1998年、石井プロダクション、つげ義春原作、石井輝男脚色+監督作品。
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赤い衣装に身をまとった女が叫ぶ。
タイトル(海岸で、不気味な動きをするふんどし姿の男女(アスベスト館)の舞踏)
貸本漫画家のツベ(浅野忠信)は、頭のもやもやが取れない状態が続いていた。
一向にアイデアがまとまらず、書きかけの原稿を破ってしまう。
国子 (藤谷美紀)と知り合い、何となく一緒に住むようになったが、そのアパートを追い出されてしまったので、国子は、世田谷の会社の寮の賄い婦として住み込むことになったので、ツベは送って行ってやる。
その寮の本社は大阪にあり、時々上京して来る人の賄いをやるだけだと国子は説明する。
屋敷の入り口に来た国子は、「あんた、がんばって、迎えに来て」とツベに語りかける。
雨の中、ツベは赤羽に住む兄の所へ向かったが、兄夫婦は良い顔をしなかった。
結局、下町の太平荘と云うアパートでレタリングの仕事をしていた木本(金山一彦)の部屋に転がり込むことにする。
木本は、気持よく共同生活を承知してくれたが、唯一困るのは、夜中、一つの布団に寝ていたツベに抱きついて来ることだった。
しかし、翌朝の木本の話を聞いていると、性癖とかではなく、夢の中の出来事だと思っている様子。
つまり寝ぼけているだけのようだったが、ツベには迷惑だった。
ある日、木本が不在の部屋に、国子がふらりと訪ねて来る。
貯めた金でテレビを買ったとか、2kg太ったなどと、どうでも良いことを話すので、金を貸してくれとツベが頼むと、金を貸すと、あんたは仕事をしなくなるので貸さないと言い捨てトイレに行く。
ツベは、つい、国子が置いて行ったバッグを開けて財布を捜すが、中に、避妊具が入っていたので、その意図を疑い、部屋に戻って来た国子に抱きつこうとするが、抵抗される。
国子が勤めている寮に様子を見に行ったツベは、国子と仲良く語らっている社員の顔に見覚えがあった。
セパードの小次郎(広崎哲也)だった。
国子はツベのことを「ノライヌ」と呼んでいたので、さしずめ小次郎はセパードなのだ。
かつてセパードを連れて、国子がアパートにやって来たことがあった。
面白くないツベは、タバコを買いに行くと言って部屋を出てしまう。
鉄橋の所で暇をつぶしていると、国子が近づいて来て、あの人がカツ丼をおごってくれると云うので、今注文して来た所だ。焼きもちを焼くなんて男らしくないと言う。
仕方なく、部屋に帰り、机に向かったツベだったが、カツ丼を食べ始めた国子やセパードと同じテーブルには向かおうとしなかった。
セパードは、女は男次第で、ダイヤにもただのガラス玉にもなるなどと言い始め、スマちゃんはどうした?と国子に聞く。
結婚したけど、相変わらず浮気をしている。あんたもスマちゃんに気があったのだろう。スマちゃん、美人だったからねなどと国子は答える。
その夜、三人で並んで寝ることにするが、スマちゃんの話を聞いたツベは一晩中寝付けなかった。
それでも、翌朝気がつくと、国子はツベの腕枕で寝入っていた。
ツベは、寮の前で、中の様子をうかがっていた。
この寮の仕事も、この会社の社員であるセパードは紹介してくれたものだった。
あの避妊具は、セパートのためのものだったのかとツベは疑念を抱く。
そんなある夜、ツベは国子から呼び出される。
離れて暮らしていると、時々こうしてあった時、恋人みたいな気分になれるので、自分は結婚して、あんたを恋人にしようかな?などと話し始めた国子だったが、自分は妊娠しているかも知れない。そうだったら、あんたどうする?と突然聞いて来る。
ツベはショックのあまり、その場にうずくまって吐いてしまう。
その様子を見た国子はあわてて、ツベの背中をさすりながら、ちょっとあんたの反応が知りたかっただけで、あんたがこんなに驚くとは思っていなかったと謝る。
