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1982年、松竹+角川春樹事務所、つかこうへい原作+脚本、深作欣二監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

東映京都撮影所では「新撰組 魔性剣」の撮影真っ最中だった。

撮影所は不思議な空間で、セットの上に暗幕を貼り、昼を夜にするくらい朝飯前。

坂本龍馬役の橘(原田大二郎)が、新撰組相手に派手な芝居を始める。

売れっ子の橘は、この後、東京でテレビ撮りがあると言うので、助監督(清水昭博)が後10分くらいで終了してくれと監督(蟹江敬三)に声をかけていた。

橘は、芸者役の女優を掴むと、キッスを知っているかなどとアドリブを言い、好き勝手な芝居をする様子を、脇でいら立ちながら観ていたのは、土方歳三役の倉岡銀四郎(風間杜夫)だった。

銀四郎は、取り巻きの弟子たちに、今日の橘が10カット撮るのに、自分のカット数は7つしかないと聞くと期限はさらに悪くなり、弟子たちに耳打ちする。

いよいよ、銀四郎の出番になると、銀四郎がキャメラ前に立ちふさがり、わざとキャメラ目線で、長々と臭い芝居を始める。

これを観た橘は怒り、キャメラマンも、途中でフィルムチェンジを要求し、お前の芝居が臭くて長いからフィルムがなくなるんだと銀四郎を睨みつける。

そのシーンが終了した橘は、帰り際、監督に、次からあの臭いのとは別カットにしてくれと耳打ちしてスタジオを出て行く。

それを聞いていた銀四郎は、別カットになった方が俺のアップが多くなると弟子たちに伝える。

クライマックス用の大階段のセットを作りかけていた別スタに監督を追って来た銀四郎は、このシーンの中止なんてあり得ませんよねと確認していた。

しかし、渋い表情の監督は、危険すぎると警察の方から待ったがかかってしまったと答えると、階段落ちがない映画なんて誰も観ませんよ。これは俺の映画だ!と思わず、銀四郎は声を出してしまう。

それを聞いた監督は、俺の映画だ!と叫び返し、おっこってくれる奴がいないんだ。心当たりないかな?銀ちゃん。昔のスターさんなら、周囲にそう言う事を進んでやる弟子が5、6人はいたらしいけどね。お互い、悪い時、映画界に入ったものね。安全第一で階段を3分の1に切りましょうとぼやいて出て行く。

銀四郎は、不機嫌なままスタジオの外に、弟子たちを従えて出るが、そこにマジックインクを差し出してサインを求めて来たのが朋子(高見知佳)だった。

銀四郎が弟子たちに色紙を出させようとすると、彼女はミニスカートから右足を大胆に差し出す。

銀四郎の目が輝き、朋子の右足にサインをすると、彼女は喜んで礼を言い、自分の車に乗り込もうとする。

その姿を目で追いながら、電話番号聞いたな?と銀四郎が突然言い出したので、すぎに気づいた弟子のヤスこと村岡安次(平田満)が走り出し、動き始めたともこの自動車のボンネットに飛びつくと車を停め、彼女から電話番号を聞き届けると、その場で、両手で丸の印を作って銀四郎に知らせる。

急に機嫌が直った銀四郎は、弟子たちを連れ、王将のマークを描いた下品で派手なキャデラックに乗って、夜の町に繰り出す。

途中、調子に乗った銀四郎は、免許も持ってないのに、運転させろなどと悪のりするが、並走して来たパトカーの警官に注意され、謝る。

バー「宍戸」に来た銀四郎は、一時間経っても、誰も自分にサインを求めて来ない事から、俺って売れてねえなあ~と泣き崩れていた。

さらに立ち上がった銀四郎は、バーのママに、この「倉岡銀四郎」が飲んでいる店の名は何と言うんだと、何度も「倉岡銀四郎」の所を協調しながら店中に叫び、誰も返事をしない事を知ると、急に酒瓶の酒をカウンターにぶち撒けながら、店に火をつけるぞと脅し出す。

そのあまりの狂乱ぶりを観かねたヤスは、近くにあった包丁をカウンターに突き刺すと、銀ちゃん、一体何が気に入らないんです?と諌める。

銀四郎は急にその場に嘔吐する。

泥酔した銀四郎をマンションに背負ってやって来たヤスは、ベッドの上に寝入った銀四郎を置くと、靴下を脱がせて洗濯機の中に入れるが、その時「電気を消して」と言う御あの声が暗闇の中から聞こえて来たので驚いて声を主を捜す。

