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夢二

1991年、荒戸源次郎事務所、田中陽造脚本、鈴木清順監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

紙風船が舞う中、木の上に着物を来た後ろ向きの女が乗っている。

竹久夢二(沢田研二)がそれを求めるように手を差し出すが、あの女は振り向かぬ。顔が観たいか?身の程を知らぬ男だ…と、シルクハットに金髪の男が夢二に話しかける。

その男の顔も見えなかった。

俺を撃て、顔が見えるかも知れん…とシルクハットの男が言うので、夢二はその男に向けて拳銃を発射するが当たらず、逆に、シルクハットの男が夢二に向かって拳銃を発射する。

夢二は撃たれたかのように女郎屋の格子戸にひっくり返るが、そんな夢二をからかうような女郎(余貴美子)の声がする。

匂うな…?生きていることのいじらしさっていうか…、人間の匂い…と夢二はつぶやく。

わかんないよと女郎。

夢二は、金沢に行くと突然言い出す。女と駆け落ちをするのだそうだ。

桜木町の駅で、反対側のホームにいた女郎は、駆け落ちの女、来ると良いですね…と、半ばからかうように言う。

やって来ぬ女を思ってか、ホーム上の夢二が柱を掴むと、そこに絵が浮かぶ。

反対方向のホームにいた女郎が旅行鞄を叩くと、そこにも絵が浮かぶ。

待っていた女が来ないので、笑う女郎の又に手を当てながら、夢二は駅を後にする。

女郎を抱く夢二。

蕎麦屋で夢二は女郎に、百姓の女か?手が大きい…と尋ね、駆け落ちする女は、笠井彦乃(宮崎萬純)と言う22になる娘だが、胸を患ってると打ち明けながら、テンプラそばってのは、天ぷらで一合の酒を飲むんだとひけらかす。

女の気持ちを確かめるために東京に戻ると言う夢二に、駅で描いていた絵をくらないかとねだる女郎。

東京に戻り、銭湯に入った夢二は、番台の女将に、紙問屋のお嬢さん来るだろう?と確認する。

侍女のきよを連れ、銭湯にやって来た彦乃を外で待ち受けていて見つけた夢二は、彼女を連れて行こうとし、侍女を追い返そうとする。

夢二の強引な行動に呆れた彦乃は、侍女に言い聞かせ先に帰すと、夢二と共に宿に落ち着くと、10日と待たせませんから…、先生、名を惜しんで下さい。あちらに行ったら、どんなにでもいじめて頂戴と、夢二に言い聞かせようとする。

駅駅の駅弁の包装紙で、金沢まで旅行したことを表す。

湖に黄色いボートが浮かんでいる。

その湖に傘をさして佇んでいた夢二は、山から銃声が響いて来たのを聞く。

旅館に落ち着いた夢二が、そのことを女将(大楠道代)に話すと、山狩りが出ているのだと言う。

山向こうで、女を殺して山に逃げ込んだ男が、巡査の首筋も斬ったらしいと噂を教える。

黄色いボートには女が乗っていたが、そのボートがすごいスピードで走り始め、赤い波紋の途中でひっくり返りかける。

夢二が湖の中から突然現れ、ボートを押して泳ぎ始める。

ボートに乗っていた女は、脇屋巴代(毬谷友子)と言う地元の人妻だったが、死んだ人が浮かんで来たのかと思って驚いたと夢二に語りかける。

この湖は、牛の血で汚れているので、その汚れた水で泳いだ夢二のために風呂を焚いてやると、自分の屋敷に招く。

夢二は、着替えを運んで来た女中(新舩聡子)が、最近死んだ妻のたまきに似ていると話しかける。

巴代は、湖の上の山には牧場があり、月に一度集めた牛を殺し、その血を湖に流すのだと説明し、あなたはちっとも変わりませんわねと夢二に語りかけたので、夢二は前にあった覚えはないはずだがといぶかしがるが、社会の敵と新聞に載っていると巴代は答える。

