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どら平太

2000年、「どら平太」製作委員会=日活株式会社=株式会社毎日放送=株式会社読売広告社、山本周五郎 「町奉行日記」原作、黒澤明+木下恵介+小林正樹脚本、市川崑脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

或る藩…、否、或る小藩

町奉行所では、書記係の二人中井勝之助(うじきつよし)と市川六左衛門(尾藤イサオ)が、19日に新任の町奉行が来るはずなのだが、いまだに出仕せぬのはおかしいと話し合っていた。

おかしいと言えば、この所、うやむやな理由で3人も町奉行が辞職したのも何かありそうで、どうも落ち着かんと噂しあっていた。

新任の町奉行は、江戸藩邸の望月武衛門の次男、小平太と云う人物らしいが、腕は確かだが評判が悪く、何でも、上意によって町奉行になったらしい。

道楽者、どら猫から来ているとも諸説あるが、小平太とは呼ばれず、通称「どら平太」と呼ばれているとも…

タイトル

どら平太こと望月小平太(役所広司)は、すでにその小藩の城下外れの一軒家で一人酒を飲みながら、訪ねて来た徒奉行安川半蔵 (片岡鶴太郎)が持って来た調書を読んでいた。

安川は、仙波義十郎は、小平太が今ここまで来ている事を知っているのかと聞く。

安川も2年前に江戸に行っているから彼奴の事は良く知っているだろうと小平太が逆に尋ねると、ちょうどすれ違いで、自分が江戸に行く直前に仙波はこちらに戻ってしまったので、良く知らないのだと言う。

その仙波に、何か問題でもあるのか?と小平太が聞くと、ふに落ちない事があるんだと言う。

小平太の悪評が藩中に広まっており、それを流しているのは仙波らしいのだと安川が言うと、「奴にそう頼んだのは俺であり、仕事がやりやすい為だ」と、あっさり小平太は告白する。

さっき、この部屋から出て行った女は誰だと安川がうさん臭気に聞くと、女中だと小平太がとぼけるので、このの女中は寝間着を来ているのか?と、真面目な安川は皮肉で返す。

徒組の中の20人くらい若いのが兵士組と云うのを作っているとも安川は教え、役宅に住むつもりはないのかと問うと、「ない!」とあっさり答えた小平太に、城から西に一里ばかり行った所に荒浜と云う土地があり、そこに「ながめ」と云う宿があるので、そこで住めば良かろうと勧める。

奉行所の書記たちは、明日、城中にて、新任奉行へ事務引継がある模様と書き込んでいた。

翌日、城に出向いた小平太に、藩の重職たちが一人一人自己紹介をして行った。

城代家老今村掃部(大滝秀治)、次席家老内島舎人(加藤武)、家老及び奉行役元締め本田逸記(神山繁)、家老落合主水正 (三谷昇)等々、その中には、徒奉行の安川や、大目付の仙波義十郎(宇崎竜童)も居並んでいた。

末席に控えていた小平太は、和泉守信義公は将軍職を相続して3年になり、諸藩の問題を解決せんとご努力されているが、今回は、当藩で治外法権化している「濠外(ほりそと)」の問題を懸念しておられ、自分を差し向けられたのだと説明する。

「濠外」の問題に口を挟むと云う事は、我が藩の財政に口を挟む事に等しく、そもそも町奉行ごときが、家老に対等に口を聞くとは何事かと叱責の声があがると、お墨付きをご覧入れると言い出した小平太、作法通り、一番上座に座り直すと、「上意!」とお墨付きを差し出し、住職一同にひれ伏させると、同人の望む所は余の望む所と同じである。同人が言う事に意義不服など唱えざるようきっと申し付ける…と読み上げる。

特に役目でもあるのかと聞かれた小平太は、ないと即答したので、どうして、そんなお前にお墨付きなどを下されたのかと重職たちは首を傾げる。

小平太は、「濠外」の掃除ですと答え、今「濠外」は3人の親分なるものに支配されると言う悪辣な組織で出来ており、抜け荷など無法行為の温床になっている。これを何とかしなければいけないと言うと、これまでも何人もの奉行が手をつけたが、上手くいかなかったと重臣たちは冷笑する。

