TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

晩春('49)

1949年、松竹大船、広津和郎原作、野田高梧脚本、小津安二郎脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

北鎌倉駅。

お茶の会に参加した曾宮紀子(原節子)は、大学教授の父親曾宮周吉(笠智衆)の妹である叔母の田口マサ(杉村春子)と会う。

少し遅れて、三輪秋子(三宅邦子)と言う婦人も到着した所で、茶会が始まる。

茶会が終わり、紀子が鎌倉の自宅に帰宅すると、父親の周吉が、助手の服部昌一(宇佐美淳)に辞書を引かせながら、昨日までの約束だった原稿を仕上げている所だった。

翌日、紀子は周吉と一緒に列車で東京に向かい、銀座に買い物に出た所で、知り合いの小野寺譲(三島雅夫)と偶然出くわす。

小野寺に誘われ、美術団体連合会展も鑑賞した紀子は、周吉も馴染みの小料理屋「多喜川」に連れて来られ、小野寺から店の主人(清水一郎)に曾宮の娘と紹介される。

小野寺は、酌をしてくれる紀子から、奥様おもらいになったんですって?と、再婚したことを確認され、美佐子さん、可哀想。不潔、汚らしいわと言われてしまったので、戸惑う。

その後、その小野寺を連れ、鎌倉の自宅に帰って来た紀子は、先に帰宅していた周吉に会わせる。

小野寺は、酒の準備に紀子が引っ込んだ後、自分の娘の美佐子も、24になるまで結婚しないと言っているが、紀子はもう27じゃないか?と周吉に問いかける。

紀子もそろそろ結婚する年ではないかと言っているのだった。

ある日、紀子は、服部と二人で自転車に乗り、七里ケ浜まで散歩に来る。

浜辺に着いた紀子は、服部に、私って結構焼き餅焼きよと他愛無い話をする。

一方、久々に兄周吉の家に遊びに来たマサは、最近の若い女の子は、結婚式でも赤い口紅付けて、しゃあしゃあと刺身まで食べる。自分が花嫁になったときは、とても食べ物など咽を通らなかったと話し、周吉が、今だったらお前だって食えるさと返されていた。

マサは、紀子の結婚相手に服部などどうか?一度、それとなく紀子に聞いてみたら?と兄に勧める。

夜、帰宅した周吉を迎えた紀子は、今日、服部と自転車で七里ケ浜まで言って来たと話したので、これ幸いとばかりに、周吉は、夕食の席で、服部のことをどう思う?おばさんがどうだろうと言うんだよ、お前の夫にって…と聞くが、紀子はにわかに笑い転げ、服部は近々、自分も良く知っている相手を奥さんにもらうのだと打ち明ける。

後日、銀座の「BALBOA」で服部と会った紀子は結婚のプレゼントに何が良いかと聞いていたが、服部がわざわざバイオリンの演奏会の切符を用意しているので一緒に行かないかと誘われると、あっさり断って帰る。

仕方なく、服部は一人、演奏会を観る事になるが、一人で帰る紀子もどこか寂しげだった。

その夜、周吉の家にやって来たのは、紀子の級友で、バツイチの北川アヤ(月丘夢路)だった。

間もなく、紀子が帰って来たので、二人は二階に上がり、クラス会であった級友たちの現状報告など話し始める。

周吉が、気を利かせて紅茶を持って来て降りると、アヤは、後結婚していないのはあんたと広川さんだけだとからかうが、紀子は、急にパンが食べたくなったと言い、話をはぐらかすのだった。

後日、マサの家に呼ばれて出かけた紀子は、野球をしないで部屋に残っていた甥っ子のブーちゃんをからかったりしていたが、来客が帰るとマサが呼びに来たので、一緒に玄関まで出て挨拶をする。

帰る客は、先日茶会で会った三輪秋子だった。

その後、マサは、紀子に見合いをしないかと話しを始める。

相手は、佐竹と言う東大の理科を出た男で、年は34、顔はゲーリー・クーパーそっくりだと言う。

しかし、話しを聞いた紀子は、自分がお嫁に行くとお父さんが困ると言い出す。

自分がいないと、お父さんは何も出来ない人なので、自分は一生お嫁に行けないと言うのだ。

それを聞いたマサは、今の美和さんはどうかと言い出す。周吉の後妻にと言うことだった。

紀子は、その話、お父さんは知っているのかと驚く。

帰宅した紀子は不機嫌で、周吉がおばさんは何の用だったのかと聞いても、「別に…」と答えるだけで、そのまま、ぷいと買い物に出かけてしまう。

後日、服部は、結婚写真とお礼の品を持って曾宮家にやって来るが、あいにく二人とも留守で、留守番のしげ(高橋豊子)がいただけだったので、土産を置いてそのまま帰ってしまう。

