TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

あゝ野麦峠

1979年、新日本映画、山本茂実原作、服部佳脚本、山本薩夫監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

明治38年

生糸生産世界一祝賀大会

外国人も招き、贅沢なパーティが催されていた。

明治36年、雪山を歩く、若い娘たち。

タイトル

その行進は夜になっても、松明の列となって続いた。

飛騨地方

絹糸を紡ぐ仕事をする工女たちの中の新人たちの事を「新子」と呼んだ。

高山の街が見える最後の場所美女峠に到達した時、引率している検番から、その旨を教えられた新子たち、政井みね(大竹しのぶ)や三島はな(友里千賀子)らは、思わず、高山の街に向かい、めいめい、別れて来た父母たちの名を大声で呼びかけるのだった。

工女たちは、40里の道を3泊4日で歩くのだった。

阿多野郷の野麦峠に差し掛かった時、一人の娘が、山安の安達組か?と先頭を歩く検番に尋ね、母親が死んだので、自分も一緒に連れて行ってくれと頼んで来る。

結局、一緒に列に合流する事を許された篠田ゆき(原田美枝子)だったが、その様子を見ていたみねは、阿多野は辛い所だと母親から聞いた。そう言う所に住んでいる女はよほど強情なのだろうなどと、周囲の新子同士で話し合う。

険しい雪道を進むうち、足を滑らせバランスを失った新子、平井とき(浅野亜子)と、綱で身体を繋いでいたみねとはなの3人が一緒に、崖の下に滑り落ちてしまう。

付き添いの男たちは、最初、助からないと放っておこうとしたが、検番の黒木権三(三上真一郎)から、新子には高い金を払っているのだから、助けに行けと言われ、川瀬音松(赤塚真人)も崖下に降りて行き、何とか3人の新子たちを助け出す。

お助け茶屋で、女たちは泊る事になる。

同伴して来た金山徳太郎(小松方正)なども、刺してあった焼き魚を取ろうとするが、茶屋の老婆(北林谷栄)は、それは自分の酒の肴だから取るなと文句を言う。

工場から金は払ってあるはずだと金山が文句を言うと、工場からは、工女たちの宿賃と飯代しかもらってないと言い、男衆は外で野宿させられるはめになる。

老婆は、谷底に落ちたのは誰だと聞き、みねが前に出ると、用意してあった甘酒を渡しながら、野麦の谷からよみがえったものは長生きするぞと励ましてくれる。

みねは、その熱い甘酒の茶碗を、はなや他の新子たちに次々に回してやる。

みねは、父親を亡くし、爺様友二郎(西村晃)、母様もと(野村昭子)、兄さん辰次郎(地井武男)、そして弟たちと暮らしていたが、炭焼きをしている兄さんの収入だけでは暮らして行けず、金山が持って来た契約書を交し、みねが、製糸工場(キカヤ)で働く事になったのであった。

その契約書には、何か、みねに違反があった場合は、連帯責任として50円支払わなければならないと言う無茶な条件が記されてあったが、爺様は、それを飲むしかなかった。

塩尻峠に到達した新子たちは、山の向こうに見える大きな海を発見、感動するが、先輩たちから、あれは海ではなく、諏訪湖だと教えられる。

山安足立製糸工場(キカヤ)では、旦那と呼ばれている足立藤吉(三國連太郎)が、新しい工女たちの到着を今や遅しと待ち受けていたが、8時25分、教育係石部いわ(中原早苗)に連れられて新子たちが挨拶に来る。

その直後、横浜の中田商店から電話が入り、生糸の値段が上がったとの知らせがある。

藤吉は、すぐさま算盤勘定をさせ、すぐに「浜出し」(横浜に出荷)を命じる。

当時、横浜には、外国人居留地があり、生糸問屋を通じて、外国の商館に生糸が売られていたのだった。

翌日から、工女たちの仕事が始まった。

起床した後、新子たちは布団を畳むよう、いわからビンタをされる。

繭を運んでいたみねは、転んで繭を床にこぼしてしまったので、全部拾え!繭の一つ一つは米の飯粒だと思え!繭を粗末に扱ったら、罰が当たるぞ!と見番からどやし付けられ、その場に全員整列させられた新子たちは、一人一人見番からビンタをされたので、恐怖心と痛さで泣き出してしまう。

