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釣りキチ三平

2009年、「釣りキチ三平」製作委員会、矢口高雄原作、古沢良太脚本、滝田洋二郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

白い花が水面に落ちて流れる。

一ひら、二ひら、三ひら…

その花びらを押し上げるように水面が盛り上がったかと思うと、一匹の魚影が水面に飛び出す。

夕暮れの中、まだ幼い息子を肩車した男が、娘と一緒に家路に帰りながら、興奮してしゃべっている。

「あれは正しく怪物だ」

すると、そんなの私が釣る!と娘が云うと、三平と愛子で釣れば良い。何か秘策があんべえ…

三人はじいちゃんの待つ家に向かう。

時が過ぎ、現在

役瀬川鮎釣り大会が行われていた。

ゆりっぺこと高山ゆり(土屋太鳳)と三平一平(渡瀬恒彦)も参加していた。

釣り名人の一平じいちゃんは、鮎の習性を利用した友釣りを披露する。

二人は三平の姿が見えないのに気づくが、その三平は近くの草むらの中で蛙を見つけて喜んでいた。

その釣り場の近くに停めた車の運転席に座っていたキャップにサングラスの男は、外国語で電話をしていた。

そうやら、帰って来なければ契約違反になると女性から文句を言われていたが、それに反抗しているようだった。

車から降りたその男は、橋の下で行われている鮎釣り大会を興味深げに見下ろす。

いよいよ大会の入賞者が発表される事になる。

この手の大会の常連らしき三人組松山(小宮孝泰)竹田(志村東吾)梅沢(安居剣一郎)は、すでに上位の独占を確信している様子。

ところが、関係者が発表した第三位に、三人組の中でも29匹と一番釣っていたはずの松山の名前が呼ばれてしまったので、三人組は唖然とする。

2位に呼ばれたのは50匹も捕った三平一平じいちゃんの名前が呼ばれる。

そして、1位に呼ばれたのは三平三平の名で51匹も釣ったと云う。

居並ぶ参加者の後ろから、一人の子供がニコニコと前に進み出る。

一平の孫、三平三平(須賀健太)だった。

その姿を見た松山たちは「まだ子供じゃないか!」と目を疑う。

何か挨拶をと、司会者からマイクを向けられた三平は、困って麦わら帽子を取ると、頭の上に蛙が乗っており、その蛙が隣に立っていた松山の顔に飛び移ってへばりつく。

そんな様子を、橋の上からあのサングラスの男が見つめていた。

タイトル

大会終了後、橋の上で待っていた三人組は、トロフィーを持って帰る三平、一平、ゆりっぺたちに、こう云う事を子供にさせるのは教育上良くないだろうと言いがかりをつけて来る。

どうやら、三平や一平がズルをして、前の日に捕った分を提出したのだろうと疑っているらしい。

それを知った三平は怒り、だったらオラと勝負しろ!おじさんたちが勝ったら、優勝トロフィーを帰してやるけど、オラが勝ったら、おじさんたちは二度とこの川に来るなと言い出す。

