TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

あしたのジョー('11)

2011年、「あしたのジョー」製作委員会、高森朝雄+ちばてつや原作、篠崎絵里子脚本、曽利文彦監督作品。

※この作品は新作ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

都心に路面電車が走っていた時代

都会の一角にあったドヤ街で、一人の青年が逃げていた。

さらに、けんかをする青年、その名は矢吹丈(山下智久)

雨が降ると、野良犬のように、軒下でうずくまっているだけの孤独な青年だった。

タイトル

ドヤ街

廃墟化した孤児院で遊んでいた子供たちは、突然やって来た大人に追い出される。

孤児院の前には、似つかわしくない高級外車が乗り付けていた。

その車に乗っていた白木葉子(香里奈)は、孤児院の屋根の上にある風見鶏を見つめる。

土手に横になって寝ていたジョーのコートをあさる子供たち。

しかし、ジョーは気づいているらしく、何も入ってないぞと声を出す。

そして、紙飛行機を空に向かって飛ばす。

それをうれしそうに見つめる少女サチ(畠山彩奈)

子供たちと一緒に、ドヤ街の中の「あさひ大衆食堂」にやって来たジョーは、大量の朝飯を注文し、一人でかき込み始める。

それをあっけにとられたように見つめる子供たちは、食い逃げだろう?と心配する。

同じ食堂で、朝っぱらから一升瓶を抱え酒を飲んでいた丹下段平(香川照之)が、そんなジョーの様子をおもしろがり、声をかける。

その直後、店に入って来た大男が、その段平に金を返せと言いながら殴りつける。

大男は、段平が元ボクサーだった事をからかう。

店の扉を突き破って、外に投げ出される段平。

その朝日食堂の前に、先ほどの高級外車が乗り付けていた。

大男が店の外に出ようとしたとき、サチの落とした紙飛行機を何気なく踏みつけてしまう。

それを観た矢吹ジョーは、大男の前に立ちふさがると、自分の名前を名乗って殴りつける。

そのパンチを観ていた丹下段平は、驚いたようにジョーのパンチを見つめる。

車を降りた葉子も、ジョーのけんかを興味深そうに見つめていた。

屈強な大男どもを、たった一人で叩きのめしたジョーにしがみついた段平は、俺と一緒にあしたを目指さないかと語りかけるが、そこにパトカーのサイレンが近づいて来る。

逮捕されたジョーを心配した幸たち子供と段平は、警察署にやって来るが、刑事は、あの男は、山ほど前科を持つ札付きのチンピラだと言いながら追い返す。

段平は、俺はお前の事を諦めねえぞと、警察署に向かって叫ぶ。

ジョーは、幼い頃両親から捨てられたなど、その不幸な境遇に同情すべき所もあったが、裁判の結果、1年間収容される事になる。

収容所に入ったジョーは、見覚えのある大男と再会する。

段平を殴っていた西(勝矢)だった。

その西が、懐かしそうにジョーに話しかけていた時、うるさがった先輩受刑者が西に便所掃除を命じ、素直に西がその言葉に従おうとすると、その尻をけり付け、便器の中に西の顔を突っ込ませたので、その様子を観たジョーは、先輩受刑者たちを殴りつけたので、結局、ジョーは独房に収容される事になる。

そんなジョーの独房に一枚のハガキが投げ込まれる。

それは、丹下段平からのもので、裏には「あしたのために その1 ジャブ」と書かれ、ジャブの練習の仕方が細かく記されていただけだったので、感心がないジョーは破って捨てる。