姉さん工女たちの仕事ぶりをしっかり覚えるんだと、各機械の前に立たされた新子たちだったが、庄司きく(古手川祐子)は、繭を煮る臭いに絶えきれず、吐いてしまったので、それを見ていたいわは、無理矢理繭の臭いを嗅がせたので、きくはその場に気絶してしまうのだった。

地元新聞「信濃毎日」を読んでいた藤吉は、そろそろ戦争が始まるかも知れないと推測し、ニューヨークの生糸相場の動向に注視するようになる。

工女たちの食事は、麦4分、米6分の飯だったが、貧しい育ちで口減らしのため働かされている彼女らは、稗くらいしか食べた事がなかったので、夢のようなごちそうだった。

食事時間は、10〜20分くらいしかなく、工女の早めしと言われていた。

諏訪製糸臨時総会に出席していた藤吉は、演壇に立った男の富国強兵を勧める演説に拍手をしていた。

やがて、日露戦争が始まる。

工場にやって来た藤吉は、日本がバルチック艦隊を破って戦争に勝ったと報告し、それを聞いた工女たちは、全員バンザイをする。

藤吉は張り切って「働くんだ!」と声をかけ、姉さん工女たちは、自然に唄い始める。

明治39年

アメリカ向け生糸の生産が増え、それまで水車動力だった工場が、ボイラー動力に切り替わり、林立したトンネルを「諏訪の千本トンネル」と呼ばれるようになる。

工場では、工女たちを整列させ、検番の黒木が「デニール検査」の発表が行っていた。

一番優秀な生糸を紡いだのはみねであった。

二番目がゆきだったが、ゆきは、負けん気から、もう一度検査し直してくれと言う始末。

きくも、まずまずの成績だったが、思わず喜んでいると、後でちょっと来いと黒木から声をかけられる。

はなは、失点12点と奮わず、一番成績が悪かったのが、ときだった。

ときは、さらに、飛騨の母親が病気で、何度も前借りしている事も注意される。

はなは、悔しそうにしながらも、緊張すると小便が近くなるたちだったので、その場から逃げ出すように便所に駆け込んで行く。

足立藤吉には春夫(森次晃嗣)と言う一人息子がおり、日露戦争から無事帰って来たばかりだったが、戦争の垢を落とすなどと言う理屈をつけ、毎晩遊び歩いていた。

その日も、一晩45円もの請求書を持った男を連れ、朝帰りして来た晴夫に対し、母のとみ(斉藤美和)は、やんわり注意するのだった。

優秀工女に選ばれたみねとゆきが、事務所に呼ばれ、藤吉と春夫に紹介される。

藤吉は、どちらが先に100円工女になるかなと期待するが、みねが、一つ御願いがある。成績が悪く飯抜きになった工女を許してくれと言い出したので、急に怒り出す。

しかし、側で聞いていた春夫が、兵隊でも、腹が減ると効率が落ちていたから、飯くらい食わしてあげましょうと父親に取りなしてやる。

夜、他の工女たちが、寝床で、恋愛小説など読んでうっとりしている中、ときだけは、明日も罰糸やとふて腐れていたので、それを諌めようとしたきくと喧嘩になる。

それを止めようと、ときを羽交い締めにしたみねは、腕を噛まれてしまう。

しかし、その直後、又、ときは、小便がしたくなり、便所に駆け込んでしまう。

その便所脇の廊下で、検番の黒木から、経理担当の野中新吉(山本亘)と付き合っているのではないかと、ねちねち嫌みを言われ、さらに言い寄られようとしていたきくは窮地に陥っていたが、ちょうど、便所から出て来たときが声をかけて来たので、難を逃れる。

工女たちは、寝室で、罰金制度はおかしくないかと話し合っていた。

姉が、雨宮製糸にいたと言うえんは、給料が半分にされたとき、寄り合いを作って旦那さんに交渉したが、言う事を聞いてもらえなかったので、全員が一斉に仕事を休んだ所、給料を元に戻してくれたらしいと話す。

それを聞いていた工女たちは、本当にそんな事が出来るのか?と驚くが、明治19年6月に、本当にあった事だと、えんが言うので、それなら自分たちもやってみようかと盛り上がるが、そんな中、ゆきだけが返事をしなかった。

