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番頭はんと丁稚どん

1960年、松竹京都、花登筐原作、森田竜男脚本、酒井欣也監督。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

ある田舎…

自転車を漕いで、貧しい中村家にやって来たのは村長(堺駿二)。

家にいた母親しげ(山本かおる)が、ぼたもちを作ったので食べてくれと勧めるので、それを一つつまんだ村長は、そろそろ出発の時間だが、崑太はどこにいると聞く。

すると、裏にいると言うので、そちらに向かうと、双子の女の子を含め、子だくさんな兄弟たちに取り囲まれ、牛小屋の中で崑太(大村崑)がうずくまっていた。

行きたくないと言うので、村長が餞別だと言いながら封筒を手渡すと、急に喜んだ崑太は、牛小屋の中からその封筒を母親のしげに手渡そうとするが、村長が駅で番頭さん待っているとせかすので、父親(富本民平)、母親、七人の兄弟と、家族総出で駅に向かう。

駅で待っていたのは、大阪の七ふく堂の番頭で、丁稚教育係の雁七(芦屋雁之助)と、丁稚の小松(芦屋小雁)だった。

雁七は、この子は頭が弱いので…と心配する母親を前に、にこやかに崑太にキャラメルを渡す。

七人の兄弟たちも、それぞれ崑太に土産を手渡す。

かくして崑太は二人の丁稚と共に、大阪行きの列車に乗り込み、家族に別れを惜しみながら出発する。

大阪に着いた崑太は、雁七、小松に連れられ薬問屋が集まる道修町にやって来るが、そこにいた丁稚たち(マヒナ・スターズ)が、丁稚奉公の辛さを歌っていたので、それを聞いているうちに、崑太は帰ると言い出す。

雁七らは、それをなだめすかせて、ようやく自分たちが勤める薬問屋「七ふく堂」に崑太を入れる。

出迎えた旦那(森川信)は、今日はもう一人、小番頭として大学出の新人を雇い入れたと雁七に紹介する。

崑松と大学出の新人佐原清次郎(佐原英一)を加え、店員たち全員を居間に招き入れた隠居はん(浪花千栄子)は、元禄5年に創業した「七ふく堂」の由来について説明を始め、内の店では、丁稚の名前の下には「松」を付けるので、崑太は「崑松」、番頭は「七」を付けるので、清次郎は「清七」と、これから呼ぶと言い渡し、二人にはお仕着せ(着物)を支給する。

その席で、崑松は、旦那の奥さんで、ご隠居はんの上の娘を「御寮はん(浅茅しのぶ)」と呼ぶ事や、大番頭の忠助(野沢英一)の事を教えられる。

その日は、尾頭付きでごちそうしようと、ご隠居はんが言うので、食事を楽しみにしていた崑松は、目の前の銘々膳に鯛が置いてあったので大喜びするが、それは大番頭さんのものだと言われ、徐々に、末席に移動しているうちに、最後に到達した自分の膳には「目刺し」が乗っているだけだった。

それでも、立派な「尾頭付き」だと言われる。

ご飯は、レールの上に乗ったおひつに紐を付けたものを、女中のお花(西岡慶子)が上座の方に引っ張って、大番頭から順に各人の茶碗によそうやり方をしていたが、大番頭に次ぎ茶碗を差し出した雁七を無視し、その隣りの清七の顔を見るなり、急に態度を変え、清七の茶碗の方を先に受け取ると、超大盛りにごはんをよそって、雁七の方はその後も放っとかれたのでがっかり。

将来は番頭になりたいかと聞かれた崑松は、自分は主人になりたいと言い、聞いた丁稚たちを唖然とさせる。

翌朝、早朝から起こされた丁稚たちは、拭き掃除をやらされるが、崑松は、女中の八重(若水ヤエ子)に呼ばれ、風呂場を掃除するよう命じられる。

初めて見る大きな風呂場に驚いた崑松だったが、シャワーを知らず、コックを回したので、前身水浸しになる。

その後、雁七は、崑松に、ものの売り方を教えたり、スクーターの乗り方を教えるが、止め方を教えないままスタートしたので、崑松の乗ったスクーターは、隣りの店の荷物にぶつかり、「トマール」と言う看板が落ちて来て、何とか停まる。

