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国定忠治('60)

1960年、東宝、新藤兼人脚本、谷口千吉監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

天保7年

日照りや飢饉が続き、農民たちは苦しんでいたが、代官松井重兵衛は、圧政を持って権力を保とうとしたため、国定村の農民たちは、家を捨て田を捨て、村を捨てようとしていた。

そんな腹を空かせた子供が、ちょうど昼食の握り飯を食べていた股旅姿の三人に近づいて来たので、股旅の一人が握り飯を一つ与えると、大人たちまでが全員、その子供の握り飯に飛びかかって来たので、あんたたちは国定村の人ではないのかと股旅の一人が聞く。

農民たちはそうだと答え、自分たちも住み慣れた村を捨てたくはないが、このままでは生きて行けないのだと言う。

股旅たちは、自分たちが持っていた握り飯を全部農民に与え、それで粥にでもしろと諭すと、焚き火を消し、すぐに国定村に戻る。

その三人の股旅こそ、故郷国定村に戻って来た忠治(三船敏郎)、板割浅太郎(夏木陽介)、清水頑鉄(藤木悠)だった。

飲み屋「鮒吉」に入った目明しの三室の勘助(東野英治郎)は、先客で目明し仲間の時三郎(小杉義男)から酒を勧められるが、自分は渋茶で良いと断る。

店の女とく(新珠三千代)が、村中に米がなくて農民が苦しんでいるのに、米の水など飲めないんですよねと、時三郎への当てつけを込めて勘助に語りかける。

そんな「鮒吉」に現れたのが頑鉄。

気づいたとくは、表に出て、半年遅かったよ。忠治親分の家、大変なんだよと頑鉄に耳打ちする。

その頃、忠治は自宅に戻って母親に声をかけていたが、返事がないので不思議に思っていた。

すると、妹のきく(水野久美)が出て来たので、声をかけた忠治だったが、おかしな事にきくは忠治に興味を示さないどころか、嫌々、堪忍!重兵衛の鬼畜生!と怯える素振りをすると、急に、仏壇に大量の野草を供えているではないか。

きくは明らかに、正常ではなくなっていた。

どうやら、母親も亡くなったらしいと知り、呆然としていた忠治の元に、とくを連れてやって来たのが頑鉄だった。

一方、自宅に戻って来た三室の勘助は、玄関前で自分の名を呼ぶ声がしたので誰かと思うと、甥の板割浅太郎だと気づく。

浅太郎の方は再会をうれし気に話しかけて来るが、十手を持つ身となった勘助の方は、やくざに身を落とした甥を歓迎出来るはずもなく、忠治には関八州に凶状所が出回っているので、黙って国を出て行くように親分に伝えろと言う。

勘太郎を懐かしがる浅太郎には、会いたけりゃ、堅気になって来いと叱りつけ、勘太郎とお前と三人で静かに暮らそうじゃないかと諭すが、浅太郎は聞く耳を持たなかった。

その頃、母親の墓参りをした忠治は、名主の宇衛門やきくと夫婦になると言っていた与作はどうしたんだ?自分は、家族に累が及ばないように人別帳から名前を消したのに…ととくに聞いていた。

そこに、野草を持って来たきくは、松井重兵衛に手篭めにされた為、気が触れ、母親も心痛で亡くなったと、とくから教えられる。

その頃、国定村の農民たちの一部は集まって、代官所の蔵の中に百俵もあると云う米俵を奪う為に一揆を起こそうと話し合っていた。

そんな会合に顔を見せたのが忠治。

会合に出席していた与作(三島耕)を外に呼び出すと、何か俺に言う事はねえのか?きくを女房にしたいと言って来たんじゃねえのかと迫り、自分一人では何とも出来なかったと謝る与作を投げ飛ばすのだった。

その後、忠治を迎えた名主宇衛門(山田巳之助)は、蔵の中に案内すると、何とか御助け願えないかと頼む忠治に、気の毒だが諦めるんだ。今年は、この通り、空っぽだと蔵の中の様子を見せる。

