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小早川家の秋

1961年、宝塚映画、野田高梧脚本、小津安二郎脚本+監督映画。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

大阪のとあるバーで、磯村英一郎(森繁久彌)がホステス(環三千世)と雑談をしていると、そこに北川弥之助(加東大介)がやって来て合流する。

北川は、磯村にここで、再婚相手として義兄、小早川万兵衛の長男の嫁だった秋子(原節子)と見合いさせようとしていたのであった。

もちろん、秋子には見合いと言う事は言ってない。

秋子は亭主に先立たれ、子供がいると北川が説明すると、磯村の方もうちにもいるので、かえってその方が良いかも知れないと気にしていない様子。

磯村は、君と待っているのも変だから、自分はちょっと席を外していて、偶然君に会った事にしよう。気に入ったら、鼻を触ってサインをすると言い出し、席を立つ。

そこに、秋子がやって来たので、北川は、そろそろお母さんの命日だからなどと、適当に呼び出した訳を説明するが、そこに磯村が、偶然を装って近づいて来て、同じテーブルに付く。

北川から紹介された磯村は、堺川で鉄工所をやっていると名刺を秋子に手渡すと、御堂筋の画廊の手伝いをやっていると言う秋子に、自分は丑年生まれで、牛に関するものを集めているので、何か、牛の絵で良いものがあったら見つけて欲しいと依頼する。

秋子は承知し、電話をかけるのでと言い、席を離れるが、磯村は鼻を触って、北川にOKのサインを出す。

予想以上の秋子の美貌に、大満足の様子で、ジンフィズ3つ注文する。

その夜、アパートに帰って来た秋子は、留守番を頼んだ義理の妹の紀子(司葉子)が来ており、息子の実の勉強を見てくれていたので安心する。

まだ結婚前の紀子は、今、銀行頭取の息子で、ビール会社に勤めている相手との見合いを勧められているが、まだ、結婚なんて考えてないと打ち明け、帰って行く。

小早川家の造り酒屋は、今、長女文子(新珠三千代)の夫、久夫(小林桂樹)が切り回していたが、経営は厳しく、大手との合併話が持ち上がっていた。

番頭の山口信吉(山茶花究)や丸山六太郎(藤木悠)と仕事場にいた久夫に、文子から電話がかかって来て、今、自宅に北川が来ていると言うので、近くの母屋に戻る事にする。

北川は、義兄の小早川万兵衛(中村鴈治郎)に、秋子にこっそり見合いをさせたが、秋子の方はまだ事情を知らないと話している最中だった。

そこに久夫が戻って来たので、紀子の見合いの方はどうなっていると北川が聞くと、久夫は、2号になると言う話だと説明する。

その紀子、会社で同僚の中西多佳子(白川由美)から、寺本さんが、2、3日中に札幌に発つ事になったと教えられる。

大学の助手だった寺本忠(宝田明)が助教授として札幌へ向かう送迎会が、同僚たちだけで催され、そこに出席した紀子は、会の後、寺本と一緒に駅のベンチで電車を待っていた。

寺本は、4、5年の辛抱やと言われているが、今日は愉快だった。行きとうないな…などと屈託なさげに言う。

ある日、造り酒屋の事務所に久子はどこかと探しに来た万兵衛は、番頭から出かけていると聞くと、わしも行くと言い、出かけて行く。

六太郎が、最近、大旦那、良く出かけまんなと呟くと、応接椅子に招いた番頭の信吉が、後を付けてどこに行くのか確かめてくれと六太郎に頼む。

万兵衛の後を追って行った六太郎だったが、途中で、甘味屋にいた万兵衛から声をかけられ、若旦那に頼まれたんだろう?と聞かれる。

付けていたのがバレたと気づいた六太郎だったが、掛け取りはいつでも行きますとごまかす。

その後、万兵衛は、素人旅館「佐々木」と言う店に入ると、女将のつね(浪花千栄子)と会う。

二人は、19年前付き合っていた仲だったが、最近、競輪に凝っていた万兵衛が、競輪の返りに電車に乗った時、偶然、再開を果たしたのだった。

昔、宇治のお茶屋で遊んだ事など思い出話に花を咲かせていると、つねも、うちが初めて女になった所で、百合も21になりましたと懐かしがる。

そこに、その百合子(団令子)が忘れ物を取りに帰って来て、万兵衛の事をお父ちゃんと呼び、いつ、ミンクのショール買ってくれるのとねだって来る。

外では、ジョンと言う神戸の会社に勤めているアメリカ人が、百合子をせかせていた。

再び出かけた百合子は、今、タイプの仕事をしているのだとつねは自慢し、土産にもらったと言う鮫の子供(キャビア)とやら言うものを、酒のアテとして万兵衛に勧めるのだった。