体操を終え、その日の仕事を終えた崑松は、国の母親に手紙を出し、毎日死ぬほど大変だが、何とかやっていると伝える。

その時、表に止まったタクシーから、御寮はんの二番目の娘であるこいさんのかな子(九條映子)が帰って来る。

雁七は愛想良く出迎えるが、小番頭の清七は無愛想だったので、初めて会ったかな子は、今度入ったのは変なのばかりやな…と面食らう。

居間のご隠居の所に来たかな子は、近所の岩田老人( 小川虎之助)が、かな子用の見合い写真を持って来て披露している所に出くわす。

岩田老人は、相手は、船場の呉服屋の息子で、洛南大学出たてだと言うが、かな子は全く興味なさそうだった。

そうしたかな子の態度を見ていた岩田老人は、そんな事だと、レコード屋なんかと結婚した姉の美代子はんみたいになりますでと脅す。

しかし、かな子は全く気にしていない様子で、そのまま風呂場に向かう。

そんなかな子が入っている風呂場で風呂焚きをしていた八重の側に近づいた雁七は、100円払うから、3分間だけ仕事を代わってくれと頼む。

風呂焚きを代わってもらった雁七は、こいさんが浸かっている風呂の湯になりたいなどとうっとりしていたが、そうした雁七の行動を、脇から崑松たち丁稚は、冷ややかな目つきで見守っていた。

雁七は、3分間が過ぎたので、又100円追加しようとするが、かな子はさっさと風呂を出て、待っていた女友達たちと常陽ゴルフ場に出かけてしまう。

それを知ったご隠居はんは、かな子に悪い虫が付かないように、雁七に一緒について行ってくれと頼むが、喜んだ雁七が、手鏡を見ながら髪を直したりし始めたので、そんなんは嫌いやと言い出したご隠居はんは、代わって、清七に付いて行ってくれと頼む。

かな子たちがゴルフをしていると、スーツ姿に着替えた清七が何やら手帳に書き留めている。

何をしてるんやと、下からかな子が声をかけると、見張りに来たんですと清七が言うので、気分を害したかな子は、ここは奉公人の来る所ではないと叱りつける。

しかし、清七は、自分は、あなたに雇われているのではなく、ご隠居はんに使われているのでと反論する。

そんな清七に声をかけて来た男がいた。

関東大学で研究所の後輩だった小笠原だった。

小笠原は、御典医の子孫で、研究所でも優秀だった清七が、薬問屋で働くようになったと知り不思議がっていたのだった。

小笠原は、同行していた妹のゆかりを紹介すると、清七に、ゴルフを教えてやってくれと頼む。

すると、清七は、ゆかりにゴルフを教え始める。

そんなゆかりが飛ばしたゴルフボールは、心配して遠くで見ていた雁七の口の中に飛び込む。

そんな清七の様子を下から見ていたかな子は、面白くなさそうに、スケートに行こうと急に言い出す。

スケート場にも付いて来た清七は、スケートも得意で、転んでいたかな子を助けるが、やはり付いて来た雁七の方は、スケートリンクに入ると止まらなくなり、そのまままっすぐ進むと、壁に激突してしまう。

店に戻って来た清七から、びっしりその日のかな子の行動記録の手帳を見せられたご隠居はんや御寮はん、そして遊びに来ていた長女の美代子(松山容子)とその夫(田端義夫)たちは、笑って読んでいたが、そこに帰って来たかな子は、そんなに監視されているなんて不愉快だと怒り出し、しれっとしている清七に当たり散らす。

