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怪猫有馬騒動

1937年、新興キネマ、波田謙治脚本、木藤茂監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

絵地図で、江戸城の外れにあった櫓の周辺にある有馬屋敷が示される。

座敷牢の中に閉じ込められた女が「止めて!」と叫ぶと、急に笑い出すと言う狂態を見せており、その声が聞こえて来る部屋にいた奥方は、あの声がいつも聞こえるので変になりそうじゃと不快感をあらわにしたので、側に控えていた老女岩波は、雪庵に一服盛らせましたと頭を下げる。

しかし、毒が入った食事を運んだ女中は、狂女が、そのお膳には毒が盛られていると、本能的に見抜いてしまったので驚くしかなかった。

その牢の女が狂ったのは、奥方様に嫌われたため、いじめ抜かれた末のことらしい。

そんな事情も知らなかった、まだ新入りのお部屋様付き女中のおたき(鈴木澄子)も又、その狂女の声を一日中聞き、夜も眠れないと思わず漏らしてしまうが、それを聞いたお部屋様は、奥方様付きお女中たちには逆らわない方が良い。ご不幸なお殿様をお慰めするのじゃと、大奥での内情を言い聞かす。

いつまでも、さらし者のように狂女を座敷牢に閉じ込めてる奥方の嫌がらせにも似た行為を見かね、さすがに有馬頼貴もたしなめようとするが、奥方は、差し出口はお控えくださいと聞く耳すら持たなかった。

ある日、牢の側を通りかかったおたきは、牢の前にいた一匹の猫を見つけ、部屋に持ち帰ると「タマ」と名付けかわいがるようになる。

ある日、おたきは、実家への帰宅を許される「お宿下がり」で、実家にいる母親と久々に再会を果たす。

母親は目が不自由で、出世した今の小滝の姿を見ることが出来ないことを悔しがりながらも、お父っつぁんが生きていたらなんて言うだろうと嬉しがる。

母親は、そもそも、おたきが大奥に召し上げられたきっかけの事件を思い出していた。

父親を早く亡くし、母親も目が不自由なため、毎日の生活さえままにならなかったおたきの家では、おたきは針仕事をして稼ぎ、まだ幼い妹のおたけまでも、毎日、シジミ売りに出歩いていた。

そんなある日、そのおたきが、有馬家の足軽に商売もののシジミをひっくり返された上に、乱暴までされていたのだが、それを知った今のお部屋様が、城に呼び寄せたおたけの口から不幸な家庭事情を聞き、同情して、姉のおたきを自分のお付き女中として大奥へ呼んでくれたのであった。

回想から覚めた母娘だったが、妹のおたけは、今日もシジミ売りに出かけて留守なのだと言う。

その時、貧乏長屋の隣で老いた父親と二人暮らしのおなかの家から、借金取りの婆さんの怒鳴り声が聞こえて来る。

様子を見ると、近所のものたちも押し掛けて、おなかの家の様子を気にかけている様子。

どうやら、借金を返せないので、おなかを売ってでも金を作れと無理難題を押し付けられているらしかった。

大奥に戻ったおたきは、自分と同じ年頃で、同じように貧しさに苦しんでいる親友おなかのことを思うと、沈み込んでしまうのだった。

そんなある日、座敷牢に入っているはずの狂女がどうしたことか牢から抜け出しており、しかも、その手には日本刀を持って、廊下を通りかかった奥方に迫ると言う事件が起きる。

それを知った有馬頼貴が、自分が成敗すると刀を抜いて近づいて来るが、それを知ったおたきは、相手が相手だけにお怪我があっては危ないと、自ら、狂女のそばに近づくと、今、殿から拝借した刀を使い、幼女に話しかけるように、自分のまねが出来ますか?と、手のひらの上で、やじろべえのように刃のバランスをとってみせる。