抱かれた男のことをツベが追求すると、二人が付き合い始めた頃に働いていた貸本屋の客だと言う。
何回やったんだと聞くツベに、判らない、途中で寝てしまったからと答える国子。
結局、4〜5回くらいだろうと云う事になり、1回だけなら許すつもりだったが、4、5回では許せないとツベは思った。
私達もうお終いねと泣き出した国子を後に、ツベはその場を立ち去る。
妊娠したと云うのなら、国子は避妊具は使わなかったと云うことであり、それがツベを絶望させた。
そんなツベの後を、一匹のノライヌが付いて来る。
ツベは、国子にたかった金で買ったブロバリンを100錠飲んで、アパートで寝る。
その後のことは木本さんから聞いた。
昏睡状態のツベを発見した木本さんは、病院に連れて行き、何とか一命は取り留める。
木本は、昏睡状態が続くツベを毎日見舞ってくれたが、そこに、アパートの大家(丹波哲郎)がやって来て、今まで、あの部屋で助かった奴はいないと妙なことを言い出す。
木本が訳を聞くと、実は木本が借りている部屋は、過去3人の人間が自殺した因縁月の部屋なのだと言う。
そんな話を初めて聞いた木本は驚くと同時に戸惑う。
しかし、大家は悪い人間ではなく、翌日も、木本のために、握り飯を作って持って来てくれる。
ちょうど、石の回診があり、排便をする可能性があるので、おむつをするようにと看護婦に命ずる。
看護婦がその場で、ツベのズボンを脱がそうとすると、寝ているツベは無意識になのか、チャックを自分であげるではないか。
それを見ていた大家は、まだ色気が残っていると喜ぶ。
やがて、看護婦が、みんな身体を押さえてくれと頼んだので、大家までがツベの身体を押さえてズボンを脱がそうとさせるが、ツベは暴れ始める。
その勢いで跳ね飛ばされた看護婦の身体を大家が受け止めるが、ちょうど、勘五k¥婦の胸を触ったので「立派だね〜」と大家は感心する。
仕方がないので、看護婦は、ツベの耳元でトイレに行きましょうとささやき、身体を支えてトイレに連れて行く。
看護婦が、小便をさせようと、トイレで尿器を取り出すと、勢い良くほとばしったツベの尿が、看護婦の顔にかかる。
それを入り口で見ていた木本と大家は大いに愉快がっていたが、なかなか止まらないツベの尿は、大家や木本の顔にもかかってしまう。
三日後、一文無しのツベがそれ以上入院出来るはずもなく、退院することになる。
履物がないので戸惑うツベだったが、昏睡状態で裸足のまま連れて来られたのだと大家から説明され、仕方なく、裸足で、先に帰る木本と大家の後に付いて行くしかなかった。
壁に写った自分の消え入りそうな影を見ているうちに、ツベは涙を流していた。
いつしか、ツベは、一人どこかの山の中に釣りに来ており、橋の途中で、奇妙な言葉遣いをする一人の美少女(つぐみ)と出会う。
ツベが、この辺りで、どこか飲む所はないかと聞くと、「もっきり屋」と言う店を少女は教えてくれた。
少女は、その店で働いているらしく、かいがいしく酌をしながら、自分は一銭五厘で、この店に買われて来たのでありますなどと言い出す。
両親はどうしているのかと聞くと、向かいで風呂に入っていると云うではないか。
窓から向かいの家を見ると、確かに男が一人裸で入浴していた。
自分を買った母親も向かいにいると云うので、それでは、かなり複雑な関係ではないかとツベは心配する。
少女の名はコバヤシチヨジと言った。
チヨジは、少し頭が弱いのか、酒を勧めると「母ちゃん、一杯やっか?」などと言いながら飲むし、その内、ツベの肩に頭を乗せて来たり、ツベの手を取って、自分の胸元に入れようとするので、ツベはびっくりしてしまう。
どこでそんなことを覚えたの?とツベが聞くと、何もしていないと、我らは張り合いがありませんなどとチヨジは答える。
そんなチヨジは、「く」の付くものが欲しいと言い出す。
「櫛か?」と聞くと、櫛は持っていると言う。
「唇かね?」と答えたツベは自分で照れて、取り消す。
