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彼岸花

1958年、松竹大船、野田高梧脚本、小津安二郎脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

東京駅のホームから、列車に乗り込む新婚夫婦を見送る親族たち。

その様子を、ベンチに腰掛けて観ていた駅員二人(井上正彦、今井健太郎)は、今日は新婚が多いな。あの二人は良いとか悪いとかなどと雑談をしていた。

構内には強風の標識が出ていた。

河合利彦(中村伸郎)の娘とも子(清川晶子)の結婚式に出席した大和商事常務平山渉(佐分利信)に、妻の清子(田中絹代)は、三上さん、お見えになっていないわねと耳打ちしていた。

他にも、同じ中村の友人として堀江平之助(北龍二)などが出席していた。

その直後、新婦の父の友人として、平山が挨拶をする事になる。

平山は、自分たちの時代は見合いだったので、結婚など殺風景だなどと、懐古話など盛り込み、無難に話をまとめあげる。

その直後、花嫁の父親である河合は平山にありがとうと礼を言う。

式の後、平山、河合、堀江の三人は、馴染みの料亭「若松」で落ち着く。

堀江は、山口に行った帰りに呉に寄って来たなどと言いながら、三上の家の娘も、もう年頃だろう?などと話し、互いの家の年頃の娘の話になる。

堀江のうちは息子二人だったが、平山の家は二人とも娘だった。

男が強いと女が生まれ、女が強いと男が生まれるなどと言う話から、一姫二太郎などと言うが、新婚当時は、男が強いと言う事かね?などと河合が混ぜっ返す。

そこに、女将(高橋とよ)が挨拶に来たので、女将の子供の数を聞くと、3人だと言うので、河合は男だろう?と聞き、女将がそうだと返事をすると、そうでなきゃおかしいっていうんだよと堀江が独り合点のように言うので、女将は何かからかわれているらしいと気づきむくれる。

平林が帰宅し、先に戻っていた清子に、節子どうした?と聞くと、まだだと言う。

遅いねと心配しながらも、節子にあの話ししてみたか?高梨さんの話では、家柄も良くて、おじいさんと言うのが横浜商工会議所の会頭をやっていたと言うんだと節子の見合い話の事を妻に告げる。

そこに、次女の久子(桑野みゆき)がやって来て、良いのかしら?勝手に決めちゃって…と大人の話に首を突っ込む。

姉さんにも良い人あるだろうし、私にだってあるもの…と言うのである。

そこに、姉の節子(有馬稲子)が帰って来る。

清子は、明日もモーニングになさいますか?どなたかの告別式があるそうだけど?と聞くので、明日は背広でいいだろう。ネクタイさえ黒にしていけばと平山は答える。

翌日の大和商事で働いていた平山の部屋に、三上(笠智衆)がやって来る。

昨日はどうして出席しなかったんだと平山が聞くと、出たくなかった、うちの娘の事を考えると、人の幸せな結婚式を観たくなかった。

一体どうしたんだと平山が聞くと、いないんだ家に、かれこれ二ヶ月。男ができて、同棲しているらしいのだと言う。

今は、その男と杉並界隈に住んでいるらしく、銀座の「ルナ」と言うバーで働いているらしいのだが、君その店知らないか?ついでがあったら、寄ってくれんか?と三上は平山に聞いてくる。

そこに、女子社員が、佐々木様が来ていますと教えに来る。

廊下に出て、佐々木初(浪花千栄子)の姿を見て挨拶した平山は、一旦部屋に戻るが、来客と知った三上は、又来ると言い残して帰って行く。

応接室に行き、京都から上京した旅館の女将佐々木初に改めて対面した平山は、この間の筍ありがとうと贈り物の礼を言うが、初は、お得意さんとそうじゃない人向けに二種類筍を用意していたんだが、うっかり手違いで、お宅さんには悪い方の筍を送ってしまい大変申し訳ない事をした。気づいて送り直そうとした時には、もう筍の季節が終わり、竹になってしまいましたなどとおしゃべりをし始める。