事務所に戻って来た六太郎は、番頭の信吉に、大旦那にまかれたように見せかけて、実はちゃんと、京都の「佐々木」と言う店に入った事を見届けたと報告していた。

大旦那の女関係には熟知している信吉は、話を聞いて行くうちに、それは焼け木杭に火がついたなと察するのだった。

その話を信吉から聞いた久夫は、母屋に帰って来て、すぐに文子に知らせる。

久夫は、これやったら、まだ競輪に凝ってた方が良かったと愚痴るが、文子の怒りはそれ以上で、きちんと言わなあかんと激怒する。

久夫は、あまりきつい事言わん方が良い。あの性分は直せんでとなだめようとするが、文子は納得しようとはしなかった。

万兵衛はすでに帰宅しており、風呂に入っているが、上機嫌で風呂から上がって来て、今度の母さんの命日には、京都の嵐山でめしでも食べようと言い出す。

しかし、それを聞いた文子は、お父ちゃん、京都好きですな?昔、母ちゃん、泣かしたような事を、又やるのんか?と嫌味を返す。

娘からそんな事を言われた万兵衛もむっとし、人の後、六太郎に付けさすような事して、相手の方は男で、店の事を頼んでいるのだと言い訳するので、文子は、そんなに店の事を心配してくれているんやったら、もう一回、見せに行ってくれと言う。

万兵衛は、もう風呂に入ったから良いと抵抗するが、あまりに、文子の追求がしつこいので、腹を立て、疑うてるんやったら、行ってくるわと言い、もう一度着替えると、さぁ、付けて来いと怒鳴って家を出て行く。

久夫は心配するが、がま口持ってないから、その辺ぶらぶらして帰って来るだけや、年寄りにはええ運動になると文子は平然としている。

その頃、「佐々木」では、拭き掃除をしていたつねに、百合子が、あの人、本当にお父ちゃんか?昔、もう一人、お父ちゃんて呼んでいた人がいた記憶があるが、どっちがほんまのお父ちゃんや?本当のお父ちゃん金あるんやろか?ミンクのストール遅いわ〜などと聞いていた。

つねは、頼みよう一つやと、しらっと答える。

そこへ、万兵衛が、又やって来て、がま口持ってなかったから、そこのタバコ屋で金借りて来たなどと言いながら、拭き掃除を手伝い始める。

秋子が手伝っている「千草画廊」にやって来た北川は、文子ちゃんから聞いてくれたか?と、見合いの事を確認するが、秋子は困ったように、考えさせてくれと返事を保留する。

そんな秋子に、北川は、もう一度どうです?と、磯村との再開を打診し、お母さんの命日、嵐山だそうですねと聞いて来る。

嵐山

料亭の二階から、秋子と紀子が、外の景色を眺めていた。

北川や久夫とくつろいでいた万兵衛は、秋子の夫であった、長男たかしが死んで、もう6年経つと呟いていた。

相手の磯村にも、2人子供がいると教える北川。

万兵衛が文子に、紀子はどうなっているのかと聞くと、文子は、お父ちゃん、京都では他に御用があるのと違いますか?と、又嫌味で返すと、窓から、下の河原を散策している秋子と紀子の姿を見つける。

