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若者の旗

1970年、俳優座映画放送、山内久脚本、森川時久監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

佐藤家の三男、三郎(山本圭)は、夜間中学の教師になっていた。

今日は、学校に来なくなった中山司郎(上田孝蔵)と母親(杉山とく子)を呼び、相談に乗っていたが、司郎からは、昼間、出版社勤めをし、夜はこんな所で働いているような三郎は敗北者だと軽蔑される。

その頃、昼間は工場勤めしている努(謙昭則)が他のクラスメイトたちに、持って来たバナナを配っていた。

そこへ、司郎を連れて来た三郎は、給食を一緒に食べろと勧めるが、司郎は、こんなに夜間中学で勉強しなければ行けない人間がいる事自体がおかしいし、世の中全体が変化しなくてはダメだと理屈を言う。

そこへ、努の会社の社長がやって来て、会社から盗んだ金を出せと言う。

金額は520円だと言う。

三郎は、社長が取り返そうとした金を返してくれ。あんたは努から、それ以上搾取しているはずだと責める。

しかし、社長は、自分はこいつの死んだ父親を20年も面倒を見て来たんだと開き直るので、12歳の少年を夜の7時まで働かせるなんておかしいと三郎は追求する。

社長は、うちは、10人の職工を養って行かなくては行けないんだと捨て台詞をはき帰って行く。

三郎は努に、会社を辞めても良いのだと教えるが、努は、あそこで働いて少しずつ金を返すと答える。

三郎は、急遽、授業をホームルームに切り替え、「今、一番欲しいもの」と言うテーマを黒板に書く。

タイトル

佐藤家の末っ子ボンこと末吉( 松山政路)は、最近、車のセールスに忙殺され、肝臓をおかしくしていたので、朝から薬を飲んでいる。

しかし、その甲斐あって、販売優勝旗なるペナントを会社からもらったらしく、それを誇らし気に壁に飾っている。

会社でボンは、先輩セールスマンの赤沢(森幹太)から、自分のテリトリーに勝手に入って来て、何の挨拶もないのはどう言うことだと文句を言われる。

ボンは、連絡はしたが、奥様しか出なかったので…と言い訳し、側で話を聞いていた女子社員の瀬黒みわ(井口恭子)も、ボンの言葉に嘘はないと証言してくれる。

その日、ボンら、セールスマン全員に、ポケットベルが支給される。

そのポケットベルは、叩くとベルが鳴る仕掛けが付いており、相手が長話を始めた時などは、それを叩いてポケベルがかかって来た振りを装い、退散することも出来ると説明され、所長賞を取ろう!と発破をかけられる。

佐藤家の次男、次郎(橋本功)は、トラックの運転手をやっていたが、その日、荷下ろしの手伝いをやっている時、空の荷箱に気づかず、力んでしまったために、ぎっくり腰になってしまう。

ボンは、兄の三郎が昼間勤めている「あけぼの出版」に営業にやって来ていた。

そこに、次郎と結婚した町子(夏圭子)から電話が入り、次郎が入院したことを知らせて来たので、三郎はボンに見舞いに行くよう頼むが、ボンは、ポケットベルを叩いてベルを鳴らし、その場を逃げ出すのだった。

町子は、次郎は、かつて、労務課長などを殴ったりした経験があるので、会社が面倒を見ないのだと同僚から聞かされる。

ベッドに寝ていた次郎は、もうすぐ子供が生まれるのに、寝てなどいられない。もぐさを買って来い。灸を据えりゃ、こんなものすぐ直ると町子に無茶を言う。

ボンは、同じ22歳同士である瀬黒みわとデートをしていた。

ボンは、みわの自分への気持を確認しようとするが、みわは、人の三倍稼いで、三倍楽しむと言うようなボンの考え方には付いて行けないとやんわり拒否し、無理矢理キスをして来ようとするボンを振り払って逃げ帰るのだった。

帰宅したボンは、入院した次郎は、会社から恩給3万くらいしかもらえないらしいと、佐藤家の紅一点オリエ(佐藤オリエ)から聞き、長男の大兄(おおにい)こと太郎(田中邦衛)から、一人毎月2500円ずつ出し合おうと提案されると、自分は車を買い、秋には、駐車場付きのアパートを借りるつもりだから協力出来ないと断る。

