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大木家のたのしい旅行

新婚地獄篇

2011年、「大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇」製作委員会、前田司郎原作+脚本、本田隆一監督作品。

※この作品は新作ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ベランダ近くの荷物の中にしゃがんでいた新妻の咲(水川あさみ)が、炊いて、お米…と声をかける。

同じく、引っ越し荷物に埋もれていた夫の大木信義(竹野内豊)は、炊飯器が見当たらない。「生活」の段ボールを四つとも開けたが、入っていなかったと面倒くさそうに答え、おかずは?と逆に聞く。

咲が「シーチキン」と答えたので、それって夕飯?それとも間食的な何かのつもり?と聞くと、夕食にしちゃおうかと思うと咲は面倒くさそうに答える。

二人は、新婚早々とは言え、同棲期間が長く、そのままなし崩し的に結婚したこともあり、早くも倦怠ムードに包まれていた。

初夜も、昨日すませたばかりだった。

コンビニでも行ってくれば?と咲が言うので、用事ないよ?何故?と大木は戸惑う。

咲は、何となくと答えながら、部屋に飛び込んで来た蝶を見つける。

その蝶がベランダから外に飛び出して行ったので、咲と大木は、一緒にベランダに並び、蝶の飛んだ方向を見る。

タイトル

地元の五反田マルヨシの食品売り場に向かった咲は、鮮魚コーナーで「ジゴク産」魚の切り身と書かれたパックを不思議そうに手に取って観ていたが、それをちらちら心配そうに観察していた鮮魚部の店員(綾田俊樹)がいたので、これってどんな味?と聞いてみると、味なんかしないけど、柔らかくて、弁当のおかずなどに良いなどと、何だか曖昧なことを言って、気まずそうに奥に下がって行く。

買い物を終え、エスカレーターを降りていた咲は、反対に登って来る方のエレベーターに、妙な男が乗り込んでいることに気づく。

すれ違うとき良く見ると、その男(柄本明)は、黒いコートを着ていたが、全身何故かびしょぬれで、しかも、コートの中には、見覚えのある炊飯ジャーを持っていた。

気になった咲は、急いで登りのエスカレーターの方に乗り換え、男の後を追ってみるが、屋上に着いた所で、相手を見失ってしまう。

しかし、男がここに来たことは間違いなく、屋上の床は、点々と水で濡れていた。

その後をついて行くと、屋上の真ん中に、水が張ったバスタブが置いてあるだけだった。

妙な気分になり、階段を下りていた咲だったが、踊り場の所で「占いサロン」と言うテント張りの店を見つけ、何とはなしに壁に貼ってある顔のツボを描いたポスターに目をやると、そこには見覚えのある蝶の絵が描いてあった。

すると突然、角でタバコを吸っていた女(樹木希林)が「炊飯ジャー見つかったの?」と声をかけて来る。

あまりのことに固まってしまった咲だったが、占い店の主らしきその女は、地獄にあるわよ。地獄、行く?と、パンフレットを渡してくれる。

そこには、地獄旅行19800円と書かれてあった。

マンションに帰り、夕食用に煮てテーブルに出した「ジゴク産」の魚は、箸で掴みきれないほど柔らかくてぐずぐずの状態だった。

それが全然掴めないと言ういら立ちだけではなく、ご飯がないと言うことにも大木は不満そうだったので、咲は、炊飯ジャーがないんだから仕方ないじゃない。私のジャーを捨てなければ良かったのに…と反論する。

大木が、同棲中も全然使ってなかったじゃんと言うと、一人の時には使っていた。あれの方が圧釜でおいしく米が炊けたのだと咲は打ち明ける。

すると、ムキになった大木も、俺の方も圧釜で、さらび遠赤外線だったなどと言い出したので、そんなもん、目に見えないじゃないと咲は切れる。

大木は諦めたように、俺らって地続きだよな…とため息をつく。

会社で新婚って言われたけどピンと来ないと言う大木の言葉を聞いた咲も、なし崩し的だったから、盛り上がりないわよねと同調する。

そのとき、大木が、咲が持ち帰って来た地獄旅行のパンフレットを見つける。

翌日、二人は、五反田マルヨシの占いサロンの店の前で待っていたが、誰もいないようなので、若干後悔しかかっていた所に、突然、あの占いのおばさんがやって来て、二人をテントの中に案内する。