「東京の娘は靴を履いているのか?」と聞くチヨジに、自分の境遇を考えたことはないのかとツベが問いかけると、「みじめです」と、意外にあっさり答える。
やがて、悪酔いしたのか、ツベは外で吐き、気がつくと「もっきり屋」の奥で寝かされていた。
店の方から笑い声が聞こえるので、客が来ているのだと判り、障子に穴を開けて覗いてみると、中年男(杉作J太郎)がきよじの乳首をもんでおり、その横では、もう一人の男が、「がんばれチヨジ!」などと言いながら、机をどんどん叩いているではないか。
どうやら、赤い靴を欲しがるチヨジを利用し、乳首を一定時間触らせ、我慢していれば、金を与えると云う賭けをしているらしい。
チヨジは、後一分!と言うもう一人の男の声にも関わらず、途中で、机に突っ伏してしまう。
ツベは、あまりの下品さと少女の哀れさに呆れ、咳をしてこちらの存在を客に知らせる。
チヨジが「正気になったかね」と近づいて来たので、ボクはろくでもない良い方をしたようだ。この土地の言葉に興味があっただけで、元々考えるようなことはなかったのだと気づくと、「もっきり屋」を後にし、夜道を帰ることにする。
一人買えるツベは、いつしか「がんばれキヨジ!」と呟いていた。
ツベは、ヌードスタジオで、一人の女(青葉みか)の身体を見るともなく眺めていた。
女は、そんなツベのことをおかしな人だと呆れる。
来る度に、見たり見なかったりするからだ。
その時、網走番外地のメロディが聞こえて来たので、ツベは黙って店を後にする。
いつしかツベは、去年の4月頃、ふらっと新宿から房総へ出かけた時のことを思い出していた。
ツベは宛てもなく、戸川と云う寂しい駅で降り立った。
その頃のツベは、ダメな方へダメな方へと物事を考えるようになっていた。
ヌード嬢は、その頃のツベに、あんたこの頃、睡眠薬をやっているのではないか?あれをやるとダメになる。自分もあれを止めてから太ったとアドバイスする。
こんな仕事をしているのを後悔しているのか?とツベが聞くと、仕方ない、色んな事があったのだ。私ってダメなのね…と、ヌード嬢も下降指向の持ち主だった。
売れないマンガを描き、芸術家気取りになっているツベも自己嫌悪になっており、ここはダメな人間の吹きだまりではないかと思った。
戸川の駅でじっとしていると、駅員(砂塚秀夫)が、もう終電は出て行ったと教えてくれる。
ツベは何気なく、この辺に「ハマナス」はありますか?」と駅員に聞くが、ツベのことを潮干狩りの客と思い込んだらしい駅員は、近くにある「柳屋」と云う食堂なら停めてくれるかも知れないと、親切に送ってくれた。
食堂は、駅員が声をかけても、最初は誰も出て来ようとはしなかったが、100人くらいの団体だと駅員が冗談を言うと、あっさり入れてくれた。
そこは、母(三輪禮子)と娘( 藤田むつみ)の二人暮らしだった。
時折、ツベの方に目配せする娘は、淫乱な女ではないかとツベは勝手に妄想する。
17、8の時に、村祭りの晩に、若者にやられたに違いないと、ツベの妄想は続く。
淫乱な証拠に、先ほど、自分が店に入って来たとき、入浴中だった娘は、わざと裸の胸をこちらに見せびらかすようにしていた…とツベは妄想する。
しかし、目は悪いようで、先ほどコンタクトをしていた。
妄想ばかりで場が持たなくなったので、ツベは、壁に貼ってあった「2日よた」とか書かれた、何かの表のようなものは何かと尋ねる。
すると、それは「漁業組合の汐見表」だと言う。
蛤のオスメスの見分け方はどうするんでしょう?と又、唐突にツベが聞くと、母親は「蛤は蛤だろう」と笑い出す。
二階の部屋で、寝付けずにタバコを吸っていたツベは、別室から「痛ぇな」「ごめん、ごめん」と話す母娘の声を聞く。
そして、なぜか、浴衣の前をはだけた挑発的な格好をした娘が、眠った振りをしていたツベの枕元を通って別室に消えて行った。
うかつなことに、ツベは灰皿の中のタバコの火を消していなかったので、あの娘は、ツベが眠っていないことを知っていたに違いない。
それなのにあの大胆な格好は?