部屋の隅で椅子に座っていたのは、売れなくなった女優の水原小夏(松坂慶子)だった。

ヤスも彼女が最近、銀四郎につきまとっていたのは薄々知っていたが、後は自分がやるから帰ってと言われたので黙って帰る事にする。

ヤスが帰ると、ベッドで眠る銀四郎の側にやって来た小夏は、壁にかけてあったモデルガンを手に取ると、銀四郎に銃口を向け、撃つまねをする。

太秦荘

ヤスは。汚いヤスアパートの一室で、殺陣の稽古をしていた。

そこに突然、ドアを開け、拳銃を乱射して来たのは銀四郎、ヤスはとっさに撃たれた受け芝居をする。

上機嫌に入って来た銀四郎は、汚いななどと言いながら、ヤスの部屋から布団やテーブルを窓から外に放り投げる。

ヤスが驚いて下を見ると、お馴染みの銀四郎のキャデラックの横に、着ぐるみ人形が立っている。

弟子のマコト(酒井敏也)が中に入っており、周囲を見張っているのだと銀四郎が説明する。

ヤスが、突然の銀四郎の訪問に驚いていると、女、連れて来たと言う銀四郎の後ろから着いて来たのは、あの小夏だった。

ヤスの部屋に貼ってあったジェームズ•ディーンのポスターを誰だこれ?はちまきでも巻いて、たこ焼きでも焼かせたい奴だなと放言する銀四郎は、ヤスのズボンを脱がして龍が二つの金の珠を握っている派手な絵柄のパンツを小夏に見せながら、こいつら俺の事、「竹を割ったような性格」じゃなく「餅をついたような性格」と言ってやがるんだなどと冗談を言い、終止不機嫌だった小夏を笑わせる。

さらにヤスに、お前、先ねえよな?実は専務から呼ばれて、来年のカレンダーの正月、俺で行こうと言う事になったし、レコードも出す事になった。社運を俺に賭けるって言うんで、身の回りの整理をしてくれって言われたんだが、四ヶ月、こいつの腹…と良いながら、一枚の紙を銀四郎は渡す。

これ、婚姻届じゃないですか!小夏さんの気持ちも聞かないと…と驚くヤス。

その時、突然、雷鳴が轟き、にわか雨が降り始める。

この頃、俺とは組みたくねえって言う役者やスタッフがいるし、この東映を、俺みたいな男が一人で背負えるか?と弱音を白銀四郎。

小夏、妊娠しているから銭湯なんか行けねえんだから、風呂付きのアパートに替わってやれよと迫る銀四郎に抵抗できず、承知をしたヤスだったが、すると突然、銀四郎の態度が豹変し、お前、そんなに女に不自由していたのか?お前の仕事、全部、俺が頭下げて取って来てやっているんじゃねえか。お前才能あるのか?と難癖をつけながら、ヤスに殴り掛かって来る。

そして、その場で小夏にむしゃぶりついた銀四郎は、小夏の胸をはだけ、押し倒したので、耐えきれなくなったヤスが部屋を飛び出そうとすると、観てろって言ったろ!と銀四郎に怒鳴られてしまう。

ヤスは、目をそらせたまま、ドアの所にうずくまるしかなかった。

雨の中、銀四郎はキャデラックに乗り込み帰って行く。

ヤスの部屋に残された小夏は、銀ちゃん、私、どうしたら良いのよ…と途方に暮れる。

ヤスは、銀ちゃんも時々、罪な事をするんですよねと慰め、婚姻届はどうします?と聞くと、破って良いと小夏は言う。

でも、銀ちゃんに叱られますからと良いながら、婚姻届をポケットに仕舞うヤスの姿を見ていた小夏は、あんた、さっき観てたでしょう?気○いじゃないの?と呆れるが、ヤスは、タンスの扉を開け、扉の裏に貼ってあった「幻の女」と言う小夏の初主演作のポスターを見せながら、昔から好きでしたと告白する。

小夏は、私、このおなかの子の父親になってくれるんだったら、誰でも良いわとヤケになりながら部屋を出ようとするが、その足にしがみついて出て行かせまいとするヤス。

小夏はその途端、気絶して部屋の中に倒れ込んでしまう。

往診してもらった医者の話では、妊娠中毒症と言う事で、入院しますか?と聞かれたヤスは、入院すると、もう帰って来なくなるかも…と心配する。

それを聞いた医者は、あなた、このおなかの子の父親でしょう?と聞くので、ヤスは、ハイ!正真正銘の父なんですが…と言葉を詰まらせる。

結局、小夏は「右京産婦人科」に入院する事になる。

翌日から、ヤスは危険な役を次々に引き受け始める。

エキストラを募っていた山田(汐路章)が驚いていると、ヤスは、これが(と小指を立て)これなもんで(と、おなかが大きくなったジェスチャー)と説明するので、同情した山田は、ヤスに台本を渡しながら、この仕事、3000円上乗せしてやると付け加える。

