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誰がために金はある

1948年、新東宝、山下与志一脚本、斎藤寅次郎監督。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

「すて猫トラちゃん」(1947)のキャラクターに似ている所から、ひょっとすると、政岡憲三の手になるのではないかと思われるアニメで、遊園地で遊ぶ子供たちの様子が描かれ、大きなたこ型の乗り物が、タイトルが書かれた布を広げる。

タイトル

空飛ぶ乗り物から降り立ったアニメの男の子と女の子が、遊園地ののぞき眼鏡をのぞくと、

「第一話」と言う文字が出て来る。

銀座の東京楽器社、クラリネットを吹く大屋(坊屋三郎)、ベースを弾く山本(山茶花究)、木琴を叩く益村(益田喜頓)たちの演奏に合わせ、歌手の森山(灰田勝彦)と久美子(野上千鶴子)が歌うのを、支配人の横井(中村哲)がうっとり聞いていた。

歌い終わった久美子が言うには、この曲は森山が作った唄であると売り込みをし、横井も気に入ったようだった。

楽器社の社員は、演奏が終わった彼らに向かい、楽器代は締めて10万ですと請求するが、それを聞いた久美子は、横井に向かい、前借りとして10万いただけないか?実は彼らのアパートが焼けて、楽器がないのだとと持ちかけるが、それを知った横井は驚き、とてもそんな大金を、楽器も持っていないような連中に払うつもりはない。楽器を手に入れたら来なさいと言い捨て、店を出て行ってしまう。

大屋たちは、結局、楽器代が支払えないので、楽器を買えないまま店を出る事になるが、店員は、楽器がいくつかない事に気づき、店を出ようとしていた増村を捕まえると身体検査をする。

すると、チューバやクラリネットなどがぞろぞろ出て来たので、店員は怒って取り返す。

久美子は、これからホールに出かけると言い、森山だけに握手をして去ってゆく。

自分たちも握手してもらおうと手を差し出していた他の三人は、無視されてしまう。

これからどうしたら良いのか悩んでいた四人は、目の前の工事現場に人だかりが出来ているのに気づく。

見ると、通行人が、上から落ちて来た建築用木材の下敷きになっているではないか。

すると、間もなく車が到着し、そこから降り立った男が、けがをした男の元に近づくと、保険証書をお持ちですかと尋ね、男が差し出すと、その場で100万円の札束が渡され、車に乗って病院に連れて行かれる。

残った男は、見物人たちに向かい、自分は東京海上生涯保険のものだが、保険に入れば、今のように、すぐさま保証が受けられますと。ビラを配りながら宣伝し始める。

もちろん、森山たち4任もそのビラをもらい、これしかないと思いつく。

喫茶店「モン・マルト」にとりあえず入った4人は、誰がけがをするか、くじで決めようと話し合う。

マッチ棒の頭を一つ取り、それを引いたものにしようとと言う事になり、早速その場でくじをみんなが引くと、増村がびっくりしたような表情をしたので、最後に残ったマッチ棒を持っていた森山は安心するが、自分のを確認してみると、それが当たりだった。

仕方がないので、一人、街に出て、工事現場の側に来ると、その下をうろうろしてみるが、現場監督から危ないのでどいてくれと注意させるし、その現場監督の頭の方に、ものが落ちて来て気絶してしまったので、森山は俺の頭に落としてくれと苦情を言うくらい。

道路に飛び出すと、接近した車の方がよけてくれて、その弾みで横転してしまったので、森山があわてて中から運転手を救出すると、これでようやく新しい車が買えると感謝され、東京海上傷害保険に入っていたらしき運転手は、うれしそうに、別の車を止めて、それに乗り込むと自分で病院へ向かう。

その後、森山は強盗から短刀を突き付けられ、金を出せと要求されたので、ちょうど良かった、痛くない程度にちょこっとやってくれと、自ら身体を差し出したので、頭がおかしい奴と気味悪がった強盗はそそくさ逃げてしまう。

森山は、知り合いの靴磨きに相談に行くが、何の手だてもつかめなかった。その時、見知らぬ男が走って来ると、持っていた鞄を靴磨きに渡して去って行く。

靴磨きは、この鞄は何だ?といぶかしがるが、森山は関心なさそうにその場を去る。

その直後に、鞄を盗まれた被害者が警官を連れてやって来て、靴磨きが持っていた鞄が自分のものだと言い出したので、警官は事情を聞くからと言いながら、否定する靴磨きをその場から連行する。