その頃、段平の方は酒浸りだった以前とは打って変わり、工場で力仕事をしていた。

同僚がその様変わりぶりに驚くと、段平はジムを建てるんだと夢を語る。

一方、独房では、退屈さに飽きたジョーが、一旦破り捨てたハガキを復元し、そこに書いてある通り、ジャブの練習を始めていた。

その独房からようやく出された日、ジョーは、食堂で他の受刑者たちと又喧嘩を始めてしまう。

その様子を見たマンモス西は呆れてしまう。

制止に来た刑務官相手に暴れ回るジョーは、俺はどこにいたって自由なんだよと吼えていたが、その時、何者かに一発で殴り倒される。

床に倒れたジョーに、一人の大男が「お前の言う自由とは好き勝手に暴れる事か?安い自由だな」と言い放つ。

立ち上がったジョーは、その大男に殴り掛かって行くが、難なくかわされる。

それを観ていた受刑者たちは、相手はプロのボクサーだぜと嘲笑する。

「ジャブを打つときは、やや内側を狙い、えぐるように打つべし」ジョーは、ハガキに書かれていた段平のアドバイスの文言を思い出しながら、その通りのパンチを出してみる。

すると、大男の唇が切れる。

観ていた受刑者たちは、「当たった!」と驚く。

パンチが当たった大男の方もちょっと驚いたように目を見開く。

ジョーの方もパンチが当たり、ちょっと驚くが、さらに続けようとしたとき、「やめとけ!素人が敵う相手じゃない!」と言いながら、刑務官らによって、ジョーは押さえつけられてしまう。

大男の正体は、力石徹(伊勢谷友介)と言うプロボクサーだった。

独房に戻ったジョーの元に、又一枚、段平からのハガキが投げ込まれる。

「あしたのために その2 右ストレート」

ジョーは初めて、どんどんはがきを送ってくれ。倒す敵を見つけたと書いた返事を出す。

段平はうれしそうにはがきをどんどん送り、それを受け取ったジョーは、独房のベッドをサンドバッグ代わりにパンチの練習を続ける。

「あしたのために その3 スナップ」

ジョーは農作業の時、片手で鋤を使うようにする。

独房を出され、外で休憩中も、一人シャドーボクシングを続けるジョーの姿を、力石は興味深げに見守っていた。

そんなある日、ジョーは、署長室に呼び出される。

待っていたのは、あの段平と白木財閥の令嬢葉子だった。

久々にジョーと再開した段平は、うれしそうに、このお嬢さんの計らいで、収容所内でボクシングの模範試合を行う事になったので出ないかと言う。

しかし、その話を聞いたジョーは、宣伝じゃないかと馬鹿にし、すぐに部屋を出ようとする。

そんなジョーに段平は、相手は白木ジムの所属で、シャバでけんかしたばかりにここへ収容された人だが、力石ってチャンピオンだよと告げると、ジョーの足がぴたりと止まる。

ジョーと二人きりになった段平は、さっさとあしたの続き教えろよとせがむジョーに、あしたの意味、分かっているのか?と叱りつけながらも、必殺パンチを教えてやると告げる。

一方、力石と対面した葉子の方は、素人相手に戦っても、プロとしての勘を鈍らせる事になるんじゃないのと心配していた。

しかし。力石はジョーとの出会いを思い出しながら、あいつのパンチはプロ並みでしたよ、ジャブだけはねと苦笑すると、ご心配には及びません。ワンラウンドで眠らせてみせますからと葉子に約束する。

収容所の庭でジョーの相手をしてやっていた段平は、約束通り、一撃必殺のパンチを繰り出し、ジョーを倒していた。

収容所でのボクシング試合の当日、葉子と一緒に、白木財閥の会長白木幹之介(津川雅彦)もやって来る。

ジョーのセコンドを買って出た西が、プロ相手なので、ジョーにヘッドギアを付けてやろうとすると、ジョーはそんなものは入らないと拒絶する。

段平は、そんなジョーに、今日は地獄を味わってもらうぞと不気味にささやくと、レフリーに向かって、確かこの試合はアマチュアルールで、3ラウンドで3回ダウンしたら負けと言うルールだったなと確認すると、それを止めて、何回ダウンしてもOKと言うルールにしてくれと申し込む。

それをリング脇で聞いていた葉子は困りますと困惑するが、そもそも、こんなに体重差がある二人を戦わせている事自体がルール違反なんじゃないですか?と段平は問いつめ、力石も、良いですよ。どうせワンラウンドで倒しますからと余裕を見せる。