ツベは急にふしだらな気分になり、大胆な行動に出てしまう。
あのヌードスタジオの女のように、娘の前で足を開いて股間を見せると、驚いた娘に襲いかかったのだ。
事が終わった後、娘はいけない人ね…、私達こんなになって…などと満更でもなさそうに語りかけたので、ツベは、結婚すれば良いだろう?俺がここで料理などやっていればいいのさと投げやりに答える。
その夜は、一晩中寝れずに、房総を一周しただけで東京に帰った。
今でも、あの店で、あの娘と夫婦になり、食堂の主人として年老いた自分が想像されてならない。
それから1年後、ツベは再び柳屋を訪れることにした。
中に入ってカツ丼を注文すると、料理場にいた娘は、自分のことなど全く覚えていないように対応したので、少しツベががっかりする。
海辺に向かっていると、貝売りの婆さんから、これから海に行っても上げ潮で貝は取れないので買いなさいと勧められ、蛤を買うことになる。
途中、猫の鳴き声に気付き、一匹の猫を見つけると、一緒に浜辺に連れて行き、焚き火で焼いた蛤などを食べさせてやる。
ツベも、持って来たウィスキーなどをちびりちびりと飲みながら、蛤を食べる。
猫の足の裏を瞼に付けると気持よいと噂を思い出したので、やってみると、ひんやりして気持よかった。
朝
海から、左腕を押さえた男(浅野忠信)が浜に上がって来る。
こんな所にメメクラゲがいるとは思わなかったと呟く、上半身裸のその男は、このままでは出血多量で死んでしまうので急いで医者を捜さなければいけないと言いながらも、切れた血管を押さえていなければいけないので走れなかった。
静止した農家の家族に、医者の場所を聞くと、急に動き出した老人が、医者を捜しているのかね?と聞き、スパナを持ったサラリーマンも、君の言いたいことが判った。「医者はどこだ」などと、バカにしたように同じことを繰り返す。
突堤の上を、互いに紐で繋いだ学生楽団がシルエットになって進んで行く。
腕を押さえた男は、その場に倒れてしまう。
線路を歩いていた男は、傷ついた左腕にもう蠅がたかっていることに気づく。
近づいて来た列車が止まったので、隣町まで乗せてくれと男が頼むと、狐の面をかぶった少年の機関士は、素直に乗せてくれる。
しかし、割れた窓から風鈴の音を聞きながら、男が心地よく、走りすぎる夜景を眺めていると、やがて機関車は、坂道を上ろうとして上りきれず、ずるずると後退し始めたのに気づく。
男がそれを指摘すると、狐面の少年は、目を閉じなさい、そうすれば前進しているように感じると賢い応えをしたので、男は淡々としなければいけないのだと自覚する。
機関車はいつの間にかぐるりと方向転換をして進み始める。
男は無駄な時間を使っていると少し後悔し始める。
やがて、機関車は見知らぬ町で停まった。
道を歩いていると、そこらは眼科の看板だらけだった。
少し行くと、金太郎飴の幟が出ていたので、そこで雨を作っていた婆さん(清川虹子)に医者がいないかと聞くと、どんな医者が必要なのだと逆に聞かれる。
男が、産婦人科ですと答えると、婆さんは、それなら、このビルの中でやっていると教えてくれる。
そのビルは、金太郎飴の儲けで作られた金太郎ビルだったので、男は、自分の母親も金太郎飴のアイデアを持っていたと打ち明けると、その婆さんは急に驚いたように顔を隠す。
それに気づいた男が、もしやあなたはボクの母親では?と聞くと、婆さんは、これには事情があるのです。それを話すと、金太郎飴の製法を教えなければならなくなるので出来ないのですと言う。
男が、それはこの桃太郎の顔に秘密があるのですね?桃太郎であっても、実は金太郎…と、飴を食べてみせて、断面を突き出し追求する。
婆さんも同じように、飴を食べて金太郎の断面を突き出すと、「お達者で…」と別れを告げる。
ビルの中の産婦人科医は女医だった。
窓の外には、艦砲射撃をする軍艦が見えた。
女医はここは夫人専門なのでと、男の診察を断ろうとするが、手術して下さいと男が迫ると、判りました。では、お医者さんごっこをしましょうと言い出したので、二人は互いに抱き合う。
女医は、スパナを使って、男の左腕の血管にねじを取り付ける。
麻酔もかけずに無茶だと男は驚いたが、無事手術は済んだと女医は言う。
そして、そのねじは締めないで。血管の流れが止まるからと注意する。
それでも男は、左腕のねじを回してみるのだった。
それからと言うもの、男の左手は、ねじを締めるとしびれるようになったのです…
全身、金粉で塗ったふんどし姿の女と、勃起した男根を誇示する裸の男が、浜辺で怪しく蠢きあう。
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つげ義春の短編劇画数編を一つにまとめ、それに、作者本人を連想させる貧乏漫画家のドラマを交錯させた一種独特の幻想世界。
シュールと言えばシュールな展開だが、つげ義春の劇画を読み慣れているものからすると、かつて親しんだつげのイメージと再会した懐かしい感覚がある。
劇画のイメージをそれなりに再現しているだけではなく、やはり石井監督の感覚もしっかり混合している。
まず、印象に残ったのは、登場している女性たちが皆可愛らしいこと。
エロティックな描写も多いだけに、普通だったら、裸になれる女優さんと言うだけでOKのはずだが、これだけ可愛い容貌の女優をそろえると云うこだわりには感心する。
やはり、劇画の中の美少女をそれなりに再現しなければ、そのあっけらかんとしたエロティクさも再現出来ないと考えたのかも知れない。
確かに、リアルなエロティックさと云うより、イメージの中のエロティックさである。
原作者の分身のようなキャラクターと、劇画の中の架空のキャラクターの両方を演じた浅野忠信も良くやっていると思う。
低予算映画ではあるが、元々の劇画自体がマイナーなイメージなので、特に違和感はなく、万人向けの作品とは言いがたいが、なかなか興味深い作品ではある。
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