中には、タキシード姿で無表情に突っ立ている、もう一人の四角い顔の女(片桐はいり)がいた。

おばさんは、咲が昨日までかけていたメガネをしていないので、メガネは?と聞いてきたので、今日はコンタクトと咲は答える。

あなた、悩みがあるわね?とズバリ、おばさんが切り込んで来たので期待した咲と大木だったが、何に?と問いかけられたので、それを占ってくれるのでは?と咲は拍子抜けしてしまう。

気を取り直して、大木が炊飯器がなくなったと言うと、急に缶箱を取り出しふたを開けたおばさんは、中から小さな人形を取り出し、マサハル君人形だと紹介する。

すると突然、人形がしゃべり出したかのように、後ろに立っていた四角い顔の女性が腹話術師みたいにしゃべり出す。

濡れた男が、炊飯器を地獄に連れて行ったんだ。地獄へ行けば良いよとマサハル君人形はしゃべる。

唖然とする咲と大木の前で、人形を箱に収めながら、おばさんは、昔は警察にも頼まれたと自慢し、あなたたち、地獄、行くでしょう?と既成事実であるかのように聞く。

自分は、地獄旅行のコンサルタントもしているのだとおばさんは言う。

一旦、マンションに戻って来た二人は、もう旅行の準備をしていた。

地獄には何を着ていけば良いのか分からないので、二人とも衣装選びに苦労していたが、大木は、咲が、シャンプーとリンスまで持っていこうしているので呆れる。

咲は、花柄のワンピースを前に、どう考えても、この柄だと20代前半だよななどと自問自答していた。

そんな咲に、大木は、魚型の弁当の醤油入れを投げて寄越す。

何?と咲が不思議がると、それにシャンプーを詰めて行けば良いと大木が言うので、咲はm、醤油の匂いが移るじゃないと拒否する。

ベッドに横になった咲は、炊飯ジャーって地獄にあると思う?とつぶやく。

翌日、五反田マルヨシにやって来た二人は屋上にエレベーターで登る事にするが、途中のベランダ部分でラジカセの音楽に合わせ下手な踊りを踊っている青年(山本浩司)を見つけた咲がそれを面白がると、大木が、いるよね、ああいうのと大木が同調する。

すると、咲は、あなたって何か言うたびにいちいち突っかかって来るじゃんと大木の返答に苛ついた態度を取る。

屋上に着くと、慌てたように、占いのおばさんと四角い顔の女がやって来て、四角い顔の女の方は但馬だと名乗る。

旅行プランを再確認された大木は、行き当たりばったりでも良いかと言うと、生物学的には海老じゃないんですけどねとフォローを入れながらではあったが、地獄甘エビ食い放題ツアーはいかがでしょうと但馬が勧めて来る。