すると、狂女も、そのまねをしたので、おたきは、今度は刀を遠くに飛ばす勝負をしましょうと誘いかけ、まずは、自分が先に、持っていた刀を庭先に放り投げてみせる。

そして、あれ以上、遠くへは放れないでしょうね?などと言葉巧みに誘ってみると、狂女が刀を放り投げたので、その隙に捕らえることに成功する。

この機智に富んだ作戦を見ていた頼貴は感心し、おたきを大座敷に呼び寄せると、何でも褒美を取らしてやると言う。

それを聞いたおたきは、金子10両を賜りとうございますと願い出る。

それを側で聞いていた老女岩波は、金を要求するとはなんと卑しいと蔑む。

おたきは、お蔑みは覚悟の上で、実は、不幸な方を救うためにいるお金なのだと説明する。

その夜、暗闇にまぎれ、殺した狂女を井戸に捨てる奥方付き女中たちの姿があった。

後日、おたきから送られた10両を前に、おなかと父親赤芝金兵衛は泣いていた。

その頃、おたきは、病弱なお部屋様に代わり、有馬頼貴の相手をするよう頼まれるが、あまりに急な申し出だったので、返事を延ばしてもらう。

一方、奥方側ではこの知らせを知り、おたきの悪口が噴出する。

万一、おたきがわこを生んでしまったら、いまだに子宝に恵まれない奥方としては一大事だと岩波も焦る。

後日、おたきの方になったおたきの付き添い役になっていたのが、友達のおなかだった。

そんなある日、奥方の部屋に忍び込んでいた猫のタマが、奥方用の菓子を嘗め回すと言う事件が起きる。

それを見た岩波や女中たちは、シジミ屋の猫じゃと侮蔑の言葉を吐くが、奥方は、髪に挿していたかんざしを抜くと、それをタマに投げつけて突き刺す。

そこに、タマを探しに来たおたきが入って来て、猫の不始末は私が攻めを受けます。どのようなことでもいたしますと詫びる。

そして、タマに刺さっていたかんざしの血を拭いて返そうとするが、そのような汚らわしいものを二度と髪に挿せるか!そちにやるわと奥方に拒否される。

さらに、老女岩波からは、何でもすると言ったな?では、この場で着物を脱ぎ、裸踊りでもしてみろと言い出し、女中たちに、おたきの着物を脱がそうとしむける。

そこへお部屋様が通りかかり、何をおたきに対しなさろうとしておられるのか?まさか、裸踊りをさせるなど、下劣なことをお言いではないでしょうね?と諌めたので、おたきは救われる。

後日、奥方付き女中の一人が、おたきの方様にと重箱を持って来たので、受け取ったおなかが中を改めると、とても食べられるようなものではないものが入っていたので、おたきの方には、自分がいただいたものですと断り、外に処分しに出ようと歩いていたとき、廊下の角から出て来た老女岩波にぶつかってしまい、持っていた重箱を落として壊してしまう。

岩波は激高し、その場で、おなかの背中を叩き始めたので、騒ぎを聞きつけて駆けつけたおたきの方が詫びて許しを請う。

その後、おたきは、自分のために辛い目に遭わせて…、こらえてねと詫び、おなかと抱き合って泪するのであった。

さらに後日、おたきの方は、奥方付き女中の一人に、右手を怪我したので、代筆をしてくれないのかと頼まれたので、言われる通りに書いてやる。

奥方の元に戻って来たその女中は、手に巻いていた包帯を外し、まんまとせしめて来たと他の女中や岩波らと笑い合う。

翌日、岩波から頼貴の面前に呼び出されたおたきの方は、奥方の名前を書いた藁人形を突きつけられ、その人形に奥方のかんざしを打って呪ったのはそちであろうといきなり追求される。

全く見に覚えがないと驚くおたきの方だったが、藁人形の中に入っていた文はそなたが書いたのではないかと見せられると、それは確かに、自分が書いたものだったので、おたきの方は驚き、これは先日、こちらの御女中に代筆を頼まれたものですと言い訳をするが、その女中は、自分は手も怪我していないし、代筆を頼んだ覚えもないとその場でシラを切る。

ここまで用意周到に罠にはめられてしまっては、言い逃れが出来ないと覚悟したおたきの方だったが、お部屋様だけは、見に覚えのない罪は、いつか晴れましょうと優しく慰めてくれる。

しかし、おたきの方は、岩波から謹慎を言いつけられる。

おなかは、すっかり部屋でふさぎ込んでしまったおたきの方を案じるが、その夜、いきなり外への使いを言いつかったので、不思議に思い、訳を聞かせて下さいと頼むが、おたきの方は、言うことが聞けぬなら、暇を取って下がるか?とまで言われては、言うことを聞くしかなかった。

外出しようとしたおなかを呼び止めたおたきの方は、外に出るのに、髪が乱れていてはいけないと言いながら側に寄せると、自らおなかの髪を撫で付けてやる。

そして、自分のかんざしを、いつかお前も嫁にいくだろうからその時の用意として取っておきなさいと手渡す。

さらに、猫のタマまでもが、おなかを引き止めようとじゃれ付いて来たので、さすがに不振に感じたおなかだったが、そのタマを抱いたおたきの方は、おなかを見送った後、いよいよお別れの時が来ました。

心あらば、私の仇を取っておくれとタマに話しかけるのだった。

外に使いに出たおなかは、途中で酔っぱらいに絡まれ、それを振り払った拍子に、持たされていた包みを地面に落としてしまう。

ふみ箱の蓋が開いてしまって中の手紙が見えたので、思わずその内容を確かめると、それは書き置きだった。

驚いて、城に戻ったおなかだったが、そこで目にしたのは、既に自害して果てたおたきの方だった。

おたきの方は、三通の書き置きを側に残していた。

義憤に駆られたおなかは、そのまま老女岩波の寝所に忍び込むと、お恨み晴らしに来ましたと言いながら、懐刀で向かって行くが、長刀で応戦され、さらに応援を呼ばれてしまったため、その場で捕まってしまう。

