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若者たち

1968年、俳優座+新星映画、山内久原作、森川時久監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

雨の中しゃにむに走る輸送トラック。

運転しているのは佐藤家の次男、次郎(橋本功)だった。

助手席で眠っている運転助手はなかなか目を覚まそうとはせず、睡眠不足のまま乱暴な運転を続けたあげく、トラックは鶏小屋に突っ込んでしまう。

その頃、佐藤家では、大兄(おおにい)こと太郎(田中邦衛)が、食費を納めろと、大学生のサブこと三郎(山本圭)と口喧嘩していた。

三郎は、朝食45円、昼食75円などと、紙に書いて壁に貼っている大兄の守銭奴のようなやり方がたまらず、つい反抗して喧嘩になってしまったのである。

高校生で紅一点のオリエ(佐藤オリエ)は、毎日のおさんドン代わりと、兄たちの喧嘩に疲れ果てていた。

受験生の四男ボンこと末吉(松山政路)は、そんな兄たちに7時だぞと目覚まし時計を見せ、渋々3人は出かけて行くが、残されたオリエは、めちゃめちゃになった食卓を前にして一人泣いていた。

そこに、徹夜明けで帰って来た次郎が、事故を起こしたので、金がないと言いながら帰って来る。

大学へ行った三郎は、授業料4割値上げに反対する自治会運動に参加していたが、仲間の一人だった河田靖子(栗原小巻)が、母親と同じ看護婦になるため、大学を辞める決意をしたと聞かされ、ちょっと呆然としながらも、自分の妹もおさんどんを嫌がって家を出て行った。大学を辞めるのは負ける事じゃないか?と責めるが、泰子はむしろサバサバとした表情で、嫌な事を嫌と言えない方が負けだと思う…、ありがとうと感謝する。

そんな靖子に、三郎は、軍資金として集めて来たカンパを今後の生活費の足しに使えと渡し、君の事が好きだったけど、今まで言えなかったと告白する。

靖子が帰って行った後、残った田辺(清水長英)たちは、いつ好きになったんだ。なぜもっと早く告白しなかったのかと三郎に迫るが、三郎は、たった今さ、と答えるだけだった。

そんな事より、三郎は、田辺が金を小川に貸したと言う言葉の方に引っかかる。

一緒に活動をしている仲間でリーダー格だった小川は、最近、酒浸りで競馬場通いをしていると言う悪い噂を耳にしていたからだった。

すぐに、小川の実家である玩具工場へ向かった三郎は、応対に出た妹の直子(寺田路恵)に小川の行方を聞くが、出かけており不在だと言う。

そこに出て来たのが小川の父親(大滝秀治)で、いきなり、自分の胃のレントゲン写真を見せ、ガンだと診断が出たと三郎に教えると、息子にはただ、安穏に暮らして欲しいと思っていると涙ながらに訴えて来る。

いたたまれなくなり、工場を後にした三郎は、そこでばったり帰宅して来た小川隆(江守徹)と出会う。

小川は、父親は、二人のチビもいるので、今ではすっかり直子にすがりついているんだと呟く。

三郎は、そんな小川に、金を返せ、賭け事から足を洗えとだけ言うと帰って行くのだった。

その頃、家出したオリエは、中学時代の友達だった有田町子(夏圭子)のアパートに転がり込んでいた。

町子の妹のジュンと仲良く洗い物をしている所に、行商に出かけていた町子が帰って来るが、オリエが転がり込んで来たと聞くと、ここの部屋代7000円の内、2300円払ってくれ。そして、裏の工場が求人をしているので、そこで働いて稼いでくれと無表情に言い、一人食事を済ます。

さらに町子は、独自に行商をしているはずの妹ジュンの働きが悪く、無駄なものを買ってばかりいる。母さんと同じで、自分の事しか考えてないと責め始める。

日曜日の佐藤家では、オリエがいなくなってしまったので、太郎と次郎が困りきって苛立っていた。

そんな上の兄たちの騒動に嫌気がさしていた末っ子のボンは、又大学に受からないと思うと自信がない事を打ち明け、二人とも、姉ちゃんの女心なんて分かってないじゃないかと抗議する。

それを聞いていた三郎は、その内、兄弟の誰かが嫁さんをもらえば、みんなバラバラになるんだと冷めた解説をする。

その時、次郎が、オリエの中学時代の友達がいた事を思い出す。

オリエは、町子に言われた通り、裏の靴工場で働き始めていた。

昼休み、食堂で一人の行員が食事をしていたオリエの様子を興味深気に見つめていた。

工場内でも見つめていた戸坂(石立鉄男)だった。戸板は、片足が悪い事もあり、工場内に友達はいないようだった。

そこに、町子が行商の姿でやって来て、ここで売らせてくれといきなりオリエに頼み込み、自分が勤めていた会社が潰れたので、今は行商をやっていると口上を述べると、勝手に売り始める。

