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酔っぱらい天国

1962年、松竹、松山善三脚本、渋谷実監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

飲屋街に、飲み屋「ぶらり」の提灯が下がる。

一見まじめなサラリーマンで会計課長、渥美耕三(笠智衆)の唯一の生き甲斐は、妻を亡くした後、自分同様、酒飲みになった一人息子の史郎(石浜朗)と暮らす毎日だった。

その日も、朝、窓を開けて外を見た耕三が見たのは、飲み屋の店員と一緒に朝帰りをして来た史郎の姿だった。

アイロンをかけていた耕三は、史郎が、年頃になると嫁がもらいたくなるなどと云い出したので、「まだ早い!」とちょっとむくれるが、その史郎が、店で椅子を三つ壊した弁償金として4500円出してくれと頼むと、すぐに送って来た店員に払ってやるような、心底息子を溺愛する父親だった。

耕三の自慢は、算盤の腕だった。

会社では、部下の安藤(佐野浅夫)らに、算盤をもっと大切にしろと小言を足れていたが、専務(滝沢修)から呼び出しを受けたので行ってみると、今年からはオートメーションと外資導入だと云う話になり、もう算盤パチパチの時代じゃない。電子計算機を導入するので、近いうちに配置転換する事になると言い渡される。

「ぶらり」で女将 桜むつ子)相手に飲んでいた耕三の元に、常連の飲んべえでトップ屋の小池( 三井弘次)がやって来たので、一緒にはしご酒を始める。

途中で、顔見知りの女店員が岡持を持っていたので、自分たちが持って行ってやると岡持を受け取ったものの、運ぶ家を見つけられず、小池はどこかの家の窓に岡持をぶつけて捨ててしまう。

そんな二人は、警官を手こずらせている女の酔っぱらい(芳村真理)を見つけ、大いに愉快がる。

女は、説教しながら近づいて来た耕三にキスをすると、俺にもと寄って来た小池にはビンタで応じる。

翌朝、史郎は、帰って来なかった父親の事を自宅で心配していたが、そこに近所のおばさん昌子(水科慶子)が、耕三は警察に泊められたと知らせに来る。

警察に父親を引き取りに出かけた史郎は、そこで、夕べの留置場での暴言を録音テープで聞かせられている耕三の姿を見る。

耕三は、留置場の中で立ち小便をしてしまったらしく、その音まで録音されて聞かせられていた耕三は、すっかり恥じて、平謝りしていた。

しょげ返った耕三を警察から引き取った史郎は、そのまま「ぶらり」に連れて行き、迎え酒としてビールを勧めてやる。

最初は遠慮していた耕三だったが、史郎がまず旨そうに一杯飲んでみせると、じゃあ乾杯しようと言い出し、一杯飲み干した所に、飲み友達の小池が又やって来たので、史郎はデートに出かけると言い残し店を後にする。

史郎の恋人は、河村産科医院に勤める看護婦の桜井規子(倍賞千恵子)だった。

一方、耕三の元へは、時計屋の女房きみ子(岩崎加根子)がやって来て、亭主の長谷川清(伴淳三郎)が酔っぱらって、漬物石を飲み屋の窓ガラスに投げ込んで壊したと金の無心をするので、酒は「キチガイ水」と言うくらいだから、飲まれてちゃダメだ。いっぺん警察に亭主を入れてみろ。立派な酔っぱらい収容所があるからと説教しながらも3000円渡してやる。

それを外で待っていた清に、きみ子は2000円渡して、店に帰り着くなり、息子に耕三の所に挨拶に行くように命ずる。

子供がその通りに実行すると、耕三は、きみ子の魂胆に気づきながらも、小遣いを渡してやるのだった。

その夜、清は手にした金で又飲み、路面電車の線路の上に座り込んで、数台の路面電車を停めてしまう。

その頃、ミシン踏みをやって史郎の帰りを待っていた耕三は、付き合っている相手の素性を聞くが、父親は草競馬の調教師をやっており、実家は御殿場の先の方らしいと聞くと、賛成しかける。自分は、ナイターを見ながら一杯やる今のままの方が幸せだし、お前もまだ結婚するには早いと思うと意見する。

しかし、自分はもう結婚の約束をしたし、赤ん坊も出来たと史郎が言うと、憤慨した耕三は史郎に詰め寄り、柔道の技を仕掛けて倒そうとするが、全く史郎はびくともせず、逆に倒されてしまう。

