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森繁のペテン王(別題:わが名はペテン師)

1955年、新東宝、キノトオール+小野田勇原作、須崎勝弥脚本、渡辺邦男監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

タキシード姿の男堀川新兵衛(森繁久彌)が、大きな円柱のある部屋に入って来る。

その柱には、「ボクはペテンシ」と書かれてある。

その文字部分が、どんでん返しのようにくるりと回っている間に、堀川は、普通の背広姿に変身し、誰が「ペ」なんて付けたんだ!?と言いながら、柱の文字の「ペ」の字をはぎ取り、「ボクはテンシ(天使)」と笑いながら部屋を出てゆく。

キャバレーのカウンターで飲み始めた堀川だったが、お代わりをしようとすると、バーテン(三木のり平)が怪しみ、お金はお持ちですか?と問いかけて来る。

堀川、少しも慌てず、ここにいる客の財布を合わせれば、数万はあるだろうと煙に巻こうとするが、バーテンはその口車に乗ろうとしない。

堀川は、右隣に座っていたホステスみどり(三原葉子)に、後ろ手に持ったグラスに、背中に隠してウィスキーを注がせたりするごまかしをやっていたが、やがて立ち上がると、ホステス晴美(江畑絢子)を挟んで左側に座っていた男の足下に落ちていた財布をけりながら自分の席の方に持って来ると、さもそれを自分のもののようにバーテンに預けてしまう。

そして堀川は、やおら、左の財布の持ち主に向かって、カクテルをおごったりし始めるが、バーテンが、この財布ぎっしり詰まってますね…などと言いながら、堀川に出してみせたりしたので、左の客は懐を探しながら、それは俺のだ!と言いだす。

この場に置いても、堀川は騒がず、私は、晴美から預かったので、それをバーテンに渡しただけなどと、又、適当な事を言いだしてごまかし始める。

しかし、さすがに、バーテンと左の客がしつこく責めだしたので、わしを信用できんと言うのか!と大声を出した堀川に、それまでフロアで踊っていた客も、音楽を奏でていた楽団も曲を止めて注目してしまう。

気まずい場の雰囲気に気づいた堀川は、開き直ってフロアの真ん中に来てホステスと踊ろうとし始めるが、その時、地回りのヒロちゃん(山室耕)とポンちゃん(沢井一郎)が店に乗り込んで来て、酒瓶を割ったもので堀川に殴り掛かろうと気色ばむ。

ところが、その時、店に来たのが、夕べの深酒で遅刻して来た人気ホステスの摩梨絵(角梨枝子)で、彼女は、堀川の顔を見るなり、「五郎さん!」と言いながら抱きつくと、堀川の頬にキスマークを付け始める。

堀川は訳が分からず戸惑うが、摩梨絵の方は「黙って1年近くも姿を消すなんて…」と言いながらも、堀川の首に巻き付けた両腕を話そうとしない。

その様子を見ていた地回りやバーテンたちは、摩梨絵の恋人だったのか…と、毒気を抜かれたようになってしまい、摩梨絵と堀川がそろって店を出てゆくのも、黙って見送るしかなかった。

堀川は、摩梨絵のアパートの部屋に連れてこられ、ウィスキーを振る舞われる。

自分は五郎と言う人物ではなく堀川と言うものだと、人違いである事を説明した堀川だったが、それを聞いた摩梨絵は、あなた、どうして五郎さんじゃないのよ!と不機嫌になる。

