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怪談残酷物語

1968年、松竹大船、柴田錬三郎 「怪談累ケ淵」原作、成沢昌茂+佐伯嘉則脚本、長谷和夫監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

針医の安川宗順(金子信雄)は、旗本深谷新左衛門(戸浦六宏)の妻で病気がちなとよ(花柳幻舟)の身体に針を打っていた。

タイトル

針を刺しながら宗順は、側で酒を飲んでいた新左衛門に、後三日で大晦日なので、貸してある12両を返してもらいたいと話しかける。

宗順は高利貸しもしており、自堕落な生活を続けていた新左衛門に、これまで何度も金を貸していたのだった。

すると、新左衛門はにわかに、妻の体で払うと言い出す。

その言葉に凍り付くとよと宗順。

とよは、旗本の家に生まれて来た自分がそんな辱めを受けるのなら死にますと抵抗し、宗順の方もご冗談を…と相手のしなかったが、新左衛門がどうしても言う事を聞きそうにもないので、とりあえず5両を取り出して、これだけあれば水茶屋で一晩遊べましょうと懐柔しながらも、貸してある金は返してもらわねば困ると念を押す。

しかし、金を受け取りかけた新左衛門が、その言葉で逆上しそうになったのに気づくと、仕方なく宗順は、言う通りにいたしますと言いながら、とよを抱くしかなかった。

その時、障子の隙間から部屋の中をのぞいている人の気配がしたので、驚いた新左衛門が廊下に出てみると、そこに立っていたのは、剣術の稽古から帰って来た息子新一郎(田村正和)だった。

母親の淫らな姿を目撃してしまった新一郎は逃げ出すが、その直後、新左衛門は、いきなり刀を抜くと、とよの身体にかぶさっていた宗順に斬りつける。

斬られた宗順は、血まみれになりながらも逃げ回るが、新左衛門はそんな宗順に執拗に刃を浴びせかける。

瀕死になりながらも、宗順は、金を返せ!てめえも地獄へ!どいつもこいつも俺を裏切りやがって…とうめき続ける。

とどめを刺した新左衛門は、新一郎を呼ぶと、その宗順の死体を川に捨てに行く手伝いをさせる。

橋から、宗順の死体を投げ捨てた後、屋敷に戻って来た新左衛門は、人形に染み付いていた血の痕を必死に拭き取ろうとしていたとよを横目に、宗順が落とした財布の金を奪い取っていた。

遠くから按摩の笛の音が聞こえて来て、宗順が捨てられた川は泡立ち、そこに殺された宗順の顔が恨めしそうに浮かび上がっていた。

その後、とよはさらに身体を悪くし、すっかり寝込んでしまう。

その側にいたのは、新左衛門が深川八幡の茶屋の女に生ませた、まだ幼い新三だった。

そんな屋敷に、おくま(春川ますみ)と言う女を引き込んでいた新左衛門は、おくまから身ごもったと教えられ、憮然としながらも、相手の挑発に乗り、抱きついて行く。

その時、庭にいた新一郎に気づいた新左衛門は近づいて行き、憎いか?この父が?お前は親に似た鬼子。600石の深谷家を立て直してくれ。女にだけは気をつけろと耳元でささやくのだった。

その新左衛門が立ち去った後、まだ部屋で寝そべっていたおくまに近づいた新一郎は、刀を抜いて斬ろうとするが、相手の度胸に飲み込まれ、結局、抱かれてしまう事になる。

一方、庭先に一人の針医が迷い込んで来たのを見た新左衛門は、針を打ってくれと寝床から頼むとよの為に、その針医を上げてやる。

一方、幼い新三がお漏らしをしたと言うので、世話をさせられる役目を仰せつかったおくまは、歯がゆそうに叱りつけていた。

その後、その新三を連れ、おくまが祭りを見に出かけた後、台所に残っていた酒を飲み始めた新左ヱ門は、奥からとよの叫び声がしたように思ったので駆けつけてみると、蚊帳の中でとよの身体にのしかかっていたのは死んだはずの宗順に見えた。

もはや平常心を失った新左ヱ門は、刀を抜くと、その宗順を斬りつけるが、蚊帳を破って外に出て来た血まみれの男は、先ほどの針医であった。

しかし完全に正気を失った新左ヱ門は、とうとう誤ってとよを斬ってしまい、その後も宗順の幻影に惑わされ、刀を振り回すうちに、刃が折れ、その切っ先が宙を舞って新左ヱ門自身の首に突き刺さってしまう。