女たらしの夢二とか…と夢二は自嘲する。

その時、又、山の方から銃声が聞こえて来たので、山狩りか?と夢二はつぶやくが、主人が撃ったのかも知れないと巴代は言う。

亭主がいるのかと驚いた夢二だったが、巴代は死にました。死んだはずです。湖に沈んで…と答える。

その話を聞いた夢二は、自分が今着せられているガウンもその亭主のものだと知り、新品だし、何度も水で洗った時と聞いても、湖の水にくぐらせませんでしたか?血の匂いがすると神経質なことを言う。

その後、物好きにも、山に登ってみた夢二は、牛の首が置かれ、たくさんの火が焚かれている場所に到達する。

その時、突如、木陰から現れた警察の人間と称する刑事(麿赤児)から夢二は声をかけられる。

すでに、警察からは、大逆事件との関係性を疑われ、無関係であると知られていた夢二だったが、山狩りのことは知っとりますな?と言い、犯人は大きな鎌を持っているので気をつけるよう促し、湖には人一人が沈んでいると話す。

再び、巴代の家に戻った夢二は、ケースの中に入った拳銃を確認していた巴代に着物を脱げと言い出したので、描くなら描いてご覧なさい。あなたが描く女は疲れている。あなたの絵は下品ですと巴代は挑発する。

巴代は夢二に銃を突きつけ、この銃は主人のですと打ち明ける。

その中に見覚えがあった夢二は、あのシルクハットの…と思わずつぶやく。

そんな夢二に、覚悟なさい、私と生きるための…と巴代は脅かす。

夢二は、巴代の着物の胸元に手を差し込み挑もうとするが、巴代が自ら脱いでポーズをとると、それを描こうとしはじめる。

しかし、描けないまま、黄色い絵の具の粉を黒い敷布の上にこぼすと、いつしか巴代に泣きついていた。

その時、「こら!」と怒鳴りつけるような男の声が聞こえたように感じた夢二は怯え、その様子を観ていた巴代は笑い、夢二はすっかり絵を描く気を失ってしまう。

夢二は、この間、あなたのご主人にピストルで撃たれる夢を観たと打ち明ける。

巴代は、主人は死にましたと冷静に答える。

そんな二人の様子を、女中がじっと観ていた。

夢二は、浮かれて彦乃の名を唄いながら、散歩に出ていた。

彦乃から、宣誓に抱かれて死にたいと言う電話があったからだ。

その時、夢二は、岩の上で大きな鎌を持っている男と出くわす。

山狩りをされていた人殺しの鬼松(長谷川和彦)だった。

しかし、鬼松は夢二の相手をせず、ただ「行け」と追い払っただけだった。

旅館に戻った夢二の前に現れた刑事は、茶請けに出された漬け物を食いながら、あいつは女に狂って、闇雲に走っとるだけやと話し始める。

その女は、脇屋の旦那が見つけたのがそもそもの発端だったので、奥さんは毎晩ボートに乗って、死体を探しているのだと言い、あの屋敷の奥にあるガラスの間に、昔、平家の落ち武者をかくまっていたらしいが、先祖共々、首を斬られたそうだと伝承を教える。

女将は、あの男の本名は白岩松吉と言い、元々荷車を引いていたのだと言う。

殺された女のには赤ん坊もいたが、加賀屋と言う飲み屋をやっていて、そこに脇屋の旦那が飲みに来たのだと言う。

そんな二人の首筋に、大鎌を突きつけて屠殺場まで追い立てて来た鬼松は、お前のような外道は地獄に堕ちろと言いながら、脇屋を、牛の血を流す土管に突き落としたのだと、逃げ際に首を斬られた女が、死ぬ直前に言ったのだと言う。

