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異常性愛記録 ハレンチ

1969年、東映京都、石井輝男脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

典子(橘ますみ)は、最初の男である染物会社社長深畑(若杉英二)との異常な性的関係から抜け出せず悩んでいた。

二番目の恋人であるデザイナー吉岡(吉田輝雄)と、湖畔の別荘に来ている今でも、深町の事が思い出されて仕方なかった。

まだ、深町との関係を清算し切れていなかったからだ。

朝、別荘の寝室で目覚めた吉岡は、朝の湖畔を歩いてみたいと言い出す。

二人で歩いているうちに、典子は、何か食べさせてと吉岡に甘える。

吉岡は、朝飯前のおやつだと言いながら、キスをするのだった。

(回想)京都木屋町にあるバー「ノン」、典子は、自分がママをしているその店から、常連客の寺内 (小池朝雄)と一緒にタクシーに乗り込もうとしていたが、近くにいた深畑に気づいたので、タクシーを降り、別のタクシーに乗り込もうとしていた深畑に声をかけようと近づくが、深畑は、そんな典子を降り払うように、タクシーを出発させてしまったので、典子は転倒してしまう。

自宅マンションに帰って来た典子は、部屋の中で深畑が待ち受けていた事に気づくが、深畑は、和服姿の典子を抱き上げると、そのまま風呂場の中に連れて行くと、浴槽に和服姿のままの典子を漬け、頭を押し込んで、溺れさそうとする。

しかし、隣人のニャン子(葵三津子)が、刺身のお裾分けを渡そうと訪ねて来たので、邪魔されたと感じた深畑は、玄関に出て、黙ってそれを受け取ると、美也子が帰った後、刺身を足で踏みにじるのだった。

何でそんな事するの?と、驚く典子だったが、深畑は、アイラインを描いたらあかん言うたやろ?化粧したらあかん!他の男にも近づいたらあかん!などと無茶を言うと、急にトイレに連れて行ってくれと甘え出し、自分が排泄する所を観てくれと、逃げ出そうとする典子の手を放さなかった。

深畑は、愛しているよ!君がいなかったら生きて行けない。離さないと、典子に執拗に迫るのだった。

隣りのニャン子の所に来た男は、そうした隣りの典子の部屋から聞こえて来る露骨な会話に耳をそばだてて面白がる。

ニャン子は、女は結婚と言う言葉に弱いのだと言い、典子が、その言葉で、深畑との仲が断ち切れないのだとほのめかす。

やがて、典子の部屋のドアが開く音と、出て行く二人の足音が聞こえたので、寒空の中、典子が深畑を送っていくらしい事が分かるが、ニャン子は、毎回そうなのだと気の毒そうに男に話す。

典子は、タクシーで、深畑を実家の前まで送り届けるが、到着した途端、深畑が、もう一度、元のマンションに戻ってくれと言い出したので、運転手(上方柳太)は切れそうになる。

自宅に戻った深畑に声をかけて来たのは、身体が不自由で寝たきりの娘と、寝ている息子、そして、布団で休んでいたのに、わざわざ起き上がって、三つ指を付き、「お帰りなさいませ」と出迎える妻、そして、別室で、咳をしながら寝ている母親(金森あさの)たちだった。

(現在)車の警笛で、ふと我に帰った典子は、吉岡と湖畔を散歩中、通りかかったコーラの輸送トラックからクラクションを鳴らされたのだと気づく。

吉岡は、トラックの運転手に、2本くれと明るく声をかける。

そんな幸せな今でも、典子はすぐに、深畑との異常な過去の事が思い出されるのだった。

(回想)ある日、典子のマンションにやって来た深畑は、新聞受けに新聞が溜まっていたり、室内にホコリが溜まっている事を指摘し、典子が勝手に家を留守にしていたとなじりながら、典子の首を絞め始める。

典子は、父親が病気になったので見舞いに行っていたのだと言い訳するが、深畑は、嘘ついても分かるえ、と言いながらも、愛しているさかい、こないことしたんやと、急に謝る。

(現在)湖畔近くで吉岡の車に乗り込んだ典子は、昔の男との事は、君が自分で整理すると言っていたから、私は手をつけなかったのだがと言う吉岡に、もうちょっと待ってくれと謝る。

