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ほんだら剣法

1965年、大映京都、野村胡堂「磯川兵助功名噺」原作、笠原良三脚本、森一生監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

出演者たちが横一列に整列し、

「無責任よ、さようなら!」「出世したければ、ごまをするな!」「まじめに行こう!」と一人ずつ発言する。

タイトル

伊達藩12万石

主人である磯川兵助(犬塚弘)が、小さな布団から手足を出し、寝ている早朝、小者の千里平(桜井センリ)が雨戸を開け、もう7時半だと起こす。

渋々置きだした兵助は、今日は、剣術の御前試合がある日だと思い出し、ウォーミングアップせねばと言いながら、顔も洗わず身支度を命ずる。

人一倍長い刀を刺した兵助に、千里が、ちり紙や手ぬぐいと一緒に財布を手渡すと、1分しか入っていないと文句を言い、今日勝ったら、仲間におごる事になりそうだから2分貸してくれと催促をする。

千里は、又ですか?と渋りながらも、自分の金を差し出し、今月だけで、もう1両2分貸しているので、早く返してくださいよと念を押す。

城では、伊達陸奥守(藤田まこと)が登場すると、これより、青葉城230周年記念御前試合を行うと宣言した後、伊達政宗公の兜を被ってみせる。

家老泉修理(ハナ肇)が、選手宣誓を言い渡すと、近習頭代表、黒崎栄太郎(石橋エータロー)が宣誓をする。

第一試合は、栗橋猪之助対磯川兵助、審判は、指南役の安田新左衛門が勤める。

長い刀をビリヤードのステックのように操り、難なく相手を倒した兵助は、次々と立ち上がり、ついに黒崎栄太郎との最終戦にも勝利するが、それを見終えた陸奥守は、小野派流免許皆伝を持つ余が自ら勝負してやると言いだす。

やはり家老職にある黒崎の父親は安田に耳打ちし、それを安田が兵助に伝え、相手は殿さまなのだから、手加減するように暗にほのめかす。

兵助は、心得ておりますと言いながらも、いざ勝負が始まると、あっさり陸奥守の額を叩いて負かしてしまう。

腰元たちに額を冷やしてもらいながら、床に臥せってしまった陸奥守を見舞いに来た黒崎の父親は、優勝の賞状は栄太郎に授けたと報告する。

それを聞いた陸奥守がなぜだと問い返すと、側に仕えていた安田新左衛門が、兵助の剣法は、小野派一刀流の作法に何から何まで適っていないため、反則と言う事にしたと説明する。

さらに、罰として、参勤交代のお供からも外したと言うので、さすがにそれはやり過ぎだと陸奥守はしかる。

その頃、泉修理の屋敷に招かれていた兵助は、今日、殿をやっつけたのはわが藩に取っては功績じゃったと褒めていた。

兵助が訳を尋ねると、実は今、藩内に公儀隠密が忍び込んでいるらしいので、今日の出来事は幕府へのPR、逆宣伝になると言うのだった。

つまり、高々12石取りにすぎないお前に負けるくらいの力量しかない殿さまが、幕府にたてつく武力増強など出来るはずがない事くらい、幕府には分かるからだと言う。

ときに…と話を変えた泉が兵助の年を尋ねると、25歳になったと言うので、そろそろ嫁をもらえ、わしが世話をしようと言いだしたので、そうした事に奥手な兵助は面食らってしまう。

堀江藤十郎の娘でお縫と言うのがいるので、今度会わせてやると言う。

それを固まったまま聞いていた兵助だが、ふすまの反対側では、下女のお清(明星雅子)が、この話を聞いており、すぐさま、お嬢様の津絵(坪内ミキ子)に「ニュース!ニュース!」と報告に向かう。

