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1955年、近代映画協会+独立映画、新藤兼人脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

じりじり太陽が照りつける夏のある日。

地面では芋虫に襲いかかるアリ。

苦しんで身をくねらせる芋虫。

それをじっと見下ろしていた矢野秋子(乙羽信子)は、やがて、立っていた通りの向こうに目をやる。

道の向こう側から一台の車が近づいて来る。

書留を積んだ郵便車だった。

その郵便車の前に立ちふさがり、止める二人の男、原島之男(浜村純)と三川義行(殿山泰司)は、それぞれ猟銃と日本刀を持っていた。

日本刀を持った三川は、運転席に飛びつくと、中に乗っていた運転手の森山(望月伸光)と助手の 佐藤(近藤宏)、局員の岡野(柳谷寛)の三人に突きつけ、車を脇道に誘導する。

脇道は,海岸に続く狭い下り坂だったが、その道の先には、吉川房次郎(菅井一郎)が待ち受けていた。

上の道から、心配そうに郵便車を見下ろす女二人。

男女五人、馬喰坂で強盗!…新聞に記事が載る。

やがて、パトカーと記者たちの車が、立川の草むらにやって来て、放置してあった外車のビックを発見する。

刑事(神田隆)たちに手錠をかけられ警視庁に連れて来られる矢野秋子。

そこには、原島も先に掴まっており、原島は掴まって来た矢野の姿に驚き、原島の姿を見た矢野は、その場で気絶してしまう。

時間は半年前に遡る。

外は雪が振る中行われた、東洋生命新宿支社での勧誘員面接試験会場

山本秀夫(信欣三)が面接室から出て来た後、矢野の名が呼ばれたので、部屋の外で待機していた就職希望者の中から立ち上がると、矢野は面接室の中に入る。

柔和そうな三人の男が面接官らしく、中央に座った新宿支社営業課長(三島雅夫)が矢野の事を戦争未亡人ですね?と確認する。

横に座った男(芦田伸介)が、今まで、どんな仕事を?と聞くが、矢野が口ごもっているので、事情を察した営業課長は、それ以上、問いつめるような事はしなかった。

その後、廊下に出て来た営業課長は、待っていた面接者たちに全員合格ですと言い渡し、御中食を用意しているので食べて下さいと、別室に案内する。

そこにはテーブルの上に、人数分の丼物が置かれており、若手社員が全員分のお茶を入れ始める。

なかなか全員、出されたものに手をつけない中、新宿支社長上森鉄五郎(東野英治郎)が登場し、挨拶を始める。

自分は尾道出身だが、若い頃、市役所の給仕をやっていた。

ある日、そこに保険の勧誘員がやって来て、言葉巧みにあっという間に30人の人を保険に入れたのを見た瞬間、自分は市役所を止め、勧誘の仕事を始める事にした。

最初は見下されていたが、現在では、羨望の目で見られるくらいになった。

皆さんの講習を十分学んで、一日も早く一人前の勧誘員になるようにと支社長は挨拶を終える。

次いで、先ほど面接をしていた営業課長は説明し始め、すでに保険に入っているような高級人種を誘っても無理、皆さんが狙うのは、その日暮らしの長屋族、勤労族に絞り、彼らがギャンブルなどにつぎ込む金を保険に回して人助けすると思って続けて下さいと言う。

さらに、西武支部の橋本(小沢栄太郎)なる人物が登場し、山本が勤労条件を知りたいと質問したので、さらに具体的な条件を説明し出す。

六ヶ月間は外部試用と称し、一ヶ月に1500円支給される。

その間の責任勧誘金額は500万円。

10万円で1000円の歩合を払うので、500万円勧誘出来たら5万円の報酬になり、目標金額を達成出来たものは正社員になれると言う。

全員、池袋支社に勤める事になる。

翌日の池袋支社にやって来た矢野は、昨日の橋本が、ここは桜組と梅組に別れて競い合う形になっており、自分は桜組担当、梅組は町田(北林谷栄)と云う女性が担当すると紹介した後、今は世間的に深刻なデフレが蔓延しているので、親類縁者にすがりついてでも責任金額を達成されん事をと指導される。

