1930年、ドイツ映画、ハインリヒ・マン原作、カール・ツックマイヤー+カール・フォルモラー+ロベルト・リープマン脚本、ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督作品。
▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼
イマヌエル・ラート(エミール・ヤニングス)は、老いた独身の高校教師だった。
今日も、家政婦が朝食の準備をした後、ラートをベッドから起こす。
起きたラートは鳥かごの中で買っていた小鳥が死んでいるのに気づく。
家政婦は無関心そうに、もう鳴きませんと言うだけ。
高校では生徒たちが、人気歌手のブロマイドに紙製のスカートを履かせ皆に見せびらかしていたり、出席簿に落書きをしたりしていた。
そこに、ラートがやって来て、教壇に座ると、やおらハンカチを取り出し、大きな音を立てて鼻をかむ。
その時、出席簿に書かれた落書きに気づいたので、心当たりの生徒を指名して、その場で消させる。
ラートは英語の授業を始め、その後、試験を始めると、カンニングしている生徒を見つける。
授業が終わり、教室を出かかったラートは、一人の生徒が他の生徒に突き飛ばされ、転ぶのを目撃する。
その時、その転んだ生徒が持っていた歌手のブロマイドを見つけ押収する。
町のキャバレーでは、人気歌手のローラ・フローリク(マレーネ・ディートリッヒ)が舞台で歌っていた。
その楽屋では、高校の生徒たち2人がたむろしていたが、ラートがやって来たことに気づくと逃げ出す。
歌い終わったローラが楽屋に戻って来ると、そこで待ち受けていたラートが、自分の生徒たちを誘惑しないでくれと抗議する。
ローラは、そんなラートを無視し、次々に楽屋を通過して行く他の芸人たちも、好奇のまなざしと迷惑顔でラートを観る。
ローラは場違いな堅物のラートを面白がり、お行儀良くするならいても良いわとからかって、着替えのため二階に上る。
一人、楽屋で待っていたラートの脇を、次々に芸人や動物が通って行く。
その間、テーブルの下に身を潜めていた生徒は、ローラが残して行ったステージ衣装のパンツを拾い、ラートのポケットにそっと入れる。
ラートの元に戻って来たローラは、私が気になる?とさらに突っ込む。
そこにやって来た奇術師のキーペルト(クルト・ゲロン)が、ラートに挨拶をする。
キーペルトは、ラートがローラのファンだと思い込み、自分が取り持ってあげましょうかなどと話しかけて来るが、その時、ラートは、隠れていた生徒たちを見つけ追い出す。
アパートに戻って来たラートが汗を拭こうとポケットからハンカチを出すと、それはローラのパンツだった。
ある日、2人の生徒はローラと会いに又キャバレーの楽屋に来ていたが、又ラートがやって来たので、楽屋の床から地下室に隠れることにする。
又来てくれたのねとローラは笑顔を見せるが、ラートは間違えてこれを…と、恥ずかしそうにパンツを差し出す。
それを受け取ったローラは、私目当てに来たんじゃないの?と、又からかう。
アイシャドーを塗り始めたローラだったが、そこに店の支配人がやって来て、タネをたんまりもらった客を連れて来る。
ローラは、自分は芸術家よと言い、娼婦扱いしようとする支配人に反発するが、金を払ったと言うその酔った船長がローラにしつこく迫って来たので、それを観ていたラートは出て行け!と怒鳴りつける。
このぽん引きめと言いながら、キーペルとも支配人を殴りつける。
それを冷静に眺めていたローラは、私のことで喧嘩するなんて久しぶりだわと、妙な感心をする。
支配人たちを追い出した三人はシャンパンで祝杯を上げるが、そこに先ほどの酔った船長が呼んで来たらしき警官がキャバレーにやって来る。
それに気づいたローラは、気を使ってラートを楽屋の地下室に隠す。