それを聞いていたジョーは、こりゃ面白くなって来たと喜ぶが、段平は、ダウンするのはお前の方だと耳打ちする。

ゴングが鳴り、ジョーと力石の試合が始まるが、一発のパンチで倒れ込んだのは、段平が言う通りジョーの方だった。

観戦していた受刑者たちは、予想通りの展開に大喜びで「KOコール」の雄叫びをあげる。

しかし、その直後、プロのパンチを受け、完全にのびたと思っていたジョーが立ち上がったので、観ていたものたちは目を見張る。

力石も驚いたらしく、もう一度鋭いパンチを繰り出そうとした瞬間、ゴングの音で寸止め状態になる。

ジョーは不敵に笑いながら、ワンラウンドでKOするんじゃなかったのかい?と挑発する。

コーナーに戻って来たジョーに、西は、あんなことを言って、完全に力石を怒らせてしまったじゃないかと狼狽する。

2ラウンド目も、完全に力石の一方的な試合運びだった。

ジョーはまたもやダウンするが、カウント9で不気味に立ち上がって来る。

その不屈の根性を見守っていた受刑者たちは、さすがにみんな言葉が出なくなってしまう。

そんな試合を見守りながら、「待つしかねえ」とつぶやいてた段平は、「出るとすれば…、今だ!」と叫ぶ。

その言葉通り、頭に血が上った力石は、ジョーを完全に打ちのめそうと、全身全霊を込めたパンチを浴びせて来る。

その時、ジョーの右手も、力石の伸びて来た右腕とこすり合うような形で伸びた。

会場は凍り付く。

白木会長が「クロスカウンター!」と口にする。

自分を打たせて相手を倒す、相打ちのパンチの事だった。

互いに顔面を強打し合ったジョーと力石は、二人同時に倒れ込んだので、葉子は「ダブルノックアウト…」と驚愕する。

その後、矢吹ジョーは、収容所を出所する時が来る。

身元引き受け人は、丹下段平だったが、ジョーを見送る二人の刑務官たちは、遠ざかって行くジョーの姿を見ながら、何だか寂しい気がしますね。いればいたで厄介な奴なんだが…、不思議な男だと話し合っていた。

電気屋の前で立ち止まったジョーは、ショーウインドーの中のテレビに映し出される力石の戦いぶりを見つめる。

一足先に出所した力石は、葉子と一緒に収容所を出る際、一人立っていたジョーに、待ってるぞと声をかけてくれたのだった。

その力石は、今やプロに復帰し、リングで大活躍していたのだった。

ドヤ街へ渡る「泪橋」を渡る途中、ジョーは小銭を拾ったので愉快がる。

その涙橋の真下に「丹下拳闘クラブ」と看板がかかった粗末なジムが出来ていた。

段平は、お前のために作ったんだ。本気でやってみねえか?ボクシングと勧める。

ジムに入ったジョーは、自分の名前の横に「マンモス西」と書かれた木札を見つけ不思議がる?

それを待っていたかのように顔を見せたのは、あの収容所で一緒だった西だった。

西も又、一足先に出所していたのだった。

段平は、泪橋と言うのは、人生に敗れた奴が、涙ながらに渡るからそう名付けられたのだが、お前はこの涙橋を逆に渡れ。あしたは、今日と言う日をきれいごとで過ごしているような奴には永久に来ない。あしたに向かって毎日死にものぐるいに戦って、堂々とこの町から出て行けよとジョーに教える。

その日から、ジョーは、ドヤ街を毎日ランニングし始める。

そんなある日、ジョーは、涙橋の上に咲く一輪のタンポポを見つける。

ジムに戻ったジョーは、かつて、あさひ大衆食堂で見かけたマンモス西の兄貴分、安藤洋司(杉本哲太)が来ているのに気づく。

安藤はマンモス西とジョーに、プロテスト受かったんだってなと聞き、実は俺も昔、ちょっとボクシングをかじった事があるが、ものにならなかったら、俺の所に来な。いつまでもこんな半端な所にしがみついてやいけないぜと言い残して帰って行く。

