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花と龍('73)

1973年、松竹、火野葦平原作、加藤泰+三村晴彦+野村芳太郎脚本、加藤泰監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

明治44年、夏、北九州

幼児を連れ線路を歩く若夫婦の姿があった。

夫の方は、支那に行って一旗揚げるのが夢の玉井金五郎(渡哲也)、妻は、ブラジルへ行き、大農場を作るのが夢のマン(香山美子)、子供は勝則と言った。

若夫婦は、それぞれ海外へ向かう費用を少しでも貯めるため、汽車賃も浮かそうと、ずっと歩き通しだったのだ。

そんな親子は、後ろから列車が近づいて来たので、線路脇に避ける。

その列車のデッキに乗っていたのが、流れ者の任侠、栗田の銀五(田宮二郎)と島村ギン(任田順好)だった。

ギンが食べ終え捨てた弁当箱が、危うく若夫婦にぶつかりそうになったので、二人は通り過ぎた列車に向かって怒るが、気がつくと、勝則がその弁当箱の食べ残しを口にしかけていたので、あわてて取り上げる。

タイトル

その夜、勝則を寝かし、線路脇で抱き合っていた二人だったが、互いの夢を語りながら、今度世話になる永田組の親方はどんな人だろうと話し合っていたが、気がつくと、勝則が起き上がって二人の方を見つめていたので、二人はあわてて着物を着るのだった。

戸畑に着き、ゴンゾの親方・永田杢次(笠智衆)の下で、石炭を運ぶ仕事を始めた二人だったが、リーダー格に当たるボースンの平尾角助(山本麟一)は、すぐに、若くてきれいなマンに目を付ける。

一方、同じく戸畑の海の側で賭場に参加していた栗田の銀五は、子供の乗った小舟が沖に流されていると仲間が言うので、外を見ると、確かにまだ幼い男の子が一人乗った小舟が沖に流されていたので、慌てて海に飛び込む。

それを見たギンも、女ながらも海に飛び込んで後に続く。

勝則の乗った小舟が流されているとの知らせを浮けたマンは、永田杢次らと共に海縁に駆けつけて来るが、そこには、ぬれねずみになったギンがたき火を焚き、そこに、勝則を抱いた銀五が近づいて来て、マンに手渡す。

明治45年正月3日

永田組の事務所では、新年のどんちゃん騒ぎが始まっていたが、酔った角助は、いきなり仲間たちに手伝いさせ、その場にいたマンに抱きつく。

騒ぎを知った杢次の女房、ヨネ(菅井きん)は、慌てて杢次を呼びに出かけるが、アル中の杢次は、なかなか現場に到着できなかった。

ようやく杢次は事務所に到着してみると、そこには、マンに急所をひねられ苦しんでいる角助の姿があった。

そんなだらしない角助の側に着た杢次は、今年はお前にはボースンはさせんと告げたので、いきり立った角助は、いきなり暴れ始め、それを止めようとした金五郎と戦い始める。

金五郎は、額から流血するが、何とか角助を叩きのめす。

それを見た杢次は、角助より強かったけん、今年からボースンは金五郎じゃと宣言する。

それを聞いたマンは、給金も上がると喜ぶが、支那に行きたい金五郎は、素直に喜べなかった。

しかし、角助にマンが襲われた時、すぐに助けに来なかったとマンに責められる。

大正2年、春

ぱなま丸の石炭荷役を巡り、永田組が所属していた連合組と共同組が対立する。

マンは、寝ていた杢次を起こしに来るが、泥酔した杢次は起きる気配もない。

連合組をまとめていた小頭、大庭春吉(汐路章)は、若松の共同組がこちらに乗り込んで来るには、それなりの理由があるはずだと考えていた。

あちらには永田組を抜けた角助がリーダーになり、友田組がバックについているらしいと、小頭たちは情報を教え合う。

流しの栗田銀五と島村ギンもあちらに参加しているので油断できないとも。

大庭は、仲間たちを集めようとするが、その場にいた金五郎は、これは永田組の仕事なので、とにかく自分たちに任せてくれと大庭に頼む。

艀に乗って、パナマ丸へ向かおうとする金五郎は、マンから懐中ランプ(ライター)を渡される。

金五郎は、マンほどタバコ好きではなかったので不思議がるが、船に同乗していた永田組の原田タネ(石井トミコ)は、自分のことを忘れるなと言う女の気持がわからんのかいと笑う。