これには、津絵も興味津々で、あの朴念仁の兵助が、どういう事になるのかとはしゃぎ始める。

その夜、黒崎栄太郎は取り巻きの連中を引き連れ、お六(藤村志保)が経営する料亭で、御前試合の祝勝会と、泉津絵との婚約祝いを兼ねた酒宴を開いていた。

取り巻きの連中は、黒崎家と泉家とは、最高の縁組みなどと、おべんちゃらを言いだし、しきりとごまをする。

そこに女将のお六がやって来たので、花嫁の代理になって黒崎殿の酌をしろなどと取り巻き連中ははやし立てる。

酔っぱらった栄太郎は、殿の免許皆伝など紙くず同然だと言い放つと、お六に、今日の酒代はおごれと卑しい事を言い始める。

そうした会話を、別の席で一人飲んでいた虚無僧がじっと聞き耳を立てて聞いていた。

お六は、歌自慢のふみ(有田双美)に、歌を一曲披露するように頼み、お清は機嫌良く、客の前で歌い始める。

いよいよ、兵助の見合いの日が来る。

千里に着付けを手伝ってもらいながら、一体、相手とはどういう話をすれば良いのか?と悩む兵助。

千里は、近所のご隠居が言うには、相手の趣味を聞けば良いそうだとアドバイスするが、わしは、茶や生け花の話など分からぬぞと兵助が困惑したんで、それなら、相手の家族関係でも聞いておけば良いのではありませぬかと適当に言い添える。

泉家の座敷では、津絵とお清が、ふすまの外から、堀江縫(三木本賀代)と見合いをしていた兵助の様子を聞き耳を立てて聞いていた。

話す事が見つからない兵助は、とりあえず、相手の名前と年を聞く。

縫は、名前と19歳と言う年齢を答える。

家族関係の事を聞けば良いと言う言葉を思い出し、兄弟は何人かと聞くと、兄が1人、姉と妹が1人ずついると言う。

舞い上がった兵助は、あろうことか、あなたのお子さんは何人?と、未婚の縫にしつこく聞いてしまい、怒らせてしまう。

このやり取りを聞いてたまらなくなり、つい笑ってしまった津絵とお清は、そのままふすまを倒して、兵助と縫の部屋に転がり倒れてしまう。

これに驚いた縫と兵助は、恥ずかしさもあり、二人とも部屋から逃げ出してしまったので、騒ぎを知って駆けつけた泉修理は、なんて事をしてくれたんだと娘を叱りつける。

泉家から逃げ帰る途中、兵助は、一休みした地蔵の所で泣いている赤ん坊を発見する。

母親は?と周囲を見回すと、木に紐を結び、首を吊ろうとしていた女を見つけたので、慌てて止めさせる。

助けられた女は、父親を連れて来いと父親に責められ、家にはもう帰れないし、生きて行けないと嘆くので、父親は誰かと兵助が聞くと、そればかりは申し上げられないと言う。

その頃、そのお袖(紺野ユカ)の家では、出て行った娘の事で取りなそうとする女房に頑固な魚屋の父親吉五郎(遠藤辰雄)が不機嫌な様子で応対していたが、そこに、お袖があの人を連れて来たが、身分違いなので、今まで教えられなかったのだと言いながら戻って来る。

赤ん坊を抱いて家の中に入って来たのは兵助で、若気の至りとは言え、今まで申し出て来れずすまなかったと詫びると、両親はあわてて頭を下げ喜ぶ。

とりあえず、お袖が家に帰れたので安心した兵助だったが、祝言の打ち合わせをしなければ…と吉五郎が言いだしたので、内心慌て始める。

後日、自宅で兵助の髪を結っていた千里の額に、「夕方 宝刀寺へ 縫より」と書かれた投げ文が当たる。

先日の詫びもかね、会わねばならぬと出かけた兵助だったが、実は、その投げ文は、津絵のいたずらであり、文を投げ込んだ下女のお清が、こっそり寺の門前から、中庭で待っている兵助の様子をジッと観察していた。

だまされているとも知らず、小振りな松の木の側で待っていた兵助は、手持ち無沙汰を紛らすために、松の葉を少しずつむしっていたが、やがて、松の木はすべて枝ばかりになる。

あまりに間抜けな兵助の事を、近くで待ち受けていた津絵に報告しに行ったお清だったが、その時、一天にわかにかき曇り、雷鳴とともに夕立が降り始める。

津絵とお清は、近くの店の軒下に逃げ込むが、寺の境内に立っていた兵助は、ずぶぬれになっているにもかかわらず、一歩も動こうとはしなかった。

そんな兵助の事が心配で、お清が止めるのも聞かず、自分で寺へ様子を観に行った津絵は、落雷で煙を上げる松の木の前で、じっと立っていた兵助の姿を発見すると、たまらず駆け寄り、堪忍して!偽の手紙は渡しが書いたの…と詫びながら、許しますと言う兵助に抱きついて来る。

