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やじきた道中 てれすこ

2007年、「てれすこ」製作委員会、安倍照雄脚本、平山秀幸監督作品。

※この作品は比較的最近の作品ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

淀川に漕ぎ出した一艘の小舟。

乗っているのは老婆と爺やの二人だけ。

おさん(淡路恵子)と与兵衛(笑福亭松之助)は、油屋の奥方と奉公人の関係だったが、心中を決意した今では互いに夫婦と思っていた。

おさんの足下を与兵衛が縛ってやっていた時、突然、船に近づいて来た何ものかが船を強請り始めたので、怯えたおさんは、与兵衛に飛び込んでどうにかしろと無茶を言い出し、戸惑う与兵衛を突き落とそうとさえする。

その後、濡れ鼠になったおさんが、川岸に這い上がって来る。

大阪の町では、この川の化け物の事で大にぎわい。

瓦版の無三四堂(南方英二)の周囲に集まった町人たちも、めいめい勝手に噂をするばかりで、誰も化け物の名前すら知らなかった。

名前を知っていれば、奉行が褒美として10両を差し出すと云うのだった。

その名乗りを上げたのが、川の中で羽交い締めにしたと云う与兵衛で、奉行(間寛平)から「てれすこに相違あるまいな?」と御白州で聞かれ、「へい!」とはっきり答える。

タイトル

弥次郎兵衛(中村勘三郎)は、子供たち相手に新粉細工をこしらえてやっていた。

客の一人の子供が、親たちの会話をまねているのか、ませた口調で、弥次さんは品川で変な女に掴まった、死んだ奥さんに悪いねなどと言っている。

そんな中、当の弥次さんは、せっせと新粉で指先の形を作っていた。

品川宿の「島崎」と云う女郎宿では、今日も、木蓮寺の住職が、太鼓持ちの梅八(ラサール石井)を呼んで遊んでいたが、本当の目的は、花魁のお喜乃(小泉今日子)だった。

ところが、その日、梅八が取り出してみせた小箱の中に入っていたのは、そのお喜乃の斬り指だと言うではないか。

10両ばかりの金を無心するため、自らの小指を斬り落としたのだと梅八は言う。

しかし、そう説明する梅八は、こっそり水で顔を濡らし、泣いている芝居をしていた。

その頃、当のお喜乃は、部屋で、弥次郎兵衛が作って持って来た、何本もの「斬り指」を並べ、「これは、尾張屋の旦那、木挽町の隠居、石榴伊勢屋、小石川の奴、塩町の仏壇屋…」などと区分けしながら、こうでもしなけりゃ、200両の工面なんて出来やしないと愚痴っていた。

それを縁側に座って聞いていた弥次郎兵衛は、もう47本も切り指を持って来たか大丈夫だろうね?と心配していた。

そこにやって来た梅八が、三番に相撲取りの劔山が来ているし、女将さんも呼んでいると知らせに来る。

お喜乃がご飯でも上がってお行きと勧めて部屋を出て行ったので、勝手知ったる何とかで、弥次郎兵衛はさっさと棚に置いてあった佃煮をおかずに、おひつのご飯を自分でよそって食べ始めたので、部屋に残っていた梅八は呆れる。

女将さん(波乃久里子)の用事と云うのは、偽の切り指をカタに、客から金をせびるなどと云う事をせず、身請けの客を捜せば良いじゃないか。島崎の紋に泥を塗って…と云う小言だった。

そこに、お喜乃の馴染み客(麿赤児)を連れた若い花魁おみち(星野亜希)が通りかかったので、お喜乃は客に嫌みを言うが、おみちの方は平気な顔をして客を連れて行く。

便所に小便をしに来た弥次郎兵衛は、壁に貼られた瓦版を見つけたので、隣で小便をしていた木蓮寺の住職に読んでもらう。

大阪の川で上がった「てれすこ」と云う生き物で、食すれば薬になり万病に効くと書いてあると云う。

その頃、同じく「島崎」の一室で、呼んだ女郎おそめに手をつけようともせず、暗い表情のママ、一人豆を食べていたのは、喜多八(柄本明)だった。

手持ち無沙汰のあまり、爪を切って時間を潰していたおそめは、業を煮やし、喜多八に誘いかけるが、急に喜多八が奇声を発し泣き出したので、怖くなって部屋を出て行く。

喜多八は役者だったが、先日「仮名手本忠臣蔵」の出し物の最中、浅野内匠に当たる塩冶判官を演じていた喜多八は、あろう事か、吉良上野介に当たる高帥直(ベンガル)の額に斬り掛かろうとした時、自分の袴を踏みつけつんのめったため、刀を相手の脇の下に突き刺す格好になってしまう。

