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とある墓場、やって来た一人の男が、その墓の中にある一本の木の枝に紐をくくり付け、首を吊ろうとしているのを見つけたのが、棺桶を担いでやって来た葬式屋の八五郎(フランキー堺)
慌てて止めて説教垂れた八五郎だったが、どうやら男は病気持ちのようで咳き込んでいる。
その時、八五郎の肩を叩く痩せた男(有島一郎)がいた。
無駄だよ。どうせ死ぬんだとその痩せた男は言うが、それを聞いた八五郎はむきになって、助けてみせると言うや、男をかつて自分が玄関番をやっていた医者の杉田玄庵(柳家金語楼)の家に連れて行く。
途中、婚礼が行われている三浦屋の前で野次馬になっていると、手代が縁起が悪いので近づくなと乱暴に八五郎を突き飛ばす。
すると、転んだ八五郎が背負っていた棺桶の蓋が開き、今入れて来た病人男が出て来たので、死人が生き返ったと勘違いした手代は腰を抜かす。
ようやく玄庵の家に患者を送り届けた八五郎だったが、玄庵は、以前から娘のせつ(香川京子)と付き合っている八五郎の事を嫌っており、せつに近づかないでくれと釘を刺す。
帰りかけた八五郎に、木戸から出て来たせつが声をかける。
八五郎は、多少金が貯まって来たので、一月もすれば店が持てるかも知れないと教えるが、せつは、今、嫁入りの話に父親が乗り気なので、後一ヶ月も待てないと哀しむ。
そんなせつを抱いて口づけを交そうとした八五郎だったが、木戸からせつの弟が出て来て、せつをお父さんが呼んでいると云うので中断されてしまう。
すっかり白けた八五郎だったが、先ほど墓で出会った痩せた男に又であったので、何ものかと聞くと、相手は「死神だよ」と答える。
八五郎と別れた死神は、玄庵の玄関先から中に消えるように入って行く。
一方、八五郎の方は、目指す葬儀の場所を探してとある長屋にやってきたが、目的の家が分からないので、通りかかった小僧に、取り込みがあった家は?と聞くと、奥から二軒目だと教えてくれる。
ところが、その家の玄関口に入った八五郎が棺桶を降ろすと、出て来た男が怒り出す。
良く聞くと、奥の方から赤ん坊の泣き声が聞こえているではないか。
取り込み違いだった。
あわてて家を飛び出した八五郎は、ようやく、馴染みの和尚(左卜全)が、読経中の家を探し当てるのだった。
翌日、長六親方の葬式屋に出向き、夕べの勘定を渡した八五郎は、ちょっと話があると切り出すと、そろそろ自分の店を持って、身を固めたいと相談してみるが、それを聞いた長六親分は、こっちからのれん分けを言い出す前にそっちから言い出すとは何と言う奴だ。さては、最初から俺の商売を盗むつもりだったのか!と怒り出す。
そもそも、医者の所を首になったお前が、ここで働かせてくれと泣きついて来たときの事を忘れたのかと激高した長六親分は、望み通り暇を出してやるが、その代わり、金輪際お前の世話はしないからそう思えと言い出す。
葬儀屋を首になった八五郎はしょんぼりして長屋に戻って来ると、ちょうど出かける夜鳴きそば屋のそば辰(大村千吉)にどうしたのかと聞かれたので、訳を話す。
ともかく、長屋で葬儀屋を開く事にした八五郎だったが、そこに越後屋の旦那がなくなったとの知らせが来る。
さっそく飛んで行った八五郎だったが、すでに、越後屋と葬儀の打ち合わせをしている長六親方を見かけたので、一足遅れたとほぞを噛む。
その頃、玄庵は娘のせつに、今回の木綿問屋上総屋との縁談に自分が満足している事を話し、帰りに仲人に会って来ると言いおいて往診に出かける。