これを知ったおなかの父、赤芝金兵衛は力を落とすが、ある日、おたきの方の妹、おたけと出会ったので、お部屋様から頂戴した金子を渡してやる。

しかし、この様子を盗み見ていた金兵衛と同じ見張り番が、帰る途中のおたきを遅い、金子の入った袋を奪い取ってしまう。

その後、知らぬ振りをして金兵衛が見はっていた櫓に交代のためやって来たその侍は、ふところから、思わず、盗んだ巾着袋を落としてしまったため、それを見とがめた金兵衛から、それはどうしたと詰問されるが、その時、どこからか猫の鳴き声が聞こえて来たかと思うと、突然首を押さえたその見張り役の侍は、階段から墜落して息絶えてしまう。

驚いて、その侍に近づいた金兵衛は、侍が何者かに首筋を噛み切られているのを発見する。

一方、盲目の母の元へ帰ったおたけは、財布を取られてしまったと報告していたが、その時、又しても猫の鳴き声が聞こえたかと思うと、部屋の中が真っ暗になり、気がつくと、いつの間にか、取られたはずの財布が畳の上に置かれているのにおたけが気づく。

大奥では、廊下を歩いていた奥方付き女中たちが次々に倒れて行く。

その側には、猫の足跡が点々と続いていた。

突如出現したおたきの方は、女中たちの首筋に食らいつくと、手を操って、死人たちを踊らせるのだった。

妖怪出現の噂が広まり、大奥では不寝番の警護が始まる。

しかし、さすがの警護の女中たちも、深夜には皆眠りこけてしまっていた。

又しても、おたきの方が出現し、岩波の寝所に来ると、岩波の首を締め付け殺してしまう。

さらに、奥方の寝所にも出現したおたきの方は、その首筋に食らいついて殺す。

緊急を知らせる太鼓が打ち鳴らされ、もはや、おたきの方の復讐は終わったと言うのに、無関係なものまでが襲われる事態となっては捨て置けないと、小島典隆(市川男女之助?)が妖怪退治に名乗りを上げるが、大奥のことは女たちの手で解決すると言われては手出しが出来なかった。

妖怪おたきの方は、ツタをターザンのように使って、屋根から屋根へと伝い逃げようとする。

さらに、奥女中たちに追われたおたきの方は、櫓のてっぺんまで階段を上ると、長刀を持って追って来たお部屋様の手にかかる。

お部屋様が、お前は猫のタマだろうが、もう主人の復讐は果たしたのだから、私の手にかかりなさいと言うと、その言葉を理解したのか、おたきの方に変化したタマは身を翻して自ら地上へと落下してしまう。

そこに、おなかが駆け上って来たので、タマは自ら自害したと教えたお部屋の方は、これで、おたきの自害も無駄でなかったとつぶやくのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

何せ古い作品であり、キネ旬データベースなどにも資料がないため、役名も役者名もほとんどはっきりしないままで観たが、大まかな流れだけは理解できた。

要するに、子供が出来ないために、他の側女たちに辛く当たる奥方からいじめ抜かれたおたきの復讐を、かわいがっていた猫が代わって果たすと言う復讐もので、いわば「女性版忠臣蔵」のような印象も受ける。

武士が、お家と主君の名誉を守るために命を賭けて復讐をするのが忠臣蔵なら、あくまでも、女同士の醜いいじめの復讐をするのが化け猫ものである。

この作品の特異な所は、ほとんど女性だけしか登場しない点。

前半、有馬頼貴が数シーン登場するが、ほとんど、背中越しとかで顔は映らない箇所が多い。

シジミ売りのおたけが、足軽にいじめられている回想シーンで、ロングの中元が写るシーンと、後半、小島典隆なる派手な衣装の殿さまのような人物が出て来るくらいで、後はほとんど女性ばかりである。

それが皆、同じような顔立ちに見えるので、誰が誰なのか、区別がつきにくい。

今まで観た戦後の化け猫ものに受け継がれている要素としては、自害を覚悟したおたきの方が、一人になりたいために、夜中におなかに用事を言いつけ、無理矢理外出させる件がある。

途中で、持たされた小箱の中身が書き置きだと気づいたおなかが大奥に戻り、おたきの方の自害し果てた死体を発見する所まではこの作品辺りが原点なのかも知れない。

又、見張り櫓におたきの方に変化したタマが駆け上るのを、カメラが垂直に追って行くと言うシーンは、五層くらいの階をワンショットで撮っているように見せて、実は、階と階の間の床の黒みの部分で継ぎ足していると言う初歩的なトリックで、昨年観た「殿さま弥次喜多 怪談道中」でも、効果的に使用されている。

妖怪化け猫が登場してからは、歌舞伎調の鳴りものが重なり、何やら様式的な表現になるため、今の感覚からすると、さほど怖さはない。

トリック撮影もそんなに多用されておらず、前述の階段のぼりのシーンと、奥方の部屋に合成で出現するシーンくらいである。

ツタを使い、ターザンのように化け猫が屋根から屋根へと飛び移るのは、当時としてはモダンなアイデアだったのかも知れない。

ストーリー的には、見張り役で、おなかの父親である赤芝金兵衛の説明などに、やや唐突な所が感じられるため、かなり紛失しているカットがあるのかも知れない。

それでも、今ではほとんど知る人が少なくなった「化け猫もの」と言うジャンルの、かなり初期型を観れたと言うのは大きな収穫だと思う。