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君よ憤怒の河を渉れ

1976年、永田プロ+大映映画、西村寿行原作、田坂啓脚本、佐藤純弥脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

10月10日、午後三時、新宿

雑踏の中で突然、一人の女が「強盗よ!」と警邏中の警官二名に叫び、公衆電話をかけていた一人の男性を指差す。

交番に連れて来られた男を前にしたその女は、夜中、アパートに侵入して来たこの男にナイフで脅され、現金20万とダイヤの指輪、そして自分の身体まで奪われたと訴える。

その訴えを呆れたように聞いていた男は、姓名も身分も明らかにせず、本庁の矢村警部を呼んでくれと警官たちに頼む。

やがて、新宿署の小川刑事(下川辰平)に案内され、本庁から矢村警部(原田芳雄)が駆けつけ来て、被害者は、下落合に住む水沢恵子(伊佐山ひろ子)、10月3日午前2時頃、アパートに侵入されたと事情を聞く。

被疑者として目の前に座っていた男、東京地検検事の杜丘冬人(高倉健)から俺を信じないのか?と聞かれた矢村だったが、俺は誰も信用しないと言うと、当夜のアリバイを杜丘に聞く。

杜丘は一人暮らしで、その時間には寝ていたし電話もなかったので、証明は出来ないと答えるしかなかった。

そこに、本庁の細江刑事(大和田伸也)に連れられ、寺田俊明(田中邦衛)と云う一人の男が部屋に入って来る。

その男は、カメラを持ち逃げされたそうで、この部屋の中に、その犯人がいるかと尋ねられると、迷わず 杜丘を指差し、「この男です!」と叫ぶ。

結局、杜丘は新宿署に一晩留置される事になる。

杜丘は留置場の中で、世の中に、二人も間違えるほど自分にそっくりな人間なんかいるだろうか?いないとすれば、俺が捕まったのはなぜなんだ?と考え抜いていた。

翌朝、本庁から再び来た細江刑事に手錠をかけられた杜丘は、東京地検伊藤守検事正 (池部良)の元に連れて行かれる。

伊藤検事正は、現職刑事がこんな事件を起こしたとあっては、マスコミが大騒ぎすると迷惑顔で、すでに、杜丘のデスクもロッカーも調べたと言う。

伊藤検事正は、細江、矢村両刑事を従え、杜丘の自宅マンションに捜査に向かう。

すると、あっさり、室内から盗まれたものと同じキャノンEFのカメラ、二階の水槽の中からダイヤの指輪、ベッドの下から20万円の札束が見つかる。

それを目にした杜丘は、これは罠だ!と訴えるが、伊藤検事正は、その場から検察庁に電話で報告を始める。

杜丘は、吐き気がするのでトイレに行かせてくれと頼むと、細江刑事がドアを開け放したトイレに入れさせる。

便器に向かい、嘔吐する振りをしていた杜丘は、細江刑事が一瞬目を離した隙を見計らって、トイレの窓から脱出を計る。

マンションの階段へ伝うと、そこから下に降りる。

杜丘は、通学途中の小学生と出くわしたので、一瞬路上で固まるが、すぐに近くの寺の中に入り込むと、その玄関口に並べられていた客の靴の中から、自分が履けそうなサイズを選び持ち出す。

伊藤検事正は、マスコミを集め、杜丘を逃走罪の容疑者だと発表するが、捜査のやり方に身内をかばう部分があったのではないかと、記者たちから追求されてしまう。

その日、杜丘の名前と写真は、大々的に新聞の紙面に載る。

杜丘は、水沢恵子のアパートに向かうと、管理人古谷(吉田義夫)に声をかけ、自分は、このアパートに強盗に入ったとされているものだが…と正直に打ち明けると、古谷は信用したのか、中に招き入れてくれる。

古谷が言うには、水田には、今日アパートを出て行ったと言う。

さらに、警官が30分おきにやって来るので…と話している側から、自転車の音が近づき、ドアをノックする音が聞こえたので、杜丘は窓から逃げ出そうと身構えるが、古谷は押し入れに隠れろと言う。