それでも、うまく水をくぐれば、ひょっとして…と、女将は、脇屋が生きている可能性があることも示唆するが、その土管が刺さった湖の現場に黄色いボートで来て、水深を計ってみた夢二は、とても自分だったら助からないと震え上がる。

ボートで一緒に付いて来た巴代は、夢二がなぜそんなに必死に、脇屋の死体を探すのかと聞く。

夢二は、撃たれるのが怖い。死にたくないのだと打ち明ける。

それを聞いた巴代は、夢の話、後ろ向きの女の話でしょう?と呆れる。

夢の中に出て来たシルクハットの男は、常に顔を隠していた。

遊郭で会った夢二は、その男に表に引き出されると、いきなりピストルで決闘を申し込まれたのだった。

夢二は、座興だとばかり思い込んでいたので、本物の銃を出されると命乞いをするが、シルクハットの男は、いつかは撃つと断言し、扇子に描かれた夢二の似顔絵を撃ち抜くのだった。

巴代は夢二に、私の側にいてくれと懇願するが、夢二は二人がいると脇屋が来るし、さらに鬼松まで来る。灼熱地獄だと逃げ腰になる。

巴代は、私たちのこと、嘘だったんですか?と詰め寄るが、夢二は帰ると言い出す。

そんな脇屋の屋敷の外に置いてあった行灯を、鎌で潰したのは、山から下りて来た鬼松だった。

しかし、夢二はそれを待ち構えていたと、用意させていた酒と肴を差し出す。

それをムシャぶり食いながら、鬼松が、旦那は生きているのかね?と問いかけて来たので、夢二は、あんた、殺し損なったんだろう?と問いかける。

おめえ、誰、待っとるんか?と鬼松が聞くので、同じ人…と夢二は答える。

どうやら、いつも巴代と一緒にいると、誰かに観られているような気配がしていたのは、この鬼松ではなかったらしいことに夢二は気づく。

旅館に戻った夢二は、蔵から焼き物を出してみたと言う女将から、若い女の客が来ていると教えられたので、てっきり彦乃だと思って部屋に上がるが、待っていたのは、モデルのお葉 (広田レオナ)だったのでがっくりする。

それでも、お葉の方は夢二に抱きついて来ると、彦乃からの使い出来たのであり、彼女は血を吐いたのだと伝え、手紙を渡す。

今や、彦乃は、奥の部屋で監視付きで寝たきりになっており、悪くすると入院させられるかも知れないのだと言う。

お葉は、今では透けるような肌色になりきれいになった彦乃は、死ぬしかないんじゃないかなどと不吉なことを言うが、夢二は、女将に酒を頼むと、先ほど見せられた九谷焼を盃用に持って来てくれと頼む。

お葉は、夢二と花札遊びをしながら、晴雨先生の所から逃げて来たのだと打ち明ける。

夢二は、伊藤晴雨と言えば、責め絵に決まっていると呆れて答えるが、お葉は、モデルにも人権ってもんがありますから、逃げて来た駄賃代わりに、その辺に会った絵を全部もらって来たと見せる。

そのお葉、夢二のモデルとして使って欲しいと頼むが、16の時から足掛け4年モデルをやっていると聞くと、ダメだ。お前の身体は晴雨の責め絵そのもので、自分色に染めるのは難しいと断る。

それでも、お葉は、黒猫など抱いてみせ、夢二好みでしょう?などと媚を売ってみせる。

そのお葉の足は、他の大根と同じように洗われ、大きな漬け物樽の中でぬかみそまみれになりながら、次は先生の番よ、いじめてやると叫ぶのだった。

後日、旅館の女将と雨模様の外を眺めていた夢二は、女将にもちょっかいを出すが、女将は先生のおつもり次第だっちゃとはぐらかし、こんな雨降りの晩、自分はここに嫁いで来たのだと打ち明ける。