今村掃部が、殿もお前も、世間知らずな若さによる行き過ぎた潔癖だと思うと意見すると、小平太は、殿は今年で32歳、決して若すぎるなどと云う事はないと反論する。

今村掃部はさらに、「濠外」から上がる年貢、運上などは、家に「厠」が必要不可欠なように、我が藩に必要なのだと諭すように説明すると、侍の住いで最も清潔にするべき場所は「厠」であると教えられましたが?と小平太は皮肉る。

評定と事務引継を終え帰る小平太に寄り添った仙波義十郎が、やったね。少し度が過ぎたようだが…と声をかけ、血気盛んな若者がお前を狙っているから気をつけろ。特に、安川には心を許さん方が良いと忠告する。

小平太は、重臣たちは普段は派閥争いに明け暮れているくせに、話が「濠外」の事になると、気が合っているようだと苦笑する。

橋を渡った所に或る「濠外」地区の前には、「藩中の者、濠外に入るべからず 今村掃部」との高札が立っていたが、小平太は頬かぶりをしただけで橋をさっさと渡ってしまう。

「濠外」地区では、阿片を吸っていたり、いかにも退廃したムードに包まれていた。

そんな一軒の飲み屋に入り込んだ小平太は、いきなり大金を払い、金と肴を注文すると、その場にいた先客たちに一緒に飲んでくれと振る舞い出す。

賭場に来た小平太は、壺振りの姉御(岸田今日子)にただ者じゃないね?と見透かされながらも、持っていた金を全て丁に賭けるなど、気っ風の良い所を見せる。

さらに、料亭では大勢の遊女をあげ、ばか騒ぎを始める。

小平太は、浮かれているように見せながらも、しっかり遊女たちが、ここへは客たちが金を捨てに来るけど、儲けるのは3人の親分だけ…と愚痴る話などを、しっかり耳にしていた。

そこに、灘八の子分、伝吉(本田博太郎)が来て、遊女たちを他の部屋に行かせようとするが、小平太が、ここにいる女たちを全部買ったと大金を手渡すと、急に態度を変え、一緒に手拍子など打ち始める。

こうした豪遊振りを数日続けた小平太は、数日振りに「ながめ」に戻って来る。

「ながや」は、老いた杢兵衛(江戸家猫八)一人でやっている宿だった。

安川さんは別にして、空威張り腐った侍は嫌いだと言う杢兵衛は、気を効かせたのか迎え酒を持って、横になっていた小平太の元に来ると、用心した方が良い。あんた、狙われているぜと教える。

小平太は、いつも外出すると必ず付いて来る集団に既に気づいていたが、放っておけば良いと気にしていないようだった。

そんな小平太は、仙波から調査費用の追加分を受け取るため、大月院の茶室にやって来る。

仙波は、たまには出仕したらどうかとか、濠外には入らない方が良いなどと忠告し、警備の者を付けようと気遣うが、小平太がそれは役目か、それとも友情かと聞くと、両方だと仙波は答える。

ある日、「ながめ」を出かけようとした小平太は、いつものごとく追って来る3人組の若者に気づき身を潜めると、慌てて追って来たその連中の前に姿を表し、剣士隊だろ?喧嘩なら買うぜと因縁を吹きかける。

若者たちはそれぞれ、征木剛(菅原加織)、乾善四郎(松重豊)、鳥居角之助(黒田隆哉)と名乗り、小平太の勝手な行動に怒っている様子。

小平太が、今までの奉行は重職たちに辞めさせられたのであり、重職たちは、そこから上がる金目当てに汚職と悪徳にまみれた「濠外」を大目に見ているのだと説明するが、若者たちは、それが事実なら自分たちで糾弾すると息巻く。

しかし、小平太は、俺の仕事の邪魔をするな。毒の根を絶つ事をしないと解決しないのだと言い切ると、いつものように頬被りをして出かけて行く。

そこに安川が来て、剣士組の3人に、母業を狙っているな?許さん!と喝を入れる。

それは、自分たちの上司としてですか、それともあの人との友情からですか?と若者たちが聞くと、両方だと安川は答える。

「濠外」の汚い屋台で、いつものように仲間を集めて酒を飲んでいた小平太に、いつもおごられ、すっかり小平太を信用していた伝吉たちは、ここは酷い所で、荷揚げ人足たちには二束三文で抜け荷を手伝わされ、儲けの大半は親分たちが吸取られていると愚痴り始める。