しかし、忠治は、下の穴蔵も空っぽでしょうか?と口にしたので、宇衛門は、私を疑うのかい?と不快感を示す。

忠治の母親の墓の所にいたきくに会いに来た与作だったが、もはや、自分の事すら覚えてない様子のきくを観ると、泣けて来るのだった。

その夜、与作は一人で代官所に忍び込む。

忠治は、自宅に集まった浅太郎や頑鉄に、昔の国定一家を盛り上げるんだ。今さら代官を叩き斬ったところで、村が元に戻る訳でもあるめえと諭していた。

昔、親分に一方ならぬ恩義を受けている叔父貴の勘助の口から、親分の事が外に漏れる事はないと報告した浅太郎に、忠治は、叔父貴の元へ帰れと説得する。

忠治は、気が触れたきくの様子を見るに絶えかね、ヤクザな兄を持ったばかりに、妹はこのざまだ…と自嘲するが、その時、血まみれで転がり込んで来たのが与作だった。

仇を討ちに代官所へ…、忠治、仇を討ってくれ…と言ったきり、与作は事切れる。

その与作の遺体の側に近づいたきくは、一瞬、正気が戻ったようで、忠治が目を離していた隙に、与作が持っていた刀を手にすると、その場で自らの胸を突き刺し、与作と寄り添うように息絶える。

そこに入って来たのが、最前から中の様子を聞いていた日光円蔵(加東大介)で、民百姓の為に代官をやっつけましょうと忠治に訴えかける。

忠治は覚悟を決め、円蔵、頑鉄、浅太郎を引き連れ代官所に向かうと、屋敷の中に斬り込み、名乗りを上げ、松井重兵衛を呼ぶ。

すると、女と一緒にいた松井重兵衛は、卑怯にも女を盾にし床の間の方へ下がると、そこに柵が降りて来て松井の身体を防御する。

松井は、その柵の中から「今にさらし首にしてやる」と捨て台詞を残すと、壁のどんでん返しから逃げさってしまう。

忠治は、蔵の扉を壊すように円蔵に命じる。

忠治一味が代官所を襲ったと云う知らせを受けた時三郎はすぐに駆けつけるが、三室の勘助の方は、妙にのろのろと準備に手間取り、なかなか代官所に駆けつけようとはしなかった。