史郎は、耕三を助け起こしながら、明日会ってくれと頼む。

翌日、ジンギスカン鍋屋で規子と初めて会った耕三は、ずっと上の空状態で、史郎が何を話しかけても「そう…」と言うばかり、さすがに途中で耐えきれなくなった規子は店を飛び出すと、追って来た史郎に、お父さんは私の事を好きじゃないんだわとすねてみせる。

規子のアパートまでやって来た史郎に、規子は、二人で結婚する事になると、小遣いも月々800円くらいしか渡せないし、酒もタバコも止めてもらうしかないけど、それでも結婚したいと念を押して来る。

もちろんさとキスをしようと迫って来た史郎に、近所の赤ん坊の声を聞いた規子は、赤ん坊でも出来たら絶望だわ。私もっと遊びたいし…と言い出したので、史郎は、父親にはもう赤ん坊が出来たと言ってしまったと告白する。

今日出会った耕三の不機嫌の原因を悟った規子だったが、まんざらでもない様子で、私子供を産んでも良いわと言いながら、押し入れの布団の上に腰掛けて、ヘアピンを外し始めるのだった。

規子のアパートから帰宅途中だった史郎は、ナイター見物帰りらしい友人の森山(佐藤慶)から声をかけられ、一緒に、バー「カンカン」に出かける。

森山はお目当てのホステス田代節子(有馬稲子)に声をかけようとするが、史郎は、あさみが今相手をしているのは、野球選手の片岡晃一郎(津川雅彦)だと教え、遠慮させる。

しかし、さっきの試合でビーンボールを投げた片岡の事を見て腹に据えかねていた森山は、さらに、自分のお目当てのホステスまで奪われたと思い込み、嫌みを言い出す。

その片岡は、一万円札を半分に契った片方を節子に手渡して、今度、残りの半分を取りに来てくれと誘いかけていた。

そうした様子を横目でうかがっていた森山は、面白くもないと云う風に店を出がけに、置いてあった片岡のバットを足で蹴飛ばす。

それを見ていた片岡が元に戻して行けと言葉をかけて来たので、腹の虫の居所が悪かった森山は片岡につかみ掛かって行くが、反対に階段の下に落とされてしまう。

ますます逆上した森山と片岡は本気の喧嘩になり、片岡は持っていたバットを振り回し始める。

そのバットに殴られた史郎は、頭を押さえて店の外に出ようとするが、「火事だ!目の前が真っ赤…」と口にした後昏倒する。

規子が、史郎が入院した病院に駆けつけると、すでに耕三が横に座っていた。

片岡は、チーム監督の山科重雄(山村聡)や、当夜、片岡が飲み歩いた店の関係者たちと共に、警察で事情聴取を受けていたが、片岡は当夜の事を全く覚えていないと弁解していた。

耕三は、頭部のレントゲン写真を見せる医者に、直ってもバカになるような事はないでしょうかと確認していた。

その後、史郎の見舞いにやって来た片岡だったが、病室で看病していた規子に拒絶され、手みやげさえ渡す事が出来なかった。

すっかり気落ちした耕三は、ある日、専務に誘われ料亭に出かけると、日本では酔っぱらって人を刺しても御咎めなしだし、ちょっと早いボールが投げられるだけの青年が何千万ももらっているとおかしいと愚痴を漏らす。

最初はその言葉に同調していた専務だったが、やがて会わせたい人がいるんだと言いながら部屋の真ん中の屏風を取ると、その後ろに座っていたのは、監督の山科だった。

専務は、この山科とは同郷だし、大学でも一緒に野球をやって来た間柄であり、自分に免じて示談にしてくれないか。史郎の入院費は全部こちらが持つし、慰謝料として20万用意していると言うので、耕三は、全部専務さんに御任せしますと頭を下げるしかなかった。

すると、専務は安心し、片桐も呼ぼうと言い出す。

同じ頃、入院していた史郎は、急にベッドの上に起き上がろうとし、看病していた規子を戸惑わせるが、次の瞬間、史郎はベッドから落ちてしまう。

その頃、おごり酒が大好きな耕三は、山科と片岡を相手に、バーで泥酔して悪のりしまくっていた。

そうした耕三のばか騒ぎに付いて行けなくなった山科と片岡は、さっさと途中で帰ってしまう。

朝、自宅の玄関先で寝込んでいた耕三は、近所のおばさんから、夕べはどこにいたんだ?息子さんが危篤だと、何度も呼びに来たのに…と声をかけられ飛び起きると、病院に走って向かう。