しげは、服部の結婚写真を勝手に開いて観て、庭師にそれを披露したりする。

庭師は、この人はてっきり、紀子さんのご主人になる人かと思ったなどと言う。

その頃、周吉と紀子は、東京で能の舞台など見物していたが、周吉がある方向に気づき会釈をしたので、紀子もその方向を見やると、あの三輪秋子がいたので、会釈したものの、その後はふさぎ込んでしまう。

帰り道、紀子は、滝川にでも寄るかと誘う周吉に、ちょっと寄る所があると言い、一人で道の反対方向に急ぎ足で離れて行ってしまう。

紀子は、不機嫌なまま北川アヤの家を訪問し、アヤと同じ仕事をやってみたいと言い出したので、アヤがその理由を聞いても答えようとせず、あげくの果てに、手作りケーキまで出してくれたのに、食べたくないとむくれ、すぐに帰ってしまう。

帰宅した紀子は、周吉から叔母さんから手紙が来て、明後日の土曜日に来てくれと知らせて来たと言われるが、そのお話、お断りできないの?と、紀子は迷惑そうに答える。

周吉は、佐竹のことを持ち出すが、紀子は、お父さんとこのまま一緒にいたいの、私がお嫁に行ったら、お父さんがお困りになるの、目に見えるわと言い出したので、周吉は思い切って、仮に、お父さんの世話をしてくれる人があったらどうすると問いかける。

それを聞いた紀子は、覚悟を決めたように、小野寺のおじさんみたいに奥さん、おもらいになるの?と聞き、周吉は「うん」と頷く。

もう決まっているのね?と紀子が重ねて聞くと、やはり周吉は「うん」と答え、三輪さん?と聞いても頷く。

黙って二階に上がった紀子だったが、心配して、周吉が上がって来ると、お父さん、来ないで!下行ってて!と、紀子は拒絶する。

周吉は、まあ、明後日、行ってくれ。みんながお前のことを心配してくれているんだと言うと、廊下の窓から、干してあった手ぬぐいを取り込むと、明日もよい天気だとつぶやく。

紀子の方は、泣き出していた。

紀子の見合いが済んで一週間後、紀子の返事を待ちかね周吉に会いに来たマサは、肝心の紀子が東京に行っていると知りやきもきしていたが、近くの境内でがま口を拾ったので、良い結果になりそうだなどと、勝手に喜ぶ。

その頃、紀子は、アヤの家に来て、見合いの報告などしていたが、先輩風を吹かせたアヤから、あんたなんて見合いがちょうど良い。男なんていい加減なものだから、恋愛はダメだ。とにかく行ってみて、駄目だったら、帰ってくりゃ良いのよなどと、無責任な指南を受けていた。

マサは、周吉の家に寄り、帰りが遅い紀子を待っていた。

紀子は気に入っているはずだが、若いくせに旧式なので返事をしかねているのだろう。ひょっとしたら、相手の名前が熊五郎だから気にしているのかしら?などとのんきな会話をしていたマサだったが、紀子が帰って来たので、一緒に二階に上がり、返事を求めると、紀子は「ええ」と答える。

行ってくれるのね?と確認して、頷かれたマサは喜び、下に降りて兄の周吉に報告すると、これで安心した。やっぱり、さっき拾ったがま口が良かったなどと言いながら、そのまま帰ってしまう。

紀子が降りて来たので、諦めて行くんじゃないだろうね?嫌々行くんじゃないだろうね?と確認してみた周吉だったが、紀子は怖い顔で「そうじゃないわ」と答えるのだった。

後日、周吉と紀子は、小野寺がいる京都に、親子最後の旅行に出かける。

周吉は、出迎えた小野寺に、今度、紀子が結婚することになったと報告する。

その後、紀子と周吉は、小野寺と娘美佐子(桂木洋子)、そして、小野寺の後妻きく(坪内美子)と京都見物に出かける。

夜、旅館で父親と枕を並べた紀子は、私、知らないで、おじさまに悪いことを言ってしまった。汚らしいなんて言うんじゃなかった。奥様はすてきな方だったと言うので、周吉は、そんなこと気にしちゃいないさとなだめるが、紀子は、私、お父さんのこともとても嫌だった…と続けるが、もう、隣の周吉は寝息を立てていた。

翌日、竜安寺の石庭で小野寺に会った周吉は、持つなら男の子だね。女の子はたまらんよ。嫁に行かなければいかないで心配すると愚痴るが、聞いていた小野寺は、仕方ないよ。我々も、そんな娘をもらったんだからと慰める。