しかし、清七は、ご隠居はんの命令ですと繰り返すのみ。

そんな清七に当てつけるためか、かな子は、わざとらしく雁七に優しくし始めたので、雁七はすっかり舞い上がってしまい、仕事が手に付かないと言うと、控えの間に逃げ込む。

一方、すっかり清七に参っていたお花に気づいていた八重は、ラブレターを書けと勧めていた。

雁七も、控えの間で、募る思いをラブレターにしたためていたが、なかなか上手く書けないので、直接こいはんに会おうと思い詰めるが、そこに、清七がタバコを吸いに入って来たので、こう云う場合どうしたら良いかと相談してみる。

すると、清七は事もなさげに、フェスティバルホールにでも誘えば良いんですよとアドバイスする。

偶然にも、八重もお花に、フェスティバルホールに誘え、明日の12時を指定し、自分はその1時間前に行っとけ、差出人の名前は書かない方が格好良いなどとアドバイスしていた。

その頃、崑松たち丁稚たちは、明日が休日なので、どうやってすごそうかと話し合っていた。

小松たちは、雁七は、明日ストリップに行くに違いないと崑松に教えるが、崑松はストリップの意味を知らなかった。

とにかく助平やと教えられた崑松だったが、その時、当の雁七から呼ばれ、キャラメルと一緒に、封筒をこいはんにこっそり渡してくれと頼まれる。

その直後、今度は八重が崑松に100円渡し、このお花の書いた封筒を清七に渡してくれたら、今度から、みんなに内緒で、おかずを一品増やしてやると言う。

崑松は、二つの封筒を見比べるが、どちらも店の事務封筒で、宛名も差出人も何も書かれていない事に気づく。

さらに、今度は、ご隠居はんまでもが崑松を呼び、この封筒を岩田はんの所へ届けて来てくれというではないか。

その封筒も、同じ店の封筒で、表書きは何も書かれていなかった。

困惑しながらも店を出て、岩田老人の店に向かっていた崑松だったが、途中、酔っぱらいがぶつかって来て、持っていた三枚の封筒が全部地面に落ちてしまったので、拾い上げた時には、どれが誰宛の封筒かさっぱり判らなくなってしまう。

仕方がないので、岩田老人には、「チュウチュウタコかいな」で選んだ適当な封筒を手渡して帰る。

それを開けて読んだ岩田老人は、「明日12時半、フェスティバルホールへ来てくれ 雁七」と書かれた内容に驚くのだった。

店に帰った崑松は、同じように適当に選んだ封筒を、かな子の部屋の入り口に差し込んで逃げる。

それを読んだかな子は、「明日、見合いの話を決めたいのでお越し下さい。」と書かれた、ご隠居から岩田老人への手紙だったので、勝手に見合い話を進めている二人に憤慨する。

最後の封筒を渡すため、清七を待っていた崑松を見つけた雁七は、その封筒を見ると、かな子からの返事だと思い込み、その場で取り上げると読み始める。

それは、お花が清七に当てたラブレターだったが、12時にフェスティバルホールへ来てくれと言う内容だったので、てっきり自分の誘いを受けてくれたものと勘違いしてしまう。

翌日の休日、12時前にフェスティバルホールにやって来た雁七は、近くの喫茶点「ボワール」に入って時間を潰す事にする。

その雁七を付けて来ていた崑松たちも、フェスティバルホールに来ていた。

そこに、お花も、やって来て、清七の事を気にしながら待ち始める。

その頃、「七ふく」の店では、ご隠居はんが、休日で済まないが、もう一日だけ、かな子に付いてくれないかと清七に頼んでいた。

かな子は、喫茶店で女友達に、見合いを無理に進められて困っていると話していたが、一人の女友達が、自分お親戚が別府で旅館をやっているので、そこにしばらくドロンしたらどうかと勧める。