マンモスは、奴は今、このドヤ街を総合スポーツ施設に再開発しようとしている白木財団の手先だと説明する。

そう言えば、最近、ドヤ街のあちこちに、「再開発反対!」と看板がかかっているのにジョーは気づいていた。

この町を、あの白木葉子が壊そうとしているのだった。

そこに戻って来た段平は、ジョーのデビュー戦が決まった。相手は北斗ジムの村瀬武雄だと教える。

そのジョーのデビュー戦には、力石と葉子も一緒に観戦に来ていた。

「あさひ大衆食堂」はサチたちが、トランジスタラジオでデビュー戦の放送を聞き入っていた。

試合が始まると、ジョーは、両手を構えるどころか、だらりと垂らして「ノーガード状態」になる。

それを観た力石は「相手を誘っているんですよ」と葉子に教える。

その嘗めた態度に頭に来た対戦相手は、鋭いパンチを繰り出すが、そのパンチを利用したジョーの「クロスカウンター」が見事に決まり、相手はワンラウンドでノックアウトされてしまう。

その快挙をラジオで聞いていた子供たちは大喜び。

半分馬鹿にしながらも聞いていた店主(モロ師岡)もあっけにとられてしまったので、若い女房(西田尚美)から、蠅叩きで頭を叩かれてしまう。

力石も、その後、順調に勝ち進んでいたが、試合後、取り巻きの記者たちから、今一番気になる相手は?チャンピオンですか?と聞かれたので、その前に倒しておかなければいけない男がいると答える。

その記事を読んで、筋トレをしている力石の元にやって来た葉子にも、決着を付けたいんです。奴は一つ階級をあげてバンタム級でデビューしましたから。世界戦は、あいつとの決着がついてからにして下さいと頼む。

矢吹ジョーの方は、クロスカウンターで5連勝を飾ってた。

すっかり調子づいたジョーは、早く力石とやらせろや!と段平を焚き付けるが、段平は、あいつは世界ランカーだぜと言い聞かす。

そこに、葉子が近づいて来て、うちに所属選手で、バンタム級の日本ランカー、ウルフ金串(虎牙光揮)と試合をやってみないかと誘って来たので、それを聞いた段平は、あんた、ジョーを潰す気か!と気色ばむ。

しかし、その後、葉子たちは、ブルドーザーを持ち込み、ドヤ街を潰そうと実力行使に出る。

そこに一人でやって来たジョーは、今日の所は帰れよ。試合してやるよ、ウルフと…と葉子に話しかける。

その返事を聞いた葉子は、詳細は丹下会長に知らせるわと言い残して帰ろうとするが、そんな葉子にジョーは、普通、金持ちってもんは、貧乏人を蔑むものだが、あんたは憎んでいると言い放つと、次は力石とやらせろと迫る。

さらにジョーは、拳を握りしめ、あれたちはこれで納得するまで戦うまでだ、女の出る幕じゃないと言うが、女にだって拳はあるのよと言いながら、葉子はパンチをジョーに向ける。

葉子は、事務所のデスクで自分の子供時代の夢を観ていた。

葉子は、このドヤ街の中の、あの風見鶏がある孤児院出身だったのだ。

そんな葉子の過去を知っている力石は、葉子が寝ている姿を発見すると、そっと上着をかけてやるのだった。

丹下ジムに取材に来た記者たちは、ウルフは専門家を交え、ジョーのクロスカウンターを徹底的に研究した上で、破る方法を見つけたらしいと教える。

ジョーの試合のクロスカウンターの8mm映像を徹底的に観まくったウルフは、練習相手を全員失神させ、大きな声で吼えていた。

その後、世界戦の準備ができた事を力石に告げた葉子だったが、力石が乗り気でない様子を見た時、あなたまで、私の邪魔をするの?といきり立つ。

そんな力石戦を観に来ていたジョーは、試合後の力石に近づくが、そこにやって来た一人の記者が、なんで、この力石が収容所に入れられたか知っているか?2年前に俺の仲間の記者を殴ったんだと教える。

白木葉子がドヤ街出身と教えたその記者は、いまだに病院で寝ていると続ける記者に怒ったジョーは、側のコンクリートの柱を思いっきり殴りつけて黙らせる。

その後、ロッカールームにジョーを招いた力石は、氷嚢をジョーに手渡しながら、手を大事にしろと優しく話しかける。

ジョーは、ドヤ街出身ってことが、そんなに嫌なのか?と葉子の事を不思議がる。

葉子は、子供時代、男の子から色々いじめられていたのだった。

本当の両親が写ったペンダントを宝物として大事に持っていたが、ある日、男の子たちに奪い取られそうになり、踏みにじられた結果、その両親の顔の部分が消えてしまったのだった。