しかし、典子は、吉岡にも深畑にも嘘をついて、両者との関係をずるずると引きずっていたのだった。

開店前の店にやって来た深畑は、誰もいない事を良い事に、その場で典子を抱こうとする。

そこに、配達の酒屋(上方柳次)が入って来たので、二人は一旦離れるが、酒屋は床に落ちていたブラジャーを不思議そうに拾い上げると、それを持って「毎度ありー」と言いながら帰って行く。

典子は、深畑と言う人間が、本質的に気の弱い人間なのか、図太い人間なのか計りかねていた。

(回想)ある日、典子のマンションに勝手に入り込んでいた深畑は、典子の箪笥を勝手にかき回し、下着類などを自分の身に付けていた。

帰って来てそれを目撃した典子は怒るが、深畑は、全く返事もしなかった。

その時、電話が鳴り、出てみると、深畑の妻からだった。

仕事の話があるので、主人を出してくれと言う内容だったが、受話器を深畑に手渡そうとすると、無言のまま深畑は、すぐに受話器を電話機にかけてしまうのだった。

典子は、そんなに奥さんが怖いんか?と呆れて聞くが、その時、チャイムが鳴り、出てみると、母親だった。

母親は部屋に上がり込み、深畑に会うと、あんた、前は自宅から店に通っていた典子を誘うように、このアパートに連れ込んだが、どうなさるつもりですか?と問いつめる。

深畑は、結婚、きっとします…と小声で答えていたが、執拗な母親の説教に切れ、帰れ!と怒鳴りつける。

これには母親も切れ、ここは典子の部屋です。帰るのはあんたです!と逆襲するのだった。

その母親が帰った後、深畑は、きっと結婚する、行かんとって…と、典子に泣きながらすがりついて来る。

ある日、バー「ノン」にやって来た得意客の発田(上田吉二郎)に気づいた深畑は、ジョニ黒を一本出してくれとホステスに注文するが、過去、深畑が、店に金を払ってくれた事はなかった。

発田は、ママの典子に熱を上げ、いつも店にいない深畑に説教を始め、このままでは深畑染工はダメになるぞと言い聞かすが、深畑は不機嫌そうに聞いているだけ。

発田は、そんな深畑を甘やかしている典子も悪いと言う。

その時、吉岡が店に入って来たので、その横に典子は座るが、それを見ていた深畑は嫉妬に狂ったような目で睨みつけ、二人の間に割って来ると、踊ってくれと、無理矢理典子に迫る。

典子が断り、吉岡も、踊りたくないって言ってるだろうと注意すると、深畑は、浮気したら殺す!と言いながら帰って行く。

それを見ていた発田は呆れて、あんなアホみたいな男にくっついても、どもならんてと、典子に声をかける。

その時、梅乃屋の女将から電話があり、急用なので来て欲しいと言うので、すぐに出かけた典子だったが、通された座敷に待っていたのは、さっき店から帰ったばかりの深畑だった。

驚く典子に抱きついて来た深畑は、さっきの男は誰や?浮気しているんだったら、あの男は殺すし、お前の顔には硫酸をかけると言いながら、水を浴びせかける。

さすがに典子は呆れ、もう結婚なんて考えてない!と言うと、深畑は、では、今のままで良いんやな?と喜ぶので、典子は部屋を飛び出すと、梅乃屋から走って逃げる。

「ノン」に戻って来た典子に、吉岡は、いつまでこんなあいまいな事をしているつもりなの?と問いかけて来る。

3日後、どうしても必要なものがあり、マンションに取りに帰った典子が、箪笥の中から品物を取り出していると、ここ数日、この辺をぶらついていたと言う深畑が勝手に入り込んで来たのに気づき驚く。

そのしつこさに呆れ、何とか逃れようと、部屋を出て、隣りのニャン子の部屋に逃げ込んだ典子だったが、ニャン子が新しいベッドを買ったと自慢していると、そこに深畑もずかずかと入って来て、ベッドに典子を押し倒したので、呆れたニャン子は、自由にベッドの使い心地を試してくれ、自分は買い物に行くからと、部屋を出て行ってしまう。