寝ていたお姫様(志穂美悦子)が賊に襲撃され、立ち向かうアクション時代劇に出たヤスは、一旦切られて廊下に出ると、負傷した片足を引きづりながら、急いで眼帯をつけると、次のシーンでも自分を使ってくれと名乗りを上げる。

スタッフが、今切られたばかりじゃないかと注意をすると、これがこれなもんでと、又例のジェスチャーをしてみせ、お姫様役の女優も、ヤスさんの方がやりやすいからと言ってくれたので、斬られた後、窓から庭に飛び出る演技をし、キャメラにぶつかって怒鳴られたりする。

続いて、連獅子の白髪に般若の面を付けた若手俳優(真田広之)が演ずるヒーローが出演する時代劇に出たヤスは、庭に転がり出た瞬間、庭石のセットに頭をぶつけ、大きなたんこぶを作ってしまう。

主役(千葉真一)が、派手にマシンガンを撃ちまくる現代劇では、ビルの上から飛び降りるスタントを演じ、半死半生になったヤスだが、無理して、大丈夫と上の階にいたスタッフに応えると、もう一回と言われてしまう。

無事退院する事になった小夏を病院に迎えに来たのは、満身創痍になったヤスだった。

小夏は、ヤスと戻ったアパートの部屋の中が、前とは見違えるようにきれいになっているのを観て驚く。

新しい家電やベッドまで用意してあるではないか!

ヤスは恥ずかしそうに、小夏さんに気に入ってもらえるよう、全部、月賦でそろえた。明日は洗濯機が来ますと言い、自分は押し入れの中に入ろうとする。

あんた、その洗濯機買うのに一体どんな事したの?と呆れる小夏に、京都タワーから飛び降りると、10000円もらえる。俺のスタント、他の連中と違って哀愁があるって言われるんですよなどと言うヤス。

そこに、いきなり銀四郎がやって来る。

朋子が、俺の事を理解できないと言っているので、自分の事を一番良く知っている小夏に、朋子に会ってくれないかと頼みに来たのだった。

あまりに自分勝手で、小夏の気持ちなど無視した行動に、さすがのヤスも、「銀ちゃん…」と注意しようとするが、銀四郎はそんなことにはかまわず、今度の「新撰組」が失敗したらどうする?専務が言うには、朋子は関西興行界の実力者の娘でアメリカ留学しており、英語がしゃべれるんだよと自慢するだけだった。

プールにいた朋子は、会いに来た小夏に、最近銀四郎さん、はげて来たと思わない?前に、私がはげた方が良いと言ったら、急に銀四郎さんが、だったら禿げてやると言い出し、自分の髪を抜き出したので…と笑うので、あの人は、子供がそのまま大人になったような天真爛漫な人だから、結婚するんだったら、良く理解してあげてと小夏はアドバイスする。

その時、当の銀四郎がやって来て、テニスがやりたいと言ってただろうと朋子に言い、用意して来たテニス用具などを見せると、水着姿だった朋子の手を引き、小夏はそのまま無視したまま、テニス場へと向かう。

その後、銀四郎のマンションにやって来た小夏は、散らかり放題だった部屋の中や台所を掃除すると、買い物をしてヤスのアパートへ帰って来る。

何かおいしい物でも作ってあげようと思ってと小夏が言うと、ヤスは、そんな事、俺がやりますと食材が入った袋を受け取ろうとするが、小夏は自分がやると言う。

その時、部屋の電話が鳴ったので、それに出た小夏は、それが、ヤスの田舎である人吉母親からの連絡だと知る。

どうやら、ヤスは故郷の母に、自分を連れて帰ると伝えていたらしいのだ。

電話を切った小夏が、あんた、本気なの?私と結婚するつもりなの?と聞くと、ヤスは、ただ…、俺、大部屋だし、稼ぎもない。俺の口からは言えないんですよね…と口ごもるので、小夏は、ちゃんとプロポーズしてよ!と迫る。

ヤスは、じゃあ、結婚して下さいと答え、小夏は、じゃ会って何よ?お受けしました。大事にしてよ。私、めちゃくちゃ甘えるからねと応える。

さらに、田舎の人、私のおなかの子、あなたの子じゃないって知ってるの?あんた、絶対に後悔しないでよとヤスに確認する。

その後、ヤスと小夏は日吉に向かう。

駅には、村中の人たちが総出で出て来て、二人を大スターのように歓迎する。

実家に戻ると、母親(清川虹子)がうれしそうに二人を出迎える。

亡き父親の位牌を二人して拝む時、小夏は、お父さん、小夏です。どうか、立派な赤ちゃんを授けて下さいと手を合わせるが、その時、ふと横に座った母親の顔を見ると、母親は複雑な表情をしていた。