同情してくれた行員たちが何人も、町子の日用品を買ってくれる。

その日アパートに戻って来た町子は、駅前でパチンコをやったり、ブロマイドを買って暇をつぶしているジュンの事を叱りつける。

その様子を見ていたオリエは、あんたは強いけど、前とは違ってしまった。弱いものいじめをするような人ではなかったと町子に言葉をかける。

すると、町子は、自分は人になんか好かれたくないと反論する。

そこに、中学校の先生にここの住所を聞いて来たという次郎が突然訪ねて来たので、町子は部屋を飛び出して行ってしまう。

翌日、オリエは戸坂から、焼き芋をもらって喜ぶが、他の女子工員から、あのピカと付き合わない方が良いと言われたので、「ピカ」とは何かと聞くと、被爆者なのだという。

一方、自分の仕事仲間などを紹介し、町子の行商を手伝ってやった次郎は、海岸で焚き火をしながら、みんなはお前の事を火箸のような女と言っているとからかう。

町子は、昔から、妾の子と言われて育ったから、どこかねじくれている所があるのだろう。他の男と寝る母親なんて、堪らない、子供としてはねと答えるが、そんな町子の事を、次郎は好きだと告白する。

きつくて気の優しい女なんか、なかなかいないからだと言うのだった。

しかし、町子は、次郎さん好きだけど、自分には決まった人がいるのだ。女って、楽な道を生きたがるものだけど…と答える。

それを聞いた次郎は、ショックを受け、自宅で布団をかぶって引きこもってしまう。

そんな次郎を横目で見ながら、三郎は太郎に、どっかで5、60万貸してくれる所はないだろうか?友達の玩具工場が潰れたんだと聞いていたが、そんな当てがあるはずもなかった。

雨の中、家庭教師のバイトに出かけようとした三郎は、びしょぬれになったオリエが玄関口にいる事に気づく。

大兄は、オリエの帰還を喜んで迎えるが、次郎は、町子と喧嘩したな!と起き上がって来る。

オリエは、町子は母親の家に行った。行商をやらせていた男が売上の金を全部持って逃げた。その相手とは結婚の約束をしていたらしい。次郎ちゃんには宜しくと言っていたと説明する。

その後、次郎は、町子が勤めていたキャバレーを探し当てると、懸命に辞めるよう説得するが、町子が冷笑すると、じゃあ、他の女と同じように、楽な道を行け!と突き飛ばす。

正月

じゅんは、田端の工場に行った。

太郎は、上司である桜井(井川比佐志)の家に年始の挨拶に向かい、ごちそうになっていた。

桜井は、妹の淑子 (小川真由美)の婚約相手が重役の娘と結婚してしまったんだが、どうだい?と太郎に聞いて来る。

太郎は、前から淑子の事を好きだっただけに、まんざらでもない申し出だったが、返事が出来ず、ひたすらごちそうをよばれるだけ。

そんな太郎の気持を察し、淑子は、ごちそうを重箱に詰めて、太郎の土産用に持たせてやるのだった。

そんな所に、次郎から電話が入り、町子がジュンと一緒に弁当屋で働くようになったと嬉しそうに報告して来たので、太郎はなぜ、そんな事を次郎が自分に電話して来たのか良く分からなかった。

次郎は、弁当屋で黙々と働いている町子の姿をしっかり目に焼き付けると、自分もトラックに乗って、張り切って仕事に出かけるのだった。

ボンは、大学受験を一週間後に控え、予備校通いをしていた。

そのボンの一次試験の発表日、太郎は工事現場で張り切っていたが、その時、クレーンで持ち上げていた建材が落下し、仲間の一人が下敷きになり入院してしまう。

足を潰したその仲間には、3人の幼い子と妻がいた。

太郎は、仲間たちからカンパを募るが、会社からは雀の涙ほどの金しかもらえず、桜井に、元請けの会社と掛け合ってくれと抗議しに行くが、カンパを少しもらえただけで、それ以上の事は無理だった。

その後、一人であれこれかけずり回った太郎だったが、家に帰ると、話を聞いた次郎から、組み合いでも作らないと、一人では無理だと説教される。

みんな自分の事しか考えないと憤る太郎に、大兄だって、いつもは金の事ばかり言っているような人間なのに、いざ、人が困っていると親身になって尽くそうとする。汗流している人って、大抵、そうなんじゃないか?俺は、大兄を信じていると三郎は慰めるが、その直後、千円くれ、友達の父親が死んだと、三郎は太郎に手を差し出す。