これでは芝居は台無しである。

客は呆れるやら怒るやらの大騒ぎになった。

その大失敗を恥じ、喜多八はこの店に身を潜めていたのであるが、意を決した彼は、庭先の石灯籠の上に上がり、木から降ろした紐に首を入れ、首つりをしようとしていた。

一方、部屋に戻って来たお喜乃は、小指に赤い布を巻き付けた姿で弥次郎兵衛の前に倒れ込むと、弥次さん、あんた、あたいに惚れてるかい?私を連れて逃げてくれるかいと言い出す。

何でも、沼津にいるお父っつぁんから手紙が来て、病気でもうこの冬は越せないかも知れないと知らせて来たので、一目だけでも会いたいのだと云う。

突然の申し出に驚いた弥次郎兵衛が、お父っつぁんの病は何だと聞くと、困ったお喜乃は、部屋の隅に貼ってあった「千体荒神」のお札の字を見て「こうじんせんたい」と云う難しい病なのだと説明する。

その頃、石灯籠の上で、飛び降りる機会を待計っていた喜多八は、いきなり足を滑らせて首つり状態になる。

その拍子に、紐の端を縛っていた石灯籠の頭頂部が外れたので、喜多八の身体は天秤の重しのようになる。

さらに、その石灯籠の頭頂部に猫が飛び乗ったので、妙なバランスが取れてしまう。

逃げる算段をする事になった弥次郎兵衛と抱き合ったお喜乃は、庭先に現れた首つり男の姿を見て悲鳴を上げる。

弥次郎兵衛も、振り返って首つり男の顔を見るが、「喜多八?」と呟く。

宙づり状態でもがき苦しむ喜多八だったが、やがて、木の枝の上を通していた紐が切れ、喜多八は落っこちてしまう。

早速、長屋に帰って来た弥次郎兵衛は、旅の支度をし始めるが、それを追いかけて来た喜多八は、幼馴染みのお前と出会えたのも何かの縁だから、一緒に連れて行ってくれ。自分は大阪で役者修行のし直しをするからと頼み込む。

しかし、弥次郎兵衛は、お前は大阪に逃げるだけじゃないかと相手にしないでいると、急に喜多八は、あの事をしゃべっちゃおうかなぁ…と言い出す。

すると、それを聞いた弥次郎兵衛は急に態度を変え、それじゃあ連れて行くが、今度の旅ではお前さんは下戸で通してくれ。そして旅の勘定はお前なと決めて、自分は足抜けの算段をしにさっさと出かけて行く。

品川宿の通路脇でへぼ将棋をさしていたのは、足抜けの女郎を見張っていた弁天一家の地廻りの太十(松重豊)と甚八(山本浩司)だった。

甚八から、お前の持ち駒は?と聞かれた太十が、王将を持っている事を明かすと、甚八は、王将なんてなくても勝って見せると粋がっていた。

そこに通りかかったのが、喜多八演ずる「親孝行芸」

ひょっとこの仮面をかぶせた人形の顔を腹の前に付けた「二人羽織」の要領で、あたかも、老人を背負っている親孝行息子と見せ、金を取る見せ物だった。

それを追い払った太十は、又その後から、同じような親孝行芸でやって来た弥次郎兵衛の姿を見て呼び止めると、おかめの面をはいでみる。

中から現れた顔は白塗りのお喜乃だったが、先ほどの弥次喜多効果も手伝って、人形の顔と勘違いし、小銭を渡してそのまま通行させてやる。

かくして、お喜乃の足抜けはまんまと成功し、晴れて三人は、沼津に向かう旅を始める事になるが、なぜか弥次郎兵衛は不機嫌だった。

確か、自分の為に切断していたはずのお喜乃の小指が元に戻っていたからだ。

しかし、そんな弥次郎兵衛を、自分が作った新粉細工でだまされてりゃあ世話ないやと、喜多八は笑っていた。

その日は戸塚宿に泊る事になるが、お喜乃が外出している間、部屋に残っていた弥次郎兵衛は、一人にやけながら、枕を二つ並べ、部屋のしきりをこさえたりしていたので、喜多八は、お前は何を考えているんだ。お喜乃は病気の父親を見舞いに行く途中だぜと呆れる。