タンスの上に置いてあった写真立てには、確かに、堀川そっくりの男の写真が飾ってあり、それが五郎と言う人物らしかった。

摩梨絵が言うには、広東にいた時、終戦のどさくさで五郎と別れたらしい。

摩梨絵は、五郎との思い出の曲を聴かせると言いながら、オルゴールを開いてみせる。

その裏蓋には、両親らしき男女に挟まれた子供の家族写真が貼ってあった。

誰の写真家と堀川が尋ねると、五郎の子供自分の家族写真なのだと言う。

その父親の顔をじっくり見ていた堀川は、五郎の名字は「木宮」と言うのではないかと言いだす。

摩梨絵がそうだと答えると、父親は木宮大策と言う土建会社の社長だよと教える。

堀川でさえ顔を知っていた有名人らしかった。

何事かを考えていた堀川、急に摩梨絵に、二人で会いに行ってみようか?と言いだす。

後日、二人は列車に乗り込んで、木宮大策の別荘に向かっていた。

過日、木宮宛に手紙を送っており、先方から、二人で来いとの許しの手紙が届いたからだった。

車内でジュースを飲んでいた堀川に、隣に座った摩梨絵は、五郎さんは左利きだったのだと教える。

木宮家では、軽い神経痛に悩まされていた五郎の母親園江(浦辺粂子)が、椅子に腰掛けたままの状態で、屋敷にやって来た二人を迎える。

堀川は、この時とばかり、園江に抱きつくと、つばを頬に付け、再会の感激に涙する五郎を演じてみせる。

その後、五郎は、そばに控えていた摩梨絵を、自分の妻だと園江に紹介する。

大喜びの園江は、居間に二人を案内すると玉露の新茶を出すが、その湯のみを右手で取り上げようとした堀川に、横に座った摩梨絵がそっと注意するのだった。

その時、息子が帰って来ているにも関わらず外出していた父親の大策(藤田進)が車で帰って来る。

鞄持ちの正八(小高まさる)と車を降りると、寄付を願いに来た村の衆らに取り囲まれ、頭を下げられるが、大策は相手にせずに屋敷の中に入ってしまう。

居間にやって来た大策に、堀川が塩らしい態度で挨拶をするが、それを聞いた大策は「浪花節のような声を出すな!」と怒鳴りつけると、不機嫌そうに正八を連れ、奥の部屋に行ってしまう。

堀川はそっと摩梨絵に、五郎は一人息子だったはずだが、あの連れの男は誰だと問いかける。

摩梨絵にも、正八の正体は分からないようだった。

園江から、大策は浪花節が大好きなのだと聞いた堀川は、着物に着替えて戻って来た大策の前で、即興の波輪節を披露してみせたりするが、又しても大策は「虫酸が走る!」と言いながら顔をしかめる。

先ほど来、大策の態度にじっと耐え忍んでいた摩梨絵だったが、とうとうたまりかねたのか、五郎さんの事をそのようにおっしゃるのは、お父様でも許せません!と反撃に出る。

その摩梨絵から預かった五郎のオルゴールを取り出した堀川だったが、ずっと大策と一緒にいる正八の正体をつかみかけており、子供の頃から君とは仲が悪かったよねなどと言って、相手の反応を試してみる事にする。

正八は驚き、園江が、あんたたちはいとこ同士じゃないかと横から口を出してくれたので、正体が分かった堀川は、大陸にいるとぼけやすいので…などと言ってごまかすために、急に、摩梨絵から教わっていた五郎が子供の頃に覚えた子守唄などを歌い始める。

その後、両親とビールなどを縁側で酌み交わしながら、歌を歌い続ける堀川に、いつしか摩梨絵も唱和するのだった。

夜、摩梨絵と二人きりになった堀川は、昼間は互いに夫婦の役だけれど、居間は他人の堀川にしてくれときっぱり摩梨絵に言い渡し、摩梨絵を寂しがらせるのだった。

その頃、正八はと言えば、大策に近づき、この家の跡継ぎはどうなるんでしょうね?などと、わざとらしい自分の売り込みを始め、大策を怒らせるのだった。

翌朝、木宮別邸裏口から、別邸御用地と書かれた海岸の松林に、摩梨絵と連れ立って出てみた堀川は、百合の花を摘もうと海岸近くに一人で出て、ふらつく園江の姿を発見、すぐさま飛んで行って、その身体を支えてやるのだった。

園江を摩梨絵に任せて、別荘に帰って来た堀川は、縁側で「下駄!」と怒鳴っている大策に気づくと、自分がはいていた下駄を脱ぎ走りよるが、近くにいた正八も下駄を持って大策の前にやって来て鉢合わせになる。