小川の父親の通夜では、集まった親族たちが、遺品として棺桶に収めた父親愛用の釣り竿やメガネを、金になるから欲しいと言い出したので、小川も直子も怒り出していた。

親族たちが帰った後、三郎と二人になった小川は、金だよなあ…、結局、父は、あんな高利貸たちのために働いていたんだと嘆く。

ボンは、一次試験に合格した。

一緒に合格発表を見てくれた三郎に、ボンは、かねてより約束した通り、スケート靴を買ってくれとねだるが、三郎は、その場にいた不合格者の母親に声をかけ、経済3年の佐藤三郎ですが、家庭教師をやりましょうか?と売り込みを始める。

その後、三郎は、大学を辞めた河田靖子と久々に再会する。

田辺 に金を返しに来たと言う靖子は、4月から看護学校が始まると明るく語って去って行く。

靴工場では、合唱団に入ったオリエが休憩時間に唄っていると、少し離れた所に一人佇んでいた戸坂がそれをまぶしそうに眺めていた。

帰りの駅で、オリエは戸坂に手袋をプレゼントするが、戸坂は、会社を辞める事にしたと、急に告白する。

自分は移り気だし海の見える所に行きたくなったと言うのだった。

オリエは、その戸坂の言葉が嘘だと見抜くが、戸坂は列車に乗り、そのまま去って行ってしまう。

自宅に戻って来たオリエは、戸坂を探して一緒に暮らそうと荷造りの準備を始めたので、太郎は、本当に行くのか?と狼狽する。

ボンは、仕方ないだろ、好きなんだからと言うし、三郎は、原爆病が結婚に支障がない事を冷静に説明するが、太郎は戸坂が似島の原爆孤児院出身者である事や片足が不自由な事に不安を抱いており、オリエがそうした相手と一緒になろうとする事に納得していなかった。

オリエは、戸坂が好きだとはっきり口に出し、次郎やボンも、そんなオリエを応援して送り出す。

茅ヶ崎にいるらしいとの情報を元に、街を探し歩いていたオリエは、一軒の靴屋で働いていた戸坂を探し当てる。

ある日、淑子と外で会っていた太郎は、オリエの事は、もう少し様子を見る事にしたと報告していた。そして、自分たちの事は、今度の母親の七回忌の時にでもみんなに発表しようと思うのだが…と計画を打ち明けるが、淑子は、そのお話はお断りしようと思うと言い出す。

自分は夢が見れない女であり、男の事も打算でしか見られなくなっている。口の聞き方とか学歴とかやっぱり気になるし、あなたがいくら頑張っても、大学出と同じになるには、10年以上遠回りしなければいけない。自分は明るい台所とか、車などと云った普通の生活しか夢見ていないし、それが私の正体。あなたには、兄にはないものがあったと言い残し、その場を去って行く。

傷心のまま帰宅した太郎は、今日が受験の発表日だったボンが落ちたので、急遽、残念会の準備をしているのだと三郎らから聞かされ、さらに落ち込む。

ボンは、押し入れの中の布団の中で泣いていた。

夕食時、ボンは働くと言い出す。

毎日、模試の事ばかり気になる生活に耐えられないと言うのだ。

それを聞いた太郎は、大学へ行け!自分は中学2年までしか行ってないせいで、足挫いたって、3、4万しかもらえないような身分だと力説する。

しかし、ボンは、生きている間は、生きていて良かったと思うような納得する生き方をしたいと反論したので、太郎はむきになり、大学行け!嫌だったら格好だけでも良い。金ボタンの服着て制帽かぶり、何年かかっても良いから、俺が面倒見てやる。俺みたいな目に会わせたくないんだ!と言いながら、ボンにすがりつくが、逆に投げ飛ばされ、ケーキのクリームだらけの顔になるが、格好や見てくれも大切。俺たちは皆兄弟だ。こうやって仲良くやって行くうちに、ボンは大学へ行くようになるし、オリエは俺が選んだ男と結婚するような気がする…と言い出したので、それを聞いていたオリエは目をむく。

オリエは、自分は戸坂の所へ行くと言うし、今から二次校、三次校の予約して来いと言う太郎に、ボンも、自分は大学へなど行かないと反論する。

三郎も、兄弟だって他人だ。100万貯めるのに120年かかるって、前に大兄は言ってた。電話のある家作るのが夢だったとも。でもそんなの、一生金、金と言いながら死んで行った父親と同じなんだよと太郎に言い聞かす。