その後、一行は、丸の内の東洋生命本社の見学に出かける。

そこは、総工費20億、東洋一のビルと紹介され、医務室やレントゲン室もあると言う。

一行は屋上に上がると、雪が振る中、営業部長(清水将夫)が挨拶をすると言うので、みんなは震えながら拝聴する。

信仰に打ち込むような無我の境地で勧誘すれば成功しますと云う内容だった。

矢野はようやく帰宅する。

貧しい長屋の一室では、ヨシトと言う息子が一人で母親の帰りを待っていた。

ヨシオは、唇に生まれついての障害を持っており、発音もはっきりしなかった。

翌日から、矢野は、藤林、三川らとグループを組み、勧誘に出かける。

まずは吉川が、アイロンをかけている洗濯屋(左卜全)に入って、懸命に勧誘するが、全く相手にされない。

そこに押売がやって来たので、追い払おうとした吉川は、逆に相手に殴られてしまったので、矢野や三川が駆け寄ってかばう。

次は、三川が焼鳥屋に入って勧誘するが、こんな不景気な時に保険金など払う余裕などないとにべもなく断られる。

藤林がやってもダメ。

最後に、矢野が、病床の男がいる家に入って勧誘するが、男は、自殺でも金は入るかと聞くので、矢野は、1年間支払いを済ませて頂ければ…と申し訳なさそうに説明すると、1年間も払う金があるんだったら保険などに入らないと男は返事を返す。

二ヶ月後の池袋支店にやって来た矢野は、先々月には22人いた新人勧誘員が、すでに11人減った。今後誰が残るのかが勝負になるが、まだ一人も勧誘出来ていないようでは…と、苦々しげな表情の橋本支部長から呆れられる。

さらに橋本支部長は、皆さんはここの正社員になれないと、その後の生活はどうなります?と痛い所を付いて来る。

橋本支部長に指名され、ご家族は?と聞かれた三川は、妻が一人に子供が二人いる。前は自動車の修理工をやっていたが、事故で指を怪我して辞めた上に、ぜんそくの持病があって…、前に働いていた工場もアメリカ車に押され傾いているので…と、今の苦境を吐露する。

次に指名された吉川は、娘が二人おり、上は結婚しているが、その旦那が失業してしまい、今は家族四人がうちに転がり込んで来ていると家庭環境を教え、昔は映画の脚本を書いており、戦時中までは、スタート同じくらい大きく名前がポスターに載ったりした時代もあったが、今はすっかり相手にされなくなったと言う。

藤林も未亡人だった。音楽学校を出ていたが、今は、中学生の娘と、小学生の息子の二人の子供と三人暮らしだと言う。

原島は、妻と二人暮らしだと言い、戦時中はビルマで陸軍中尉だったが、戦後は銀行に勤めていた。しかし組合活動をしていたため首になってしまったと云うので、その組合時代の仲間の所に勧誘に行ったら良いのではないかと言う橋本支部長に、原島は、幹部は一年で交代してしまうので…と言い訳をする。