しかし、当のお喜乃は外で一人団子を食べ、明日は藤沢、又おいしいお菓子がある所だと無邪気に喜んでいた。

風呂に入ろうと階段を降りて来た弥次と喜多は、そこで「てれすこ丸」と書かれた札指物を掲げ、人形劇を客たちに披露している薬屋(六平直政)に出会う。

その人形劇の内容は、大阪の奉行では、又、川から新しい生き物が上がったと云うので、その名前を募集していたが、そこに二匹目のドジョウを狙って名乗り出たのが、あの油屋の与兵衛だったと云う事実をからかうものだった。

またもや御白州にまかり出た与兵衛は、その新しい生き物の名を「すてれんきょう」と答えるが、それを聞いた奉行は急に怒り出し、今度のはてれすこが干物になっただけのもの、金目当てに奉行を愚弄する気かと、与兵衛を捕縛入牢させたと云うのである。

その夜、お喜乃は、父の病気の事で話があると弥次郎兵衛に語りかけるが、弥次郎兵衛の方は、それは心配しなくても大丈夫だ。今良い薬を買ったからと薬袋を見せる。

それを見たお喜乃は、弥次さん、お前さん、良い人だね。一風呂浴びて来るけど、首つりの兄さん、どこに寝るんだろうね?と意味深な事を言い出したので、聞いた弥次郎兵衛は、思わず鼻の下を伸ばして喜ぶ。

その時、隣から女の泣き声が聞こえて来たので、興味を持ちふすまを少し開けて覗いてみた弥次郎兵衛だったが、隣にいたのは夫婦者らしい浪人と奥方の二人連れだった。

その頃、一階広間では、先ほどの薬屋を始め、泊まり客が酒を飲んでいたが、話題は、江戸の「忠臣蔵」の芝居の最中、師宣を刺してしまった間抜けな役者の事で盛り上がっていた。

その話を階段に座って聞いていた喜多八は、悔しさを紛らわす為か、羊羹にかじりついていた。

そこに通りかかったのが、風呂上がりのお喜乃で、客たちから酒を勧められると、階段にいた喜多八も誘う。

しかし、喜多八は、弥次郎兵衛との約束を守って酒は飲めないと断るが、事情を知らないお喜乃は、勝手に喜多八の丼に酒を注いでしまう。

一方、なかなか風呂からお喜乃が戻って来ない事にじれていた弥次郎兵衛は、一人床の上に座って酒を飲み始めていたが、鈴の音が隣りから聞こえて来たので、又好奇心から覗いてしまう。

しかし、そこにいるのは浪人もの一人で、先ほどいたはずの女の姿がない。

不思議に思っている弥次郎兵衛に声をかけて来たのは浪人の方だった。

率爾ながら、酒を持っておいでであれば、そこ仕分けてもらえまいかと云う。

覗き見がバレていたので、ばつが悪い事もあり、すぐに隣りの部屋に酒を持って行った弥次郎兵衛だったが、水戸藩の納戸係沓脱清十郎(吉川晃司)と名乗ったその浪人が言うには、あなたが探している女はこれですと、目の前に置いたしゃれこうべを指す。

その頃、まだ、忠臣蔵での間抜け役者の話で盛り上がっていた薬売りの側で、禁じられていた酒をつい飲んでしまった喜多八は、羊羹を肴に、どんどん目が据わって行っていた。

その頃、隣りの部屋で聞いた怪奇話をにわかに信じられない弥次郎兵衛だったが、3年前、黒岩総右衛門と不義を致し、自害して果てた妻の躯に相違ござらん。時々その妻の霊魂と話をする事もしばしば…などと説明しながら、しゃれこうべに酒をかける沓脱清十郎の真摯な態度を見てしまうと、信じる他になく、弥次郎兵衛は、墓代の足しにと、持っていた小銭を差し出す。