紀子は、中之島でのデートの事を打ち明けていたが、見合いの事を聞かれた秋子が、私なんか、もうおばあちゃんと返事をすると、はい、100円と、紀子が手を差し出す。

以前、自分がばあちゃんと口にしたら、100円渡すと言う約束をしていた事を言っているのだった。

秋子は苦笑しながら100円渡す。

夜、自宅に帰って来た万兵衛は上機嫌で、紀子に付き添われて寝室に向かう。

秋子は、実を連れて帰ろうとしていたが、その時、寝室から慌てた様子の紀子が姿を現し、お父ちゃんが倒れたと言いに来る。

皆が寝室に駆けつけると、万兵衛は、布団の上に座り、肩で荒い息をしていた。

急いで、紀子が、かかりつけの平山医院に電話をして往診に来てもらう事にする。

やって来た医者の平山(内田朝雄)は、発作が又起こらねば良いがと心配する。

紀子が台所で氷を割っていると、北川夫婦が駆けつけて来たので、父は今眠っているが、心筋梗塞だと紀子は教え、親類縁者には電報を打ったと言う。

翌朝、紀子は泣いていた。

事務所では、信吉と六太郎が、あれこれややこしい小早川家の親類縁者の話をしていた。

名古屋から出て来た万兵衛の妹、加藤しげ(杉村春子)、弟(遠藤辰雄)、北川夫婦などがそろってスイカを食べていたが、しげや弟は、忙しい所、仕事をやりかけで出た来たので、容態が安定しているのなら、一旦帰ろうかなどと言い出したので、文子は、いつどうなるか判らないので、いて欲しいと頼む。

その時、万兵衛が「良く寝た」と言いながらふらりと起きて来て、端唄を歌いながら自力でトイレに行く姿を全員が目撃する。

紀子と文子は、その様子を見ると安心して互いに泣き出す。

万兵衛は、久夫の息子の正夫(万兵衛)とキャッチボールをするくらいにまで元気になる。

文子は、実が六甲にハイキングに行ったと言う秋子に、日曜日でも仕事に飛び回っている夫、久夫の事を教えながら、酒屋ももう、一人では無理らしいなどと話していた。

万兵衛が、休憩に戻って来たので、文子は、これまで色々意地の悪い事を言った事を謝る。

万兵衛の方も、気にしていないと笑い、自分にも色々気にかかっている事があるんやと言う。

秋子が、二階の紀子の部屋に行くと、紀子は誰かに手紙を書いていたので、又、好きな男の話になる。

紀子は、伊吹山で会った青年が、今札幌にいるのだと打ち明けたので、秋子は、誰だって迷うわよねと答える。

紀子の方も、秋子がこのまま独身を貫くのか?と聞き返す。

正夫がかくれんぼをせがむので、嫌々、鬼になった万兵衛は、掃除をする文子の目を盗みながら、着物を着替えると、「まぁだかい?」と何度も繰り返しながら、そのまま家を出て行く。

「もう良いよ」と何度も返事をしても、万兵衛が探しに来ない事に不思議に思った正夫が、二階に万兵衛を探しに来るが、窓から、通りを曲がって行く万兵衛の姿を目撃したので、2丁拳銃で撃つまねをする。

西大寺通の競輪場で、万兵衛はつねと一緒に競輪を見ていた。

全部すってしまったので、万兵衛は大阪に行こうと言い出すが、つねは自分の所でゆっくりしましょうと勧める。

バーでは、なかなかやって来ない秋子に苛立ち、磯村が北川に文句を言っていた。

北川は、なるべく行くて言うてましたんやけど…と、曖昧な返事をしたので、磯村は、そんなら何で紹介したんやと怒り出す。

もう約束の時間を2時間も過ぎていたのだった。

小早川家では、久夫と文子が、又、勝手に外出した万兵衛の事で頭を抱えていたが、その時電話が鳴り、文子が出てみると、つねからの連絡で、万兵衛が又具合が悪くなったと言う知らせだった。

すぐに、久夫と紀子が出かける事にする。

「佐々木」では、百合子が、ミンクのショール損したとぼやいていた。

ジョージに買うてもろうたらええとつねが言うと、あの人はそんなものは買ってくれないと言う。

そこに、外国人がやって来たので、ジョージが来たでとつねが教えると、あれは、ハリーやと言い、百合子は立ち上がり、一旦出かけようとするが、立ち止まり、奥の間の方に手を合わせて行く。