この様子を遠目で目撃したのが黒崎栄太郎の取り巻き、土橋(越川一)や栗橋(木村玄)たちで、これはただならぬ事になったぞと色めき立つ。

ある日、料亭に魚を持って来た吉五郎に、お六は、お袖さんの事は本当なのかと、噂話の確認をしていた。

お馬周りを勤めているほどの侍が、魚屋風情の娘と結婚するとはとても思えないと半信半疑だったからだ。

しかし、そんなお六の言葉に怒った吉五郎は、花嫁衣装を着せたお袖と、仲人として大家夫婦を従え、一方的に兵助の屋敷に乗り込んで来て、仮祝言を迫る。

驚いた兵助だったが、とりあえず全員を屋敷に上げ、形ばかりの仮祝言を始めるしかなかった。

この噂は、お清の口からただちに津絵に知らされる。

その時、泉修理の方も津絵の部屋にやって来て、黒崎家との縁談話は断っておいたと告げたので、お清は、良かったですねと津絵と喜ぶのだった。

料亭では、お六が、兵六の仮祝言の話を栄太郎と取り巻きに教えるが、それを聞いた栄太郎たちは、兵助は武士の面汚しだと息巻き、この際、ばっさり斬ってしまおうと相談し合う。

ある日、のんきに歌いながら城から帰宅していた兵助の前に、黒服面の一団が立ちふさがり、自分たちは伊達藩の正義の味方で、天誅だと言いながら斬り掛かって来る。

しかし、兵助の腕に適う者は一人もおらず、覆面を斬られた土橋や栗橋は、あっさり兵助に正体を知られてしまう。

黒崎栄太郎の顔も確認した兵助だったが、その時、編み笠を被った虚無僧が一人、争いの中に切り込んで来る。

虚無僧は、煙玉を投げて逃走を図るが、不発弾の卵を拾った兵助はそれを投げ返し、その一発が栄太郎の覆面に当たってしまったので、栄太郎は、顔から煙を上げながら、這々の体で逃げてしまう。

帰宅した兵助を待っていたのは、赤ん坊をおんぶしながら洗濯物をしていた千里と、すっかり奥方として屋敷に居着いたお袖だった。

今日のお仕事は?と聞かれた兵助は、城の工事現場の監視…とうっかり言いかけ、くれぐれも他言は無用だぞと、お袖に念を押すが、その様子を、塀の裏からのぞいていたのは、あの謎の虚無僧だった。

その頃、青葉城の中では、伊達陸奥守が、指南役の安田新左衛門相手に、長剣との戦い方を練習していた。

安田は、とにかく、相手に近づく「インファイト」が肝心ですと教え込む。

そこへ、家老の黒崎が駆けつけて来て、正宗公の兜が蔵から扮したと報告する。

夕べの蔵当番は?と陸奥守が聞くと、兵助だと言うではないか。

陸奥守は、あたら好敵手を失うのは惜しいのと嘆くのだった。

謹慎を言い渡された兵助を屋敷に招き事情を問いただしていた泉修理は、何としてでも、あさっての朝までに、兜を見つけ出さなければ切腹だぞと教えていた。

夕べ、見張り中の中元たちに酒を振る舞ったそうだな?と、泉から聞かれた兵助は、その仔細を語り始める。

兵助が、一人、蔵の前で見張りをしていると、中元たちが集まっている休憩所の中が騒がしい。

様子を観に行ってみると、お六が酒を持ち込んで、中元、小者どもに振る舞っているではないか。

何のまねだと聞くと、こんな寒い夜だから、風邪薬代わりに持って来たと言う。

あなたには子供が出来たそうだけど、ここにいる人たちも、いわば、あなたの子供みたいなものでは?と嫌みを言われた兵六は、律儀に料金をお六に無理矢理払うと、飲んでも良いが、あくまでも風邪薬だぞと中元たちに言い聞かしたのだと言う。

それが、今朝になってみたら、兜がなくなっていたと言うには解せぬ。その、お六が臭いなと、徹底的に追及して参れと、話を聞き終わった泉は兵助に命じる。

料亭に乗り込んだ兵助は、お六に兜の事を追求するが、お六は、おびえるどころか開き直り、まさかこの場で裸にでもするつもり?と挑発して来たかと思うと、するすると、着物を脱ぎだす始末。