そのおしゃべりに呆れながらも、今日は何の用で?と聞くと、娘の幸子が縁談の事で言う事を聞かなくて困るのだと言う。

相手は、築地の病院の先生の御弟子さんの博士なのだと言い、自分もちょっと新造の調子が悪いと相談したら、その若先生から人間ドックに入ったら?と勧められたなどと、又、延々とおしゃべりが始まったので、平山はトイレに行くと噓を言い、自分の部屋に戻ると、又仕事を始めるのだった。

ある日、タクシーで、その京都の佐々木の娘幸子(山本富士子)が、一人タクシーで、平山の家を尋ねて来る。

ちょうど、清子たちは買い物に出かけて留守だったので、平山が一人で相手をする事になる。

あれからお母さんどうしたと聞くと、どうしても人間ドックに入りたがらないので、うちが親子の縁を切ると言ったら、ようやくドックに入ったと言う。

京都にも良い病院あるだろう?と、わざわざ築地の病院へ入った初の気持ちが理解できずに聞くと、あれも母親の浅はかなトリックであり、毎日私に見舞いに来させて、先生に合わせようとしているだけなので、自分は明日買い物をして、夜行で京都に帰ると言う。

平山も、止せ止せ、つまんないよ、結婚なんてと幸子に同調する。

幸子は節子に会いたいと言う。

人間ドックに入院した初は、苦い薬を飲まされ顔をしかめていた。

さらに、来てくれると思っていた娘の幸子がちっとも顔を見せないのでがっかりもしていた。

その母親が入院している聖路加国際病院を縁側から眺めながら、幸子は節子と旅館で会っていた。

幸子は節子と、今後二人で共闘を結びましょうと約束し、「ぎりぎっちょんぼ…」と、京都風の指切りげんまんをするのだった。

後日、佐々木初がタクシーで、平林家に乗り付けて来る。

それを迎えた清子は、居間に案内すると、しばらく姿を消し、やがて現れると、あんたの話は長いから、お手洗いに先に行っておいたと言うが、そんな嫌みなど全く意に解しない初は、人間ドックでひどい目にあったので、途中で抜け出して来て、担当の医者も嫌いになってしまったと長々なとおしゃべりし始める。

心臓の方はどうなったの?と清子が聞くと、ノイローゼやと言われたと言う初は、医者は止めて、薬屋はどうやろ?と、急に新たな、幸子の見合い相手を思いつく。

その時、お手洗いに行きたくなったと言い、立ち上がった初は、廊下を迷ったあげく、トイレに向かうが、そこに逆さまに置かれた箒を発見すると、その意味を知ってか知らずか、元通りにして釘に引っ掛けるのだった。

ある日曜日、平山は、清子、節子、久子と家族で箱根十国峠に小旅行に来ていた。

節子と久子がボートに乗り、それを良心が見守っている。

平山は、一人でゴルフに行きたがるが、清子は、こんな家族旅行も、これが最後かも知れないから、今日はお止しなさいと止める。

平林は、節子の話進めて良いかね?と清子に確認するが、清子は、戦時中、家族みんなで防空壕に入ったときの事を懐かしそうに話し出す。

平林は、戦時中は嫌だった。物はないし、変な奴が威張っているし…と答える。

清子は、最近は、家族4人そろって、ご飯を食べる事もなくなって来たと寂しそうに言うので、俺が忙しくなってきたんだが、その分、暮らしも楽になって来たじゃないかと言い聞かすのだった。

翌日、出社した平林は、ゴルフがダメだったと話す隣の席の曽我良造(十朱久雄)に、昨日は箱根に家族旅行に行って来たと答えていたが、そこに女子社員がご面会ですと名刺を持って来る。

曽我が部屋を出て行った時、入れ替わるように、その面会人が入って来るが、平山の知らない青年だった。

日東化成に勤めていると言う谷口正彦(佐田啓二)と名乗ったその青年は、急に、お嬢さんをいただきたい。結婚を許していただきたい。本来なら、しかるべき人を間に立ててお願いすべきも二なのですが、時間がありません。急に自分が転勤になる物もので…と言い出したので、平林は驚き、急にそんなことを言われても返事はできないので、今日の所は帰りなさいと言い聞かせる。