反対方向から、友田組の小舟も近づいて来る。

その一艘に乗り込んでいたギンは、栗田に向かい、あん時助けた赤ん坊の女の亭主が相手方のリーダーらしいと教える。

友田組の元締め、友田喜造(佐藤慶)も小舟の一隻に乗り込んでおり、ぱなま丸の両脇に回り込むように命じていた。

しかし、懐中ランプの火で他の仲間の船を先導していた金五郎は、まだ走っていたぱなま丸にはしごをかけ乗り込む。

それを迎えた船長(伴淳三郎)は、このまま荷役をやらせてもらうと頼む金五郎の願いを承知し、こちらもそのつもりで速力を落としていたと笑う。

金五郎は、明かりを付けるよう仲間たちに声をかけ、その明かりを岸から見た大庭らは、やった!と喜ぶ。

そんな金五郎の船に近づいて来た角助は、永田杢次からこの荷役を友田組に譲渡すると言う一札をもらってあると、その場で書状を読み始める。

驚いた金五郎だったが、落ち着いて、角助が示した書状の字を見つめた所、右肩上がりが癖の杢次の字とは違い、書状に書かれた字は右肩下がりだったので、角助自身が書いた偽物と見破る。

さらに押してあるハンコは角助が盗んだので、もう杢次が警察に訴えたと金五郎がかますと、手が不自由な杢次がどうして警察に訴えられる?と角助が嘲笑したので、その言葉を聞いた金五郎は、語るに落ちたな。船長!聞いていましたね?と、ぱなま丸の船長に呼びかけたので、負けを悟った友田は、諦めて、その場から引き上げることにする。

後日、金五郎は、小頭組の遠足として、武蔵屋温泉に招待を受けたので、列車に乗って出発しようとしていた。

表向きは、親方の永田杢次が前日遅刻したので、その代理でと言うことだったが、なぜ自分が呼ばれるのか、金五郎には不思議だった。

その時も又、勝則と共に見送りに来たマンが懐中ランプ(ライター)を金五郎に手渡す。

温泉に着き、他の小頭たちと一緒に入浴した金五郎は、大庭から直々に、杢次はもうダメなので、金五郎に跡目を任す。若松に玉井組を立ち上げろ。今後は、お前の組を連合組の大黒柱にするつもりで、もう決めたことだと言われ面食らう。

返事は、帰って、親方や女房と相談させてからにさせてくれとひるむ金五郎だったが、そんな金五郎を、小頭たちは、友田組の息のかかった博多栄生会の縄張りである筑紫会館に遊びに連れて出かける。

そこでは賭場が開かれていたが、そこで壺を振っていた女を見て、金五郎は驚きの声を漏らす。

北九州に来る以前の3年前、道後の賭場で出会った蝶々牡丹のお京(倍賞美津子)だったからだ。

大庭は、金五郎がお京と旧知の間柄らしいと気づき、お前も隅に置けんと苦笑いする。

偶然、その場に遊びに来ていた友田も、お京に目をつけ、栄生会の者に金を渡して手配を頼む。

そのお京と、その前で勝負をしていた白髪の痩せた男唐獅子の五郎(石坂浩二)は、共にイカサマをやっていたが、一勝負を終え、部屋の外に金五郎から呼び出されたお京は、すっかりそのイカサマがバレたのだとばかり思い込んでいたので、単に再会を喜んで呼んだだけの金五郎のうぶさを笑い、自分の方から白状するのだった。

その後、友田が待ち構えていたお京は、別の女にすり替わっていたので、友田は激高する。

栄生会の男が言うには、お京がこの女に金を渡して身代わりになってもらったらしい。逃げたお京には、大庭と一緒に来ていた金五郎と言う奴が一緒だったらしい。

お京は金五郎を誘い、どんどん酒を飲ますが、さすがの金五郎も、酒にかけてはうわばみのようなお京に適うはずもなく、気がつくと、お京の家で朝を迎えていた。

あわてて起き上がった金五郎だったが、自分の腕から背中にかけ、龍の入れ墨の線が描かれていることに気づき驚く。

お京の説明では、それは自分が描いたものであり、この家は、今は按摩をやっているが、元彫辰と言う堀師の家で、自分は、その堀辰さんに習ったので、自分でも入れ墨を彫れるのだと言いながら、自らの腕に施した牡丹の入れ墨を披露する。