翌朝、長屋で顔を洗っていた八五郎は、そば辰が、池之端の木綿問屋とせつとの縁談がまとまりかけていると仲間内で話しているのを聞き、あわててせつの元に駆けつけると真偽の程を問いつめる。
そこに、当の上総屋の手代が引き出物を持って来たので、話が事実だったと悟った八は、飲み屋に駆け込みやけ酒を飲みかけるが、もういっぺん掛け合ってみようと思い立ち、玄庵に直談判しに行く。
しかし玄庵は、婿が葬儀屋では娘をやる訳にはいかない。息子の仕事を助けるため、わざと患者を殺していると世間に誤解されてしまうと、きっぱり断る。
玄庵の家を出た八五郎は、ちょうど上総屋が大きな結納を運んで来たのとすれ違ったので、その後はすっかりやけ酒を浴びるように飲み始める。
その後、10日も20日も家を締めっぱなしに引きこもっていた八五郎を心配したそば屋が様子を見に来て、明日は、せつの結婚式じゃねえかと教えてやる。
それを知った八五郎は又怒り出し、飲み屋でクダを巻き始め、あげくの果てに橋の上に来ると、夜の川に飛び込もうとする。
そこにやって来たのが荷物を背負ったせつで、明日の婚礼が嫌で、家を飛び出して来たと言う。
せつは、父さんに連れ戻されないよう、どこか遠い所へ行って所帯を持ちましょうと迫るが、それを聞いた八五郎は、遠い西の国へ行こう、死んで冥土で所帯を持とうじゃないかと言い出す。
せつも承知したので、二人は橋から飛び降りようと、まずは八五郎が飛び降りるが、橋桁に引っかかってしまう。
それではと、墓場に出向き、そこの木に紐を結ぶと、まずは八五郎が首を吊るが、側で拝むせつの横に、紐が切れた八五郎がばつが悪そうに近づいて来る。
やっぱり身投げしようと思い返した二人は、先ほどの橋に戻り、一緒に欄干から身を乗り出そうとするが、その時、二人を引き止めるものがいた。
あの死神だった。
せつには、知り合いと紹介し、こっそり脇によって話を聞いてみると、貧乏神は,お前たちには寿命が残っているので死のうと思っても必ず邪魔が入り死ねないのだと言う。
信じられず、もう一度せつと欄干を超えようとした八五郎だったが、貧乏神が言う通り、別の男女が近づいて来たので、その場は橋下の草むらに一旦身を隠す。
やって来た二人も身投げをしに来たらしく、橋の欄干で立ち止まっているが、下で観ていた死神は、あれも死ぬ事は出来ない、お前さんが止めるもの…と、八五郎の顔を見るではないか。
八五郎は冗談じゃねえと顔を背けるが、いざ橋の上野二人が欄干から身を乗り出し、せつが助けてやってとすがってくると、堪らなくなって橋に駆け上がり、二人を掴まえて、死ぬ覚悟があるのなら、添い遂げられねえはずがないと説教をする。
その八五郎の言葉を側で聞いていた死神は、じっと八五郎の顔を観て笑う。
今の八五郎の説教は、そっくり八五郎とせつたちにも当てはまるからだ。
かくして、八五郎とせつの夫婦生活が長屋で始まる。
朝飯時、せつが一膳しか食べないので、もっと食べろ、俺が装ってやろうと、おひつのふたを開けた八五郎は、もう飯が入ってない事に気づき、せつの我慢を知る。
自分はこの所、全く仕事をやっていなかったのだ。
客を捜そうとあちこちと伝手を当ってみた八五郎だったが、なかなか葬式の家は見つからない。
病人の噂を聞き、尋ねて行くと、縁起でもないと塩を撒かれたりする始末。
仕方がないので、患者が死なないかと玄庵の後を付け回しても見るが、なぜこんな男の元にせつが行ったのか分からないと呆れられるだけだった。
そんなある日、八五郎は久々に死神から声をかけられたので、お前の言う通り、生きて所帯を持ってみたが、良い事なんか一つもないじゃないかと文句を言い、江戸中の人間がバタバタ逝っちまうような事はないかなどと無茶な相談をしてみる。