谷口は素直に帰って行くが、ドアの所ですれ違うように入って来た社員近藤庄太郎(高橋貞二)が、「やあ」と谷口に声をかける。

どうやら、二人は顔見知りのようだった。

その日、帰宅して、清子に谷口の話をし、知っていたのか?と聞いた平林だったが、清子も知らないようだった。

そこに節子が帰って来たので、谷口と言う男を知っているね?今日、会社に来て、お前と結婚したいと言って来たが、お前は承知しているのか?と平林は聞く。

節子が、うつむき加減に「そのつもりです」と答えたので、なぜ今まで黙っていたんだ。お父さん、不賛成だね!と叱りつける。

節子は、自分で自分の幸せを探しちゃいけないんでしょうか?と言うと、席をたち、玄関から外へ飛び出していってしまう。

節子がやって来たのは、谷口のアパートだった。

谷口の部屋に入った節子は、なぜ私に黙ってお父さんの所へ行ったのよ。私がお母さんを通して話そうとしていたのに…と抗議をするが、谷口は、君に心配させたくなかった。お母さんを通そうが、ぼくが行こうが結果は同じだ。広島の転勤聞いたろ?ぼくはもう決まっている。君はどうする?と聞くので、節子は思わず、私、別れない!と言うので、谷口は、それで良いじゃないかと声をかけ、節子は思わず泣き出してしまう。

清子が一人案じていると、玄関に帰って来た節子の気配を聞き、出てみると、表に立っていた谷口が、送ってきましたと頭を下げたので、清子も「どうも…」と言って礼を言う。

節子が戻って来た事を知った平山は、自分で軽率だと思わないか?お父さん、お母さんに相談しないで、勝手にそんな事をやって良くないと思わないか?お前が不幸になるのを見ていられないと、又、小言を言う。

節子は、あの人は、お父様の望むような立派な家柄ではないけど、私には私の考えあります。お父様やお母様は、最初からお幸せだったのよ。ご迷惑はおかけしませんと言うが、それを聞いていた清子は、今は互いに好き合っているから良いだろうけど、先々どんな事が怒るか分からないしね…と心配する。

平林は、俺は不賛成だ。明日から外に出ちゃいかん。会社なんか行く事ない!と節子に言い聞かす。

自室に節子が引っ込むと、平山は、困った奴だと嘆くが、清子は、でもね、良さそうなのよ、谷口って人…と、今会った印象を教えるのだった。

翌日、会社にいた平山は、近藤を呼ぶと、谷口を知っているの?と聞く。

近藤は、2年上の先輩で、バスケットをしていた人であり、箱崎の倉庫で一緒にアルバイトをした事もありますと答えるが、ちょうどそこに、三上が訪ねて来たので、一旦、近藤は部署に下がらせる。

三上は「ルナ」に行ってみてくれたかい?と聞いて来たので、このところ忙しかったので…と行けなかった事を詫びた平山は、今晩にでも行ってみると約束し、お互い、子供には手を焼くねと嘆くのだった。

その夕方、近藤を連れ、「ルナ」を探し当てた平山だったが、出迎えたバーのママ(桜むつ子)やバーテン(末永功)は、近藤の事を「コンちゃん」などと親しげに呼ぶ。

実は、その店は、近藤の馴染みの店だったのだが、近藤はママらに目配せして、自分に話しかけるなと伝える。

しかし、すぐに常連客らしいと気づいた平山は、なぜ、知っている店なら教えてくれなかったのか?一緒にずいぶん探したじゃないかと文句を言うと、近藤は、別の店だと思っていたので…と妙な言い訳をする。

呆れながらも、もう一度、谷口の事を聞くと、近藤は、良い人、感じの良い人などと曖昧な答えしかしない。

三上文子さんはいないかと平山がママに聞くと、ここでは「かおる」と言う名前で、今ちょっと出ていると言う。

一緒にアルバイトをしていたんじゃないのかね?と平山が聞くと、彼は事務で、自分は配送だったので…と口ごもるので、じゃあ、良く知らないんだね?と平山はすっかり呆れてしまう。