山本は、家族七人で暮らしているが、貧乏の親類は皆貧乏しかおらず、とても勧誘を頼める相手ではないのだと云うので、聞いていた橋本支部長は苛ついて来る。

三川が帰宅すると、傘張りの内職で生計を立てている妻文代(菅井きん)が、子供を作るばかりでなく養う義務があるんだよと嫌みを投げかけて来る。

吉川が帰宅すると、妻のたか(英百合子)が出迎えるが、娘婿の高橋(斎藤美和)が電熱器を修理している所だった。

孫娘のエイ子が、学校の友達に保険の話をしてみたと殊勝な事を言ってくれる。

藤林がアパートに帰って来ると、帰りを待っていた大家から、家賃を五ヶ月も滞納している事に文句を言われ、今日から電気を止めると言われてしまう。

母親の帰りを待っていた息子は、蝋燭を買って来ようか?と気をきかせ、夕食の準備をしていた姉が、自分が買って来ると言ってくれる。

原島が帰宅すると、茶漬けを食べていた妻の智子(坪内美子)が、幼稚園の先生になる相談に富岡さんの所に行くと出かけて行く。

矢野は、踊子をやっているみどりの口利きで、楽屋にいる人気スターの春日小百合が10分間だけ話を聞いてくれるようだからと言うので、原島と一緒に楽屋前で待っていた。

やがて、由利に促されて入った楽屋で、次の舞台用にメイクをしていた男装の麗人春日小百合(曙ゆり)は、みどりから話を聞いてあなたに同情したので、200万の生命保険に入ると言ってくれる。

それを呆然と聞く矢野だったが、小百合は、今日5時からだったら時間が空いているので、健康診断を受けても良いとまで言ってくれた。

ところが、出来上がったレントゲンで、小百合の病気が発見されてしまい、この話はご破算になってしまう。

千載一遇のチャンスを失った矢野は、何とかこの事態を解決出来ないかと焦り、本社の健康診断担当、和田医師(宇野重吉)に、何とかごまかせないかと相談しに行く。

しかし、和田医師は、自分も中国からの引揚者であり、金がないのでここに勤めているので、自分があなたに同情して間違いを犯したら、私は職を失ってしまうからだけですと拒否する。

その言葉を聞いた矢野は、自分の軽率さを詫びるしかなかった。

かくして六ヶ月が過ぎ去った。

原島が10万円1口、吉川が5万円2口、藤林が10万円1口、三川と矢野は、勧誘ゼロだった。

あまりにふがいない成績に露骨な不快感を示した橋本支部長は、自分など、前に辞めた会社の退職金までつぎ込んで大口保険を自分で買ったものです。身体を張って生き残るしかないんです。勝った者だけが生き残れるんです!と説教する。

金持ちの家からピアノの演奏が聞こえて来る裏手の廃墟に集まり、めいめい弁当を食べる五人。

吉川は、近いうちに、皆ちりじりになりそうですな…とため息をつく。

三川も、自殺するか強盗でもするか、二つに一つですなと笑えない冗談を言う。

原島は、むしゃくしゃしたのか、近くの犬に石をぶつけ、強盗でもやりませんか?会社は最初から我々を正社員にするつもりなどなかった。我々の親類縁者からの小口の保険だけが目当てだったんですと言い出す。

それを聞いた吉川も、全員採用とか、最初から卵丼が用意されていたりとか、おかしいと思ったと同意する。

その時、三川が、昔進駐軍の雑役をしていた時、聞いたんだけど、毎日、100万円以上の現金を積んだ郵便車が定時に近くの道を通るらしいと言う。

その日、帰宅した藤林は、アパートから運ばれる二つの担架を見て驚くが、管理人が、井川さんが夫婦で自殺したと聞くと、急いで部屋に飛び込み、子供たちが死んだのではなかったと知り、思わず「良かった!」と口走る。

吉川が帰宅してみると、高橋が荷造りをしながら、昔の職場仲間が九州の福岡にいるので、自分も九州に行ってみようと言うので、あなたは機械工なんだから、じっくり良い仕事を探して下さい。我々に気を使うのは分かるが、飢え死にするのなら一緒にしましょうよと、思いとどまらせる。

三川が帰宅すると、妻の文代から臀をスリッパで何度も叩かれている長男が大泣きしていた。

訳を聞くと、夏休みにキャンプに行きたいとお兄ちゃんが言ったのだと、妹が説明する。

貧しい為に、子供をキャンプに行かす事も出来ない文代は、あまりの惨めさに、裏に出て泣き出す。

原島が帰宅すると、妻の智子が、愛情も金次第よねと言い出したので、原島が別れても言いよと答えると、手切れ金、いくら下さる?と智子は言い返して来る。

頂けるなら、例え5万でも10万でも良いの。あなたを困らせてやりたいの。一日でも早く別れましょう。手切れ金を頂戴としつこく迫る。

手切れ金も払えないくせに…と、暗にバカにしているのだった。

矢野は家の裏窓から見えるヒマワリの花を見ながら、軍歌や、万歳と夫を送り出した時のみんなの声援を思い出していた。

内職の凧作りを手伝いながら、息子のヨシトが、自分の貯金いくら溜まった?と聞いて来るので、200円くらいかしらと矢野が答えると、口の手術、いくらかかるの?と聞いて来る。