地獄へはやすやすと行ける所ではないので…と但馬がもったいぶるので、俺たちやすやすと行っているけど?と苦笑する。

旅館のことを尋ねると、追加料金を出さないと、飯島屋さんになると但馬は説明するが、大木はそれで良いかと咲と決める。

但馬は咲に、飯島屋の場所を描いた、ものすごくおおざっぱな手描きの地図を手渡す。

咲が、一人一泊2200円、二人分44000円その場で支払うと、気休めですが…と言いながら但馬が二人に耳栓を渡す。

二人が案内されたのは、屋上に置いてあったバスタブだった。

大木は訳が分からず、汚れた水に何となく手を入れてみたが、いきなり何かに引っ張られたので驚く。

おばさんは、頭からざっと行っちゃって下さい。足から行くと頭から着地しますからと説明し、大木は少し抵抗するが、そのまま水の中に頭から引きずり込まれる。

その様子を観て咲が固まっていると、ビニール袋に入れた二人の荷物をバスタブに放り込んだ但馬は。言い忘れましたけど。天使が来ると雪になりますから気をつけてと言う。

咲がどう気をつければ良いの?とためらっているのを観たおばさんは、止めますか?と言いながら、金を返そうとする。

しかし咲は、行きますと言い、但馬から、これも持っていってあげて下さいと、浮いて来た大木の片方のスニーカーを手渡す。

咲は、勇気を奮って、水の中に手を差し込むと、そのまま何かに引っ張られ、水の中に引きずり込まれる。

屋上に残ったおばさんは、二万を但馬に手渡す。

咲が落ちて来たのは、森の中の小道のようだった。

先に落ちていた大木は、上空を飛び去って行った不思議な鳥を見つけ驚く。

咲は、但馬さんが言っていた一本道ってこれかな?と確認するが、大木は、咲が聞いてると思って、ちゃんと聞いてなかったと言い出す。

咲の方も、信が聞いていると思い、聞き流していたと言い出し、互いに不安がるが、とりあえず、もらった耳栓を付けようと自分の分を探し始めた大木は、それが見つからないので焦り始める。

咲は自分だけ耳栓をし、手ぬぐいでも巻いていれば?と勧めるので、大木は「湯もみ」と書かれた手ぬぐいを頭に巻き耳を隠すことにする。

何か話しかけられても絶対に後ろを向いちゃ行けないと言う指示だったが、どこに対して後ろなの?と大木は聞く。

咲は、顔をがちっと固定していれば良いのよと強引に結論付け、とりあえず、小道を前に進むことにする。

後ろを振り向いたらどうなるの?と大木が聞くと、死ぬんじゃない?と咲が適当なことを言う。

そもそも、人生はいつも死と隣り合わせじゃん。駅のホームなんか、うっかり降りたら死んじゃうしと咲が自説を補強しようとし始めたので、そうとも限らないんじゃない?と大木は反論する。

そのとき、突然、後ろで何かの声が聞こえ、二人がつい振り返ろうとすると、森の中は一面の雪景色に変わっていた。

天使が来たんだと咲は驚く。

大木は、後ろに誰かいるよね?絶対…とつぶやきながら、顔は前を向いたまま後ろに手を伸ばそうとする。

咲は、同じく前を向いたまま、止めなさいよ、触っちゃったらどうするの!と叱りつける。

そのとき、後ろから「浦沢ってさ…」と声が聞こえて来たので、今、浦沢って言ったよな?と大木が確認すると、咲は、浦沢って誰?と聞く。

ヒデのことだよと大木が言うと、ヒデの名前が浦沢って知らなかったし、浦沢って感じじゃない。もっと単純な山田とかだよと咲は名前を突っ込み出す。

それを聞いていた大木は、お前の高橋って名前も平凡じゃないかと突っ込むと、咲は、高橋はレベル2クラスだよと向きになる。

すると、後ろから「斉藤は?」という声が聞こえたので、つい、咲は返事をしようと振り向きかける。

二人は、後ろの物音が先ほどから気にかかっていた。

「何?祭り?パレード?轢かれちゃうんじゃないの?」咲は耳栓から微かに聞こえて来る音から推測する。

さらに虎や象の鳴き声のようなものまで聞こえる。

「浦沢様!」と女性たちが呼びかけているのも気にかかる。

二人の後ろには、何故か偉そうに輿に乗った浦沢(山里亮太)の周囲を、サンバカーニバルのような踊りを踊りながら女性たちが歩いており、その後ろからは象が付いて来ていた。

パレードの上空には、レミエル(緋田康人)、ファラエル(大堀こういち)の二人の天使が飛んでいる。

浦沢は、さあ好きなだけ触るが良いと叫んでおり、輿の横では、時代劇の爺(村松利史)が、必死に浦沢をなだめようとしていた。

どうしようもない好奇心に駆られ、振り向きたくなった咲と大木は、一緒に振り向くことにする。

タイミングを合わせ、一緒に振り向いたとたんに、二人の身体はどこかの空間に落ちる。

落ちた場所は、崖のある採石場のような所だった。

二人は、この場所がどこか分からず、森を出れば後ちょっとで飯島屋だったのにとか、疲れただの、振り向いたことを後悔するが、大木がフランスパンを取り出して、食べる?と勧めると、少し雰囲気がほぐれる。