それを聞いていた太郎は、小さい頃、芋盗んで来いと言ったら出来ないと言い、俺と次郎が盗んで来た芋を、泣きながら食っていたじゃないかと三郎を責め、太郎、次郎、三郎は大げんかを始める。

それを見ていたオリエは、母さん、死ぬ前にもう少しお金が欲しいねって言ってたよね。でもあれは、大兄や父が言う金の事ではなかった…と、情けなさそうに呟く。

三郎も、バイトして1万あると金を取り出すと、こんなもので母さん喜ぶものかと言いながら破ると、ストーブの上に撒いて燃やし始める。

それを見た太郎は愕然とする。

三郎は、働いて死んで行った人たちへ焼香しているんだ。こんな紙切れより、強いんだ、人間は!と高らかに言い放つ。

次郎やボンに、捕まえられていた太郎は、その場に崩れ落ちる。

翌日、建設現場で働いていた太郎は元気がなかった。

そこにやって来た三郎は、封筒を太郎に投げて渡すと、9枚あるだろう?昨日焼いたのは、1枚だけ。後は領収書などただの紙切れだったんだと言う。

一緒にやって来たボンも、自分は夜間に行く事にし、春休みはここで働くから、今日は三郎と荷揚げに行くと言って立ち去って行く。

その二人の後ろ姿を見送る太郎は、「バカじゃねえや…あいつら…」と感激したように呟くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

かつて、フジテレビで人気を博したドラマの映画化。

さすがに今観ると隔世の感がある。

60年代頃でも、すでに珍しくなりつつあった「貧乏家族が毎日健気に生きる姿」を描いた「人生の応援歌」みたいなタイプのホームドラマである。

登場するのは、皆、貧しい人(特に労働者)たちばかり。

早くに両親を亡くしたため、親代わりとして、中学2年の時から働き始め、30近くなるまで結婚もせず、苦労に苦労を重ねて弟たちを育てて来た太郎。

その大兄には感謝しながらも、その異常とも言える金への執着と、自分中心的な考え方の押しつけには反発する弟や妹たち。

一人、大学へ通わせてもらっているため、理屈っぽくなった三郎は、絶えず、太郎と意見が合わず、喧嘩が絶えない毎日。

そんな男兄弟の中で、おさんどん扱いされている高校生オリエの女性としての苦悩。

本作では、そのオリエが、生き方に疑問を感じ、家を飛び出してしまった所から物語が展開し出す。

子供だった兄弟たちが、皆、一人一人の大人として苦悩し始めるのだ。

太郎から、自分と同じような境遇にはさせたくないと言う理由から、過剰な期待を背負わされ、気の進まない大学受験を強要されることに苦悩する、末っ子ボン。

太郎同様、早くからトラックの運転手をやって兄弟たちを育て、がさつな男である次郎は、やはり暗い過去を背負いながらも懸命に生きようとする町子と出会い恋をするが、相手にされない。

オリエは、広島で被爆した身体にハンデのある青年を好きになってしまう。

次々に、社会の底辺にいる様々な不遇な人々が登場して来る所が、今の感覚からすると、しょせんはエリート(作り手)が社会の矛盾に目を向けさせようと考えた「あざとい演出」のようにも感じられるが、当時は、この手の社会派ドラマみたいなものを、まだ、テレビの視聴者たちが素直に受入れられていた時代だったのだろう。

とにかく、全体的に「真摯」と云うか、真面目そのものの作り方なのだ。

ひょっとすると、当時は、三郎の考え方が支持されたのかも知れないが、今観ると、三郎の考え方は、空疎な屁理屈にしか聞こえない。

むしろ、古めかしい太郎の考え方の方に共感を覚えるのはなぜなのだろう?

太郎の一言一句に涙が出て来るのはなぜだろう?

もちろん、太郎の考え方は、古い浪花節的な部分があるから、情感に響くのだと言う事は分かるが、三郎の考え方が理想=観念であるのに対し、太郎の考え方は(正しい、間違っているの判断はともかく)生の感情に近いからだろう。

頭で考えた理想や理屈は、この半世紀でリアリティを失ったが、生の感情は、矛盾を含みながらも、今でも継続しているからこそ、今観ても、直接心に響く説得力があるのだと思う。

逆に言えば、三郎の理屈っぽさは、他の兄弟たちの生な感覚を強調するために設定されているのかも知れないとさえ思える。

そう考えると、このドラマの設定は、実に巧妙である。

古い作品だけに、登場する役者たちの若さには驚かされる。

特に、まだあどけなさが残る石立鉄男や、江守徹らの映像は貴重。

ちらり登場する栗原小巻も、清楚で美しい。