そんな親分たちに縄張り争いはないのか?と小平太が水を向けると、巴の太十は酒と女、継町の才兵衛は博打、大河岸の灘八は抜け荷と口入れと、役割分担がはっきり分かれている上に、ぴったりくっついていると聞かされると、俺の考えは少し甘かったかな?と小平太は呟く。

ある日、「ながめ」にやって来た安川は、小平太が一人の旅姿の女の前で縮こまっていると云う珍妙な風景を目の当たりにする。

江戸の芸者でこせい(浅野ゆう子)と言うその女は、自分は江戸でこの人と付き合っていたが、その間、この人は他の女と遊んでも、決して肌は許さないと言うし、相手の女たちもそう云っていたので許していたし、この度、国元に帰り、身を固めると云うのも許して、ご祝儀さえ渡してやったのに、一旦、この人が江戸を離れた途端、それまで付き合っていた女たちが一斉に、自分とこの人との間には訳があったと言い出したので、それならば私はこの人を江戸に連れて帰るしかないと決意しやって来たのだだが、あなたはこの話はどう思います?と安川に聞いて来る。

安川は、小平太の無節操振りに呆れながらも、今こいつを連れて帰られては困るとこせいを説得しようとする。

小平太は、こせいが厠に立った隙に、安川から「濠外」にお前が入っていると耳に入ったのだがと聞かれても、相手にせず、さっさと窓から逃げ出してしまう。

町奉行の姿になり、「濠外」の巴の太十の店の中に踏み込んだ小平太は、出て来た子分、あとがいの安に奉行望月小平太と名乗り、太十に会いたいと伝えるが、相手が、この「濠外」では二本差しなど看板にならねえぜと凄んで来たので、あっさり土間に投げ飛ばしてしまう。

その気配に気づいて姿を表した他の子分二人銀五郎と吉の字も同様に投げ飛ばすと、ようやく、巴の太十本人(石倉三郎)が、すでに小平太とは遊び友達になっていた源次(赤塚真人)が姿を見せる。

太十は、小平太の突然の訪問の意図が掴めず、取りあえず茶菓子でもてなそうとするが、俺はこんなものをもらいに来たのではない。きれい所をどーんと呼んでくれと面と向かって言われてしまうと、仕方なく女たちを招き入れる。

芸者衆は、小平太を皆良く知っていたのですぐに抱きついて来るが、太十はその方はお奉行様だぞと釘を刺す。

小平太は、まだ警戒の色を消さない太十に無理矢理酒を勧めると、兄弟分の固めをしようと言い出す。

その頃、賭場を仕切っている継町の才兵衛(石橋蓮司)は、子分の壺平(永妻晃)から、与左衛門からが又すっからかんになり、金を貸してくれと言っていると聞くと、彼奴の娘はなかなか器量が良いので2両貸してやれと言う。

たった2両ですか?それに彼奴の娘はまだ13ですが?と壺平が呆れると、後2年もすれば、太十の所に連れて行けば40両になると才兵衛は計算高く嘯く。

そんな帳場に、小平太が千両箱を背負ってやって来ると、博打をやりてぇと言い出す。

その後、大河岸の灘八(菅原文太)は、報告に来た太十と才兵衛の話を聞き、その博打の結果を聞いた所、自分で賽を振りたいと言い出したので、半しか出ない賽子を渡したら、それで丁を出されてしまい負けてしまった。しかも、千両箱の中身は五寸釘だったと面目丸つぶれの表情の才兵衛から聞かされる。

才兵衛と太十は、相手に懐に飛び込まれてしまったなと感じた灘八は、その内俺たちは、骨まで抜かれちまうぜと警告し、消しちまうより手はあるめえ…と呟く。

町奉行所では、まだ新任の奉行は出仕せず、きょうは助役が城に出頭し、重職評定があるらしいと書記が日記に書いていた。

その住職たちは、風邪薬談義に花が咲いていた。

内島舎人は、家では「万福丸」なる妙薬を飲むのが習わしと発言すると、落合主水正は卵酒が一番と言う。

どうやら、今村掃部がくしゃみをした事から話が広がったものらしい。

小平太の話に戻った内島舎人は、責任は奉行役元締めである本田逸記にあると指摘し、始末しなければ仕方ないだろうと呟く。

その頃、仙波は大月院の茶室で寝っ転がっていた小平太の元に来ると、「ながめ」に居にくい事でもあるのか?と聞いていた。

それを聞いた小平太は、「ながめ」の事は話していなかったはずだがと不審がる。

その「ながめ」では、こせいが、小平太の着物の繕いなどをやっていたが、その様子を、訪ねて来た安川が妙に感心しながら見ていた。

仙波は、どのくらい行っていると聞くが、小平太は、お前の調書以外調べる事はない。後は彼奴の出方を待つだけだと云うので、それは誰だと仙波が問うと、尻尾を出さんと小平太は言うだけ。

