1961年、宝塚映画、野田高梧脚本、小津安二郎脚本+監督作品。
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バーのカウンターに座っていた磯村英一郎(森繁久彌)が、隣のホステス(環三千世)の持っていたコンパクトを借り、こっちの目、細う見えへんか?と聞く。
そこに、北川弥之助(加東大介)がやって来て、磯村に、相手は7時過ぎに来る。帝塚山のお得意さんに絵を見せて来ると言うてたと伝える。
先方は、阪大の先生だったご主人に先立たれ、男の子があると北川は磯村に説明する。
磯村は、ちょっと席を離れた所から観ていて、気に入ったらサインして合図をすると北側と手順を決めた時、待っていた秋子(原節子)が店に入って来る。
打ち合わせ通り、まずは呼び出した北川が何食わぬ顔で応対し、そこに偶然出会ったように装い、磯村が同席し、北川が二人を紹介する。
磯村は、境川で鉄工所を経営していると名刺を秋子に渡すと、画廊の手伝いをしていると言う秋子に、自分は丑年なので、何か牛の絵はありませんかと聞く。
探しておきますと言い残し、秋子が先に帰ると、残っていた磯村は、オーケーやと北川に返事をする。
秋子は知らなかったが、北川と磯村が勝手に進行していた一方的な見合い相手として気に入ったと言うことだった。
秋子がアパートに帰ると、息子の実に、次女の紀子(司葉子)が勉強を教えてくれていた。
紀子は、お見合いの話があると言い出す。
相手は、父親が銀行の頭取で、ビール会社に勤めている人らしいのだが、自分はまだ結婚なんて考えてないのだと言う。
しかし、秋子は、嫌な人を文子さんは言わないわよと返答する。
久夫(小林桂樹)は、老舗の造り酒屋で仕事をしていたが、そこに、小早川家の長女で妻の文子(新珠三千代)から電話が入り、北側が来ていると知らせて来る。
造り酒屋の近くにある実家の小早川家では、北川が来て、小早川万兵衛(中村鴈治郎)に、秋子には知らせず、一方的な見合いをさせた話をしていた。
相手の磯村と言う男は、亡くなった秋子の元亭主で、小早川家の長男だった幸一と違って、学者肌ではないと北側は説明する。
そこに久夫が帰って来たので、万兵衛は席を立つ。
北川は、紀子さんの話は?と聞いてみるが、久夫は2号はんだと言う。
ある日、会社で仕事中だった紀子は、電話を受けていた同僚の西多佳子(白川由美)から、寺本が2、3日中に札幌に発つと教えられる。
それを聞いた紀子は、そうか…、行かはるのか…とつぶやく。
後日、その寺本(宝田明)の送別会が行われ、紀子も出席していた。
寺本は札幌に行くと、今の大学の助手から助教授扱いになるのだと言う。
送別会の後、駅が一緒だった紀子に、寺本は、4、5年の辛抱だと言われていると教えると、今日は愉快だった、行きとうないなと言う。
ある日、造り酒屋で従業員の山口信吉(山茶花究)と丸山六太郎(藤木悠)が働いていると、ひょっこり万兵衛が立ち寄って、そのままふらりと出かけて行ったので、従業員たちは、最近、大旦那はん、良く出かけはるなと噂し、山口は丸山に、後を付けろと命じる。
しかし、丸山の尾行は簡単に万兵衛に見つかってしまい、甘味所に誘われると、白玉を振る舞われながら、若旦那に頼まれたんやろ?と質問されてしまう。
丸山を追い払った万兵衛は、佐々木つね(浪花千栄子)の店に入ると、番頭が付けて来たと今の話を聞かせる。
つねは、向日町で先に電車に乗っていたらあんたと出会えへんかったと、偶然、19年ぶりに再会したときのことを話す。
万兵衛は、ちょうどその時、競輪から帰る途中だったのだ。
昔、宇治のお茶屋で二人は出会い、つねがはじめて女になった場所だった。
その時に出来た百合子と言う娘が21になったとつねは打ち明ける。
そこに、その百合子(団令子)が忘れ物をしたと帰って来る。
タイピストをやっていると言う百合子は、万兵衛にミンクのストールをねだり、神戸の会社に勤めているジョイと言う外国人を外で待たせていると言いながら、又すぐに出かけて行く。
つねは、万兵衛に酒の肴として「キャビア」と言うものを出してやる。
一方、店に戻って来た丸山は、実は万兵衛に巻かれた振りをして、ちゃんと目的地を見つけており、佐々木と言う家で、そこには44、5の女がいたと山口に報告する。
その話を聞いた山口は、47、8だろう?端唄や、焼け木杭や…と口走る。
その日帰宅した万兵衛は、何事もなかったかのように入浴する。
