TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

樺太1945年夏 氷雪の門

1974年、JPS、金子俊男原作、国弘威雄脚本、村山三男監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

サハリン-樺太

北海道稚内市稚内公園には、今でも、白御影石で作られた二本の塔と、その下には女体像が立っており、それは、かつて樺太に行き、帰って来た人たちの想いを込め、肉眼で樺太が見えるこの地に作られた記念碑で、「氷雪の門」と呼ばれている。

そして、その近くには、9人の乙女たちを奉った乙女の像があり、そこには、彼女たち真岡郵便局員の最後の言葉、「皆さん、これが最後です。さようなら、さようなら」と云う言葉が刻み込まれている。

1945年 夏

この映画は、終戦の時、樺太のレポートである。

タイトル

樺太の西海岸にあった真岡町は、人口24000人。

その本町通りの中央に建っていたのが、真岡郵便局だった。

その頃の日本の状況はと言えば、4〜6月は沖縄戦線の激化。

8月6日には、広島に原爆が落とされていた。

1945年8月8日

真岡郵便局の電話交換手、坂本綾子(藤田弓子)は、広島に落ちた爆弾の被害がすごかったそうだが、それは本当だろうか?と仲間たちと話し合っていた。

そこに、植中賢次(千秋実)がやって来たので、班長関根律子(二木てるみ)は、第一班と夜勤班との交代を執り行う。

綾子は、仲間たちに、今夜お汁粉を作るので食べに来ないと誘いかける。

それに乗って来た仲間たちは、音楽会をやろうと言い出す。

帰宅途中だった斎藤夏子(岡田可愛)は、5時の汽車でやって来たと言う妹の秋子(岡田由紀子)と久々に出会ったので、堤防の所へ出かける。

秋子から、宗谷海峡にアメリカの軍艦が現れたと聞いた夏子は、その内、ここだけで戦うしかないかも知れないと答える。

律子たちと一緒に山道を帰っていた藤倉信枝(鳥居恵子)は、赤い百合の花を見つける。

その後、信枝の恋人が運転する機関車が近づいて来るのを山の上から発見する。

夏子は、広島の小母さんのことを案じるが、原爆投下のことをまだ知らなかった秋子は、家の親戚はみんなあそこに集まっているんだから大丈夫と、心配症の姉を笑うのだった。

そんな秋子は、今度、泰平に来てね、会って欲しい人がいるのと言い出す。

どうやら、好きな人が出来たようだった。

泰平炭坑病院で、ようやく一人前の看護婦になりかけていた秋子は、久々に会った姉の夏子に、甘えるのだった。

帰宅した律子は、同居している小母の森本きん(七尾伶子)から、久光から手紙が届いていると言われ、喜んで家の中の状差しから手紙を取り出して読もうとするが、その時、外に出ていたきんが、「ソ連の飛行機よ!」と声を上げたので、驚いて飛び出すと、こんな所では見た事もない飛行機が一機、上空を飛んで行くのが見えた。