すると、その言葉に切れた太郎から、今までお前に使って来た金を返せと迫られる。

ボンは、それに対し、明細書を出せ。そもそも、次郎は、組合とか他人の葬式を勝手に出したり、自分勝手なことをして来たのだから、会社からの処遇が悪くなるのは仕方ない。自分は来月10台車を売れば、サブキャップになれるんだと反論する。

翌日は、知り合いに紹介してもらった新築家庭に車のセールスに向かったボンだったが、あっさり断られたので、近くの公園のベンチで書類を整理していると、近くのベンチに座っていた娘が微笑んで来たので、苛つき、何だよ!と語気も荒く言葉をかけると、娘は急に泣き出してしまう。

その時、ポケベルが鳴ったので、近くの公衆電話から、予定していた仕事がキャンセルになったことを報告し、上司から嫌みを言われてベンチに戻って来たボンだったが、気がつくと、先ほどの娘はいなくなっており、ベンチにはバッグだけが残されていた。

不思議に思い、近くを探していると、土手の上の線路に近づこうとしていた娘を発見。

ボンは、電車に飛び込もうとする娘を抱きとめて助ける。

その娘の姉が働いていると言うデパートの食堂に娘を連れて行き、自殺しかけたので引き取ってくれと、ウエイトレスをしていた姉を呼び出したボンだったが、姉は、死にたけりゃ、死ね!と、きつく妹を叱るだけだった。

娘は斉藤チエ(山口果林)と言ったが、その後、ボンと一緒に工場地帯の草むらに来ると、この近くに保税倉庫があるので観に行こうなどとのんきなことを言い出す。

セールスに飽きていたボンは、つい、そんなチエと一緒に遊び始めるが、チエの姉は、結婚がしたくて、冷蔵庫とか家庭用品を買い貯めているけど、まだ恋人すらいないと聞かされる。

ボンは、チエの妙に甘ったれた部分に馴染めず、何かあったら連絡しろと名刺を渡すと、まだ鳩の方が優しいよ。怒鳴らないからとチエから言われてしまう。

のびのびしたいと言えば贅沢だと言われ、お金を使えばだらしないと言われる。でも弱虫だって生きたいもん…、あんた、車買わないと来ないものねと言い捨てて、チエは逃げ去って行く。

それを追って行ったボンは、草むらの中でうずくまっているチエを発見、足にすがりついて来られると、つい情が湧いてしまうのだった。

病院を勝手に抜け出して会社にやって来た次郎は、組合の対応に文句を言いながら、腰にコルセットをはめ、まだ身体が自由に動かないにもかかわらず、同僚たちが止めるのも聞かず仕事着に着替えると、無理して現場に復帰する。

ある日、オリエは、戸坂が脳貧血で倒れたと言う噂を聞き、下宿に見舞いに行く。

すると、見知らぬ女性が身の回りの世話をしており、戸坂は、その女性のことを、西田和子(益田ひろ子)、俺の恋人といけしゃあしゃあとオリエに紹介する。

戸坂は、その後、太郎たちがいる佐藤家にやって来て事情を説明する。

和子も広島で生まれ、自分と似たような境遇の娘なのだと言うのを聞いていた太郎は、弱い者同士がくっつけば、許されるのか?と憤る。秋口には、オリエと結婚すると聞いていたからだった。

広島が悲惨だったと言うけれど、東京だって酷くやられたし、大勢の人がなくなった。

オリエは、12になる前から、母親代わりに自分たちの面倒見てくれている…と、太郎はオリエをかばってくれるが、オリエは、自分はこれまで、運動とか学習の話しか出来なかったと反省してみせ、これからはもっと、のびのびとした女になって行くけどね…と、決意を述べるが、戸坂は、自分は、男と女として、和子さんを愛していますと宣言する。

太郎は、うちの末のも、同じことをやっていると嘆く。

戸坂は、そんな太郎に対し、自分を殴ってくれ。揺れているのだと弱音をみせる。

そんな戸坂に、オリエは、平和運動やって行こうね。負けたりくじけたりせず、ずっとやっていこうね。それだけ言えば、私は良いと納得する。

戸坂が帰った直後、ボンが、瀬黒みわを連れて帰宅して来る。

ボンは、太郎のことを、ガリガリ稼ぐし、欲張りだし…、自分に似ているとみわに紹介するが、そうした会話をじっと聞いていた太郎は、俺がそんな風に育てたか?女を泣かせって言ったか?と言いながら、チエから届いた手紙を投げ渡し、みわに読んでみろと睨みつける。