それを聞いた三人組は乗って来る。三平が持っているような貧弱な竿では釣れるはずがないと思い込んでいる様子だった。

セコンド係になった一平が「囮の鮎は各自一匹づつ」と条件を出し、松山は生きの良い鮎を選ぶ。

橋の上では、まだあのサングラスの男が見守っていた。

松山は、常識通り、川のトロ場を選択する。

一方、三平はどこに?とゆりっぺが捜すと、何と三平は木の上に登っていた。

それを「やっぱり子供だな」と笑う松山たち三人。

松山は、20分間で三匹釣り上げるが、その間、三平は裸になり川で泳ぎ始める。

その後は、川の中の岩場で寝てしまったので、松山たちは、早くの試合放棄かと呆れる。

松山の囮の鮎はそろそろ生気を失っていたので、この辺が潮時かと止めかけるが、時間は後20分残っていた。

一平は、そろそろ動くかな?と面白そうに三平の方を見やる。

その言葉通り、岩の上で目覚めた三平は、ようやく竿を出し糸を川に投ずる。

すると、たちまち一匹、二匹と、面白いように鮎が釣れて行く。

それを見た松山は、子供が「引き抜き」の技を難なくこなしている事に驚く。

しかし、もはや、松山の囮鮎は弱って役に立ちそうもなかった。

そんな松山に、竹田と梅沢は焦り始め、こっそり囮の鮎を替えようと耳打ちするが、さすがに松山のプライドが許さず、あたふたしているうちに足を滑らせ、川に嵌ってしまう。

結果は、松山5匹に三平が9匹、完全に三平の勝利だった。

竹田と梅沢は、偶然、鮎の集まっている場所に当っただけだと負け惜しみを云うが、それを聞いた三平は、「釣りは偶然じゃなく技術だ」と説明し始める。

木の上に登っていたのは、川の中の鮎の動きと群れの様子を観察するため。

泳いだのは、鮎が水温の低い所に集まらせる為。

そして、その後寝ていたのは、鮎たちが休むのを待っていたのだと言う。

すっかり感心した松山たちは、約束通り、二度とこの川には来ないよと謝るが、それを聞いた一平じいちゃんが、何か約束したのか?と三平に聞く。

この川は誰のものでもない。あんたたちも腕を磨いて、来年、このくそ生意気長きを負かしてみろと笑いかける。

それを聞いた松山たちも、覚悟しておけと笑いながら、三平に手を差し出すのだった。

三平は、帰宅した自宅の仏壇の鈴を鳴らした後、お供えの饅頭を口にくわえる。

そんな三平宛の手紙が届いたので、表で郵便屋から受け取った一平じいちゃんは、三平に渡そうとするが、三平は捨ててくれと云うだけで無視する。

差出人は、三平の姉愛子からだった。

夏休みと云う事もあって、三平はそのまま、いつものように釣りに出かける。

川に一緒に付いて来たゆりっぺが、何か変な人がいると三平に教える。

サングラス姿の男がさっきから私を見ていると云うのだ。

三平は無視しろと云っていたが、その男が近づいて来て、何が釣れるの?と声をかけて来たので、三平は場所を変えようとし、それに付いて行こうとしたゆりっぺは足を滑らせてバランスを崩してしまう。

