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初めての旅

1971年、東京映画、曽野綾子原作、井手俊郎脚本、森谷司郎監督。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

国会議事堂前の銀杏並木。

ジージャン姿の一人の青年が、その歩道を仲睦まじく歩くカップルの後ろ姿などを面白くなさげに振り返りながら歩いていた。

ふと、その青年は、駐車してあった一台の白い車の横で足を止める。

その車が気に入ったのか、じろじろ見回していると、反対側の歩道から、自分をじっと見ている、赤いジャンパー姿の青年を発見し、固まってしまう。

赤いジャンパーの青年は、車道を渡って、白い車の所に来ると、同じように、車を眺め出したので、所有者ではない様子。

二人の青年は、互いに気持がわかりあえたのか、ドアを開け、配線を繋いでエンジンをかけると、そのまま乗り込み走り出す。

運転していた赤いジャンパーの青年が呟く。「どこへ行こうか…」

ジージャンの青年が答える。「どこでもいいさ…」

「ボクの行きたい所で良い?」「良いよ」

赤いジャンパーの青年は、犬がうるさく吠えている大きな屋敷の前で車を停めると、ちょっと待っていてくれと言って家の中に入って行く。

表札には「西村兼三」と書いてあった。

車の外で待っていたジージャンの青年は、家に入った青年の戻りが遅いので不安になり、運転席に乗り込んだ所で、赤いジャンパーの青年が、二つの寝袋を持って出て来る。

車を走らせたジージャンの青年は尾根勝(高橋長英)と名乗った。

工場から給料をもらったばかりで、今は無職になったと言う。

西村純一(岡田裕介)と名乗った赤いジャンパーの青年は、父親は役人だと言う。

尾根は、海に行きたいな…、おれ、5日くらい風呂に入ってないんだと呟き、銭湯の前で一時停車する。

その銭湯から、小母さんが二人出て来たのを観た尾根は、又車を走らせると、自分の母親も、昼過ぎになると銭湯に行くし、子供の頃は、母親と女湯ばかりに入っていたが、ある日、父親が入っている男湯に入った時、なぜ、父親が常日頃自分に冷たいのかを知った…と話し出す。

父親(下川辰平)は、近づいて来た勝を観ても、うれしそうではなく、一緒に湯船につかっていた男たち(名古屋章)から、こんな子供がいたとは知らなかったと言われると、自分が工場で怪我して休んだ時に生まれた子で、自分には覚えがないのだと言う。

子供ながらに、その意味を悟った勝は、そのまま表に飛び出すが、転んで、履いていた下駄が割れてしまう。

それで、裸足のまま家に帰って来たので、母親(春川ますみ)から叱られてしまう。

中学の時、父親は女を作って、家を飛び出してしまい、母親の元には若い男が来るようになった。

自衛隊の戦車隊にいたと言うその男(前田吟)は、自分に優しくしてくれたので、勝は、大きくなって1000円もらったら、1000円分タクシーに乗りたいと言うと、その場でその男は1000円渡そうとしたので、側で厚化粧していた母親は、男に注意したと言う。

東京オリンピックの頃だった。

その頃から、かったるかったし、中学を出て勤め出してからも、しょっちゅう、身体がだるくなるばかりだった。

時々、競輪選手になっていたらって想像する。転んで頭打って…、それで人生終わるんだ。

今朝まで息が詰まるような生活して来た。

朝、製作所の会計係(中村是好)が給料渡す時、自分が若い頃は、給料もらったら、翌日まで神棚にあげていたものだと云うので、尾根は、家にも昔は神棚あったけど、燃料用に燃やしちまったと答えたのだと言う。

女子事務員が、会社を出る尾根にどこに行くのかと聞いたので、薬を買いに来る。どっか悪いんだと言って、そのまま飛び出して来たらしい。

横浜駅に着いたので、尾根は、あんぱんを買いに行く。

今度は、西村がハンドルを握り出発する。

良く道を知っているなと尾根が感心すると、家族が全員ゴルフをするからと西村は言う。

横浜港で海を見ていた尾根は、生まれて、旅行らしい旅行をしたことがないと告白する。

BGMに「しおさいの詩」(小椋佳)