その様子を観ていた久夫は、文子に自分の小指を立ててみせ、「佐々木つね」と教えると、これやったら、競輪に凝ってた方が良かったとぼやきながらも、あまりきついことは言わん方が良い。あの性格、直らへんでと妻に言い聞かす。
そこに、万兵衛が風呂から上がって来て、今度、嵐山で飯でも食おうと言い出したので、文子は、京都好きですなと嫌みを言う。
昔、母ちゃん泣かすようなこと、又やるんですか?と文子が責めたので、六太郎に付けさすようなことして…と切れた万兵衛は、店のことを相談していただけで、相手は山田君じゃと開き直る。
それを聞いた文子は、そんなに店のことが心配なら、も一回店に行ってくれとしつこく迫ったので、疑うてるのか?なら、行ってくるわと万兵衛は再び着替えると、さあ付けて来い!と捨て台詞を残して家を出て行く。
慌てた久夫を横目に、がま口持ってあらへんさかい、その辺、ぶらぶら歩いて帰って来るだけ。年寄りには良い散歩やと文子はしらっと言う。
その頃、つねが家の掃除をしていると、百合子が、あの人、本当にお父ちゃんか?と聞いて来る。どっちがホンマのお父ちゃんやの?本当のお父ちゃん金あるやろか?ミンクのコート遅いな…などと愚痴る。
そこへ又万兵衛が戻って来ると、着物の尻をはしょって、自分も拭き掃除を手伝いはじめる。
ある日、千草画廊に来た北川は、秋子に牛の絵ありますかと挨拶し、文子ちゃんから話を聞いてくれたか?と尋ねる。
秋子は、もう一度どうです?お母さんの命日、京都の嵐山だそうですねと秋子に聞く。
亡き母の命日に、嵐山にそろった小早川家の人々。
秋子と紀子は窓から外を観ていた。
秋子の亭主だった幸一が死んでもう6年や…と文子がつぶやく。
同席していた北川は、大将(磯村)にも二人子供がいると伝える。
万兵衛は文子に、紀子のことを聞く。
文子は、窓から外の河原に降りた秋子と紀子を観ながら、そんな万兵衛に、京都には他に用事があるのと違いますか?とまたもや嫌味を言い返すのだった。
河原で紀子は、中之島でのデートのことを話していたが、秋子が私なんかおばさんと言ってしまったので、100円要求する。秋子がおばさんと言ったら100円払う二人の間の約束があったからだ。
紀子は秋子の縁談の方はどうなのかと尋ねるが、秋子はまだまだと答えるだけ。
京都から戻って来た夜、自宅で万兵衛は先に休む。
久夫、文子夫婦と秋子、紀子の三姉妹が残っていたが、文子も実を連れて帰りかける。
その時、紀子が、父さんが倒れたと駆け込んで来る。
急いで寝室に向かうと、呆然と万兵衛が布団の上に座り込んでいる。
紀子はすぐにかかりつけの平山病院に電話をかけるが、不在だった。
間もなく、医師の平山(内田朝雄)が駆けつけて来て、後、発作が起こらなければ良いが…と診断する。
紀子は、氷を割っていたが、そこに北川と妻の照子(東郷晴子)夫婦がやって来て、心筋梗塞やて?と聞いて来たので、紀子は思わず泣き出してしまう。
翌朝、山口が丸山に、小早川家はややこしいと解説していた。
万兵衛の弟(遠藤辰雄)と、その下の妹、加藤しげ(杉村春子)も駆けつけていたが、しげなどはスイカを食べながら、まだ万兵衛が死んだ訳ではないので、一度名古屋に帰ろうかなどと兄に話しかけていた。
しかし、文子は、そんな叔父叔母たちに、いて欲しい。いつどうなるか分からんから…と頼んでいた。
そこへ、当の万兵衛が、よう寝たなどと言いながら起きて来て、端唄唄いながら小便などし出す。
その様子を観た文子と紀子は、思わず安心して泣き出してしまう。
その後、何とか回復した万兵衛は、子供とキャッチボールなどするまでになっていた。
実は六甲にハイキングに行っているし、久夫は日曜日なのに仕事に出かけていた。
家に残っていた文子は、やはり、一人で造り酒屋を続けるのは無理らしいと父親に告げ、今まで意地の悪いことばかり言うて悪かったと謝る。
それを聞いた万兵衛は、これでも色々気にかかっていることあるんやと受け流す。
秋子は、二階の紀子の部屋に上がると、紀子は手紙を書いている所だった。
秋子は、あなた、誰か好きな人でもいるんじゃないの?と尋ねると、紀子は、以前、伊吹山に行ったことがあるでしょう?あの時に合った人が、今札幌のいるのだと答える。
誰だって迷うわよね…と言う秋子に、姉さんは、このままずっと?と紀子は聞く。
一方、子供とかくれんぼを始めた万兵衛は、文子の目を盗んで外出用の着物をタンスから取ると、こっそり着替えて、そのまま外出してしまう。
隠れていた子供の方は、もう良いよと何度も声をかけるが、ちっとも万兵衛がやって来ないので、飽きて二階に上ると、窓から、角を曲がって行く万兵衛を発見、拳銃を撃つまねをする。