やはり、やって来たのは警官で、異常はないと古谷が言うと、すぐに帰ってしまった。

これで、わしも共犯かな?と苦笑する古谷に、なぜ助けてくれるのかと杜丘が聞くと、水沢よりあんたの方が信用出来そうだからだと言う。

その古谷の話によると、水沢恵子は、夫婦喧嘩して、別居がしたいのでと言い10月1日にここへ越して来て、3日に強盗に入られ、10日には、もう出て行ったらしい。

古谷は、出て行くときの水沢は、能登金剛のうるかみ村の宛名が書かれた小包を持っていたと、貴重な証言を聞かせてくれる。

その頃、杜丘追跡本部が開設されており、指揮は、矢村警部が執る事になる。

10月13日 金沢

バスを降り立った杜丘は、地元民に水沢の事を聞いて廻るが、誰も知らなかった。

通りの向こうから自転車でやって来る警官の姿に気づいた杜丘は、顔を隠すために、その時通りかかっていた白陽写真館のウィンドーを覗く振りをするが、そこに飾られていたウェディングドレス姿の女性の写真が、探し求めていた水沢恵子のものだと判り、主人に詳細を聞く。

すると、写真の女は、水沢恵子と云う名前ではなく、近所に住む手塚民夫の娘で加代だと言うではないか。

5年前に、東京のタクシー運転手と結婚したが、最近は戻って来ているらしく、姿を見かけたと言う。

その家の場所を聞き、すぐさま向かった杜丘は、手塚の家から出て来る二人組の男を見かける。

その直後、玄関口で声をかけるが誰も応えがない。

しかし、奥の部屋に人の足が見えたので、上がり込むと、水沢恵子こと加代がスカーフで絞殺されていた。

部屋にあった結婚の写真を見ると、加代の結婚相手のとは、東京で自分にカメラを盗まれたと証言したあの寺田俊明だった。

15日 日高

列車に乗った杜丘が、横路の実家がある様似に向かっていた時、向かいの席に座った乗客が、自分の写真が一面に出、「検事、被害者を殺害」と大きく書かれた新聞を読み始めたので、あわてて顔を隠すように席を立つと、西様似駅で列車を降りる。

東京の捜査本部では、伊藤検事正が、横路加代殺害を知り、杜丘がやったとは信じられんと呟き、すでに代議士たちが騒ぎ出したと焦りの色を濃くしていた。

矢村警部は、被害者宅からどっさり杜丘の指紋が検出されていると伝えながらも、なぜ、横路加代は偽名など使っていたのか?なぜ、杜丘は加代の実家を知っていたのかなど疑問を口にしていた。

そこに、細江刑事が石川県警から、加代の夫の写真が送られて来たと矢村警部と伊藤検事正に見せる。

それが、寺田俊明として杜丘を告発したあの男だと知った二人は驚愕すると同時にその意味を計りかねていた。

横路は今、実家の様似に帰っているらしいと細江刑事は報告する。

その頃、杜丘は、横路の実家に近づいていた。

農作業している家人らしき人物が見えたので、声をかけた杜丘だったが、次の瞬間、その男を始め、数人の刑事が「杜丘!」と呼びながら捕まえようと飛び出して来たので、杜丘は必死に逃げる。

刑事たちは発砲して来るが、杜丘は山に逃げ込む。

東京では、矢村警部が、杜丘が日高山脈に逃げ込んだと報告を受けていた。

これまでの経緯から考え、横路夫婦が訴えた強盗や窃盗事件はガセだと思われるが、加代殺害に関しては杜丘が犯人に違いないと矢村警部は考えていた。

横路夫婦は、昭和45年の6月に結婚しており、大井町のアパートに住んでいたが、横路はタクシーの運転手以外に、4年前程から、解剖や薬の実験用のモルモットや昆虫などを飼う仕事をやっていたようだと細江刑事が報告する。

矢村警部は、自分はこれから北海道へ飛ぶが、横路は東京に戻って来る可能性があるので、見つけたら直ちに確保するよう細江刑事に命ずる。

その頃、杜丘は、猟銃を発砲する二人組(沢美鶴、田畑善彦)に山の中を追いかけられていた。

草むらに隠れ、何とか難を逃れた杜丘は、サツの山狩りに見つかるとまずいので、ひとまず逃げようとしゃべっていた二人組は、加代の家から出て来た二人組と同じ男たちだと気づく。