海辺で、ちょっと喧嘩し、ふて腐れたりする二人。

三島の近くで、伯父さんが、牧場で牛の世話をして働いているんだと西村が言い出す。

二度くらいしか会ったことないけど、若い頃、一人でアメリカに渡って、シカゴを目指し、大陸横断鉄道に乗ったらしいと言うと、聞いていた尾根も目を輝かせる。

だけど、結局、伯父さんは、列車を途中で降りてしまった。

大きな夕日を見ているうちに、人間が一瞬に変わってしまったそうで、人生からも降りてしまってカウボーイになったのだと言う。

戦争が終わってから、日本に帰って来たんだ?と尾根が聞くと、太陽見ていたら、あれも同じ、これも同じって感じで、一生が見えてしまったんだって…と西村は続ける。

今でも、うちでは伯父さん(二谷英明)がやったことは許してなくて、以前、父親(神山繁)に連れられてゴルフ場に行った時、そこで整備をしている伯父さんにばったり会ったけど、兄弟互いに懐かしがるでもなく、父親は自分の兄を同行者に紹介するでもなく、その後、父親は二度とそこのゴルフ場には行かなかったし、おばあさんの法事の時、伯父さんが一度だけ家に来たときなど、ママが牛臭いと言ったのだと言う。

それを聞いた尾根が笑うと、西村は、自分のママは「きちんとした人」なのだと弁解したので、又尾根は笑い出す。

ある日、呉服屋(佐田豊)がママ(南風洋子)に反物を売りに来ていた日、ガールフレンドの百合子に渡すプレゼントの飾りリボンが上手く結べなかったので、ママに結んでと頼むと、ピンク乗り分ナッッかはダメです。クリスマスには赤か緑のリボンと決まっているんですと言われたエピソードを披露したので、尾根は、誰がそんなこと決めたんだと言って苦笑する。

何で、そんな裕福な家のくせに家でなんかしたんだと尾根が聞くと、ちょっと試してみたかったんだ、多分、俺が家を出ても、親たちは世間体を考えて、警察には届けないに違いないだろうと思うので…と西村は言う。

再び、車に乗って走り始めた二人だったが、途中、自転車に乗った少年のような女の子とすれ違った時、西村が去年の夏に会った娘だと言い出す。

男だろ?と聞く尾根に、自分も最初は男だとばかり思っていた…と西村は、去年のことを思い出す。

突堤で、短髪にTシャツ、ジーンズ姿で釣りをしていたその少女(森和代)の近くに腰を降ろし、一緒に釣りを始めた西村は、自分の方が良く連れるので、うれしくなり、その少女に話しかけるが、少女の方は迷惑そうだった。

暴走族が通り、そんな二人を冷やかして行く。

釣った魚はどうするの?と少女が聞くので、持って帰って、ママと食べると西村が答えると、魚、売らない?と少女が聞いて来る。

近くで親戚が店をやっているので、一匹20円で買ってくれるのだと言う。

近くで食堂をやっている小父さん(宮口精二)の所へ行った少女は、二人で70匹あるので、一匹25円で買ってくれない?と切り出し呆れられる。

取りあえず、西村が腹が減ったと言い出したので、天丼を二つ、えび抜きでと少女は注文する。

暇そうだねと少女が聞くと、料理をしながら、今は込む時間じゃないからさ、お前の所はどうなんだ?と逆に聞き返して来たので、今は夏休みで学生がいないのでと答えた少女は、西村に、自分の家は、湘南でラーメン店をやっているのだと教える。

今は、母親がアメリカ人と一緒になって出て行ったので、父親が一人で店を切り盛りしているのだと言う。

そう聞いた西村は、何十年かしたら、すごい遺産が母親から転がり込むかもねと冗談を言うと、遺産が入ったら、おごるよと少女も乗って来る。

少女は、この世でラーメン以外のものは何でも好きだと、天丼を食べながら言い、あんたのうちは?と聞いて来たので、思わず、西村は、うちもおふくろと…と言ってしまい、何をしているのかと聞かれると、呉服…、染物屋だとつい嘘を言ってしまう。

少女は、あんたのうちの母さんも甘いよね。そうやって、あんたを遊ばせてやっているくらいだからと言う。

二人は、魚代から天丼一人150円を差し引いた1100円を小父さんから受け取る。

少女は、MG5を持っている西村のことを不潔だとバカにするが、西村はひげ剃り後がひりひりするのだから仕方ないだろうとふて腐れてみせる。

550円と450円に金を分けた後、西村が、ちょうど映画代になるから映画に行かないかと誘う。

二人は、どちらの家でもスピッツを飼っていることを話す。

次に又、突堤で会った時、西村は、この前、映画に行った帰りに話したことを持ち出す。

親父とお袋のことねと少女も思い出し、日取りのことは、親父に決めさせると少女は答える。

次に会った時、二人は互いの家のスピッツを持って来て会わせていた。

少女の家のオスが「親父」で、西村の家のメスが「お袋」だったのだ。

薄汚れて汚い親父に対し、母親がいつも面倒を見ているお袋の方はきれいだった。

その内、急に恥ずかしくなったから帰ると言い出した西村だったが、雨が降り出したこともあり、二人で小父さんの食堂へ向かうが、あいにく出かけているらしく、食堂は閉まっていた。