姉さんたちが、ゆきに文句を言うと、自分は銭を稼ぐためにここに来た。自分は生まれた時から一人だと言う。

そんな中、こっそり部屋を抜け出した松本さだ(石井くに子)がいわを呼んで来たので、皆、いつまで起きている!おえん、余計な事を吹き込むと、ただじゃすまねえからな!と叱られてしまったので、みんな渋々寝るしかなかった。

そんな中、さだの隣りに寝ていたときは、さだに向けて放屁する。

その夜、ときは、寝所を抜け出し、工場を逃げようとしていたが、廊下には鍵のかかった柵があり、どうしようもなかった。

ときの逃亡に気づいたみねがこっそり近づいて来て、ここからは逃げ出せないのだと、ときにに諦めさせる。

ある日、伏見宮殿下(平田昭彦)と妃殿下(三条泰子)が、製糸工場を視察しに訪れる。

優秀なみねたちは、平常通り仕事をさせられるが、成績が悪い罰糸組の女たちは、繭倉庫に閉じ込められてしまう。そんな中、ときは、国から届いた手紙を愕然とした表情で読んでいた。

妃殿下は、優秀な工女としてみねを紹介されたので声をかける。

しかし、視察を終え、工場を出た両殿下は、工場内の臭いを我慢していたため、嘔吐してしまう。

一方、工女たちには、その後、休日扱いになり、紅白饅頭が配られるが、遅れて合流した罰糸組の中に、ときの姿がない事をみねは気づく。

部屋に戻って来たみねは、何とか、ときの力になれないかと考え、自分が優しそうな若旦那に頼んで、前借りをすれば良い事に気づくが、それを聞いた仲間たちが、そう云えば、最近、若旦那は、お前に色目を使っているからなと冷やかして来たので、みねは怒り出すのだった。

外の甘味所では、きくが、国への手紙の代筆を信吉に頼んでいたが、そこにときを探しに来たみねがやって来て、二人の仲を冷やかす。

その頃、諏訪湖では、伏見宮殿下と妃殿下が見守る中、藤吉が用意した小舟から投網を打って魚を捕る様子が披露されていた。

藤吉の隣りで一緒に見物していた春夫は、網に鯉がわざとらしくかかっているのを観て、父親の演出をからかう。

そんな小舟の一隻が網を引き上げていたとき、女の死体を引き上げかけたので、それに気づいた漁師は、あわてて網を又沈める。

反対側の岸に持って行かれた死体は、ときだった。

噂を聞きつけ駆けつけたみねは、ときの身体にしがみついて号泣する。

みねは、ときが握りしめていた小石や貝殻を見て、さらに哀しむ。

よほどの空腹に絶えきれず、そうしたものを口にしていたと思うと、やり切れなくなったのだ。

そこにやって来た二人の警官は、死体を引き上げた漁師たちや数人の野次馬たちに、この事が向こう岸に知れたら、手が後ろに廻るぞと脅し付け、みねも死体から引き離そうとするが、みねは泣いて抵抗する。

その年の暮れ、工場は仕事納めになる。

藤吉たちは事務所内で乾杯をしていた。

そんな中、春夫はみねを一人呼び出すと、ときへの見舞金を渡し、家族に持って行ってやってくれと頼む。

みねが喜んで受け取ると、急に春吉は、俺の嫁になってくれないかと言いながら、みねに抱きついて来る。

みねは、からかわないでくれと必死に抵抗し、部屋を逃げ出す。

その時、部屋の外にはゆりが立っていた。

それに気づいた春夫は、みねが落として行った見舞金を拾い、ゆりに差し出しながら、とっとけや、口止め料だと言うが、ゆりは受け取らないで帰りかけ、意味ありげに春夫に笑いかける。

工女たちは、皆着飾って、国に帰る支度を終えていた。

しかし、ゆきだけは残ると知ったみねが帰らないのか?と聞くと、10月に爺さんが死んで、もう帰っても誰もいないので帰らないと言う。

みねは、そんなゆりにおやつようの豆を渡すが、ゆりは、そんなみねに対し、お前に遠慮などせんからなと吐き捨てる。

藤吉は、そろそろ春夫さんの身を固めさせた方が良いと言うとみに対し、いつまでも、息子に「さん付け」するなと注意するが、爺様の血を引いていますからととみは平然としている。