しかし、病室にもうベッドはなかった。

看護婦は、御気の毒ですが、今朝方史郎は亡くなったと言うではないか。

よろよろと霊安室に向かった耕三は、そこでうたた寝をしていた規子と出会う。

史郎の葬式には、山科監督や長谷川清、小池なども参加していたが、焼き場に到着した頃には、すでにウィスキーのポケット瓶で酔いつぶれた耕三がベンチで寝ていた。

その横では、のんきに清や小池たちが、ラジオで野球の中継を聞いていた。

その試合で投げていたのは片岡だったが、何と日本で8人目の完全試合を達成してしまう。

試合後、記者たちにもみくちゃにされていた片岡だったが、そんな中、鉄格子の外に立って待っていた規子から、「あの人は亡くなりました。あなたが殺したんです!」と言われてしまう。

山科監督に悩みを打ち明けに行った片岡だったが、酒の上の事じゃないか。過失なんだから忘れろ!プロなんだから、気にせず投げ続けるんだと軽くいなされてしまう。

その後、マンションにやって来た片岡を慰める田代節子は、金で解決すれば良いのじゃないかとアドバイスするが、この前の一万円の半分を持っているかと聞かれると、あら?覚えていたの?あの夜の事は何も覚えていなかったはずでは?と突っ込み、私がその気になったら、あなたから100万円取る事も出来るわねとからかう。

白けた片岡はマンションから帰る。

自宅に戻って来た耕三は、一升瓶の酒を飲みながら、これからわしは、何を楽しみに行きて行けば良いんだと嘆くが、その時、一緒に飲もうと、ジョニ黒を持った史郎の姿が見える。

史郎の声は、母さんがよろしく言っていたと云うので、耕三は相好を崩す。

その時、玄関を叩く音がする。

酩酊した小池が、もう一晩付き合ってやると訪ねて来たのだ。

しかし、耕三が、今、史郎が来ているのでダメだと答え、その後も玄関を開け、入ろうとする小池を外に突き放したので、小池はあれはアル中だなと疑う。

耕三の方も、あいつは頭に来ているんだと呆れながら、又、居間に戻って来るが、史郎の声は、浮気でもしてみれば?と語りかけてくれる。

耕三は、浮気なんてものは女房がいるから面白いんで、一人でやっても面白くない。ところで、規子さんとの事はどうなっている?生まれて来る赤ん坊どうすれば良いんだと問いかけるが、もう史郎の声は聞こえなかった。

耕三は、もう少しいてくれ。待ってくれ!と言いながら窓を開けると、涙ながらに「史郎!」と叫ぶ。

「もう帰らんのか…、もう来ちゃくれんのか…」耕三は泣き崩れる。

「もう一度、ゆっくりお前と飲みたいんだ」と呟いていると、開いた窓によじ上って来た小池が、ゆっくりやりましょうと言葉をかけて来たので、バカ!と突き落とした耕三は、居間に置いてあったたくさんの鳥かごから聞こえて来る小鳥の鳴き声にいらだち、急に鳥かごを破壊し始める。