夜、母親の背中を流してやった小夏に、母親は、ヤスのために100万円用意してあるので、何かあったら、アメリカへでも行けば良いと話しかけ、ヤスのどこに惚れたんだと聞いて来る。

まじめな所ですと小夏が答えると、裏切るような事だけはせんといてね。うちはかまわんよ。おなかの子が誰の子でも…と母親は続ける。

わしが若くても、ヤスなど選ばん。ばってん、やさしか所はある。あれが中学1年くらいの時、わしが入院した時、毎日、往復5時間も歩いて病院に来ては、わしの身体を拭いてくれた。別れんといてねと言いながら、母親は小夏にすがりついて来る。

蚊帳の中に敷かれた二つの布団の片方に寝た振りをして待っていたヤスだったが、そこに入って来た小夏は、自ら枕を横にくっつけると、飛び起きたヤスの布団の方に寝て、ねえ、こっち来て、私たち、夫婦になるんでしょう?と誘う。

ヤスも、そうですねと言いながら、小夏を抱くが、赤ちゃん、大丈夫かな?と心配する。

小夏は、そんなヤスに、ねえ、銀ちゃんって、どんな顔してたっけ?顔覚えてない…、女って薄情ねとささやきかける。

後日、東映京都撮影所に弁当を持って来た小夏は、メイク室の顔なじみトクさん(岡本麗)に挨拶に来る。

トクさんは、本気で結婚するの?と小夏に聞いて来る。

式、来週なんだけど、来てくれる?と小夏が誘うと、止めといた方が良いんじゃない?おなかの子、ヤスの子じゃないんだろ?男なんて、いつまでもそう言う事を気にするんだよね。特に、大部屋なんて、一旦入ったら、性根腐ってしまうんだって…と、トクさんは心配する。

その後、小夏は、ヤスら、銀四郎の弟子たちの部屋に来ると弁当を振る舞う。

もう、すっかり小夏の亭主になりきっていたヤスは、結婚式は、マコト、勇二(萩原流)、太(高野嗣郎)ら、そこにいた仲間に手伝ってもらうと小夏に伝え、トメさん(榎木兵衛)は、岩田帯を小夏にプレゼントする。

撮影開始時間になったので、ヤスたちはスタジオに向かい、小夏は一人帰る時、ふと、見慣れたキャデラックを見つけ、その方へ近づいてみると、車の陰で銀四郎が寝ているのを発見する。

気軽に声をかけた小夏に、夜まで「待ち」になったんだと言いながら起き上がった銀四郎は、銀ちゃん、来てくれるんでしょう?式にと誘う小夏に、最近、俺の出番、どんどんカットされてくんだよなぁ…と愚痴を言い出す。

朋子の事を聞くと、部屋の掃除も何にもしないし、以前のようなゴミだらけの部屋で、スティービー・ワンダーなんかがんがんかけるんだ。どっちかって言うと、津軽海峡冬景色の方が合ってる俺なんかには耐えきれないぜとぼやく。

そんな弱気な銀四郎を観ていた小夏は、私、何だか、戻りたくなっちゃうじゃないと言い出す。

式の段取り決まったか?と聞いてきた銀四郎は、俺が代わりにやってやると言い、ヤスの代わりに小夏の手を組むと、セットに組んであった大階段を登ってみせる。

さらに、ライトを次々に小夏に当てながら、でも、誰もそこにはいないんだよと言う銀四郎は、花婿を捜せ!と言うと、そこにスポットライトが当たり、そこにいるのは真っ白なタキシードを着た俺なんだと言いながら、自分が明かりの中に立ってみせる。

戸惑う小夏に、俺だと、やりかねないって思わないか?と言いながら小夏に近づくと、持っていた指輪を小夏の指にはめ、4カラット、マンションを売り払った金で買い、3000万もしたと言う。

どう言う事なのよ?と困惑する小夏に、一緒になるんだよ、俺と。結婚するんだ、俺たちと銀四郎は言う。

小夏は泣き出す。

俺たちは、腐れ縁なんだとうそぶく銀四郎に、私、少しずつ好きになっているの、ヤスさんの事。

銀四郎は少しいらつき出し、キャデラックに近づきながら、それじゃあ、答えろ!俺と一緒になるのかならないのか?動転しているんだよな?こんな色男から突然プロポーズされて…と問いかけるが、小夏は指輪を自分で抜くと、私、人吉に行って、お母さんに頼まれたの、あの人を裏切っちゃいけないと思う。