旅館で帰り支度をすることになった周吉は、傍らの紀子に、こんなことなら、もっとお前と旅行しておけば良かった。佐竹君にかわいがってもらうんだぞと話しかけるが、紀子は又、私、このままお父さんと一緒にいたい。こうして一緒にいるだけで良い。お嫁に行ったって、これ以上の楽しさはないわ。お父さんが奥さんをおもらいになっても良いの。私はお父さんとこうしているのが一番幸せなの。お願い、このままにさせて…と言い出す。

それを聞いた周吉は、それは違う。お父さんももう56、人生は終わりに近い。お前は違う。これから始まるんだ。お父さんは関係ない。結婚していきなり幸せにはなれんかも知れんが、幸せは待っているもんじゃなく、自分たちで作り上げて行くものだ。

夫婦は、5年先、10年先になるか分からんが、自分で幸せを作るんだ。お前の母さんだって、最初から幸せじゃなかった。台所の隅で泣いているのを何度も観た。今まで、倒産に持ってくれた温かい気持ちを、これからは佐竹君に注ぐんだと静かに言い聞かす。

紀子は、わがままを言って済みませんでしたと謝る。

お前なら、きっと幸せになれるよ。その内、こんなことを話したことも、笑い話になるよと周吉は諭し、きっとなれるよ幸せに…、なるんだよ、幸せに…と繰り返すのだった。

いよいよ、紀子の結婚式当日、家の外には車が待機しており、近所の子供たちに交じって、ブーちゃんもそのステップに上がり、興味深そうに運転席を覗き込む。

一階では、周吉と服部がモーニング姿で待っていたが、そこに、二階で紀子の花嫁衣装を手伝っていたしげが、準備ができたと呼びに来る。

周吉は二階に上がり、椅子に腰掛けた紀子の花嫁姿を観る。

その場にいたマサは、死んだお母さんに見せてやりたかったと涙ぐむ。

紀子は、周吉の前で三つ指をつくと、お父さん、今まで色々、お世話になりました…と挨拶をする。

周吉は、幸せに…、良い奥さんになるんだよと答える。

その後、二階は皆出かけ、無人になる。

式の後、「多喜川」で周吉とアヤは酒を飲んでいた。

アヤは、おじさん、奥様おもらいになるのおよしなさいと言い出し、それに頷いた周吉は、ああでも言わないと紀子はお嫁に行ってくれなかったと答える。

周吉が紀子に再婚すると嘘を言っていたことを知ったアヤは感激し、その場で、周吉の額にキスをして、おじさまって良い人、今後は時々遊びに行ってやるわと褒める。

来てくれるねと頼む周吉に、アヤは、私はおじさまみたいに嘘つけないものと微笑む。

周吉は感慨深そうに、一生一度の嘘だったんだと漏らす。

帰宅後、留守番のしげを帰し、一人になった周吉はリンゴの皮を剥き始めるが、その途中、突然の寂しさに襲われ、ナイフを持った手を止めると、哀しげにうつむいてしまうのだった。

鎌倉の海岸は、いつも通り、静かに波を寄せていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

原節子と杉村春子が初参加した小津作品。

「秋日和」(1960)などとも共通しているが、平穏に暮らしていた若い女性を、周囲が余計なお世話を焼いて、半ば強引に嫁に行かせることで、家庭内の何かを壊してしまう話である。

親が、自分のことを気にして嫁に行かない娘を気遣い、自分も再婚すると嘘をつくと言う設定も同じである。

「年頃になった女性はお嫁に行くものだ」「お嫁に行くのが女性にとっての幸せなのだ」と言う古い因習(?)が、まだ強く残っていた時代の話なので、今観ると、主人公の女性の人格は無視されているような理不尽な印象を受ける。

親の方も、娘を気遣っていると言いながら、結局は自己犠牲を払っているので、喜んでいるのは家族の外側にいる無責任な部外者ばかりと言う印象を受けるのだ。

親子が互いに依存し合っていると言うか、甘え合っている関係は、本来不自然なもので、きっぱり断ち切らせ、「親離れ」「子離れ」させた方が良いのだと言う考え方は、今では通じにくくなっているような気もする。

前半、いつも笑っていた紀子が、父親の再婚話を聞かされた瞬間から、急に不機嫌になってしまう対比がすごい。

この頃の原節子や宇佐美淳は、かなり「濃い」印象が強い。

癖の多い役柄が多い三島雅夫が、意外とさっぱりした中年男を演じているのも興味深い。