その時、男がゆりっぺの腕を掴んだので、思わず、痴漢だと思い込んだゆりっぺは悲鳴を上げる。

駆けつけた駐在(螢雪次朗)が、男の名前と職業を聞くと、サングラスの男は、鮎川魚紳(塚本高史)と名乗り、職業はバスプロと答える。

バスプロの意味が分からない駐在が不審そうにすると、バスフィッシングのプロの事だと魚紳は教える。

その答えを側で聞いた三平の目が輝き始める。

住所はと聞くと、アメリカのテキサス州ダラスで、今、休暇で旅をしていると云うので、駐在はふざけるなと怒鳴りつけ、サングラスを取れと命ずる。

子供の頃目を怪我しているので取りたくないのだが…と云いながらも、魚紳がサングラスを外すと、確かにその右目には傷跡が残っていた。

その時、駐在のレシーバーが鳴り出し、確かに、その男は有名なプロだと分かったとの声が聞こえて来る。

すると駐在は、ころりと態度を変え、今取っていた調書の裏側にサインしてもらえないかと魚紳にすり寄って来る。

三平は、魚紳の車に積まれたプロの道具の数々を見せてもらい興奮していた。

特に、きれいなフライの数々には目を奪われる。

魚紳は、一平の竿を、有名な和竿作りの名人一平じいちゃんが作った一平竿だと知っていた。

すぐさま、二人で川で釣りを始めるが、キャッチアンドリリースで、捕った鮎をすぐ川に返す魚紳の態度を三平は笑う。

釣ったもん、食わなくてどうすると云うのだった。

その夜、魚紳は三平の家に泊っていた。

すでに、釣りで疲れた三平はいろりの前で寝入っていたが、大人の二人は酒を酌み交わし、釣り談義に花を咲かせていた。

魚紳は、日本の川が懐かしくて戻って来たが、所詮、日本の魚は小さいですよねと言い出したので、酔って来た一平は少しかちんと来る。

あの小さい魚を捕る侘び寂びが分からんかと云うのだ。

こちらも酔いが廻って来ていた魚紳も負けじと、やっぱり釣りは大きな魚と人間との、パワー対パワーの勝負ですと引かない。

翌朝、魚紳は、布団の上で目覚める。

隣の部屋では、すでに一平も三平も和竿作りを始めている。

三平は、起きて来た魚紳に、これからどこに行くのかと尋ねる。

魚紳は、「夜鳴き谷」と云う場所がどこか秋田地方にあるらしいので、そこを捜していると云う。

そこはどんな所かと聞くと、イワナの楽園で、五尺と云うから1m50cm以上もあるイワナの怪物が住んでいるらしいと魚紳は答える。

その頃、一人の若い娘がバスでやって来る。

彼女はバッグの中に入れた化粧箱を開けてみると、中にはハート形をしたチョコレートが入っていた。

都会風の彼女が酒屋地蔵前で降りると、バスを待っていた地元の野球少年三人が、その美しさに見とれ、バスが出発してしまったのに気づきあわてて追いかける。

ちょうど自転車で学校帰りだったゆりっぺもその若い娘に気づく。

その頃、三平は、魚紳からフライフィッシングの要領を庭先で教えてもらっていた。

家の中では、一平じいちゃんが、ずっと置きっぱなしにしていた手紙の封を切って中を読んでみる。

その直後、慌てた一平じいちゃんが、表の三平に「愛子が来る」と声をかける。

それを聞いた三平はあわてて逃げ出そうとする。

魚紳が訳を聞くと、姉ちゃんがさらいに来るので、オラはゆりっぺの家にいるから、じいちゃんが追っ払ってくれと云う。

急いで、家の前の道を走っていた三平は、ちょうど自転車を押しながら近づいて来るゆりっぺと出会う。

ちょっと安心した三平だったが、そのすぐ後から愛子(香椎由宇)が付いて来ていた事に気づくと、慌てて家に逆戻りする。

バスから降りる愛子を見かけ、自宅までゆりっぺが付いて来ていたのだった。

姉の愛子も逃げる三平を追って、自宅の物置小屋まで追って来る。

愛子は、お土産に持って来たチョコレートを差し出して、階段の上に登った三平をおびき寄せようとする。

そんな愛子の様子を唖然と見守っていた魚紳が誰かと聞くと、6年前に東京に出て行った三平の姉の愛子で、三平も東京で育てると言っているのだと一平じいちゃんが教える。

そんな言葉が聞こえたのか、愛子は、おじいちゃんでは三平にまともな教育が出来るはずがないと反論する。

名人と云ったって、年に一本も売れないようじゃ、経済社会の廃残者よとじいちゃんの事を当てこする愛子。

釣りなんてただのくだらない遊びとまで云うので、さすがに堪らず、魚紳が愛子に意見をしようと近づくと、あんた誰?と愛子は無視する。

そんな興奮状態の愛子に、一平じいちゃんは、墓参りにでも行ったらどうかと勧める。

一平と愛子が墓参りに出かけた後、一平じいちゃんは愛子の事を魚紳に詳しく話す。

7年前、あいつは立て続けに両親を亡くした。父親はわしや三平以上に釣り好きだったが、海釣りで沖に出て嵐に会い、それっきりだった。その半年後、母親も病死してしまい、あいつが中学3年の夏、わしと大げんかをして出て行ったのだと。