そんな時でも、店の片隅で清七が座って監視をしていたので、一人の女友達が近づき楽し気に清七と語らい出す。

ところが、その様子を見ていたかな子は不機嫌になり、ジュークボックスでレコードをかけると、友達と踊り始めるが、店にいた不良学生グループに絡まれてしまう。

すると、清七がやって来て、自分はこの人の護衛役だと言い、不良グループと外に出て戦い始める。

かな子は止めようとするが、なかなか喧嘩が治まりそうにもないので、女友達と一緒に、近くにあったホースを使い、不良グループに水を浴びせかける。

そこに、別の女友達が車に乗って清七の側で止まったので、不良グループはすごすごと逃げて行く。

喧嘩にも強い事が判った清七は、その瞬間から女友達たちに取り囲まれ、モテモテ状態になる。

それを見たかな子は、不機嫌そうにさっさと一人でその場を立ち去ったので、それを追う清七は、いつの間にか、フェスティバルホールの所まで来ていた。

かな子は、怒って逃げているかのように見えても、清七が階段で靴の紐を結び直して立ち止まると、付いて来るのを確認するかのように、戻って来たりする。

フェスティバルホールに近づいた清七の姿を見かけて喜んだお花だったが、かな子の姿も一緒に見かけたので、声がかけられない。

喫茶店から出て来た雁七も、かな子の姿を見て喜ぶが、なぜか、清七と仲良さそうに笑っていたりする様子を目撃すると、その場にいたお花と共にがっかりするのだった。

そこにやって来たのが、岩田老人で、雁七に近づいて、手紙を見せ、用向きを尋ねるが、訳が判らなくなった雁七は「わて、冗談でしたんや」とごまかすしかなかった。

そんな様子を物陰から除いて笑っていた崑松、小松、駿松(芦屋雁平)らだったが、その後、繁華街の方へ出かける。

ストリップ小屋の前を通ったり、法善寺にやって来た3人だったが、偶然、とある店から、見知らぬ母娘と一緒に仲良さげに出て来る旦那はんの姿を見て戸惑う。

翌日、崑松は、小松らに、昨日の女の人は、旦那はんのこれやと小指を出されるが、意味が分からず、ちょうどやって来た御寮はんに、小指を見せて、「これ何?」などと聞いてしまう。

その時、隣りの丁稚たちが、又唄を歌い出したので、聞きに表に出た丁稚たちは、自分たちも唄を披露するが、雁七がやって来て、そんな所で油を売るなと叱る。

その後、店で一つ商談を終えた雁七は、崑松に煙草を買って来るよう命じる。

表に出た崑松に声をかけて来たのは、昨日、法善寺で、旦那はんと一緒だった女性だった。

うどん屋で待っているので、旦那はんを呼んで来てくれと言うのだ。

その後、崑松に聞いてうどん屋にやって来た旦那はんは、女から、子供が急に熱を出して金がいると相談される。

しかし、旦那はんは養子の身、金が自由になる立場ではなかったので悩む。

旦那はんが戻って来た店では、ちょうど、大番頭の忠助と清七が出かけた後で、店先で、雁七が崑松にバケツをかぶせるなどいじめをしている所だった。

それを注意し、裏を掃除して来いと命じた旦那はんは、誰もいなくなった店先の手提げ金庫の中から、5000円をそっと抜き取る。

その直後に、籠をかぶせられた崑松が戻って来たので、慌てて店を出る旦那はん。

そこに郵便屋が手紙を配達して来たので、それを受け取った崑松は、その中に、「中村崑太」と書かれた自分宛の手紙を発見、その場で読んでみると、父親から、母親が病気になり、お金がかかって仕方がないと言う内容だった。

驚いた崑松は、いつも首からぶら下げ、身に付けていた小物入れから、村を出る時、村長からもらった餞別の5000円を取り出し勘定していると、そこにやって来た雁七が、その行為を怪しむ。