翌朝、耕三は、壊れた鳥かごと小鳥の死骸に取り囲まれている自分に気づき、目を覚ます。

力なく、鳥かごと小鳥の死骸を外に捨てに行った耕三だったが、まだ小鳥の鳴き声は聞こえていた。

不思議に思い壁の方を見つめていた耕三は、なぜか無人の飲み屋街を歩く。

ずっと小鳥の鳴き声は聞こえていた。

一方、自分の気持を整理しきれない片岡は山科監督と共に、河村産科医院に車でやって来て、自分に気づいたファンからサイン攻めにあっていた。

規子は、山科から慰謝料を渡されるが、それを車に所で待っていた片岡に突き返す。

片岡は、僕に出来る事なら、何でもしたいんだと訴えるが、規子は無言で立ち去って行く。

その頃、時計屋の長谷川清は、女房のきみ子が酔って、娘の給食費用に貯めていた打ち出の小槌型貯金箱から金を取ろうとしたので、必死に止めていた。

そこにやって来た耕三がきみ子を叱ると、きみ子は、清が勝手に買って来たミンクが死んでしまったが、それは本当は狸だったと言う。

清は、子供が生まれりゃ、儲かると思ったから買って来たんじゃないかと泣き始める。

お前いつからアル中になったんだと耕三が説教すると、きみ子は、アル中の夫に対抗するには、自分が先に酔っちまえば良いんだと反論する。

その頃、小池は、パチンコ屋で酔って脅迫まがいの事をやっていた。

長谷川の家から預って来た打ち出の小槌型貯金箱を持って「ぶらり」に来た耕三は、もう酒を止めると女将(桜むつ子)に宣言する。

そこに、パチンコ屋で脅し取った金を持った小池が姿を見せ、今日は自分がおごると誘うが、耕三はきっぱり、酒は止めたと断る。

しかし、小池はしつこく、テレビを観たが、今日も片岡が投げている。慰謝料を取ってやろうと提案する。

その後、耕三は、規子のアパートにも出向き、史郎が死んで、ずっと飲んでいたが、もう酒を止めたと伝える。

夜眠れなくなった。居間は百燭の電球を付けっぱなしにしていないと寝れなくなったと打ち明けると、耕三は、あんた、これからどうする?一緒に暮らしてくれないか?もうあんたの事を娘だと思うようになったし、今の家をあんたのものにしようと思っていると頼む。

その急な申し出を受けた規子は泣き出したので、すまなかった。考えといてくれと耕三は言って帰る。

翌日、耕三は専務から呼ばれ、気分転換もかね、松島に行ってくれと出張を頼まれる。

部署に戻った耕三は、規子から電話を受け、お申し出の通り一緒に生活する事にしたと知らされると、自分は明日から一週間出張なのでその間に引っ越しすれな良い。今日の6時に相談しましょうと伝え、電話を切ると急に元気になる。

しかし、帰宅しかけた規子は、外で待ち受けていた片岡の車に半ば強引に乗せられ、車は走り出してしまう。

片岡は人気のない所で車を停めると、僕に何かさせてもらえないか?こんとこずっと、連続敗戦投手なんだと悩みを打ち明けて来る。

そんな勝手な片岡に、規子は、あなたには大勢のファンがいるので何でも出来るのだと嫌みを言う。

その頃、規子のアパートにやって来た耕三は、規子がまだ帰宅していない事を知ると、土産に持って来たケーキ箱をドアノブにかけて帰る。

どこまでも車を停めない片岡の態度に不安を感じた規子は、自分はこれから実家に帰らなければいけないから車を停めてと頼む。

自宅で、規子を待ち受けている耕三だったが、規子はやって来なかった。

実家まで送って行ってやると車を走らせていた片岡が、タバコを吸おうと取り出しながら片腕運転していると、危ないと助手席に規子が手を押さえたので、車はハンドルを取られ、危うく対向車線にはみ出してしまう。

その後、何とか実家に付いた規子だったが、家の中には、気難しい父親(上田吉二郎)が、偉そうに車に乗って来るような奴は誰だと怒鳴っていた。

野球選手の片岡だと規子が説明しても、野球に全く興味がない父親も母親(山本多美)も反応しないどころか、父親は規子の頬を殴りつける。

背後でそうした様子をうかがっていた片岡が、名乗りながら家に入ろうとするが、怒った父親は出て行けと怒鳴りつける。

片岡は、怒ると吃音になる規子の父親を自分の父親とそっくりだと笑いながら家を離れて、規子の方に近づいて来る。

自分の母親は、自分が15の時、父親が死んだ2年後に、男を作って出て行ってしまったと打ち明ける片岡は、納屋の中に勝手に入り込むと、今晩はここに泊めてもらうと藁に寝転がる。

しかし、又しても家から出て来た父親に追い出されてしまったので、二人は又車で東京に戻るしかなかった。

片岡は、飲みたいんで付き合ってくれないかと規子を誘う。

森山と一緒にバー「カンカン」に来た田代節子は、そこで見知らぬ娘と踊っている片岡を見つけると、持っていた一万円札を半分に破ると、その片方を片岡に突きつけると、規子に対しては、あんた、面白い子ね。ま、せいぜい巧くおやんなさいとからかう。