自分の社会的地位を奪おうとしているからには、あの事件しかないと、杜丘は、犯人グループの動機となりそうな事件を思い返していた。

朝倉代議士(神田隆)が、電話で呼び出した長岡了介(西村晃)と同席していた7階のレストランから、突然窓を飛び出し、墜落死した不審な事件のことだった。

検事として捜査に出向いた杜丘は、自殺する動機がないんがおかしいので、長岡を捜査したいと矢村警部を伴い伊藤検事正に報告していたが、想像で捜査を再開することは出来ないと伊藤検事正から言い聞かされていた。

しかし、新宿で、水沢恵子こと加代から強盗だと指摘されたあの日曜日、杜丘は独断で、長岡の妾がやっている小料理屋に聞き込みしていた最中だったのだ。

何としてでも、横路を捕まえて話を聞かなければ…

そう考えながら森の中を歩いていた杜丘は、獣獲り用に仕掛けられた猟銃を発見する。

用心しながら、引き金に繋がれた仕掛けを外すと、その猟銃を護身用に持って、杜丘は山の中をさらに進み出すが、その時、女の悲鳴が聞こえて来る。

声の方を見やると、女が木の上に登っており、その下で熊が襲おうと身構えているではないか。

杜丘は、熊目がけて猟銃を発射するが、逆に駆け寄って来た熊に襲われ、川に落ちて流されてしまう。

セスナに乗って、仕事先から屋敷に戻って来たのは、北海道知事に立候補している牧場主遠波善紀(大滝秀治)だった。

その遠波は、二階の娘、真由美(中野良子)の部屋にやって来て、ベッドに寝ている命の恩人だと知らされた杜丘を見る。

熊に襲われていたのが真由美で、川を流されていた杜丘を救って屋敷に連れて来たのだった。

かかりつけの安岡医者に診察させた所、極度な疲労状態だと言う。

父親が部屋を後にすると、真由美は、掛け布団の下に隠していた新聞を取り出す。

そこには大きく、逃亡者杜丘のことが載っていた。

やがて、目が覚めた杜丘が、真由美と共に、書斎にいた遠波の所に挨拶に来る。

遠波は、娘の命を助けてもらった礼を言うと、ブランデーを勧め、真由美には何かつまみを持って来させる。

前田と偽名を名乗った杜丘だったが、真由美が部屋から出て行くと、自首するつもりはないか?杜丘さんと遠波は話しかけて来る。

新聞を読んだ彼も、とっくに杜丘の正体に気づいていたのだ。

真由美は、自分が40になって出来た子であり、母親が彼女を生んですぐ死んだこともあり、今でも目の中に入れても痛くないほど可愛いと言う。

そんな娘があんたに興味を持っている。

自分は、道知事戦のため、あちこちに飛び回っているので、一緒に行かないかと云うのだ。

そこに、秘書の中山(岩崎信忠)が、電話ですと遠波を呼びに来るが、扉を少し開けた杜丘が声を盗み聞くと、何で、余計なことをした!と叱る遠波の姿が見えたので、警察に密告されたと察する。

窓を開け、外に逃げ出した杜丘を、馬に乗った真由美が追って来る。

誰かが密告し機動隊が300人来るので乗って!と言うので、馬に飛び乗った杜丘は真由美と共に逃げ出すが、なぜ俺を助けるんだと聞くと、あなたが好きだからと真由美は答える。

遠波の屋敷に道警の機動隊を引き連れた矢村警部がやって来て、なぜ杜丘を突き出さなかったと遠波を問いつめる。

そこに戻って来た真由美は、命の恩人だからと答え、逮捕したけりゃ、したらどう?と挑発して来たので、矢村警部は、これは大したじゃじゃ馬だ、調教の失敗だな…と愚痴りながら、屋敷を後にする。

しかし、矢村は、その後も真由美の動きを監視していた。

そうとは知らず、杜丘を隠していた山小屋にやって来た真由美が、東京から警部が来たが、もう帰ったと伝えると、矢村なら付けられているに違いないと、すぐに杜丘は逃げ出そうとするが、すでに小屋の前に来ていた矢村から銃を突きつけられる。