そして、金五郎にも、その線の通り、本格的な入れ墨を彫ってみないか?私が彫るからと勧めるが、自分は主人持ちの部屋住まいだし、女房子供もいるのだと弁解しながら、金五郎は断る。

そのまま階段を下り、帰りかけた金五郎だったが、道後の賭場でも、あんたがイカサマをやって、自分を勝たせてくれたのか?あん時がきっかけとなり、自分は北九州に出て来たのだが、今、自分は組を立てろと勧められ迷っている。夢は支那大陸なので、この地に根を下ろすことになると、その夢が果たせなくなるからだと打ち明ける。

それを聞いていたお京は、小頭になるのが、あんたの言う生き甲斐と違うってどうして言い切れるの?と、堀辰が用意してくれた朝ご飯を持って来て答える。

その言葉を聞いた金五郎はしばし考え込むと、又二階に戻って来て、これを彫るのにどのくらい時間がかかる?と聞いて来る。龍が握っている珠を菊に替えて欲しいとも。

喜んだお京は、4、5日かかるが、ちょうど、堀辰さんが4、5日、博多に出かけるそうなので、その間、この家で二人きりになれるので都合が良いと言う。

2日目、風呂に入る金五郎は、彫り始めた入れ墨がしみて、入浴すらままならなかった。

夢中で金五郎の入れ墨を彫り続けるお京は、出来たら、男の勲章よ。腕はまだ痛くない方、腰や尻の時は、本当に涙をこぼすわと告げる。

5日目、片腕の方だけ何とか完成する。

その瞬間、二人は唇を重ねていた。

やがて、熱い抱擁…

ことがすんだ後、お京は帰りなさいと勧める。

金五郎は、まだ半分しか…と言いかけ、自分の家を教えようとするが、あなたが消えてしまう。お願い、黙って消えて…と、お京は金五郎にそれ以上言わせなかった。

そんなお京に、もう一度口づけして帰った金五郎だったが、懐中ランプを置き忘れていたことに気づかなかった。

その頃、金五郎の帰りが遅いことを心配しながらも、いつも通り働いていたマンだったが、そんなマンに客がやって来たとの知らせがある。

見ると巡査だったので、仲間たちは何事かと心配するが、巡査の顔を見たマンは喜ぶ。

昔、郷里である四国の学校で机を並べていた大川時次郎(坂上二郎)だったからだ。

時次郎は、マンと結婚するため、国を出てやって来たと、久々の再会を喜びながら言う。

その夜、亭主が何日も帰って来ないのは、浮気しているに違いなどと言う時次郎を家に泊めることにしたマンだったが、妙なことをされないように、隣近所に急を知らせる鳴子代わりに、バケツなどをぶら下げた紐を布団の側まで引いていた。

それを聞いてしらけた時次郎だったが、急に腹痛を装い、心配して近づいて来たマンの身体を両足で捕まえると、その場で抱きつこうとする。

その時、玄関口に帰って来たのが、博多にわかの面を付けた金五郎だった。

金五郎は、土産の面を勝則に渡すと、自分は博多で、助広と言う銘のあるドスを買っていたと、それを出してみせながら説明する。

しかし、その金は、私がブラジルに行くために貯めて来た金なのに、簡単にそんなものを買って…と、マンは嘆き、ドスを買うくらいに、こんなに何日もかかるはずがないと疑惑の目で金五郎をにらむのだった。

それに反論する金五郎だったが、時次郎と勝則も加わり、ものの投げ合いの喧嘩が始まる。

たまらなくなった時次郎が鳴子の紐を引っ張ったため、バケツの音に気づいたタネや六ゾロの源(谷村昌彦)、そして永田ヨネまでが駆けつけて来る。

ヨネは、家の人は、ますますグデングデンになったと諦めた様子。

タバコを吸うために、懐中ランプを、勝則を通して受け取ろうとしたマンだったが、金五郎は、記者の中で落としたと苦しい言い訳をする。

さらに、時次郎が金五郎の背中の彫り物を発見、それを見たマンは、その入れ墨の中に「京」と言う女名が彫り込んであることを、鏡で金五郎自身に教えたマンは、あんたは、ゴンゾの親方になるのが夢やったんな?と皮肉る。