祭りの音が響いて来る深谷家の奥座敷では、三人の死体が転がっていた。

帰宅してこの惨事を発見したおくまは、家の中から金目のものを物色してまとめると、どこかに姿を消した新三を置いてきぼりにして屋敷を後にする。

雨が降り始めた中、その新三は、とよと新左衛門の死骸の側で大声で泣きじゃくっていた。

月日が流れ、5年後、深谷家の墓前に佇んでいたのは、あの新一郎だった。

あの事件の後、弟の新三は行方不明となってしまい、江戸を逃げ出した新一郎は、すっかり人間が変わってしまい、三河の強盗集団の仲間入りをすると、御金蔵破りに成り果てていた。

その時、墓参りに来た裕福そうな商人たちの姿を見つけた新一郎は、良いカモが来たと喜ぶと、急にその場で切腹するまねをし始める。

それを見て慌てて止めに入ったのは、谷中で質屋をやっている下総屋惣兵衛(北村英三)と、付き添いの女中のお花(賀川雪絵)であった。

新一郎は、お花が淫乱そうだとすぐに気づくが、訳があるようにさめざめと泣く芝居を始め、同情した下総屋にそのまま店に連れて行かれる。

かくして新一郎は、まんまと下総屋に厄介になる事になり、末の娘と結婚の約束までさせられる。

しかし、その末娘とはまだ八歳の女児だったので、新一郎は、毎日庭先で剣の稽古のまねごとなどをしながら、家を乗っ取る機会をうかがっていた。

ある日、惣兵衛が末娘を連れ、浅草寺にお参りに行って今店には誰もいないと、お花が近づいて来て新一郎に教える。

その後、体を拭いていた新一郎の右肩にこぶが出来ていると発見したお花は、自分の兄も同じこぶが元で亡くなったので、針を打って血を散らせた方が良いと言い出す。

実は自分はその針が打てるのだと言うので、されるがままに体を任せた新一郎だったが、お花の父親が針医で、5年前に亡くなったのだと話すのを聞くうちに、ふと過去を思い出す。

さらに、こぶで死んだと言っていた兄の話は実は嘘で、本当は生き別れた姉が一人いるのだとも言う。

自分が幸薄い女なのだと言いながら、抱きついて来たので、止せ!汚い!と振り払おうとした新一郎だったが、その時、おくまに抱かれたあの日の事が脳裏を駆け巡る。

事を終え、失神してしまったかに思えたお花だったが、そろそろ惣兵衛たちが帰って来る頃だと気づいた新一郎が揺り起こそうとすると、何と、その首筋に自らの針が刺さって、お花は絶命していた。