その時、お葉からの電話がかかって来たとの知らせが来るが、夢二は、代わって用件を聞いてくれと女将に頼む。

夢二は、今の女将の言葉から、雨の中、花嫁衣装を着た巴代を思い描いていた。

そんな花嫁衣装の巴代と、列車で出会った夢二は、その姿をスケッチをしていた。

その直後、花嫁衣装の片袖を引きちぎった夢二は、それを鞄に入れ鍵をかけてしまう。

それを観ていた付添い(中沢青六)や世話役(牧口元美)は、なんてことをしてくれたんだと夢二を責める。

夢二は、もうこの鞄は開かないと言いながら、鍵を投げ捨て、雨の一筋に引っ掛けてしまう。

驚き慌てる付き添いたちを他所に、花嫁姿のの巴代は、良いんです。そんな物で良かったら…とつぶやく。

世話役が名を聞くので、夢二は「竹久夢二」と名乗る。

お葉からの電話を受けた女将が戻って来て、金沢の宵待草と言う店で働くことにしたので、迎えの車をよこすので来て欲しいとの用件を伝える。

気が乗らない様子の夢二に、女将も一緒に行くからと誘う。

迎えの車でやって来たお葉は、夢二に目隠しをする。

車を降りた夢二は、お葉を肩車したまま、「宵待草」と言う店にやって来る。

店では、女給たちが、夢さんこちら、手のなる方へ…などと、おどけながら誘う。

そこへ、ピエロが目隠しをして登場、お葉、夢二、モガ風の衣装になった女将と共に踊り始める。

あまりにピエロが馴れ馴れしいので、誰なのか聞いた夢二に、女将は、脇屋さん、先生のファンですってと教える。

それを聞いた夢二は殺されたと聞いていたと驚き、カードゲームに負けた夢二に、お葉は、脇屋さんは私を先に相棒にしイカサマを仕組んだのだと打ち明け、ここは、脇屋さんの金沢の別邸であり、二人で夢二をはめたのだとも教える。

お葉と脇屋と共に、畳の部屋に寝そべった夢二は、なぜあなたは、お屋敷に帰らないのかと脇屋に尋ねる。

あなた、奥さん、お嫌い?屋敷ではあなたの弔いを出す気だ。悪趣味じゃないかと教えると、人妻を抱くのは悪趣味じゃないのかと脇屋から逆襲される。

脇屋は夢二に輪印(春画)の絵でも描いてみないかと勧め、横で聞いていたお葉は、自分の身体は芸術そのもので、立派なモデルなのだと売り込むが、脇屋は、巴代はどうかな?と妻の名を口にする。