女には何より、いつも一緒にいてくれる人がいるのよ。銀ちゃん、一緒にいてくれないじゃない!と責める小夏。

車に乗りながら、後悔しないのか?と最後の言葉を投げかける銀四郎。

後悔するわよ!でも、さようなら…と答える小夏。

銀四郎は、そのままキャデラックに乗ってスタジオから去って行く。

暗がりの中で一人取り残された小夏だったが、突然、ウエディングマーチが鳴り響き、いつの間にか、ヤスや仲間たちが全員正装で小夏の周囲に集まって来る。

何事かと思う間に、小夏はウエディング姿になっており、白のタキシードを着たヤスと並んでレッドカーペットが敷かれた大階段を登って行く。

飾りつけた車に乗って、二人の新しいマンションに戻って来た二人。

一緒に送ってくれた仲間たちは、部屋まで来るとみんな気を効かせて帰って行く。

二人きりになると、小夏は、私たち、結婚したのね、うれしい!と感激し、ヤスも、こんな俺でも、万年大部屋で一生うだつが上がらない俺でもかい?と聞くと、小夏はありがとうと言ってキスをするのだった。

ある日、新撰組のセットに来た橘は、助監督から、待っていただけませんか?と言われる。

銀四郎が行方不明になっているらしい。

橘は、肥だめ野郎が逃げ出したんだよとあざけり、弟子たちは柄の抜けた肥柄杓だと大声でバカにし出したので、近くで聞いていた勇二やトメさんらは、ヤスを呼べ!と仲間に電話をさせる。

自宅マンションで、電話を受けたヤスは驚き、自転車に乗って、銀四郎を探しに駆け回る。

パチンコ屋でも見つからず、テニス場でも見当たらなかったが、その時、ヤスは、あの派手な銀四郎のキャデラックが停まっているのに気づくと、その側の廃工場に入って行く。

すると、二階の入り口に布が垂らしてあり、「入るな!銀四郎 ここに眠る!」と書かれてあるではないか!

驚いて、中に入ってみると、そこには新撰組の衣装を着た銀四郎が首つりしたいた。

しかし、良く見ると、それは人形だった。

何しに来たんだ!と声をかけたのは、部屋の横で寝そべっていた銀四郎本人だった。

銀四郎は、ヤスよ…、俺はもうダメだ。正月のポスター、橘になった。お盆の映画も中止だ。朋子とも別れちまったし…、新撰組も橘の映画だよ…、せめて、階段落ちのシーンでもあれば、俺の見せ場ができるんだがと言うと、イメージはもうできているんだと立ち上がる。

クレーン2台、ハイスピード、手持ちカメラ横移動、こりゃ、良い絵になるぞ。俺は一世一代の良い顔するぞと高揚した表情で語る銀四郎だったが、だけど、もうパーだとがっくり肩を落とす。

会社はビビる。監督は匙を投げる。今日、正式に中止になったよ。そりゃそうだろう。人一人死ぬかも知れねえってヤバいシーンだ。俺、やる気なくなって、それで、土方に首つりさせたんだ。俺たちは、ばかばかしい夢、観続けてたのかも知れねえな…と銀四郎が暗い顔をするので、ヤスは、分かりました!俺がやりますと言葉をかける。

銀ちゃんののるかそるかの瀬戸際じゃないですか。俺がやらなくてどうするんです。みんな待ってますから、俺、先に行きます!と部屋を飛び出して行くと、撮影所に戻る。

セットでは、階段のセットを美術さんが途中から切ろうとしている所だった。

監督に近づいたヤスは、俺に階段落ちをやらせて下さいと声をかける。

しかし、監督は、調子に乗るな!本物のスタントマンでもないくせにと相手にしない。

ヤスは、会社に一筆書きます。俺、金がいるんですと訴えると、急に気が変わった監督は、のこぎりを持っていた美術さんに、待て!このまま完成させるんだ!この大部屋さんが落ちて下さるそうだと叫ぶ。

そしてヤスの肩を抱くと、会社に掛け合って危険手当100万もらってやるよと力づけるが、その直後、言っとくが、落ちる時振り向くなよ。落ちる時、振り向く奴なんていねえだろ?どうせ、振り向いたって、死ぬ時ゃ死ぬんだと冷酷な事を付け加える。

その後、マンションにいた小夏は、生命保険の営業マンに書類を見せられ困惑していた。

そこに、泥酔したヤスが帰って来て、生命保険の書類にはんこを押してしまう。

一緒について来た仲間たちにも、お前たちも受取人になっているから安心しろなどとヤスが言うので、切れた勇二は、10年前の「新撰組始末記」で階段落ちした高岡さん、まだ半身不随で寝たきりなんだぞと説教する。