踏切にやって来た森山は、電車に飛び込もうとタイミングを計るが、今ひとつ勇気が出ない。

そうこうしているうちに電車は通過してしまい、森山ががっかりしている所にやって木谷が久美子だった。

久美子は事情を聞くと呆れ、私の事を考えてないのね?と怒り、今後、危ない事は断然断ってねと頼みながら、森山の背広の胸ポケットに白い花を一輪さしてやる。

喫茶店「モン・マルト」に戻って来た森山は、待っていた他の3人に、自分は久美子ちゃんと約束をしたので、けがをする事が出来なくなった。失敬と言って、出て行ってしまう。

あっけにとられる3人だったが、その直後、入り口を出た森山は通りかかった車にはねられてしまう。

早速入院した森山を見舞いに行った3人は、森山のけがが重すぎず、軽すぎず、保険をもらうのにちょうど良い程度だったら良いななどと話しながら病室に入るが、森山は意外に元気そうにベッドに入っていた。

診察した医者に聞くと、身体にはそう怪我はないが、頭を強く打ったらしいと言う。

そこに、あの東京海上傷害保険の社員がやって来て、保険書をお持ちですかと聞いて来たので、3人は出そうとするが、よく考えてみると、保険書を持っているのは森山だったので、ベッドの森山に保険書の事を聞くが、森山は何の事か分からないと言いだす。

医者は、記憶喪失の疑いがあると言い出す。

その様子を見ていた保険会社の男が諦めて帰りかけたので、証書の提出時期を聞くと、事故発生から24時間以内、今の時点だと、後、1時間以内に出してもらわないと効力を失うと言う。

保険会社の人間と入れ違いに病室にやって来たのは久美子だった。

恋人だったら、覚えているだろうと、3人も喜んで森山に対面させるが、久美子の顔を見た森山は、看護婦に頼んでいた付き添いの人ですかと言い出す始末。

久美子は3人に対し、あなたたちを恨むわよと悲しむ。

その時、増村が何かを思いついたらしく他の二人と共に部屋を出てゆく。

その後、今度は、警官に連れられ、あの靴磨きと万引き男が一緒に病室に連れて来られる。

靴磨きは、森山に対し、あの時、鞄はこの男から渡されたものだと証言してくれ。さもないと、私は警務書暮らしになるんだと泣きつくが、森山は何も分からないと答えるだけ。

やがて、戻って来た増村たちは、掃除道具で即製に作った楽器を演奏し始める。

森山自身が作ったあの曲だった。

久美子も歌を歌い始め、途中で森山に歌わそうと促すが、何度やっても効果はなかった。

警官に時間を聞くと、保険書の提出期限まで後30分しかないと言うので、すべてを諦めた3人は帰る事にする。

靴磨きも、あなたを恨みますよと森山に言いながら、警官と一緒に病室を出てゆくが、怒って乱暴にドアを閉めたとたん、その振動で森山の頭上にあった電灯が落下し、森山の頭を直撃する。

次の瞬間、森山は久美子を認識し、「あっ!久美ちゃん」と言葉を発する。

記憶が踊った事を知った久美子は、病室の窓から、帰りかけていた3人と警官たちに声をかける。

みんなが驚いて病室に戻るが、久美子と森山は、すれ違ったらしく玄関に出て来てみんなを捜す。

病室にみんなが上った事を知った久美子たちは又入り口に入るが、又すれ違って、他の連中が玄関に降りて来て久美子たちを探す。

何度かすれ違いを繰り返した後、ようやく再会した3人に、森山は保険証書を手渡す。

残り時間は後10分しかないと、3人は駈けてゆく。

万引き犯は、形勢不利と感じ、その場からこっそり立ち去ろうとするが、すぐに警官に捕まってしまう。

保険金が無事手に入った森山たちは、東京楽器社でお目当ての楽器を購入し、全員で歌いながら帰路につくのだった。

アニメの子供たちが、別の覗き窓を覗くと、「第二話」と出て来る。

小学校 運動会をやっている様子。

「洋傘修理」の看板を出している町田金助(柳家金語楼)のあばらやにやって来たのは近所のお兼(清川虹子)