さらに、とある三流週刊誌が、あんたと桜井規子さんの事を書こうとしていると片岡に声をかけて来たのは「経済新報」の記者を名乗る小池だった。

片岡は、明日にしてくれないかと小池を追い払った後、規子をアパートまで送り届けると、部屋の前で握手して帰る。

部屋の前まで来た規子は、ドアノブにかかっているケーキ箱に気づくと、罪悪感を感じていた。

そこに、片岡が戻って来たので、そのまま部屋に招き入れた規子だったが、急に片岡が抱きついて来てキスをする。

一週間後、出張から戻って来た耕三は河村産科医院を訪れるが、規子はここ2、3日休んでいると教えられる。

会社の会計課に戻った耕三は、安藤から、残っているのは自分だけで、後の人員は全員配置換えになった。電子計算機が導入されるんだそうですと知らされる。

耕三はそれでも、算盤にしか出来ない事だってあるはずだと負け惜しみを言うが、事情を聞こうと会いに向かった専務は、関西に行っており当分いないと言われる。

さらに、小池から電話で、片岡と規子が最近付き合っていると聞かされた耕三は、とても信じられなかった。

その頃、アパートで片岡と寝ていた規子は、買い物に出ようと窓に近寄った時、耕三が近づいて来ている事に気づき、急いでベッドに戻る。

何も知らない耕三は、やっと出張から戻ってきましたと言いながら、土産持参でのこのこと部屋の中に入って来るが、ベッドで重なりあっている規子と片岡の姿を目撃すると、あわてて部屋を飛び出して行く。

小池の情報は本当だったのだ。

呆然とする耕三は、持って来た土産を投げ捨てると、そのまま自宅に帰ってしまう。

そうした様子を窓から見ていた規子は、「一言だけ言いたい事があるの」と呟く。

耕三の家に、うちの人が酔って人を怪我させたので、その賠償金を…と言いながら打ち出の小槌型の貯金箱を取りに来たきみ子だったが、その貯金箱を握りしめた耕三は、憤怒の形相もあらわに帰れと怒鳴りつける。

そんな耕三の家に規子はやって来る。

耕三はあんたは犬畜生だ!四つん這いになって歩け!史郎の子供までで来たのに…と言いながら、規子の首筋を掴んで壁に押し付けて来る。

規子は必死に「忘れて下さい。これでお会いしません。どんなに憎んでくれても良いです」と言い残しと去って行く。

耕三は、又酒を飲むようになる。

そんな耕三を見つけた小池が、嬉しそうに「ぶらり」にやって来る。

耕三は、未整理の伝票はまとめておいてくれと高飛車に言う元部下や、43以上の人間はいらないと言って来た会社への不満をぶちまける。

二人は、前のようにはしご酒を始めるが、とあるバーに入ろうとした耕三は、片岡調子良いですよと、何も知らずに話しかけて来た店員を思わず殴りつけてしまう。

外に出た小池は、この国では、何でも酔っぱらったでちょんでお仕舞いになる。5万くれたら考えても良いと言い出す。

何の事かと不思議がる耕三に、自分が片岡の指の一本でも詰めてやろうと云うのだった。

それを聞いた耕三は、小池を「ぶらり」で待たせると、少し遅れてやって来て、今買って来たばかりの飛び出しナイフを見せる。

小池が受け取ろうとすると、バカ言うな!俺がやるんだと言い出した耕三は、近寄って来た女給のスカートをまくり上げる。

その後。後楽園ズタジアムの前に来た二人は、試合後出て来る片岡を待ち受けながら、10時半にバー「カンカン」で会おうと約束しあう。

耕三はその間も、ずっとウィスキーの小瓶を飲み続けていた。

片岡が規子を伴い球場から出て来て自分の車に乗り込むと、素早く近づいて来た小池は馴れ馴れしくその後部座席に乗り込んで、「カンカンに連れて行ってくれ」と頼む。

一方、耕三はタクシーを呼び止めていた。

バー「カンカン」にやって来た小池は、何とか、片岡を店に引き止めようとし始める。

その頃、耕三は、「カンカン」の近くの焼き鳥屋で一杯引っ掛けていた。

小池から、無理矢理大量のサインを頼まれた片岡は、仕方なく、出された色紙にサインをしていたが、やがて約束の10時半になる。

耕三は、ナイフを手にして「カンカン」に忍び込むと、片親たちが座っているフロアの下で機会をうかがっていた。

やがて、一人のバーテンが、もう一枚お願いしますと色紙を持って片岡に近づいた時、階段を上って来た耕三は、片岡と思い込み、そのバーテンの方を刺そうとしたので、思わず「それは違う!」と止めた小池は片腕を切られてしまう。