きん小母さんは、どうしようとうろたえる。

やがて、町中にサイレンが鳴り始める。

日の丸監視哨にいた律子の夫、久光忠夫(若林豪)は、ソ連の戦車が迫っているのを目撃する。

豊原の大本営

鈴本参謀長(丹波哲郎)は、樺太の地図を前に、ソ連戦に至った場合の作戦を、幹部たちに話していた。

九州ほどもあるこの樺太を、たった一個師団で守らねばならなかった。

仁木師団長(島田正吾)は、自分たち軍人は、戦うことには躊躇しないが、一般法人を犠牲には出来ないので、緊急疎開させると言う。

そこに、吉崎大尉(三上真一郎)が、緊急電報を携えて入って来る。

ソ連の動きは顕著なので、戦闘準備に入れ。確度「甲」と云うものだった。

その頃、律子たち電話交換嬢たちは、郵便局の別室で、お汁粉パーティを開いていた。

薬屋の綾子が、サッカリンをくすねて作ったと言うお汁粉は、米粉で作った団子も入っており、皆一年ぶりくらいのごちそうだった。

今度は、すき焼きにしない?肉は、美佐ちゃんのところで飼っているウサギを使えば良いと律子が冗談を言うと、手塚美沙子(大石はるみ)は嫌だとべそをかき出す。

美沙子は、冗談も通じない、まだ、ほんの子供だったのだ。

やがて、レコードをかけることになり、交換室で夜勤仕事をしている仲間たちにも聞こえるよう、扉を開け放つ。

1942年に灰田勝彦が歌った大映映画の主題歌「新雪」だった。

それを聞いた綾子は、あの映画良かったわよね…と、しきりに懐かしがる。

綾子はさらに、あの主人公(水島道太郎)、どこか、王子製紙からバレーの先生として来てくれた人に似てない?などと話す。

それは、岡谷俊一(佐原健二)のことだった。

みんなは、岡谷と共に楽しくバレーボールをしていたときのことを思い出す。

律子は、なっちゃん来れば良いのにね…と来なかった仲間のことを言い出し、ソ連とは中立条約を結んでいなかった?などと、戦況のことなど持ち出すものも現れ、ちょっと場の雰囲気が沈んだので、オルガン、バイオリン、アコーディオンの伴奏で、みんなで「やしの実」の歌を合唱することにする。

8月9日

鈴本参謀長は、ソ連が参戦したとの電話を受け、至急各部隊に、そのことを通達するよう命ずる。

交換機で、逓信局からの緊急通達を受けた綾子は、他の交換嬢と共に、各所に連絡する。

律子が帰宅すると、母親のしず(赤木春恵)が、本土に帰らないといけないのではないかと心配していた。

しかし、父親の辰造(今福正雄)は、今、本土に帰るには、あれこれ申請許可に時間がかかると言う。

弥生の母親悦子(鳳八千代)は、急に自宅で倒れる。

日の丸監視哨にいた久光たちには、まだ、ソ連参戦の報は届いていなかったが、突然の砲撃を受け、全員外に飛び出し構えると、ソ連兵が接近していた。

司令部では、各方面から入電して来るソ連からの攻撃の報を聞いていたが、田尻中佐(岸田森)からの「第88師団は、積極的に攻撃するも、越境すべからず」との司令を受けた鈴本参謀長は、自分の耳を疑う。

郵便局内に交換嬢たちを集めた植中局長は、戦況が逼迫して来たことを説明する。

8月10日 午前2時

久光は、新妻の律子のことを思い出しながら、自分はここで、27歳と云う若さで死ぬだろうと覚悟していた。

そこに、「積極的に攻撃するも、越境すべからず」との司令が届く。

仕事中、心配顔の弥生に気づいた律子が訳を聞くと、母親が入院し、手術しなければならないのだと云うので、局長が病院長を知っているはずだから、相談してみなさいと助言する。

弥生は、父親を早く戦死させており、今では母と娘の二人暮らしであることを知っている律子は胸を痛める。

その時、港の方から大きな爆発音が響いて来る。

窓から海の方を見ると、商船が炎上しているではないか。

アメリカかソ連か、国籍不明の潜水艦に攻撃されたらしい。

弥生は、警察に通報する。

仁木師団長は、真岡が攻撃されたと聞き、驚愕する。

鈴本参謀長は、今、ハバロフスクで、日本が連合国との和平交渉進めているようだと師団長に報告し、上層部は、そう言う裏事情があるから、越境するななどと言うあいまいな司令を出しているのではないかと疑い、方面軍に命令の撤回を願いたいと申し出る。