しかし、ヤスは、何もかも銀ちゃんのためなんだ。誰のお陰で俺たち、ここまで生きて来れたんだ?とわめき、小夏が、銀ちゃんに止めさせてもらうと電話をかけかけると、ヤスは思いっきりビンタし、まだ、銀ちゃん、信用しているのか?帰れよ!銀ちゃんの所に!と怒鳴りつける。

もう手遅れなんだ…、今更止められるか?社長も監督も、俺の手を握って、活動やの精神、未だ死なずって泣いてんだぜ?…ヤスは力なく、そう続けるのだった。

翌日、階段のセットにやって来たヤスは、階段を上ってみるが、そんなヤスに監督は、当日はお前が主役だと言い、さっき、銀ちゃん来てよ、ヤス、こんな所から落ちるのかって泣いてたぞと美術さんも声をかける。

この様子を入り口で観ていた橘は怒り、殺陣師に3人くらい殺す派手な事考えるように言っとけと弟子たちに当たり散らす。

弟子たちは無邪気に、いっその事6人くらい殺しちゃどうでしょうなどとお愛想を言うが、お前らみんな死んだら、誰が俺の世話をするんだと橘が切れると、殺されるのは自分たちの事だと気づき青ざめる。

スタジオの外に出たヤスは、見慣れたキャデラックに乗った銀四郎の姿を見かけたので、うれしくなって近づくが、銀四郎は、とうとう俺を人殺しにしやがって…とつぶやくと、車を走らせて行ってしまう。

その銀四郎の反応に呆然として立ち尽くすヤスに、勇二は、あれで気の弱い所あるからよと慰める。

その夜、マンションで夕食の準備をして待っていた小夏は、又泥酔したヤスが、見知らぬ客たちを大量に連れて来たので驚いてしまう。

誰なんですこの人たち?と聞くと、ヤスは保険金の受取人だと言う。

小夏は帰って下さいと頼むが、客の一人が、こいつが来いと言うからつい来て来たのにと怒ったので、小夏は棒を振り回して暴れる。

呆れて客たちが帰ってしまった後、小夏が夕食を作り直すと言うのを、いらねえよと腰を上げ、屁をひったヤスは、それを手で払う振りをした小夏に向かい、急に激怒し始める。

お前、以前、銀ちゃんが屁をこいたときは、うれしそうに撮影所中を走り回っていたくせに、戸籍に入った俺の屁は臭いのか?戸籍は屁より劣るのか?と妙なへりくつを言い出したので、小夏は素直に謝罪する。

さらに、お前、銀ちゃんと話し合ったか?保険金の使い道…とヤスが聞くので、小夏は、あんたどうしていつも銀ちゃんの事持ち出すの?私たちの生活、どう考えてるの?と聞く。

すると、急に気落ちしたヤスは、最近、銀ちゃん冷てえんだよ、会うと目をそらしやがる。何が不服なんだ?俺はなぜくっつけられたんだ?腹ぼてのお前を。何のために、10年間、蹴っ飛ばされて来たんだ!と怒鳴りながら、小夏を蹴る。

小夏は、おなかの子、蹴らないんでよと、腹部をかばう。

荒れるヤスを観ながら、臨月の今頃、そんな事言い出さないでよと嘆く小夏。

しかしヤスは、ますます部屋中をめちゃめちゃにしながら暴れ回る。

それが大部屋なんだよ!前は平気だった。何言われてもへらへら笑ってやって来れた。それがどうしちゃったんだろうね。お前が好きになればなるほど、哀しいんだよ、この心が…、切ないんだよな…と言いながら、小夏に抱きつくヤス。

お前と離れれば離れるほど苦しんだよと泣き出したヤスを、強く抱きしめる小夏。

私の事でずいぶん苦しましちゃったみたい。ごめんねと小夏は謝るが、それを振りほどいて、外に出ようとするヤスに、ねえ、今夜は帰って来てくれる?帰って来て欲しいの。陣痛始まりそうなの、あんたの子じゃないけど、やっぱり生みたいじゃない、女だもの。こんな事言ったら、あんた笑うかも知れないけど、私、この生活気に入っている。あんたに殴られても蹴られても失いたくないの!と訴えかける。

しかし、ヤスは無言で外に出て行ってしまったので、やっぱりダメだったの?私たち点と、小夏は泣き崩れる。

東映京都撮影所には、すでに救急車も待機していた。

そんな撮影所に次々に乗り付けて来る車の列。

本社や劇場の偉いさんが、階段落ちのシーンの噂を聞き見学に来たのだ。

それを向かえた社員(石丸謙二郎)は、会談の長さは5間と2尺、13階段の3倍などと、偉いさん相手に説明していた。

その頃、ヤスは自分でづらを被り、メイクをしていた。

同じ頃、マンションでは、小夏が育児書など身の回りの物をバッグに詰め入院の準備をしていた。

壁には、かつて自分が主演した「幻の女」のポスターが、先ほどのヤスの大暴れで一部破れた状態で貼ってあった。

時間ですと助監督に呼ばれたヤスは、立ち上がり、タンスを開けると、その扉に内側には、小夏との結婚式の写真が貼ってあったが、奥の方から一本の古釘をそっと持ち出しスタジオに向かう。