その時、地震のような地響きで宿全体が揺れたので、驚いた弥次郎兵衛は、部屋を飛び出して様子を見に行く。

部屋に残った沓脱清十郎は、「もう、出て来て良いぞ」と押し入れに声をかけ、中から出て来た先ほどの妻きく(鈴木蘭々)と、だますには江戸っこに限ると、名古屋弁丸出しで喜ぶのだった。

一階に降りた弥次郎兵衛が見たものは、畳を積んだ上に腰を降ろし、震えるお喜乃に酌をさせ、どんぶり酒を飲んでいる喜多八と、その周辺で壊れた家屋、そして血まみれで倒れている客たちの姿だった。

お喜乃は、なぜ喜多八に酒を飲ませるとこんなになるか教えてくれなかったのかと、弥次郎兵衛をなじるが、すっかり酒乱状態になった喜多八は番頭にカミソリを持って来させ、全員の頭を剃って坊主にすると、その場でふらふらになるまで踊らせるのだった。

その頃、海からずぶぬれで上がって来た太十と甚八の姿に驚いたのは地元の漁師だった。

太十は、近道があると云う甚八の言葉を真に受け、渡し船に乗ったつもりがそれはイギリスに向かう外国船だったとぼやきながら、漁師に大磯はどっちかと尋ねる。

二人は、足抜けしたお喜乃を追ってやって来たのだった。

弥次喜多とお喜乃の三人組は、夕べ喜多八が壊した宿の修理代や坊主にしてしまった客たちへの詫び料として、持って来た金を全て出してしまい、今や無一文に成り果てていた。

食うものも食っていないそんな三人は、狸を掴まえ囃している子供たちを見つける。

弥次郎兵衛は、狸を見ると舌なめずりし、子供たちを焚き付けて、近くの河原で狸鍋の準備をし始める。

しかし、喜多八とお喜乃は、まだ子供の狸を食べる気にはならず、こっそり小狸を助けて逃がしてやる。

そんな事は知らない弥次郎兵衛は、必死に包丁を研ぎ、そろそろ狸を締めてくれと喜多八に声をかけて来る。

三人は、結局食い物にありつけず、田んぼの中で食べ物しりとりなぞしてごまかしていた。

弥次郎兵衛は、狸鍋の料理の仕方を丁寧に二人に話して聞かせ、余計に空腹感を益す事になる。

戻ろう!狸鍋を作ろうと、いきなりお喜乃が立ち上がった時、これ良かったら食べて下さいと、饅頭の包みを差し出して来た子供がいた。

三人は、それを食べて何とか一息入れるが、子供は帰ろうとせず、何か皆さんの役に立たせて下さいと云うではないか。

すると、三人の目の前で子供は宙返りをし、狸の姿を表す。

恩を返さないうちは、家には帰って来るなと母狸から言われて来たと云う。

戸惑いながらも、その子供を連れて行く事にした三人だったが、なぜか子供は、最前まで包丁を研いでいた弥次郎兵衛にだけは冷たく、できたてのほやほやだから、さぞやおいしかったでしょうなどと謎めいた言葉をかけて来る。

それを聞いた弥次郎兵衛は、もらった饅頭の臭いを嗅いでしまう。

中から藁が出て来て、馬の嗎が聞こえたからだった。

小田原の浜に付いた三人は、地元の賭場に出かけ、お喜乃をカタに金を借りるが、代貸(國村隼)はもうトウが立っているからと二分しか寄越さなかったので、メンツを潰されたお喜乃はふくれる。

年を聞かれ、27などと大ボラを吹いたお喜乃の方にも非はあったのだが…

その代わり、今日は父親の命日で、その父親の骨で作ったこの賽子を使っちゃもらえないかと弥次郎兵衛が差し出したので、怪しんだ代貸たちは、その賽子を改めようとするが、喜多八と弥次郎兵衛が言葉巧みにごまかして使ってもらう事になる。

実は、その賽子は、あの小狸が化けたものだったので、壺に入れられ振られた後、弥次郎兵衛たちは、「丁」と「半」の区別などを声に出して説明しながら、まずは「半」に賭ける。