藤吉は、いつまで経っても、自分が養子扱いから抜け出さない事に苛つく。

その春夫は、工場に一人残っていたゆりに接近するが、ゆりは、みねの代わりは嫌だと拒否する。

自分の母親も、糸採り工女だったと明かしたゆりは、自分のようなて父なし子だけは生みたくないと言うので、春夫は、俺と一緒に山安をやっていこうと甘い言葉を吐くのだった。

工場から帰路についたみねたちは、茶屋付近で待ち構えていた親族たちと合流する。

みねは、兄の辰次郎と再会する。

母親と再会したはなは、音松 と仲良くなっていた。

きくは、迎えに来た爺様が焼いて食わす餅を味わう。

辰次郎は、みねが百円工女になった事を喜び、昔のように背負ってやると云うのを、みねは恥ずかしがるが、結局、暖かい辰次郎に背負われて、山を下りる事になる。

飛騨高山、飛騨古川、安川旅館で、検番たちは宿泊したが、これは、優秀な工女の引き抜きを警戒するためだった。

金山徳太郎は、辰次郎に、一足先に帰ってくれ、ちょっとした趣向があるからと良い、みねは、馬が引く特別仕立てのそりに乗せられて、道を練り歩くはめになる。

帰宅したみねは、爺様の友二郎に百円を手渡す。

それを、友二郎は仏壇に供え、もと共に、手を合わして感謝する。

喜ぶ家族たちの様子を見たみねは、湖に飛び込んで死のうと思った事もあったけど、今は幸せでもったいないくらいだと答える。

弟たちは、米の飯を腹一杯食べ、タイから戻って来た兵隊の菊造兄も加え、楽しい夕餉が始まる。

辰次郎は出世した妹の姿に目を細めながらも、骨の髄までキカヤに縛られんように気をつけろよと忠告するのだった。

高揚したみねは、その場で唄い出す。

翌日、炭焼き小屋で仕事をしていた辰二郎の元へ、弁当を持って来たみねだったが、辰二郎は、炭なんか売っても10円くらいにしかならんと自嘲するが、みねは、飛騨の百姓は、皆稗飯だと笑って答える。

そんなみねに、辰次郎は、もう一回だけ、キカヤに行ってくれと辛そうに頼む。

キカヤはさぞ辛いだろうな。ときの事も聞いたと言う。

そんなみねに、地元の若衆たちが、今日は会所があるので来ないかと誘いに来るが、辰次郎は、お前たちにみねなんかやれんとガードする。

自宅に来た金山徳太郎は、みねの年季が明けるので、新しい契約書を作る事になると説明するが、友二郎は、その契約書をしばらく預らせてくれと言い出す。

そこに、丸正の検番(江幡高志)が訪ねて来たので、金山は、友二郎が、他の店と天秤にかけている事に気づくが、友二郎は、みねとも相談せんと…と、口を濁すだけだった。

そうしているうちに、益屋や大黒屋と言った面々も顔を見せる。

街に出たみねは、はなと6日ぶりに会い挨拶をするが、そこにやって来た丸正の検番が声をかけ、何でもごちそうをしてやると言うが、向こうから来る金山徳太郎に出会ったので、無理矢理ごちそうしてくれと頼まれたとごまかして立ち去る。

金山は、油断も隙もないと呆れながらも、連れてた工女たちを店に案内すると、好きなものを頼んで良いとサービスに努めるのだった。

その頃、家にいた友二郎は、朝から酒浸りの状態になっていたので、辰次郎が文句を言うが、友二郎は、孫が稼いだ金で飲んでどこが悪い。今来ていた山八と言う店では、支度金50両出すと言われたと浮かれていた。

辰次郎は、キカヤにみねを行かすのは今回限りと決めているのだと言い、母のもとに対し、爺様変わりはったな…と呆れてみせるが、何かを言いかけたもとの頬を、酔った友二郎は殴りつけるのだった。

仕事始めになった山安工場の事務所では、藤吉と信吉しか開け方を知らないはずの金庫から、120円と言う大金が紛失している事が明らかになり、その疑いが信吉にかけられていた。

信吉は、自分に使い込みに疑いがかけられ、弁償しなければ、警察に届けると言われたが、自分の給金では、飲まず食わずで2年もかかるし、どうすれば良いんだと、きくに泣きついていた。

