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1963年、日活、平林たい子 「地底の歌」原作、八木保太郎脚本、鈴木清順監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

品川劇場と言う日活系の映画館近く。

女子高生の伊豆トキ子(松原智恵子)は、級友の山田花子(中原早苗)と市川松江(進千賀子)から、侠客に付いて色々質問されていた。

トキ子の父親が侠客だと知ったので、未知の世界に対する好奇心が抑えられないのだった。

そこに、通りかかった着流しで、顔に切り傷のある男が、お嬢さん、学校をさぼると親父さんに叱られますよとトキ子に注意して立ち去って行く。

それを見送った花子は、勝田さんでしょう?ハンサムね、イカすわとうっとりし、去って行く勝田(小林旭)の名を大声で呼びかけたりする。

麻雀屋の「東西荘」に入った勝田は、麻雀の相手をしていた鉄(野呂圭介)を呼び出すと別室で、互いのその日の稼ぎを確認し合う。

最近、賭場の上がりが少ないと嘆く勝田に、訳知り顔の鉄は、最近じゃ、手っ取り早く稼げる競輪競馬に客を取られたんだと言われてしまう。

その頃、トキ子に連れられた花子と松江は、赤い鳥居の所で怖々と中を覗き込んでいた。

気がつくと、片目の不気味な顔をした男が側に立っていたので、肝をつぶす花子たち。

トキ子は、その中にある家の入口付近にいた知りあいのダイヤモンド冬(平田大三郎)に声をかけ、中を見物できないかと掛け合うと、ちょうど自分がやる所だからみて行けと勧められる。

花子らを呼び、中に入ったトキ子は、そこで、片腕のない痩せた男腕文(信欣三)と会う。

腕分は刺青師だった。

その場で、冬の腕に刺青を入れ始めるが、冬は若い娘たちの前であるにもかかわらず痛がり、耐えきれなくなったトキ子と松江は、外に飛び出してしまう。

松江は、家に帰りたがらない花子には、若い新しいお母さんが来るらしいとトキ子に教える。

一人残って刺青を入れるのを観ていた花子に、腕文が、伊豆のお嬢さんと言うのはお前さんかい?と聞き、違うと知ると、素人の娘さんにしては度胸がある。お前さん、ヤクザが好きかい?とからかい半分に聞く。

花子は、ヤクザって?と聞くが、ここにいる冬みたいな男だと聞くと、嫌いではないわと答え、冬は上機嫌になる。

しかし、さすがに痛みに耐えかね起き上がった冬の腕をタオルで冷やすように指示し、腕文が奥へ引っ込むと、伊豆組も最近は大したことがなく、自分がいる吉田組の方が伸びるなどと花子に自慢する。