なすすべなく、その場で手錠をかけられた杜丘は、矢村に連れられ山を降りかけていたが、突如出現した熊に矢村が襲撃され負傷、そのまま二人とも崖から墜落してしまう。

後から付いて来ていた真由美は、崖下まで降りると、気絶している杜丘を起こし、同じく気絶していた矢村のコートから手錠の鍵を探し出すと、手錠を外して一緒に逃げようとする。

しかし、杜丘は気絶していた矢村から拳銃を奪い取ると、矢村の身体を起こし、先ほどの山小屋まで連れて帰ると、焚き火の火で矢村の右腕の傷を焼いて治療してやる。

気がついた矢村に銃を突きつけた杜丘は、横路はどこかと聞く。

拳銃を返すなら答えてやると云う条件付きで、横路は函館から東京に帰ったと教えた矢村は、杜丘から拳銃を受け取ると、倒れた姿のまま、急にそれを杜丘に向け、お嬢さん、そいつを縛ってくれと頼むが、杜丘は、弾は抜いておいたと言い残して、真由美と共に出て行く。

真由美はその後、自分が子供の頃、よく遊んでいた場所だと云う洞窟に杜丘を連れて来て匿う。

杜丘は、もう牧場に帰ってくれと真由美に頼むが、今から帰ると、途中で夜になってしまう。私を熊に襲わせたいのか?と言いながら、薪を集めて来ると、これからどうするのかと聞く。

杜丘は、東京へ行く。無実を証明するために、横道に会わなければいけないと決意を述べる。

真由美も一緒に行くと言い出すが、お父さんが心配しているから帰りなさいと杜丘は言い聞かせる。

父はあなたを裏切ったのとすがる真由美に、俺はサツに追われている身だと言う杜丘だったが、私も共犯者よとまで言う真由美を拒絶することは出来ず、いつしか二人はキスをし、服を脱いだ二人は焚き火の前で互いに抱き合うのだった。

翌朝、一晩中寝ずに心配していた遠波は、帰って来た真由美の部屋に向かい、夕べ矢村が来て、お前が杜丘と逃げたと聞かされたので心配していたと伝えるが、真由美は、警察に密告するような人間は娘の父親ではないと冷たく言い放ち、黙々と荷物をまとめる。

秘書の中山も来て、あんな殺人犯などに近づいては…と言うので、思わず、真由美は中山の頬を叩いてしまう。

その後、洞窟に、地図や衣類などを持って来た真由美は、父親も後を付いて来たことを知り驚く。

遠波は、日高山脈を越え帯広へでも逃げるつもりか?と杜丘に聞くと、全ての港や空港や駅には警察が張っている。君はやりかけの仕事をするために東京に戻らなければ行けないのだね?と確認すると、君は飛行機を操縦出来るかね?と問いかけて来る。

自家用セスナが置いてある空港に杜丘と真由美を連れて来た遠波は、押井がこれを君にやる。北海道を抜け出すにはこれしかないと言い、すぐさま、杜丘に草中の仕方を教え出す。

真由美は無茶だと反対するが、フライトプランは既に出しておいたと杜丘に告げると、男には死に向かって飛び込むことが必要なときもあるんだと娘に言い聞かせる。

しかし、その様子を遠くから監視していた秘書の中山が又警察に通告したため、パトカーが二台接近して来る。

杜丘は決意を固め、操縦席に乗り込むと、スロットルを全開にし、走り始める。

近づいて来たパトカーに向かい走り出したセスナ機は、パトカーが両脇に除けると、やがて離陸する。

浮かび上がったセスナ機は、最初はバランスが上手く保てないのか、ぐらついていたが、遠波親子の上を何度か旋回した後、本州方向へ向かって遠ざかって行く。

東京に戻って来た矢村警部は、杜丘を北海道に閉じ込めて来たと伊藤検事正に報告するが、そこへ電話が入り、それを受けた細江刑事の口から、杜丘がセスナで北海道を抜け出したことを知る。