8月11日 午前6時

日の丸監視哨で待機していた久光たちは、突如、砲撃を受ける。

前方から戦車が接近して来るのが確認された。

半田の第7、第8中隊は玉砕したとの報が司令部に入る。

花を生けていた律子は、百合の花が床に落ちるのを見て、不吉な胸騒ぎを覚える。

8時30分、ソ連が恵須取 (エストル)を襲撃。

司令部は、各監視哨に通達を出す。

信枝は、姉のことを案じていた。

8月12日 司令部

仁木師団長が、125連隊は八方山を死守しろと命ずる。

戦車隊に果敢に向かっていた二名の日本兵が射殺される。

安別も、ソ連の艦砲射撃を受け、町は壊滅しようとしていた。

恵須取と安別の町には、15才から60才の男子は残り、婦女子だけ疎開するよう司令が出る。

信枝は、恵須取に嫁ぎ、最近、女の子が生まれたばかりの姉、安川房枝(南田洋子)に電話するが、恵須取はソ連からの砲撃の真っ最中らしく、きちんとした話も出来ないまま電話が切れる。

房枝の夫徳雄(田村高廣)は、自分は残るので、二人の男の子を連れて、少しでも内地に近づくんだと、別れたくないないとすがりつく房枝や子供たちを説得する。

恵須取からの婦女子の避難が始まる。

夫を呼ぶ房枝を、近所の女性たちがなだめながら町を出る。

そうした中、町に残っていた徳雄は、荷物の上に座り、鍋のうどんをすすっている子供を発見、すぐに危険だからと抱きかかえるが、子供は「母さんがここで待ってろと云った」と云う。