大策は、そんな二人を怒鳴りつけ、「長年、土建の現場で足は鍛えているんだ!釘なんか踏んでも、釘の方が曲がるわい」と言いながら裸足のまま海岸に出かけたので、慌てて堀川も「面の皮の方が厚いくせに…」とぼやきながら後について行く。

その直後、大策は、何かにつまずいてよろけるが、堀川が砂の中を探ると、五寸釘がまっすぐなまま落ちていたので、ちょっと苦笑する。

すると、大策は、「面の皮が厚いと言いたいのか」と、先ほどの堀川のぼやきが聞こえていたような皮肉を返す。

さらに、何を思ったのか、その場で急に着物を脱いだ大策は、お前も脱いで相撲を取ろうと言いだす。

堀川が上着を脱ぐと、派手なハワイアンパンティをはいていたので、大策は、なんと言う猿股をはいておる!と怒鳴りつける。

しかし、組み合うと、あっさり堀川に投げ飛ばされたので、親を投げ飛ばすとは何事か!と怒鳴り、それではと、堀川がわざと転んで負けてみせると、また大策は怒るのだった。

一方、摩梨絵に付き添われた園江は、二人が戻って来たおかげで、自分も外に出られるようになったと顔をほころばせるのだった。

その園江のうれしそうな顔を見ていると、罪悪感に襲われたのか、摩梨絵はつい、本当の事を打ち明けそうになるが、そこに近づいて来た堀川が、遠回しに諌めるのだった。

しかし、その堀川も、つい摩梨絵の事を「こいつ、キャバレーで…」と口走ってしまったので、「いや…、キャン、キャン、バレ〜♬と言う中国の歌があるんですよ」とあわてて言い繕うのであった。

その夜、二人きりになった摩梨絵は、堀川の事を本物そっくりと褒めるのだった。

その日も、遅くまで、大策に寄付を頼む村の衆が屋敷に来ていたが、もうこれ以上頼んでも無理だろうと、半ばあきらめていた。

一人将棋をしていた大策に、園江は、あの二人にはもう一度、結婚式をして欲しいと話しかけていた。

一週間経ったある朝、摩梨絵は、お父様が還暦らしいので、そのお祝い用の魚を買いに行くと出かける。

一人になった堀川は、若い女中に話しかけたりするが、女中は、あなたとは話をするなと言いつかっておりますと言うだけだった。

その頃、興信所に堀川の身元調査を依頼していた正八が、その報告を電話で受けていた。

やはり、堀川は五郎ではないとの確信を得た正八は、喜び勇んで、大策に教えに行くが、大策はとっくに気づいていたらしく、お前も安心したろう?と、自分の財産を狙っている正八に皮肉を言う。

その後、裏の松林にいた堀川の元にやって来た大策と正八だったが、いきなり正八が堀川に飛びかかると、あっさり堀川はねじ伏せてしまう。

その様子を見ていた大策は、お前は左利きではなかったかと指摘し、堀川は、とっさに、こんな奴程度なら右手で十分ですとごまかし、さらに浪曲を披露して胡麻をする。

大策から、この辺は懐かしかろう?と水を向けられると、つい子供の頃に遊んだと嘘を並べてしまう堀川だったが、大策が、ここを手に入れてから3年しか経っておらんと言われると、とうとう嘘がバレたとあっさり観念する。

屋敷の縁側に戻って来て、摩梨絵を連れて、とっとと出てゆけ!と大策から言われた堀川は、いきなり大策の頭をはたくと、俺は良いが、摩梨絵は本当の五郎の嫁さんだ。ばあさんを一週間だまして喜ばせてやったのを忘れたか。頑固者のあんたは、今までどれだけ、あのばあさんを喜ばせてやって来たんだ?と、逆に説教を始める。

それを神妙に聴いていた大策は、参った!と言い、摩梨絵はわしの娘だと言いだす。

堀川が、全財産を譲るか?と詰め寄ると、とうとう、譲ると大策は折れる。

さらに、大策には、お前の男っぷりに惚れたと言いながら、100万円の小切手を書いて渡してやる。

その様子を、近くで隠れて観ていた正八は、魚を買って帰って来た摩梨絵を松林の中で襲い、俺と結婚しろ!五郎は偽者だ!と言いよるが、そこに鞄を持ってやって来た堀川が、正八を殴りつけると、小さな手提げを投げ与えて、正八を追い払ってしまう。