伊藤検事正は、誤報じゃないか?奴はセスナ機なんて操縦出来ないはずだが?と首を傾げるが、矢村警部の方は、検事には惜しい男だと感心してしまう。

本州が見えて来たセスナ機に乗った杜丘だったが、管制塔から着陸するよう声が聞こえて来る。

無視をしていると、前に恐山だ!と相手が言うので、気がつくと山並が接近していたので、慌てて操縦桿を引き上昇する杜丘。

降りないのなら、緊急措置をとると管制官は言い、三沢基地から飛び立って来た二機のジェット機が、セスナ機の両脇に接近、威嚇して来る。

杜丘は、セスナを降下させると、海面すれすれを飛び始める。

東京で、セスナ機の機影がレーダーから消えたと知らされた伊藤検事正は、海に落ちたのではないか?自殺の可能性もあると云い出す。

しかし、専門家に聞いてみたら、あのセスナ機は、足を引っ込めれば海面に着水できるらしいので油断出来ないと言い返していた。

その頃、セスナ機はガス欠を起こしていた。

杜丘は、海面に着水を決行する。

その後、水戸市の夏海の海岸に脱ぎ捨てられた濡れた衣類が、発見者が連れて来た警官に酔って確認され、捜査本部に報告が入る。

矢村は、水戸市内に検問を張ると共に、杜丘の東京への侵入ルートを推理し始める。

しかし、トラックの荷台に潜んだ杜丘は、やすやすと検問を突破していた。

北海道の牧場の自室テレビで、杜丘が関東で見つかったとのニュースを観ていた真由美の部屋にやって来た遠波は、無事着水したようだなと話しかけ、道知事選は降りたと知らせる。

そして、自分の代わりに、三歳馬を東京の正岡厩舎に持って行ってくれないかと言い出したので、父親の計らいを知った真由美は感激し、抱きつく。

捜査本部では、伊藤検事正が、矢村警部に「逃亡検事」と大々的に書かれた新聞を見せながら、これ以上奴の好き勝手にさせていたら、警察署の威信が地に堕ちてしまうと言い、発砲許可を与えていた。

そこにやって来た細江刑事が、朝倉代議士は、東南製薬と云う所から多額の献金を受け取っていたが、この東南製薬と言う会社は、横路がモルモットなどを卸していた会社だと報告する。

さっそく、細江を連れ、東南製薬に向かった矢村警部は、受付嬢に横路の写真を見せ、時々、酒井義広 専務(内藤武敏)を訪ねて来た事があるとの証言を得る。

その後、その酒井専務に会った矢村が、横路との関係を聞くと、古くからの知り合いで、金を無心されたこともあると言うだけなので、帰り際、朝倉代議士に多額の献金をなさっていたようですが?と問いかけると、献金は違法ではないはずと逃げられてしまう。

しかし、帰りの車の中で、酒井は、朝倉に何か弱い所を握られていたに違いないと矢村は呟く。

10月20日 甲府

駅前でトラックから降りた杜丘は、甲府駅から急行「かいじ」に乗り込むと、登山服に身を固めた姿で大月駅に降り立つ。

体調が悪く、山の中で休んでいた杜丘に声をかけて来たのは、鳥獣保護会の狩猟監視員(木島一郎)だった。

杜丘は、自分のことを知っていて猟銃を向けて来た相手に油断させ、近づいて来た所を殴りつけると、逃げ出す。

その狩猟監視員からの連絡で、奥多摩に杜丘が現れたことを知った矢村は、東京への侵入ルートの裏を書かれたと気づき、撃ち殺すには惜しい男ですよと、伊藤検事正に語りかける。

すぐに、周辺一帯は厳重警備が敷かれ、杜丘は飲み屋の路地で身動きができなくなっていた。

それに気づいた一人の売春婦大月京子(倍賞美津子)は、杜丘の様子がおかしいことに気づき近づくと、熱があると知り、自分のアパートに連れて来て寝かせる。

10月21日 立川市

朝食の食材を買い、自宅アパートに戻る京子は、周囲一体が警官に溢れているのに気づく。

朝目覚めた杜丘は、帰って来た京子から、夜にならないと無理ね、杜丘さん!と話しかけられ、自分を匿うと事後従犯になるぞと心配する。

私なんか、法律守っていたら生きて行けないと言う京子に対し、杜丘も、逃げ回っているうちに、今まで、法律の条文だけで人を裁いて来た自分が恥ずかしくなったと打ち明ける。