夜、風呂に入っている三平に、外にいた愛子は、私は30倍の競争率を勝ち抜いて就職決まった。人生は競争なのよと話していた。

そこに、一平じいちゃんが「遊びがないの〜…」と笑って近づいて来て、「母ちゃん、なんか言っていたか?」と聞く。

愛子は「死んだ人間がしゃべるはずないじゃない」と愛子はふくれる。

その夜、風呂から上がって来た魚紳に、一平じいちゃんは「源流行には慣れていますか?」と聞いて来る。

「自分はプロですよ」と魚紳が答えると、「手伝うてくれんか?」と一平じいちゃんは頼む。

翌朝5時、愛子と一緒に寝ていた三平は、一平じいちゃんから叩き起こされる。

何事かと起きると、すでに起きていた魚紳は朝食の席に付いていた。

寝ぼけ眼の三平が「どっか行くの?」と聞くと、「夜鳴き谷じゃ」と一平じいちゃんは答えたので、急に三平は目を輝かす。

一緒に起きて来た愛子は、そんな三人の説明を聞いた彼女は、1m50cmもある鮎なんている訳がないじゃないのと呆れたように見つめていた。

「いたら、どうする?」と、一平じいちゃんは愛子に問いかける。

「いたら三平の好きにさせておけ。釣れなかったら三平をおめえに預ける」とじいちゃんは続ける。

それに対し、愛子は「私は週明けまでに東京に戻らなければ行けないから、日曜までに釣れなかったら、三平を連れて行くよ」と答える。

三平は、二人で勝手に…とふくれる。

一平じいちゃんは「お前も行って、いるかどうか確かめるんだ」と愛子に云う。

いよいよ四人が出発する事になり、ゆりっぺもうらやましそうに見送りに来る。

魚紳は、軽装で車に乗ろうとする愛子に、ウェアを貸そうと申し出るが、愛子は拒絶する。

源流への旅は、想像以上に過酷なものだった。

愛子は、都会と同じような感覚で付いて来たが、すぐにとんでもないたびに付き合わせられている事に気づく。

川の中を進む箇所に来ると、さすがに愛子は、魚紳のウェアを借りて着るしかなかった。

やがて、「山神」と書かれた札が貼ってある木の下にたどり着いた一平じいちゃんは、無理をせず今夜はここに泊ろうと言い出す。

それは、マタギの合図だった。

それを聞いた愛子は「まさか、野宿!!」と聞く。

一平じいちゃんは、この近くに三ツ星ホテルがあると云う。

それは、粗末なマタギ小屋だった。

愛子はすぐさま帰ると言い出すが、マタギ小屋があると云う事は、熊が出る事だと云い、一平じいちゃんも、熊の爪痕があった、でっかいぞと叫ぶ。

確かに、近くの木に引っ掻いたような傷跡があった。

愛子は、仕方なくそこに留まる事にするが、夜中、男たちのいびきで眠れず、苛立たしそうに小屋の外に出る。

その時、「姉ちゃん、釣れただよ〜」と、小屋の中から三平の寝ぼけ声が聞こえて来たので、愛子はちょっぴり表情を緩めるのだった。

翌日も、厳しい源流行は続いた。

昨日は、どんなに魚紳が手を添えようと言い出しても、拒絶して来た愛子だったが、さすがに今日の川の中では、手をつないで進むしかなかった。

そんな愛子の様子を、先に待っていた三平が冷やかす。

やがて四人は滝の場所に到達する。

ようやく目的地に到達したと思った愛子は、これで拷問は終わったの?と喜びかけるが、三平は、ここはイワナ止めの場所だと不思議がる。

一平じいちゃんは、マタギのイワナ移しじゃよと説明する。

緊急時の食料確保のため、マタギはさらに奥の場所にイワナを移したのだと魚紳も補足する。

さすがに我慢の限界に来た愛子は、又帰ると言い出すが、そんな愛子を無視して、男たちは勝手に進み始める。

愛子は、仕方なく付き合うしかなかった。

厳しい崖をロープを使って登ると、その先に桃源郷のような美しい場所があった。

庁が群れ飛ぶその場所は、滝が落ちる小さな湖だった。

一平じいちゃんは、持参して来た独特の和竿を取り出すし、三平にはフライロッドを手渡す。

いつの間にこんなものを作ったの?と三平は驚くが、一平じいちゃんはすぐさま糸を投げ、一番イワナを釣り上げる。