少し歩きながら、何かに似てない?オーストラリア?と大木が言い出したので、咲は、言ったことないからと答え、箱根とか熱海すら行ったことないと言い出し、私たち何やっていたんだろ?と不思議がる。

大木は、働いていたんだろと答えるが、そのとき、崖の中腹付近に見慣れる建物を発見する。

但馬からもらった地図を確認すると、マルメルキ分離器と書かれた場所があり、あれがそうじゃないか?と考えるが、そもそも「マルメルキ」って何?と言う疑問がわく。

とりあえず、大木は、持って来たアナログカメラで風景を撮り始める。

咲も、気持ちが開放的になり、撮ってよと、おおきに求められるままポーズを取り始めるが、途中、どう言うコンセプト?と聞いてみる。

大木は、世紀末と適当な返事をする。

咲は、これ、写真屋さんに見られるよね?とちょっと恥ずかしがるが、デジカメ買うほど、写真、あまり取らないからと大木は答える。

子供でも作る人ならいるんだろうけどねと言われてしまうと、咲もそうだねと頷くしかなかった。

そのとき、ファインダーをのぞいていた大木は、赤い顔をして、白い作業着風の衣装を着た中年男がこちらをにらんでいるのに気づき、何かまずい雰囲気を感じる。

咲も気づき、何か怒ってるみたいだねと不安がり、ここ、写真禁止だったかな?などと大木もビビり始めていると、近づいて来た赤い顔の男(でんでん)は、二人に向かって何事か文句を言い出す。

しかし、それは日本語になっておらず、意味は分からなかった。

それでも、赤い男の様子がけんか腰だったので、二人はその場を逃げ出すが、赤い男が「オ〜!」と何事か呼びかけると、周囲から、全く同じ顔をした赤い顔の男が何人も出現し、二人を追って来る。

二人は、必死にその場から逃げ出す。

追っ手がいなくなったと気づいた咲は、咽が渇いたと言い出したので、大木は水筒を取り出し、二人で水分補給をするが、そのとき大木は、崖の途中に腰掛けてこちらを見ている、青い顔の少女に気がつく。

咲は、何だかやばくない?とちょっと不安がり、地獄なんだからと注意を促す。

大木は、死んだらどうする?と聞くが、咲は、明後日、美枝子と会う約束があるのでと言い出す。

新婚旅行で死んだら笑われるよと大木が言うと、咲も、新婚か〜…、何か起伏がないと言うか、何か失敗した気がするんだよねと言ってしまう。

それを聞いた大木は、それ、俺の前で言っちゃダメじゃない?と憮然とする。

そのとき、二人は又、先ほどとは顔が違う、赤い顔の若者たちに追いかけられて来たことに気づき逃げ出す。

すると、車が近づき、運転していた先ほどの青い少女が乗りな!と手招く。

二人は、その車の後部座席に飛び込むと、車はすぐに発進し、何とか、赤い顔の青年たちから逃げおおせることが出来る。

大木は、運転している青い顔の少女に言葉分かる?と声をかけ、バカにするなと言われてしまう。

青い少女は、赤いのは危ないと注意する。

地図を出して、ここの場所を咲が聞くと、大体の場所を教えてくれた少女はヨシコ(橋本愛)と名乗る。

咲と信義も名乗り、飯島屋まで送ってくれないかと頼む。

承知したヨシコは、青い人間たちが住む集落などを通りながら、地獄に長くいると、赤くなったり青くなったりするが、赤くなると言葉や色々なものを忘れ、怒りっぽくなると説明してくれる。

