すぐさまともえ投げで反撃し、その場で取り押さえてしまう。

磯川は、隆二と明子にも、共犯として同行願いたいと申し渡す。

一人座敷に残った糸子は、賢蔵もいなくなった、隆二、良介、明子も…と哀しげにつぶやく。

戻って来た金田一は、ご隠居さん、あなたにはまだ三郎さんや鈴子さんがいます。しかし久保夫婦には誰もいないのです。生涯すべての夢を、因習と言う偏見のために失ったのですと告げる。

それを聞いた糸子は、耐えきれなくなったように泣き崩れるのだった。

翌日、金田一と白木静子は、又同じ列車で帰京することになる。

駅には、久保夫婦が見送りに来てくれていた。

座席に座った金田一は、向かい側に座った静子が、いつの間にか眼鏡を外していることに気づき訳を尋ねると、あなたが外せとおっしゃったんですわと、静子は平然と答える。

トンネルが近づいた警笛に気づいた二人は、又同時に立ち上がって窓を閉めようとしたので、二人の手は自然に触れ合う形になる。

しかし、今度は、静子も手を離そうとはしなかった。

列車はトンネルの闇の中に迫っていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

横溝正史の金田一ものでお馴染みの「本陣殺人事件」の最初の映画化作品である。

会社クレジットが「東映」の三角マークになっているのは、東横映画が大泉映画、東京映画配給と合併して「東映」に社名を変更した1951年以降作り替えられたものだろう。

片岡千恵蔵版の金田一ものは、過去何本か観ているので、イメージが原作と全く違うことは知っており、その点は特に気にならなかったが、やはり、東映版独特の「助手白木静子」との出会いが描かれているのを始め、はじめての金田一映画として、この作品は非常に興味深い作品になっていると感じた。

まず気がつくのは、冒頭の列車のシーンや春子が車に乗って嫁入りするシーンなどに、軽快で明るい音楽が重ねてあること。

これによって、この作品は、陰惨な事件内容とは裏腹に、明るい「コージーミステリ(日常ミステリ)」に近いような雰囲気を醸し出しているのである。

もちろん、原作とは全く違っているのだが、このおかげで、映画の金田一耕助と白木静子は、共に原作とは又違った魅力が出ていることも確かだと思う。

アメリカに8年住んでいたと言うこの映画での金田一は、合理的な考え方をする一方、推理の際は、妙に堅苦しい言葉を使うのがちょっと違和感があるものの、普段は温厚でユーモラスな男として描かれている。

何より、女性に普通に興味を抱いているという点が異色であり、この作品では、あたかもこの後、金田一と白木静子は結婚するかのような暗示的でロマンチックなセリフさえ用意してあるのが面白い。

ひょっとしたら、「片岡千恵蔵+原節子による夫婦探偵もの」と言う独自の路線になっていたかも知れないとさえ想像させる。

こうした人間臭い描写により、この作品での金田一は、非常に親しみやすいキャラクターになっている。

白木静子の方も同様で、東宝から招いた原節子と言う大物が演じていることもあり、金田一と同等の重要な役柄として描かれており、上品でかつ気丈な女性として魅力的なキャラクターになっているだけではなく、推理の冴えも玄人はだしである。

残念ながら、原節子の出演はこの作品だけのようで、金田一とのロマンチックな関係もその後のシリーズからは影を潜め、白木静子はこの後、単なる眼鏡キャラの賢い助手止まりの印象になってしまい、金田一の方も、この後のシリーズでは、徐々に人間臭い描写が少なくなって行くような気がする。

さて、ストーリーの方に目を移すと、途中までは「ほぼ」原作に近い。

ほぼ原作通りの謎解きが行われ、これで終わるのかと思いきや、この作品では、さらなるどんでん返しが用意されているのである。

やはり、自殺で終わってしまったのでは、金田一の活躍の場が少ないと思ったのか、最後は、武術の腕前を披露すると言うアクションシーンまで付け加わっているのだ。

その付け加えられたどんでん返しの部分が生きているかどうかは、観る人によって受け止め方は違って来ると思う。

意外な犯人と言う部分では合格だと思うが、演じている役者が馴染みのない人物なので、衝撃感は薄い。

又、そのどんでん返しを見破る論拠も弱いと言わざるを得ない。

何せ、金田一が思いついたと言うより、助手の白木静子が考えついた(根拠のない)古文書の文章がヒントになっているからだ。

どう考えても「ご都合主義」以外の何者でもない。

又、金田一自身が「三本指の男」に扮して徘徊している意味も今ひとつ説得力がない。

一柳家の反応をうかがうためと言うのなら、久保家にいた白井静子を驚かせたりしたのは何のためだったのだろう?

単に、静子を脅かして、からかってみたかったと言ういたずら心にしか思えない。

事件発生を知った金田一がつぶやいた「僕が悪かった…。もう少し大事を取るんだった」と言うセリフは、自分が事件を引き起こしてしまったとも取れるので、案外、本当に、単なるいたずらのつもりだったのかも知れない。

だとしたら、本当に、金田一ののんきな行動は、間接的に犯行の手助けをしてしまっている訳で、何とも笑えないことになる。

少なくとも、金田一がこの町に来て、よけいなことをしなければ、事件は起こらなかったはず。

金田一ものによくある「恐ろしい偶然が重なって…」の一つが「金田一耕助がおかしな芝居をしてしまったこと」なのだから。

これが現実の事件だったら、金田一も始末書くらいでは済まされない立場になるのではないかと思う。

一応、後年の金田一ものや多羅尾伴内ものなどに継承される「変装名人の探偵」の発端が描かれているのだが、よく考えると「探偵が事件を引き起こしてしまった」何とも後味が悪い展開なのである。

その後味の悪さを、観客にはみじんも悟られないようにしてしまったのが、金田一と白木静子のロマンチックと言うか、のんきな掛け合いのように思える。

一柳家のご隠居糸子を演じている杉村春子は、当時の実年齢よりかなり無理をして老け役を演じているように見えるし、磯川警部を演じている宮口精二なども、かなり線が細く、後年の作品での磯川イメージと違うのだが、それぞれ、こういう役もやっていたのかと言う珍しさはある。

この作品、原作との差異はともかく、片岡千恵蔵版の金田一ものとしては、比較的出来が良い方に入るのではないだろうか。

おそらく、当時も好評だったので、その後も続々とシリーズを作っていったのだと想像する。