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泣いてたまるか

1971年、松竹、山田洋次+稲垣俊原作、大西信行脚本、宮崎晃脚本+監督。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

とある峠のドライブインで、ラーメンを食べ終わったトラック運転手平山源太郎(坂上二郎)は、助手の金子実(黒木進=小野武彦)から可愛い娘がさっきからこっちを観ていると言われ、お前を観ている訳じゃない、早くコーヒーもらって来いと叱る。

その娘沢弘子 (榊原るみ)は、さっきから一人でテーブルにぽつんと座っていた。

店を出てトラックに戻ろうとした源さんと実に近づいて来たその娘は、東京まで行くんでしたら乗せてもらえませんかと願い出る。

タイトル

赤羽駅前に到着したトラックから降りた沢弘子に、目的の駅までの乗り換えをミノルが教え、もし、尋ねる相手がいなかったら、うちの会社で源さんと聞けば俺の家はすぐ分かるから、すぐに家に来いよと源さんは声をかけて別れる。

会社に戻った源さんは、主任のナベさん(田武謙三)から、6時に決まったと声をかけられる。

それを聞いていた運転手仲間たちは、又、源さん、見合いするのかと半ば呆れていた。

荒川線の沿線にある自宅に戻った源さんを迎えたのは、母親とみ(ミヤコ蝶々)だった。

6時まで寝ると云うのを聞いたとみは、お前そのヒゲどうにかならないか?中年面になったよと小言を言う。

今年38になる源さんには、まだ嫁もいない事がとみの心配の種だった。

母が焚いていてくれた風呂に入った源さんは、鏡に映った自分のひげ面にトニックを塗りながら「マンダム…」と呟くのだった。

本人は、チャールズ・ブロンソン気取りのつもりらしい。

風呂から上がった源さんは、見合いの約束の6時まで眠る事にする。

その頃、故郷の友達だった吉岡秀男が勤めているはずの川崎印刷に公衆電話から電話を入れていた沢弘子は、すでに秀男が辞めていると知らされ呆然としていた。

夕方の6時になり、スーツ姿で出かけて行った源さんに代わり、白タクの運転手をしている弟の五郎(萩本欽一)が帰って来る。

冷蔵庫に入ったビールを取り出して飲みながら、兄が又見合いに行ったと聞くと、10回くらいやっているんじゃないの?母ちゃんと一緒で暮らさないとダメだなんて言っているからいつも話がまとまらないんだと皮肉を言いながら、小遣いをせびろうとするが、あっさりとみから断られたので、それじゃあ兄貴からもらおうと、見合いの場所である、ウナギ料理屋「柳家」に向かう。

相手側の父親(浜村純)、見合い相手、主任、兄源太郎のいる見合いの席に乗り込んだ五郎は、兄の事を盛んに褒めた後、廊下に兄を呼び出すと小遣いをせびりながら、あの辺が我慢のしどころでは?などと、見合い相手をバカにするような事を言っていたが、その見合い相手の父親がトイレに出て来て目の前で聞いていた事に気づいた五郎は、ばつが悪くなり、自分が先にトイレにこもってしまう。

最近トランプ占いに凝っているママ道子(倍賞千恵子)が経営しているスナック「ヘッドライト」にやって来た主任と源さんだったが、その源さんの沈んだ態度から、又しても見合いに失敗したと悟った運転手仲間たちは同情しながらも、怪し気な新米バーテン(佐藤蛾次郎)が作った焼うどんには不安そうだった。

しかし、道子だけは、源さん、近い内、きっと良い人に出会えるよと慰める。

帰宅した源さんは、事情を聞いたとみから、五郎の失敗はあるものの、お前も、その後、名誉を挽回する事も出来なかったとは…と説教され、不機嫌なまま二階に上がりかける。

その時、突然、玄関に入って来たのが沢弘子だったので、源さんは急に降りて来て歓迎し出したので、弘子のために急に夕食を準備させられる事になったとみは、あの娘は何者なのだと不審がる。