金助が仏壇に手を合わせているので、奥さんの三周忌はすんだんじゃなかったっけと聞くと、明日のかけっこの選手に、正坊が選ばれやしないかと心配で…と言う。

正坊が選手に選ばれてしまうと、明日一緒に走るのは大家の息子松坊なのだと言うので、その大家から追い立てを食っている金助が、自分の息子が負けるように祈っていた事を知ったお兼は呆れてしまう。

試合に着せるユニフォームすら買ってやれないと金助は嘆く。

そんな所に、当の正一(武村明)が帰って来て、予選に勝ったとうれしそうに報告する。

お兼は、持って来た蒸かし芋を手渡しながら、正一が大人もののシャツ姿でいるので不憫がるが、正一自身は気にしないと言って遊びに出かける。

そこへ、洋傘を受け取りに来た女客が来たので、金助は12円50銭と言う行程料金だけを請求したので、帰って客が気の毒がり、15円払うと、おつりは良いと言ってくれる。

その様子を見ていたお兼は、今時、闇料金を取らないのは偉いけど、それじゃあ儲からない訳だとため息をつく。

そんなお兼に、この15円で明日の弁当が出来ないだろうか?と金助が言うので、難しいけどなんとかしてみようと受け取って、お兼は帰ってゆく。

その後にやって来たのが、先ほど話していた大家(小倉繁)で、この前引っ越し代を渡したはずだがと小言を言い出したので、金助は恐縮して、実は、正坊が急に熱を出してしまったもので、医者代に使ったと弁解する。

そんな二人の話を、窓の外で正一は聞いていた。

大家は、それでも立ち退きを迫るが、その大家の頭に水が落ちて来たので、金助は雨漏りだと驚く。

大家は呆れて、席を移動するが、どこに移っても水が落ちて来る。

仕方がないので帰ろうとすると、腐った畳の踏み抜いて落ちてしまう。

驚いた金助が大家を助け起こそうと引っ張ると、その弾みで柱が折れ、部屋はめちゃめちゃになってしまう。

ぷんぷん怒りながら外に出た大家は、雨が降っていない事に気づき不思議がりながらも、魚心あれば水心、明日の試合で負けてくれとは言わないが…と、露骨に、明日の息子同士のかけっこで八百長をしろとせがむような言葉を残し、帰って行く。

見送った金助は、玄関横にはしごが立てかけられている事に気づく。

先ほどの雨漏りは、屋根に登った正一が、バケツの水をわざと大家の頭に浴びせかけていたのだった。

そんな事をするんじゃないと注意して、正一を去らせた金助の元に、地元の闇屋が近づいて来て、決して迷惑をかけないから、あるものを運ぶ手伝いをしてくれないかと頼んで来る。

闇の仕事のお手伝いは出来ないとかたくなに拒んだ金助だったが、5000円もの札束を手渡されると、迷った末、つい受け取ってしまうのだった。

10月25日、運動会の当日になる。

正一は、金助から勝ってもらったまっさらなユニフォームを着込んで喜んでいた。

そこにお兼がやって来て、やはり、弁当の手配は難しかったと報告すると、金助は棚から小折を降ろして、その中から、米と卵と塩鮭を取り出して渡す。

良くこんなものが手に入ったねと驚くお兼に、私だってやるときはやるんだと、こそこそ小折をしまいながらも金助は胸を張る。

大葉田小学校

貴賓席には、大家夫婦が座っていた。

それに気づいた金助は、大家が一人になった所へ近づいて引っ越し料を渡そうとする。

何もこんな所で…と、大家は迷惑がるが、早く渡さないと気が済まないのでと金助が押し付けて来るので仕方なく受け取る。

その後、正一が、ユニフォームの上着を外出しにしたままだった事に気づくと、慌ててグラウンドの中に入って来ると、ズボンの中に入れて、教師たちによろしく頼むと頭を下げて、見物席に戻る。

