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かあちゃん

2001年、映像京都+日活+イマジカ+シナノ企画、山本周五郎原作、和田夏十+竹山洋脚本、市川崑監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

ボロ家の薄汚い障子越しに「ごめん下さい」と呼びかける男の声。

「お留守ですか?それじゃあ、上がらせて頂きます」と言いながら、部屋に上がり込んで来たのは若い男。

天保末期…

水野忠邦の改革は功なく、過酷な課税の増徴、飢饉による米価騰貴、浮浪者は増加、江戸下層階級の窮乏はさらに激化していた…

それにしても汚い部屋で、中には家財道具と呼べるようなものは何一つ置いてなかった。

盗人勇吉(原田龍二)は、まるで空き家にでも入ったような空しさに陥りかけていたが、そこに、鼻歌が近づいて来たので、家人が戻って来たと察し、隠れる場所を探すが、何もないので、仕方なく、床の板をはがして、何とか床下に潜り込んだ所に入って来たのが、この家の主、大工の熊五郎(石倉三郎)だった。

熊五郎は、酔っていたが、汚いホコリまみれの板の間にくっきり残った足跡を見つける事は簡単だった。

泥棒が入ったらしいが、家に取るものなど何もない。ひょっとして、ネズミ小僧が小判の一枚でも置いて行ってくれないかと思ったが、それもない。

間抜けな盗人め…、だが、これを理由に大家に店賃止してもらおうとぼやいている声を、勇吉は、床下で無理な体勢にかがみ込んで聞いていた。

そこに、当の長屋の大家(小沢昭一)がやって来たので、泥棒が入ってみんな盗られたので、店賃を待ってくれと熊五郎は頼む。

すると、大家は、盗られたものを品書きして、御上に届けるんだ。そうすれば、盗られたものが見つかるかも知れないと言い出す。

最初は、御上は好みじゃねえんで…などと困惑していた熊五郎だったが、見つかるかも知れないと聞くと、泥棒ってものは、どんなものを盗って行くんでしょう?と逆に大家に聞く始末。

金や衣装、家財道具、鍋釜の類い…などと大家が一般論を並べると、大家さんが言ったの全部盗まれたと熊五郎は言い、一品でも戻ってくりゃあめっけ物…などと呟くので、床下のいた勇吉はあきれかえって、外に這い出ると逃げようとするが、向こうから役人が近づいて来たので、頬被りを外し、物陰に隠れて呟く。

それにしても、太い奴もいるもんだ。ひでえ世の中になったもんだ…と。

タイトル

酒屋に集まった四人の男、商人風の男(江戸家小猫)、左官風の男(コロッケ)、 印半纏の男(中村梅雀)、そして禿げ老人(春風亭柳昇)たちが、近所に住むおかつと言う女のケチぶりを肴に酒を飲んでいた。

三浦屋と言う刺身屋の娘が、淀屋に見初められて5人の子供を持ったのがおかつだが、このおかつと言うにが、いつも塩を嘗めて暮らしているのではないかと思うほどの吝嗇家。

そんな四人の男が話に花を咲かせていた酒屋に入って来たのが、最初の盗みでドジを踏んだ勇吉だった。

おかつは毎月、晦日になると金勘定しており、それは、2年越しで欠かした事がないと言う男たちの話を耳に挟んだ勇吉は緊張する。

今日が、その晦日だったからだ。

そのおかつの家では、家族みんなで働いているらしい。

印半纏の男が、半年前の太平が足をくじいた時の事を口にする。

長屋で金を出し合おうと言う話になり、自分がおかつの所に相談に行くと、20文しか出さない。

いくら何でも、これじゃあ少なすぎるんじゃないかと文句を言ったら、それで不足なら止して下さい。うちが家族みんなで働いているのは訳あっての事。道楽で金を貯めているのではないとおかつが言うので、俺は頭に来て何ももらわず帰ろうとすると、長屋中で決めた事を、お前さんの一存で断れるのかい?と逆に嫌みを言われたと言うのだ。

勇吉は、酒代16文を置いて店を出ようとするが、一文を地面に落としたので、必死に探して見つける。

その頃、おかつ(岸惠子)は、市太(うじきつよし)、 おさん(勝野雅奈恵)、 三之助 (山崎裕太)、次郎(飯泉征貴)、 七之助(紺野紘矢)ら5人の子供がこれまでに稼いだ金を勘定していた。