弘子はとみに、自分は福島の原町から来たのだと事情を説明していたが、その間、調子の悪い風呂のバーナーに点火しようとしていた源さんの顔は真っ黒になっていたので、それを見た弘子は思わず吹き出すのだった。

翌朝、庭先で体操をしていた源さんは、起きて来た弘子の顔を見て上機嫌になる。

朝食の席で、家に連絡をしておいた方が良いのじゃないのと心配するとみに、弘子は両親はいない事、伯父に育てられたが、上手くいかなくて家を出て来た事を打ち明け、東京では住み込みで働くつもりだと話す。

その日、休日だった源さんは、弘子を浅草に案内した後、スナック「ヘッドライト」に弘子を連れて来ると、ここで働かせて切れないかと頼み、道子も承知する。

その結果、長髪が不潔な新米バーテンは、お前、首だなとトラック仲間たちから指摘され、愕然とする。

翌日から、源さんは急にうれしそうに仕事に勢を出し始めたので、実は訳が分からず首を傾げていた。

実が運転している間、助手席で休息していた源さんは、弘子と海辺で寝そべっている妄想などを思い浮かべていた。

塩尻のドライブインから「ヘッドライト」に電話した源さんは、弘子の声を聞くとうれしくなり、注文したカレーを食うのも忘れてトラックに乗ろうとしたのを実から指摘され、あわてて店に戻る始末。

帰宅した源さんは、弘子が「お帰りなさい」と言ってくれ、とみは、踊りの練習で出かけていると聞くと上機嫌になり、風呂の後、ビールを弘子と差し向かいで飲んだりする事が出来、しかも、プレゼントとして可愛いマスコット人形までもらったので、すっかり満足する。

その時、弘子が、奥さんは亡くなったの?それとも別れたの?と聞いて来たので、面食らった源さんだが、元々いないんだよと、笑ってごまかしながら、自分が年頃の時、お袋が病気だったし、弟は大学生だったし、親父も早く亡くしていたので…と事情を説明する。

その時、普段は滅多に寄り付かない五郎が、すっかり酔ってやって来る。

五郎は、自宅に見知らぬ娘がいるので驚きながらも、興味津々の様子。

そこに、とみも踊りの稽古から帰って来たので、この人、兄ちゃんのお嫁さんになっちゃうのかな?と言う五郎に、年が親子ほど離れているじゃないかと呆れて否定するとみの言葉に、なぜか源さんは急に不機嫌になるのだった。

五郎ととみは、冷や酒を飲み出し、とみは踊りを披露するなど、浮かれ始めるが、一人縁側に逃げた源さんは、寂し気に弘子を見ながら、苦笑してみせるしかなかった。

翌日から、源さんの仕事ぶりは急に荒くなり出したので、事情を知らない実は面食らうばかり。

その頃、五郎の方は、雀荘に来て一日遊びほうけていた。

途中、トラックが故障したりなどし、不愉快な気分で帰宅した源さんは、また五郎が来ており、気安気に弘子をボウリングに誘いに来たなどと云うので、お前、大型免許は取ったのか?と五郎と小言を言う一方、弘子には、年頃の娘が暗くなって出かけるなんてと苦言を呈する。

白けた五郎は帰ってしまい、気まずくなった弘子もそのまま二階に上がってしまう。

翌日、スナック「ヘッドライン」に源さんが来ると、弘子の姿がないので訳を聞くと、道子は、1時間ほど前に電話があり、弘子は早引けしたと言う。

その頃、弘子は、印刷所で働いていた秀男(高橋長英)に会っていた。

秀男のアパート「青葉荘」にやって来た弘子は、どうして何度も職場を変えたのか?どうして手紙をくれなくなってきたのかと聞くが、秀男は、田舎に帰ろうと思う、あんな小さな工場で安い給料をもらってもどうしようもない。俺は運が悪かったんだ。何もかもばかばかしくなってな…と捨て鉢な言葉を吐く。