その頃、細江刑事が、探している横路敬二が、多摩ニュータウンの大東建設現場辺りでタクシーを降りたと言う証言を矢村に報告していた。

さっそく、その建設現場に向かった所、対応した現場監督が、偽名でしばらく働いていたが、途中で頭がおかしくなり、今は精神病院に行ったと言うではないか。

「緑ヶ丘病院」で、院長の堂塔正康(岡田英次)に事情を聞いた所、3日前に鈴木タケシと云う名前で連れて来られ、凶暴性があったので強制入院させたと言う。

取り寄せたカルテを見ながら、パラノイア、精神分裂症があるが、虚言症はないと言う。

病院を出た矢村警部の元に、杜丘が新宿に現れたと言いながら、刑事が駆けつけて来る。

その頃、東京のホテルに到着していた真由美は、正岡厩舎との契約を無事完了していた。

そこに電話が入ったと知らせが着たので、出てみると、相手は杜丘だった。

遠波から、10日ほどしたら、あなたが東京に来ると、ホテルの電話番号を教えてもらっていたのだと言うので、真由美は感激するが、今自分がいる新宿は、廻り中、警備の警官が溢れており、とてもそちらまで行けそうにないと杜丘が言うので、真由美は自分が何とかするから、30分後に西新宿駅前に来るようにと伝える。

公衆電話を切り、群衆の中で身を潜めていた杜丘だったが、現場で張っていた小川刑事らに発見され追跡される。

杜丘は、群衆の中を逃げ回り、現場はパニック状態になる。

そこに突如、馬の群れが近づいて来る。

杜丘は、その一頭に乗った真由美の姿を確認すると、その馬に飛び乗り、機動隊が封鎖しようとする新宿の町から逃亡を図る。

その後、矢村警部は一人で、真由美が泊っているホテルの部屋を訪れ、杜丘はどこだ?浴室を調べさせてくれと言う。

すると、その浴室の前に立ちふさがった真由美は、たった今シャワーを使おうと思っていたと言いながら、着ていたものを脱ぎ捨て全裸になる。

矢村警部は、目をそらしながらも「いい加減、出て来てやれ」と浴室に呼びかける。

中から杜丘が姿を表す。

矢村警部は、遠波の馬なんか使ったら、すぐにバレるに決まっているだろう?と言いながら、杜丘に捜査メモを手渡すと、大東建設の現場で横道は発狂したそうだ。入院しているのは、長岡了介の息のかかった病院だと教える。

安心した真由美が杜丘に抱きつくと、警察も馬鹿じゃないんだから、5分後には引き上げた方が良いぞと忠告し、矢村警部は帰って行く。

捜査本部に戻って来た矢村警部は、伊藤検事正から、たった今、新宿署が遠波のホテルに突入したが二人とも姿を消していた。その直前に、君の姿を見かけたと云う証言がある。重大な背信行為として本庁に報告すると叱責されてしまう。

翌日、杜丘と真由美は、車で緑ヶ丘病院に向かっていた。

自分を無実の罠にかけた奴の正体が分かるんだと意気込む杜丘に、運転していた真由美は、いつまで続くの、あなたの旅は?終着駅などあるのかしら?と問いかける。

病院に着いた真由美は、夫と紹介した杜丘を、被害妄想のような幻聴傾向があり、二三度殴られたこともあるので、入院させて欲しいと堂塔院長に申し出る。

ちょうど空きベッドがあると即入院させられた杜丘は、その夜、病室を抜け出すと、横路がいそうな部屋を探していたが、その動きは監視カメラで全て観察されており、屈強な二人の看護人(阿藤快)に捕まり、地下の個室に連れて来られる。

そこには、堂塔院長が待ち構えており、もう、お芝居は止めましょうやと言う。

最初から、杜丘の正体はバレていたのだ。

あんたを陰で操っているんは誰だ?と杜丘は問いかけるが、堂塔は、その場に横路を連れて来させる。

横路は、完全に正気を失っているようで、何を語りかけても反応がなかった。

ロボトミー手術をやったのか?と聞く杜丘に、神経遮断薬を投薬したのだと説明した堂塔は、杜丘にもその薬を継続的に飲ませるよう看護人二人に命ずる。

それから、連日、杜丘は薬を飲まされるが、すっかり集中力がなくなったかに見える杜丘は、薬を飲もうとして、床に中身をこぼしたりする。

看護人が新しい薬を飲ませ、口を開けさせて中を確認した後、部屋を出て行くと、杜丘は床に落ちた薬のカプセルを見つめる。

10月27日 緑ヶ丘病院

連絡が途絶えた杜丘を心配した真由美が、退院を申し出に堂塔院長と掛け合いに来るが、堂塔は、もう別人のようになっているので会わない方が良いですよと警告しながらも、看護人に杜丘を連れて来させる。