そこに、「かおる」こと三上文子(久我美子)が帰って来たので、平山は、お父さんお友達だと名乗るが、文子は、私の事でしたら、放っておいて欲しいんですと迷惑顔をする。

しかし、平山は、どこかでゆっくり話ができないかと尋ね、店が終わった後会う約束をする。

その間、ママは、平山のおごりで高い酒を飲んでいる近藤に親しげに話しかけるが、近藤は話しかけるなと目で合図する。

その後、「珍珍軒」と言う中華料理屋で文子と会った平山は、今同棲している相手は、バンドでピアノを弾いている男だと聞く。

お父さんの事はどう思っているのかと平山が聞くと、気の毒、頑固で理解がない。自分の考えだけが正しいと思い込んでいる。心配してもらわなくて良いんですと文子は答える。

君は幸せかい?と平山が問うと、幸せです。ちっとも不幸と思いませんと文子は答える。

そこに、いつもここで待ち合わせして帰るらしい同棲相手の長沼一郎(渡辺文雄)がやって来て、平山に挨拶すると、文子を連れて一緒に帰って行く。

平山は文子を呼び止め、紙に包んだ金を渡そうとするが、文子はきっぱり断る。

帰宅した平山は、今、三上の娘の文子に会って来た。困ったもんだと清子に報告し、節子の事は当分、放っておくんだねと言うが、そこに、寝付けないと言う節子が降りて来たので、まさか、あの男と関係なんかないんだろうね?と確認する。

節子は憮然としたように、否定すると答え自室に戻って行く。

平山は、お前も気をつけて、あの子を外に出さんようにしろと清子に言い聞かせる。

翌日「ルナ」に一人でやって来た近藤は、いつものように安酒を注文すると、文子に、家の平山常務と知り合いなのかと聞いてみる。

文子は、印刷会社をやっている父親と中学時代からの友達なのと教える。

上役と一緒ではないので、すっかり気を許し、南京豆がないよ!などと威張っていた近藤に、そんな事言っていると、又、重役さん来るかもよなどとママが脅す。

来るはずないだろう、こんな汚い店にと近藤が答えていると、ドアが開いて、又、平山が入って来る。

平山は、文子に三上からの手紙を渡すと、お父さん、会いたがってたよと教える。

しかし、手紙を受け取った文子は、会ってもしようがないと思うと答えるだけだった。

平山は帰って行くが、その間、緊張しっぱなしだった近藤は、うまい酒がまずくなっちゃったなどとぼやきながら、南京豆を頬張るのだった。

翌日、会社で仕事をしていた近藤は、隣の同僚に、「ルナ」には行かない方が良い。常務が来るぞと脅すのだった。

一方、平山は、幸子から相談事があるとの電話を受けていた。

平山は、幸子が泊まっていた旅館に来ると、お母ちゃん、どうしてる?と問いかける。

すると幸子は、もう敵いまへんわ。あんまりどす。うち、出て来ましたねん。家の言う事、何にも聞いてくれへん。好きな人ができたんやけど、お母ちゃん、気に入りまへんのや。うちの気に入らんとあかへんのや言うて。大阪の薬屋の方が良いって、決めてはるのや。伏見のお稲荷はんに願掛けしい言うて、ぎょうさんお稲荷さん買うて来たんやけど、今頃、お松と一緒に食べてはるやろなどと言う。

それを聞いていた平山は、お母ちゃんの言う事なんか聞く事ないよと答える。

すると、幸子は、今の話、全部噓、トリックですがなと言い出し、節子はんの話、オーケーやと知らせてあげますと言いながら、電話の所に向かう。

唖然とした平山だったが、帰宅すると、清子がうれしそうにラジオで謡を聞いている。

平山がラジオのスイッチを切ると、三上さんのお嬢さんのように、家を飛び出されたらどうしようと思っていたと清子が言うので、俺は許したなんて言ってないぞと平山が応ずると、でも、さっき、幸子さんからそう電話があったと言うので、あれは幸子が勝手に電話しただけだ。俺は許さん。責任は持たんぞと平山はむくれる。