楽屋に警官を連れて来た船長は、俺はここで殺されそうになったと警官に説明する。
しかし、肝心のラートの姿が見えないので、警官は所在なげだったが、その時「ガキどもを捕まえたぞ!」と叫びながら、ラート自身が地下室から姿を表す。
隠れていた生徒二人を連れて楽屋に上がって来たラートの姿を見た船長は、この男だ!と叫ぶが、ラートは、生徒がタバコを吸っていたことを叱っていた。
ここへ何しに来た?とラートが生徒に問いつめると、先生と同じですと生意気な答えが帰って来たので、思わずラートはビンタする。
そんなラートはおごられたビールを飲むが、生徒たちは、クズ!とラートをののしりながら逃げ帰る。
その直後、興奮しすぎた為か、ラートはちょっと胸を押さえて苦しみ出す。
女芸人たちは舞台に向かい、楽屋に残った奇術師キーペルトは、良い薬を作ってあげると言うと、カクテルのようなものを作りラートに飲ませると、行ってみませんか?特別室へと言いながらラートを誘う。
ステージではローラが歌を歌っている最中だった。
特別席に案内されたラートは、キーペルトからスペシャルゲストだと、他の客たちに紹介される。
ラートはすっかり、ローラの歌に魅了されていた。
翌日、家政婦はベッドにラートを起こしに行くが、ベッドはもぬけの殻だった。
ラートは酔って、ローラのアパートで一晩泊まったのだった。
目が覚めたラートは、オルゴール付きの人形を抱いて寝ていたことと、小鳥の鳴き声にも気づく。
それは、ローラが飼っていた鳥かごの取りだった。
先に起きていたローラは朝食を作っており、ラートを食卓に招くと、一緒に朝食を食べるよう優しく勧めいつでもお茶を入れてあげると言ってくれる。
ラートは、自分が独り身であると明かし、授業があると言うと、ローラはキスをして送り出してくれる。
高校の教室では、生徒が黒板に、すっかりローラに夢中になったラートのことを漫画として描いていた。
そこへ入って来たラートは、いきなり「クズ!」と生徒たちからののしられ、その騒ぎを聞きつけた他のクラスの教師たちまで集まって来る。
とうとう、校長がやって来て生徒たちを教室から追い出すと、ラートに事情を聞く。
ラートは、結婚するつもりだと答えるが、それを聞いた校長は、学校を辞めていただこうと答える。
その後、キャバレーを訪れたラートは、持って来た花束をローラに渡すが、ローラは、来年又来ると言う。
この店を後に、又どこかへ巡業に出かけると言うことだった。
ラートは、プレゼントを持って来たと言いながら、指輪を差し出すと、結婚してくれないか?とプロポーズする。
ローラは、冗談だと思い笑い出す。
ラートはまじめに考えてくれと迫り、冗談ではないと知ったローラは、ラートにキスしてこらえる。
その後、キーペルト夫妻も含め、内々の芸人たちの間だけで、二人のささやかな結婚式をする。
それは、ラートに取って、短く幸せな最後の瞬間だった。
結婚して、ローラの巡業に付き添うことになったラートは、ローラのバッグの中に入った大量の下着姿のブロマイドを発見し、憮然となる。
しかし、それは、売る為の商品だとローラは告げる。
ラートは、自分に金があるうちはいかんと、そう言う下品な写真を売ることを止めさせようとするが、結局、自ら客席を回って、写真を売るはめになる。
しかし、ひげ面でいかめしいラートが客席で相手にされるはずもなく、写真はたった二枚しか売れなかった。
それを知ったキーペルトは、ひげをそれ、先生づらをするなと注意する。
あんなセンスのない客たちに対し頭なんか下げられるかと威張るラートに、そのセンスのない人のお陰で食べてるのよとローラも呆れる。
今や、ローラのヒモのような生活になったラートは、こんな生活より、のたれ死にした方がましだ!とかんしゃくを起こすが、結局、どうしようもなく、ローラの足に靴下をはかせたり、ヘアアイロンの熱加減を調節するしかなかった。