全部合わせると、5両2分50文…

どうやら、間に合ったね…とおかつが喜び、それを横で見ていた子供たちも安心する。

おさんは、足掛け3年だったけど、やればやれるもんだねと感心する。

まとめた金を三つの袋に包み、小箱に入れて、棚に仕舞ったおかつは、夕食のうどんを食べようと言い出す。

その日のうどんには天ぷらが付いていると言うので子供たちは驚くが、おかつは、今夜はごくろう祝いをしようと思って、少しおごったのだと説明する。

その後、一同が寝る事になったとき、おかつはおさんに、一番末っ子の七之助と音手遅れと頼むが、おさんは、寝るのは良いが、乳を吸われるのが困ると耳打ちする。

押さえとけば良いじゃないかとおかつが返すと、寝たまま吸うのだと言うので、すぐに、私の方に連れて来るからと言い、承知させたおかつは、その後も、仕立物の続きを始めようとするが、一太たちが、ふすまを開け、もう寝なよ、身体を壊すぜと声をかける。

それでも、これは期限付きで受けた仕事だから、一区切りさせるまでと言いながら、針仕事を続けたおかつも、気がつくと居眠りをしていた。

ふと物音で気がついたおかつ。

勝手口から入って来たのは、あの勇吉だった。

戸口から中に入りかけた勇吉は、戸の横に立ち、「静かにしておくれ、大きなせがれたちが5人も寝ている所だから」とおかつが小声をかけたものだから度肝を抜かれてしまう。

それでも、勇吉は「金を出せ」と虚勢を張る。

戸を閉めたおかつは、無理矢理勇吉を座らせると、勇吉が震えているのに気づき、腹が減っているのだろうと、夕食のうどんが残っていた鍋を暖め始める。

うちが初めてか?とおかつが聞くと、うんと返事を仕掛け、前にも入ったと勇吉が答えると、なぜ泥棒なんかするんだい?とおかつが問うと、親兄弟もないし、職もないからだと言う。

戸棚から、金箱を取り出し、その中の包みを一つ取り出したおかつに、勇吉は箱ごと寄越せと迫るが、私は、3人の息子を起こしても良かったんだよ。これがどんな金か話をするから、それを聞きなさいとおかつは言い聞かす。

市太の大工仲間で源さんと言う人がいて、暮らしに困って、3年前、帳簿から2両盗んでしまい、捕まって牢に入れられた。

牢を出て来たとき、職に就かせたい。荒物屋が良かろうと思いつき、その店を出せるだけの金を家族で作ろうと子供たちと相談して、今日まで貯めて来たものだ。その源さんは明日牢から出て来る…と、おかつは話を終える。

そんな話、俺には関係ねえじゃねえか…と、泣きそうになりながらも虚勢で答えた勇吉に、ひょっとしたら、あんたは心から悪い人じゃなく、魔がさしただけかも知れないと思ってさ。今の話、聞いても、持ってくなら持ってお行きとおかつは語り終える。

その時、勇吉は、おかつの背後で仏壇に供えていた灯明の芯が落ち、危うく仏壇が燃え始めていたのに気づくと、あわてて吹き消す。

何となくばつが悪くなり、そのまま何も盗らずに帰ろうとした勇吉に、帰る宛はあるのかい?とおかつは問いかけ、宛もないのに出て行ってどうするんだい?と言いながら、暖まったうどんを渡す。

そのうどんを黙ってすすり始めた勇吉を観ながら、おかつは、なんて言う世の中だろう。今夜からうちにいておくれ。狭い家だけど、まだ一人くらい割り込めると言い出す。

それを聞いた勇吉は泣き出し、名前を聞かれたので、勇吉と名乗る。

翌朝、一番に起き出して来たおさんが、勝手口から井戸へ向かおうとして、ふと、振り返ると、見知らぬ男が板の間にうずくまっていたので、思わず悲鳴を上げるが、先に目が覚めおさんに気づいていた勇吉は、表に出て、気まずそうに名乗る。

そこに、おかつが出て来て、みんなに紹介するから起こしておくれとおさんを家の中に入れると、勇吉には、勇吉には、夕べ話した通りにして送れと耳元でささやく。

勇吉は遠慮しかけるが、おかつのペースにはめられ、もう後には引けなくなる。

起きた子供たちの前に勇吉を連れて来たおかつは、この人は、木更津の遠い親戚の人で勇吉さんと言い、神田の飾り屋で勤めていたのだが辞めさせられて今困っている。私は世話をしてあげたいと思うがどうだろう?と言うので、息子たちは皆、母ちゃんの言う事ならと、一も二もなく賛成する。