さらに、お前はいつからあいつらの味方になったんだと平山が言うので、谷口さんはあれから何度か来ましたと清子は教える。

平山はさらに憮然とし、高梨さんの話どうする?俺は断りに行かんぞと言うので、清子が断りに行ってきますと答える。

結婚式も出んぞと平山が言うと、じゃあ、私も出ません。あの子たち二人でどうにかするでしょうと清子も応ずる。

お前はいつも無責任だと平山が小言を言うと、だったらお父さんも…と言いながら、清子は平山が脱ぎ捨てた背広を持って引き下がろうとするので、言いたい事があるんだったら言ったら良いじゃないかと平山は迫る。

もう良いんですと最初は断っていた清子だったが、何度も平山が迫ると、その場に座り、お父さんは、何でも、自分の思うようにならないと気に入らないのよ。前には、節子にボーイフレンドでもあれば心配ないと言っておられたのに、それができると今度は許さないと言う。矛盾だらけじゃないと言うのだ。

平山は、親としての愛情さと反論すると、愛情なら、俺には責任がないなんておっしゃらないはずよと清子が鋭いことを言う。

平山はそれでもめげず、人生は矛盾だらけだ。矛盾の総和が人生だと言った学者もいるとおかしなうんちくを披露する始末。

そこに久子が帰って来たので、節子もどっか行ったのか?と聞くと、明日、谷川さんが広島に発つので、そのお手伝いに行って来たけど、二人があまり仲が良いので、自分だけ先に帰って来たのだと久子は言い、お父様、あの人だったら、心配いらないわとおませなことまで付け加える。

平山が返事もせず居間から出て行くと、清子は又ラジオのスイッチをつけ、謡を聞き始める。

すると、平山は、うるさい!ラジオ消せ!とかんしゃくを起こしたんで、清子はおかしくなって笑ってしまう。

その後、一人でゴルフ場に出かけた平山は、クラブハウスで河合と出会う。

河合は、お嬢さん、決まったんだって?おめでとうと挨拶すると、実は、君の所の奥さんがうちに来て仲人を頼まれたと言うではないか。

式にも披露宴にも出んそうだな?と平山に問いかけた河合だったが、無理に出る必要はない。どんどんこっちで勧めるよと、人ごとのように言うと、今度、中学のクラス会を関西の奴も一緒に、蒲郡辺りでやらないかと言うことになった。どうだと誘う。

平山はやろうかと返事をする。

結婚式の前日、平山家では、派出婦の富沢さん(長岡輝子)が、双葉美容院に電話をかけ、明日、予約の1時間前の2時に来てくれないかと手配していた。

居間に集まった清子、節子、久子たちは、帰って来ない父親を待っていた。

清子は、ああ見えて、お父様も心配で、谷口さんの事だって、ちゃんと興信所で調べさせているのよと節子に教える。

向こうで必要な物ができたらいつでも連絡して、何でも送ってやるからと清子が言うと、節子は社宅は狭いからと遠慮する。

清子は、いつかの箱根がお終いにだったわねとつぶやく。

久子は、お父様、いじわるだからよと怒ってみせ、広島、良いなあ。安芸の宮島、近いんでしょう?と姉に聞くので、いつでも遊びに来なさいよと節子は勧め、荷造りの準備のため二階へ上がる。