魚紳も釣りを始めたので、三平も負けじと釣り糸を飛ばす。

そんな三人の様子を見ながら、文庫本を読み始めた愛子は「何だ?この無駄な時間は…」と呆れる。

夕食時、一平じいちゃんは、イワナのタタキを作って魚紳たちに勧める。

愛子は、持って来たチョコレートの箱を開けるが、四個なくなっているので三平を怒鳴りつける。

三平は知らないと云い、愛子はイワナのタタキを嬉しそうに独り占めする。

翌日、愛子は三平に、今日一日思う存分釣りなさい。そして私と一緒に東京に行くのと告げる。

沈む三平に、一平じいちゃんは「釣れば良い」と言い切る。

愛子は、又文庫本読み始めるが、その本に留ったオニヤンマが三平の麦わら帽に飛んで行くと表情を緩める。

そして、今まですっと耳に付けていたイヤホンを外すと、大きな滝の音など、自然の音が飛び込んで来る。

イヤホンを付け直そうとした愛子は、そのまま自然の音に聞き惚れる。

愛子はすっかり、東京で忘れていた自然の魅力に包み込まれていた。

その夜は、一平じいちゃんが「イワナの骨酒」を魚紳に勧める。

もう気がすんだでしょう?釣りなんてくだらない遊びは卒業よと、愛子は落ち込んでいる様子だった三平に話しかける。

しかし、三平は「仕掛けを変えよう!」と叫ぶ。ずっと釣りの事を考え続けていたのだ。

魚紳は一平じいちゃんに、「話してくれませんか?なぜ急にこんな勝負を言い出したのです。怪物を釣る竿まで用意してあったし…」と改めて聞く。

一平じいちゃんは「ところであんた、夜鳴き谷の事、いつ誰から聞いた?」と逆に質問して来る。

「7年前、沖縄で会った釣り人に聞いた」と魚紳が答えると、「愛子と三平も沖縄に行った」と言い出す。

一平が今使っている竿に書いてある名前を見てみろと云うので、三平が確認すると、そこには「平」と書いてあった。

「父ちゃんの竿だ!」と三平は驚く。

「怪物を釣る為に作ったもので、この怪物の話のきっかけは父だ」と一平じいちゃんは明かす。

その話を聞いた愛子は、昔、幼かった三平と肩車した父親から怪物の話を聞きながら自宅に帰って来た夕方の事を思い出す。

「父は怪物を釣るため春を待っていたら、そのまま冬になってしまったので沖縄に向かい、石垣島から沖に出て、嵐にあってそれきりじゃ。わしは、待っておったんじゃ。あいつがひょっこり帰って来るんじゃないかと。あいつと一緒に怪物釣るのを待っておったんじゃ。生きとるはずないのにな…」と一平じいちゃんは続ける。

愛子は「ばかばかしい!怪物とか、そんな夢を見て死んじゃったのよ」と叫んだので、それまで黙っていた三平は「夢見て何でいけないの?」と口を開く。

「何の役にも立たないじゃない」と愛子が怒ると、「くだらない人間になったのは姉ちゃんの方だろう!そんな姉ちゃん嫌いだ!」と三平が口答えしたので、思わず愛子は頬を叩く。

しかし頬を叩かれた三平は黙らず、「幸せな人は誰の事も恨んだりしない。姉ちゃんは幸せじゃないから、田舎で幸せそうに暮らしているオラが嫌いなんだ」と続けたので、いたたまれなくなった愛子は、焚き火の側から離れ、湖畔に佇む。

そんな愛子の側に魚紳が近づき、「私はつらい事もあっても乗り越えて来た、でもそれが人生じゃない」と云う愛子に、サングラスを外して傷ついた右目をさらす。

自分は、三平君と同じくらいの年の時、父親が投げた釣り針が右目に刺さったと魚紳は打ち明け始める。

それ以来、父親を見返そうと思い、父とは絶縁状態になった。あなたのように…と魚紳は続ける。

自分は今、釣りも父親も恨んではいない。それよりも、その事故以来、父が自分に遠慮をするようになった事が嫌で、孤独だった。今考えると、昔の家族に戻りたかった。だだをこねていたんですと云う。

一平さんが決意をしたのは、僕が来たからじゃない。あなたが来たからなんです。あなたは呼ばれたんだ、夜鳴き谷に…と愛子に云い終えた魚紳は、焚き火の一平じいちゃんの所へ戻ると、ずっと一人で戦ってきました。一人って寂しいですねと吐露し、一平さん、釣りとは何でしょう?と問いかける。