兵助は、よくも、俺を侮辱してくれたな!と怒り、刀を抜きかけるが、お六を斬っても、兜とが出て来なければ仕方ない…と気持ちを落ち着かせる。

そんな兵助に対し、襦袢姿になったお六は、この始末、どうしてくれるんです?と、またもや挑発して来たので、兵助は、「すまん!」と頭を下げるしかなかった。

そうした実直な兵助の態度を観たお六は、仙台一の正直者だわと感心し、少しばかりのお金で、こんな仕事を請け負った私が恥ずかしいと言いだす。

実は、黒崎の若旦那から5両で、夕べ、中元たちに酒を飲ませに行くように頼まれたのであり、兜はとっくに盗んであったのだと言う。

それを聞いた兵六は、兜を取り戻すために、黒崎の屋敷にその夜忍び込むが、そこにやって来たのがお六で、足手まといになると困惑する兵六に、実は自分は、疾風のお六と言う泥棒が本職なのだと打ち明けて来たではないか。

そのお六が、蔵の中に入り込み、外を見張っていた兵六だったが、庭に仕掛けてあった罠に引っかかり、網に絡めとられたまま宙づりになる。

蔵から出て来て、これに気づいたお六は、兵助から長刀を受け取ると、それで、網を斬り、何とか兵助を助けるが、そこに、黒崎家の番人たちが駆けつけて来る。

屋敷の奥に逃げ込んだ兵助とお六だったが、二人とも、木枠の罠にいれられ、庭に引き出されて来る。

そこにやって来た黒崎栄太郎が、愉快そうにほくそ笑む。

翌日、城で伊達陸奥守直々のお裁きを受ける事になった兵助とお六。

兵助は、何も良い訳をしようとはしなかったが、後ろに控えていたお六は、栄太郎が、津絵に振られた腹いせに、今回の事件を引き起こしたのだと説明する。

確かな証拠があるか?と問いただす陸奥守に、黒崎の父親は、その女は凶状持ちと分かったので、そんな女の言葉を信じてはいけませんと口を差し挟む。

追って沙汰すると、陸奥守が引き上げかけた時、しばらく!と声をかけ、やって来たのは、盗まれた正宗の兜を運び入れて来た泉修理であった。

泉が言うには、娘、津絵が推理して、盗賊はきっと兜を始末するに違いないので、昨夜、兵助の屋敷を張っていた所、予想通り、この者たちが兜を運んで来て、すべてを白状しましたと言いながら、栄太郎の仲間の者たちを差し出す。

それを観ていた栄太郎は、でっち上げだ!と叫びながらうろたえるが、それを制した陸奥守は、すべては明白じゃ!栄太郎に切腹を申し付けると言い切る。

それを聞いた兵助は、栄太郎の助命を願うが、それをやるには条件がある。余と一本勝負だと陸奥守は言う。

日頃の練習を信じて疑わない陸奥守は、もう一度、安田に「インファイトじゃな?」と確認し、木刀を受け取る。

しかし結果は、又しても、兵助の勝ちだった。

その頃、兵助の家にいたお袖に、塀の隙間から、あの虚無僧が「子供は大丈夫か?」と声をかけていた。

その虚無僧こそが、お袖の赤ん坊の本当の父親であり伊達藩に忍び込んでいた公儀隠密だったのだ。

お袖は、今、赤ん坊は寝ているので、顔を見て行ってやってくれと頼むが、虚無僧は、それは江戸でゆっくり見せてもらう。お前は、これを持って江戸へ発ってくれと、何か包みを手渡す。

その後、本当の夫が迎えに来たと言う置き手紙を残し、お袖は、兵助の家から姿を消す。

それを、お清から聞いた津絵は、何か仔細があるはず。どうして兵助を参勤交代に付いて行かせたのかと津絵は、一緒に聞いていた父親を責め、私は兵助様が好きなんです!と打ち明けてしまう。

それを聞いた泉は唖然としつつも、「愛しちゃったのね…」と納得せざるを得なかった。

参勤交代で江戸表にやって来た兵助たち伊達藩一行だったが、その影では、あの虚無僧に化けた公儀隠密が、水野越前守(本郷功次郎)に、伊達藩の内情を報告していた。

非番の日、江戸の住まいでゴロゴロしていた兵助に、千里が、両国の芝居小屋にでも連れて行ってくれとねだっていた。

そこに、急に、あの失踪したお袖が訪ねて来て、これまでのいきさつを謝った上、今は、水茶屋で働いているが、今日は、お家に関わる一大事を知らせに来たのだと言いだす。

あの赤ん坊の父親は、小畑伊十郎(杉田康)と言う、伊達藩を潰すために送り込まれた隠密なのだが、自分はその小畑に利用されていただけだと分かったと言う。

今回、自分を江戸の連れて来たのも、自分の口を塞ぐためだけで、時々、伊十郎は、店にやって来ては、伊達藩を潰す公儀御不審がびっしり書いてある扇子を見せながら、これを欲しがる奴に高く売っても良いなどとうそぶいているらしい。