壺の中にいた小狸は、一生懸命計算をして、奇数になるようにもう一個の賽子に化けたので、弥次郎兵衛たちは金を取り戻す事が出来た。

しかし、三人の様子を怪しんだ代貸は、子分の一人を床下に忍ばせ、壺の下の畳の一部を外し、針で下から賽子を刺し、細工させようとするが、床下の子分が目にした壺の中には小さな子供がいたので目を疑ってしまう。

それでも、針で下から突っつき出したので、小狸は痛がって壺の中を逃げ回り、最後にはもう一個の賽子の上に上がってしまう。

しかし、狸の変身は最後までバレず、三人は路銀をしっかり稼ぐ事に成功する。

喜多八は、傷だらけになった子供の臀に膏薬を貼ってやり、何とか恩を返した小狸は、そのまま帰って行く。

その頃、大阪の奉行所では、連日するめが投げ込まれて困ると、奉行が与兵衛を呼び出して愚痴をこぼしていた。

「てれすこ」の干したのを「すてれんきょう」と読んでいけないのだったら、イカを干したのをするめとは言わぬのかと云う民衆の皮肉だった。

さらに、御白州に連れて来られた与兵衛は、「しらす」はどうだす?干したら「ちりめんじゃこ」言いませんか?豆腐の搾りかすは「おから」言うたら首落ちよるやろか?と自分の処遇を皮肉るのだった。

弥次郎兵衛たち三人は、箱根に来ていた。

先に、喜多八が温泉につかっている間、お喜乃は弥次郎兵衛に、実は父親が病気と云うのは嘘だったと詫びる。

自分が13の時、叩き売られてそれっきりなのだと云う。

それを聞いた弥次郎兵衛は、俺がそのくれえの事、気づいてねえとでも思ったかと空威張りをし、お父っつぁんに娘の元気な姿、見せに行こうじゃないかと平気を装う。

しかし、小便に行くと言って離れた弥次郎兵衛は明らかにだまされた事に落ち込んでいた。

温泉につかっていた喜多八は、側にやって来たお喜乃に、弥次の奴と夫婦になってくれねえか。実は、彼奴の死んだお律さんと云う女房はお前さんに生き写しだったのだ。二人の間には、しん坊と云う子供まであったのだが、「コロリ(コレラ)」で二人ともあっさり死んでしまったのだと聞いたお喜乃は、あんたが言う「あの事」と云う言葉を弥次郎兵衛が気にしているのはその事だったのではないかと言い出す。

翌朝、宿で目覚めた弥次郎兵衛と喜多八は「やじさん きたさん いろいろありがとう おきぬ」と書かれた紙が壁に貼られており、お喜乃が姿を消した事を知る。

それでも弥次郎兵衛は、きっと父やのいる沼津の実家に帰っているに違いないと、喜多八を伴い、沼津に向かってみる事にする。

その頃、一人で旅をしていたお喜乃は、親子連れの巡礼の姿に目を奪われたりしていたが、やがて、太十の姿を見つけたので逃げようとすると、隠れていた甚八に掴まってしまう。

観念しかけたお喜乃だったが、そこに駆け寄って来る一団がある事に気づく。

それは、全員、新粉細工の小指を掲げたお喜乃の客たちだった。

客たちは、お喜乃と地回りらを取り囲むと、よくもだましてくれたなと文句を並べ立てる。

地回り二人が刃に手をかけようとすると、客たちは、鯨岡先生(佐藤正宏)なる剣の名人風の人物を前に押し出し、お願いしますと頼む。

しかし、その鯨岡の刀は竹みつだった。

お喜乃のカタに、とっくに伝家の宝刀も売ってしまったと言う。

そんな情けない客たちの様子に呆れたお喜乃は、急に啖呵を切り始める。

花魁は元々「だまします」と看板を掲げて商売をしているようなもの。そんな自分が男に本気で惚れるのは、女郎を辞めるときと決めている。地回りの一人、二人くらい、みんなで力を合わせて、品川へ追い返してやろうくらい思わないのかい?郭中で、もててもてて困るくらいの評判になるよ。