見物席では、一升瓶を持ち込んだ金助が、左隣の親に酒を振る舞うが、期待していた右側の親は無視される。

その両隣の親の息子同士が走る番になるが、互いに相手のユニフォームを引っ張り合って走っていたので、それを観た親同士も卑怯だぞと喧嘩になる。

一方、大家の息子松坊は、正一のユニフォームのベルトを、後ろからこっそり切ってしまっていた。

いよいよ、リレー競争で正一が走る番になるが、走り出したとたんズボンが落ち、正一は、それをたくし上げながら走らざるを得なくなる。

バトンを口にくわえ、両手でズボンをたくし上げた姿ながら、とうとう正一は松坊を追い抜き、チームは一等賞になる。

その直後、弁当を持ってやって来たお兼は、さっきから探していたんだが、警察があんたに会いたいと言っていると金助に告げる。

金助は、闇の仕事の事がバレたと直感する。

近寄って来た刑事(江川宇礼雄)が、松野岩吉を知っているかと聞いて来たので観念した金助だったが、そこに賞品を携えた正一が近づいて来て、このおじさんは誰?と刑事の事を聞いて来る。

金助は返事に窮するが、それを観ていたお兼は、お母さんもいてくれたら、さぞ喜んだろうねと正一の一等賞を褒める。

その会話をじっと聞いていた刑事は事情を察し、おじさんはお父さんの古い友達だよと答える。

そんな刑事に、正一は、みんなで一緒に弁当を食べようと誘う。

それを聞いた金助とお兼は、何も言えなくなるが、少し考えていた刑事は、良いじゃないか、弁当を食うくらいと言う。

四人で弁当を食べる事になり、闇米で作ったおにぎりを、自慢げに刑事に見せる正一に、金助とお兼はハラハラする。

しかし、握り飯を受け取った刑事が周りを見渡すと、周り中が闇米で作った握り飯を食べていたので、刑事も黙って食べ始め、良いお父さんを持って良かったな。今度の日曜日はおじさんの所の息子の運動会だなどと正一に話しかける。

正一は喜び、僕も呼んでねと頼み、刑事は呼ぶと約束する。

午後の部が始まり、いよいよ金助と刑事が去りかけた時、お兼は、あの子の面倒は私が見ますと刑事に伝える。

そこに駆け寄って来た正一は、来賓と父兄の二人三脚が始まるので、お父さんとおじさんが出てくれよと頼む。

困った二人だったが、必死に頼む正一の顔を見ていると断る事も出来ず、結局、グラウンドに入って、足を結びつけてもらう。

金助は、このまま走って出て行きましょうと刑事に耳打ちし、刑事も承知する。

いよいよ、スタートになり、金助と刑事は何とか二人三脚で一等のゴールを切るが、賞品を渡そうと教師と正一が近づこうとすると、止まらずそのまま学校の正門から外へ抜け、あっけにとられる正一の見守る中、どこまでも駈けて行くのだった。

アニメの子供たちが、又別ののぞき箱を覗くと、「第三話」と出て来る。

造幣局東京工場から、一台のトラックが木箱を大量に積んで出発する。

途中、その木箱の一つが路上に落下して、木箱の一部が壊れてしまう。

中は、刷り上がったばかりの新札が詰まっていたので、近くを通りかかっていたものたちは一斉に飛びつき、我勝ちにと札束を奪い始める。

その時、近くでその様子を見かけた会社員、横山甚平(木戸新太郎)も、木箱に群がる民衆の中に入り込み、金を手にしようとするが、人ごみに押されているうちに失神してしまい、気がつくと、金も人もいなくなっている中、彼は一人、道の真ん中で気絶しており、持っていた鞄もなくなっている事に気づく。

その鞄の中には、大事な会社の金が入っていたので、横山はどうしようとパニックになる。

しかし、会社に戻って報告しないわけにはいかず、話を聞いた会計課長(谷三平)は、即刻首!と言いたい所だが、君を首にしても、金が戻って来る訳ではないので、今後は、なくした金額分を分割して、君の給料から差し引く事にすると言い渡す。

その会話を隣の部屋で聞いていた電話交換手の滋子(泉麗子)は、恋人の横山が自分の席に着くなり、電話を入れ同情する。

その後、屋上で落ち合った二人は、なくした金の事で相談し合うが、借金返済には20年もかかるし、このままでは結婚も出来そうにもないと横山は嘆く。

そんな横山は、近づいて来た同僚が、今日は彼女と約束があるので宿直を代わってくれないかと言われると、簡単に承知してしまったので、それを聞いていた滋子は、私も今夜映画の約束をあなたとしていたのにと怒りだす。