兵助は、その扇子さえ手に入れば…と考え込むが、そんな兵助に、直ちに上屋敷に来るように使いが来たと千里がやって来る。

今夜も、伊十郎が店に来ると言うお袖に、何とか、明朝、そちらに行くと約束して、兵助は江戸上屋敷に向かう。

上屋敷では、伊達陸奥守が集まった家臣たちに向かい、水野越前守より使いがあり、政治御不審に付いて明日辰の刻に辰の淵評定所にて、取り調べをいたしたいとの事らしいと伝えた後、誰か、申し開きできる者はおらぬかと問いただしていた。

それを、一番後ろで聞いていた兵助は、思わず手を上げかけるが、分不相応と言う事もあり、なかなか手を上げられないでいた。

誰も名乗り出ないのでいら立った陸奥守は、老中筆頭石川大和(荒木忍)に、どうか?と声をかけるが、老齢を理由に大和は辞退する。

さらに、声をかけられた他の重鎮たちも皆、遠慮し、誰も行こうとしないので、臣下に人材がいないのは余の不幸じゃと嘆いた陸奥守は、余が直々に行くと言い出す。

それを聞いた兵助はたまらなくなり、挙手をすると、お役目を自分に仰せくださいと名乗り出る。

しかし、それを聞いた重鎮たちは、兵助など、この任を任せる身分ではないと反対するが、それを聞いた陸奥守は、余が行くか、兵助が行くかどっちだと、重鎮たちに返事を迫る。

誰も返答できないのを観た陸奥守は、剣術の試合のように水野越前守をへこまして参れと命ずるのであった。

翌朝、目覚めた兵助が白装束に身を固めていたので、それを観た千里は、ご主人が死を覚悟している事を悟り、これまでお貸しした15両は、お香典代わりに差し上げますと殊勝な事を言いだす。

とりあえず、お袖が働く水茶屋へ向かった兵助だったが、部屋に入ったのは一足遅く、お袖は、小畑伊十郎に斬らせた直後であった。

伊十郎は、棚から扇子の入った包みを持つと、窓から外に逃げ出してゆく。

一瞬遅れて部屋に入った兵助は、もう一つ棚に置いてあった包みを手に取り、倒れたお袖に、扇子はこれに間違いないかと確認させ、窓から伊十郎を追いかけてゆく。

やがて、小畑伊十郎に追いついた兵助は、仙台62万石が潰れかけておるではないかとあざける相手と剣を交える。

お袖の仇、伊十郎を斬った兵助だったが、その時鳴り響いた鐘の音を聞いて、約束の刻実に遅れてしまう事に気づくと、辰の淵評定所に駈けて行く。

その評定所では、水野越前守が、約束の刻限になっても伊達藩からの使いがないので、帰りかけていた。

そこに、息を切らせて、兵助がたどり着いたので、身分を聞かせろと水野が聞くと、陸奥守家来、磯川兵助、家老職で、6万石でござると嘘を並べる。

先刻、相手の水野が6万石であると陸奥守から教えられていたからだった。

水野は早速、伊達藩では、町人たちより重税を取っているとの事だが、この申し開きは立つかと聞いて来る。

兵助は、ここぞとばかりに持って来た扇子を開くが、中には、「わしが国さで見せたいものは 昔谷風、今伊達模様と言う、端唄が書いてあるだけではないか!