きくは、何とかして金を作る、自分たちは一緒になるのだからと励ますしかなかった。

ある日、検番の黒木が、きくに、何か心配事でもあるのかと声をかけて来る。

一方、ようやく検番見習いになった音松に、雪山で命を助けてもらって、もう5年経つなとみねは伝えていた。

そんな音松に、国から送って来たと言う炒り豆を手渡したのは、はなだった。

廻りの女たちは、はなが音松に惚れている事を知り、からかっていた。

きくは、藁小屋で会った黒木に、何とか、信吉の事で、旦那様に話してもらえないかと相談していた。

最初はその相談に耳を傾けていたかに思えた黒木だったが、急に、きくを藁束の上に押し倒すと、襲いかかる。

その頃、事務所では、春夫が金庫から金を出しながら、今抱いたばかりのゆりをもう一度抱きしめ、キスをするのだった。

春夫とゆりの関係は、すでに工女たちにも知れ渡っており、秋口には祝言が行われているとみんな噂しあっていた。

それを聞いたみねも、素直に良かったなと喜んでいた。

その頃、黒木から乱暴されたゆりは、黒木が出て行った後、思わず、ランプを藁束の中に投げ込み、火をつける。

藁小屋が燃えているのに気づいた藤吉は狼狽し、ふんどし一丁の姿でみんなを呼び集めると、消化作業を始める。

工女たちは、その火の手を窓から見てパニックになる。

いわが、柵の鍵を外し、工女たちを一旦外に逃がす。

信吉は、駆け寄って来たきくが、自分と一緒に逃げてくれと言うと、火事の様子を見て、誰がやったかを察する。

消火後、ケガ人が7名と行方不明の工女が1人いる事が判明する。

姿を消したのはきくだった。

翌日、作業をしていた工女たちは、機械が急に止まってしまった事に驚く。

何かが水車に引っかかったらしいと、検番たちが様子を見に走る。

水車に引っかかっていたのは、信吉ときくの心中死体だった。

やがて、盆の季節になり、工場内にやぐらが建てられ、その上に乗ったはなが歌い、横で太鼓を音松が叩いていた。

その周囲を、工女や従業員たちが取り囲み、盆踊りが盛大に執り行われていた。

藤吉は、上機嫌で、握り飯など料理を庭に運ばせて来て、今日は無礼講だとみんなに告げ、ゆきと春夫にも一緒に踊れと勧める。

その後、人ごみから離れ、水車の側にやって来たはなと音松だったが、握り飯をうまそうに食べるのに夢中な音松は、はなのロマンチックな様子には付いて行けなかった。

その時、飛騨の打ち込み太鼓が聞こえて来たので、音吉はノリノリになる。

太鼓を叩いていたのは、春夫と藤吉だった。

音松は、はなにキスしようとするが、恥ずかしいと肘鉄をくらい、そのまま川に落ちてしまうが、川の中でも太鼓を叩くまねをしてみせる。

やがて、春夫の結納の式が執り行われるが、相手はゆきではなく、銀行の頭取の娘だった。

藤吉ととみに呼ばれたゆりは、金を渡され、これで、腹の子供を始末してくれと言われる。

ゆりは、何とか子供を産ませてくれ。自分が寄宿舎で育てるからととみに願い出るが、世間体があるとにべもなく断られる。

その後、寝室にいたゆりに会いに来た春夫は、これからは銀行資本が必要なんだ。頭取のお嬢様なんて、お飾りに過ぎないと言い、子供を始末してくれと頼むが、ゆりは、そんな春夫をビンタする。

たまたま部屋の外に戻って来たみねは、2人の会話を聞いてしまう。

ゆりは、きくと信吉を殺したのはあんただ。120円を盗ったのはあんただと責めたので、思わず、春夫はゆりにつかみ掛かるが、そこにみねが入って来て、春夫を止める。

春夫が出て行った後、ゆりはみねに感謝しながらも、自分はお前に負けたと呟く。

ゆりはさらに、阿多野に帰って赤ん坊を産む。母様が自分を生んだように。そして、又、諏訪に戻って、糸を採ってみせると告げる。

それを聞いたみねは、お前は強い子やと感心するが、ゆりは、きくやときのように、キカヤに殺されてたまるかと気の強い所を見せる。

工女たちは、工場にやって来た花嫁の姿に見とれる。

その日も、紅白饅頭が全員に配られるが、みねは、俺は食わん、食っちゃいかんと思うと言い出したので、同じ部屋の仲間たちは同調し、食いしん坊のはなまでも、饅頭を食うのを諦める。