ロッカールームで、ちょっと緊張した力石に挑みかかろうとしたジョーだったが、グローブを付けなきゃ、ただのけんかだと冷静になった力石は、これが俺のすべてだと言いながら、じっと自らのグローブを見つめると、矢吹よ、グルーブをはめろ。正々堂々とウルフを倒して来い。決着はリングの上だと告げる。

ドヤ街の「あさひ大衆食堂」にテレビが入り、子供たちもみんな、ジー対ウルフ戦に釘付けになっていた。

段平は、ジョーに、絶対クロスカウンターは狙うなよと釘を刺す。

しかし、ゴングが鳴り、リングで出て行ったジョーは、今まで通り、両手をだらりと下げ「ノーガード戦法」に出る。

ウルフはパンチを出し、それに対し、いつも通りジョーはクロスカウンターで返すが、リングに倒れたの葉ジョーの方だった。

それを客席から見守っていた力石と白木会長は緊張する。

何とか、立ち上がったジョーだったが、そこでワンラウンドが終了する。

実況アナウンサーは、ウルフが放ったダブルクロスカウンターをジョーが受けたのだと興奮気味に説明する。

しかし、その後も、ジョーは懲りずに「ノーガード戦法」を取り、3ラウンドで三度ダウンさせられてしまう。

一緒に観ていた葉子は、終わりねとつぶやくが、力石は咳を立ち上がるとリング脇に近づき、立て!矢吹!俺との勝負がつかない前に破れてしまうのか!と、リング上で倒れていたジョーに向かって呼びかける。

その声を聞いたジョーは、又立ち上がる。

「あさひ大衆食堂」では、その様子を観ていた店主が、おい!立ったぜ!と、驚いたように妻に語りかける。

見かねた段平が、「ジョー!ボクシングをするんだ!」と声をかける。

しかし、ジョーは「ノーガード戦法」を止めなかった。

ウルフは、とどめだとばかりに強烈なダブルクロスカウンターを放つが、次の瞬間倒れたのは、なんとウルフの方だった。

それを目にした段平は、あいつは天性のボクサーだと驚愕する。

何が起こったのか、スロー再生を観返した実況アナウンサーは、ジョーがウルフが放ったダブルクロスカウンターのさらに上を行く、「トリプルクロスカウンター」を放った事に気づく。

その試合を見届けた白木会長は、帰られない物がある。宿命だとつぶやき、力石はにやりと笑っていた。

その日から、力石の壮絶な減量作戦が始まる。

ジョーと同じクラスで戦うには、力石は体重が多すぎたからである。

そんな無茶な事を始めた力石に、どうしてそんなにあの男にこだわるの?と、葉子は詰め寄るが、俺と引き分けた男が同じ世界に生きているのが許せないんです。お嬢さんこそ、どうして嫌がるんです?オレ以上に、こだわっているんじゃないですか?矢吹丈と言う男に…と苦笑すると、初めて出会ったんですよ。命を賭けて倒したい男にと言う。

その頃、ジョーの方は、涙橋の上のタンポポに、朝、歯磨き用に持っていたカップの水をかけてやっていた。

力石は猛烈な練習を開始し、葉子をおびえさせる。

ジョーの方も、練習に明け暮れていた。

力石は、倉庫にこもると、そのドアの鍵を葉子に渡す。

倉庫の中には、たくさんのストーブがたかれ、その中で力石は暑さに耐えるのだった。

さすがに耐えきれなくなった力石が、ドアをパンチで突き破り、自らはい出して来て水を求めるが、水道の蛇口はどれも、針金できつく縛られ、一滴も出ないようになっていた。

シャワー室のコックをひねっても、水は出て来なかった。

そこに現れた葉子は、いきなり冷たい水を飲むと身体に悪いから…と言いながら、用意していたお湯をコップに注ぎ、力石に渡してやる。

これ以上、無理をしないでねと、力石を案ずる葉子だったが、お嬢さんの言葉で目が覚めましたと答えた力石は、もらったコップの水を全部床にこぼすと、又、倉庫に戻って行く。