大策は、青あざを作って戻って来た正八をあざ笑い、園江は、急にいなくなった五郎こと堀川の事を心配する。

そこに、村の衆がなだれ込んで来て、100万円を寄付してもらいありがとうございましたと礼を言うので、先ほど渡した小切手を、勝手に堀川が寄付してしまったことに気づいた大策は、「う〜ん…、ペテン師め…」と唸るのだった。

その後、堀川と別れ海岸にいた摩梨絵を見つけた大策は、五郎はどうした?う〜ん…逃げたな!と言い、摩梨絵が言葉を濁していると、勘の悪い奴め、お前の亭主にしてやると言うんだよと摩梨絵に告げるのだった。

堀川は、一人、歌を歌いながら、海辺を遠ざかっていた。

堀川はその後、青森へ向かう夜汽車に乗っていた。

車掌(村山京司)が検察に来ると、横浜までの切符を見せ、この線路をずっと回ってゆくと、やがては北陸から京都、東京に行く途中で横浜に付くだろうなどとごまかし始め、それでは、その分の清算をしてくれと頼む車掌を、口先三寸で追い払ってしまう。

その直後、通りかかった美人を見た堀川は、すぐに持っていた変装用の口ひげと眼鏡で温厚そうな紳士に化けると、再び通路を戻って来た美人が、床に落ちていたバナナで滑って転びそうになったのを支え、自分の隣に座らせてやる。

美人が鷲の湯まで行くと聴いた堀川は、実は自分も同じ所へ行く所だと嘘をつく。

美人は、荷物があるので…と遠慮するが、この程度なら私が持ってあげますと、棚の上に置かれた荷物を見ながら堀川が言うと、美人は、後三つトランクが預けてあるのだと言いだしたので、堀川はちょっと首をすくめる。

大量に荷物を背負い、鷲の湯駅に降り立った堀川と美人は、降りた他の客が、バスに殺到する姿を見て、田舎者は何かと慌てると笑っていた。

ところが、そのバスが出発した後、バス営業所の男に、次のバスは?と聴くと、鷲の湯行きのバスは一日に一本しかなく、今日は、夕方迄ないと言うではないか。

鷲の湯迄は4里もあり、とても歩ける距離でもないと美人から聴いた堀川は、横柄な営業所長(岬洋二)と言う相手に、自分は隠密裏に視察に来た国会議員だが、お前のことは運輸大臣の八木に報告するぞと脅し始める。

すると、急に卑屈になった営業署長は、すぐに車を用意させますと恐縮しながら、堀川が持っていた大量の荷物を受け取る。

車の用意ができる間、近くを散策していた堀川に、付いて来た美人は、自分は久々の故郷帰りなのだが、既に両親はおらず、昔、叔父とけんかして村を飛び出したのだが、今では、バーの雇われママですと打ち明ける。

そこに、バスの営業所長が車の用意ができたと知らせに来る。

見ると、「歓迎 堀川先生」と横断幕を張り付けたトラックだった。

豚臭い、その荷台に乗った堀川と美人は、歌いながら鷲の湯に向かう。

村に到着してみると、そこには、楽団を中心とした大勢の出迎えが待ち受けていた。

楽団を指揮していた男が進みでて、自分はこの村の村長山村(柳家金語楼)と名乗り、バスの営業署長から連絡を受けたので、お待ちしていましたと丁重に挨拶をする。

さらに、二人が泊まる宿「鷲の屋」の主人三輪大八郎(鳥羽陽之助)も、挨拶に近づいて来たが、その顔を見た美人は、自分は堀川の家内だと言いだしたので、隣にいた堀川は内心驚嘆する。

さらに美人は恐縮する三輪に向かって、「おじさん、私の顔に見覚えない?」と言うので、三輪がじっくりその顔を見ると、昔けんか別れして村を出て行った恵子(三浦光子)だと分かったので、さらに驚愕する。