すると、ちょっと八五郎の境遇を哀れんだのか、今後は俺が付きまとっている人間を見張ってさえいれば、そいつは間もなく死ぬのだから、棺桶を作れと教えてくれる。
喜んだ八五郎は、それから死神が付きまとっている人物の家を突き止める事に専念し始める。
その際、死神は、盛り塩が苦手であると云う事も知る。
その塩を足で蹴飛ばしてやった八五郎は、早速家に帰ると上等の棺桶を作り、先ほどの人物の家へと向かう。
すると、案の定、さっきの男が死んだばかりで、内儀は、あまりにも早い棺桶の到着に驚いている。
八五郎は、夕べ夢枕に、こちらのご主人が立たれ、ぜひ棺桶を作ってくれと頼まれたものですから…などと嘘を言うが、内儀はすっかり感激してくれる。
かくして、八五郎は大忙しの状態になる。
三つも大八車に乗せて運ぶ八五郎と町ですれ違った長六親方は、一体どう言う事かと首を傾げる。
元気一杯で盛り上がっている祭りの神輿を死神が饅頭を食いながら見つめているので、怪訝に思って見物していた八五郎は、担ぎ手の一人が倒れて運ばれるのを見て合点する。
そんなある日、自宅に戻った八五郎は、せつの姿が見えないので不思議がっていたが、向いの取り上げ婆おくら(東郷晴子)の家にいるので安心する。
しかし、おくらは、勘の悪い八五郎に、せつはおめでたなのだと告げる。
喜んだ八五郎は、表に飛び出し近所中に言いふらすが、そんな時、顔なじみの横町の隠居(森川信)に出会う。
元気一杯で、まだまだ死なないよと笑いながら通り過ぎた隠居の後ろから、あの死神が着いて行くので驚いて家に戻り、棺桶の準備をしていると、案の定、隠居が死んだとの知らせが来る。
その棺桶を持って隠居の家に出かけた八五郎だったが、おくらが誰かあんたに客が来ているではないか。
出てみると、そこに来ていたのは死神だった。
死神が言うには、間違いだった。あの隠居にはまだ寿命が残っていると言うではないか。
しかし、当の隠居はもう息絶え、布団に寝かされているので、八五郎がそう云うと、番茶か何か飲ませればすぐに生き返るはずだと言う。
このままでは、死神仲間から仲間はずれになると死神が困っているので、半信半疑ながら、隠居の側に戻った八五郎は、とても死んでいるとは思えないと挨拶し、薬でも飲ませてみたいと台所に向かうと、番茶を入れた湯のみを持って来てそれを隠居に飲ませてみる。
すると、隠居は目を開いて、不思議そうに自分の廻りに集まった近所のものたちの顔を見やる。
事情を説明し喜んだ内儀(長島丸子)は、八五郎に感謝すると、入らなくなった棺桶代も払うと送り出してくれる。
帰り道に出会った玄庵は、赤ん坊が出来たら、せつを私の元に帰しなさい。自分が赤ん坊を育ててやると云うので、八五郎はきっぱり断る。
しかし、玄庵が言うには、葬式屋の赤ん坊など、江戸の人別帳にも載らないらしい。
その後、又死神に出会った八五郎は、今聞いた悩みを打ち明けてみる。
すると、死神は医者をやってみてはどうかと言い出す。
寿命の有る無しは、付き人として自分が付いて行き、俺が病人の布団の前に座ればダメ、裾に座れば助かると言う合図なので、助かる場合は、さっきのように、番茶でも飲ませてやれば良いと言うのだ。
何より、医者になれば、生まれて来る赤ん坊が人別帳に載る事が出来ると聞いた八五郎は、翌日から葬式屋を「おんみゃくどころ」と書き換えて医者になる。
そんな所にやって来たのが、頭の伊之吉(石田茂樹)で、何でも、黒門町の山城屋の娘が病気になり、医者を頼まれたので易者に聞いた所、辰巳の方向にいると聞いたのでこっちに来てみたと言うではないか。