封建的の固まりよ!とさらに久子が文句を言っていると、平山が帰って来る。

背広を脱ぎかけた平山は、ポケットに入れていた紙包みを清子に手渡す。

開けてみると、靴下と白手袋が入っていたので、明日、出て下さるんですねと清子は喜ぶ。

平山はむっつりしたまま、出ない訳にいかんだろう。皆さん、来て下さるんだから…と答える。

二階に上がり、その事を節子に清子が報告すると、節子は感激して泣き出してしまう。

節子は、すみませんでした。色々わがまま言って…と清子に詫びるが、清子は良いのよ。あんたさえ幸せになってくれたら…と笑顔で答える。

節子は、その言葉に、又泣き出してしまう。

下に降りて、久子を二階に上げた清子は、節子、とても喜んでましたと平山に教え、お赤飯、召し上がる?と勧める。

それを聞いた平山は、お前はのんきで良いな。俺はあいつに背かれるとは思わなかった。何とも釈然としない。親が知らないうちに相手ができているなんて不愉快だよと不満を漏らす。

蒲郡の旅館では、平山たちの中学時代のクラス会が行われていた。

一段落し、大半のメンバーたちは、麻雀をしに別室に移動する。

部屋に残ったのは、平山、三上、河合、堀江、中西(江川宇礼雄)、菅井(菅原通済)、林(竹田法一)らだけだった。

何となく子供の話になり、菅井の家は何人だ?と聞くと、ただ手を振るだけ。

6人かと言うと、違うと言うように手をする。

実は、7人も子供がおり、全員が女だと言うので、聞いていた堀江は、そうだろうなと、妙な納得をしていた。

さらに、堀江は、三上に、呉で聞かせてもらった詩吟を聴かせてくれと言い出す。

最初は断っていた三上だったが、みんながやってくれとせがむと、楠木正行の詩吟を唸り始める。

皆しんみりと聞き惚れるが、三上は、これ以上やるとぼろが出るからと言い、途中で止めてしまう。

しかし、みんな「やっぱり良いなあ~」とうっとりしていた。

すると、今度は河合が「青葉茂れる桜井の~里のわたりの夕まぐれ~♬」と歌い始め、みんながそれに唱和する。

外に出て竹橋とを結ぶ橋の欄干に身をゆだねた平林と三上は、文子の事を噂する。

三上が言うには、あれからちょいちょい家にも来るようになったそうだ。

難しいもんだね、子供を育てるって。結局、子供には負ける。思うようにはいかんねと三上が嘆くと、お互い年だね。同窓会で子供の話をするようじゃと平林も情けなさそうに応じる。

京都の実家の旅館に佐々木幸子が帰って来ると、女中のお松が平林さんが待っていると教える。

座敷では、母親の初と平林が待っていた。

平林は、節子の結婚式にわざわざ来てくれてありがとうと礼を言うと、蒲郡で同窓会が会ったついでにこちらに来たと説明する。

初もうれしそうに、節子と谷口の二人には、この屋敷に泊まってもらったと平林に教え、あないに良いお方の、どこが気に入らはらしませんの?と不思議がる。

初がお松に呼ばれ席を立つと、幸子は、おじさま、先日はすまんこって、かんにんどっせ。一世一代の大芝居やったんやと謝る。

まんまと一杯食っちゃったと鷹揚に受け止めた平林が、あの芝居、みんなでたらめかい?と聞くと、幸子は、お母ちゃん、本当は家を手放したくないんどす。違う相手を見つけて来ては、自分で壊してしまう。子供が積み木をしているのと同じどす。むちゃくちゃでござりますわと答える。

子供が幸せになれば、親は良いんだと平林が言うと、おじさま、私に結婚せん方がええと言い張ったわ。金かと思ったら真鍮だったって。おじさまの話、飛躍して、ついて行けまへんわ。トリックどすか?と呆れる。