一平じいちゃんは「難しい問いじゃのう」と云ったきり、何も答えなかった。

まだ、湖畔で佇んでいた愛子の背後から、大きな葉っぱで作った仮面をかぶっておどかしたのは三平だった。

愛子は「ごめんね。痛かった?」と先ほどのビンタの事を謝る。

そんな愛子の気持を汲んだのか、三平は「オラ、東京さ行っても良いよ。オラ、姉ちゃんにも見せたかっただ、夜鳴き谷の怪物を…」と言い出す。

その時、どこからとも鳴くキジの鳴き声が響き、それに呼応するかのように、野猿や小動物らしき生き物たちの声が続く。

夜なのに、オニヤンマまで起き出して湖面を飛び出す。

その異様な雰囲気の中、二人の目の前の湖面が盛り上がったかと思うと、観た事もない巨大な魚が跳ね上がる。

「出たぞ!」三平は驚き、すぐさま焚き火の所にいる二人を呼びに行く。

愛子は、信じられないと云うように、湖面を見つめたまま凍り付いていた。

そんな愛子に、近づいて来た一平じいちゃんが「どんなだった?楽園の主は?」と聞くと、感激したように愛子は「とっても大きくて…、とってもきれいだった…、お父さんが云っていた通りいた…」と呟く。

それを聞いたじいちゃんも「そうか、そうか」と嬉しそう。

どうやら怪物は、滝壺の下辺りにすんでおり、滝から落ちて来る動物の死骸などを食べて成長したようだった。

翌朝、改めて湖畔に立った四人。

魚紳は、「三平君、君が釣れ」と云う。

愛子も「釣り上げて!絶対釣り上げて!」と興奮気味。

その言葉にしっかり頷いた三平は、オニヤンマを釣り針に付け、飛ばす。

糸を付け湖面を飛び始めたオニヤンマ目がけ、普通のイワナたちが飛びつくが、三平は、そんな雑魚たちに餌を捕られないように、慎重に糸をさばく。

オニヤンマが滝壺の方に近づいた時、突如、他のイワナが逃げ出し、巨大な怪物が飛び上がったかと思うと、オニヤンマに食いつく。

それを見た愛子は「三平!逃がしたら、又ひっぱたくわよ」と気の強い所を見せる。

持久戦になりそうだった。

一旦は、疲れたかに思えた怪物だったが、実は体力を温存していたようで、突如動き始める。

糸はぐいぐい引き込まれ、危険だと察知した魚紳が「三平君!手を離せ!」と叫ぶが、三平は「住処に逃げ込まれたらあいつは二度と出て来ない。チャンスはこの一度だけなんだ!」と叫び返し、竿を離そうとしない。

そして、ついに三平の身体は、湖面に引きづり込まれてしまう。

魚紳と愛子は、水に飛び込むと浮いていた竿を拾うが、じっと水中の様子を見つめていた一平じいちゃんが、「糸を引くんじゃ!三平、まだ続けとるぞ!」と叫ぶ。

魚紳は、糸井でリールを巻くが、じれったくなった愛子が交代する。

水面下では、三平が怪物の背中にまたがっていた。

魚紳と二人で必死に竿を引く愛子は、あの時の父親の言葉を思い出す。

「だったば、三平と愛子で釣れば良い。秘策があんべえ」そう父親(萩原聖人)は確かに云っていた。

愛子は、首に撒いていたショールを投げて!と魚紳に頼む。

魚紳は、その言葉通り、愛子の首からほどいたショールを、湖面に浮き上がって来た三平目がけて投げる。

それを受け取った三平は、そのショールで、怪物の目の部分を覆ってしまう。

すると、今まで暴れていた怪物が不思議と大人しくなった。

「今だ!姉ちゃん、引いて!」三平が叫ぶ。

その声に呼応するように、愛子が糸を引く。

怪物は、水際まで引き上げられる。

一平じいちゃんは、目を隠して魚を大人しくするのは「昔から伝わる鯉の抱き取りだが、わしは教えとらん」と魚紳に説明するが、三平も、そんなやり方は知らなかったと云い、でも、何で、オラの考えが姉ちゃんにも分かったのかな?と不思議がる。

その時、愛子はみんなに背を向けて泣いていた。

三平が何で泣いているのと心配して近づくと、愛子は「分かんね、分かんね」と、いつの間にか東北弁で答えていた。

「じいちゃん、三平、ごめんなさい」愛子の謝罪に、一平じいちゃんは「謝る事はねえ、わしらにはだだっここねろ。だだっこ、こねてええんや」と優しく声をかけながら手を広げる。