伊豆組に戻って来た勝田を見たトキ子は、うれしそうに色々話しかけて来る。

壁にかかっている家訓の「赤き着物」の意味を聞くと、戦前、囚人は赤い着物を着ていたのだと勝田は教える。

じゃあ、「白い着物」って?と聞くトキ子に、一家に命を賭ける事だと教えると、トキ子は何だかしらけたようだった。

親分の伊豆荘太 (殿山泰司)は、近々、大山先生が3000万くらいの仕事をくれるそうだとうれしそうに勝田に教える。

それを他に売り飛ばすんだと言うので、いくら賭場の上がりが悪いからって、伊豆組が土建のピン切るなんて笑われはしないでしょうかね?と勝田が苦言を呈する。

伊豆の女房の里子(佐々木景子)も、同じ仕事を狙っている吉田さんに恨まれはしないだろうねと心配し、伊豆を苛つかせる。

それを聞いていた鉄は、吉田組は最近のぼせ上がってますよと親分を弁護するようなことを言う。

ある日、ダイヤモンド冬は、花子を連れて、鉄が壺を振っていた賭場へとやって来て、あれこれ説明し出す。

怖いもの知らずの花子は、イカサマないの?と口に出してしまい、それを耳にした鉄は一瞬気色ばむが、すぐに、花子に一目惚れしたのか、色目を使い始める。

その賭場から帰る客が、待ち伏せしていた警察に捕まってしまう。

すぐに、手が回ったとの知らせが賭場にも入り、客や鉄は、裏の墓から外に逃げ出す。

鉄は伊豆組に駈け戻ると、手入れを食らい、冬が連れて来た娘が捕まったと伊豆に報告する。

それを聞いた勝田は、すぐに差し入れを用意するよう鉄に命じる。

花子は、警察で刑事の矢上(高品格)から尋問を受けていた。

そこに、伊豆と勝田がやって来て、花子を貰い受ける。

勝田は矢上に、誰がサシたんですかね?と耳打ちする。

数日後、釈放された花子は、トキ子に、手首に付いた手錠の痕などを自慢げに見せながら、食堂でお茶を飲んでいた。

今日は映画に行くと、トキ子と別れ外に出た花子に声をかけて来たのは鉄だった。

男を釣って遊ばないかと言うのだ。

興味を持った花子は、そのまま鉄と一緒に列車に乗り、五王町と言う山間の町に降り立つ。

そして、鉄に言われるがまま、列車から降りて来る客の気を引こうとハンカチを駅前で落としてみせたりするが、誰も相手にしない。

そばで観ながら鉄がいら立っていると、一人の中年男が花子に声をかけて来る。

鉄は、青と赤のハンカチで、花子に動きの指示をする。

結局、近くの温泉宿に男と入った花子は、先に風呂に向かった男のことを、窓から勝手に庭に生えていた柿の木から柿をもぎり、それをかじりながら心配する。

待ち受けている鉄に痛めつけられるのではないかと想像したからだ。

しかし、すぐに男が、何事もなかったかのように戻って来て、行こう、君の働く所だと言い出す。

訳が分からない花子だったが、男が言うには、鉄に金を渡したと言うではないか。

美人局をしたつもりが、逆に売られてしまったと気づいた花子だったが、嘆くどころか、面白いわと口にする。

その様子を観ていた男は、その意気、ヒヒヒ…と、不気味に笑う。

後日、伊豆の所にやって来た鉄が、ダイヤモンド冬を成り行きで殴ってしまったと報告していた。

それを聞いた伊豆は、吉田組は今、大山先生のことで、こっちに因縁をつけたがっている時期なので、これでは吉田の思うつぼじゃねえか!と、鉄の軽率な行動を叱りつける。

一緒に聞いていた勝田は、自分が冬の所に行って話をつけてきましょうと提案し、冬の家を知っている鉄に地図を書かせる。

「岩田辰子」と表札がかかった家に着いた勝田は、応対に出て来た女に、冬は在宅かと尋ねるが、弟はまだ戻ってないと言うので、一旦辞去する。

しかし、帰りかけた勝田の心は動揺していた。

今会った、冬の姉らしき辰子(伊藤弘子)には、4年間の信州の宿で会ったことがあったからだ。

その時、辰子は、広間で他の宿泊客たちと五目並べをしていた。

その隣で、同じように碁を打っていたのが勝田だった。

そんな中、一人の男客が立ち上がり、もう碁にも飽きたので、何か面白いことでもしませんかと、その場にいた客たちに持ちかける。

碁石を投げて、畳の縁に乗せられるかどうかを賭けるのですと、その男は提案し、他の客たちもすぐに賛成する。

一勝負千円で始まった座興のはずだったが、偶然参加したような顔の辰子は、驚くべき技を見せ、どんどん客の金を奪って行く。

勝田には、その辰子と男が組んだペテンだとすぐに気づくが、その辰子と一緒に流れてみたい衝動に駆られたのだった。

夜、もう一度辰子の家を訪れた勝田だったが、又冬はおらず、心当たりがあるのでお上がりくださいと言う辰子の言葉に甘え、家に上がることにする。

辰子は、心当たりの所番地を書いた紙を勝田に差し出すと、ビールを勧めて来る。

勝田は思い切って、あなたとは前にお会いしていますと切り出してみる。

4年前の温泉場、ペテン勝負をしている途中で、お前たち、同じことを沼津でもやっていたじゃないか!と抗議する客が現れ、勝負を提案した男は、イカサマがバレたと気づくと、それまで集めていた札束を取ろうとし、それを邪魔しようとした勝田の顔を合い口で斬りつける。