しかし、その男の子を抱え逃げていた徳雄は、背後から迫って来たソ連兵に、子供諸共撃ち殺される。

婦女子たちの逃走の列は続いた。

中には、道ばたに座り込み、札束を差し出して、連れて行ってくれと頼む老人もいたが、誰も相手はしなかった。

房枝の二人の息子、利夫と茂は、もう足が痛くて歩けないと座り込むが、房枝はそんな二人を叱りながら歩き続ける。

道ばたには、取り残されたのか、小さな男の子が、乾パンを食べてしゃがみ込んでいた。

仁木師団長は、トラックも貨車も、全て、南下する避難民用に回せと指示を出していた。

道を歩く避難民の中では、赤ん坊や幼児が泣き始め、それを聞いた男が、どこにスパイがいるかも知れないから、子供など捨ててしまえと言い放っていた。

8月13日

避難民たちが通った道には、捨てられた荷物や位牌、砂糖のこぼれた跡などが残っていた。

房枝は、道ばたに捨てられて泣いている赤ん坊を見て愕然とする。

菅原美保子(栗田ひろみ)と弟賀津夫の母親、良子(柳川慶子)は、もう歩けないので、ここで殺してくれ!と娘に頼んでいた。

そんな母親を必死に励まして歩かそうとする美保子に、良子は、どうして戦争なんかするんだろうねぇと嘆くのだった。

真岡駅では、信枝の恋人で機関士の中西清治(浜田光夫?)が、避難民用のピストン輸送を繰り返していた。

その真岡駅にやって来た律子と信枝は、列車から降りて来る避難民の中に、姉がいないかと必死に探すが、恵須取からの避難民は乗っていないようだった。

その頃、房枝は、河原に到着したので、赤ん坊にミルクを与えていた。

息子たち二人は、川の水を飲んでいる。

その時、突如、ソ連の戦闘機が三機近づいて来て、機銃掃射を浴びせて来る。

思わず赤ん坊を抱え、うずくまった房枝だったが、戦闘機が去った後、周囲を見回すと、川の中に二人の息子が倒れ、血を流していた。

慌てて、赤ん坊を河原に起き、二人の息子を抱きかかえた房枝だったが、利夫と茂は、共に息絶えていた。

近くで銃撃を受け、負傷した菅原良子は、突如、大声で笑い始める。

気がふれたのだった。

8月14日

近くの寺に参った律子は、仮祝言を済ませてすぐに前線に向かった久光の無事を祈願していた。

札幌の大学で出会い、その後も愛を育んで来た楽しい日々のことを思い出していた。

司令部では、鈴本参謀長が仁木師団長に、明日、天皇陛下の玉音放送があると伝えていた。

その日の正午、日の丸監視哨にいた久光は、又、砲撃を受けていた。

終戦を伝える玉音放送が伝えられた。

真岡郵便局にいた律子は植中局長に、日本は負けたのかと尋ねる。

やはり負けたそうだ。町長と今後のことを相談して来ると力なく答えた植中局長に、他の交換嬢たちが、日本が負けるはずがないと反発する。

しかし、各所から、玉音放送の真偽を問い合わせる電話が殺到したので、交換嬢たちは必死に応対をする。

そんな真岡町にも、明日から、緊急避難命令が下る。

鈴本参謀長は、停戦命令を出すことにするが、八方山からは何の連絡も取れなくなったと聞かされる。

母のしずは、自宅でぼうっとしている律子に、秋田のおじさんの家に行くしかないので、早く荷物を整理するよう話しかけるが、律子は、久光のことが心配なので行きたくないと答える。

しずは、久光さんは国境近くにいたので、もうダメだろうと言うし、きん小母さんも、ソ連に連行でもされたら…と嫌なことを言うので、溜まらなくなり家を飛び出す。

そこに、弟の菊男が帰って来て、自分は16なので、父さんとここに残ると良い、泣き出す。

正気を失い、腰に付けた紐を美保子と賀津夫に引かれ歩いていた良子だったが、とうとう倒れ、息を引き取る。

一方、真岡駅では、毎日、信枝が列車から降りる避難民を確認し、姉房枝の帰りを待ち受けていた。

その日帰宅した信枝に、父親は、もう房枝のことは諦めろ。ここに女が残っていたら、どうなると思う?と説得する。

父親は、お前と母さんだけには生き残って欲しいと頼む。

美保子と賀津夫は、良子の遺体を埋めようと穴を掘りかけていたが、その時「戦争が終わったぞぉ〜!」と叫ぶ男の声が聞こえて来る。

美保子は、横たわった母親の遺体を見つめていた。

郵便局では、綾子が律子に、疎開するのかどうか確認していた。

律子は、自分はこの町で生まれ育って来たので残ると答える。

そこに、信枝と夏子もやって来て、話に加わろうとするが、突如、泰平が空襲を受けたと言う指揮連絡が入る。

それを聞いた夏子は、泰平炭坑病院にいる妹秋子に連絡を取ろうと電話を入れるが、応答した相手は、看護婦たちは全員、受賞者の手術中なので避難出来ないと言い、突如、言葉が途切れる。

答えていた男自体が死亡したのだった。

炭坑病院の中では、爆撃でパニック状態になっている患者たちを、看護婦たちが懸命に落ち着かせていた。

8月16日

方面軍から電報が届き、自衛のための戦闘は続けろと言って来る。

それを聞いた鈴本参謀長は、自衛とはどう言うことだ?と聞き返す。

郵便局には、ソ連が南下中との指揮連絡が入る。

律子は、4班も、局長の元に集合するよう命ずる。

植中局長は、交換嬢たち全員に向かい、君たちも、一般婦女子同様疎開することに決定したと伝える。

自分たちがいなくなったら、電話の交換業務はどうなるのかと云う質問に対しては、15歳以上の真岡中学を養成すると言う。

それを聞いた交換嬢たちは全員泣き出す。

律子は局長に対し、自分たちでも、覚えるのに2〜3年かかった電話交換の技術を、中学生が急場で覚えるのは無理だと言い、綾子も同調する。

植中局長は、ソ連が進駐した場合、君たちがどうなるか、歴史を見れば明らかだろうと説得する。

しかし、夏子も、今後は緊急連絡が多くなるはずだし、奥地から、親族が戻っていないものもいると反対する。

それを聞いていた植中局長は、一応、君たちの気持は逓信局の方へ伝えるが、許可が下りなかったら諦めなさい。とにかく、引き上げの準備だけはするようにと言い聞かす。

帰宅した律子が残ると言うのを聞いていた母しずは、父さんも菊男もお前もここに残るのに、自分だけ逃げることは出来ない。私を一人にしないでくれ、死ぬときは一緒に死なせてくれと言い出していた。