階段にやって来たヤスに、殺陣師が段取りを教えようとすると、階段落ちに段取りなんていらねえよ。俺が落ちるのを、しっかり撮影部が撮ってくれれば良いんだと言い出したので、キャメラマンがむっとするが、それを監督が押さえる。

さらに、階段を上る途中、痛いと言いながら、足下から古区議を拾ったように見せかけたヤスに、美術さんが、俺じゃない!たった今、一段一段きれいに拭いた所なんだからと首を振る。

しかし、説明しろ!とヤスがしつこく絡むので、近づいた社員は、お偉いさんも観に来ていらっしゃるのだから、ここは気持ち良くころころって…と哀願する。

俺は大部屋だから、スターさんみたいに、たっぷり間を取ってかっこ良く死ねねえから、無様な死に際でお忙しい時間を割いてもらうのも申し訳ないから帰ってもらえとヤスは言い出す。

さらに、タバコを取り出して、これから死のうって男のタバコに火もつけねえのか?とわめくので、社員が100円ライターを差し出すと、そんなもんで吸えるか!と払い飛ばす。

そのヤスの態度を先ほどから見据えていた銀四郎は、弟子からライターを受け取ると、自ら階段を上り、ヤスのタバコに火をつけてやる。

すると、ヤスが、タバコの煙を銀四郎の顔に吹き付けたので、思わず、その顔をはたいた銀四郎は、いい加減にしねえか!お前と叱りつける。

すると、ヤスの態度は急変し、銀ちゃん、やぱりそれでなくちゃ。久しぶりに殴られて、これで思いっきり死ねますと喜ぶ。

ヤスは監督に、撮影は夕飯の後にしてくれませんか。一生に一度の役作りと言う物をやらせてくれ。そんな死に方をするか迷っているんだと言い残し、さっさとスタジオから出て行ってしまう。

その頃、病院から撮影所に電話を入れていた小夏は、撮影が夕食後になったと聞かされていた。

外は雪が降り始めるが、小夏はおなかの子に、生まれたいか?もうちょっと待つんだよ。もう少しと語りかけながら、傘をさし、右京産婦人科から撮影所に向かう。

控え室で横になっていたヤスの元にやって来た仲間たちは、ヤスがまだ夕食を食べてない事に気づき心配するが、ヤスは背中を向けたまま、お前ら食ってくれ。階段から落ちてゲロ吐いたら、勤王の志士が泣くじゃないかとつぶやく。

スタジオに戻って来たヤスは、お待たせしました。お願いしますと謙虚に監督に挨拶する。

小夏は、扉が閉ざされている東映京都撮影所前にやって来る。

その時、本番開始をしらせるベルが鳴り響いたので、思わず小夏は身をすくめる。

スタジオ内では、監督が撮影部、照明部、録音部、美術部、ファイアーエフェクト部に最終チャックをすると、よーい、スタート!の声をかける。

雷が鳴り、龍の壁画が照らし出される。

池田屋の扉を叩き、銀四郎を中心とした新撰組が乱入して来る。

じりじりと登る銀四郎を迎え撃つように、後ずさって階段を上るヤスたち浪人。

一番上まで登りきった銀四郎は、ヤスを斬り、ヤスは真っ逆さまに階段を転げ落ちて行く。

血まみれになり、階下に落ちたヤスだったが、ゆっくり起き上がると、階段を這い上がり始める。

それを上から観ていた銀四郎は、良いぞ!ヤス!登って来い!お前は志半ばで死んで行く勤王の志士だ!キャメラ止めやがったら叩き斬るぞ!と声をかける。

上がって来いとヤスの声をかける銀四郎の周囲にいた仲間たちは、全員、満身創痍の状態で階段を上ろうとするヤスの姿を観ながら泣き始める。

どうしたヤス!這って来い!登って来い!ここまで…と呼びかける銀四郎だったが、その姿を見上げていたヤスは、思わず、銀ちゃん、かっこいい!とつぶやくと、そのまま階段をずり落ちて行く。

銀四郎は「ヤス〜!!」と叫び、救急隊員たちが慌ただしく動き始める。

その様子を入り口で観ていた小夏は「あんた〜!」と叫び、雪が降りしきるその場に失神してしまう。

赤ん坊の泣き声が聞こえて来る。

赤ちゃんが泣いてる…、やっと生まれたの?おなかの中でさんざんいたぶられた赤ちゃんが…、いつの間にかベッドに寝ていた小夏は、心でつぶやいていた。

小夏!とヤスの声

誰かが呼んでいる…、あんた、死んだんじゃなかったの?