鳩しか友達がいなかったって書いてある…と睨みつける太郎の態度に呆れたみわは、あんたをダメにしているのは、このお兄さんねと捨て台詞をはいて帰ってしまう。

一連の顛末を横で見ていた三郎は、スーパーマーケットの娘とでもボンと結婚させ、アパート暮らしでもやりたいのかと太郎を責める。

みわを追って行き、諦めて戻って来たボンは、自分が貸した20万5000円、返してくれ、自分の貯金は18万、昨日降ろして来たからと、冷めた口調で太郎に迫る。

二人の陰悪なムードを感じたオリエと三郎は、ちゃぶ台の上の割れ物類をさっさと片付けて行く。

ボンはさらに、自分は、140万を1年で稼ぐと見栄を切ったので、太郎は懐から札束を取り出すと投げつける。

三郎はボンに、毎日、人に勝つだけでやっていったら、その内、戦争しても良いと言う考え方になるぞと注意する。

太郎も、お前が売ったポンコツ車で、両親が轢かれ、子供たちが泣くことになったらどうするとボンに詰め寄り、とうとう、ボンと太郎はつかみ合いの喧嘩になる。

その内、太郎が振り回した座布団が電球に当り停電してしまい、太郎は、民主主義と言うのはこんなものかと嘆く。

すぐに、オリエが、電球を取り替えたので、又部屋の中は明るくなる。

ボンは、今の大兄は戦う気がないとバカにする。

そこに、しゃっちょこばった動きの次郎が訪ねて来るが、太郎がボンを殴ると、ボンも殴り返したので、太郎は愕然とする。

ある日、出版の取材のため、公害の現場を見て回る三郎。

編集会議で公害を取り上げることを提案し、今や公害妨害産業まで出て来ている現状を書いたらどうかと力説する三郎だったが、ベストセラーを4冊出したやり手先輩の若田(中谷一郎)が、そんな企画では売れんだろうと横やりを入れて来たので、その場にいた編集長も社長も及び腰になってしまい、その企画は流れてしまう。

その夜、夜間中学に行った三郎は、受験塾に行くことにしたと言う中山司郎から、何に敗北したんですかと見透かされてしまう。

1000の失敗から1つの成功が生まれる。その一つから、デモクラシーが生まれた…と、かつて三郎が教えた言葉を口に出した司郎は、努に渡してくれと、使い古しの野球道具を手渡す。

10月19日のその日の授業は、戦後の日本の民主主義をテーマにすることにする。

一方、ボンは、米軍基地の側で、アメリカ人カップル相手に車を売りつけていた。

オリエは、服地屋で働いていたチエに会いに来る。

チエは、一度家に来てみない?とオリエから誘われるが、行かない方が良いみたい。最近夜眠れるし、前みたいに、泣きたくなったりしない。しっかりやって行く、これから…と力強く答えるのだった。

オリエが帰宅すると、次郎とボンが喧嘩をしていた。

次郎は、手前からバカ呼ばわりされるような生き方はしていないと力んでいる。

ボンは、赤ん坊が生まれるとアパートを追い出されることを知らなかった次郎のことを嘲る。

そんなボンに、オリエは、一度、チエに会いなと声をかける。

翌日、ボンの会社では、赤沢が名札を外し、皆に挨拶をして、ボンにも、一度酒でも飲みたかったよと声をかけ、会社を後にする。

他社の車をセールスしていることがバレ、解雇されたのだった。同じく、池田と青木と言う二人は減俸になった

その夜、スナックでみわと飲んでいたボンは、自分は明日にでも家を出ると告げるが、そんなボンに、同じ店内にいた同僚がちょっと顔を貸せと外に連れ出す。

解雇された赤沢らのことを密告したのはボンだったのだ。

数人の社員たちから、犬め!と罵倒され、ぼこぼこにされるボン。

傷だらけになったボンを噴水の所で手当をしてやるみわは、自分はこれまで、あなたに愛されたって言う気がしない。あなたの包まれているって言う気がしなかったと打ち明ける。

