1982年、バーズスタジオ+ATG、浅井慎平脚本+監督作品。
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夜…、バイクや車が、道路を走っている。
色んな客(淀川長治、岡本喜八)でごった返す大衆酒場で飲んでいた一人の男が席を立って店を出、1000円でりんごを買って、自転車に乗り、駐車場の所に来ると、柱の下に、ゴリラのぬいぐるみと一緒に座り込んでいた女の子を見つけたので、そのまわりをくるくる回りながら、ママは?と聞くと、いないという。
男は、バンドマン森田一義、女の子は、時々、話しかけたり、食事を食べさせたりして顔なじみの大和舞と言う6歳の女の子だった。
舞が「海が見たい」と言うので、森田は、ゴリラのぬいぐるみを、ラジカセと一緒に前籠に乗せ、舞を自転車の後ろに乗せ、海に行く事にする。
波打ち際で、漂流物などをあさる二人。
舞は、公衆電話から自宅に電話をかけるが、誰も出ない。
森田が、ママいた?と聞くと、いないと舞は答える。
じゃあ、めしでも喰うかと言い出した森田は、近くの食堂で、夕食を取りながら、ソフトクリームだけ食べている舞に、ママはどう言う人?と聞くと、ホステスという。
パパは?と聞くと、いないという。
海の近くの空き地に舞をスーツの上着に包み寝かせていた森田は、捨ててあったピアノを弾く男を見ていた。
やがて、その男(山下洋輔)は、焚き火をしていた森田の側に近づき、どちらかともなく話し始める。
何か楽器やってるんですか?と聞く男に対し、森田はトランペットですよと答える。
どんな音楽が好きなんですかと聞かれた森田は、古い奴、60年代くらいのと答えると、50年代後半も良いよね、抜けられないよねと男も呼応する。
子供大丈夫?と男は心配するが、そんなに冷えないから大丈夫でしょうと応え、近所の子で、鍵っ子なんですよと森田は答える。
今度は森田の方が、子供さんはいないの?と聞くと、男はいないという。
奥さんは?と聞くと、今はいない…、前はいたけど逃げられてしまったと寂し気に答える。
ここでいきなり、あなたの首を絞めたらどうする?と森田が聞くと、男は怖いね、あんた、そう言う人なの?と少し警戒したようだったが、森田は冗談ですよとごまかす。
翌朝、埠頭でコーヒーを飲みながら、男は、こう云う子なら、旅をさせても良いんじゃないかと言い出す。
結局、森田は、前籠にゴリラのぬいぐるみとラジカセ、後ろに舞を乗せて、旅に出る事にする。
その晩は「つるや」と言う旅館に泊まるが、そこの電話から、又、舞が自宅に電話を入れると、ようやく出た母親(声-桃井かおり)が、今どこにいるの?小母さんのとこ?と聞くので、舞は、おじさんと一緒と答えると、色々知らない人の名前を言い出し、内田さんでしょう?内田さん出してよと一方的に命じたので、舞はさっさと電話を切ってしまう。
翌日は、近所の湖で釣りをしていると、舞が急に、おじさん結婚しないの?と聞いて来る。
森田は、とっさに、舞、俺と結婚するか?と聞くと、私は結婚しないの。子供が嫌いだからと、舞は大人びたことを言う。
森田は、森の中で、持って来たポケットトランペットを吹く。
舞の方は、絵本を読んでいる。
やがて、森田は、ペットを吹きながら、森の中で、舞を追いかける。
パチンコやに行った森田は、それを換金する。
換金屋は、あんた、プロだろうと言いながら札束を渡す。
夜、森の中で、舞と花火をする森田。
翌日、森田と舞は、葬儀の列を見る。
誰か死んだみたいだねと森田が言うと、舞は、私達は死なないよねと言うので、死ぬよと答えると、ママも?と聞くので、みんな死ぬんだよと森田は教える。
葬儀の列の一番後ろから付いて来た男が、なぜか急に脇道にそれ、うれしそうに去って行く。
とある農家に招かれ、そこの家の男(川谷拓三)から、酒を馳走になる事になる。
その男は、森田にタバコは上手いか?と聞く。
上手いですよと答えると、みんな煙になっちまうのにね…、そう家の親父は言うんだよと男はうれしそうに答える。
酒もかね?と、又聞くので、上手いですと森田が答えると、良いはすぐに冷めるのにね…と、家の親父は言うんだよと男は愉快そうに話し、自分も一口酒を飲むと、上手いよねとうれしそうに言う。
親父は、酒もタバコもやらないって。百姓は無駄な事はしないって…と、男は笑う。
俺の親父は、若い頃、一度だけ、女郎屋に行ったんだって…と男は続ける。
でも良かったって言うので、母ちゃんがいるのに、無駄な事したね。百姓は無駄な事は品行って言ったのにって、聞いたら、30年経つのに、今でも、おしろいの臭いなんかを思い出すって。俺は百姓には向いてないね。酒もタバコも好きだし、女なんか病み付きになっちゃうものと笑う。