それを聞いた辰五郎は、今日から自分も医者を始めたと誘ってみるが、さすがに階らは信じない。
そこに、昨日のイン今日の内儀がやって来て、亭主を救ってくれてありがとうと礼金を渡すので、あっけにとられながらそれを見ていた頭は、急に態度を変え、八五郎に診てもらいたいと言い出す。
すぐさま山城屋に向かおうとした八五郎だったが、さすがに今の格好ではまずいと云う事になり、急遽、隠居の家で衣装を借りる事にする。
山城屋では、寝込んだ娘お妙 (麻生鮎子)を前にして、往診していた玄庵が、自分の手には負えんとさじを投げていた。
そこに、死神を連れやって来た八五郎は、着慣れぬ紋付袴姿だったが、その姿を見た玄庵は、江戸中の医者がさじを投げ、にんじんですら効かなかったこの患者が、お前のような奴に直せるはずがないではないかと怒り出すが、八五郎は平然として、付き人の格好で付いて来た死神の動作を見守る。
すぐさま死神が寝ている娘の布団の裾の方に座ったので、ただちに治療に取りかかると言い出した八五郎が、薬箱の近くにいた死神に手を伸ばすと、死神は、八五郎が急場しのぎに用意して来た薬箱の中から刷毛を取り出したので、仕方なく、脈を取った娘の左手をさすってみたりする。
その後、番茶を飲ませてみると、すぐにお妙の目が開き、起き上がって左手がかゆいと言い出す。
かゆいのは直った証拠だとごまかした八五郎は、内儀に向かい、今後は薮はおよしなさいよと、まだいた玄庵を当てこする。
帰って来て、せつに父親の様子を話してやると、私には去られ、あなたには恥をかかされ、お父さん可哀想と言い出す。
その後、隠居の家に集まった近所の大工たちは、名医として急に忙しくなり始めた八五郎の事で噂をしあっていた。
ちょうど、その隠居の家の前を、死神の付き人を連れた八五郎が往診に向かう所だったが、今では、その身なりも見違える程立派になっていた。
長屋の自宅には、次々と礼の品物が届くようになり、八五郎の部屋は贈答品で埋め尽くされて行く。
帰宅して来た八五郎は、すっかり慢心し、この贈答品の中から父上に何か持って行ってやろうかなどと口走るが、さすがにせつは父は怒りますよ。最近のあなたの事を見ていると情けなくなります。私は早桶屋の時の方が好きだった。今の成り上がりものよりも…と呟く。
むっとした八五郎だったが、そこへ、当らない来客が訪ねて来たので、すぐに同行する事にする。
その客は、とある店の番頭杢兵衛(沢村いき雄)だったが、病人は、使用人たちから忌み嫌われている店の因業な女主人なので、本当は助けて欲しくはないのだけれど、女主人直々にあなたを呼んで来いと命じられたので仕方なく頼むのであり、できれば殺して欲しいと言い出す。
ふと気がつくと、いつも付き人になって一緒にいるはずの死神がいない。
外で探していると、急に駈けて近づきながら姿を表した死神が、寄り合いがあるので忘れていたと弁解し、今、他の死神たちから、お前さんの為に吊るし上げられていたと言う。
もう人間の姿になるなって言われたので、今度からは、お前さんにだけ見えるようにしてやると死神から打ち明けられた八五郎は一安心。
早速、その女主人(武智豊子)を診ると、死神は布団の裾に座った出現したので、まだ寿命があると分かり、八五郎はいつものように番茶を飲ませ息を吹き帰らせる。
死神は、線香の臭いを嗅ぐと眠くなるなどとのんきな事を言っている。
気がついた女主人は、もう少し早く直ると治療代が助かったのに…などと金を惜しみ出し、負けてくれなどと言う嫌な女だった。