どうやら、先に帰っていた大庭らに聞いたように、金五郎が女と一緒だったのは本当らしいと気づいたマンは、その場で勝則を着替えさせると、今まで夫婦で貯めて来た金の半分を持つと、勝則と時次郎を連れ、家を飛び出してしまう。

時次郎と分かれ、勝則と共に、列車に乗ったマンだったが、途中で気が変わり、小倉駅で下車するが、今のが最終列車で、明日の朝まで記者は出ないと駅員に言われたので、仕方なく、駅のベンチに腰を下ろす。

その時、何だか苦しんでいる子供を抱えた唐獅子の五郎が、同じベンチの反対側に、十郎とその名を呼びかけながら子供を寝かせ、看病し始めたので、その様子を観ていたマンは、盲腸かも知れない、車を呼んで医者へ行きましょうと勧める。

しかし、五郎はその申し出を断り、恥ずかしい話だが、自分はバカなイカサマ賭博師で、すっからかんになって帰る途中だったもので、今、先立つものさえないのだと打ち明ける。

親と言っても、一人じゃぽっかり大きな穴…と、妻もなく子供の面倒もちゃんと見られない自分のことを自嘲する五郎の言葉を聞いたマンは、それを自分の今の行動と重ね合わせてしまう。

マンは、十郎を抱いてどこかへ連れて行こうとする五郎を止め、車を呼んで来る。

病院へ連れて来て、待合室で待っていた五郎に、勝則が名前を尋ねる。

五郎が名乗ると、勝則は自分の名前と、両親の名前を告げ、父ちゃんと母ちゃんは、けんかして、これからどこかに行くんだと無邪気に教える。

一方、手術室の中で、手術中もずっと十郎の手を握り、見守ってやっていたマンは、自分が持っていた財布を、こっそり十郎の枕の下に入れてやるのだった。

その夏の終わり…

栗田の銀五と島村ギンは、友田組に呼ばれていた。

若松には玉井組の看板が立っていたが、その夜は嵐で、元永田組の連中で、今は玉井組に入っているゴンゾたちが総出で、船が流されないように、港で必死に頑張っている最中だった。

そんな中、事務所に詰めていた金五郎の元に角助がいきなり日本刀を持って殴り込んで来る。

その角助をとりあえず止めた銀五は、金五郎に、戸畑に帰るか、共同組に入るかどっちかに決めてくれと迫る。

金五郎が拒絶すると、外に呼び出し、二本用意していたドスの片方を取れと迫る。

金五郎は、自分はヤクザじゃないと拒否するが、そんな金五郎に角助が斬り掛かって来る。

ギンも、相手にドスを取らせろと叫び、金五郎がドスを受け取った所で、銀五と二人で金五郎を突き刺す。

血まみれになった金五郎だったが、執拗に斬り掛かって来る角助ののど笛に、ドスを突き刺し、自らも倒れる。

銀五は、自分は、金五郎を送り届けた後、わらじを履くと言い、ギンの方は、この手柄を友田組に売り込んで、組をあげると決意を語ると、銀五に金を渡して、必ず戻れよと言い聞かす。

その後、銀五は、金五郎の身体を自宅まで送り届ける。

外で徹夜仕事しているゴンゾたちのために、ヨネらと共に夜食作りをしていたマンは、血まみれの夫の姿を見て呆然とする。

そんなマンに、やったのは自分だと明かした銀五は、すぐに身体を洗って、焼酎で消毒し、きれいな布で巻いて、後は医者の来るのを待てと指示をした後、出て行こうとしたので、ヨネらが捕まえようとするが、マンは、それを制止し、ヨネに医者を呼びに行かせると、自分たちは湯と焼酎の用意を始める。

銀五はそんなマンの前からそっと消え去る。

親方の金五郎がやられたと聞いた六ゾロの源は、仕返しをしようといきり立つが、それを止めたマンは、どうしても行くんやったら、私を斬ってから行きんさい!と一喝し、ゴンゾはゴンゾらしく、京の荷役をやりましょうと言い聞かす。