この状況では、どう言い訳してみた所で、自分に罪が着せられると感じた新一郎は、得意の御金蔵破りの技で、蔵にあった小判をそっくり盗み出してしまう。

その後、帰宅した末娘は、花の姿が見えないので、名前を呼びながら新一郎の部屋に来るが、そこで寝ているように見えたお花を発見し、父親に知らせる。

惣兵衛は、着物をめくってみて、お花が裸のまま死んでいる事に気づくと、すぐさま蔵の様子を見に行き、小判までなくなっている事を知る。

すべて新一郎の仕業に違いないと感じた惣兵衛は、今までまんまとだまされていた事を悟り、その場に失神してしまう。

その後、新一郎は、かつて剣の稽古をしてもらっていた黒坂一斉(明石潮)の元に向かう。

身体を壊し、今や手足が不自由になった一斎の道場が立ち行かなくなった事を聞き知ったからであった。

久々に顔を見せて、殊勝に挨拶をする新一郎の姿を見た一斎は喜び、自分に代わって、この道場を告いでくれと頼み込む。

その提案を、内心ではしてやったりと喜びながらも、表面上は謙虚に従う事にした新一郎は、茶を運んで来た見慣れぬ娘に目を留める。

一斎が言うには、養女のたえ(田村奈巳)だと言う。

新一郎の黒い欲望がうごめきだす。

下総屋から奪った300両は、その後一年で使い果たした新一郎は、辻斬りに成り果てていた。

笛を吹く按摩が通ったので、斬り殺そうとした新一郎だったが、相手は、新一郎を狙って化けていた岡っ引きだった。

その岡っ引きと格闘の末、笛で仲間を呼ばれたので、何とか川に飛び込んで逃げ仰せた新一郎だったが、その川は、かつて父新左ヱ門を手伝って、宗順の死骸を捨てた川だった。

一斎の道場に戻って来た新一郎は、今やすっかりあばずれになったたえと抱き合っていた。

奥では、下の世話のために一斎がたえをしつこく呼んでいたので、最初は聞こえぬ振りをしていたたえだったが、結局、自分が後始末をする事になるからと立ち上がって、奥に向かおうとするが、その時、目の前に一斎が立っていることに気づく。

新一郎との会話をすべて聞いたらしく、新一郎にだまされていたと知った一斎は刀を抜いて斬り掛かって来る。

しかし、その刃はよろけ、横に立っていたたえを斬ってしまう。

さらに、その刀を奪い取った新一郎に、一斎もその場で斬られてしまう。

その直後、捕り方の笛が聞こえて来て、手が回った事を知った新一郎は、飛び込んで来た捕り手を斬ると、屋根に逃げる。

すでに、大勢の捕り方に取り囲まれていた新一郎は、屋根の上で暴れ回るが、結局、捕り方に組み付かれ、そのまま一緒に地上に落下してしまう。

どうしてこんな事になってしまったんだろう…

薄れ行く意識の中で、新一郎はこの五六年は、夢の中に生きているようだったと、母親の府議の現場を見てしまったあの日からの事を思い出す。

嫌な匂いだ…

嫌な親父の匂いだ…

そんなもうろうとしていた新一郎に水は水をかけられ、正気に戻ると、捕り方たちに引き連れられて行く。

そんな新一郎を取り囲んだ町人たちは、惨めな末路を辿った元旗本の子を嘲笑しながら見送る。

その野次馬の中に、あのおくまの姿もあった。

新一郎に近づいたおくまは、つばを顔に吐きかける。

新一郎が連れて行かれた後、おくまは、もう一人、腹違いの弟がいやがった。小便たれの小僧が…と、深谷家での事を憎々しげに思い出していた。

その新三(川津祐介)は成長し、建具屋の職人になっていた。

今や、蕎麦屋の女中のお久(桜井浩子)と、昼間から川の上の小舟の上で逢い引きを楽しんでいた。

亥の刻に再会するとの約束を交わした新三は、馴染みの客である、根津七軒町の女浄瑠璃師、豊須賀(川口小枝)の家に出かける。

お久との約束を守るため、今日は母が腹痛を起こしまして…と、早引けの言い訳をした新三だったが、お前の両親はとっくに亡くなったと以前言っていたのではないかと、自分がおふくろさん代わりになってやろうかと豊須賀にからかわれてしまう。