思わず絶句した矢野だったが、ヨシトが重ねて聞くので、2万円くらいかかるが、きっと母ちゃんが直してあげると約束する。

ヨシトは、学校でみんなが僕のまねをするんだと、虐められている悩みを訴えたので、矢野は堪らなくなる。

翌日、又、みんなは、ピアノの音が聞こえる廃墟の場所に集まって来る。

遅れてやって来た三川が「どうも、皆さんと一緒じゃないと心配でね…」と言い訳をする。

そこにやって来た吉川が、「やりましょうか?とにかく見に行ってみようじゃないですか、郵便車を…」と言い出す。

強盗を決意したと言う証しだった。

全員が電車で現場に行ってみる事にする。

郵便車が通る海沿いの道に一行を案内して来た三川は、自分がかつて働いていたのは、この山の向こうだと説明し、郵便車がここを通るのは、朝夕二回だと言う。

今の時刻は、11時32分だったが、その言葉通り、郵便車がやって来て、道に立っていた5人の脇を通り過ぎて行く。

吉川は、自分たちは最後に残った5人だが、強盗に参加するかどうか強制出来ない。私はどうしても金がいるのですと言い出す。

すると、原島も三川も、やると同意する。

吉川は、皆さんは私を非難しているでしょうが、私にはもう方法がない。これは自殺行為です。私は屑ですと苦しそうに言い訳するが、藤林も矢野もやると云い出したので、男2人は驚く。

女性だったら、どうにかして金を作る事は出来るのではないかと云う事だったが、矢野は、ここまで付いて来たんです。最後まで皆さんとご一緒にと主張する。

そこに、さっきの郵便車が又戻って来る。

郵便車は11時10分に会社を出発し、ここを11時30分前後に通るのだと三川が教える。

原島が、あなたは運転が出来るのにどうして仕事につかれないのかと聞くと、三川は、指を事故で怪我してから、自動車事態に怖くなったのだ。女房は昔ダンサーだったが、金がないと上手くいかなくなったとこぼす。

矢野が、もし、郵便車が私達の脅しに停まらなかったら?と疑問を口にするが、それは我々に取って、むしろ救いかもしれないと吉川が答える。

いよいよ強盗決行日、三村は、外国人女性が屋敷前で停めていた外車に乗り込むと、鍵がかかっていなかったのでそのまま走り出す。

武器を調達して来た原島が、途中でその車に乗り込み、矢野と藤村も街頭で拾い上げる。

横浜駅で吉川も車に乗り込み、全員が現場にやって来る。

外車で、海岸へ向かう細い坂道を下り、そこで降り立った5人は、それぞれの持ち場に付く。

時間は、午前10時半、郵便車が通る予定の1時間前だった。

藤村が、もし郵便車が来なかったら?と恐怖感から疑問を口にするが、その時、海から、回想を背負った地元の女が現れ、ハイキングですか?と声をかけて来たので、全員凍り付いてしまう。