弘子は、二人で東京でがんばろうって、田舎で約束したじゃないと励まそうとするが、秀男は、ヒロちゃん、田舎に帰れよ。こんな所にいてもろくな事はない。俺、毎日の生活で精一杯で、ヒロちゃんを幸せにする自信ないよと愚痴り、あげくの果てに、弘子に無理矢理抱きつこうとして来たので、弘子は必死に振り払うと、アパートを飛び出すのだった。

町を彷徨う弘子に声をかけたのは、ちょうど客を乗せて白タクで通りかかった五郎だった。

五郎は、客を無理矢理その場で降ろすと、車を降り、そのまま去ろうとする弘子の後を追う。

その頃、自宅前で、帰りの遅い弘子の事を心配して待っていた源さんは、とみが帰って来たのでごまかそうとするが、そこに弘子が戻って来たので、どうして、店を早引けなんかしたんだと小言を言いかけるが、その背後から入って来た五郎が、一緒にドライブをして中華街で食事をしてたんだと云うので、ますます不機嫌になり、お前なんかフーテンじゃないかと言いがかりをつける。

五郎の方も、保護者づらして何を言ってるんだ?弘子ちゃんを取られたくなかったら、牢でも作ってしっかり鍵でもかけておけよと言い返したので、兄弟喧嘩になりかけるが、とみが「弘子ちゃんに謝った方が良いんじゃない」と云うので、二階に先に上がってしまった弘子の部屋の前に行くと、言い過ぎた事を詫び、明日から一週間ほど仕事で帰らないけど、又土産を買って来るよと伝える。

そんな源さんの様子を、とみは茶の間から心配げに見上げていた。

翌日から、源さんは、フェリーに乗って遠出をしていたが、いつにもまして浮かない表情だった。

一方、とみは、朝食の後片付けをしていた弘子に、シャツをプレゼントすると、このままここにいてくれないか。源太郎の嫁になってくれないかと頼むが、弘子は驚くだけで返事に窮していたが、その時、とみが胸が苦しいと言い出す。

心配した弘子だったが、とみがすぐに元に戻ったと云うので、そのまま店に出かけてしまう。

一周間経ち、帰宅した源さんは、家に誰もいない事を知り不思議がる。

二階に上ってみた源さんは、とみが踊りの稽古をしていた家に駆けつけると訳を聞く。

とみは踊りながら、弘子ちゃんは、新しい勤め口が出来たとかで、四日ほど前に出て行ったと言うではないか。

どうして引き止めてくれなかったんだと言う源さんに、とみは、みっともないから家に帰れと追い返し、他の踊りの生徒たちにぶしつけを詫びるのだった。

「ヘッドライト」に来た源さんは、道子から、弘子ちゃんは自分の意思で出て行ったのであり、他人の世話にならず、一人で行きて行くつもりなのだから、行き先を詮索するのは止めなさい。あの娘は子供ではなく一人前の大人なのだからと説得される。

しかし、あまりにも消沈して帰ろうとする源さんの後ろ姿を見かねた道子は、とうとう弘子の新しい勤め先を教えてしまう。

弘子が働いていた石鹸工場にやって来た源さんは、社員食堂で弘子と再会すると、家に帰って来いよ。気兼ねするんだったら、下宿代位取っても良いからと説得するが、弘子はおじさんの家には帰れない。おばさんが、おじさんのお嫁さんにならない買って言ったんですと打ち明ける。

それを聞いた源さんは驚き、自分にそんなつもりはない。むしろ、五郎の嫁になってくれないかなと思っていたんだと言い出す。

五郎は、いつも弘子ちゃんの事が好きだって言ってたし、でも、俺、年も違うし、口べただし…と、五郎が言ったんだと言いながら、いつの間にか、自分の気持を打ち明ける結果になってしまう。

それを聞いた弘子は、心から感謝します。そんな事を言われたのは生まれてはじめてだって、五郎さんに伝えて下さいと言い、源さんも、伝えるよと答えるしかなかった。

その夜、自宅では、五郎がやって来て、とみと二人で飲んでいた。

五郎は、年甲斐もなく惚れる方が悪いんだ。どうせあの子には男がいて上手い事やっているよなどと言っていたので、ちょうど帰って来た源さんは怒り出し、とみに向かって、何であの娘にあんな事を言ったんだと責める。