ジョーの猛特訓も続いていた。

サチたちは協力して、ジョーがはくトランクスに「J」の文字を縫い付けていた。

いつも通り、ドヤ街の中をランニングをするジョーに応援の声をかける「あさひ大衆食堂」の店主夫婦、二階からジョーの姿をじっと見守る女(倍賞美津子)

そんなジョーを涙橋の上で待っていたのは葉子だった。

彼女は、力石君との試合を中止して欲しい。このままでは彼は壊れてしまう。出来る事は何でもしますとジョーに土下座して頼む。

そんな葉子を立ち上がらせたジョーは、踏んでるんだよとつぶやく。

見下ろすと、葉子がタンポポを踏みつけていた事に気づく。

止まんないんだよ、力石も俺も。

金持ちも貧乏人も関係ねえんだ。同じリングで、どちらかがぶっ倒れるまでやり続けるだけ。あんたも良いパンチを持っている。使い方を間違えるなよとジョーは葉子に話しかける。

いよいよ、計量日がやって来る。

簡単にジョーがクリアした後、ガウンを着ていた力石が裸になり計量代の前に立つ。

その姿は恐ろしいほどやせ細っていた。

それを驚いたように見守る段平とジョー。

試合当日、控え室で、テーピングをしてやる段平としてもらうジョーは、互いに何かを話しかけるが、互いにうまく言葉にならなかった。

サチたちが作ってくれた「J」の文字が入ったトランクスをはいたジョーが、バンタム級のリングに上がって来る。

ジョーは、力石戦でも、おなじみの「ノーガード戦法」で挑むが、力石は「クロス封じ」のアッパー攻撃で攻めて来る。

クロスカウンターは、相手がストレートを打って来ないと攻められないのだ。

ジョーは、いら立って先に手を出すが、力石のアッパーで倒されてしまう。

そんなジョーの姿をコーナーで見守っていた段平は、真っ当なボクシングをするんだ!思い出すんだ!あしたのためにの1を!、2を!3を!と声をかける。

その言葉が聞こえたのか、何とか立ち上がったジョーは、両手を上げてガードの姿勢に転じる。

その後、ジョーと力石は、壮絶な殴り合いを始める。

その試合を見ていた葉子は耐えきれなくなり、会場の外の廊下に逃げ出す。

リングでは、又してもジョーが倒されていた。

段平は叫ぶ。「立て!立つんだ!ジョー!」

その言葉に力づけられるように立ち上がったジョーは、力石にパンチを当てる事に成功する。

力石は倒れ、ロープに後頭部を打ち付けてる。

力石の初めてのダウンだった。

その様子を見守っていた解説者が、何か今、変な倒れ方でしたねと解説する。

何とか立ち上がった力石は、驚いた事に、両手を下げ「ノーガード戦法」を始める。

これに対し、ジョーの方も、同じ「ノーガード戦法」で対峙する。

膠着した試合運びに、観客たちからは野次が飛び始める。

ゴングが鳴り、コーナーに戻って来たジョーは、このままでは俺の判定負けになってしまうと段平につぶやく。

ガキの頃から、いつもいら立っていた。俺を捨てた親を恨んでひねくれていた…と、ジョーは珍しく饒舌になる。

そんなジョーがやっと見つけた燃えるような情熱をぶつけられる舞台が、このボクシングだったと言うのだ。

ジョーは今や充実していた。

ありがとう…、おっつぁん…と、ジョーは段平に礼を言う。

次のラウンドで、ジョーはクロスカウンターを放つが、力石は、アッパーカットでジョーをノックアウトする。

終わった…、何もかも…力石はつぶやき、試合は力石の勝利で終わる。

リングに上がって来た白木会長は、良くやった。すばらしい勝利だと力石を賞賛する。

ジョーも立ち上がると、まさか、あそこでアッパーとはな…と感心しながら、力石の勝利に手を差し伸べる。

会場は拍手が巻き起こり、力石はそのジョーの手を観て笑顔になり、自らの右手も差し出すが、その手はジョーの手を握る事なく、力石はそのままリング上に倒れ込んでしまう。

力石が運び込まれた控え室に走って来たジョーは、白い布が顔にかけられた力石の遺体と対面する。