しかし、その女は、彼らには無関心のように通り過ぎて行ったので、原島は弾の入っていない猟銃を持ち、日本刀を持った三川と共に、道の脇の草むらに身を潜める。

矢野と藤林は、それぞれ道に立ち、周囲の見張り役。

吉川は海岸で待機する事にする。

藤林は、自転車で通り過ぎる坊さんを目撃する。

矢野の方は、海に浮かぶ小舟や、石垣の上で一人つるはしを奮っている工事人の様子などを監視していた。

草むらに潜んでいた原島は、のどの渇きに絶えきれなくなったのか、山から崖を固めたコンクリ沿いに流れていた清水を飲みに走る。

11時10分、郵便車が会社を出発したであろう時間であった。

道上でアリに襲われている芋虫を見つめていた矢野は、向こう側から、唄を歌いながら近づいて来る小学生の一団を見て身をすくめる。

女性教師に引き連れられたその一団は、藤林の方も確認し、こちらも思わず背を向ける。

女二人に取って、子供の姿は自分たちの子供を連想させるものだったのだろう。

子供たちが通り過ぎて行った後、郵便車が近づいて来たのを、三村がまず発見する。

郵便車を確認した藤林が、海岸にいる吉川に手を振って知らせる。

その時、一台のトラックが反対方向から近づいて来たので、全員謹聴するが、何事もなく通り過ぎて行く。

矢野と藤林は、役目がすんだと思ったのか、海岸への坂道を走って来るが、それに気づいた吉川は、上を見張って!と声をかけ、二人を戻らせる。

郵便車を停めた三川と原島は、郵便車を海岸へ続く下り坂の脇道に誘導すると、運転席にいた三人を降りし、外車ビックの後部トランクの中に入れる。

吉川は、海岸に停めた郵便車の後部ドアの鍵を、石を使ってこじ開けると、中に入っていたたくさんの堤の中から一つをナイフで引き裂こうとして、思わず指を切ってしまう。

しかし、何とか、その手当もすませた吉川は、袋の中から札束を取り出す。

上の道では、工事人が一人、脇道の側に自転車で来ると、つるはしを使い始めるのを見ていた。

そんな二人の女たちに、下から原島が急ぐように声をかけ、下に降りて来るように促す。

吉川は、凶器の日本刀と猟銃を海に放り投げると、他の仲間たちと一緒にビックに乗り込む。

その時、原島が鍵をくれと言い出し、一旦車から降りると、後部トランクを少し開け、窮屈でしょうが、しばらく辛抱して下さいと、丁寧な口調で、郵便局員や運転手たちに声をかける。

やがて、ビックは現場を離れ、工事人が工事をしていた後ろを遠ざかって行く。

厚木にやって来た時、後部座席に乗っていた矢野、藤林、原島たちは車酔いしてしまっていたため、一旦車を停め、後ろの三人は外に吐きに走る。

その時、助手席に座っていた吉村が、近づいて来る自転車に乗った二人の警官の姿を発見、クラクションを鳴らして、全員を乗り込ませると、その場を走り去る。

原町田の踏切で停まった時、子供たちが見慣れぬ外車を見て騒ぎ出したので、脇の交番にいた警官(下絛正巳)が子供たちを制し、外車をじろじろと眺め始める。

中に乗っていた5人は、生きた心地がしなかったが、やがて踏切が開いたので、そのまま走り出す。

警官も何も気づいていなかったようである。

埼玉県の正丸峠までやって来た彼らはそこで車を停めると、一旦バックして路肩に止めようとするが、その時、一台の材木を積んだトラックが近づいて来たので、それをやり過ごす。

車を降りた原島は、後部トランクを開け、閉じ込めていた三人を開放すると、電車賃を渡し、警察に届けても良いと伝えた後、再び車に乗り込み出発させると、強奪した現金は35万4000円あったので、7万ずつ渡しますと言いながら、他の4人に札束を分ける。