それを聞いた咲は赤くなりたくないと言うが、大木の方は赤くなっても良いなと言い出したので、忘れたいことあるの?と咲が聞くと、あると言う。

咲は、ダッシュボードの上に載っていた手編みのコースターに気づき、きれいと言いながら手に取ってみる。

ヨシコは、赤くなった友達がくれたのだと言う。

その友達、今何しているの?と咲が聞くと、知らない。私を見ると殴り掛かって来るから、あわないようにしているとヨシコは答える。

やがて、車は、空まで伸びるとてつもない高い塔に近づく。

これが飯島屋なのか?と二人は驚くがヨシコが、車を降り、ポーターらしき男に聞きに行くと、ポーターは、ヨシコに何か文句を言っているようだった。

その間、ここまで送ってくれたヨシコに、いくらか渡さないと行けないだろうと相談し合っていた二人は、戻って来て、やはり、ここが飯島屋だが、すごく高いホテルなので、私たちが来るような所じゃないと怒られたと教えてくれたヨシコに3000円渡そうとする。

ヨシコは、そんなにたくさんもらえないと断るが、それならと、大木は1000円だけ握らせることにする。

恐縮したヨシコは、いつ帰るの?と聞くので、明日帰ると咲が答えると、こんなにたくさんもらえたので、夜、ナイトマーケットに案内してやるから後から迎えに来ると言い残して帰って行く。

ホテルに入ると、意外と客がにぎわっていたので、二人は、結構、来てるんだねとちょっと驚く。

受付を探していた二人の前に、青い顔をした一人の男(荒川良々)が近づいて来て、私、「いいじま」と申します。日本人を担当していますと告げる。

咲は、トイレの場所を聞き、先にトイレに向かう。

その間、大木が自分たちの名前を名乗り、咲が戻って来ると、自分もトイレに行く。

予約帳を調べたのか、戻って来たいいじまは、咲から赤い男たちに追われたことを聞くと、じゃあ、振り返ったんですね。赤い人は言葉をなくしているので良く分からない。美術面は優れているんですがと説明し、実は、振り返らなかった人はこれまでいなかったと言うので、咲は拍子抜けする。

その頃、トイレで用を足していた大木は、トイレの中に甲冑が飾ってあったり、巨大な爪切りが置いてあるのに気づく。

さらに、便器が「TOTO」製であることにも。

戻って来て爪切りの話を咲にすると、それを横で聞いたいいじまが、あれは爪切りではなく「角きり」だと教える。

二人が「角きり?」と不思議がると、女性のむだ毛処理のようなもので、いつしか、自分たち持つのを恥ずかしいものと考え、処理するようになったのだと飯島は説明する。

螺旋階段の所に案内された二人は、いいじまから、部屋は22階ですと教えられる。

建物が古いのでエレベーターはないのだと言う。

一体、何階まであるのかと聞くと、400階以上だが、それから上に行ったもので帰って来たものはいないらしい。

不安がる二人に、いいじまは、一緒に行きましょうか?と聞くが、それは断った二人が、部屋番号を聞くと、22階は誰も泊まっていないので、どの部屋を使っても良く、何なら、23階でも良いといいじまは言う。

風呂の階を聞くと、46階と127階の二カ所あるが、127階に行く人はいないので46階がお勧めだと言ういいじまだったが、夜には、多少の危険がありますので、自分の身は自分で守って下さいと不気味なことまで付け加える。

夕食は何時にしますかと聞かれた咲は、22時にナイトマーケットに誘いに来るので…と教えると、8時くらいにしましょうと切り出したいいじまは、ナイトマーケットに行かれるのなら、小銭を両替しておいた方が良い。こちらでは大体1円で買えるので、一円玉をたくさん用意しておかれると良いでしょうとアドバイスしてくれる。