手提げ金庫を確認すると、ふたが開いていたので、雁七はすぐに、ご隠居はんに報告する。

居間に呼ばれた崑松は、ご隠居はんから5000円の出所を聞きただされるが、崑松は自分の金だと言って譲らない。

さらに、雁七が、崑松の小物入れを勝手に開け、中に入っていた、弟たちからの贈り物をその場にばらまいてバカにしたので、ますます崑松は狼狽し哀しむ。

そこに帰って来た旦那はんは、事情を聞いて、すぐに自分のやった事で、崑松が疑われていると察するが、正直に言い出す事が出来ず、5000円くらい良いじゃないですかなどと軽く言い放ってしまったので、ご隠居はんは叱りつけ、崑松の5000円はしばらく預っておくと取り上げてしまったので、崑松は「むちゃくちゃや!」と言いながら泣き出してしまう。

その夜、物干し台に一人登って来た崑松は、国をの両親を思い出し名を呼んでいた。

そこにやって来た、小松と駿松は、こんな時、丁稚は辛いな…と同情してくれる。

さらに、かな子も登って来て、自分の小遣いから5000円を崑松に渡してくれる。

翌日、崑松が裏庭を掃除していると、居間で、御寮はんが旦那はんに手伝わして、見合いの席に行くため、着物の帯を締めている様子が見えた。

見合いの当人であるかな子は、急に美容室に行くと出かけたので、ご隠居はんは、誰か付いて行かせたいが…今日は清七もいないしと困っていた。

すると、旦那はんが、崑松でどうかと言い出したので、頼りないとは思いながらも、仕方なくご隠居はんは、崑松に加代子について行き、絶対に離れたらあきまへんと強く命ずる。

言われた崑松は、ずっと、かな子の洋服の一部を掴んでぴったり付いて行く事に。

これには、かな子も迷惑顔。

そこに、先日、自分の判断でうっかり渡してしまった小切手が不渡りになりそうなので、後始末で奔走している途中の清七がスクーターで帰って来たのと出会うが、清七は忙し気に去ってしまったので、かな子はますます不機嫌になる。

かな子は、公衆電話に入ると、女友達に、家でをする事にしたのでと打ち明け、先日の別府の旅館の話を確認し始める。

電話ボックスの外に押し出された崑松は、ボックスの廻りをぐるぐる廻りながら、何度か、扉を開けようとするが、会話中のかな子にすぐに押し出されてしまう。

それでも、別府の旅館名は寿屋だとか、断片的な言葉が崑松に聞こえて来る。

その後、かな子は、デパートの人ごみの中を突っ切り、崑松を巻くと、反対側の出口から出てタクシーを捕まえ、天保山に行ってくれと告げる。

帰って来た崑松の話から、かな子が行方不明になったと知った「七ふく堂」は大騒ぎとなり、全員手分けして、あちこちに探しに向かう。

崑松はそんな騒ぎの中、入り口付近でしょぼんと佇んでいた。

そこに、清七が帰って来て、手形がダメだったので、責任を取って、店を辞めさせてもらう。弁償は、今後自分が少しずつ返して行くと大番頭に報告するが、かな子が失踪したと聞くとさすがに驚く。

いたたまれなくなった崑松は、黙ってふらりと店を出ると、一人でかな子を探そうとし始める。

夜の大阪の町を、あてどもなく彷徨う崑松。

橋の上で川面を眺めていた崑松は、通りかかった船を見て、何かを思い出す。

確か、かな子は公衆電話で、船がどうのと言っていた事を思い出したのだ。

崑松は、船がある所へ行こう決心すると、又歩き始める。

店では、ご隠居はんが、かな子もいない、清七も辞める、崑松も帰って来ないと、悪い事が重なる事を嘆いていた。

小松たちは、今頃、崑松は腹を空かせているのではないかと案じる。

しかし、その頃、崑松は、自腹で屋台のうどんをしっかり食べていた。

そこに、子犬がいたので、屋台の主人に頼んで貰い受けた崑松は、主人から聞いた天保山へと向かい、その晩は、子犬を抱いてその場に野宿するのだった。

翌朝、「七ふく堂」に警察から電話が入り、それを受けた雁七は、こいさんが見つかったと早合点し、電話の内容も良く聞かず有頂天になる。

それは、崑松を保護した天保山派出所の警官(桂小金治)がかけた電話だったが、派出所の入り口にいた崑松は「別府行きの船は間もなく出発します」と言う場内アナウンスを聞いている内に、かな子が「別府」と言う言葉を口にしていた事を思い出し、そのまま、切符売場に行くと、るり丸の切符を買い求める。