やって来た杜丘は、真由美のことも判らなくなっている様子だったが、「あなた!」とすがりついて来た真由美は、その手を振りほどこうとした杜丘から、何かを握らされる。

病院を出て車に中で手を開いてみた真由美は、そこに薬を一粒見つける。

杜丘は、毎日、薬を飲まされた後、看護人が部屋を出たのを確認すると、便器の中に薬を吐瀉していたのだった。

公衆電話で、捜査本部の矢村警部に連絡を取ろうとした真由美だったが、もう矢村はここにはいないと言われてしまう。

愕然として公衆電話から出た真由美の前に立っていたのは、細江刑事だった。

警察寮で謹慎中だった矢村警部の元に、細江刑事は独断で真由美を連れて来る。

矢村は驚くが、真由美から薬を渡されると真剣な表情になる。

そんなある日、長岡了介と東南製薬の酒井専務が、一緒に緑ヶ丘病院を訪れる。

それを出迎えた堂塔院長は、神経遮断薬AXを与えた元爆弾魔の患者を見せる。

その患者は、止めろと云うまで、黙々と同じ作業を続けていた。

まさに、人間ロボットだった。

メスを手渡しながら、自分の手を刺せと堂塔院長が命ずると、患者は迷わず、受け取ったメスで自分の左手の甲を突き刺し始める。

それを見た長岡は、戦後、日本を社会主義化しようとしている奴らに思い知らせてやるんだと息巻く。

続いて、杜丘の病室にやって来た長岡と酒井は、命じられたまま、一日中、壁に向かって正座しているかつての検事の変わり果てた姿を見る。

朝倉事件の真相を知りたくないかと問いかける長岡だったが、興味ありませんと答える杜丘の姿に満足そうだった。

堂塔は、この男の妻と称する女の子とが気になると、長岡に伝える。

長岡たちが帰った後、杜丘の病室に戻って来た堂塔は、自殺すると言う遺書を杜丘自身の手によって書かせると、スーツに着替えさせ、病院の屋上に連れて来る。

そして、あの青い空に向かって歩くんだと命ずる。

杜丘は、その言葉通り、屋上の縁まで迷うことなく歩いて行くが、そこで立ち止まると振り返り、「朝倉代議士の真相が分かった。AXを飲ませ、長岡がレストランで、飛び降りるよう命じたんだ」と言い放つ。