二人は、足を棒にしながら階段を必死に上り22階に到着してみるが、その廊下は誰も利用してないらしく荒れ放題だった。

とりあえず、一番近くの部屋に入った二人だったが、中はあまりにも広々としており、鬼の彫像なども建っているので、何か落ち着かない雰囲気だった。

冷蔵庫を開けてみると、輪ゴムが入っている。

大木の方は、クラシックな衣装を始め、色々な衣装が取り揃えられている衣装部屋を発見して喜ぶ。

着替え用?と不思議がった咲は、無難な浴衣に着替え、大木は野球のユニフォーム姿になり、46階の浴場を目指す。

何とか苦労の末、浴場に到着した二人は、ドアの向こうに広がっていた広大な海のような温泉を観て唖然とする。

咲は、遠くに見える目をつぶった人の顔を見て生首だ!と叫ぶが、大木は下も付いているだろうと落ち着かせる。

海には、ぐったり疲れきったような客を二人乗せ、船頭が櫂を操り素早く移動する小舟のようなものが走っていたので、二人は首を傾げる。

気がつくと、海に用に見えた温泉はビーフシチューであることに二人は気づく。

手ですくい上げると、ジャガイモが入っていたりする。

とりあえず、湯につかってみると、意外と心地よいことに二人は満足するが、こういうとき話すことないよねっと大木がつぶやく。

咲は、この温泉のこととかヨシコちゃんおこととか、色々私たち、共通の経験がるんだから何かあるでしょうと答え、大木は、その程度で良いか…と納得した大木は、俺たち、何かしっくりしてないと思ってなかった?俺たち流されているよな〜とか…と話を続けていたが、ものすごくホテルの塔が遠くに見えていることに気づくと、自分たちが本当に流されていることにも気づく。

見ると、巨大な排水溝のような所に、温泉の水が流れ込んでいるではないか!

二人は、そこに引き込まれまいと、必死で泳ぎ出すが、巨大な水流には勝てず、咲はもうだめ!と絶望する。

そのとき、はい、捕まって下さいと、櫂を差し出して来たのが、先ほど見えていた小舟の船頭(森田ガンツ)だった。

浜辺に帰って砂浜で寝そべった二人は、ようやく、あの小舟の意味を悟る。

大木は、死ぬかと思った。以前、ジュースが器官に入ったとき以来だとつぶやく。

部屋に戻ってみると、いいじまが夕食の準備を終え待っていた。

二人を観たいいじまは、深夜になると、流れがもっと速くなるのですと、浴場のことを説明しながら、二人にビールを注ぐ。

二人の前にはクロッシュ(金属製の丸皿カバー)が置かれており、いいじまは二人の前に丸まったゴムチューブを差し出しながら、咲に向かい、お肌がすべすべになったでしょう?と聞く。

地獄には人の肌を食べる虫がおり、浴場の砂浜に見えたものは、その虫の卵なのだと気持ちの悪いことをいいじまは教える。

腹が減った大木は、この中に甘エビが?とクロッシュを上げようとするが、そのとき後ろを向いていたいいじまが、突然振り返って危ない!と止める。

地獄甘エビは目に飛び込んで来て危険なのでと、水中メガネをかけさせると、自ら食べ方を教え始める。

クロッシュの隅をそっと上げ、その中にゴムチューブの片方を差し込むと、何か探っているような様子を見せ、地獄甘エビは穴があると、その中に入る習性がありますと言いながら、手応えを感じたのか、次の瞬間、そのチューブを引き抜くと、テーブルに何度も打ち付け始める。

そして、こちらの先から思いっきり吸うのですと説明しながら大木にゴムチューブを手渡す。

恐る恐る吸ってみた大木だったが、思いのほか甘くておいしいことを知る。

いいじまは、味に飽きたら、これをかけて下さいと言いながら、タバスコの瓶に似た容器を差し出す。

そこにはマルメルキと書かれていたので、マルメルキって何?と聞いてみると、地獄にはたくさんの本が落ちて来て、それは砂となマルメルキに分離するので、自分たちは、それを調味料として使っているといいじまは説明してくれる。