立川の草むらに車を乗り捨てた彼らは、駅に向かい、そこから電車で東京に戻るのだった。

自宅に帰って来た藤林は、二人の子供に、今日は外にご飯を食べに行きましょう。母さん、お金を持っているからと誘う。

吉川は、牛肉を買って帰宅すると、今日は保険の大きいのを取ったのですき焼きだ!と家族のみんなに伝える。

三川は、自宅近くの駅を降り立った所で、かつての職場仲間から声をかけられる。

カンパを頼みに、今、君の家に行ってきた所だと言うので、三川は、1000円カンパすると言い、一緒に飲もうと誘う。

原島は、女友達たちと麻雀をしていた妻の智子を玄関に呼び出すと、5万5000円包んだ紙袋を手渡すと、さようならと言って、そのまま外に出て行く。

矢野は、裏口からこっそり自宅に戻ると、買って来たコロッケをヨシトに見せ、一緒に晩ご飯を食べる事にする。

中華料理屋で子供二人に食事をさせていた藤林は、お代わりをしても良いんだよと優しく微笑むが、パトカーのサイレンが近づいて来ると、表情を強ばらせるのだった。

吉川は、うれしそうにすき焼きの鍋をつついている高橋に、質に入れた洋服屋靴を明日出して下さいと勧める。

一方、三川は泥酔して帰宅すると、寝ていた文代と子供二人を叩き起こすと、寿司だ、400円もしたんだぞと叫び、土産を渡すと、自分は台所に倒れ込むのだった。

それを文代は、信じられないと云った表情で覗き込んでいた。

原島は、屋台で飲んだ後、線路脇で吐いていた。

矢野は、ヨシトを連れ銭湯へ行った帰り、果物屋で切り売りしていたスイカを買い、公園で食べながら、明日は病院で手術するので、お風呂に行ったのとヨシトに言い聞かす。

翌日、形成外科の受付では、男女5人組の強盗事件が載っている新聞を読みながら、看護婦たちがあれこれうわさ話をしていた。

女たちはきっと情婦に違いないと云うのだった。

そこにやって来た矢野は、受信料600円を払っただけではなく、入院費全額を今払っておきたいと申し出る。

看護婦は困ると断るが、矢野は、事情があって自分はこれから旅行に行くので、金を預かっていて欲しいと頼む。

そして、2階の12号室に入院しているヨシトの元に戻って来た矢野は、5000円を何かの時の為にとヨシトに手渡すと、部屋を後にする。

その後、保険会社の池袋支社に向かった矢野は、そこにすでに全員そろっていた4人と共に、会社を後にする事にする。

結局、5人は誰一人として正社員になれなかったのである。

もりそばを食べていた橋本支部長は、黙って、部屋を出て行く5人をやり過ごすと、その直後にかかって来た電話で、次の新人15人が来るとの報告を了承していた。

ピアノが聞こえて来る廃墟にやって来た5人は、一人一人別れを告げその場を去って行く。

最後に矢野と原島が残り、原島が、僕もう帰る所がないんです。夕べ、何もかも断ち切ってしまったんですと言って帰ろうとすると、矢野が引き止め、ちょっとその辺まで一緒に…と誘う。

近くの喫茶店に立ち寄った二人だったが、その直後に店に入って来た男が聞き始めたトランジスタラジオから、立川付近の草むらから51年型セダンのビックが見つかったと聞くと、慌てて店を出てしまう。

その面前に、自転車に乗った警官が通り過ぎたので、二人はあわてて逃げ出す。

吉川は、昼寝をしていたが、そこに妻のたかがトマトを買って来たと帰って来る。

高橋たちは、質屋に行っていると言う。

三川の家族は、遊園地の回転飛行機に乗っていた。

藤林一家は、東京湾の遊覧船に乗っていた。

息子が、きれいだね、東京の町が…と喜んでいる。

矢野は、ビールを買って自宅に帰って来ていた。

近所の奥さんが、入院したんだってね、良かったねと声をかけて来るが、上の空で返事を返し、すぐに部屋に入る。

そこには、原島がいたのだ。

矢野は、家まで連れて来た原島にビールと夕食を勧めながら、自分の境遇を語り始める。

息子は、主人が戦争に行った後、終戦の年の8月に生まれたんですが、生まれた時、看護婦さんから「どうしましょう?」と声をかけられ、最初は意味が分からなかったんですが、赤ん坊を見せられた時、気絶してしまいました。