そんな小平太に仙波は、お前の喚問はなくなったと教える。

「ながめ」では、どうしてここに奴が居る事が分かったのですか?と安川が聞いてたが、こせいは「女は勘よ」と言い、「濠外」はどこ?と聞いて来たので、あんな所は、女が一人で行くような場所ではないと安川は止める。

しかし、こせいは、そんな安川の言葉に耳を貸さず、さっさと出て行ってしまう。

一方、頬かぶりをして出かけた小平太の方は、頭巾をかぶった3人組から後を付けられていると気づき、一旦身を隠すと、彼の背後に回り、一番後ろを歩いていた侍の背中に匕首を突きつけ、頭巾を取るよう命ずる。

すると、「剣士組だ」と名乗った相手が斬り掛かって来たので、素早く3人を倒した小平太は、倒れた相手の頭巾を取り、剣士組にしては年を取りすぎているな。相手も焦って来たな…と呟く。

こせいは、荷車に乗った樽の中に身を潜め、「濠外」に入り込む事に成功していた。

そんなこせいを仲間だと思い込み話しかけて来た遊女は、人を探しているんだと言うこせいをよそ者だと気づくと、仲間の女たちを集めて追って来る。

逃げ出したこせいは、とっさに持っていた小銭をばらまいて追っ手を巻くが、つい逃げ込んだ家の中で南蛮渡来のご禁制の酒を普通の酒樽に詰め替えていた作業が行われていたのを見てしまう。

見られたと気づいた男たちが、こせいに匕首を突きつけて来た時、入り口から急に現れ、こせいを助けて外に逃げ出したのは、他ならぬ小平太だった。

久々に二人きりになったこせいは、どうしてこんなに惚れちまったんだろう?お父様も心配していましたよと教える。

小平太は、親父も昔はあれで遊び人だったが、気骨はすごい人。殿様が主席家老になさろうとしたがったくらいだったが、若いものに任せたいと固辞した程だったと話し、さらに話しかけて来ようとしたこせいに当て身を食らわすと、もう少しで片付く。静かにしてくれと言いながら、気絶したこせいを肩に背負う。

ある日、大月院にいた小平太の元に、会いたいと書かれた灘八からの手紙を持った3人の子分がやって来る。

一方、「なだめ」にやって来た剣士組の3人は、そこにいたこせいに、お奉行は?と聞くが、夕べ「濠外」で会って以来だが、あの人に何の用があるんだい?と逆にこせいが聞く。

剣士組の3人は、率直に言います。斬りに来たのですと言うではないか。

そこに駆けつけて来たのが安川で、お前たちの軽はずみな行動は、重職たちの派閥争いに利用されるだけだと叱りつけるが、そこに伝吉、源次、壺平の3人がやって来て、兄貴が危ない!灘八から呼び出されたと告げる。

その頃、その灘八の家に一人やって来た小平太は、無人の座敷に通されたので、茶など飲んでいたが、その時正面の襖が開き、頭を下げた灘八、才兵衛 、太十の3人がかしこまっていた。

小平太は、お前からも杯をもらおうかと話しかけるが、きっぱり断った灘八は、後ろに控えていた二人に、その場で杯をお返ししろと命じる。

才兵衛と太十は、懐から杯を取り出すと、刀の鍔の部分でかち割る。

それを見た小平太は、諦めたように、では拙者も返したいが、杯がないので、この茶碗で許してもらいたいと言うと、茶碗に手刀を振り下ろしたに見えた。

次の瞬間、見事に、茶碗が二つに割れたので、それを見ていた灘八は感心し、あしの養子にならないかと言い出す。

武家の社会では、次男坊は家督を継ぐ事も泣く邪魔者扱い。それだけの技量を持ちながら宝の持ち腐れでしょう。あっしの後、「濠外」を仕切りなすってはどうでしょう?と持ちかけて来るが、小平太の、お前たちは皆死罪にするしかないと言う言葉を聞くと、叩き斬ってやると刀を抜いて迫って来るが、小平太はその灘八の頬を切る。