辰造は、そんなしずに、戦争はもう終わったんだから、死ぬことなど考えるなとなだめる。

飼っていたウサギを置いては行けないと言う美沙子に、父親は、ウサギは自分が殺すと云うので、美沙子は泣きながら父親を止める。

信枝は、その日も真岡駅に、姉が帰って来ていないか探しに来ていた。

郵便局では、ここに残ると言いはって仕事を続けていた靖子に、香取知子(岡本茉利)や石田ゆみ(野村けい子)と仲村弥生も明日までなのだと話しかけていた。

そこに、靖子の父親がやって来て、ちょっと出かけるだけと言っていたのにと、言いながら、娘を連れ帰ろうとし、律子に詫びるのだった。

そんな中、夏子は、何とか妹の秋子に連絡を取ろうとしていた。

その頃、泰平炭坑病院の看護婦たちはその場に残り、通りかかったトラックに患者を乗せ、避難させ終わっていた。

8月17日

先に疎開するため港に到着した香取知子から、郵便局にいた美沙子に電話が入る。

その場にいた交換嬢たちが電話の前に集まり、一言ずつ声をかける。

律子も、結局、自分たちの願いは聞き入れられず、全員23日までに疎開することになったのだから、自分たちに何の気兼ねもなく、先に帰ってくれと声をかける。

それを聞いていた知子は、公衆電話の所で泣き崩れるのだった。

その時、炭坑病院から夏子に電話が入る。

それに応答した夏子の様子が変だったので、律子が訳を聞くと、妹は、ソ連軍が撃って来たので、婦長さんらと集団自決したと夏子は教える。

秋子らは、全員、手首を切って、木の下で倒れていた。

8月18日

寺で、軍旗の奉焼が行われていた。

居並んだ日本兵たちは、焼かれる軍旗を目の当たりにして泣き始める。

8月20日

ソ連がなおも進行中との報を受けた鈴本参謀長は驚いていた。

母親の墓参りをしていた夏子は、秋子もそちらに行ってしまったと呟いていた。

郵便局では、律子が足下に置いたバッグの中に、美沙子が三匹のウサギを入れて来たことを発見する。

戦争は続行していた。

昼休み近く、その日非番だった綾子が、干しうどんを持って来たからみんなで食べようとやって来る。

その後、みんなでうどんを食べている時、綾子が持っていた小瓶を床に落としたので、それは何?と律子が聞くと、万一の護身用のための青酸カリだと言うので、自分にも少し頂戴と言い出す。