すぐに手術してもらったんですが、赤ん坊で泣くもんですから、巧くいかなくて…。

夫とは、結婚して三ヶ月目で戦争に取られました。

見送りに行った時、話に夢中だった夫が、下士官への敬礼を忘れていたため、渡しの目の前で倒れる程殴られました。それが最後の別れになりました…。

それを聞いた原島は、美しい思い出があるだけ良いのではないですか?自分は戦争で家や財産を失い、妻はそんな自分に幻滅して…と吐露する。

矢野は、女給なんかもやってみたんですが、お世辞なんかが上手く言えなくて…、とうとう…と、言いかけて泣き出す。

外では雷鳴が鳴り出したので、夕食を終えた原島は帰ろうと靴を履くが、矢野は、「原島さん!」と駆け寄ると、「いらしゃらないで!いらっしゃらないで!一人じゃとても淋しくて、どうしようもなくって…。いて下さい。もうしばらくいて下さい!」とすがりつく。

結局、矢野の家に一晩泊まった原島が翌朝顔を洗っていると、矢野が新聞を買って来て、吉川さんと藤林さんの事が出ていますと教える。

吉川は、室札が手がかりになり逮捕されたと言う記事。

藤林の方は、両手に二人の子供を抱いて、東京湾に身投げしたと言う記事だった。

新聞には、矢野たちへ宛てた遺書まで載っていた。

皆さんさようなら。子供たちと一緒にあの世に参ります。今日は楽しゅうございました。

泣き出した矢野は、どこかへ逃げましょう。もう少し、あなたとご一緒に…と言い出す。

それを聞いた原島も、逃げましょうと答え、今日は息子さんの手術の日でしょう?
あなたは病院に行ってらっしゃい。手術の結果を見て来なさい。渡しはここで待っているからと言う。

矢野は、必ず待っていて下さいねと念を押して抱き合うと、家を抜け出て、病院目がけて走り出す。

やがて原島がもう一度新聞記事を確認していた時、裏側に人の気配がしたので緊張する。

玄関から出ようとした原島だったが、そこからも刑事がなだれ込んで来る。

病院に到着し、二階に駆け上った矢野の方も、そこに待っていた刑事を見て立ちすくむ。

ちょうど、ヨシトを乗せたベッドが運ばれて行く所だった。

手錠をかけられた矢野に近づいた看護婦(奈良岡朋子)が、「奥さん、すみました、手術は」と声をかける。

刑事たちは互いに目で合図をし、手錠を付けたまま、自由にされた矢野は、階段を降りて下に向かった息子の眠っている姿に「ヨシト!」と声をかける。

その後、手錠をかけられた矢野は、刑事に連れられ、病院を出るのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

犯罪ものと云うよりも、貧しさのどん底生活を送る哀しい人間たちの末路を描いた作品と言うべきだろう。

救いが何もないと言う所がすごい。

生命保険の勧誘員と云うのが、そう言う人たちが行き着く最後の職種と云う描き方もすごい。

確かに、保険の勧誘員と云うのは、親類縁者にすがって終わりと云う話を聞いた事がある。

もちろん、中には優秀な勧誘員もいるのだろうが、一般的な認識はそう言うものだと云う事かもしれない。

貧乏人を演ずる役者たちは皆実力派ぞろいだが、特に、最初の方で出て来る信欣三と、原島役の浜村純は、その痩せこけた外見とも相まって、本当に鬼気迫るものがある。

藤林富枝 を演ずる高杉早苗と、三川文代を演じている菅井きんの哀れさも見事。

夏場と云う設定なので、ほとんどシミーズ一丁の姿で登場する菅井きんの、体全体から臭い立って来るような貧乏くささは、特筆に値するのではないかとさえ思える。

犯罪ものとして見ていると、原島が凶器を入手した経緯や、彼ら全員の身元がすぐにバレてしまった過程が説明不足のような気もするので、サスペンス性はやや稀薄のようにも思える。

あくまでも、当時の社会情勢の劣悪さと、底辺で死と隣り合っているような生活を余儀なくされている人々を見つめた作品として観るべきだろう。

ひょっとしたら、貧しい脚本家と言う吉川の設定には、新藤兼人監督自身の姿が投影されているのかもしれない。

伊福部昭が担当している音楽には、どことなく「ゴジラ」(1954)が入っているような気もするのが興味深い。