そんな豊須賀の態度を、馴染み客であるため下手に聞いていた新三だったが、心の中では「女郎上がりが…」とバカにしていた。

その後、新三の仕事が済みそうになった頃、婆やを風呂に行かせた豊須賀は、露骨に新三を床に誘う。

豊須賀がたんまりへそくりを溜め込んでいそうだと見込んだ新三は、仕方なく相手をする事になるが、そこにやって来たのが、待ちぼうけを食わされたお久だった。

玄関から中を覗き込んだお久は、二人の常時の現場を目撃すると逆上し、上がり込んで来ると、豊須賀につかみかかる。

しかし、豊須賀は、格子の鍵を開けたままにしていたのは、自分から仕掛けたのではなく、新三に挑まれたためと、最初から計算通りの言い訳をする。

これには、お久もだまされてしまうが、それでも許せないと言いながら、豊須賀の額部分の髪の毛をむしり取る。

豊須賀もお久の首を締めて逆襲しようとするが、新三が止めに入る。

そこに帰って来た婆やは、変わり果てた豊須賀の顔を見て腰を抜かす。

その婆やの様子で異変を感じた豊須賀自身も鏡で顔を確認するが、先ほど、お久がむしり取った左側の額部分が醜く晴れ上がっていた。

豊須賀は、あの宗順の娘で、お花の姉だった。

金に執着する父親の姿勢を豊須賀はそっくり受け継いでおり、今でも、こっそり金を溜め込んでいた。

そんな豊須賀とお花に、金はやらんぞと、宗順の声が聞こえて来る。

生前、あまりの父親の吝嗇ぶりに呆れた姉妹は、家を飛び出したのだった。

一方、お久と料亭で会っていた新三は、豊須賀との事を言い訳し、お前も、蕎麦屋の主人だけではなく、角の八百屋ともやっているんだろうと逆襲する。

豊須賀は金を持っている。俺は金を抱いているだけだと言う新三の言葉を信じだしたお久は、黒板塀に、見越しの松…と、将来への夢を見始める。

豊須賀の顔の腫れは、その後もひどくなる一方で、どんな医者も首を傾げる有様だったが、そんな豊須賀の家に、新三は入り込み、同棲を始める。

豊須賀は、かいがいしく新三に尽くしていながらも、新三が醜くなった自分を嫌っている事を察していたが、自分をこんなにしたのは、あんたの色女なので、あんたが私から逃げ出したら、その首に食らいついてやると脅していた。

按摩の笛が外を通り過ぎる夜、二階に一人で上がって行った豊須賀の後を、こっそり付けて行った新三は、障子の隙間から中の様子をのぞき、火鉢の灰の中から紙袋を取り出し、小判を勘定している豊須賀を発見する。

素早く寝床に戻り、狸寝入りをしていた新三の元に戻って来た豊須賀が、一両を渡し、小遣いとして新三に渡そうとするが、新三は、その手を振り払い、金には興味がない振りをする。

しかし、結局その金を受け取った新三は、翌日お久に手渡してやると、お久は素直に喜ぶ。

金の隠し場所が分かったので、明日の夜明け方、千住の橋の下で落ち合おうとお久と打ち合わせた新三は、豊須賀の家に戻ると、二階の火鉢の灰の中から紙袋を取り出すが、気がつくと、暗闇の隅に豊須賀が立っていた。

新三の本性を知った豊須賀が、むしゃぶりついて来て、金を取り戻そうとするが、二人はもつれたまま階段を滑り落ち、気がつくと、豊須賀は絶命していた。

新三は、家の畳をはがし、床下の豊須賀の死骸を投げ捨てると、廊下に落とした小判を拾い集める。

その頃、お久の方は、母親の目を盗み、家を出ようとしていたが、気がついた母親のおくまが必死に止めようとする。

おくまは、年頃になったら、お久を女郎に売って稼いでもらおうと当てにし、今日まで苦労して育てて来たお久に裏切られたので、お前は旗本の子なんだと証すと、自分はお前の骨までしゃぶってやるとつかみかかって来るが、そんなおくまを振り払って、お久は、千住の橋の下で新三と出会うのだった。

そんな二人が旅立とうとしていると、引き回しの行列が近づいて来る。

見物客が言うには、極悪非道な事を重ねて来た、元旗本の子らしい。

新三とお久は、興味本位で馬に乗せられ通り過ぎる罪人の顔を確認し、からかう。

そんな二人を、後ろ手に縛られた馬上の罪人は睨みつけて行く。

その罪人とは新一郎であり、下で見ていた新三、お久とは、腹違いの兄弟同士であったのだが、三人とも気づくはずもなかった。

旅を始めた新三が、親方に聞いた話だが、自分は深谷と言う旗本の家の生まれらしいと話すと、それを聞いたお久も、あたいも、母ちゃんの話では、旗本の子らしいと教える。

そんな二人が累ケ淵に近づいた時、雨が降り始めるが、急に、お久が腹が痛いと訴え始める。

そんなお久を、何とか羽生村までの辛抱だと言い聞かせながら背負ってやった新三だったが、雷鳴と共にぬかるみに足を取られて転んでしまい、背中から転げ落ちたお久は沼にはまってしまう。

同じ頃、小塚原刑場に座らせられた新一郎は、役人から、何か言い残す事はないかと聞かれ、腹違いの弟がどこかに生きているはずだ。新三!と叫んだ所で首を斬り落とされていた。

雨の中、必死にお久を探していた新三は、転げ落ちた時、落ちていた鎌で足を切ったらしいお久を発見する。

近づいて助け起こした新三だったが、お久の顔が、死んだ豊須賀の顔に見えたので、怯えたあまり、拾った鎌を振り回し、お久の首を斬ってしまう。

雷鳴が轟き、正気に戻った新三は、愛しいお久を自分が殺めてしまった事に気づくと放心し、あてどもなく鎌を持ったまま歩き始める。

いつしか新三は、小塚原刑場にたどり着いていた。

獄門首がさらされた場所には、その罪人の罪状を書いた高札が立っており、それを読んでみると、14年前、谷中の質屋から300両を盗み、その後、黒坂一斎とたえを殺害した深谷新一郎と書いてあるではないか!