そんな中、忠治たちを援護しようと農民たちが代官所になだれ込んで来る。

そんな農民たちに、忠治は、扉をこじ開けた蔵の中に積まれていた米俵を、次々に投げ私、お前たちの米だ、持って行け!と声をかける。

農民たちは、米俵を手にして歓喜の声を上げる。

そうした様子を、庭の片隅から三室の勘助が、にこやかに見つめていた。

忠治は、これで、自分たちは関八州相手に挑戦状を突きつけたようなものだ。与作ときくの弔をしてやると言い、後日、その言葉通り、二人の棺を担ぎ、野辺の送りをしてやる。

その時、棺桶を担いでいた忠治の前に出て挨拶をし、忠治の代わりに棺桶の片方を担がせてもらったのが、三ツ木文蔵(丹波哲郎)だった。

その後、忠治一家は、賭場荒らしなどで得た金を、貧しい農民たちの家にばらまき始めるが、それを知った役人たちに、農民たちが次々と捕縛されてしまう。

無人の忠治の実家にも役人たちが乗り込んで来る。

役人と云うのは地方統率するのが役目で、博徒ごときにやられてたまるかと言う松井重兵衛の逆襲だった。

忠治たちが集まっていた小屋の中では、円蔵が、赤木の山に籠りましょうと進言していた。

その小屋も、役人たちに取り囲まれていた。

忠治は円蔵の言葉に従う事を決意、全員、小屋から飛び出すと、役人たちに斬り掛かってちりじりに別れる。

忠治は、「鮒吉」のおとくにしばらく赤城山に籠ると伝えに来るが、そこも役人に踏み込まれたので、大立ち回りの末、逃亡する。

赤木山に籠って1年…

松井重兵衛の名で書かれた高札が村中に立ち、山の麓は蟻の這い出る隙もないほど固められていた。

山に籠った忠治一味の人数は、当初の半分近くに減ってしまっていた。

浅太郎と文蔵は、長らく風呂に入っていないので、互いの垢の多さを自慢しあっていた。

その時、侵入者を知らせる鳴子が鳴ったので全員緊張するが、近づいて来たのは、忠治たちに食べさせようと、米や野菜を担いで来た仁衛門(佐田豊)ら、村の農民数名だった。

おとくから預った着物も忠治に手渡す。

忠治は感謝し、村の衆に、忠治はこの通り、ぴんぴんしていると伝えてくれと農民たちを見送る。

しかし、山を下りる農民たちの動きは、山の中に潜んでいた役人たちが目撃していた。

頑鉄 は、大根を洗いながら、女の肌を思い出していたが、その時、鳴子が鳴ったので緊張する。

先ほど、山の途中まで農民たちを送って行った浅太郎が戻って来て、三本杉の辺りで役人に仁衛門たちが捕まったと知らせに来る。

それを聞いた頑鉄ら、すぐに助けに行こうとするが、円蔵、それじゃあ、敵の思う壺じゃねえかと嗜め、忠治も「今日は久しぶりに、人間らしいものが喰えそうじゃねえか」と、作り笑いを浮かべ言い残すと、黙って小屋の中に入ってしまう。

しかし、その後、忠治は一人で山を降りて行く。

それを見抜いていた円蔵は、頑鉄に後を付いて行かせる。

頬冠りをした忠治は、役人たちが固めている赤城山の登り口まで降りて来ると、周囲をうかがう。

町に出た忠治は、「鮒吉」の様子をそれとなくうかがうが、目明しの時三郎たちが中に入る所を見かけたので、遠ざかろうとしたが、そこに役人たちが夜回りにやって来たので、ひとまず、近くにあった髪結い「碇床」に入り身を隠す。

碇床の又八(八波むと志)は、忠治に気づくと、捕まった仁右衛門は百叩きになったと教える。

取りあえず、命は助かったらしい事を知り、胸を撫で下ろした忠治だったが、又八は、おとくさんには役人は手を付けないとも教える。

その時、目明しの子分春吉(大村千吉)がふらりと店の中に入って来る。

忠治は鏡に向かっていたが、春吉は、最近鳥目になって行けねえなどとぼやき始める。

又八が、鳥目には猿の黒焼きが良いらしいぜなどと相手をしていると、春吉は、そのまま外を通った仲間の熊の名を呼び、店の外に飛び出してしまう。

助かったと又八が安堵していると、鳥目の男が熊などと仲間の顔を見分けるはずがない。あいつはすぐに戻って来るぜと忠治が言う通り、春吉はすぐに戻って来ていろりの側に居座り始める。

又八は、忠治の顔を剃るカミソリの手が震え始めるが、春吉も震えているようだった。

やがて、春吉が突然、忠治に飛びかかって来て、役人たちが店の中になだれ込んで来る。

忠治は、春吉を交すと表に飛び出し、役人たちと戦い始める。

役人たちは、次々とたがを投げつけて来る。

騒ぎに気づいたおとくも店の前に姿を表す。

役人たちは、取り囲んだ忠治に棒を投げつけて来る。

そんな忠治に見かねた又八が、二階に上がれと階段を示す。

忠治は、二階に駆け上ると、天井を崩し、屋根の上に上がる。

それを下から心配そうに見上げるおとく。

そこに駆けつけて来た三室の勘助は、梯子を使って屋根の上に上ると、「忠治御用だ!」と十手を差し出しながらも、下の捕手たちには「裏へ廻れ!裏は手薄だ!」と声をかけながら、目では、忠治に裏へ逃げろと教えていた。

それに気づいた忠治は、素直に裏に飛び降り、まんまと逃げ仰せるのだった。

そうした様子を、見物人に混じって下から観ていたのが頑鉄だった。

翌朝、心配した子分たちが待つ赤城山の隠れ家に、忠治が無事戻って来る。

先に戻っていた頑鉄は円蔵に、忠治を窮地に追い込んだのは三室の勘助だったと、観たままを報告していた。

浅太郎の姿が見えないので忠治が心配すると、見張りに立っていると言う。

皆を持ち場に付かせた忠治は、円蔵だけに、三室の勘助から助けてもらった事の次第を打ち明けていた。

そして、戻って来た浅太郎に、忠治は、たった今、盃を返す。訳は勘助の所に帰れば判ると言い出す。

円蔵も、大人しく帰れと言い添える。

屋根の上での詳しい事情を知らなかった頑鉄は、忠治と円蔵が奥に引っ込むと、おめえの伯父は酷い奴だ。勘助の父は、昔、忠治親分に恩を受けていたのに…と、浅太郎を責めるような口調で言う。

浅太郎は、そんな頑鉄に、何とか親分に詫びを入れて、親分の側に置かしてもらえるようにしてくれと頭を下げるが、その親分に煮え湯を飲ましたはなぜだ?悪いのは伯父の勘助だとさらに責める。