それを聞いた客たちは顔色を変える。

男と生まれた以上、一度くらいはもててみたいと云うのだ。

そんな様子が変わった客たちの勢いに押され、地回りの二人は逃げ帰って行く。

地回りを追って遠ざかって行く客たちに、お喜乃は「頑張ってね!ついでに、証文も破いといてね!」と、笑いながら声をかける。

やがて、実家に近づいたお喜乃は、祝言の祝詞を聞き、不思議に思って家の中を覗くと、そこには、赤ん坊を背負った見知らぬ女と祝言を挙げていた父親杢兵衛(笹野高史)がかしこまって座っていた。

お喜乃は、年の離れた女に、新しい弟まで生ませた父親に呆れながらも再会を果たす。

花子と云う牛を売りたくないばかりに、自分を売ったと恨み言を言うと、杢兵衛は、牛の名は花江だと反論する。

一方、先ほどまで祝詞をあげていた庄屋(左右田一平)や村人(螢雪次朗)たちは、突然帰って来たお喜乃に驚きながらも、大した事ない地回りが二人追って来ていると聞くと、すぐさまお喜乃を隠そうと相談しあう。

押っ取り刀で、外に様子を見に行った村人たちは、村に近づいて来る弥次郎兵衛と喜多八の姿を発見し、てっきり地回りの二人と勘違いしてしまう。

おずおずと進み出た庄屋が二人に用事を尋ねてみると、案の定、江戸からお喜乃が帰っていないかと云うので、村人たちは地回りだと確信し、実は、そのお喜乃なら、夕べ、父親に鯉こくを食べさせようと、村はずれの池に出かけておっ死んでしまったと説明する。

それを聞いた二人は唖然とし、線香を上げさせてもらおうと言い出す。

庄屋があわてて、まだ仏が見つかっていないのだと断ろうとすると、二人はそこに案内してくれと言い出す。

泣きながら沼に網を投ずる弥次郎兵衛と喜多八の姿を遠目で眺めていた村人たちは唖然とする。

その後、寺の中に匿われていたお喜乃の元にやって来た杢兵衛は、妙な事になって来た。しゃれこうべが二つも上がったと教える。

その様子を遠目で見ていた庄屋は、あれは一昨年身投げした権助とおよねに違いないと見抜くが、弥次郎兵衛はすっかり、そのしゃれこうべの一方をお喜乃と断定し、坊主を呼んでくれと庄屋に頼む。

しかし、この村に坊主がいないと知ると、役者のお前がやれと、驚く喜多八に命じる。

ここでお前を弔う事になったので、ひとまず隠れていろと、杢兵衛はお喜乃を奥の部屋に入れる。

寺にしゃれこうべを持って来た弥次郎兵衛は、いつか宿で出会った浪人の話を思い出したのか、お喜乃待ってろよ、今こちらに戻してやると言いながら、しゃれこうべに酒をかけ始める。

そこに、坊主の格好をした喜多八が登場し、でたらめなお経を読み始める。

そんな二人の様子を、寺の外から眺めていた庄屋たちは、「あれは、流行病に違いない」と怯える。

弥次は、新粉の指の数だけ男がいた事は胸くそ悪かったが、だんだん惚れていったと独白し始め、それをお喜乃は、奥の部屋の中で聞いていた。

喜多八も、色々お喜乃を褒めようとしていたが、聞いているお喜乃にしてみれば、悪口を言われているように聞こえた。

怒ったお喜乃は、部屋から出ようと扉を押すが、何故か開かなくなっていたので、必死に叩く。

その振動で、古寺が揺れ始め、ホコリが天井から落ち始める。

それを、いよいよお喜乃があの世から戻って来ると信じた弥次郎兵衛と喜多八は、ますます一生懸命に祈り始める。

お喜乃は、背後にあった仏像を扉にぶつけ、ようやく部屋の外に姿を表す。

「お帰り、お喜乃…」と喜ぶ弥次郎兵衛に、当のお喜乃は「何がお帰りだ!このでこ助け野郎!」と文句を言い出す。

翌日、弥次郎兵衛と喜多八は村を発つ事にする。

この村で鍬でももつ暮らしをしようとも思ったが…と弥次郎兵衛は、お喜乃に別れを告げる。

お喜乃が、お律さんの代わりにはなれないだろう?もしも、私がお律さんに似ていなかったら、裏返してくれたかい?と問いかけてきたので、弥次郎兵衛は裏返すよ、じゃあなと旅立って行く。