司令部には、小笠原丸、大東丸、第二進行丸などの引き揚げ船が、国籍不明の潜水艦の攻撃を受け沈没したとの知らせが届いていた。

上敷香(かみしすか)では、鈴本参謀長がソ連軍と和平交渉を行っていた。

しかし、ソ連側は自分たちは樺太全体の占領命じられているのだと主張。

それは、国際法違反になるのではないかと言う鈴本参謀長の指摘にも、負けた国に国際法はないと拒否されてしまう。

20日 午前5時40分

徹夜で仕事をしていた律子たちは、珍しく霧が濃い外の様子を窓から確認していた。

そこに、幌泊監視哨から、幌泊に接近していたソ連船が方向を変え、真岡方面に向かったと緊急報告が入る。

それを受けた律子は、急いで仮眠していた仲間たちを起こしに行かせ、関係各所に通達を出す。

歩兵25連隊第一部隊の村口中尉(黒沢年男)は連絡を受け、分隊長(平泉征)らに通達を出す。

律子たちは、窓から見える海の向こうにソ連船を確認していた。

怯える交換嬢たちに向かい、律子は、戦争はもう終わったのだから、いつものように電話業務についていましょうと言い聞かせていたが、突如、ソ連船が発砲して来る。

町民たちからの反撃をしてくれと言う声に応え、弾を大砲に込めた部下に、村口副官は、命令あるまで撃ってはならんと、必死になって、大砲の前に覆いかぶさる。

やがて、ソ連船から上陸艇が降ろされ接近して来る。

真岡駅に到着した列車から降りる避難民に、必死に、山の方に逃げるよう叫ぶ機関士の清治。

村口中尉は、停戦交渉に行くと言い出し、白旗を持って、真岡駅に進入して来たソ連軍の前に向かう。

列車から降り立った避難民の中には、赤ん坊を抱いた房枝がいたが、駅から逃げようとする所を、ソ連兵たちに背後から撃たれて倒れてしまう。

「ここまで…」と言いかけて息絶えた房枝の横では、赤ん坊が泣き叫んでいた。

ノートを手に、黙々と一人でここまで避難していた小学生も射殺されていた。

しずたちも家を後にしていた。

律子や夏子は、必死に、真岡が砲撃されているので避難してくださいと、各方面に電話をしまくっていた。

分隊長も、撃ってはならんと部下たちを諌めていた。

郵便局へ向かっていた植中局長は、ソ連兵たちの銃撃に阻まれ、近づけないでいた。

律子は信枝に、みんなを連れてここを逃げるように指示する。

一旦は逃げかけた彼女らだったが、一人で交換機に向かっている律子の姿を見ると、みんなすがりついて来て謝るのだった。

店にいた綾子から電話を受けた律子だったが、局長が来ない以上、自分はここを動けないと言う。

真岡駅に到着した村口中尉は、ソ連兵に攻撃中止を願い出るが、その場で全員射殺されてしまう。

郵便局には、鳥貝啓子(今出川西紀)の弟オサム(水野哲)が一人でやって来て、怖いと姉に抱きついて来る。

啓子は、そんな弟を励まし、山に一人で逃げなさい、姉ちゃんは仕事があると言い聞かす。

そんな様子を見た律子は、あなたも逃げなさいと啓子に勧めるが、啓子は動こうとはしなかった。

そんな中、弥生に、病院に入院中だった母悦子から電話が入り、さようならと別れの言葉を告げた後、侵入して来たソ連兵に撃たれ息絶える。

信枝には、腹を撃たれたと言う機関士の中西清治から電話が入り、もう一度、列車に戻る。俺の死に場所はあそこしかないと言い、そのまま倒れてしまう。

夏子は、局長はまだ来ないと律子に伝える。

そんな郵便局の近くに隠れていた、律子の弟菊男が飛び出し、ソ連軍に抵抗しようとしたので、父親辰造に抱きとめられるが、二人とも、ソ連兵に射殺されてしまう。

それを窓から、なすすべなく目撃した律子。

夏子は、ソ連兵が郵便局の前まで来たと叫ぶ。

警備隊本部に電話を入れるが誰も出ない。

律子は、唯一電話が繋がった泊局の渡部局長(久米明)に、「これがさいごです」と伝える。

渡部局長は、「待ちなさい!死んじゃいかん!行きなさい!白い布を出すんだ!」と叫ぶ。

しかし、律子は「お世話になりました」と答える。

「関根さん、死んじゃいけない!」と渡部局長は繰り返すが、律子は、青酸カリの瓶を取り出していた。

その周囲に集まる8人の交換嬢たち。

律子は彼女らに、ごめんなさい、あなたたちだけでも何とかしてあげたかった。私達は、最後まで交換台を守った。誇りだわ。でも、死にたくない…と泣き出し、班長として、私、間違っていたかしらと云うので、全員否定する。