夢二は即座に、あの人は輪印のモデルには向かないと断ると、彼女はボートに乗って、あなたを捜している。死体を…、あんたも人が悪いなとつぶやく。

すると、脇屋は急に、山に帰る。山には銃がある。決闘だ!と息巻く。

お葉も、山狩りを観に行かないか?鬼松が捕まる所が観られるかも知れないと言い出す。

車で山に登る途中、お葉が、自分も殺された女のような目に会ってみたい。男二人を狂わせて…と夢見るように語りながら、夢二の頬にキスをしたので、脇屋もせがむ。

車を降りた三人の前に出現したのは、東京から、脇屋の弔いをすませて来た帝展画家の稲村御舟(坂東玉三郎)だった。

御舟は、奥さんがボートに乗って死体を探すのは妙だった。まるであなたを待っているようだったと告げる。

近くにあった縁台に腰を下ろした御船に、お葉は酒を勧め媚を売り出す。

どうやら、端正な顔立ちで紳士風の御船に一目惚れしたらしい。

そんなお葉は、山の中にいた一頭の白馬を発見する。

いつの間にか走り始めたその白馬には、鬼松が乗っており、大きな鎌を振りかざして、脇屋に迫って来る。

それに気づいた脇屋は山道を逃げ回り出す。

夢二も、ビアズリーの絵を撒きながら、白馬を追う。

御船が、持っていた紅葉の枝で、走って来た白馬の鼻柱を打ち、お葉は、どこから持ち出して来たのか、猟銃を発砲し、反動で転がる。

鬼松は、大鎌を振り下ろし、脇屋は片腕を斬られて倒れる。

そこに夢二が駆けつけて来る。

牛の屠殺場の前で、手当をすませた脇屋は、先生、あの片袖、どうしました?と夢二に聞いて来る。

巴代は、魂の抜けた女になり、私の元に嫁いで来た…と脇屋は続ける。

そんな脇屋を御船がじっと見つめているので、描くつもりだろう?と脇屋が聞くと、御船は、あんまり良いお顔をしていらっしゃるから…と答える。

その後、脇屋は、巴代の待つ自分の屋敷に、御船や夢二を連れて戻って来る。

しかし、巴代は、馴れ馴れしく肌に触れようとする脇屋を無礼ですよと叱りつけると、夢二に、この方はどなたですかと聞く。

脇屋さんですと夢二が答えると、脇屋宗吉は死にました。この人は違います!と巴代は答える。

それじゃあ、俺は誰なんだ?と脇屋がおどけると、御船が、あなたは名無しですと断定する。

そんな巴代の態度に付いて行けなくなった夢二は屋敷を出ようとするので、巴代が逃げないで!と止めると、逃げない。しかし、今のあなたの心が分からない。私には、あなたが描けそうにもないと言い、屋敷を後にする。