今、勝田の顔の傷は、その時できたものだったのだ。

回想から覚めた勝田は、奥さん、堪忍して下さい!と言うなり、その場で辰子を押し倒す。

暗転

辰子の家を出た勝田は、通り過ぎる黒猫の姿に怯える。

あの時の男の顔がちらついたのだった。

家に帰り、寝ていると、辰子が部屋に入って来たので、思わず抱きしめると、それはトキ子だったことに気づく。

もう朝になっていたのだった。

勝田に思いがけずも抱かれる形になったトキ子は、どこかうれしそうだったが、勝田があわてて用向きを聞くと、花子がいなくなったのだと言い出す。

鉄さんがどうにかしたんじゃないかと聞いた勝田は、すぐに麻雀屋に出かけると鉄を呼び出し、花子をどうしたと問いつめる。

最初はとぼけていた鉄だったが、勝田は、茶店で花子口説いていたじゃないか!と脅し付ける。

その頃、トキ子は、松江から、花子は常々、どうせ水を捨てるようなものだから、バケツをひっくり返すみたいに捨てようかと言っていたと聞かされていた。

子供出来たらどうするの?と聞いたら、必ず出来るものでもないって言ってたと言う。

それを聞いていたトキ子は、何故かうれしそうに、勝田さんが聞いてくれるはずよと言い残して去って行く。

鉄は勝田に、金がないのでつい…と、花子に3万円で美人局をさせたことを打ち明けていた。

それを聞いた勝田は、伊豆組も落ちたもんだ。お前、愚連隊か?と呆れ、金は自分が工面するから、案内しろと鉄をせき立てる。

二人は、花子を売った五王町にやって来るが、鉄は、花子を売った店の住所を書いた紙を忘れたと言い出す。

ますます呆れた勝田だったが、鉄の方は平気なようで、旅館に向かう魚河岸の団体客を見つけると、今夜あたり、何か面白いことがありそうだから、あの宿に泊まってゆっくり探しましょうと提案する。

その夜、宿に泊まることにした勝田の元に、やはり博打をやっているとうれしそうに報告に来た鉄は、お軽八と言う奴がいるそうだが知っているか?と聞いて来る。

勝田は、お軽と言うのは、お軽勘平の話に出て来るお軽と言う女が、こっそり鏡に手紙を映して内容を読むと言うことから来たイカサマのことで、ライターなどの光り物に花札を写して読む、お軽八と言う男の専売特許なのだと教える。

それを聞いた鉄はますます興味を示し、腕を観に行こうとせかす。

蔵の二階で行われていた博打を観に行った二人だったが、予想通り、お軽八()は、光るシガレットケースを時々懐から出していた。

ところが勝田は、そのお軽八の対面に座っていた女を観て驚き、そのまま降りて部屋に戻ってしまう。

それに気づいた鉄も戻って来て、訳を聞くが、入るな!と鉄が近づくのを止めた勝田は、不機嫌そうに、あれは幻灯と言って、あっちに女がいただろう。あの女がお軽八にサインを送っているんだと教える。

それを聞いた鉄は、お軽八のレコ(女)か?と驚く。

そんな鉄が、外をぶらついて来て良いだろう?と聞いて来たので、勝田は黙って、財布を投げてやる。

鉄が出かけた後、もう一度蔵に戻った勝田は、そこにいた辰子と会い、あんたの彼氏と人勝負したいと申し出るが、辰子は断る。

勝田はかまわず、二階へ上がろうとするが、辰子は出て行くように促すために入口を開く。

勝田は、どうしても今夜、勝負がしたいんだと言い張るが、その場は辰子と一緒に一旦部屋へと戻ることにする。

部屋に来た辰子は、あれっきりちっともお見えにならないんですもの…、ひどいお方…と勝田の前で崩れ込む。

こんな所で会えるなんて夢のようですねと言いながら、勝田は辰子を抱きしめキスをする。

その間も、辰子の耳には、夫、お軽八の勝負の時の声が響いていた。

そんな辰子の上の空ぶりに気づいた勝田は、やっぱりお軽八と勝負すると言い出し、蔵へと戻る。

その頃、お軽八は、やっぱりシガレットケースを前に置き、それに花札を写して勝ち続けていた。

勝田が来たことに気づいたお軽八は、疲れたと言い、勝負を止める。

客たちは不満そうに帰って行くが、勝田が一勝負御指南願いたいと申し出ると、お軽八は承知する。

勝負が始まり、階段の下では子分が一人見張っていたが、勝負が佳境に入った頃、辰子が戻って来て、「ヤスケ(夜食)でもお入れになって、お休みになっては?」と言いながら、お軽八と勝田に寿司の差し入れを渡す。