深畑は、人前でセックスをするのが大好きだった。

以前、松子(有沢正子)と言う女友達がアパートに遊びに来ていた時、深畑も一緒におり、お風呂にでも入ったら?と勧め、松子がシャワーを浴びている間に、深畑は典子にむしゃぶりついて来る。

シャワーから上がって来た松子は、二人の様子に気づき、いたたまれなくなって帰ってしまったのだった。

ニャン子のベッドで、事を終えた二人は、自室に戻って来る。

着ていたものをぼろぼろにされた典子は、私は二号になるつもりはない!と怒るが、それを聞いた深畑は、やっぱり、男が出来たんやな?殺したる!と逆上し、典子を殴りつけて来る。

その時、チャイムが鳴ったので、上着を羽織って玄関に典子が出てみると、訪ねて来たのは父親(中村是好)だったので、あわてて追い返す。

その様子を、玄関横の台所の窓にへばりつき観ていた深畑は、今のお父さんやろ?入院しているなんて、やっぱり嘘やったんやと言いながら、又、典子を殴り始めるのだった。

さすがに耐えかねた典子は、私は自分の生きたい所へ行きます。奴隷みたいな生活はもうたくさん!と言い残し、アパートを飛び出して行く。

病院に勤めている寺内に相談し、暴力で受けた怪我の診察を受ける。

深畑は、典子がピンチの時には一切近づこうとはしなかった。

以前、典子が妊娠し、堕胎を依頼した医者が、ご主人と一緒に来てくれと言われたので、伯母の里江(丹下キヨ子)に頼んで、深畑に電話をしてもらい、印鑑をもらわないと中絶出来ないのだと伝えてもらうが、電話に出た深畑は、里柄の言う事にハイ、ハイと言うだけで、勝手に電話を切ってしまった。

結局、里江おばさんに保証人になってもらって、中絶するしかなかった。

その後も深畑は、女マッサージ師(水上富美)に身体をもませながら、典子に抱きつくなどと言う変態行為を平気で続けていた。

典子の怪我の診察に付き合った寺内は、しばらく店を休んんだ方が良いとアドバイスし歩道橋の上で別れるが、その直後、典子は、下の道で、明らかにゲイボーイのジミーを誘い、一緒に車に乗り込む深畑を目撃する。

深畑には、前々から男色の趣味もあった事を、典子も薄々気づいていた。

「ノン」で、ゲイボーイと踊りながら、相手の股間を触っているのを目撃した事があったからだ。

深畑は、オカマ相手に、ホテルでSMプレイをしていた。

ブラジャーを着け、女役になった深畑は、同じく女装のオカマからののしられたり、口紅を付けられたり、むち打たれたり、踏みつけられたりして喜び、ハイヒールの中に入れた酒を飲まされるなどしていた。

ある日、店にいるホステスの朱美(尾花ミキ)に電話を入れた典子は、春子(三笠れい子)が、体調が悪いと、店を休んでいると聞き、すぐに春子のアパートへ行ってみる事にする。

春子は、常連客の隆(小島慶四郎)を部屋に引き入れ、セックスをしようとしていたが、そこに典子が訪ねて来たので、仕方なく、ドアを開ける。

男を連れ込んでいると察し、部屋に上がり込んだ典子は、布団の中から這いずり出て来た男のカツラが取れ、禿げていたので、隆と気づかず、春子も驚いて、うちの父ですと紹介したので、うっかり「失礼しました」と謝罪してしまう。

ある日、「ノン」で吉岡と典子が踊っていると、深畑がやって来て、二人の様子を睨みつける。

典子は頭が痛いと訴えたので、吉岡が連れて帰る事にする。

欲求不満になった深畑は、その後、ゲイバーに出かけ、ママのマコトから、ゲイボーイを紹介してもらう。

純子、ヨシキ、カツミ、ユウコ、マアコ、青江、ケニーなど、色々紹介されるが、深畑はなかなかお気に入りを見つけられない。

それでも、僕、幸せ!と言いながら、ゲイボーイたちと踊り狂う。

その後、ゲイボーイ二人を相手に、隣りで行われている外国人女性によるソーププレイを覗き見しながら、深畑は恍惚となって行くのだった。

典子は、吉岡の事務所に泊るようになっていたが、そこに店のホステスが給料の前借りをしたいと訪ねて来て、ママのアパートの管理人さんが、ガスの臭いがするから気をつけて欲しいと怒っていたと教える。