入り口前で雨宿りしようとした二人だったが、突然、雷が鳴ったので、少女は西村の腕にすがりついて来る。

西村は「六月の雨って知ってる?」と聞くと、少女は「今は8月よ」と不思議そうに答える。

BGMに「六月の雨」(小椋佳)雨の中、町で出会い、相合い傘でデートするイメージ

西村と尾根は、喫茶店で一休みしていた。

すると、そこに、サングラスをかけた女を中心とした派手な格好の一団がどやどやと入って来て、店内はうるさくなる。

先客たちは、皆好奇と迷惑顔で、その一団を盗み見る。

サングラスをしていると云うことから、顔を知られている人物ではないか?しかし、モデルじゃないでしょうなどと仲間たちを噂するおばさん(塩沢とき)が、ウィエトレスに何者?と聞くと、この山向こうの谷川村と云う所出身の歌手谷川ゆかり(東山明美)で、市民会館のこけら落としにやって来たのだと言う。

それを聞いた尾根は、あの子も、山の向こうから逃げ出して来たのだろうと呟く。

ゆかりたちメンバーの悪ふざけはエスカレートし、バンドマンらしき男がここでキス出来るか?と挑発した言葉に乗り、谷川ゆかりは、その場に男の膝に乗ると長々とキスをし出す。

他の客たちが呆れてそれを見ていると、自分の席に戻ったゆかりがブーツがないと騒ぎ出し、男が床に落ちていたブーツの片方を拾い上げてやると、何を思ったのか、ゆかりはそのブーツを投げ捨てて、それが尾根にぶつかってしまう。

唖然とした尾根がゆかりを見つめると、ゆかりは何も言わず、尾根の所に近づいてブーツを受け取るが、なぜか泣いていた。

さすがにバンドマンたちも、羽目を外しすぎたと反省してか静かになるが、尾根は、ゆかりの元に近づくと、サインしてくれないかと頼む。

ゆかりは、持っていたブロマイド写真にサインして渡す。

おばさんたちは呆れて帰ってしまったので、尾根と西村も店を出ることにするが、その時、西村は、自転車でやって来た少女をあの時の少女と見間違える。

しかし、その少女は、別のボーイフレンドと自転車でやって来た、全くの別人だった。

尾根が運転をして車が出発すると、西村は、あの少女のことを思い出していた。

車は、箱根、芦ノ湖、湖尻を通り過ぎるうちに、だんだん霧が濃くなって行く。

その内、バッテリーが上がってしまう。

西村は、寄り道をせずにまっすぐ行けば良かったと悔やむが、とうとう車は、濃霧の中で停止してしまう。

尾根は、絶望だなと言いながら、ボンネットを開け、エンジンをいじり始める。

その時、どこからともなく、急に子供が近づいて来たので、二人は驚くが、吉本冬男で小学1年生と名乗ったその子供は、車が大好きなようだったので、運転席に乗せてやる。

両親のことを聞くと、父親は自動車に引かれて亡くなってしまったと言う。

そのこうするうちに、何とかエンジンが再びかかったので、子供の家まで連れて行ってやることにする。

しかし、いつまで走っても、子供の家は見当たらなかったので不思議がるが、途中、民家もない場所で降りると言い出したので、降ろしてやる。

尾根は、あの子もよっぽど退屈なんだな…と苦笑する。

谷川ゆかりだって、山の中で退屈するより、ああやって外で面白おかしく暮らした方がマシだからな…と言うと、尾根は持っていたブロマイド写真を、窓から破り捨ててしまう。

車は、ようやく目指す牧場に到着する。

中に入ろうとすると、牛の群れに阻まれたので、尾根に降りて追ってくれと、ハンドルを握った西村は頼むが、尾根は牛は苦手だと言う。

西村の方も、牛など扱うのは苦手だったので、立ち往生していると、そこに馬に乗った小父さんがやって来て、牛を追い払ってくれる。

小父さんと再会した西村と尾根は、テンガロンハットをかぶり、牛の世話をした後シャワーを浴び、すっきりした気分になる。

部屋で落ち着き、小父さんと話をする二人は、間もなく、この牧場もゴルフ場になるので閉鎖するのだと云うことを聞かされる。

今後はどうするのかと西村が聞くと、北海道の狩勝峠の側にある農事試験場へ行こうかと思っていると小父さんは答える。

又訪ねて行くよと気安く言う西村に、小父さんは冬は二ヶ月間雪で閉ざされてしまうような場所だぞと笑う。

アメリカでは、ピストル撃った?などと、又、無邪気なことを西村は聞く。

小父さんは、ボクは自分が好きじゃないことはしないことにしたんだと云うので、でも、喰うためには働かなくてはいけないのでは?と尋ねると、食べるためと云うのが生きると云う意味ならねと答える。