一人、身重の身で帰路についたゆりだったが、野麦峠近くの熊笹の辺りで苦しみ出す。

気がつくと、茶屋の老婆に助けられていた。

老婆は、生まれた赤ん坊は男の子だったが、熊笹の根本に埋めてやったと教える。

毎年、毎年、キカヤから孕まされた工女が、猫の子みたいにこの辺で赤ん坊を産む。ここは、野麦峠ではなくて、野生み峠じゃと老婆は嘆く。

やがて、アメリカに大恐慌が襲う。

横浜の中田商店では、返品の山が工場に送り返されて来る。

藤吉は、工場に出向くと、未曾有の危機の時だから、自分にどうか協力してくれと頭を下げる。

その頃、あの優しかった若旦那は、立派な口ひげをはやし、竹刀を持って、工女たちをしごく鬼のような男に変貌しており、不満があるものは辞めてもらうと脅しつける。

輸出がダメなときは、国内産で食いつなごうと言うのだった。

しかし、新聞紙上では、次々と閉鎖をして行く製糸工場のニュースで連日埋め尽くされていた。

春夫は、サイレンと連動した事務所の大時計を、朝は20分進ませ、夕方は20分遅らせていた。

その事を、音吉から聞いたはるは、他の仲間にその事実を教える。

もはや工女たちは、限界を越えて働かされていた。

みねは、機械の糸が切れている事を指摘され、春夫からビンタを食らう。

はなたちに、抱きかかえられるように寝所に戻って来たみねは高熱を発していた。

その後も、みねは、仕事を続けていたが、咳き込むようになり、等々、喀血してしまう。

その日の終了サイレンが鳴った時、便所にかけて行く工女たちの背後で、悲鳴が上がる。

みねが、繭を煮る鍋に大量の血を吐いて倒れていたのだった。

「みねが病気になったので、引き取れ」と記された電報が実家に届く。

辰次郎は、背負子を背負い、一人キカヤへ向かう。

みねは、一人物置小屋に寝かされ、その表には「立ち入るべからず」と書かれた立て札と、縄で封鎖されていた。

そんな中、同情した音松は、時々、みねの小屋にやって来て、頭を冷やしてやったりしながら、早う、良くなって下さいよと声をかけるが、傍らに置かれた食事には全く手が付けられていなかった。

音松が帰った後、膳に乗っていた卵に手をのばし、それを両手で包み込んだみねは、みんなに感謝をする。

辰次郎は、ようやく諏訪湖を見はらす場所に到達する。

工場の事務所にやって来た辰次郎に、藤吉は、見舞金としてわずかばかりの金を渡しかけるが、横にいた春夫は、みねはもう何ヶ月も仕事をしておらず、かかった薬代や慰謝代を差し引くと、銭も払えないと言い切る。

とにかく、小屋に入り、みねと対面した辰次郎は、うちに帰りてえ、飛騨に帰りてぇと呟くみねの言葉を聞くと、すぐに帰ろうと答える。

みねが工場を後にすると聞いたはなたちは、仕事を止め、みねを見送らせてくれと外に出ようとするので、黒木は、そんなはなを突き飛ばす。

さらに、春夫もやって来て、機械はダメになったら捨てられるだけ。それが機械の運命だと工女たちをどやし付ける。

辰次郎に背負われたみねは、門番の爺さんに礼を言い、遠ざかって行く工場に向かい合掌する。

諏訪湖を見納め、飛騨高山に到着した辰次郎だったが、宿に泊ろうと交渉しても、病気が病気だけに断られ、あげくの果てに塩まで撒かれる扱いをされる。

仕方がないので、外で焚き火を焚いて、野宿をするしかなかった。

辰次郎は、早う家に帰りたいと言うみねに、自分が着ていた上っ張りを着せ、一晩中焚き火を焚いて、眠らせる事にする。

翌日、野麦峠にやって来たみねは、来る時はいつも雪の中だったので気づかなかったが地蔵を見つけ、手を合わしていた。

辰次郎は、そんなみねに水筒を渡し、秋野の麦はなかなか良いと周囲の景色をみねに見せる。

みねは、ああ、飛騨が見える…、兄さん、オラ、飛騨に帰って来たんだ…と呟き、水筒を口元に持って行きかけるが、その時、水筒が手からこぼれ落ちる。

茶屋の老婆は、持ち込まれたみねの死体に、死化粧をさせながら、野麦の谷から這い上がって来たものは長生きすると言ったな…と死体に話しかける。

あの時は可愛い新子じゃった。桃割れの良く似合う…。おれがなあ、嘘付いた事になるんや。80、90まで生きるはずやったんや…と云いながら、口紅を差す老婆は、俺に笑いかけているようや。何とおぼこい娘じゃ…と嘆く。