二人は、それを食べながら勝負を続行するが、どうしても勝田は、お軽八に勝つことが出来なかった。

勝田は負けを認めるが、そのとき、お軽八が、醤油皿を寿司桶に戻すのをみてすべてを見抜く。

お軽八は、辰子が差し入れた醤油皿の醤油の表面に花札を写していたのだ。

勝田は、畜生!負けたよ!と、言い捨てて部屋に戻る。

その後、女中が、離れの奥様からと言いながら酒を持って来るが、勝田はきっぱり断る。

女中が困っている所へ辰子がやって来て、自分が相手をすると言い、女中を下がらせる。

先ほどはすみませんと辰子は謝るが、勝田は、あんた、俺をからかっているのか?さっきのあれは何だ?俺も一つ利口になったよと皮肉を言う。

辰子は、お軽八は出かけたと言うと、失礼いたしますと言い残して去って行く。

自宅に戻った辰子は、弟のダイヤモンド冬に、一度、勝田さんと会ったら?と勧めていた。

しかし、冬は、自分もあいつから一度聞きたいことがあるのだが、親父さんに会っちゃ行けないと言われているのだと、吉田から止められている事情を打ち明ける。

聞きたいこととは何かと辰子が聞くと、女のことが聞きたい。俺の女がいなくなったんだと言う。

その後、腕文の所にやって来た冬は、シャバが面白くなくなったとこぼす。

腕文は、伊豆さん落ち目だそうだなと冬に聞き、伊豆さんと吉田さんは兄弟分じゃないかと続ける。

勝田は、鬼若組の中盆をやっているそうじゃないかとも言い、伊豆さんにはもう、新しい賭場を開く力ないのじゃと嘆くのだった。

返事をしない冬の様子を観察していた腕文は、この前の女とうまく行かないんだろう?とかまをかける。

その頃、辰子の家には、冬の親分である吉田大龍(安部徹)が訪ねていた。

冬は来ていますかと尋ねた吉田は、最近事務所に顔を見せんもんだから…と皮肉ると、あんた、勝田にあんまり親切にせん方が良いだろうと付け加える。

帰り際、吉田は辰子に、大山さんに頼まれて来たと言って下さいと言いながらも、勝田には十分気をつけて下さいと釘を刺して行く。

その勝田は、鬼若組で、中盆(札の配り手 、賭場の親を兼ねる場合もある)を務めていた。

そこに、ダイヤモンド冬が姿を見せたので、勝田は代わりを頼み、自分は冬と外に飲みに行くことにする。

勝田は、改めて、鉄のことは大目にみてやってくれと頼むが、冬は、女を隠しているだろう?と花子のことを聞く。

勝田は、落ち目になっても、そんなことはしねえよと言いながらも、そんなに、あの子のことが好きだったのか、知らなかったよと感心する。

一方、冬の方も、姉さん元気か?と聞いて来た勝田に、姉ちゃんのこと好きなんじゃねえか?と逆襲する。

亭主がいるじゃないかと切り返す勝田に、お軽のことか?あんなインチキ、惚れちゃいねえよと答える冬。

しかし、勝田は、女の気持ちは、端で見ているだけじゃ分からないもんだぜと教える。

その頃、辰子は自宅で、お軽八から、勝田って大した人物じゃないか。しょっちゅう来るそうじゃないかと皮肉られていた。

そこに帰宅して来たダイヤモンド冬は、イカサマ博打が出来なくて悪かったよと、義兄のお軽に頭を下げて行く。

お軽は、花札の中に、針の芯を仕込んでいた。

そんな中、縁側に立った辰子は一人泣いていた。

その後、辰子は、弟のことでちょっとと、勝田の家に一人やって来る。花子さんのことで、みっともないくらい落ち込んでいるので、あなたにお聞きしたいと…と切り出した辰子だったが、応対した勝田は、よほどこの勝田をアホとお思いでしょうか?伊豆の端を話せと言っているようなものじゃないですか。後は、伊豆組と吉田組の話ですと答える。