でも、目を開けるのが怖い。もし、あんたがそこにいなかったら、私、生きていけないじゃない。

でも、赤ちゃんが呼んでいるんだものね。私、目を開けるわ。

小夏がゆっくり目を開けると、満身創痍で包帯だらけのヤスが立っており「小夏!気がついたか!」と呼びかける。

あんた!

小夏、女の子だぞ。良かったな、俺にも銀ちゃんにも似てなくて、お前に似た気の強そうな子だ。これからは、三人で生きていこう。あれとお前と赤ん坊とでな…と優しく言うヤス。

その時、カ〜ット!の声が響き、小夏が寝ていたベッドの周囲の壁がバラされる。

キャストやスタッフが全員、ヤスと小夏の周囲に集まり、銀四郎が小夏に花束を手渡す。

ヤスの母親も近づいて来て、ヤスの手から赤ん坊を受け取ると、それを小夏に抱かせる。

「蒲田行進曲」の文字板を持ち上げる中、全員がキャメラ(スクリーン)に向かって、にこやかに手を振って挨拶をする所でストップモーションになる。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

いわゆる角川映画だが、映画ファンの評価も高かった作品である。

東映太秦撮影所で撮られているので、東映作品と勘違いしそうだが、この作品を製作・配給したのは角川事務所と松竹である。

劇中、台本を配る山田役として登場している汐路章の実話をベースに、つかこうへいが書いた、撮影所システム華やかりし頃の、スターと大部屋の上下関係をカリカチュアっぽく描いた原作が元になっている。

映画業界話のような雰囲気だが、映画と言う素材はあくまでも、理不尽な上下関係を描く舞台として採用されているだけで、往年の映画業界を描く事がメインではない。

スターシステム自体は60年代前半くらいに崩壊しており、橘と銀四郎のライバル関係などは、往年の東映スター、山の御大こと片岡千恵蔵と、北大路の御大こと市川右太衛門の関係などがモデルになっていると思われる。

そう言う大昔のスター伝説のようなものを現代に置き換えたら、こういうドタバタが起こるのではないかと言う一種のファンタジーなので、もはや、すでに撮影所システムが崩壊していた実際の80年代の映画業界がこういう状況だった訳ではない。

スターと言う虚像に縛られ、自己中心的な考えしかできなくなり、わがまま放題で自己を見失って行く銀四郎。

一方、映画に憧れて業界に入ったものの、スターの取り巻きの大部屋役者として、何十年も虐げられ続けているうちに、こちらも、プライドも自己も見失ってしまった存在のヤス。

この両者が、上下関係の中で、互いに依存し合い、それなりのバランスを保って生きて来た中に、突如、一人の売れなくなった女優と言う第三者が加わった事で、バランスが崩れ、それまで特に、何も考えずに生きて来たヤスが、色々悩まなくてはならなくなる状況が描かれている。

特に一番ヤスを悩ませたのは、今まで、銀四郎にいたぶり続けられていた弱者であることにいつしか麻痺してしまい、その理不尽さに反発を覚えるよりも、むしろ、弱者の立場に居続ける事にしか安心感を持てなくなってしまっていた。誰かにもたれかかる事でしか自分の存在感を確認できなかったために、階段落ちを決意した瞬間から、急に自分が孤独な立場に置かれてしまい、自分の身の処し方に窮してしまった事だろう。

精神的に独り立ちしてみると、自分は小夏の夫として、生まれて来る赤ん坊の父親として、責任を持たざるを得ないと言う現実が見えて来たので、それが恐怖心に繋がり、酒でごまかす行動になったのだと思う。

この辺の、苦悩を小夏に吐露するヤスや、ヤスと銀四郎の掛け合い芝居は、さすがに舞台出身役者だけに巧い。

特に、ヤスを演じている平田満の熱演は見事と言うしかない。

松坂慶子も胸を露にしたり、透けパンをアップさせたりと、女優根性を見せている。

見せ場になると、わざとらしく雷鳴が轟いたり、急に映画スタジオが結婚式場に転換したり、ラストの産婦人科の病室が「楽屋落とし」になったりと、意図的に舞台的な演出が混入しているため、観る人によっては混乱する部分もあるかと思う。

途中、サービス的に登場している、志穂美悦子や真田広之の剣劇シーンは華麗で見応えがある。