二人は、お腹いっぱい地獄甘エビを平らげた後、ベッドに横になる。

やがて、二人はナイトマーケット用の服に着替えることになるが、咲は、持って来た衣装に気に入ったものが見当たらないらしく迷っていた。

そのとき、大木が、自分のバッグに入れて来たと言いながら一着のワンピースを差し出す。

あの花柄のワンピースだった。

喜んだ咲は、すぐにそれに着替えるとホテルの前に向かう。

すると、約束通りヨシコが車で待っており、後部座席からは、二人の子供が降りて来る。

どうやらヨシコの弟たちのようだったが、恥ずかしいのか、名前を聞いても二人とも答えない。

咲と大木を乗せ出発したヨシコは、ナイトマーケットは、昔城だった所で、城が銀で出来ていた為、泥棒たちがどんどん盗んでしまい、今では泥棒しかいない場所なのだと言う。

泥棒たちは、皆お堀を泳いで城に入ったので、泥棒はみんな濡れているとも。

その城跡のナイトマーケットに到着したヨシコは、北の方角に見えるテント村を指しながら、北には行くな、赤いのの町だからと二人に注意する。

さっそく、二人はナイトマーケットの店を見物し始める。

何か、偉人のような人たちの写真を並べた店があったのでヨシコに聞くと、それは木村、吉村、大村など、村が付く名前の人たちだと言う。

下の弟(鈴木福)の方が、帳の標本を熱心に観ていたのに気づいた大木は、こっそり、その顔を写真に収めると、弟と一緒に「チョウチョウ!」と連呼し始める。

その様子を観ていた兄(平田敬士)の方は、ヨシコと手をつなぐ。

ヨシコは咲に、北に行くか?と聞いて来る。

こっそり森を抜け、北のテント村に二人と弟たちを連れて来たヨシコは、何が欲しいと聞くので、咲は何か素敵な布のものが欲しいと答える。

すると、ヨシコは、あの店の店番は今寝ているし、良い品を揃えているのであそこに行こうと誘う。

盗むのか?と大木がためらうと、ヨシコは、ちゃんとした買い物だと言う。

皆でその店に近づく途中、人だかりがしているので、大木が何をしているのだと聞くと、カンガルーを戦わせているのだと言う。

咲は、店の品物をあれこれ探し始めるが、そのとき、お面を発見した大木は、弟に向かって、目の穴から指を二本突き出してふざける。

すると、弟は喜んで声を挙げてしまったので、寝ていた店の男が目を覚ましてしまい、周囲にいた赤い男たちからも気づかれてしまう。

あわててそこから逃げ出した咲たちは、一円玉をばらまいて、追っ手の注意をそらし、何とか境界線の外の山の中に逃げ込む。

それでも、咲はテーブルクロスを購入し、大木はお面を手に入れていた。

ヨシコは、あの人たちもたくさんお金をもらったので喜んでいるはずだと二人に教える。

城に戻って来た咲たちは、おなかがすいたと言い出したので、ヨシコが何か不思議なスナックのようなものを持って来る。

見ると、色違いのゴム輪のようだったが、食べてみると中華風の味がした。

ヨシコが言うには、噛んだ後、吐き捨てるのだと言う。

気に入った二人は、そのスナックを弟たちにも食べさせ、皆でカスの吐き出しっこをする。

大木は、下の弟の方とすっかり仲良しになっていたが、その様子をヨシコの手を握った兄の方はうらやましげに見つめていた。

それに気づいた咲が、そっと兄の手を触ろうとすると、一瞬、兄は驚いて手を避けるが、結局、そっと手を伸ばして来たんで、ヨシコと兄と咲は、手を取り合って喜び合う。

帰りの車の中、弟は、咲のテーブルクロスに包まり寝ていたが、他の皆は、別れを惜しんで涙ぐんでいた。

ホテルに着くと、ヨシコはそっとそのテーブルクロスを取ると咲に返す。

大木は、別れ際、兄の方にフィルムが入ったパトローネを渡す。

咲はそんなケイコを抱きしめるが、そのときケイコは、いつか…、いつか私たちを生んで下さいと耳元でささやく。

咲と大木はホテルの部屋のベッドに横になるが、咲はなかなか寝付けなかった。

すると、寝られないのか?と大木も目を覚ましたので、咲は少し喜ぶ。

いつも、一人で寝入ってしまう大木が目覚めてくれたことに感激したのだ。

少し寂しかったから…、ヨシコが可愛いなあと思ってと、咲はつぶやく。