とみは、お前の気持がわかったからだよ。私はいっぺんにあの娘の事が気に入ったけど、お前は気が弱いから、あんな娘が来てくれるはずがない。親馬鹿と言えばその通りだが、恥を忍んで頼んだんだ。それが余計な事かい?と反論する。

しかし気持が収まらない源さんは、自分はあの事一つ屋根の下にいただけで幸せだったんだ。あの娘の給仕でビールを飲み…、それだけで良かったんだと言うが、それを聞いていた五郎は、そんなのインチキだ。どこまで自分に嘘を言うんだ。兄ちゃんダメだよ、もっと正直にならなきゃ。俺が前から気に入らなかったのは、その誠実そうな顔だと、日頃から胸に貯めていたものを吐き出してしまったので、二人はつかみ合いの喧嘩になる。

それを制止しようとしたとみは、急に胸を押さえながらその場にうずくまってしまう。

驚いた源さんは、五郎に医者を呼びに行かせ、自分はとみを抱き起こす。

すると、とみは、私、死ぬのと違うか?と言いながらも、一旦元に戻ったような穏やかな表情になり、母ちゃん、やっぱり、余計なことを言わなきゃ良かったねと言い出す。

源さんが、良いよそんな事、それより、あさって、踊りの発表だろう?元気にならなきゃと励ます。

とみは源さんに抱かれながら、踊りで巧くいかない所を手振りを交えて笑顔で話し始めるが、その途中、その手は力なく垂れてしまう。

とみは、息を引き取っていた。

一年後

弘子が土手で休憩している工場の横の道にやって来たのは、これから広島に向かう源さんのトラックだった。

五郎は今、ダンプの運転手になってダム工事現場で働いていると運転席から声をかけた源さんは、そろそろおふくろの一周忌だと言うので、弘子は必ずうかがうわと答える。

弘子に別れを告げるとトラックを出発させる。

運転席に飾ってあった、弘子からのプレゼントの人形はすっかり汚れていたので、新しい助手になったヤスオが、新しい人形買ってきましょうか?と運転しながら聞くが、源さんは、余計な事を考えるな、もっとちゃんと運転しろと説教するのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

渥美清主演の人気テレビドラマシリーズ「泣いてたまるか」の映画版。

コント55号が出ているが、珍しく、二郎さんの方が主役を演じており、テレビと同じ主題歌も二郎さんが歌っている。

話そのものは、いかにも良くあるペーソスもので、展開はすぐにでも分かってしまうような悲恋パターンだが、二郎さんは、真面目一方だが人付き合いが苦手で、婚期を失った哀れな中年男を良く演じている。

一方、ダメな弟を演じている欽ちゃんの方も、シリアスな演技をそつなくこなしており、コントにようなおちゃらけた雰囲気は全くない。

二郎さんが欽ちゃんの事を「フーテン」呼ばわりしたり、倍賞千恵子や佐藤蛾次郎が出て来る事もあり、「男はつらいよ」を連想させるような要素も多い。

この作品は、二本立てのプログラムピクチャーとしてはそれなりに成立しており、比較するつもりもないのだが、やはり、テレビドラマ版を知っている世代からすると、この映画版にテレビ版以上の魅力があるかと言われれば、それほどのものはないと云うしかない。

テレビ版と同じような雰囲気、ペーソスは感じる…と云うだけ。

テレビ版は、毎回、主人公の職業も違い、扱うテーマも毎回変わっていたので、それなりに新鮮さがあったのだが、この映画版の方は、単独作品と云うハンデがあるにせよ、あまりに設定や展開が凡庸で、いくら当時の松竹のターゲットが地方の保守層だったにしても全体的に古臭さ過ぎるような気がする。

とは言え、榊原るみは、同時期のテレビの「気になる嫁さん」の主役や「帰って来たウルトラマン」で有名だったほど愛らしいし、高橋長英や、「踊る大捜査線」のスリーアミーゴズの袴田健吾役で有名な小野武彦の若い頃の姿は貴重である。