その後、マンは、金五郎の生還を祈るために、お百度を踏みに神社に駆けつけるが、先にお百度を踏んでいた女と遭遇する。

互いに目と目を合わせ硬直するが、気がつくと、先に来ていた女の姿は消えていた。

その女は、お京だったが、マンが知るはずもなかった。

五日後、面会謝絶の病室にやって来たマンは、そこに、ヨネ と一緒に、行方不明になっていた永田杢次がいることに気づき驚く。

聞けば、天津まで一緒に逃げた女に捨てられたものの、自分が見込んだ金五郎の姿を見に、恥を忍んで帰って来たのだと言う。

お前に死なれたら、わしゃあ、どがい…と嘆く杢次だったが、その直後、ずっと昏睡状態だった金五郎の目がうっすら開く。

奇跡的に一命を取り留めたのだった。

昭和6年春、若松連歌町

成長し、早稲田の文科を卒業していた勝則(竹脇無我)は、友田組の息のかかった遊郭で知り合った娼婦光子(太地喜和子)と打ち合わせをすませ、帰えろうとするが、光子は、勝則が忘れて行った詩集の文庫本を渡そうとする。

しかし、勝則はその文庫本を光子に渡す。

その夜、客の相手をしていた光子は、急に、帳場に報告に行かなければならないと言い出し、部屋を抜け出ると、便所の近くの窓から縄梯子を降ろし、遊郭から抜け出す。

遊郭の女将たちは、光子が逃げたと知ると、友田組のものたちに探しに向かわせる。

友田組の連中は、光子に入れ知恵をした奴がいるに違いなく、今日上がったのは誰かと女将に聞き、その客と言うのが、玉井金五郎の息子だと知る。

光子は、外の公衆便所の天井裏に朝まで隠れ、早朝、降りて交番に駆け込んだ所で、友田組に見つかってしまう。

しかし、光子は、警官に向かって「自由廃業です!」と、勝則から教わった通り繰り返す。

すっかり中年になっていた玉井が警察にやって来て、勝則が、友田の見せの女をそそのかして逃亡させたと説明を受ける。

自由廃業は認められるが、一方で、遊郭も政府公認で、税金もおさめている場所なので…と、応対した警官が説明する。

先に警察に来ていた友田は、石炭埠頭に建造予定の新炭積機導入反対運動を止めてくれたら、今回の息子の不始末は忘れようと提案して来る。

機械化は時代の流れだと言うのだ。

しかし、金五郎は、ゴンゾの親方は、ゴンゾの気持ちを分かってやらんと…と承知しなかったので、友田は激高する。

別室では、勝則が、友田組の連中や警官相手に、理屈で、光子の自由廃業は認められるのだと説明していた。

それを聞いていた刑事の一人が、光子は夕べはどこにいた?勝手に外泊しては行けない規則になっているはずだが?と反論すると、光子は、朝まで公衆便所の天井に隠れていたと答える。

公衆便所は遊郭の一部なので、外泊したことにはならないと勝則が説明すると、もはや誰も反論することが出来なかった。

そこにやって来た金五郎に対し、勝則は光子と結婚すると宣言するが、バカたれ!と一喝され殴り倒される。

しかし、勝則は諦めず、光子はゴンゾやってた人の娘であり、両親とも亡くなったんです。そんな人を、どうして私が幸せにしてやっちゃいけないんです?と反抗する。

光子の借金は俺が払ってやると言う金五郎に対し、お父さんも世間と同じ人ですか?と勝則は嘆く。

そんな勝則に、徴兵検査も受けんで、いつ兵隊に取られるかも知れん身で何を言うと言い残して金五郎は帰って行く。

一ヶ月後、マンは、勝則に仕送りをするため、郵便局に来ていた。

その帰り、マンが戸畑の渡船場で乗り込んだ船に、出発間際、飛び乗って来た着流し姿の中年男がいた。

栗田の銀五であった。

銀五は、目の前にいる女が、マンであることを知ると驚く。

しかし、互いにもう、昔のわだかまりはなかった。

仲良く相合い傘で、今では島村組の女親方になっており、「どてら婆さん」と呼ばれるようになっていたギンの元へ案内したマンと、20年ぶりに銀五の姿を見たギンは、目を丸くする。