驚いた兵助は、これは何かの暗号に違いないと考え、しばし熟考した後、その小唄をゆっくり読み始めると、水野の方が勝手に考え始め、谷川とは名横綱だったそうだな?伊達模様とは大層贅沢なものだそうだが…と口を出してくれたので、それをヒントに、重税を取っているのは派手な町民からだけでござると兵助が答えると、それでは中小企業保護をしているのじゃな?と、水野の方が勝手に解釈し始める。

続いて水野が、小野派一刀流の免許皆伝を持つ陸奥守は若侍を集めて毎日武芸調練させているそうだが、これは藩の武力増強を考え、幕府転覆を狙っているからではないかと問うと、殿の免許皆伝などと言うのは紙切れも同然、若侍の武芸調練は、武士として当然の事をしているだけで、仙台武士の誇りとする所ですと兵助は切り返す。

さらに、水野が、城の工事はどういう事だ?屋根を修理し、堀をさらったと聞くが、それを公儀に届けもせずにしておったと聞くぞと問いただすと、返事に窮した兵助は、持っていた扇子をさらに広げてみる。

すると、又端唄が書いてあったので、「さんさ時雨か萱屋の雨か 音もせずして濡れかかる」と、それを読んでみせると、音のしない台風が、北陸から北海道方面に通過した時、仙台も被害を受けたのでございますと適当に言ってみる。

すると、北海道とは、北海道沖に現れた外国船のことを言っておるのか?伊達藩は北方鎮護の為に城の修理をしたと言うのか?と、またまた勝手に水野が解釈してくれたので、その通りだと兵助は答え、公儀に修理の届けを怠ったのは、一夜漬けの修理にすぎなかったからと抗弁する。

お家断絶、自らの切腹に駈けて言えるか?と水野が厳しく問いただすが、兵助はひるまず、間違いござらぬ!と断言する。

その態度を観ていた水野は、陸奥守殿は良い家来を持っておられる。小唄でお家を救うとは…と感心する。

その返事を聞いた平助は、下げていた頭を上げるが、その目にはいっぱい涙がたまっていた。

上屋敷で、兵助の手柄を聞いた陸奥守は、大義!大義!と満面の笑みで出迎えると、300石を加増してやると言い渡す。

しかし、それを聞いた兵助は仰天し、300石など多すぎるので30石で十分です、しかも、剣術のお手合わせを願うと言う条件付きで…と恐縮する。

それを聞いた陸奥守は、愉快そうに、今しがた、国元より奥に引き出物が届いたので、それは受け取ってもらえるだろうなと聞くと、そのくらいでしたらと兵助も受ける事にする。

やがて、背後のふすまが開き、陸奥守が、引き出物はそれはと言うので、兵助が振り向いてみると、そこには津絵が立っていた。

末永くかわいがって、添い遂げるが良かろうと陸奥守が命じると、殿!これはペテンでござる!と青くなった兵助は、部屋を飛び出して行ったので、陸奥守は津絵に向かい、ぱーっと行って、ひっ捕まえると良いぞと笑いかける。

庭に逃げて来た兵助は、大きな松の木を見つけたので、そこによじ上るが、気がつくと、下で、津絵とお清が、のこぎりで木を切り倒そうとしているではないか!

驚いた兵助は、止めてくだされ!と悲鳴を上げながら、木の幹にしがみつくのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

斎藤寅次郎と毛利正樹監督、エノケン主演「磯川兵助功名噺」(1942)のリメイクでもある。

冒頭で、兵助らが叫ぶ「無責任よ、さようなら!」「出世したければ、ごまをするな!」「まじめに行こう!」と言うのは、植木等主演で一時代を築いたクレージーキャッツ映画の従来の路線とは決別するよと言う意味だろう。

主演は、植木等、ハナ肇、谷啓に次ぐ「クレージー第4の男」犬塚弘である。

植木等と谷啓以外のメンバーたちも登場しているが、人気絶頂だったメインの2人がいないので、全体的にやや地味なのは致し方ない所だろうが、クレージーマニアとしては、むしろ、他のメンバーたちの芝居をじっくり堪能する事が出来るので、マニア向けと言うべきかもしれない。

特に、他の映画ではほとんど印象が残らない、安田伸や石橋エータローが結構出て来るのが珍しくも楽しい。

主人公磯川兵助を演じている犬塚弘は、主役と言うポジションに答えようと良く健闘していると思う。

特に魅力に乏しいと言う訳でもなく、この後、何本か主演作が作られていれば、もう少し人気も出ていたろうにと惜しまれる。

大映ファンとしては、珍しく、妖艶で勝ち気な女盗賊を演じている藤村志保の活躍もうれしい。

全体的に大映京都の仕事らしく、喜劇仕立てと言っても手を抜いているような感じは全くなく、全体的にしっかりした絵作りがしてあり、かつ明朗な作品に仕上がっている。

大衆娯楽としては、結構上出来な部類に入るのではないだろうか。