その頃、居酒屋に、一人の同心近藤(宇崎竜童)が訪ねて来る。

めくら縞の着物を来た色白の男を知らないかと言う。

下手な絵なんだが…と言い訳しながら同心が人相書きを差し出すと、それを観た居酒屋の主人(横山あきお)も、下手ですねと答えるしかなかった。

勇吉は、家族全員を紹介され、おさんは、みんなに「ばあさん」と言う愛称で呼ばれている事などを教えられるが、勇吉はまだ、おかつの言う通り、ここでみんなと一緒に暮らすなどとは考えられなかった。

しかし、おかつは、その日、源さんが出て来る日だからと言う事で、全員に、その日の役割分担を命じ始める。

三之助と次郎は、源さんの顔を知っている市太と共に、源さんを迎えに行き、私とおさんは、ごちそうの買い出しに行く。

七之助と勇吉は留守番だと言う。

おかつは、全員に、源さんの前では、絶対、昔の話はしない事。源さんのために金を貯めた事なんかは一切言ってはならない。そんな事を知ったら、源さんが、一生、肩身の狭い思いをするからと言い聞かし、一同も納得する。

かくして、家族全員が出かけてしまい、一緒に留守番だったはずの七之助の姿も見えなくなったので、勇吉は、今のうちに家を出ようと決心する。

どうせ、自分の事はいつかはバレるのだし、そうなったらあの息子たちにどうされるか判ったもんじゃないからだ。

しかし、自分が家を空けてしまうと、泥棒が入るかも知れないなどと躊躇しているうちに、七之助が金物を拾って戻って来る。

こっそり勝手口から出ようとする勇吉に、七之助は、遊んでいるのなら一緒に仕分けを手伝ってくれと言う。

こんな金物拾いを子供がやっているのも、源さんとやらを助けるために始めたらしいと気づいた勇吉は、知らない人を家中で助けようとするのは変じゃないか?と七之助に聞いてみた勇吉だったが、母ちゃんがそう云ったからさと七之助は平然と答える。

そこに、おさんが帰って来て、母ちゃんは、鯖を買って来るらしいと告げるが、そんなおさんをいつものように、七之助が「ばあさん」と呼びかけると、おさんは憤慨したように、私はおさんよと訂正したので、いつも、ばあさんと呼ばないと怒っているくせに変だな?と七之助は首を傾げる。

そんなおさんに、皿洗いや缶焚きの手伝いをさせられた勇吉は、隙を見て、こっそり家を逃げ出す。

酒屋の前まで来た勇吉は、中で話している4人組の会話を耳にして、つい立ち止まってしまう。

例の常連たちが、おかつの家で鯖を焼いているのに、自分たちにはお裾分けすらないと、おかつの家の悪口を言っていたのだ。

思わず、店の中に入った勇吉は、4人組に対し、事情も知らないで何を言っていると啖呵を聞く。

お前は訳を知っているのか?と聞かれた勇吉は、おかつの口止めを思い出し言えないねと口ごもるが、そもそもお前さんは誰なんだと聞かれたので、つい、勇吉だと名乗ってしまい、慌てて口を塞ぐ。

結局、勇吉は、またおかつの家に戻ってきてしまう。

やがて、源さん(尾藤イサオ)を連れた市太たちが戻って来る。

源さんを迎えたおかつは、台所から「波の花(塩)」の壺を玄関口に持って来ると、それを源さんにかけ、「この敷居をまたいだら、あんたはきれいになるんですよ」と言う。

心ばかりの祝いの膳の前に、源さんとその妻と赤ん坊、そしておかつ家族と勇吉が座り、おさんがとっくり一杯だけの酒を、おちょこに注いで廻る。

源さんは、「おめでとう」の言葉に泣き出す。

さらに、市太が、用意しておいた金を差し出す。

おかつは、その3つに分けた金袋を、それぞれ、源さん家族が住む家を、すでに緑町3丁目に借りてあり、その1年分の店賃と、商売の準備金、当座の生活費だと説明し、みんな、あんたの金なんですよと説明する。