話を聞いていた堀川は、内心呆れ、村長に、自分は隠密で来たのだから、ばか騒ぎは止めろと、集まっていた村の衆を解散させながらも、接待は君に任せると、ちゃっかり村長に命ずるのだった。

その夜は、「鷲の屋」で、堀川と恵子を前に盛大な歓迎会が催される。

まずは、山村村長が、自分は、近くに駅がないこの村のために鉄道招致運動を進めていると挨拶をし、それを阻むように、三輪もこちらにおられる代議士夫人と自分は親戚でと威張りだし、堀川先生にはぜひ、この村に、大温泉郷を作って欲しいと頼む。さらにそこに、バスの営業所長までしゃしゃり出て来て、最初に堀川代議士を見つけたのは自分だと威張り始めたので、後ろで聴いていた堀川は苦りきって止めさせ、温泉の見極めは、第一に芸者の質だと言い出し、暗に早く芸者を呼べとの催促を出す。

芸者衆が踊りだし、山村村長のその中に入って浮かれ始めたので、見ていた堀川もうずうずして来て、頬被りなどして立ち上がろうとするが、その時曲が終わってしまう。

それでも、芸者を前にして酒の酌をさせようとした堀川だったが、なぜか、芸者たちは動こうとしない。

その内、自分が堀川の妻と言うことになっているので、遠慮しているのだと気づいた恵子が、自分は気にしないから、酌をしてやってくれと芸者衆に頼む。

その頃、三輪は、村の石屋を呼びつけ、今夜中に、三輪家の墓を立派なものに作り直してくれとこっそり頼み込んでいた。

深夜、庭の東屋で二人きりになった恵子は、浅ましい女の復讐かしら…と、堀川に話しかけて来る。

実はこの宿は、本来自分の父親が当主だったのだと言う話を聞いた堀川は、良くある後見人のお家乗っ取り話か…と同情し、片棒担ごうじゃないかと言いだす。

翌朝、二人は、夕べのうちに立派なものに作り替えられた恵子の両親の墓を詣る。

そこに、三輪が近づいて来て、村の衆が、先生に願い事があると集まっていますと報告に来る。

そんな三輪に、財産の半分は恵子に分けてやれと堀川は命じ、三輪と一緒に旅館に戻ってゆく。

後に残った恵子は、堀川への感謝を込めて、再び墓に報告しながら手を合わせるのだった。

宿には、温泉郷の完成図を携えた山村村長ら村人が集まっていたが、射的場や釣り堀と言ったありきたりのアイデアしか書かれていなかったので、堀川は、もっと大きな目標、日本のモナカ…、いや、モナコを目指すようなものをもってこいと突き返す。

それを聴いた山村村長は、陰でぶつぶつ文句を言うが、何か言ったか?と堀川が戻って来ると、急にぺこぺこして、村の衆に発破をかけるのだった。

その頃、墓参りから帰って来ていた恵子の前に、昔なじみの瀬山早苗(久保菜穂子)が会いに来て、戦争で足を悪くした一郎兄さんは、ずっと恵子さんのことを思い続けていたのだと打ち明ける。

それを聴いた恵子は感激し、一郎に会いたいと言いだす。

今は小学校の先生になっていた一郎(細川俊夫)は、恵子に会ってもうれしそうな顔は見せず、大温泉郷などを作り、自然を破壊するくらいだったら、子供たちのための図書館を作るようにご主人に頼んでくれと頼む。