一人1050円だと言われたので、前に雁七から教わったように、値切ろうとするが、船賃の値切りは出来ないと判り、渋々、かな子からもらった金で切符を買い、船に乗り込む。

しかし、その間に、連れていた子犬はどこかへ逃げてしまう。

「七ふく堂」では、警察からの電話を代わって受けた旦那はんが、崑松の事だったと知り、すぐに引き取りに行くと答えていたが、警官は、電話の最中に崑松の姿が消えてしまった事に気づく。

奥座敷では、ご隠居はんが仏壇を拝み、美代子夫婦らも駆けつけて、全員、心配していたが、そんな中、部屋を出た御寮はんは、近所のうどん屋の小母さん(和歌浦糸子)が、ここの旦那はんが見知らぬ女に5000円渡していたと、お花や八重に打ち明け話をしているのを聞いてしまう。

相手の女は、グラマーでしおらしいなどと言っているので、旦那が浮気をしていると思い込んだ御寮はんは、ちょうど帰って来た旦那はんを奥へ呼ぶと、ご隠居はんと一緒に、事の次第を追求し始める。

旦那はんは面目なさそうに真相を打ち明ける。

あの女は、実は自分の妹なのだと言うのだ。

東京のサラリーマンと結婚していると言う妹の事か?とご隠居はんが確認すると、実は、サラリーマンと言うのは見栄で言ってしまった事で、本当は相手は旅芸人で、その亭主に死に別れた妹が子供を連れて帰って来たのだが、その子供が病気にかかり、入院してしまったので、5000円は自分が勝手に持ち出したのだと旦那はんはうなだれる。

事情を知ったご隠居はんは、すぐに御寮はんに「新子、すぐに、その妹と娘を家に連れて来なさい」と命じると、5000円の事で、ちょっと間でも、崑松を疑った事を恥じるのだった。

その頃、崑松は、別府に着き、タワーの上から双眼鏡で町を眺めていたが、着物姿の崑松を見て珍しがった外国人夫婦の観光客が、写真を撮ろうとフラッシュを焚いたので、怯えた崑松は逃げ出してしまう。

町に来た崑松は、別府松竹と言う映画館の前で、「番頭はんと丁稚どん」の公開録画をやっていると言う看板を見つけ、不思議がる。

そこにやって来たのがかな子で、劇場に入り所を目撃した崑松は、自分も中に入ろうとする。

しかし、受付嬢と支配人に止められるが、その顔が、今、録画を収録している番組の主人公崑松とそっくりなので、二人は首を傾げ、そのまま崑松を中に入れてしまう。

劇場内では、舞台で、「番頭はんと丁稚どん」の生本番をやっている所だった。

舞台上の崑松は、舞台袖でじっと自分を見つめている客が、自分そっくりだと気づくとびっくりして固まってしまう。

大阪からやって来た崑松の方も、舞台上に、自分と同じ人物がいるので不思議がり、そのまま自分も舞台に上がり込むと、二人の崑松が顔を見あわせる事になる。

崑松は舞台上から客席に向かい、この中に「七ふく堂」のこいはんはいはりませんか!と呼びかけたので、客席から見ていたかな子は、店の崑松だと気づき、舞台袖に駆けつける。

演出家(花登筐)たちも、突如出現したもう一人の崑松に唖然としており、芝居は一時中断するが、そこにかな子がやって来て声をかけたので、崑松は、わて、こいはんを探しに来たんですと言うなり、泣き出す。