それを聞いた源さんと女房は、言葉もない。

それを見ていた家族たちも皆泣き始める。

まだ子供の七之助は、隣りの部屋に隠れてしゃがみ込んだ三之助も泣いていると冷やかす。

翌日、おさんが、熊五郎さんの家に泥棒が入ったらしいと面白そうに兄弟たちに話す。

次郎たちは一瞬、誰の事かときょとんとするが、大工の熊さんの事だと知ると愉快がる。

盗られるものなどあるはずがないからだ。

おさんも、大家さんが、熊さんの言う通りの品書きを持って役所に届けた所、すぐに嘘を見破られ、大家さんも熊さんも偉く大目玉を食らったそうだと笑う。

しかし、市太だけは、熊さんの事も大家さんの事もおかしいとは思わないが、その泥棒の顔だけは、いっぺん見てみたいなと微笑む。

そんな兄弟たちの話を、勇吉は情けなさそうに台所で聞いていた。

おかつは、そんな勇吉の仕事が何かないかね?と案じる。

兄貴の帳場で、追廻がいるんじゃないか?と弟たちに聞かれた市太は、自分がその話を以前した事を思い出す。

そんな一家の前で、勇吉は、もう自分の事で心配しないでくれ。昨日、これ以上ない立派なもんを頂いたので…と言い出す。

俺はあの時、胸がきゅんと痛くなった。自分の覚悟は出来ているから…と勇吉は言う。

そこに大家がやって来て、酒屋で聞いていたのだが、誰か親戚の人が来たのだって?身元は確かだろうね?店子が問題を起こすと、大家にも累が及ぶんでね…とおかつに聞く。

あげくの果てに、身元の証しの証文を書いてくれとまで言い出す。

おさんが、そんな大家に、昨日は大変だったみたいですねとわざとらしく同情すると、大家も大変な目にあったと答えながら帰って行く。

おかつは、淡路屋と言う店だったね?と思い出したように勇吉に聞くが、三之助は、神田に淡路屋なんてあったっけ?と首を傾げる。

その後、台所仕事をしていたおさんは、裏口からこっそり逃げ出す勇吉の姿を目撃し、外まで追いかけて来る。

おさんから、どこに行くの?と問いつめられた勇吉は、自分は実は泥棒なのだと打ち明ける。

しかし、それを聞いたおさんは、会ってから数日しか経たない勇さんと、生まれた時から一緒にいる母ちゃんの言う事の、どっちを聞くかと言うと、母ちゃんの言う事を聞くしかない。私たちにとって、あんたは、木更津から来た親戚よと言う。

勇吉は、俺の身元の証しなど立ちっこないと嘆くが、おさんは、勇さんは、母ちゃんがどんな人間か知らないからだと言う。

酒屋では、常連の4人組が又昼間から酒を飲んでクダをまいている。

そこに大家が入って来て、店賃を請求したので、皆固まってしまう。

さらに、そこに同心の近藤までやって来て、町回りを言いつかったが、全く土地勘がないと言い訳をしながら、清吉と言う若者を捜していると人相書きを大家に見せる。

何でも、小石川の人足置き場で刑に服していたが、大雨で川が溢れたので、5日には必ず戻ると約束して召し放たれたが、この男だけが戻らないのだと言う。

その夜、夕食を食べる市太は、一足違いで追廻は決まったと残念がる。

食後、おかつは、一人で淡路屋へ行くと言い出すので、おさんは何かを言いかけ、結局、提灯を持って行くよう勧める。

おかつは、夜道を八幡様の境内まで来ると、そこで居眠りをしていた易者(常田富士男)を起こし、書き付けを一枚書いて欲しいと頼む。

易者は代筆などしないと断るが、20文おかつが手渡すと、あっさり承知する。

そのおかつをこっそり付けていた三之助と次郎が長屋に戻って来て、事の次第を、おさんや市太らに話して聞かせる。

そこに、おかつが戻って来て、淡路屋での顛末を面白おかしく話しながら、書状をもらえたと一同に見せびらかす。

そこに、かの役人がやって来て、最近、新しい住人が来たと聞いたがと言うので、おかつは勇吉だと答えると、清吉ではないかと…と近藤はがっかりする。

そこに、岡っ引きの平次(仁科貴)がやって来て、たった今、清吉が番屋に自首して来たと言いに来る。

何でも、帰っていた国の母親が急病になり、看病している内に、帰る日を間違えたらしい。

近藤らが帰った後、安心して寝る事にした家族たちだったが、三之助がおかつの耳元に、易者に20文取られて痛かっただろうとからかうと、せっかくの芝居も、子供たちにはバレていたと気づいたおかつは苦笑いする。