そこに、村の衆を引き連れてやって来た堀川は、一郎の話を聞くと、君こそ教師の模範だ、学校図書館を作ろうと言いだしたので、同行していた村の衆は、話が違うと慌てだす。

そこに三輪が走って来て、とんでもなく偉い人が来て、先生を呼んでいると言うので、堀川は、それは警察の人間か?などと探りを入れながら、おっかなびっくり付いてゆく。

「鷲の屋」で待っていたのは、意外にも、木宮大策と摩梨絵だった。

大策は、代議士に化けた堀川の顔を見ると、俺の跡継ぎはお前に決めた。摩梨絵を嫁にして、俺の所へ帰れと、うれしそうに告げる。

しかし、それを聴いた堀川は、喜ぶどころか迷惑そうに顔を背けてしまう。

一方、恵子は早苗に、実は自分は堀川の妻ではないのだと説明しながら、宿に戻って来ていた。

そして、大策と摩梨絵の前で立ち尽くしていた堀川を見つけると、自分があなたの妻ではないことをはっきり言ってくれと頼む。

ところが、堀川の方は、そんな恵子に、俺の女房だと言ってくれと逆に頼む。

そんな堀川の所に、村の衆たちが争っているので来て欲しいと三輪が頼みに来る。

宿の座敷で、山村村長一派と、一郎たち小学校の教員たちが、温泉郷建設か図書館建設かで言い争いをしていたのだ。

その場にやって来た堀川は、この場で宣言をすると言いだし、元を正せば、諸君らの浅ましい根性、大臣や代議士にこびへつらうごうつくばりが、今日の争いを招いたのだと喝破する。

しかし、それを聞いていた村長、三輪、営業署長ら村人や、教師たちから、このペテン野郎!とののしられた堀川だったが、そこに助け舟が現れる。

大策だった。

大策は、この人は間違いなく堀川代議士であり、自分は図書館建設の相談を受けここに呼ばれて来た木宮と言うものだと、村人たちに自己紹介すると、その場で、100万円の小切手を書いてみせる。

それに乗じ、堀川は、木宮の別宅は、子供たちが夏休みに利用しても良いことにしたなどと、勝手に付け加え、大策を慌てさせる。

その場にいた村人や教師たちは、全員、堀川代議士万歳!と大喜びする。

取り残された山村村長が、わしはどうすれば良いんだと嘆くと、君はくたばりたまえと、堀川は言い放つのだった。

摩梨絵の元に戻って来た堀川に、大策は、君にはすでに200万も投資しているのだから、うちに来いと説得するが、今迄黙っていた摩梨絵が、それはヒューマニズムに反する、結婚は、堀川さん自身の意思に任せるべきだと言いだす。

その場に早苗とともにいた恵子は、私には一郎さんがいますと言う。

返事を迫られた堀川は、これは脅迫だ!と悲鳴を上げるが、早く言わんかい!と大策にせっつかれると、「我が輩の女房は…」と、とうとう返事をしそうになる。

その時「私なの!」と言いながら、堀川の腕にぶら下がったのは、何と早苗だった。

その答えを聞いた大策は、又引っかかったと怒り、あの人はやっぱり他人だったのよと、摩梨絵は泣き出す。

あっけにとられるみんなを後にし、「鷲の屋」を後にした堀川は、同行して来た早苗に礼を言う。

早苗はあっさり、あんまり堀川さんが可哀想だったからと微笑む。

代議士に化けていた付け髭を取りさった堀川は、ペテン師も早苗ちゃんのような娘には弱い。純情可憐にさ…と苦笑いする。

そして、早苗と山の畑の間を縫いながら歌い始めると、カンカン帽を空高く投げ捨て、やがては一人で去ってゆくのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

口八丁手八丁の芸達者、若き日の森繁の魅力を十二分に生かした軽妙な作品である。

自分の仕事を楽しんでいる感じで、女の身体や金が目的ではなく、卑屈さが全くない主人公のキャラクターが好ましく、観ていて気持ちよい。

そして、金持ちや村人たちの心の中にある卑しさを、逆に指摘する所などに、風刺劇としての面白さも描かれている。

翻訳物のシャレた古典ピカレスク短編でも読んでいるような雰囲気さえ感じられる。

冒頭のキャバレーで登場する三木のり平は、刈り上げ頭に眼鏡と、ちょっと観、誰なのか気づきにくいが、会話を聞いているうちに分かる。

鷲の屋旅館での宴会の席、芸者を呼ばせた堀川が、前に座った金語楼扮する山村村長に、「そこに居たんじゃわしが写らん!」と怒鳴り、金語楼が振り返ってカメラの方に気づき、森繁にかぶっている自分が横にずれるなどと言う「楽屋落ち」なども楽しい。

藤田進演ずる頑固者の金持ち大策も、なかなか魅力的なキャラクターになっている。

典型的な「古き良き時代の楽しい映画」の一本と言うべきだろう。