逆上した灘八は、襖の影に隠れていた大勢の子分たちを呼ぶと、逃がしちゃならねえぞ!と叫ぶ。

小平太は、刀を持ち帰ると、峰打ちで、かかって来た子分たち全員を倒してしまう。

あまりの強さを見せつけられた灘八は、もう、ご存分にして頂きましょうと頭を下げる。

そんな3人に小平太は、城中に出頭しろ!腹を決めて出て来いと言い渡すのだった。

その頃、小平太の身を案じ、禁を犯して橋を渡り、「濠外」に踏み込んだ安川は、無事に帰って来る小平太の姿を見つけると安堵し、思わず抱きつく。

翌日、羽織に身を固めて城にやって来た灘八、才兵衛、太十に対し、こちらも裃に身を固めた小平太は、「濠外」を壟断して来たその方たちは全員死罪を申しつくる所なれど、上意により、永代当地追放を命ずるものなり。その方たちの仲間も同じであり、万一、この仰せに背くものあれば、全てその方たちと同罪として処分すると言い渡し、もし、意義があるのなら…と云いながら、障子を開け放つと、内庭には、3人分の切腹の用意がされていた。

そして、裃をその場で脱ぎ捨てた小平太は3人にも楽にしてくれと急にくだけた口調になると、これまでお前たちが貯め込んで来た金を返せとは言わねえから、それを元手にまともな仕事をしてくれと言い聞かす。

さすがに観念した3人は立ち退きましょうと承諾する。

そんな3人に、小平太は、城中の住職にも責任を取らさねばならない。ついては動かぬ証拠が欲しい。金品物品の覚えがあるはずと問いただすが、そんなものは燃やしちまったと聞くと、じゃあ作ってくれと言い出す。

小平太は、石段を仙波と登りながら、「濠外」を支配していた3人は立ち退かせたが、城中の重臣たちと、この3人の間に立っていた人望もある男が一人おり、その男を始末しない限り、「濠外」はきれいにならないと灘八が行っていたと打ち明ける。

さらに小平太は、こちらの動きが連中には筒抜けだった事。俺を襲った頭巾の侍たちは大目付の手のものだった事。灘八の手紙が、誰も知らないはずの大月院の俺の元に届いた事などを挙げて、どうした仙波?今なら、俺を斬れるぞ?と挑発するが、仙波は半の財政を考えて振った賽の目が逆に出ただけだと言うだけ。

調書はまぎれのないものだったし、着ていたものはいつか脱がなければならないと言いながら、小平太は刀に手をかける。

次の瞬間、仙波は石段を駆け下りると、その場で小刀を抜き、自らの腹に突き立てる。

駆け寄って抱き起こした小平太に、仙波は、すまん!お前を裏切って。全ては俺の責任だ、せめて、武士らしく死なせてくれと言いながら息絶える。

翌日、城中に重臣たちを集めた小平太は、昨日、「濠外」の掃除は終わりましたと報告する。

お前はただの町奉行に過ぎんと本田逸記が口を出すと、「やかましい!」と一括した小平太は、昨日、大目付の仙波が腹を斬った。これが幕府に聞こえたら大事になる。絶命する前に、責任は全て自分にあると云ったが、それは悪行をかばおうとしたのだと言う。

そして、鈴を鳴らして征木を呼ぶと、多数の借用書を持って来させ、仙波は重職の命を受けて実行していただけの事、これを殿にお目にかけると、あなた方は軽くて追放、多分死罪になります。藩政から身を引いて頂くしかないと言い切る。不承知なら、私はこれを殿に渡すしかない。どちらが傷が浅いか御勘考を…と言いながら、借用書を火鉢の火に掲げてみせる。

すると、今村掃部はじめ、重臣たちはおのおのに、常々引退を考えていたので、この際、身を引くつもりだと言い出す。

それを聞いた小平太は、これまではあまりにも「濠外」に頼っていた財政をどうするかです。何事もありすぎるのは良くない。ものを考えなくなる。藩の外れの土地などを開墾すれば良いのではないかと提案する。