力石の葬式に、丹下段平とマンモス西は列席するが、ジョーの姿は見えなかった。

ジョーは、無人のボクシング会場で、一人リングを見つめていた。

そんな会場にやって来た白木葉子は、ジョーに対し、あれは事故だったのだと慰め、力石が使っていたグローブを渡そうとする。

死の直前、力石が、リングで待っていると言い残し、ジョーに託したのだと言う。

力石は命を賭けて戦ったのであり、その思いを無駄にしないで欲しいとも葉子は告げるが、ジョーはグルーブを受け取る事もなく、無言で立ち去って行く。

葉子はその背中に向かって、待っているから…と声をかける。

丹下ジムに取材に来ていた記者たちは、ジョーが姿を消して、もう10日になる。ボクサーがあんな状況からダメになる例は過去いくらもあるなどとしゃべっていたので、段平はかんしゃくを起こし追い出す。

その後、無人のジムで、段平は一人サンドバッグに悔しい思いをぶつけていた。

そこにやって来た葉子は、力石のグローブをここで預かって欲しいと頼み、もうドヤ街の再開発は中止すると言い出す。

あの試合を見ていたら、ずっと逃げていた自分に気がついたのだと言う。

ジムを出た葉子は、車に乗らず、徒歩で涙橋を渡って帰る。

世間ではくずだと言われた俺たちだが、ひたすらボクシングに賭けて生きて来たんだ。

このまま終わってたまるか…、そうだろ、ジョー…、段平は一人つぶやいていた。

ドヤ街に雪が降り、やがて春が訪れる。

ボクシング会場では、力石の一周忌法要として、テンカウントゴングが鳴らされる。

葉子は、力入りの墓参りに来るが、ふと墓の下を見ると、あの涙橋に咲いていたタンポポが植えられているではないか。

ジョーが来たのだ!と直感した葉子は、笑顔になり辺りを見回す。

ある日、他の子供たちと土手にいたサチは、紙飛行機が飛んで来たのに気づく。

涙橋に矢吹丈が戻って来たのだ!

子供たちは、ジョーに飛びつき、段平や西、他のドヤ街の住民たちも、ジョーの帰還を大喜びする。

ジョーは、おっつぁん、もう一度教えてくれよ、あしたってやつをよ…と段平に頼む。

段平は、泣いてジョーを抱きしめる。

丹下ジムに戻り、力石からもらったグローブをはめたジョーは、リングの中に立って、笑顔で招く力石の幻影を観、そのリングの中に入ると、又、昔のようにパンチを打ち始めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

60年代後半、「巨人の星」と共に一大ブームを巻き起こしたスポーツ漫画の実写化。

一部、若干アレンジしている部分もあるが、当時の時代色も含め、ほぼ原作のイメージに忠実に作られている。

そっくりに作られている分、知っているイメージやシーンがどんどん出て来るので、テレビアニメの再放送と言うか、そのダイジェスト版だったアニメ映画版の「あしたのジョー」を観ているような感じがする。

特に出来が悪いと言う印象はなく、力石戦までをテンポ良く観る事が出来るが、正直な所、特に新しい感動があると言う訳でもない。

ボクシング映画の名作は過去いくつもあり、そうした物を観ている目からすると、特段、新鮮なものを見いだせなかったのだ。

あくまでも、映画も漫画も初心者向け対象の作品と考えるべきだろう。

貧乏や不遇と言う感覚が身近だった60年代の時代背景で輝いていたヒーローも、今観ると、ピンと来なくなっている部分もあるような気がする。

特に、力石戦までの主役は、どちらかと言うとライバルの力石の方であり、ジョーの戦いぶりも地味な印象で、魅力が今ひとつ浮かび上がる所までいっていないためかも知れない。

いわば、大きな物語のプロローグ部分とも言うべき部分の映画化だけに、ジョーの活躍を期待していた新しいファンにとっては、何か物足りなさを覚えるのではないだろうか?

原作にそれなりに忠実だからといって、映画が面白くなる訳でもない見本のような例かも知れない。