かな子は、わざわざ崑松が、大阪から一人でやって来た事を知ると感激するが、清七が店を辞める事になったと聞くと、さらに慌てて、すぐに飛行機で一緒に帰ろうと言い出す。

その頃、「七ふく堂」では、店を辞める事になった清七に、ご隠居はんが給料と餞別を渡そうとしている所だった。

店の全員も、重い雰囲気でいる最中、かな子と崑松が一緒に飛び込んで来る。

かな子は、崑松がうちを、別府まで探しに来てくれたんやと教えると、ご隠居はんや旦那はんは、5000円の事を疑って悪かったと崑松に詫びるのだった。

さらにかな子は、おばあちゃんに御願いがあると云い出す。

清七さんは、手形で店に損害を与えたのだったら、いっその事、うちで働いて返してもらったらどうやろと言うのだ。

清七さんがいるものは、自分が買うと言うので、それを聞いていた崑松は混乱するが、すぐに事情を察したご隠居はんは、あんた、清七が好きか?これは、おばあちゃん、うっかりしてたわ…と言い、清七に、かな子の旦那になってくれないかと頼む。

しかし、それを聞いていた雁七とお花は、がっかりしてしまう。

そこに崑松の父親からの電報が届き、母親の病気は、送ってもらった薬のお陰で直ったと知らせて来る。

それを知った崑松は、自分は薬なんか送った覚えはないと不思議がるが、御寮はんが、それは隠居はんが送ってくれたんやと説明する。

それを聞いて安心した崑松は、「直った!直った!お母はん、直った!」と、小松たちとはしゃぐのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

テレビの人気番組だった「番頭はんと丁稚どん」の映画化作品

この映画版の存在自体、今回初めて知ったが、映画版だけでも4作も作られたらしい。

テレビ版から、メインの雁七、小松、そして、役名は変更されているが、芦屋雁平など「笑いの王国」の面々、そして主人公崑松は、そのまま映画版にも出ているが、丁稚の一人だった茶川一郎などは出て来ない。

つまり、主要メンバー以外は、ほとんど映画版独自のもので、公開放送用に、確か、一つの場面しかなかったテレビ版と違い、映画版の方では、ロケーションを多用している。

本作の一番の見所は、何と言っても、公開放送しているテレビ版の崑松と、映画版の崑松が共演するシーン。

二人が同時に画面に登場する所は、合成と吹き替えが使われている。

吹き替えの方は、アップではないが、はっきり顔を確認出来る程、正面を向いており、確かに、当時からそっくりさんがいた事が判る。(チャーリー浜か?)

別府松竹という映画館には、野村芳太郎監督「張り込み」(1958)と、小津安二郎監督「彼岸花」(1958)の看板が出ているのが、時代を感じさせる。

この作品、知的ハンデがある崑松を笑い者にしていると言う見方も出来るため、今では到底、放映出来ない内容だろうが、よく観ていると、そうしたハンデがある人物と健常者が、一緒に生活をしていた昔のやり方がそのまま描かれていて、決して、弱いものいじめだけを強調しているのではない事が判る。

ハンデのある人を施設に隔離して、一般社会から遠ざけてしまうと言うのが、本当に正しい事なのかどうかを考えさせる内容にもなっているような気がする。

崑松は、ハンデこそあるが、誰かの世話を受けなければ行きていけない人物ではなく、ちゃんと自分で小遣いを使い、旅行までしてみせる。

人のものを盗むような事はしない判断力も持っており、雁七のようなスケベ心にも興味がない、言わば子供のままの無垢な心を持ち続けている人物である。

だから、崑松は「裸の大将」の山下清に似た存在であり、人は、彼らの行動に笑いながらも、その無垢な正しさに感動し、自分自身の醜い部分を反省するようになっているのだ。

テレビ版の、いかにも舞台芝居と云った内容もそれなりに楽しかったが、ロケーションを多用したこの映画版の方も、崑松の冒険旅行と言った雰囲気で、テレビ版とは一味違った楽しい作品になっている。

人情派で賢いご隠居はんを演じている、浪花千栄子の存在も大きいと感じた。