平林はたじたじになり、君が幸せになれば、お母ちゃんも幸せになるんだよと答えるのがやっとだった。

そこに、初が、今来たのは税務署の人やったと言いながら戻って来て、あの人も良いな…と、又幸子の見合い相手として考え始める。

幸子は、節子はん、おじさまが一度も結婚式でお笑いにならなかったって気にしていたと言い、それを聞いていた発芽、どうどす今から広島行ってもらったら?と提案する。

平山はあわてて、明日は会社があるからと断ろうとすると、会社なんてどうでも良い。子供が大事と幸子が説教する。

初は、幸子に東京に電話をするように言いつけ、幸子はすぐさま電話の所に向かう。

東京の清子を呼び出した幸子は、「おばさま?おじさまが今から広島に行かはるそうです」と言い、初が無理矢理連れて来た平山に受話器を手渡す。

仕方なく受話器を受け取った平山は、清子の「そう。行って下さるの。それは良かった」と言う明るい声を聞き、「行くほどの事もないと思うんだが…、面倒くさいしね…」と言葉を濁すが、清子の「それは良かった。私は安心しました」と喜ぶ声を聞くと、「俺は、お前を喜ばすために行くんじゃないんだ」とちょっと不機嫌になる。

しかし、清子は「分かってます。さようなら」と言って、さっさと電話を切ってしまう。

電話を終え、縁側の椅子に腰を降ろした清子は、庭の物干竿にかかった洗濯物を眺めながら、晴れ晴れとした笑顔になる。

一方、二等列車に乗り込んだ平山は、車掌(須賀不二夫)を呼ぶと、「14時18分広島着く 父」と電報を依頼する。

その後、他には誰も乗客がいない客室で、平山は「青葉茂れる…♬」と、小さく歌い始めるのだった。

列車はどんどん走りすぎ、遠ざかって行く。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

小津安二郎監督初のカラー作品で、昭和33年度芸術祭参加作品でもある。

子供を心配する親心と言うのは、時として支離滅裂で、要するに、自分の気の済むようにしたがっているエゴむき出しの存在であると言う事を、ユーモラスに描く内容になっている。

ユーモラスとは言っても、別に、佐分利信などが滑稽な芝居をしている訳ではない。

他の小津作品同様、淡々とした日常生活を描いているだけのように見えるのだが、客観的に観ると、そこここに、愚かな親のエゴと言うか「バカ親ぶり」が出ているセリフが用意されている。

佐分利信演ずる平山の言動は、客観的に聞いていると支離滅裂である。

他人の子供には物わかりの良い大人を演じる一方、自分の子供には、徹底的に保守的な縛りをかけて、その矛盾に本人は全く気づいていない。

そこが、客観的に観ている観客には面白いのである。

重厚な存在感の佐分利信が演じているからこそ、一つ一つのシーンには違和感がないのに、前後の彼のセリフを思い出すと支離滅裂になっているのに気づき、おかしさが協調されるのだが、この男の身勝手さを冷静に見抜いているのが、妻である清子と、同じくバカ親を持つ幸子であると言う所も興味深い。

この重厚で落ち着いた知識人に見える佐分利信と全く対照的な存在に見えながら、実は同じバカ親として登場するのが浪花千栄子であり、彼女の軽妙なおしゃべりは絶妙である。

「恋は盲目」と言うが、親の子供に対する気持ちも愛情なので、つまりは「親も、子供に対してだけは盲目になってしまう」と言う事であろう。

そこには理屈も何も存在しないのだ。

悩むタイプの節子を演じている有馬稲子とは対照的に、根っから明るくおしゃべりな幸子役を演ずる山本富士子が珍しくも愛らしい。

愛らしいと言えば、久子を演じている桑野みゆきも、本当にあどけなく無垢な娘に見え、魅力的である。

他の脇役陣も適材適所で安定感があるのだが、田中絹代演ずる母親役は、正直微妙な感じがある。

大女優の割りには庶民派の顔立ちだと思し、特におかしな芝居をしている訳でもなく、年齢的も当時はまだ50前だったはずで、別に役に合ってない訳ではないだろうが、何となく、この清子役には違和感が残る。

何が原因なのか良くわからないのだが、おそらく、こういう良家の母親を演じている田中絹代と言うキャラクターを見慣れてなかったと言う事だと思う。

物語の展開としては、「雨降って地固まる」と言った感じのハッピーエンドだと思うが、通常のその手のドラマにあるはずの、それまで終止、暗く寂しげな表情を見せていた久我美子や有馬稲子の明るい笑顔のシーンをあえて挿入していない所なども、独特の演出だと思う。