脇屋とお葉も、車に乗って屋敷を去る。

同じく屋敷を出ようとした御船は巴代に向かい、大丈夫、あなたから逃げられる人はいないと告げる。

それに対し巴代は、あなたも私を抱かないと描けないのでは?と微笑む。

そんな巴代を抱きながら、紅葉を観に来たが、紅葉は赤く、あなたの目は青白く光っていますとささやいたので、巴代は礼を言う。

夢二は、湖で黄色いボートに寝そべっていた。

船の側面を手で叩くと、絵が出現する。

嗚呼、ベアトリーチェは何処に…と夢二はつぶやく。

金沢駅に着いた彦乃は、いつの間にか、見知らぬ家の座敷に寝かされていた。

駅で卒倒したのだった。

気がついた彦乃を、乳母(宮城千賀子)が別室に案内すると、どちらまで?旅の途中でしょう?と尋ねて来る。

乳母は、彦乃が肺病を押して、無理な旅をしていることに気づいているようだった。

彦乃は、温泉までと短く答える。

乳母は、坊ちゃまも傷の養生で温泉に行くために駅で待っておられましたと説明する。

東京から来た笠井彦乃と名乗り、自分を駅で助けてくれた人物の名を聞こうとすると、その坊ちゃまと呼ばれる人物がやって来て、名前は今はないと答える。

それは脇屋宗吉だった。

彦乃は、夢二に電話を入れ、今ある方の屋敷にいる。駅で倒れた所を助けてもらったと報告する。

夢二から、いつこちらに?と聞かれた彦乃は、明日でも、明後日でも…とと、すぐ行けることを強調するのだった。

気がつくと、脇屋の姿が見えないので、乳母に所在を聞くと、香林坊で遊んでおりますでしょう。私がお育てしました。ここは、金沢の別宅で…と乳母は答える。

脇屋への礼の置き手紙を書いた彦乃は、人力車で屋敷を出発するが、ちょうどそこに車で戻って来たのが、脇屋とお葉だった。

屋敷に戻った脇屋とお葉は、陽気に踊り始める。

お葉は、戻って来た彦乃に、夢路先生の所へは行けませんよと忠告する。

彦乃は、蓄音機のレコードを裏返し、曲を変えると脇屋とチャールストンを踊り始める。

脇屋は、彦乃を夢二に会わせる会わせないは、君の出方次第さとささやく。

彦乃は、約束ですよと答えるが、そんな彦乃の腕を、脇屋はもてあそび始め、あなたが抱こうとしているのは夢二かと聞いて来る。

彦乃は、私を行かせたくないのは奥様と会わせたくないからでしょうと言うと、脇屋の口の中から鈴が出て来る。

彦乃は、私は江戸の女です!ときっぱり言い放つ。

描かせてみようか…、それから…と脇屋が口ごもったので、撃つんですか?と彦乃が言い当て、何を描かせるんですか?と聞く。

底に一筆朱を掃いた九谷焼の盃で、夢二は女将を前に酒を飲んでいた。

立ち上がろうとした女将だったが、夢二から、そこにいてくれ、私はモデルがいないと描けないと言われると、嫌ですわ。後が怖いとちゃかす。

夢二が怖くないと言うと、女将は何を思ったか部屋を出て行く。

それを待つ間、夢二は絵の構想を練っていたが、気がつくと、紙風船を帽子のように頭に被った見知らぬ男が、風変わりなふすま絵を描いていた。

お前は誰だ?と夢二が聞くと、その後ろ向きの男は夢二だと答える。

さらに、座敷にもう一人の顔が見えない男が出現し、俺は肩書きなしの、放浪流転の夢二だと言うと、夢二に扇子の絵を渡し、夢二が描こうと思っていた屏風に貼らせる。

そこに、嫁いで来た時に着ていたと言う加賀友禅の振り袖姿になった女将が戻って来て、すっと出て行った見知らぬ二人のことを夢二に聞く。

夢二は、「夢二だ!」と叫ぶと、3人、5人、10人も夢二がいる…とつぶやくと泣き始める。

それを聞いた女将は、それぞれの夢二先生が、激しく生きていらっしゃるんですね〜と漏らすが、次の瞬間、「顔がない!」とふすま絵を観て叫ぶ。

そのふすま絵の顔の部分には、巴代、彦乃、お葉の顔がはまっていた。

その頃、巴代は屋敷内で、鏡を拳銃で撃っていた。

いつもの通り、湖にボートで漕ぎ出していた巴代は、全身、牛の血に染まった脇屋が水の中から這い上がって来て「復活祭りだ!」と叫ぶのを聞く。

脇屋の屋敷には大勢の芸者や太鼓持ちと共に、夢二と御船らも招かれ、どんちゃん騒ぎが始まろうとしていた。

警護のためやって来た刑事も、脇屋の旦那の復活祭りやと上機嫌。

芸者衆が、鬼松が来ないかと怯えていたので、屋敷の周りには数十人の警官が配備されていると教える。

しかし、御船は、現れますよ、鬼松は…とつぶやく。

脇屋がしとめてみせるよと答えると、どっちを?鬼松、それとも夢二?と御船は問い返す。

次の瞬間、脇屋は拳銃で、お葉の髷を撃ち、ざんばら髪にしてしまう。