そのとき、伊豆組の子分が駆け込んで来て、鉄が冬に刺された。今、親父さんの所だと連絡に来る。

その間隠れていた辰子は、出かけようとする勝田にすがりつき、私たち、どうにもならないんでしょうか?と聞きながら泣き出す。

伊豆組に寝かされていた鉄は、葬儀屋を呼んでくれなどとわめいていたが、勝田が布団をはいで調べてみると、右足の太ももに軽い傷があるだけであることが分かる。

それまで深刻ぶっていた伊豆里子や子分衆は拍子抜けする。

伊豆は勝田に、鬼若でどういう行動を取れば良いのか良く考えろ!とねちねちと叱りつけるが、勝田は、大山先生は、仕事をくれないじゃないですかと言い返す。

その後、勝田は、吉田組に出向き、会長に会わせてくれ。たまには、家に顔を見せてくれても良いんじゃないか?と頼むが、応対に出て来た子分は、勝田を嘗めたように、お前のような奴が会長に口上を言えるか?とあざけり、会わそうとしない。

それを聞いた勝田は、そう言うことが言えるのは、仁義の分かる渡世人の話だ。同じ盃をすすった兄弟分の足を引っ張るようなことしねえだろ。義理知らずには通用しない話だと。いくらのぼせ上がった吉田組でも、そのくらいの通りは分かるだろう?と言い残して帰る。

その後、又、鬼若組に戻り、中盆を勤めていた勝田は、10万貸せと、鬼若組の若い衆に因縁をつけて来た男に気づく。

子分も勝田も断ると、男は、子分に日本刀を持って来させ襲いかかって来る。

一瞬早く部屋を抜け出した勝田は、自分も日本刀を持ち出し、どうせヤクザは、赤き着物か白き着物だ…とつぶやきながら、二人の男をその場で叩き斬る。

その途端、賭場の障子が一斉に外側に倒れ、真っ赤な背景が見える。

赤い幕が下に落ちると、その向こうは雪だった。

ドスを持った勝田は、その足で吉田組に乗り込むと、書斎にいた吉田が机の引き出しから拳銃を出そうとしたのを牽制し、ドスを机の上に突き刺すと、今、二人斬ってきましたと言いながら、吉田の拳銃を奪うと、背後の子分の一人を撃つ。

撃ったり、斬ったりと言うのは、何かの弾みでもないと出来ませんよね?と言う勝田の希薄に飲まれた吉田は抵抗をやめる。

会長さん、この刀は預かってもらえませんか?あんたの兄弟分、伊豆の守り刀にして欲しいと頼み、吉田が承知すると礼を言い、これで、伊豆への義理も果たせますとつぶやく。

その後、吉田は、料亭で芸者とツイストを踊っていたダイヤモンド冬に会いに来ると、勝田の奴、大したことをやったぜ、鬼若の所に来た奴を二人斬ったとを教えると、ヤクザは10年臭い飯を食ったら良い顔になると言い、冬の年を尋ねる。

冬が20歳だと答えると、10年、ムショに入っても、まだ30か…と意味深なことを言い出す。

どうせやるなら、伊豆くらいの奴をやらなきゃなと、吉田は冬の顔をじっと見る。

その頃、伊豆は、勝田が刃傷沙汰を起こしたことを自慢げにヤクザ仲間たちに話していた。

他の親分衆は、鬼若一家は全部、挙げられたそうじゃないかと聞く。

そのとき、磯川と言う親分が、ヤクザが好きだと言う女が来ているが、この中でまだ妾がない奴はいないか?と聞きに来る。

場の雰囲気から、一番上機嫌だった伊豆の名前が挙がり、伊豆もまんざらでもなさそうだったので、磯川がその女を連れて来る。

女は、あの山田花子であった。

トキ子の同級生の山田花子だと名乗ると、顔を思い出したのか、それはダメだと怖じけずいた伊豆だったが、花子は、何がだめなんです?やってみるわと平然と言い出す。

その後、花子ともう一人の親分と飲んでいた伊豆の部屋に、突然入って来たダイヤモンド冬は、その場で伊豆を射殺する。

興奮状態だった冬は、知りあいの親分とあれほど探していた花子が、その場にいることに気づき動揺する。

冬は、10年待ってくれ、否、7年かな?俺も良い顔になると花子に迫るが、花子は、あんたいくつになる?あんた間抜けね。10年も経ったら、ヤクザも世の中も変わっているわと嘲る。