寂しいの?と聞いた大木は、又会えるよと慰める。

翌朝、ホテルの入口に出た二人に、いいじまが、少し時間があるので近くを案内しましょうと申し出てくれる。

いいじまは、帰りは来たのと同じ道ではなく、奈落の底を通ると教える。

さらに、濡れた男は、赤くも青くもないが、何でも良く知っているとも。

洞窟のような場所に来たいいじまは、自分には妻がいて、自分も昔は黄色かったんだと打ち明ける。

元々地獄の人間じゃなかったんだが、妻を追ってここへ来たのだが、妻を捜しているうちに、青くなったと言う。

それを聞いていた二人が不安げになったので、一泊程度なら大丈夫。又来ようとしなければ良いのだといいじまは言う。

妻は赤くなっていた。人間らしくなくなっていたのだが、今でも時々見に行くといいじまは続ける。

そのとき、咲たちは、石の祭壇のような場所に置いてある二つの炊飯ジャーを発見する。

近づいてみると、大木がなくしたジャーと、かつて、咲が捨てたジャーだった。

二つのジャーとも「保温」となっており、ふたを開けてみると、おいしそうなご飯が両方に入っている。

恐る恐る食べてみると、おいしかった。

いいじまから、そろそろ行きますか?と声をかけられた二人は、炊飯ジャーをどうするか話し合うが、結局、置いて行くことにする。

そのとき、人影が近づいて来て、それに気づいたいいじまは影の方を追って行く。

二人もいいじまの後を追って走る。

いいじまが追いついたのは濡れた男だった。

濡れた男が立ち止まると、いいじまは私と妻はまだか?と聞く。

すると、濡れた男は、お前たちはまだまだだと答え去って行く。

追いついた咲が、何を聞いたのか聞くと、私たちが生まれるのはまだかと聞いたといいじまは教える。

咲は、ヨシコが私たちを生んで下さいと言っていたが…と打ち明けると、いいじまは、そう言う意味でしょうとも教える

ここには、死んだものも、死に続けているものもいます。生者とは、死に続けるものと言うことですからといいじまは言う。

外に出ると、崖の下の方から一頭の蝶が飛んで来る。

蝶だけは自由に行き来できるのだともいいじまは教え、自分はここまでしか行けない。青や赤の人はこれから咲きへは行けないのだ言い、別れを告げる。

地獄は楽しかったですか?と聞くいいじまに、大木はまた来たいと答えたので、それはいけません。ここを降り続けると、五反田マルヨシのトイレの横に出ますといいじまは教え去って行く。

咲と大木は、いつの間にかにこやかに手を取り合って、螺旋状にそこに通じている道を降り始める。

そこの方からたくさんの蝶が舞い上がり、二人の後を追うように集まる。

エンドロール

マルヨシの電化製品売り場では、咲と大木が、新しい炊飯ジャーを買おうと新製品を観ていた。

それに気づいた占いのおばさんと但馬は、「帰って来たんだわ!」と動揺する。

二人は、仕方ないじゃない。二人が行きたがったんだから…などと言い合いながら、そっと二人に気づかれないように売り場を横切って行く。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

ほのぼのファンタジーとでも言うべき作品。

地獄と言う従来のイメージを覆し、日常の延長のような世界を舞台に、コメディと言うにはぬるいが、ちょっとおかしな会話やイメージが続き、全体的に楽しい作品になっている。

CG処理に寄る合成はあるものの、基本的に出て来る世界がほとんど日常そのものなのも、低予算や、狭い日本で珍しいロケ地がないことを逆手に取った意図的な演出であろう。

地獄なのに、いつの間にか癒されると言うのがミソ。

そこに住むと言う赤と青の人を、寓意的に何を表しているか、それぞれ想像してみるのも面白いだろう。

個人的には、深い意味はないのではないかと思う。

樹木希林はテレビなどでも良く観るので特に違和感は感じなかったが、但馬を演ずる片桐はいりの方は、久々に観たせいか、かなり老けたように感じる。

地獄甘えびを食べるシーンなど、具体的なビジュアルを使わないで、役者の芝居だけで想像力を刺激する所などはなかなか巧いと感じた。