覚悟を決めた浅井太郎は山を降り、途中、見張っていた役人に気づくと、木の枝に身を隠しながら下山する。

その頃、忠治と円蔵は、先立った仲間たちの墓参りをしていた。

三室の勘助は、忠治の事をあれこれ知りたがる勘太郎(十八代目中村勘三郎)を寝かしつけていた。

一人、寝酒を飲もうととっくりに手を伸ばした所に帰って来たのが浅太郎。

勘助は、甥っ子の姿を見ると、忠治親分、無事に戻ったか?と笑顔で聞いて来るが、浅太郎は、そんな勘助に刀を突き刺す。

勘助は、苦しい息の下から「俺は博打打ちは嫌いだ。三尺高い所で死ぬんだ。親分には、精一杯は向かってくれと言ってくれ。裏が空いていると言ったのは、親分を逃がす為だった…」と言いながらも、自ら、浅太郎の刀に斬られるのだった。

その頃、食事をしながら、今子分は何人残っている?と忠治が聞くと、頑鉄は58人ですと答えていた。

その時、鳴子が鳴り、名主の宇衛門がやって来る。

宇衛門は、八州の役人たちも、親分には根負けだよと、忠治にお愛想を言い、自分は今日、農民の総代として来たのだが、一揆が起きます。農民たちはいきり立っている。役人たちは、待ってましたとばかりに、連中をさらし首にするだろう。ここらで、山を降りてくれねえかと言う。

それを聞いた忠治は、自分も、そろそろ山を下りる潮時だと感じていたが、一揆が起こると云うのは確かかね?と念を押す。

その後、三ツ木文蔵に途中まで送らせるが、文蔵は宇衛門に高笑いをして帰る。

忠治も、宇衛門は狸だと睨んでいたが、ここままでは、いずれ押し込み強盗でもやらなければいけなくなる事は見えており、一揆が起こるのを信じる事にしようと自分に言い聞かすのだった。

そこに、勘太郎を背負い、さらしに巻いた荷物を持って帰って来たのが浅太郎。

さらしの中は、勘助の首で、もう一度、盃をくれと迫る浅井太郎に、忠治はバカやろう!早まったぞ!と怒鳴りつける。

俺はおめえを堅気にしたかった。

屋根の上で勘助から助けてもらったのは百も承知だと忠治は言うので、浅太郎は驚愕し、なぜそれを教えてくれなかったと迫る。

訳を話せば、おめえは山を下りねえじゃないかと忠治も悔やむ。

今こそ、屋根の上の次第を知り、自分の勘違いを悟った頑鉄は、その場に両手を付き、浅井に伯父貴を斬らせたのはこの俺だと、頭を垂れていた。

しかし、一旦は刀に手をかけた浅太郎だったが、5年も同じ釜の飯を食った兄弟分を斬る事など出来るはずもなかった。

忠治は、一生の不覚だった。許してくれと謝ると、三室の慶明寺へ行って、ねんごろにともらってやれ。勘太郎はこの忠治が命を捨てても預ったぜと浅太郎に言い聞かす。

それをじっと聞いていた浅太郎と頑鉄が、いきなり自害しようとしたので、バカ!誰が勘助の念仏を唱えるんだ!と忠治は叱りつける。

その後、忠治は頑鉄に、みんなを呼び集めるよう命じる。

頑鉄はホラ貝を吹いて、山の中に散っている仲間を呼ぶ。

集まった仲間に向かい、別れの時が来たと挨拶する忠治。

仲間たちはそれを聞き、泣き出すが、忠治はそんな連中を叱りつけ山をめいめい降りるよう言って聞かせる。

麓の神社では、松井重兵衛の稽古に明け暮れていた。

浅太郎は、勘太郎を忠治に預けると、勘助の首を抱えて山を降りて行く。

頑鉄は、親分に付いて行くと言う。

その時、空を見上げた忠治は、「おお!雁が飛んで行かあ」と口にする。

山水を口に含み、刀に吹きかけた忠治は、「万年溜めに鍛えし技もの。忠治の命はおねえに預けたぜ!」と語りかけると、勘太郎を背負って山を下りる事にする。

いつの間にか目覚めていた勘太郎は「早く、お父ちゃんの所に帰りたい」と言うので、忠治はしんみりしてしまうが、「俺h、斬らなければいけんえ奴が一人いる」と言うと、円蔵が承知していると云う風に「おやんなさい。もう止めねえ」と後ろ押しする。