一方、入浴をすませた巴代は、夢二の元に来ると、昔、片袖は差し上げました。今日はもう一つの片袖を差し上げましょうと伝える。

すると、夢二は、鳩ぽっぽを唄っておどけるが、巴代は勝手にポーズをとり始める。

そんな二人の別室に、鬼松が出現したので、脇屋を殺すのですかと巴代が聞く。

ああと鬼松が答えると、私を殺して下さいと巴代がすがる。

お前分かるか?と聞かれた夢二が分からんと答えると、鬼松も分からんと言い、酒をくれと言い出す。

夢二は、新しい名前として夢三はどうだろうと一人考えにふけり始める。

女中に酌をされながら酒を飲んでいた鬼松だったが、何や、全部分からんようになったと言うと、帰るので、二人に送って来てくれと頼む。

それに気づいた御船は、そっと脇屋に、鬼松が来て、三人で出て行ったことを告げる。

なかなかの町絵師ですと言う御船に、巴代も夢二も帰って来るさ、俺みたいに…と脇屋は断言し、紙風船を蹴る。

その頃、鬼松に言われるがまま、巴代と共にボートで湖を渡っていた夢二が、どこへ行くと聞くと、鬼松はあの世やと答えていた。

山野上の屠殺場の側に来た鬼松は、どうせ捕まったら絞首刑や。俺がぶら下がったら、二人で俺の両足を引っ張ってくれや。今晩、脇屋をやりそこのうて、それで終わりや。わしももう終わりよと寂しげにつぶやくと、牛の背中に乗り、首に綱を巻き付けるが、次の瞬間くしゃみをしたので、それを側で観ていた夢二は、死ぬ人がくしゃみをするとは…と思わず笑ってしまう。

そんな夢二に、牛の上の鬼松は、辞世の句を詠むので書き取って欲しいと頼む。

この世には、未練なけれと思えども、やりそこのうて残念なりけり…と鬼松が詠んだので、やりそこのうてとは、殺し損なったと言うことかと夢二が確認すると、鬼松はそうだと答え、次の瞬間、牛が動き、綱に首を引っ張られる形で鬼松はぶら下がる。

すると、巴代がすぐさま片足を引っ張り、息の根を止めてやる。

その際、苦しがった鬼松は、網片足の靴の底を、巴代の顔に押し付けていた。

おそるおそる上を見上げると、片目が飛び出し、舌を長くのばした鬼松の死に顔があった。

夢二は思わず、逃げようと巴代を誘う。

しかし、顔の片側に、大きな靴の痕がついた巴代は、どこへ逃げるんです?どうやって逃げるんですと聞く。

そして、こんな格好では人目につくので、着替えてきます。きっと戻ってきますから待っていて下さいと夢二に告げ、一旦屋敷に戻る。

その途中、巴代は彦乃と道で出会う。

彦乃は、巴代が着ていた着物の片袖に描かれた牛の絵を見つける。

湖に浮かぶ黄色いボートの上には、着物が帆のように張られていた。

その着物に描かれた「夢」の三つの文字を縫い合わせるようにかんざしが刺さっている。

先生、どこにいるの?教えて頂戴…、戻って来た巴代は探し求めていた。

すすきの中に一人立つ夢二は、誰を待っていたのかな?私は誰を待っていたのかな?と自問する。

紅葉の木の上に、白い着物を来た後ろ姿の女が立っている。

淡谷のり子が唄う「宵待草」の唄と詩が重なる。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

女遍歴が多かったらしい竹久夢二をモデルに描いた清順映画。

「ツィゴイネルワイゼン」(1980)「陽炎座」(1981)と合わせ、「(大正)浪漫三部作」と呼ばれているらしい。

この時期の作品らしく、シュールな絵作りになっているが、それほど難解と言う訳でもなく、何となくストーリーらしき物は見えて来る。

所々に絵も出現するが、それは夢二の物よりも、ビアズリーや宇野亜喜良の手になるイラストが多いのも興味深い。

はじめて、男役に挑んだ坂東玉三郎の紳士ぶりも見物だが、何と言っても特筆すべきは、ゴジこと長谷川和彦監督が役者として出演していることは注目に値する。

主演の夢二を演ずる沢田研二とは「太陽を盗んだ男」の監督と主役の関係であるが、その二人が、この作品では共演者として芝居をしているのだ。

そんなゴジ監督が演じているのが、女に惚れたあまり大鎌で人を殺した殺人鬼と言うのも面白い。

夢二を巡る三人の女、彦乃、お葉、巴代たち三人の個性的な芝居も見物だが、それを取り巻く脇役としての大楠道代や宮城千賀子、余貴美子、そして、少女趣味を象徴しているかのような新舩聡子と言った女優陣の存在も見逃せない。

怪奇と耽美が入り交じったような独特の世界観は、観る物の心を異次元にいつしか誘って行く。

個人的には、かなり好みの世界だと感じた。