律子は左手に、青酸カリの粉を落とす。

かつて、みんなでバレーボールをした日、久光と楽しくかけっこしていた日のことが思い出される。

9人の交換嬢たちは、床に倒れていた。

最後の力を振り絞って、イスから起き上がった律子は、仲間たちの身体に寄り添うように床に倒れる。

そんな彼女たちの遺体の間を、ウサギが這い回っていた。

「やしの実」の歌が重なる。

あれから28年…

昭和48年3月31日、彼女らの功績をたたえ、勲八等宝冠章が与えられた。

だが、彼女たちは生きたかっただろう。

乙女の像に近づく二人の男女の姿があった。

それは、年老いたが生き残っていた律子の夫、久光忠夫と、青酸カリを渡した坂本綾子だった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

5年の歳月をかけた大作だったにもかかわらず、完成直後、ソ連からの圧力がかかり、北海道など一部を除くと、ほとんど世間に知られないままに葬られた「幻の戦争秘話」である。

今回、「コーブ」の上映中止の結果、急遽、公開されることになった曰く付きの映画である。

登場人物などを見る限り、どことなく、東宝の「8.15シリーズ」などの雰囲気を感じないでもないが、これは東宝の作品ではなく、あくまでも外部製作作品である。

丹波哲郎、島田正吾両名がコンビで出ていることから、「日本沈没」(1973)なども連想するが、主役はあくまでも、二木てるみら女性陣である。

その分、前半の若い女性たちの、平凡ながら屈託のない明るい日常生活と、ソ連軍に進行された後の悲惨さが対比的に描かれている。

映画の中核になる、9人の乙女たちの自決も痛々しいが、この映画の一番の見所と言えば、やはり避難する婦女子たちの悲惨な行進の様子だろう。

まさに「死の行進」と呼ぶにふさわしいような無惨な様子が描かれている。

70年代前半の作品だけに、戦争描写は、ミニチュアを使った特撮がメインとなっているが、特撮監督は成田亨である。

船など、水を使った部分は、さすがに大きなプールが使えなかったのか、ミニチュアのスケールも小さく、ちゃちさを感じない訳にはいかないが、飛行機のシーンなどは、カットによっては、それなりに感心するような部分もある。

クライマックスの真岡砲撃シーンなどでは、倒壊する建物とか、見応えのあるミニチュアワークがいくつか発見出来る。

戦車隊の接近シーンは、ミニチュアと、自衛隊の戦車を使った実写が組み合わされているようだが、同じくソ連戦を扱った「独立機関銃隊今だ射撃中」などを見ていると、戦車の形が今風になっているのがちょっと気にならないではない。

何人もの男優が入れ替わり立ち替わり登場するのだが、オールスター的な雰囲気ではなく、あくまでも「ゲスト出演風」のちょっとした登場の仕方しかしないので、物足りないと言えば、物足りない。

信枝の恋人役の機関士中西清治は、資料では浜田光夫となっているが、おそらく別人だと思う。

顔は見覚えがある人なのだが、名前が出て来ない。

栗田ひろみが出ているのが、いかにも70年代映画らしい。

戦争映画としては、まずまずと言った所だと思うが、語られているエピソード自体は、本当に今回はじめて知った悲劇だったので、それを世に知らしめると云う意味では、大変意義のある映画だと思う。

先頃亡くなった南田洋子さんの姿も懐かしい。

あくまでも想像だが、この作品、当初は東宝系で公開される予定だったらしく、そうだとすると、「海軍特別年少兵」(1972)で途絶えていた「8.15シリーズ」の第7弾として公開されていた可能性もあったのではないだろうか?

外部作品ながら、見た目は「8.15シリーズ」の雰囲気にそっくりだからだ。

つまりこの作品が「8.15シリーズ」として公開され、それなりにヒットしていたとしたら、その後も、東宝は、外部の戦争映画を「8.15シリーズ」として発表し続けたかも知れず、そう言う意味でも、興味深い作品である。