後日、アパートで夕食の準備をしていた横山の所にやって来た滋子は、土産として焼き芋を渡すと、山下の破れたコートを繕っておくわと言いながら持って帰るのだった。

横山は、暖めていた鍋を降ろすと、滋子からもらったばかりの焼き芋を頬張りながら布団に入る。

その日から、横山は、雨の日も雪の日も。毎日のように、造幣局東京工場の前で待つ事にする。

そして、新札が詰まった木箱を積んだトラックが出て来ると、自転車で後を追いかけ、又、前のように落ちるのを待つのだった。

何度も失敗するが、ある日、自転車で追いかけていると、又、一個の木箱が転げ落ちてしまったので、山下はそれに飛びつく。

今回は、周囲に誰もいなかったので、木箱の中の金は全部横山が独り占めする事が出来た。

札束を詰めた大きな鞄を持って路面電車に乗り込んだ横山だったが、近くの乗客たちが、又、造幣局のトラックが金を落とし、今度は500万円独り占めだったらしいが、犯人が見つかったら間違いなく死刑だろうねと噂しているのを聞くと青くなる。

降りた所で、靴を磨こうと、100円札を出して頼むが、どの靴磨き屋も、最近100円札は危ないので受け取れないと断って来る。

その後、道を歩いていた横山は後ろから走って近づいて来る警官の姿を見たので、道脇に倒れ込むが、警官が捕まえたのは全く別の男だった。

会社に来てみると、社員たちが皆、不安そうな顔でこそこそ話し合っている。

滋子に聞くと、どうやら会社は金がなくて潰れるらしいので、近々、社員の大量整理があるらしいと言うではないか。

社長室では、社長(鳥羽陽之助)が、300万の赤字の始末はどうするつもりかと株主たちから追求されている所だったが、そこに入り込んで来たのが横山だった。

社長は、名前も知らない一社員がいきなり近づいて来たので追い返そうとするが、横山は話をちょっと聞いて下さいと社長を部屋の隅に連れて来ると、持っていた鞄の中に詰まった札束を見せ、ここは私に任せて下さい。家にはもっとたくさん金がありますと耳打ちする。

半信半疑だった社長だったが、目の前に本物の札束を見ると急に気が大きくなり、株主たちとの席に戻ると、赤字の件は大丈夫ですと胸を張って答える。

会社を救った大恩人として、横山は、突然副社長に任命され、その披露宴が庭園で執り行われる事になる。

横山は社長から、妻と二人の娘八重子(岡本八重子)と文子(岡本文子)を紹介される。

その二人の娘は、踊りが上手らしく、社長が勧めるまま、その場でアクロバチックな踊りを披露し始める。

エロティックな踊りに目のやり場を失っていた横山だったが、その会場に招かれていた滋子は、そんな横山の様子を見て不機嫌だった。

やがて、社長から、君も一緒に踊ってみせてくれと言われた横山は固辞するが、どうしても通しだされ、仕方なく、二人の姉妹と一緒に踊り始める。

踊り終わった横山が疲れきってテーブルに戻って来ると、拍手して迎えた社長や重役たちが、皆警官の格好になっているではないか!

驚いた横山はその場を逃げ出すが、滋子に出会ったので、いつ結婚してもらえる?と聞くと、私は金持ちは嫌いだと滋子は答える。

気がつくと、いつの間にか、滋子も婦人警官の姿になっていたので、おびえた横山はその場を逃げ出す。

庭園に来ていた客全員が警官になっていたからだ。

ある日、副社長席に座っていた横山は、新聞を読んでいた社員たちが、あの盗まれた紙幣の番号が判明したそうだと噂しているのを聞き震えだす。

そこに、刑事と警官がやって来て、社長に面会を申し込む。

紙幣番号から、この会社から出た紙幣は盗まれた紙幣だと聞いた社長は、元々の持ち主は横山だと告発する。

すぐさま、副社長席に向かった刑事たちだったが、そこには、「辞職します」と走り書きした置き手紙を残っているだけで、横山の姿は消えていた。

逃げられたと悟った警官たちは、ビルの外に出て横山を追いかけ始める。

走って逃げていた横山は、途中の自転車に金を渡すと自転車を買い、それに乗って逃走し始める。

一方、警官隊たちは、通りかかったトラックを止め、その運転席や荷台に乗って追いかけ始める。

やがて横山は、タクシーを修理中だった運転手に金を渡すと、急いで走ってくれと頼む。

その内、踏切で立ち往生していた横山は、タクシーから降りると、踏み切り番に金を私、自分おタクシーが通り抜けた後、急いで遮断機を降ろしてくれと必死に頼むが、列車が通過中だった騒音で、踏み切り番には少しも通じていなかった。