これでも、この近くに、安い土地を200坪ばかり購入して、そこが道路用地に引っかかっているので、その内良い値で売れるかも知れんと小父さんは笑い、ボクだって、心のきれいだった人に、財産くらいの越したいと云うので、心のきれいな人って?と西村が聞くと、嘘をつかない奴さと小父さんが答えたので、二人はばつが悪くなり黙り込んでしまう。

例えば、今日僕たちが、他人お車を使って東京から来たとしたら…?と、恐る恐る、西村が聞くと、返すべきだろうね。家の車はどうした?と逆に聞いて来る。

西村は、母さんが、外国人の奥さんたちと乗って出かけたと答える。

西村は、返すなら、東京の元会った所に所に返したらどうだろう?などと夢見心地のようなことを言い、小父さんは、ボクの心、汚いと思う?と聞く。

小父さんは、きれいだけど、弱いねときっぱり言う。

その時、パトカーが牧場にやって来て、降りて来た警官がドアをノックする。

小父さんが出てみると、この車に乗って来た方は?と聞くので、小父さんは西村たちに、迎えだよ。警察の人だ。行かねばなるまいと諭す。

西村は急に泣き出したので、よくよく会えないように出来ているような僕たちは…と、小父さんも嘆息する。

一度聞いてみたかったんだが、どうしてここに来たんだねと小父さんが聞くと、小父さんに会いたかったからだよと西村は答える。

それを聞いた小父さんは、ボクは許さなければいけないだろうね。又おいで。なぜ泣くんだ。判らんね…と二人を送り出す。

二人が乗って来た車は小父さんが運転し、西村と尾根はパトカーに乗せられて牧場を出発する。

やがて、パトカーと並走したスポーツカーから、おじさんが「この右側が例の土地だ!」と、パトカーに乗っていた二人に教える。

そこは、富士山が見える良い土地だった。

やがてパトカーは、事故で停まっている車の所に出くわす。

子供が轢かれてらしい。

「冬男!冬男!死ぬんじゃないよ!」と叫ぶ母親の声を聞いた西村と尾根は、唖然としてパトカーの窓からその様子を見る。

冬男は血まみれになり、救急車に乗せられていた。

警察署に来て取り調べを受けることになった二人だったが、西村が自分の名前を名乗った後、父親の名前と職業を聞かれ、西村兼三、法務省の次官ですと答えると、急に刑事の一人が確認に部屋を出る。

残った刑事が、どっちが先に盗もうとした?と聞くので、どちらと云うこともなく…と、二人は顔を見あわせるが、やがて、もう一人の刑事が戻って来て、残っていた刑事に耳打ちすると、急に、「西村さんはこっちへ」と部屋の外に案内し、一緒に出ようとした尾根に対しては、「尾根はここに残っているんだ!」と怒声を浴びせたので、それを聞いた西村は、なぜ、俺は西村さんなんだ!西村と呼べ!と刑事に食って掛かり、尾根!と叫びながら部屋から連れ出される。

尾根の方も「西村」と呼びかけるが、やがて、一人部屋に残ると、満足したような、達観したような、微妙な表情になるのだった。

BGMに「砂浜の少年」(小椋佳)

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「赤頭巾ちゃん気をつけて」(1970)に続く、森谷司郎監督の青春文芸もの。

前作同様、岡田裕介と森和代が登場しているが、森和代の方は脇に引いており、高橋長英が岡田とコンビを組む主人公を演じている。

岡田裕介は、もちろん、東映の現社長だが、当時は、東映岡田茂社長の息子として芸能界に入ったサラブレッドであり、気の弱い良家のボンボンとしてはぴったりのキャラクターである。

若者の現実逃避とロードムービーを組み合わせたような構成で、そこに、小椋佳の甘い歌声が随所に登場し、ムードを高める。

ストーリー自体は、特に大きな出来事が起きる訳でもなく、淡々とした展開だが、70年代らしい、若者たちの白けた空虚感は良く出ている。

森和代の少年っぽいキャラクターも印象的だが、この映画で一番心に残るのは、何と言っても高橋長英の暗い表情だろう。

その後、この独特のキャラクターが生きる当り役に巡り会えたのだろうか?

ちょっと嫌な役を演じている下川辰平や、妙にからっとしたヒモを演じている前田吟も珍しい。