新三は、目の前にさらされた獄門首の人物こそ、自分の腹違いの兄である事を知り驚愕する。

そこにふらりと姿を見せたのがおくまだった。

おくまは、新三の姿を見つけると、娘を返せ!あの娘は、このさらし首の男の腹違いの妹さ。あの男が獄門首になったと聞いたので観に来たんだと言うではないか!

それを聞いた新三は呆然とし、その首は俺の兄貴で、お久は俺の腹違いの妹だったとつぶやく。

おくまは、その時初めて、目の前にいる新三が、あの時の小便たれの幼児だと気づく。

新三は、お久は誤って殺しちまった…。実の妹を、俺は色女にしたんだと告白しながらうろつき回る。

その時、新三のふところからこぼれ落ちた小判に気づいたおくまは、それを拾いながら、お久を女郎に売ったな?その金は全部自分のものだ!返せ!と、浅ましくも、新三につかみかかって来る。

それを振り払おうと、持っていた鎌を振り回した新三は、おくまを斬ってしまう。

もはや完全に正気を失った新三は、持っていた鎌で自らの首をも斬ってしまう。

息も絶え絶えのおくまは、落ちている小判をつかもうとにじり寄りながら息絶え、新三の方は、何とか、兄新一郎の獄門首の台にたどり着き、その場で倒れ込むのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

有名な怪談の一つ「累ケ淵」を、深谷家側に焦点を当てアレンジした作品。

親の因果が子に報い…と言う古風なテーマを、三つの時代のエピソードに分けて描いている。

最初は親の代、自堕落な旗本深谷新左衛門を演ずる戸浦六宏と、金の亡者の鍼医安川宗順を演ずる金子信雄と言う、二人の俳優の強烈な個性で見せて行く。

次は、うぶな紅顔の美少年だった新一郎役の田村正和が、金と女をもてあそぶ極悪非道な罪人になっていたと言う意外な話。

最後は、その新一郎の腹違いの弟、新三と妹のお久が、互いに素性を知らずに恋仲になっていたと言う皮肉と、彼ら兄弟の悲惨な最期までが描かれている。

この深谷家の転落の話に、本来の「累ケ淵」の登場人物である豊須賀とお花が絡んでいるのだが、この作品での両者の印象は弱い。

特に、本来の主人公であるはずの豊須賀を演じているのが、川口小枝と言う、今ではあまり知られていない女優である事もあり、本来の話を知らない人には、取って付けたようなエピソードに写るかも知れない。

表現的には、ソラリゼーションとか、心のつぶやきをセリフのようにかぶせていたりする工夫があるのだが、その表現に慣れて来るまでは、ちょっと観ている側に混乱が起きる。

個人的に興味深いのは、60年代後半の作品なので、さすがに松竹作品とは言え、女性の胸乳を露出させたりするエロ描写がある事。

「ウルトラQ」の江戸川由利子や「ウルトラマン」のフジ隊員で有名な桜井浩子が出ている事などがある。

元々東宝の女優だった人だが、この時代には東宝で仕事がなくなった事もあり、他社出演をしていたと言う事なのだろう。

川津祐介との濃厚なキスシーンなどが珍しい。

後、気になったのが、最後の処刑場でのシーン。

獄門首になった兄新一郎の前で、正気を失い、自らの首を切断する新三だが、そのシーンでの新三の顔は、うっすら隈取りのようなメイクが施されている。

雷鳴が轟く中、獄門首を執拗に映すと言う辺りも含め、どことなく、後年の「八つ墓村」(1977)での回想シーンを連想させる演出である。

さすがに、今観て、怖いと言うような内容ではないが、当時としてはかなり雰囲気もあるし、色悪を演じる若き時代の田村正和とか、色々見所の多い作品ではある。