急いでアパートに戻り、換気をした典子だったが、最近たびたび感じる腹痛を又感じたのでトイレに行くと、そこに、突然、深畑がやって来て、トイレの中を覗こうとする。

堪忍袋の緒が切れた典子は、あなたは、家族があるんだから、その家族のために暮らしてくれ。自分は、あなたの家族からは金目的で付き合っている悪魔だと思われているようだが、一度だって自分はあなたに、金など要求した事はなかった!うちを自由にして!と怒鳴りつける。

すると、深畑は急に弱気な表情になり、自分はここでガス自殺をしようとしていたんだ…と言いながら、台所の包丁を手に取り、典子に迫って来ようとする。

驚いた典子がなだめると、深畑は、自分は、典子以外の女にはSEXできないのだと訴えて来る。

それを聞いた典子は、その言葉が嘘だと答える。

自分は今、性病にかかってしまったらしいが、それは、出張から帰って来たあなたから無理矢理抱かれてからの事、出張中に何かあったんでしょう?と問いつめる。

すると、深畑は、好奇心から、金髪の女とやってしまったと、正直に告白する。

その後、吉岡の事務所で、別れの手紙を書き、部屋を後にした典子は、吉岡のマンションの側で待ち受けていた深畑から、ジャックナイフを突きつけられ、今夜は、最後の線を出すつもりや、一緒にあの男の所へ行くんやと脅される。

典子は、吉岡は不在だと訴えるが、深畑はその場で吉岡の帰りを待つ事にする。

やがて、雨の中、吉岡が車で帰って来る。

吉岡が部屋に登って行ったのを見届けた深畑は、典子を脅しながら、吉岡の部屋の前に来ると、合鍵で中に入れと命じる。

一旦は言われた通り鍵を取り出しドアノブに差し込んだ典子だったが、やっぱり出来ないと抵抗していると、その声を聞きつけた吉岡が部屋から出て来る。

その吉岡に対し、ジャックナイフを突き出して行く深畑。

典子は吉岡をかばいながら、「ハレンチよ!ハレンチ!」とののしるが、ジャックナイフを持った深畑と吉岡は取っ組み合う。

その時、近くの電柱に落雷がある。

吉岡からジャックナイフを持った手を外された深畑は、思わず、鉄製に手すりにジャックナイフを接触させるが、帯電していた鉄柵の電気がナイフを通して身体に流れ込み、真っ黒に焼けこげながら、地面に墜落して行く。

通路で、典子と二人きりになった吉岡は、手紙は読んだが、何も言わなくて良い。もう絶対話さないよと告げると、典子の身体をひしと抱きしめるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

東映ポルノ作品の一種ではあるが、最後まで観て行くと、これはストーカーサスペンスだと言う事が分かる。

終始一貫して描かれる深畑の異常な行動。

その異常さからなかなか逃れられないヒロインのもろさ。

観客は、そのヒロイン典子の優柔不断さにイライラしながらも、一種独特の淫美な二人の世界に付き合わされて行く事になる。

深畑を演じている若杉英二は、中年太りの普通の男優で、別に器用そうな俳優には見えないが、幼児言葉や笑い顔、無表情さなど、監督の指示通り忠実に演じている感じで、あらゆる変態行為に挑むその姿には頭が下がるほど。

ヒロイン役の典子を演じている橘ますみも、清純そうな美人なのだが、良くこんな変態演技に付き合っていると感心する。

二枚目役の吉岡を演じている、石井監督作品常連の吉田輝雄も、この作品は、どんな気持で参加していたのだろう?と気になってしまう。

深畑の異常さを表現するために、口元や鼻の穴の中などへの執拗な接写、獣のうなり声のようなSEをかぶせるなど、随所に、石井監督らしいアイデアがちりばめられている。

この時代のゲイボーイたちが登場するのも、ちょっと興味深い所ではある。

一見、非現実的な男女関係のようにも見えるが、ひょっとしたら、こんなただれた関係をしているカップルが現実にもいるのかも知れないと、妄想させる所がすごい。

所詮、男女の仲など、他人が知り得ない世界なのだから…