翌日、廃校になった小学校の中に入り、森田がピアノでジャズを弾いていると、そこに一人の女教師(竹下景子)が入って来て、側にいた舞に向かい、お父さん、お上手ねと褒める。
その後、銭湯に舞と一緒に入っていると、先に入っていた男(内藤陳)が、どっから来たの?と話しかけて来る。
その入り口には、「大和舞 6歳 身長110cm 玉川警察署」と書かれた行方不明者の手配書が貼ってあったが、誰も気づかない。
森田が東京からと答えると、話しかけて来た男は、急に森田の身体を臭い、懐かしいねと言いながら、昭和38年頃何してた?と聞いて来たので、高校生だったと森田が答えると、自分はその頃、スターだったんだと言い出したその男は、石鹸箱の中に入れていた古い新聞記事を取り出してみせる。
そこには、「内藤陳 女性作家と同棲」とゴシップ記事が小さく載っていた。
男は、芸能界って疲れたから辞めたという。
ずっと笑ってなくちゃいけないから疲れる。でももうすぐ帰る。色んな事務所から、そろそろやらないかと誘われているのでと自慢し始めたので、森田は飽きて上がろうとするが、その男は、外国の作家が自分をモデルに小説を書いた事もある。アーネスト・へミングウェイの「陽はまた昇る」と言う奴だけど…などと言い出す。
いい加減、迷惑になった森田だったが、男は、東京のどこに住んでいるの?と聞くので、下町だと答えると、へえ…庶民なんだ、俺、今まで庶民観た事なかったけど、こんなんなんだと言う。
その男は、パチンコの景品屋だった。
森田が、稼いだ札を持って行くと、シャレたスーツを着込んだその男は、札束と、持っていた本を渡す。
森田は翌日、駅で舞に弁当と切符を買い与えると、「磐梯8号」に乗せ、東京に返す事にする。
終点の東京に着いたら、ママに電話をしなさい。ママがいなかったら、小母さんに電話するんだよと何度も念を押して、電車を見送った森田だったが、駅を出て、自転車の所に戻って来ると、前籠に入ったゴリラのぬいぐるみを見つけ、持たせるのを忘れた事に気づく。
急いで、駅前に停まっていたタクシーに乗ると、今出た急行の次の駅まで追ってくれと頼むが、運転手(佐藤B作)は、間に合うかな?と不安がりながらも出発する。
しかし、猪苗代駅でも電車には間に合わなかった。
しかし、自転車の所に戻った森田は、そこで弁当箱を持ったまま待っていた舞の姿を発見する。
結局、その夜も旅館で、舞と泊る事になる。
夕食の途中、ふらりと部屋を出た森田は、宴会で盛り上がっているグループの部屋を見つける。
そのメンバーの中の酔客(室田日出男)から「兄ちゃん!」と呼び込まれ、ビールを振る舞われた森田は、宴会場の席に上がると、怪し気な外国語で、ラテン系の即興歌をいきなり歌い始める。
そうした様子を、舞は、廊下からじっと見守っていた。
旅館の仲居さん(宮本信子)が、布団の用意をしながら、お父さんと娘と思い込んでいるようなので、舞は、一緒に寝ないの。お父さんじゃないからと教える。
森田も、まあ、誘拐みたいなものですね…などと、冗談めかして答えたので、仲居さんは呆れるが、全く信じた様子はなかった。
翌日、森田と舞を乗せた自転車は、防波堤を走っていたが、やがて、ヌード写真の撮影隊と出くわす。
森田と舞は、その撮影現場の近くでしばらく遊ぶ事にする。
夜、又焚き火をしていると、一人の男(伊丹十三)が近づいて来る。
男は、ジャンパーの下に「W」のイニシャルの入ったシャツを着ていたので、「早稲田ですか?」と森田が聞くと、違うと言うので、「それじゃあ、ウォルト・ディズニーでもないでしょう」などと冗談を言うと、人間には躁病と鬱病があり、鬱病とは未来がなくなってしまう事だなどと、いきなり男は語り出す。
ひとしきり理屈っぽい話をした男は、いきなり海に向かうと、「フレー!フレー!早稲田!」とエールを送り出す。
猫を抱いて近くで寝ていた舞は、目をさまして「何してんの?」と不思議そうに呟く。
翌日も、自転車にゴリラのぬいぐるみと舞を乗せて、海岸縁を進んでいた森田は、朝市を見ながら歩く事にする。
どこからともなく聞こえて来るラジオから、少女を誘拐した森田の事を報ずるニュースが流れていた。
その頃、東京の森田のアパートには、刑事が踏み込み、家捜しをしていた。
やがて、バンドマンだと言う森田の、サングラスをかけた写真を箪笥の中から見つける。
その夜、森田はおでんの屋台で、一杯飲んでいたが、酒をもらおうとして「おでん屋さん!」と声をかけると、「俺はおでん屋ではない。その証拠に、昨日はここでラーメンを出していた」などと言いながら、主人(渡辺文雄)が顔を出す。