やがて、ラートはピエロのメイクをし、奇術師キーペルトの助手を勤めることになる。
メイクをし終えたラートを観たキーパートは、葉巻を渡してからかい、いよいよ次は、ラートがいた町の「ブルーエンジェル」に行くと告げるが、ラートは、わしは行かん!と拒絶する。
しかし、ラートはもう5年もローラに養ってもらっていた。
「ブルーエンジェル」では、客に不人気だった怪力男のマゼッパ(ハンス・アルバース)が、支配人と口喧嘩をしながら店を去ろうとしていた。
そこに、ローラがやって来ると、その美貌に目を留めたマゼッパは、すぐに彼女に近づき口説き始める。
ローラたちの評判は上々で、切符は売り切れだった。
あの高校教師だったラートも出演するとあって、かつての同僚や生徒たち、さらには副市長まで店に押しかけていた。
ラートはキーペルトからピエロのメイクをしてもらっていたが、そんな中、マゼッパはローラにくっつき、これ見よがしにいちゃついていた。
いよいよ開演ベルが鳴り始める。
それでも、ローラはマゼッパと二人で二階に上がって行くので、苛ついたラートは動こうとしない。
キーペルトは、そんなラートを叱咤激励する。
ローラも、気でも違ったの?舞台に出るのよ!とラートを叱りつける。
先に舞台に出たキーペルトが、かつてこの町で高校教師をしていたラート先生ですと紹介し、ようやく、無表情なピエロ姿のラートが舞台に登場する。
キーパートは、シルクハットから鳩を出してみせる。
客が卵を出してくれとリクエストすると、袖口から卵を出したキーペルト、楽屋でのローラとマゼッパのことが気になって仕方ないラートが、カーテンから楽屋へ戻ろうとしているのを止め、その頭に卵をぶつけてみせる。
その間も、ラートは表情も変えず、じっと楽屋の方を睨みつけている。
楽屋では、マゼッパがローラとキスをしていた。
いら立ったキーペルトから「鳴け!」と命じられたラートは、やけくそのように鶏のまねをし始めたかと思うと、そのまま楽屋へ戻り、ローラにつかみかかる。
ラートは芸人たちに止められ、拘束服を着せられてしまう。
もはやラートの目は、狂人のそれだった。
その哀れな姿を観たキーペルトは、分からん…、あんたのように教養ある人が、女の為に…と絶句してしまう。
その夜、舞台でローラが歌っている間、一人キャバレーから外に抜け出したラートは、かつてローラと出会ったアパートの部屋に向かうが、その部屋のかごに入っていた小鳥は、既に死んでいた。
舞台では、ローラが、何事もなかったかのように歌い続けていた。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
有名な名画らしいが、今回はじめて観た。
世間知らずなまま年を重ねて来たまじめな老教師が、初めて出会った芸人の女に魅了され、職も地位もすべてを失ってしまう哀れさを描いている。
淫らな下着姿で歌う妖艶なマレーネ・ディートリッヒの全盛期の姿が珍しい。
彼女が演じるローラと言う歌手の方は、男扱いに慣れていると言うギャップが悲劇を生むことになる。
彼女にとってはラートとの出会いは、おそらく過去いくつもあった男関係の一つに過ぎなかったが、ラートにとってのローラは、人生に一度だけの運命的な巡り会いだったはず。
ローラの生き方は、最後まで堂々としており、何もやましさはないように見える。
彼女は別に悪女と言うタイプではないと思う。
ただ、奔放なだけだ。
それだけに、ある意味温室育ちで、色んなタイプの人間を知らないまま、そしてそういう多様な人間との付き合い方を知らないまま年を取ってしまったラートの悲劇性が浮き彫りになっている。
いわゆる文芸作だと思うが、今観ても、心打たれるものがある。
まさしく、名作の名に恥じない秀作だと思う。