亭主は今、東京の三菱本社に、嘆願書を持って出かけていると言いながら帰りかけたマンに、遅ればせながら昔のことを謝罪しようとした銀五だったが、あん人は、昔よりぴんぴんしちょりますけん、そのことはもう…とマンは言葉を押さえる。

その頃、勝則は光子と二人で、大阪のホテルで抱き合っていた。

光子は、生まれてはじめて感じた幸せに怯えていた。

勝則は、自分も沖仲仕でもして働くと今後のことを話し合っていたが、突然、ドアがノックされる。

異変を察知した勝則は、すぐに窓から逃げろと光子に告げるが、その時ドアが蹴破られ、友田組の連中がなだれ込んで来る。

郵便局でマンが勝則に宛てた住所から、ここを嗅ぎつけられたのだった。

遊郭に連れ戻された光子は、女将たちから見せしめのためにむち打たれる。

裸で吊るされた光子は、マニラに売り飛ばされることになる。

汽船に乗りマニラに送られる光子を、小舟で勝則が追って来るが、もはやどうすることも出来なかった。

その後、勝則は、人が変わったように、ゴンゾとして石炭運びの仕事を始めるようになる。

久々に自宅に戻って来た金五郎は、勝則が、持っていた本をすべて売り払ってしまったとマンから聞き、満足げに頷く。

マンも又、勝則のために半纏を縫って用意していた。

二人とも、いよいよ勝則の仕事ぶりは本物になってきたと喜ぶ。

それを、今やラムネ屋になっていた永田杢次とヨネ夫婦も聞いて喜び、組合員全員で、勝則の前途を祝ってラムネで乾杯する。

その席にいた勝則は、金五郎に話があると別室に招くと、ゴンゾだけの組合を作りたいと言い出す。

金五郎は驚き、小頭組合があるじゃないか、小頭とゴンゾは新炭積機問題で一心同体じゃと説得するが、勝則はそうじゃないかも知れんと答える。

友田が黙っとる訳がなかと金五郎は心配するが、今夜仲間たちとの会合があると言い残し、勝則はその場を立ち去ってしまう。

金五郎はマンに、自分は支那に行きたかった、お前はブラジル、それがこげなことになってしもうた。わしらはどこか間違っとったんじゃないかと心細げにつぶやく。

勝則が作った「若松港沖仲仕労働組合」の事務所に、ある日突然、友田から命令された島村ギンが殴り込んで来る。

栗田の銀五も同行しており、勝則に対し、ボン!組合を止めてくれと頼むが、どうしても聞きそうにもないので、ギンが刀で斬ろうとするが、銀五はそれを制する。

ギンが立ち去った後、勝則に近づいて来た銀五は、あの女は、組を守るために必死なんやと忠告し、自分も若い頃は、かっとなって、親分を殺してしまったこともあると昔話を語る。

満州事変が勃発した頃、一人の娘が若松にやって来る。

お京そっくりのその娘は、金五郎の自宅に来ると、その場にいたマンに対し、いきなり仁義を切り始める。

戸惑ったマンだったが、どう言っても、娘が言うことを聞きそうにもないと見て取ると、仁義を返す。

娘は、東京浅草から来た蝶々牡丹のお葉(倍賞美津子-二役)と名乗る。

マンは、主人は留守であると教え、金を与えて引き下がらせる。

しかし、その直後、マンはヨネに、今の娘の後を追いかけさせる。

金五郎はその後、料亭「丸金」の女将から仕事中呼び出されたので、何事かと部屋に入るが、そこに、お京と瓜二つの娘がいるのを見つけ凍り付いてしまう。

その娘は、あの時、金五郎が忘れて行った懐中ランプを持っており、泥と汗だらけだった金五郎の着物を脱がすと身体を拭き始める。

その背中に彫られた「京」の字を見つけた娘は、いきなり、抱いて!とすがりついて来る。

驚く金五郎は、あんたはお京にしては若すぎる。まるで、娘のようじゃが…と言いかけ、あん時生まれていたら、今年19…と、目の前にいるのが、自分が京に生ませた娘であることに気づく。