間もなく列車が通り過ぎ、再び横山が乗り込んだタクシーが走り始めるが、トラックが踏切にやって来ても、踏み切り番は遮断機を降ろすような事はしなかった。

それを観ていた横山は、金を返せ!と遠ざかって行く踏み切り番に叫ぶが、近づいて来る警官の乗ったトラックから逃げるのに精一杯だった。

やがてタクシーは関門トンネルを通過し九州に入る。

工事で通行止めの箇所に行き当たったので、車を降りた横山と運転手は、通行止めの標識をどけようとして、重しとしておいてあったドラム缶を蹴飛ばすが、その中には油が入っており、道路はそこから流れ出した油まみれになる。

車に戻ろうとした運転手と横山は、その油に足を取られて進めない。

そうこうするうちに警官隊の乗ったトラックが接近して来たので、横山は、何とか運転手とタクシーの乗り込み走り出そうとするが、タクシーも油にタイヤを取られていっこうに前進しない。
もはやこれまでと判断した横山は、車を捨て、山に逃げ込む。

その直後、現場に到着したトラックから降り立った警官隊も、皆一斉に山を登り始める。

横山は、大きな谷の所にさしかかったので、そこにあったゴンドラに乗り、谷を越えようとする。

しかし、途中でゴンドラがひっくり返ってしまい、横山は戦陣の谷深く落ちてしまう。

それを観ていた警官たちが谷の下に降りて行くと、下で気絶していた横山は目を覚まし、又逃げ始める。

「青島」の掲示板が通り過ぎて行き、周囲の木々は南方のヤシの木のように変化していた。

横山は、そのヤシの木に登っていたが、追いついた警官隊は、そのヤシの木を押し倒す。

倒れたヤシの木は、川の水面ぎりぎりに倒れるが、そこにワニが口を開けて近づいて来たので、木にしがみついていた横山は、ワニの大きな口の中に札束を置いて命乞いをするのだった。

その時、横山は自分のアパートで目を覚ます。

夕べ、滋子からもらった焼き芋を食べて寝てしまい、今まで夢を見ていたのだった。

そこに、滋子が警官を一人連れてやって来たので、布団の中にいた横山は又してもおびえる。

しかし、その警官が言うには、横山がなくした鞄を拾って警察に届けてくれた人がいたと言うのだ。

それを聞いた滋子も、良かったわね。世の中のは良い人もいるのねとうれしがる。

繕い終わったコートを持って来た滋子は、それを横山に着せようとするが、横山は、袖口に足を通そうとしたり、上下逆さまにきようとしたり、何度かぼけをかますが、何とか着る事に成功する。

そんな横山に滋子は、もう20年待たなくても、私たち結婚でしますねと言うのだった。

覗き眼鏡を覗いていた男女のアニメの子供たちは、そこからは慣れて空飛ぶ遊具に乗り込むと、それが浮かび上がり「終わり」の文字が出る。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

三つのエピソードからなる喜劇集。

どれもなかなか面白く出来ている。

最初のは、音楽コメディとでも言うのか、坊屋三郎、益田喜頓、山茶花究の「あきれたボーイズ」と歌手の灰田勝彦が登場するナンセンスもの。

楽器をなくした貧乏ミュージシャンたちが、傷害保険を利用して金を作ろうとするが、ことごとくうまくいかないどころか、意外な展開に…と言う第一話。

第二話目は、金語楼主演の父子人情話。

古めかしい設定ながら、今観てもほろりとさせる部分がある。

三話目は、キドシンこと木戸新太郎が、身体を張って逃げまくるスラプスティックコメディ。

ラストの落ちは古くさい手法だが、日本映画でのこの手の逃走劇は珍しいので、興味深く見れる。

キドシンは二枚目風の優男役も出来るが、こんなドタバタ劇も出来る人だったのかと初めて知る事が出来たのも貴重。

タイトルはもちろん「誰がために鐘は鳴る」(1943)のパロディである。