一番肝心な所が機械なのねと言うみわに、俺のこと嫌いかとボンが聞くと、嫌いとみわは即答し、あなたは貧しいわ、決して人を対等に愛そうとしないもの…と言い捨て、去って行く。

帰宅したボンに、太郎がどうするつもりだと聞くと、ボンは香港に行く。モーガンと言う外国人の客が誘ってくれるし、向こうならもっとでかい商売のチャンスがあると答える。

そんなボンに対し、三郎は、お前、全部ごまかして生きているだろう?と問いかける。

これから、年200万稼ぐと息巻くボンに、お前、何の為に生きている?成績や記録のためか?と三郎が聞くと、今は技術と管理の時代なんだと分かったように言う。

ただ勝てば良いと言う理屈になってしまうと、技術主義なんて言ったって、出口はないぞと三郎は説得する。

しかし、ボンは我を張り、欲しいものは欲しい!何のために生きているんだ?金とセックスだと言うので、瀬黒みわさんにもそんなものしか感じなかったのか?と三郎は呆れる。

ボンは、物も金も欲しくないのか?と言うボンに、三郎は、お前は敵だ!大兄にもある。生活環境の改善なんて何年もかかるんだぞと説得するが、ボンは、俺は金とセックスで行く!と考えを曲げない。

そこに、次郎が赤ん坊が生まれた、太郎からな前を半分もらって「桃太郎」と前々から決めていた男の子が、3700gで無事生まれたと報告に来て、一升瓶を持ち出し、みんなで飲もうと言い出す。

三郎と太郎から、酒は止めておけと注意された次郎だが、俺の収まらない気持も、ボンの金が欲しいと言う気持も、廻りを洗ってしまえばケツは同じよと言う。

太郎はボンに、手前は一人じゃないぞ。俺たちは仲間だからなと声をかけるが、ボンは、したいことをする、自由だから!と最後まで譲らない。

そんなボンを、きりっと、面あげてやってけよ!と励ます。

その後、河に、セールスの優勝旗を捨ててしゃがみ込んでいるボンがいた。

ボンは、町子が入院している産婦人科にやって来ると、町子の隣りで、まだ目も開かない次郎の赤ん坊を見つめる。

街に出たボンは、署名活動をしている女性から署名を頼まれ、思わず、女性の顔を見つめるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「若者たち」シリーズの3作目で、シリーズ最終作。

これまで、あまり描かれることが少なかった、末っ子ボンこと末吉を中心に物語が展開して行く。

ボンは、大兄(おおにい)こと、長男太郎の影響を一番受け継いでいる弟で、金と欲望に執着する若者になっていた。

そのためには、先輩を売ったりすることも躊躇わない。

そんなボンは、チエと言う、ひ弱な娘に出会うが、それとは別な恋人とも付き合っている。

次男の次郎と三男三郎は、共に、それなりの安定した生活を始めている。

オリエだけが、何だか、釈然としない不運に見舞われている。

やはり、本作で一番意味が分からないのが、石立鉄男が演じている被爆青年戸坂であろう。

オリエは、途中、離れていた時期があったにしろ、前作までは、戸坂と上手く行っているように見えただけに、この唐突な展開には戸惑わされる。

前作までは、ストレートヘアで、おどおどした気の弱い青年イメージだけだった戸坂だけに、急に、本作でパーマヘアになり(まだ、アフロっぽい所までは行かないが)、強引に佐藤家から離れてしまうような行動に出るのが不自然に思えてならない。

気が弱い戸坂が、たくましさを持ったオリエの生き方には馴染めず、自ら、分相応と感じる生き方に身を引いたと言うことなのだろうか?

他の兄弟たちは、ラストには、それなりの光明が見える描き方になっているだけに、オリエと戸坂の二人の別れには、何だか引っかかる物が最後まで残る。

三部作の最終作と考えて観てしまうと、少し、物足りなさを感じないでもないが、この作品だけを考えると、ボンの成長物語と言う分かり易い縦糸がしっかり見えるだけに、一番すっきりとまとまっているようにも思える。