一人になったつねは、奥の間に寝かせていた万兵衛の遺体を団扇で扇ぎながら、こんな事になるんやったら、会わん方が良かった。ついてまへんわとぼやく。

そこに、久夫と紀子がやって来たので、奥の間に通し、万兵衛の遺体を見せると、8時23分亡くなったと教える。

何か遺言のような事は言いましたかと問う久夫に、何も…、ただ、もうしまいか?と二度ほど言っただけでしたとつねは教える。

紀子は思わず泣き出す。

火葬場の近くの川で、農機具を洗っていた農民の妻(望月優子)が、今日はやけにからすが多いので、誰か死んだんではないだろうかと、隣りで洗い物をしていた夫(笠智衆)に話しかける。

夫は、煙突から煙が出ていないから、そんな事はないだろうと答える。

火葬場には、一族が集まっていた。

北川は久夫に、やっぱり合併か?と聞いていた。

久夫は、大きな会社の中に入り、自分はサラリーマンになろうと思っていると話す。

文子は、頼りないと思うていたけど、やっぱり、小早川家が持っていたんは、お父ちゃんのお陰やったんやと呟く。

外では、喪服姿の紀子と秋子が話をしていた。

紀子は、みんなが勧めてくれる所へ行くのも良いけど、自分の気持に正直やなかったら後悔するような気がする。自分はやっぱり札幌に行こうと思うと打ち明けると、秋子も賛成し、若いんだし、出来るだけ幸せに暮らす事よと助言する。

信吉と六太郎が葬儀の手順を話し合っている所に、しげらがやって来て、何の遺言もなしか?と聞いて来る。

死に際の万兵衛の言葉を聞いたしげは、さんざん好き勝手な事をやって来て、これでしまいかもないもんだと呆れる。

北川は、人間最後まで悟れんもんだと言い、身上潰し、今時、幸せな人やった。でも死んでしもうたら、何もかもしまいやわ…と、しげは泣き出し、つられるように文子も泣き出す。

その時、煙突から煙が上ったのに、北川の妻照子(東郷晴子)が気付き、その場にいた全員も、縁側に出て、煙突の方を見上げる。

川で洗い物をしていた農民夫婦も気づき、やはり、誰かがなくなったらしい。年寄りなら仕方ないけど、若い人やったら可哀想やなと妻が呟く。

夫の方も、死ぬ人もいれば、後から後から生まれてくるわと答え、それを聞いた妻は、そうやな、ようでけとるわと感心する。

火葬場から、親類縁者の一行は橋を渡って帰っていた。

少し遅れて歩いていた秋子は、あなた行っちゃうと、寂しくなるわ。私も札幌にきっと行くと約束する。

紀子が、お姉さんはどうするの?この先?と聞くと、このままが一番良いの…と秋子は答え、先の一行に追いつこうと足を速める。

河原には、たくさんのからすが群れていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

昭和36年芸術祭参加作品であると同時に、宝塚映画創立十周年記念作品でもある。

自由奔放に生きた造り酒屋の大旦那の晩年を中心に、それを反面教師とし、しっかり育った娘たちの生き方の模索を描いた人間ドラマ。

ひょうひょうとした遊び人を演ずる中村鴈治郎の存在感が、何より印象に残る。

対する娘たちは、特に自己主張が強い訳ではなく、平凡ながらも堅実に生きている女性たちなので、絵的に強い印象が残ると言う訳ではないが、自然な感じで、素直に共感出来る人物になっている。

対照的に、つねやその娘の百合子は、ちゃっかり図太い感じに描かれており、こちらはこちらでリアルさが感じられる女たちである。

むしろ、宝田明が演じている寺本などのキャラクターの方が、どこか女性の憧れの目線で描かれていると言うか、やや現実味のない夢見がちな青年風に見える所が興味深い。

小早川万兵衛にしても、久夫にしても、どこか頼りな気に描かれているのが、本作の面白みだと思う。

いわゆる、男らしい男と言うのが、この作品には一人も登場しない。

男なんて、しょせんはこの程度の動物なのだから、女性は男に頼ったり、幻想を抱いたりせず、しっかり自分の足で人生を歩いて行かなければいけませんよと言っているのかも知れない。