聞けば、お京は、あの後、酒、博打、かっぱらい、けんかに明け暮れ、血を吐いて死んだのだそうだ。

右か左か迷っていた俺を男にしてくれた人じゃ…と金五郎がつぶやくと、お葉は、自分が母ちゃんに代わって復讐に来たと睨みつける。

その直後、部屋を飛び出して行ったお葉だったが、マンに言われてやって来た勝則とすれ違う。

勝則は、その娘の正体を知らなかったが、勝則をマンがここへ来させたと知った金五郎は、何もかもマンに見透かされていると覚悟する。

その後、港に新炭積機が完成し、勝則ら沖仲仕労働組合はストライキに入る。

その事態を知った梶原中佐(南原宏治)は、友田にぶっつぶせ!と命じるが、その場にいた警察署長(明石潮)は、立場上けんかを認める訳にも行かず困惑する。

友田組から声がかかった島村ギンは出入りの準備を始め、栗田の銀五も又、身支度を始める。

今回は両者とも、以前のように、相手を助けることなど出来ない真剣勝負だと言うことが分かっていた。

事務所に詰めていた勝則は、ストは午前3時きっちりだと仲間たちに徹底させていたが、そこに金五郎がやって来て、ここは洞海湾ぞ!と息子に冷静になるように説得する。

しかし、勝則は、僕らの敵は友田組ではなく、三井三菱、麻生、住友…と大企業名をあげ、正々堂々と戦うと反論する。

そんな所に、友田組が攻め込んで来る。

ヨネから知らせを受けたマンは、自分は馬に乗れるので、せめてこれで敵を蹴散らせて来ると言うと、永田杢次が用意した馬にまたがり、金五郎と勝則のいる事務所に向かって走り始める。

そんなマンに、永田杢次は、玉井の不始末を許してくれるかと頼む。

連合組の大庭たちも、金五郎と勝則を助けるため駆けつけて来る。

金五郎は銀五と対決し、島村ギンは大庭が相手をする。

一方、海から小舟でやって来たのは、お葉だった。

港に到着したお葉は、倒れていた勝則を助け起こすと、どこ?お父さん…と聞く。

それを聞いた勝則は、はじめてお葉の正体を悟る。

友田組は劣勢で、じりじりと、友田の屋敷周辺まで金五郎たちに押されて来る。

友田邸には、機関銃や猟銃を持った組員たちが銃撃で応戦し始める。

栗田の銀五も、機関銃を撃ちまくっていた。

そこに、馬に乗ったマンが駆けつけて来たので、金五郎は、その馬に一緒にまたがる。

連合組は友田組に対し、ダイナマイトを投じ爆発させる。

そんな中、友田邸に入り込もうとした勝則を、機関銃が狙っていることを知った銀五は、思わず飛び出して行き、勝則の前に立ちふさがり、自らが銃弾を受けてしまう。

倒れた銀五に駆け寄るマンとギン。

銀五は、二人に見守られながら息絶える。

一方、屋敷のベランダでは、お葉も勇敢に戦っていた。

その頃、友田と梶原中佐が隠れていた遊郭の部屋に、屋根伝いに忍び込んで来たのが、唐獅子の五郎の息子、20年前、盲腸の手術室で、財布をマンに置いて行ってもらったおかげで助かった五郎(石坂浩二-二役)だった。

かねがね、玉井さんに何かあったら、駆けつけねばと心に誓っていたのだった。

五郎は拳銃で二人を黙らせ、部屋にいた娼婦を外に出し人払いをすると、スト騒動から手を引くと言う誓約書に拇印を押させる。

二人が友田邸にいないことが分かれば、連中はここへ乗り込んで来る。そうなれば、警察が介入して来るぞと十郎が脅すと、最後まで抵抗していた梶原中佐も、渋々、署名と拇印を押すしかなかった。

三通用意していた誓約書の一枚は、お前たちが汚いことをしたときの用心のためだと言いながら、自分の懐に入れる十郎。

その後、全小頭組合も参加したストライキは、友田組が手を引いたこともあり、円満に解決を迎える。

久々に自宅にそろった玉井の一家だったが、勝則は金五郎に、マニラに行って光子を連れ戻したいと申し出る。

それを聞いた金五郎は、黙って財布を渡してやると、お前の給金の一年分じゃと威厳を見せるが、マンがお葉から受け取った懐中ランプを見せつけると、まだ浮気のことを許してもらってないと分かり、いい加減で勘弁してくれ!と顔をしかめる。