その主人は、生きて行くためにはいい加減な商売が良いだろうと思っていて、宝石っていい加減だろう?だから、昔は俺、宝石屋の社長をやっていたんだなどと一人で語り始める。
だから、職業欄には「多業」とか「全業」って書きたいんだが、今は「無職」って書く事にしている。あんたは?と聞いて来たので、「旅」ですねと森田が適当に答えると、それも良いな、と言いながら、主人はいつの間にか、森田の隣りに座って、客として一緒に飲み始め、昔はフランスにいたんだなどと言い出す。
翌日、坂になった草原でポケットトランペットを森田が吹いていると、バイクに乗った奇妙な青年が舞に近づき、乗る?と聞いて来る。
森田が気がつくと、舞は、その青年の花で埋まった運転席に乗せられどこかへ向かう。
しかし、森田は気にせず、そのままペットを吹いていると、やがて、青年おバイクは戻って来て、舞を降ろすと、運転席一杯の花を渡して帰って行く。
山々はすっかり、秋色に染まっていたが、そんな中、森田は、ゴリラのぬいぐるみと舞を自転車に乗せて、旅を続けていた。
とある村の床屋に入り、ヒゲを当ってもらっていると、床屋は、今朝のニュースを見たかと聞いて来る。
少女を誘拐して、30億要求した奴がいる、酷い事をする奴もいたもんだなどと言っている。
そこに近所の若者が、無愛想に回覧板を持って来たので、ああいう奴はパーマ屋行くんですよねなどと不満げに言い、旦那はいつもは?と聞くので、森田は、東京の美容院とあっさり答える。
その夜は、寝入ってしまった舞を抱いて、その村のスナックに入る事にする。
二人の先客がおり、先生と呼ばれたヒゲの男が、お国言葉と言うのはいつまで経っても抜けないなどとホステス(高見恭子)相手に話をしている。
すると、もう一人の客(根津甚八)が「プレイボーイ」のウサギのマークの意味を知ってる?とホステスに聞き、人間とウサギは、いつでも生殖が出来る。だからヘフナーは、いつでもその気があると言う意味でウサギを使ったんだなどと蘊蓄を語り出す。
やがて、二人が帰ると、ママ(吉行和子)が、ホステスにも帰っても良いと言うので、もう看板ですか?と森田が聞くと、良いのよ、それより、二階にその子を寝かす?と聞いてくれる。誰もいないので良いのだと言う。
翌朝、まだ無人の商店街を歩いていると、壁に貼られた「森田一義」の指名手配のポスターを見つけたので、森田は少し急ぎ足で去る事にする。
森田と舞は、フェリーに乗り込むが、デッキに佇んだ舞は「大人になりたい」と急に呟くが、汽笛にかき消され、森田の耳には届かなかった。
翌日、二人は、湖を手漕ぎボートで遊ぶが、森田が、そろそろ東京に帰るか?と聞くと、舞は、雪が見たいと言い出す。
町の質屋で、中古カメラを購入する事にした森田だったが、質屋の主人(小松方正)は、愛想良くカメラを売り、森田と舞を送り出すと、すぐに電話を取る。
その店にも、森田の指名手配は貼られていたのだ。
森田と舞は、雪山の中を進んでいた。
その二人の足跡を追って、警官と刑事らしき男が後を追う。
森田は、雪の中に佇む舞の写真を何枚も撮る。
そして、町から持って来た電飾や飾りを、山の木々に飾り付け、クリスマスのような雰囲気を作る。
カメラのタイマーをセットした森田は、舞の横に駆け寄り、「笑って!」と舞に言う。
カメラのシャッター音と共に、森田の前には、檻が立っていた。
それは、雪山の中に出来た一面だけの檻だった。
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カメラマンの浅井慎平が脚本と監督を担当し、タモリが映画初主演した作品。
一種のロードムービーだが、随所に意外なゲストが登場し、タモリとのアドリブ的な掛け合いをすると言う趣向になっている。
無垢で愛らしい少女と言うだけではなく、時々、どこか大人びたことを言う舞の存在も魅力的。
一画面一画面が写真と云っても良い構図で、やはり、カメラマンが撮った映画らしい。
タモリは、初主演とは言っても、もう年齢的には中年に近く、いかにも大人と言う感じで、ごく自然に演じており、不自然さやわざとらしさはない。
ゲストたちの短い会話はどれも興味深いが、中でも、拓ボン(川谷拓三)の会話シーンは素晴らしい。
元人気トリオ「トリオ・ザ・パンチ」のメンバーだった内藤陳の、人を喰った会話も面白い。
台本があるのか、全くのアドリブなのか判らないが、実に自然に拓ボンの人間味が伝わって来るような、味のあるシーンになっている。
素人の実験作品みたいに、あまり奇抜な事をしようとしていないのも好ましい。
音と映像のコラボと言った感じで、きれいな風景を見ているだけでも退屈する事はない。
淀川長治氏や伊丹十三氏など、既に鬼籍に入られた有名人を画面上で見れただけでも貴重な作品のように思える。