翌日、勇吉は七之助の金物拾いの後を付いていた。

源さんの事、終わったんだから、もうこんな事しなくても良いんでは?と、勇吉は聞くが、七之助は、クセになったと言う。

おさんは、おかつと縫い物をしながら、七之助が勇吉の事を本当の兄のように慕っている。勇さんって、きっと心根の優しい人ねと熱心に話していた。

そこに、一太が仕事場から帰って来て、熊さんが足を折ってしまったとうれしそうに言う。

人が一人、急ぎでいる。棟梁がすぐ連れて来てくれと言っていると言うのだ。

勇吉の仕事が見つかったと喜んだおかつだったが、すぐに、熊さんの怪我の手当もしなければいけないと思い出し、家を出る。

熊五郎は、片足を吊って、家に寝ていたが、昼間から酒を飲んで、結構嬉しそうだった。

そこに、おかつとが訪ねて来たので、熊五郎はあわてて酒徳利を隠そうとするが、大家が棟梁からの見舞金を持って来たとやって来ると、嬉しさのあまり、持っていた酒徳利を転がし、見つかってしまう。

まさか、怪我をしているのに飲んでいたのか?と大家は気色ばむが、足を冷やすのに良いと仲間が渡してくれたんだと苦し紛れに熊五郎が嘘を言うと、大家は、だったら、俺が冷やしてやると、その徳利を取り上げ、酒の口に含むと、吊るされた足に吹きかけてしまったので、熊五郎はがっかりする。

それから4日経ち、勇吉は、市太ら男兄弟と共に、仕事に出かけていた。

勇吉は、仕事のスジが良いので、ものになりそうだと親方が言っていたと市太が伝えると、勇吉は、ちょっと先に言っててくれと言い、自宅に戻る。

おかつが、何事かと勇吉を見ると、俺をみんなと同じようにしてくれないか。弁当が明らかに他の兄弟と違い、特別になっている。おかずも一品多いと言うのだ。

それを聞いたおさんは、恥ずかしそうに台所に逃げて行き、事情を察したおかつは、あんたがまだ痩せているので、もう少し肉が付くまでやっているだけだと弁解したので、それを真に受けた勇吉は感激し、生みの親にもこんな事された事はないと言う。

すると、それを聞いたおかつの表情が一変し、親なら、誰だって、自分を犠牲にしてでも子供にしてやりたいのは同じ、それが出来ない親の気持を察してやれず、親を悪く言うような人間は大嫌いだよと叱る。

そこに市太らも戻って来て、おさんも泣いているのに気づくと、ばあさんも泣いていると言うが、おかつは、今日からばあさんと呼ぶのは止めとくれ。嫁入り前なんだからと注意する。

再び仕事場に向かい始めた勇吉だったが、次郎が、母ちゃんが勇さんを優しくするのは、耳にほくろがあるから。耳にほくろがある人には皆優しいんだ。死んだ父ちゃんにもあったんで、と教える。

三之助も、俺が3つの時、父ちゃんは死んだと教える。

それを聞いて。おかみさんがちょっと怖くなったよと答えた勇吉は、又、何かを思い出したように、みんなに先に行ってくれと言うと、自分だけ家に戻る。

すると、おかつが仏壇を熱心に拝んでいたので、そのまま引き返す事にする。

おかつは勇吉が又戻って来たのには気づくが、戸が閉まる音の後、「かあちゃん…」と呼ぶ声を聞いたような気がした。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

落語を聞いているような、ほのぼのとした人情話。

悪い人間が一人も出て来ないメルヘンのような作品である。

酒屋で寄り添って、昼間から人の陰口を言っている4人のおじさんたちにしても、口先だけで、根は善良なごく普通の庶民である。

同心の近藤にしても、いかにも人が良さそうな人物であり、単に、ちょっと画面に緊張感を加えるためにだけ登場している印象。

おさんの勇吉に対する恋心なども、いかにも…と云った展開なのだが、そう云った「作り話」と判っていても、なおかつ、ジンと胸に迫る「良い話」である。

派手な要素は一切なく、地味と言えば、地味そのもののような内容だが、円熟期の市川崑監督が、肩の力を抜いて、楽しみながら作っている感じが目に浮かぶような大人の作品になっている。