辰次郎は、みね〜!と、泣きながら山に向かって呼びかける。

みねが野麦峠で死んだと言う知らせが、見習い工女によってはなたちに知らされる。

機械の前から一斉に立ち上がった工女たちは、一斉に入り口に向かう。

それを止めようとした黒木にむしゃぶりつき、許してやってつかあさい!と懇願したのは音松だった。

工女たちは、姉さんグループも含め、ほぼ全員が外に走り出ると、「立ち入るべからず」と書かれた立て札を引き抜き、物置小屋の中を覗く。

そこには、みねが手を付けないまま残された食膳が置いてあった。

それを見ながら、はなは、俺たちも皆、デニール検査で優等を取るようになったぞと報告すると、全員、跪いて合掌し、「南無阿弥陀仏」を唱え出す。

最後まで、機械の前に残っていたさだまで立ち上がったので、いわが止めようと立ちはだかるが、さだは繭をいわにぶつけ、窓を開けると、そこから見える物置小屋に向かって手を合わせる。

小屋の周囲には、工女たちが全員合掌していた。

明治43年

みねが死んだ翌年、生糸相場は復活し、生糸は黄金時代を迎えようとしていた…

生糸生産世界一祝賀大会で踊る貴婦人たち…

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

いわゆる「女工哀史」を描いた大作

実話の取材から生まれた原作を映画化したものなので、多少の映画的演出はあるにせよ、こう云う悲惨な事が実際に行われていたと言う事が凄まじい。

人間扱いされず、奴隷のようにこき使われる貧しく若い娘たち。

こうした数知れない犠牲のもとに、今の日本の繁栄はあるのだ。

三國連太郎演ずる足立藤吉も、そんなに極悪人としては描かれていない。

家庭では、婿養子として嫁に頭が上がらず、一人息子を甘えさせてしまった気の弱い男である。

時には、無礼講を許して、工女たちをねぎらう事も忘れない。

火事の時には、ふんどし一丁の姿で表に飛び出して来るような男でもあり、太鼓を叩かせれば「無法松」のように軽快に打ち鳴らす技量も持っている。

むしろ、冷血に描かれているのは、検番の黒木だったり、いわだったり、藤吉の妻とみの方だろう。

金で人柄が変わってしまうみねの祖父、友二郎の姿なども哀れである。

工女たちの中で、良く演じているのは、不器用なとき役の浅野亜子だと思う。

夏場で、乳房がこぼれそうになるほど肌が露出した薄着で喧嘩をしたり、緊張すると小便が近くなると言う芝居をしたり、放屁をしたりと、若い娘がやるにはすごい抵抗がある役だったに違いない。

根っから明るいはなを演じている友里千賀子と、川瀬音松を演じている赤塚真人は、重く暗くなりがちの芝居に時折光をさす、いわばコメディリリーフのような役割だろう。

微妙なのが、森次晃嗣演ずる春夫。

甘やかして育てられて来たバカ旦那と言う役所だが、残念ながら森次の芝居は上手いとは言えず、表情なども固く、どの場面を見ても同じような演技をしているのが気にならないではない。

その分、姉さん工女を演じている面々が上手いので、かなり救われている感じがする。

原田美枝子も大竹しのぶも、特にオーバーな演技をしている訳ではないのだが、特に大竹のあどけない表情が自然に見える所が、ラストの涙を誘うのだと思う。

話自体は、以前観たことがあるので知っていても、やはり、ラスト近くになると、涙を止める事が出来なくなる。

北林谷栄の老練な演技と、地井武男の朴訥な演技も相まって、最後の野麦峠のシーンと、工場内の小屋の前に手を合わせる工女たちの姿は胸を打つ。

雪山での行進シーンでの撮影もさぞや大変だったと想像出来るが、劇中何度が登場する、工場の全景の精巧なミニチュアセットも出来映えが素晴らしく、見応えがある。