その冷たい言葉を聞いた冬は、俺が好きじゃなかったのか?と驚くと、たった1、2度会っただけじゃないと花子は冷笑し、今日、自分は伊豆と一緒になったのだと教える。

呆然とする冬に、伊豆は白い着物着ちゃったし、あんたは赤い着物を着るんでしょう?伊豆の歌って傑作だわ。敷島の大和男子の行く所、赤き着物か、白き着物か…と歌いながら、さっさと部屋を去って行く。

警察署

矢上は、収容されていた勝田が呼ばれて来ると、面会に来ていた辰子に、10分ばかり、この部屋をあなたに任せましょうと言うと、気を利かして二人きりにしてくれる。

辰子が来ているのを知った勝田は、奥さん、あんた、こんな所に来ちゃ行けない!と注意するが、辰子は、あなたに召し上がっていただきたいと、お寿司を持ってきましたと応ずる。

その時、矢上はあわてて戻って来て、伊豆が三発撃たれたぞ。相手はダイヤモンド冬と言う奴だと勝田に教える。

矢上は、辰子が冬の弟と言うことを知らなかったのだ。

それでも、話を聞いた勝田は、そうですか…と頷くと、動揺する辰子に対し、お寿司ごちそうになりましょうか?と声をかけ、矢上にも勧める。

矢上は、ま、これもしようがないだろうな。お前は、一体誰のために身体を張ったと言うことになると気の毒がるが、勝田は、私は後悔していませんよときっぱり言う。

人を斬ったのは渡世の意地。親父さんがどうなろうと、私は仁義の道を全うしたんだと勝田は続ける。

その後、勝田は護送車で移送されて行く。

お軽八は、自宅で辰子から酌をされながら、これで冬も良い顔になる。吉田さんが面倒みてくれるだろう。甘いもんでも差し入れてやれ。ついでに、勝田にも差し入れしてやったらどうかねと勧める。

縁側に出た辰子は、又一人で泣き出す。

刑務所に収容された勝田は、独房の中で静かに正座していた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

野口博志監督「地底の歌」(1956)に次ぐ、平林たい子原作「地底の歌」の二度目の映画化。

任侠ものだが、鈴木清順監督作らしく、冒頭の女学生同士のアップの会話から、意表をついた演出が楽しめる独特の作品になっている。

とは言え、晩年の観念的な映画とは違い、一応のストーリーはあるので、鈴木清順作と知らないで観れば、ちょっと異色の演出だなと思う程度で、気がつかないかもしれない。

小林旭がストイックな任侠を演じているのも珍しいし、どちらかと言うと端役的な役が多い野呂圭介が意外と重要な役所を演じているのも見所である。

松原智恵子など、まるで子供扱いのような雰囲気すらある。

お軽八を演ずる伊藤雄之助や、腕文の信欣三、吉田大龍役の安部徹などは、さすがの存在感である。

本作で珍しいと言えば、ヒロインを演じている伊藤弘子と言う女優に馴染みがなかったことである。

松竹や大映など、各社で少しずつ映画出演はあったようだが、ほとんど記憶がない所を観ると、映画会社所属の人ではなく、フリーの人だったのだろう。

どちらかと言うと、脇役タイプの風貌のような気もするが、この作品では、旭が溺れてしまう謎めいた女と言う役所を演じている。

鈴木監督の好みだったのかもしれないが、ヒロインとしてはちょっと地味すぎるような印象がある。

継母が出来ることに反抗し、家を飛び出て、ヤクザの世界に平然と飛び込んでしまう山田花子と言うキャラクターが強烈である。