その後、万兵衛は西大寺通の競輪場につねと一緒にやって来ていた。
しかし、全部すってしまい、大阪行こうとつねを誘っていた。
一方、磯村は又、北川に声をかけられバーで待っていたが、秋子はなかなか来ないのでいら立っていた。
なるべく来ると言うてたと北川が恐縮すると、磯村は、そんなことなら、何で紹介したんや?牛の絵見つけた言うたので来たが、もう2時間も待っているやないかと不機嫌な様子になる。
そんな時、久夫と文子がいた実家に電話がかかって来る。
それを受けた文子は紀子を呼ぶと、困ったことになった。佐々木の家から電話があり、お父ちゃんの具合が悪い言うて来たと話す。
佐々木家では、つねと百合子がいた。
百合子はミンク、損した…とぼやくので、ジョージに買うてもろうたら良いとつねが言うと、そこに、ハリーと言う別の外人が迎えに来る。
百合子は、手を合わせて出かけて行く。
一人になったつねは、万兵衛の死体に団扇で扇いでやりながら、ついてまへんわ…とつぶやく。
そこに、久夫と紀子がやって来る。
出迎えたつねは、医者に来てもらったが間に合わなかった。8時23分どした…。これで終いか…と、2度ほどお言いやした…と伝える。
座敷に寝かせられた父親の死体と出会った紀子は泣き出す。
後日、葬儀場の側の川で鍬を洗っていた農民(笠智衆)に妻(望月優子)が、今日はカラスが多い。又、人死んだんかなと話し合っていた。
しかし、煙突から煙が出とらんなと農民の方が答える。
葬儀場には小早川家の一族が集まっていた。
北川は、造り酒屋は合併か?久夫はサラリーマンになるのか?と文子に尋ねていた。
文子は、頼りないと思うてたけど、小早川家が持ってたんはお父ちゃんのお陰やったんやな…とつぶやく。
外では、秋子と紀子が話していた。
紀子は、みんなが進めてくれる所へ行くのも良いけど、自分の気持ちに正直やなかったらいけないと思う。やっぱり、札幌行こうかしらと打ち明けていた。
それを聞いた秋子は、それが一番だと思う。若いんだし、できるだけ幸せに暮らすことよと賛成する。
一方、山口と丸山は葬儀の打ち合わせをしていた。
そこに、妹の加藤しげがやって来て、何の遺言もなしか…、好きなことやっといて、これで終いかもないもんだと遠慮ないことを言う。
北川は、それを聞いて、人間は最後まで悟れんもんですな…と答える。
身上潰して…、死んでしまったら、何もかも終いやと言い、泣き出したしげにつられ、文子も一緒に泣き出す。
その時、焼き場の煙突から煙が上ったので、その場にいたみんな見上げる。
外にいた秋子と紀子も煙を観る。
川で洗い物をしていた農夫夫婦も煙に気づく。
妻は、若い人やったら可哀想やなと言うと、後から後から生まれてくるわと夫が答える。
妻は、そうやな…、ようでけとるわ…と頷く。
葬儀が終わった親族たちは、長い橋を渡って帰路についていた。
列の最後からついていた秋子は、あなた行っちゃうと寂しくなるわね。きっと行くと紀子に約束する。
紀子は、お姉さん、どうしはるの?この先…と尋ねると、このままが一番良いと思うの…と秋子は静かに答えるのだった。
河原には、たくさんのカラスがいた。
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昭和36年芸術祭参加作品であり、宝塚映画創立10周年記念作品でもある。
長年馴染みの松竹ではなく、「宗方姉妹」(新東宝)、「浮草」(大映東京)に次ぐ他社作品なので、出演者の顔ぶれなどがかなり違っているのが見所。
原節子や司葉子、杉村春子など、すでに小津作品に出ている俳優もいるが、他の大半ははじめてではないだろうか。
森繁、新珠三千代、小林桂樹、宝田明、加東大介、白川由美、山茶花究、藤木悠、団令子…、東宝を代表するような面々と、小津安二郎との真剣勝負を観るような気がする。
ストーリー的には、遊び人の父親の晩年と、その娘たちとの最期の月日の話である。
最期の最期まで好き勝手にひょうひょうと生きる万兵衛と、そんな父親の生き方に強い不快感を示すきつい性格の長女の関係や、万兵衛を本当の父親かどうか疑いながらも、毛皮をねだり、外国人と付き合うドライな現代娘の百合子などが興味深いキャラクターになっている。
又、万兵衛の浮気相手と言う珍しい役を演じている浪花千栄子の、誠実なのか不誠実なのか得体の知れない女も面白い。
原節子演ずる他人に再婚のお節介を焼かれる未亡人と、結婚に迷う司葉子などは、小津作品お馴染みの役所である。