昭和6年、フィリピン、マニラのとある教会の墓地

勝則は、すでに亡くなっていた光子の墓に、娼婦仲間の女清野たま(沢村貞子)に連れて来られていた。

光子は、文句も言わず、色んな人種の男の相手をし、とうとう身体を壊して、最後は真っ暗にした部屋の中で、母ちゃん…と言いながら死んで行ったと言う。

涙ながらに、たまの言葉を聞いていた勝則だったが、生前、光子から譲り受けたと、たまから一札の詩集の文庫本を見せられる。

それは、かつて、自分が光子にやった本だった。

本には、母ちゃん、知っててくれますか?明るいホテルの中であの人と過ごした一ヶ月がうれしいと、光子の字が記されてあった。

呆然と立ち尽くす勝則に、たまは「なぜ、今まで…、もっと早く来てやってくれなかったのです」と責める。

夕焼けの中、勝則は何も答えることが出来なかった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

過去、六度映画化された火野葦平原作小説の五度目の映画化で、はじめての完全映画化らしいが、この作品自体、観るのは今回がはじめてである。

大陸へ渡る夢を持った若夫婦とその息子が、船賃を貯める目的で北九州でゴンゾとして働くうちに、どんどんのし上がって行くと言う大河ドラマになっており、その荒っぽい仕事柄、やくざたちも色々絡んで来て、斬った張ったのアクションも豊富と言う内容になっている。

当時、経営不振に陥っていた日活から渡哲也を、大映からフリーになっていた田宮二郎など、他社スターを招き、当時の松竹としては珍しく、かなりの予算を投じて作っていることが分かる。

主役を演ずる渡哲也は、明るい表情が魅力の人だが、こうしたアクションものには意外と不向きなようで、この作品でも青年時代はともかく、中年になってからの老け役になってからは、ぐっと生彩がなくなるのが惜しい。

渋い演技などを、起用にこなすタイプの人ではないからだ。

まだ、同じく途中から老け役になっても、あまり若い頃と印象が変わっていないマン役の香山美子の方が生き生きとしている。

逆に、役に合っており、儲け役だなと感じたのは田宮二郎と倍賞美津子、そして、意外なことに石坂浩二である。

老けた父親五郎を演じている時は、さすがに無理があり、印象も弱いのだが、息子の五郎を演じる後半は、着流しに2丁拳銃などを構え、銀五役の田宮、お葉役の倍賞共々、誠に颯爽とかっこ良いキャラクターになっている。

憎々しいライバル角助を演じる山本麟一や、友田を演じる佐藤慶の存在感も印象的だが、この作品で一番印象に残るキャラクターと言えば、女だてらに組を立て、親方になる島村ギンであろう。

演じている任田順好と言う女優に覚えはないが、調べてみたら、なんとあの松竹版「八つ墓村」(1977)で「祟りじゃ〜!」と叫んでいた濃茶の尼をやった人ではないか!

まさに、この作品でも、男勝りの任侠を演じる体当たり演技と言うほかない。

体当たり演技と言えば、出演シーンの大半が裸と言う太地喜和子の若々しさも魅力である。

途中、コメディリリーフ的に登場した坂上二郎が、あっさり途中で姿を消してしまったのが、ファンとしてはちょっと寂しくもある。

長編小説をまとめただけに、やや駆け足のダイジェストっぽい印象があるのは否めないが、当時の松竹作品の中にあっては、なかなか見応えがあり、面白く感じた娯楽大作である。

※追記

升本喜年著「映画プロデューサー風雲録 思い出の撮影所、思い出の映画人」によると、この作品に登場する五郎は、当初、高橋英樹だったそうだ。

ところが、クランクイン直前に高橋英樹がドタキャンをしたらしく、急遽、石坂浩二が抜擢されたらしい。

ドタキャンの理由は明らかではないが、当時の高橋英樹は、主役以外の映画企画に乗り気ではなかったらしい。

渡哲也の方は、この前作「人生劇場」で、実質的な主役飛車角を高橋英樹が演じた時、黙って脇役で出演していると言う。