一方、女主人が生き返ったと知った使用人たちは、鬼婆が直った、もうダメだ…と、外で集まり嘆き哀しんでおり、一人の雇い女は、借金のカタに売られに行くのか暗い顔をして去って行く。
そこに帰りかけた八五郎が来たので、雇い人たちは取り囲み、なぜ酷い事をしたと責める。
そこに、近所の娘が首を吊ったと知らせが来る。
雇い人たちとその家に行ってみると、布団に寝かされた娘の枕元に死神が座っているではないか。
それを見た八五郎は、この娘は寿命だから助からないと言い出したので、雇い人や近所のものたちは納得いかず、鬼婆は生き返らせて、こんな哀れな娘は直せないとはどう言う事なのかと口汚く責められる。
気落ちしながら帰る途中、死神は、お前さんが名医でいられるのは俺のおかげだと言うので、八五郎は、名医になったって、一つも良い事なんかないじゃないか。おせつも良い顔しないしと愚痴る。
それを聞いた死神は、言い過ぎじゃないのか?と反論し、話の分からない奴とは手を切ると言い残し姿を消す。
長屋の自宅に戻った八五郎は、日本橋の白木屋から呼ばれていると教えるおせつに、自分はもう医者を辞めた。又、早桶屋に戻るので看板探してくれと言うと、おせつは嬉しそうに棚に上げた看板を下ろそうとする。
その時、足を踏み外したおせつは、打ち所が悪かったのか、苦痛に顔を歪める。
驚いた八五郎は、向いのおくらを呼びに行くが、おくらは手の下しようがないらしく、逆に、あんたが直してやればと言われてしまう。
八五郎は、ついさっきけんか別れをしてしまった死神の事を思い出し後悔する。
外に死神を捜しに出た八五郎だったが、死神の姿は見えない。
仕方がないので、以前身投げしかけた橋に出向くと、又死んでやるぞと飛び込もうとする。
すると、案の定、死神が止めに来る。
そんな死神に、もう一度だけ手伝ってくれと頼む八五郎だったが、死神は承知しないので、だったら死んでやると、又川に飛び込もうとする。
仕方なく死神は八五郎に付いて長屋にやって来る。
ところが、寝込んでいるのが、女房のおせつだと知ると、死神は「あの人は嫌だ!あんた、怒るもん」と尻込みし出す。
おせつの側には、大工の松吉(丘寵児)や梅吉(稲吉靖)竹吉(加藤寿八)らが心配して見舞ってくれていたが、おせつは苦しそうだった。
八五郎は嫌がる死神をせかして座らせるが、何と、死神は、おせつの枕元の方に座ったではないか。
そんなはずはないと八五郎は怒るが、死神は、寿命だよ、寿命…と気の毒そうに告げる。
間もなく、愛するおせつが死ぬと分かった八五郎は愕然とするが、一計を案じ、線香を焚くと、その臭いを死神に嗅がせる。
死神は、その臭いを嗅ぎ、うとうととし始める。
その隙に、松吉らを外にそっと呼び寄せた八五郎はある事を頼む。
そして、全員でもう一度部屋の中に戻ると、死神がうたた寝をしている間に、そっとおせつが寝ている布団後と持ち上げて、頭と足を逆向きにする。
そこに、おろくが入って来たので、八五郎たち男衆は部屋を出る。
その時、目覚めた死神は、目の前に置かれたおせつの足の方に自分が座っている事に気づき、八五郎にしてやられたと愕然とするが、次の瞬間消え失せる。
部屋の外にいた八五郎は、赤ん坊が生まれた泣き声を聞き大喜びする。
仲間やおろくが帰って行った後、八五郎の前に出現した死神は、よくも俺をペテンにかけてくれたなと怒り、ちょっとお前に見せたいものがるので俺の家に来いと言い出す。
何事かと死神の後を付いて行くと、すぐ近くの家の玄関に死神は消えて行く。
八五郎も又、その家の中に入るが、中は真っ暗だった。
やがて、空中に無数の蝋燭が浮かんだ不思議な世界に八五郎は来る。