遠ざかって行く二人の姿に向かって、「この唐変木!行きたけりゃ、どこへでも行くが良いさ!」とお喜乃は悪態をつくが、どこか寂しそうだった。

喜多八と旅を続けていた弥次郎兵衛は、「てれすこ有ります」と看板を掲げた茶店を発見、すぐに入ってみる。

一人の女お仙(藤山直美)が店番のようだったが、店先で寝ていたので起こしててれすこを注文すると、すてれんきょうもあり、料理法は味噌煮、塩焼き、酢の物色々あると云う。

それでは、てれすこを味噌煮で、すてれんきょうを塩焼きでと弥次郎兵衛は注文する。

「てれみそ一丁!すてしお一丁!」とお仙は復唱する。

光り物を食うとぶつぶつが出来ると云う喜多八が出て来た料理に手をつけないので、一人口にした弥次郎兵衛は、「うめえ!こいつぁオツな味だぜ」と喜ぶ。

いつの間にか、弥次郎兵衛は自分の長屋で目が覚めていた。

気がつくと、台所で働く見覚えのある姿があった。

死んだはずのお律(小泉今日子-二役)だった。

しん坊もいるよと云われ、縁側の方に目をやると、こちらもとうに死んだはずの一人息子、信吉(吉越拓矢)がいるではないか。

喜んだ弥次郎兵衛は、会いたかったよと信吉を抱きしめる。

お前さんが来るって言うから待ってたんだよとお律が語りかける。

弥次郎兵衛は、お前たちが死んでから、毎日、つまんなくて…と独白する。

その時、どこからか「弥次さ~ん、帰っておいでよ」と女の声が聞こえる。

その声がお喜乃のものだと気づいた弥次郎兵衛は、はなはお前に似ている事で興味を持っただけだが、その内そんな事はどうでも良くなった。堪忍してくれと、お律に謝る弥次郎兵衛。

信吉、ダメな、お父っつぁんだよな、ごめんよ…と呟いていた弥次郎兵衛は、いつしか、お律と信吉の姿が消えている事に気づく。

気がついた弥次郎兵衛は、自分が首まで田んぼの土の中に埋められている事に気づく。

目の前には、喜多八が「食っちまったんだよ、てれすこ…」と言いながら嬉しそうに見つめていた。

弥次郎兵衛は「オツな味だったぜ、てれすこ…。良い夢を見せてもらったよ。良かったぜ」と答えるが、急に、あんなものを食べさせ、金もふんだくった茶店の女の事を思い出したのか、喜多八は怒りながら走り去って行く。

首しか地面に出ていない弥次郎兵衛は、置いてけぼりにされ、唖然とするしかなかった。

やがて、元気になった弥次郎兵衛と喜多八は、川を渡っていた。

気がつくと、目の前を進む輿に乗っているのは、あのお喜乃ではないか!

「お前、どうしてここに!?」と驚く弥次郎兵衛だったが、そんな二人の方を笑って振り向きながら、「この野暮天!」と罵倒するお喜乃。

そんな三人の頭上には、くっきり富士山がそびえていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

落語の演目「てれすこ」をベースにしたユーモア時代劇。

小さなエピソードを積み重ねている印象で、特に大きな笑いはなく地味な印象ながら、全体的に穏やかな「おかしみ」と「人情」がしみ込んでいるような大人向けの作品になっている。

中村勘三郎や柄本明が達者なのは分かるが、特に柄本明の年を感じさせぬ健闘振りが印象的。

逆に不利なのが小泉今日子で、他の二人と堂々と渡り合っているが、役柄よりはかなり老けて見えるのがつらい。

特に出来が悪いと云う感じではなく、それなりに丁寧に撮られている感じはするが、がつんと迫るものがないのが弱いと云えば弱い。

大きな見せ場と云うのがないのも物足りなさを感じる一因か?

冒頭部の淡路恵子と笑福亭松之助など、ベテランの健在振りを見れる楽しみはある。