役人たちは、忠治のねぐらに迫って来ていた。

「鮒吉」には、「忠治が山から降りなさった」と知らせに来た男がいた。

山を下りる途中、背負われていた勘太郎は、捕手たちが持つ「御用提灯」の灯りの群れを見て、「おじちゃん、あの火、何?」と聞く。

忠治は「あれは狐の嫁入りだ。目をつぶって、しっかりおじちゃんの背中に捕まっているんだよ」と言い聞かすと、迫って来た捕手たちに斬り掛かる。

目をつぶってはいない勘太郎が、それを見て「一ちゅ」「二ちゅ」と、たどたどしい口調で数え上げて行く。

頑鉄と円蔵も山を降り、待ち受けていた役人たちと斬り合いになる。

山の登り口にたどり着いた忠治に、おとくが駆け寄って来たので、これ幸いとばかりに、勘太郎を預けると、憎っくき松井重兵衛との一騎打ちに向かう。

屋敷の中では松井重兵衛が槍を構えて待ち構えており、外は雷鳴が轟き始める。

両社の戦いは五分だったが、裏手の納屋の所に場所を移した時、松井重兵衛の槍が、納屋の中にかけてあったたがの束に引っかかって身動きができなくなる。

思わず、小刀に手を伸ばした松井重兵衛だったが、その腹を、忠治の剣が貫く。

そこに、勘太郎を抱いたおとくが駆けつけて来て、これで、与作さんもきくちゃんも冥土に行けるよと語りかけて来る。

そして又、勘太郎を忠治の背中に背負わせながら、お前さんと一緒に行ける勘太郎ちゃんがうらやましいよと、おとくは呟くのだった。

そんなおとくに、忠治は、俺の故郷は国定村だ。必ず帰って来るぜと約束して別れる。

後日、二股の道にやって来た忠治は、背中の勘太郎に、どっちに行こうかと聞く。

すると、慣れたように、又、傘で決めるんだろう?と返事をする勘太郎。

表が右、裏が左。

忠治は、いつものように、三度笠を放り投げると、さて、この道はどこへ行くんだろうと呟くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

三船敏郎が国定忠治を演じている事は、この作品ではじめて知った。

「万年溜めの池の場面」など、部分的には子供の頃から何となく知識がある国定忠次の話だが、その前後の話となると、全く知らないと言って良かった。

この三船敏郎版が、どの程度、国定忠次の話を再現しているのかは知りようもないが、何となく、大まかな話は理解出来たように思う。

そう言う意味で、国定忠治初心者の入門書用としては、それなりに価値がある映画だと思う。

三船の忠治は、正直、最初から最後まで、まなじり決し、力みかえったパターン化された三船であり、あまり魅力的とは言いがたい。

頑鉄役の 藤木悠 にしても、浅太郎を演じる夏木陽介にしても、はたまた、三ツ木文蔵を演じている丹波哲郎にしても、皆、若いばかりで、いかにも頼りなさげで印象も弱い。

剣劇シーンは多いが、いかにも通俗活劇と言った大味な印象以上のものではなく、特に、魅力的なシーンがある訳でもない。

この作品で一番見所は、当時の中村勘九郎(現:18代目中村勘三郎)が5歳児くらいで三船に背負われて芝居をしている所だろう。

その顔は、今の勘太郎の赤ん坊時代にそっくりである。

以前、テレビの勘九郎一家のドキュメンタリー番組で、弟、七之助が、父親の赤ん坊時代の写真を見せられ、お兄ちゃんと答えていた事が思い出される。

忠治の妹きくを演じている水野久美も若く、ちょっと見、誰だか判らないくらい。

気が触れた役を演じているのが珍しいが、このせいもあってこの作品のソフト化やテレビ放映は難しいはず。

クライマックスの、藤田進の槍と戦う三船の姿は、黒澤の「隠し砦の三悪人」をつい連想してしまう。

又、赤ん坊を背負って山を下りる途中、捕手たちと戦う三船の姿は、後年の「座頭市血笑旅」(1964)を思い出させる。

まず間違いなく、「座頭市血笑旅」は、国定忠次のこのエピソードを下敷きにしていると思われる。

三室の勘助を演じる東野英治郎、碇床の又八を演じる八波むと志 、目明しの子分春吉を演じている大村千吉などが印象に残る。