これは何だと聞くと、人間の寿命、お前たち一人一人の寿命だと死神は答える。
火のついてない蝋燭は、まだ生まれていない命だと言う。
やがて、突然灯がともった蠟燭は、今生まれた人間だと言う。
やがて八五郎は、お前の家の近所の連中の寿命だと言う蝋燭の側に案内される。
かなり短くなっている蝋燭は横町の隠居で、その横にあるそれより少し長い蝋燭がその女房の寿命だと言う。
そんな中、今にも消えそうな蝋燭があったので、これは誰かと八五郎が聞くと、お前の寿命だと死神は言うではないか。
さっき八五郎が助けた二人の寿命分、短くなったのだ。自業自得と思って諦めろと言う。
八五郎はどうにか出来ないか?もういっぺんおせつに会いたいし、生まれて来た赤ん坊を見せてくれと死神にすがりつくが、どんなに甘えても、お前は助からないと死神は突き放す。
がっくりして家に戻った八五郎は、そこに玄庵が来ている事に気づく。
その玄庵が、生まれて来た赤ん坊に免じて、これまでの事は水に流してくれと謝って来たので、八五郎の方も、私の方こそ思い上がってと謝罪する。
その後、赤ん坊に向かって笑ってみろ。お願ぇしますなどと頭を下げるので、横で寝ながら見ていたおせつは、まるですぐにでも死んでしまう見たいと八五郎の態度を笑う。
その時、八五郎はその場に倒れてしまう。
寿命の蝋燭の所では、あまりに八五郎ががっくりしているので、見かねた死神が、おめえ、そんなに生きたいか?と聞く。
八五郎は、生きてぇよ。あんな娑婆でも生きていてぇ。生きていりゃこそ、三度の飯を二度にしても苦労出来るってもんだと嘆き泣き出す。
すると死神は、やってみるかと呟き、半分消えかけた蝋燭を持って来て、これがお前の蝋燭と巧く繋げれば生きられるんだと教える。
喜んで、それに挑戦した八五郎だったが、手が震えてなかなか上手くいかない。
死神は、手が震えると火が消えるぞと脅す。
こんなちびた蝋燭を寄越しやがってと文句を言った八五郎は、急に水をくれと言い出す。
末期の水くらい飲ませてくれたって良いだろうと云うのだ。
死神は承知して、水を汲みに行く。
その隙に、八五郎は、他の場所にあったまだ生まれていないまっさらの蝋燭を二本抜き、自分とおせつの蝋燭と取り替えてしまう。
そこに、柄杓に水を汲んだ死神が戻って来るが、いつの間にか八五郎の姿は消えており、目の前にまっさらな蝋燭が煌煌と三本灯っているのに気づく。
又、この俺をだましやがったな!一度ならず二度までも!八五郎!と死神は激高する。
八五郎は、自分の家で目覚めていた。
玄庵が手当てしてくれたのだ。
そこに、駿河屋のご隠居が亡くなったと知らせが来たので、急に元気になった八五郎は、御弔だ!と叫ぶと、棺桶を担いで家を飛び出して行く。
その姿を追おうとした死神だったが、負けた…と嘆息すると、彼奴には寿命なんてあるようでないやと諦めてしまうのだった。
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落語「死神」をベースにした映画。
元気一杯のフランキーと、いかにも貧相な有島一郎演ずる死神の対比が面白おかしい。
コメディと云うより、ユーモラスな語り口調で「生きる意味を問いかけている」真面目な内容だと思う。
全体的にドタバタ色は薄く、森川信も柳家金語楼も香川京子も、全体的に真面目な芝居をしている。
死神が八五郎だけの肩を持ち、あれこれ助けてやったり、懲りずに何度もだまされるは、自分と同じく、葬儀屋と言う「死」と馴染みの深い職業同士と云う事もあるのかもしれない。
キャラクターの魅力とテンポの良さで、ついつい最後まで見入ってしまう娯楽映画の佳作になっている。