警察署に連行された耕三は、牢の中で、俺がやったんじゃない。酒がやったんだと怒鳴っていた。

小池も又、片腕を三角巾で包んだ姿で牢に入れられていた。

刑事(穂積隆信)の前では、片岡と規子が、何かの間違いだ。あの人はそんな事をする人じゃないと必死に弁護していたが、刑事は、ナイフを買って持っていたんだ。立派な殺人未遂ですよと教える。

それを聞いた規子は、訳が分からなくなり泣き崩れる。

牢に入った耕三は、まだくどくどと文句を言っていた。

向いの牢に入れられていた、いつかの女酔っぱらいも同調するが、その女をどやし付けた耕三は、そのまま牢の中に倒れ込むように寝入ってしまうのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

渋谷実監督お得意の風刺喜劇だが、笑えるのは最初の方だけで、史郎が怪我をして死んでしまった後の展開は、遺された人々のそれぞれの孤独感が新たな悲劇を生む重い流れになっている。

「酔っぱらいが起こした行為は、酒の上の事と、何でも許されてしまう日本の風潮」が、犯罪にまで適用されてしまう現状を皮肉っている訳だが、そうした法の不備を、被害者になって初めて知った耕三が、自ら酔っぱらって復讐を成し遂げようとする姿は、どこか後年のテレビドラマ「怪奇大作戦」の「凶鬼人間」と重なる。

精神異常者の犯行は裁かれないとする法の不備を逆手に取り、意図的に精神異常にする機械を使って復讐を成し遂げようとする「凶鬼人間」の話は、笑いの入り込む隙もない怖い世界だが、この作品の方の結末に、まだそこまでの怖さがないのは、観ている側に、耕三が取った行為は「所詮酔っぱらいの行為」だからと感じて「許している部分」があるからだと思う。

しかし、耕三の取った行動に笑えるような要素は微塵もない。

立派な殺人未遂である。

会社での立場も、溺愛する息子も奪われ、その赤ん坊を妊っていると信じていた規子は、息子を殺した相手の恋人に成り果てている。

こんな生き甲斐を何もかも失った耕三の姿を観て、笑える人などいるだろうか?

孤独になった耕三の姿は、見ているのがつらくなる程ひたすら哀しい。

彼の復讐心は、一人片岡だけにあるのではなく、こんな惨めな状況に自分を追い込んだ社会全体に対する怨嗟なのかも知れない。

身体は酩酊していても、その復讐の炎は、じっと冷たく心の中で燃え続けていたと思える。

一方、酔った上での事とは言え、人を殺めてしまった片岡も、恋人を突然失ってしまった規子も、罪悪感や寂しさを癒す方法が見つからないまま、互いに接近してしまう。

ここにも笑える要素は何もない。

互いに子供の頃から、つらい思いをして来た暗い人生が透けて見えるからだ。

笑えはしないけれど、この作品には心に訴えかけて来るものがある。

人間の本質的な孤独感をさらけ出してみせているからだ。

始終不機嫌な規子の父親や、酔っていない時がないかのように、絶えず酩酊状態でいるトップ屋の小池、時計屋の夫婦なども、みんな、何かしらの孤独から逃れようとしているのではないかと思わせる。

酒は一時の憂さを晴らしてくれるかも知れないが、現実の孤独の根本的な解決にはならない。

だから、耕三は生涯酒を止められないのである。

珍しく酔っぱらいの醜態を演じている笠智衆。

イケメン時代の津川雅彦と、どこまでもさわやかな好青年イメージの石浜朗。

その両者の間で揺れ動き、大胆にもシミーズ姿までも披露している、まだふっくらした時代の倍賞千恵子。

癖のある人物を演じさせたら右に出るものがいない佐藤慶や三井弘次。

妙にへらへらとした軽薄な監督を演じている山村聰。

ゲスト出演ながら、ちょっと一癖ありげな美貌を披露している有馬稲子。

みなそれぞれに印象に残る存在感を見せている。

登場場面は少ないながら、芳村真理が出て来るのも貴重。