それを、征木はうれしそうに聞いていた。

小平太は、重臣たちの目の前で、借用書を全て焼き捨ててみせる。

その帰り、廊下で安川と並んだ小平太は、あいつはどうした?江戸に帰ったか?と聞いて来て、江戸に帰ったと聞くと安心したかのように、これを町奉行に渡してくれと辞表を手渡す。

殿様はどうしてお前などを選んだのだろう?と安川が不思議がると、なべぶたに閉じ蓋、人は使い方次第で役に立つ事だと言いながら、小平太は懐から出したお墨付きを破こうとするので、見ていた安川は肝をつぶす。

それは、お返しするものではないのか?と聞くと、これは俺が書いてのだ。殿はこんな虹は上手くないと小平太は平然と言い切る。

城の外に出た小平太は、塀の端で立っていたこせいを見かけ、安川から計られたと知ると逃げ出す。

とある茶店に駆け込んだ小平太は、表に味噌樽を積んでいる馬を売ってくれと主人に頼み込む。

あれは、その馬子のものだと聞くと、酔っていた馬子に頼み込み、樽無しで一両でどうだと持ちかけると、酔いがいっぺんに醒めた馬子は、あわてて表の馬に積んだ味噌樽をおろし始める。

そうこうしているうちに、追いついて来たこせいの姿を見た小平太は、急いで馬にまたがり鞭を打つが、農耕馬は少しも走り出そうとはしなかった。

のろのろと歩く馬にまたがり、必死で逃げようとする小平太の後ろから、こせいが「やい、どら平太!逃がしゃしないからね」と叫びながら徐々に近づいて来る。

町奉行の中井勝之助は、「望月小平太殿、本日もご出仕なし」とその日も日記に書き込んでいたが、そこに辞表を持った市川六左衛門がやって来たので、着任から解任まで、一日も出仕しなかったとは、前代未聞の事だろうなと、中井は呆れるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

毎日放送50周年記念作品で、黒澤明 、木下惠介 、市川崑 、小林正樹らによる「四騎の会」が1969年に共同シナリオを完成させたものの、映画化が果たせていなかった企画を、他の3人が故人となった事もあり、市川崑監督が実現したもの。

観ていて、どこかで観た覚えのある内容だな?と感じていたら、すでに1959年に、勝新太郎主演で映画化していた「町奉行日記 鉄火牡丹」(1959)と同じ原作である事が分かった。

何となく、黒澤も参加した未完の作品と云うイメージがあっただけに、さぞかしオリジナリティ溢れる内容ではないかと期待していただけに、少し拍子抜けした部分があるのは否めない。

これは、この作品の紹介で、二度目の映画化である事を紹介しているサイトがほとんどなかった事が原因だろう。

大きめの明朝体の文字が途中で垂直に曲がる、「金田一シリーズ」でもお馴染みの独特のタイトル。

キャスト陣にも、「金田一シリーズ」でお馴染みの顔ぶれがそろっているし、陰影を強調したいつもの安定した奥行きのある画面作りなど、円熟の域に達した市川崑監督の技量は安心して観ていられるものだし、ストーリーも痛快そのものと言った感じで、一見申し分なさそうなのだが、案外、観ていて、夢中になるほど惹き込まれる雰囲気がない。

安定感はあるのだが、予定調和的とでも言うのだろうか、全体的に落ち着いた静的な雰囲気で固まってしまっており、何か、突き抜けたようなパワフルな魅力がどこにもないのだ。

どら平太がやっている事は、かなり破天荒な行動のはずなのに…

これは何も、市川崑監督が老齢だったからと云う訳でもなさそうで、実は、勝新版の「町奉行日記 鉄火牡丹」の方も、似たような印象だった事を思い出す。

全体的に推理もの風の筋立てなので、意外とアクション要素がない事が一因とも考えられる。

特に後半、これと言った大きな見せ場がなく、知恵で全てが丸く収まってしまっている所などが、小説としては面白いのだろうが、映画としては物足りなさを感じる部分なのかもしれない。

役所広司は良く健闘しており、過去の勝新などと比較しても意味はないだろう。

照明の加減で、重臣たちや岸田今日子などベテラン陣の、顔の老いの年輪をわざとくっきり強調したりしている所は、それを許した役者たちの度量も含め、ある種の壮絶ささえ感じる。