杜丘が正気だったことに気づいた堂塔は、看護人たちに突き落とせと命じるが、杜丘は必死に戦い始める。

そこに、矢村警部と細江刑事も駆けつけて来る。

逃げ切れないと悟った堂塔は、自ら屋上から身を投げて死ぬ。

その後、矢村と細江と共に東南製薬へ向かった杜丘だったが、酒井専務は、机の上に突っ伏し、死んでいた。

その頃、海外逃亡を企てていた長岡は、二人の秘書に、ドルとパスポート、飛行機の手配が済んだと報告されていたが、そこに、杜丘、矢村両名が乗り込んで来る。

杜丘は、堂塔も酒井も自殺した。殺されたのかも知れんがなと、真相を突き止めたことを突きつける。

しかし、長岡は、AXは厚生省の審査もパスしていると開き直る。

生体実験段階で、死者が11人、治療不能者が22人も出ていることを朝倉に知られたのだと追求する杜丘にも、証拠を出してみろと言い張る。

加代は、ここにいる二人に殺させたのだと杜丘が指摘すると、細江刑事が、二人の秘書を連行する。

その二人に、ここは刑事さんたちの顔を立てておきなさい。すぐに釈放させるからと長岡は平然として見送ると、自分はこれから韓国へ行かなければ行けないのでと席を立つ。

しかし、そんな長岡に、矢村刑事が銃を突きつけ、「あんたも飛び降りてもらおうじゃないか」と威嚇する。

その矢村から銃を奪い取った杜丘は、迷わずその場で、長岡に向け発砲する。

さらに、その銃を奪い返した矢村も、こいつは何発撃っても、正当防衛だと言いながら、長岡の身体に数発銃弾を浴びせて絶命させる。

そこに、細江刑事が驚いて飛び込んで来るが、「正当防衛だ。小人は、この杜丘だ」と矢村警部は平然としている。

しかし、杜丘は「俺は証人じゃないぞ、共犯だ」と吐き捨てる。

上部の判断に身を委ねることになった二人が、検事局の屋上で待っていると、近づいて来た伊藤検事正が、お前たちは、「緊急避難による正当防衛」と云うことになったと伝える。

再び職場復帰をと話しかけられた杜丘だったが、逃亡中良く分かりました。法律では裁けなう悪があることを。もう二度と、人を追う気にはなれません。令状が出たら、台湾に来て下さいと言い残し去って行く。

それを聞いていた家村刑事は、その時は俺が行く、どうせ、又逃げるんだろうけどなと苦笑いして見送る。

検事局の前で、出て来た杜丘を待っていた真由美は、終わったの?と話しかけて来るが、杜丘は、否、終わりはないよと答える。

一緒に行っても良い?と聞く真由美の肩に手を伸ばした杜丘は、そのまま二人で歩き始めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

昔、テレビで観て以来の鑑賞だったが、印象はあまり変わらない。

特に面白くもないし、冗漫な印象が強い。

西村寿行原作だから、本格的な刑事ものとかミステリと言う内容ではなく、かなり劇画に近いハチャメチャな冒険ものと言った印象。

下川辰平が刑事役で出ていたり、当時のパトカーのサイレン音が頻繁に登場することもあり、何だかテレビの「太陽にほえろ!」とか「西部警察」でも観ているような印象さえある。

日頃から素行が悪く、周囲から嫌われていたと云う訳でもないはずなのに、上司や刑事たちから、全く信用されていない主人公とか、たった一度出会っただけの見知らぬ男に片思いを寄せる娘とか、不自然と言えば不自然な設定だらけなのだが、その劇画的な不自然さを、そのまま平板に撮ってしまっているため、矢村警部の劇画的キャラクターは浮いてしまっているし、サスペンス色も弱くなっているように感じる。

そもそも、主役を演じている健さんにしても、検事と云う職業のイメージが結びつかないのが辛い。

スーツを着て出ている場面でも、検事には見えないのだ。

この辺が、えん罪で逃亡中の医者を描いた「逃亡者」などとは決定的に違う所だと思う。

健さんは、過去に演じて来た役柄などのイメージが強く染み付いているため、逃亡している姿に違和感がなさ過ぎるのだ。

さらに、逃亡中の健さんに、明るく軽い印象のBGMが重なっているので、少しも緊迫感がない。

娯楽映画なので、あまり重い雰囲気にしたくないと云う演出意図なのかも知れないが、後半の展開もマンガチック過ぎると云うこともあり、何となく、ナンセンスっぽい印象さえ受けてしまう。

精神病院内で、健さんが薬漬けになったように見せかけるシーンは、前年の「フレンチ・コネクション2」の、ヤク中になったポパイ刑事を意識したものなのか?

ヒロイン役の中野良子も微妙な印象で、特に可愛いとかきれいと言う風貌ではなく、スクリーンでじっくり観ると、はっきり「不細工」とまでは言えないまでも、「奇妙な顔立ちの人」である。

よく言えば「個性的な顔立ちの人」なのだが、観客の好みはかなり分かれる女優さんではないだろうか?

新宿での立ち回りとか、都心部での馬の疾走シーンなどが見せ場と言えば見せ場なのだが、撮影が大変だっただろうなと云う感慨はあるものの、特に、びっくりすると云うほどでもない。

セスナ飛行シーンなども、肝心の所はミニチュア特撮でごまかしてしまっているので、これ又、ものたらなさが残るだけ。

その他のシーンは、全体的に平凡なものばかりで、見応え感に乏しい。

内容よりも、健さんが観られるだけで満足…と云う風な人向けの映画なのかも知れない。

 

ちなみに、「憤怒」は「ふんぬ」が正しい読み方だが、タイトルには「ふんど」と、はっきりルビが振ってある。