そのじいちゃんの胸に、愛子は抱きつき泣きじゃくるのだった。

三平が愛子に「オラ、東京さ行くだ。怪物も釣ってしまったし、もう気がすんだ」と云うと、愛子は「バカ云うでねえ。釣ったのはあんたじゃなくて、ねえちゃんだべ?あんたが東京に行ったら、誰がじいちゃんの面倒見るの?」と意外な答えをする。

三平はそんな愛子に「だども姉ちゃん、幸せなのか?」と聞き、一平じいちゃんも「愛子、おめえ、ここに残れ」と勧める。

しかし愛子は、「早速だだこねさせてもらうが、私は東京で頑張る。三平、でもこれからはちょくちょく帰って来るから、釣り教えろ。姉ちゃん、電気が走った。主を釣った時…」と答える。

三平は、水際に押さえていた怪物の目隠しを外してやると、そのまま湖に戻してやる。

魚紳は、これから急いで飛行機に乗らないと…と言い出す。

来週から始まるトーナメントに出る。ここで釣りの楽しみを思い出させてもらった。愛子さんの云った通り、釣りはただのくだらない遊びですよと吹っ切れたように云う。

一平じいちゃんも、魚紳さんに礼を言う。

ありがとう怪物、ありがとう夜鳴き谷…

四人は、滝壺に虹がかかった夜鳴き谷に手を振って別れを惜しむ。

愛子は又、バスに乗って村を出発する。

そのバスの中、バッグからチョコレートの箱を出して、蓋を開けた愛子は愕然とする。

もうハート形のチョコレートが一つしか入っていないではないか!

「三平の奴〜」怒りながらも、愛子は最後のチョコレートを幸せそうに口に運んでいた。

その頃、家で竿作りを続けていた一平じいちゃんは、暑い暑いと云いながら仕事場から出て行くと、冷蔵庫から製氷皿を持って来る。

その中には、愛子のチョコレートが入っていた。

ちゃっかりチョコレートを頂いていたのは、じいちゃんだったのだ。

良く冷えたチョコレートを、これまた幸せそうに頬張る一平じいちゃんだった。

しばらくして、アメリカの魚紳さんから手紙が届く。

中には、受賞シーンを撮った写真と「今、ダラスにいる。レーニアバスフィッシング大会で優勝した。いつか又日本に帰ったら、釣りましょう。」と書かれた手紙が入っていた。

それを嬉しそうに読んだ三平は、「やったな魚紳さん!オラも負けねえぞ!」と家を飛び出すと、いつものように仲良しのゆりっぺと釣りに向かうのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

往年の人気マンガの実写映画化。

前半はどう見ても典型的な子供向け映画の展開なのだが、途中から、父と子、家族の絆と云ったしんみりしたテーマに移って行き、後半は感動ドラマ風のまとめ方になっている。

子供にしてみれば、途中からアクションや勝負のドキドキ感がなくなり退屈するのではないかと思うし、大人の目線で見ると、中間部分は、自然の美しさや親子に関する会話などそれなりに惹き込まれる場面もあるのだが、如何せんクライマックスの処理が又子供向けの作り物めいたものに戻ってしまい、何かもの足らなさを感じる。

結果的に、子供が観ても大人が観ても、中途半端な印象しか残らないのではないだろうか。

釣りが見せ場になっているだけに、白組が担当したCG製の魚が随所に登場するのだが、前半部分は、CGと実写の編集によるすり替えが比較的上手くいっており、ほとんど違和感を感じないのだが、やはり、クライマックスの怪物描写は、今ひとつ上手くいっていない感が強い。

観る側にしても、そんな怪物は作り物だと云う事は最初から分かって観ているので、どうしても見る目が厳しくなる。

その異形のものの存在感を高めるため、もう一工夫欲しかったような気がする。

特に水中シーンの説得力は弱い。

とは言え、夜鳴き谷の夜の愛子を中心としたエピソードは泣かせる。

それまではっきり描写されなかった父親の顔が、後半、思い出の中ではっきりする所などは「おくりびと」と同じ演出だが、やはり、ぐっとしてしまう。

おそらく、かなり低予算で作っているのだろうと思わせるだけに、技術的な事は強く責められない気もするが、ターゲットの不鮮明さは企画段階でのミスであろう。

往年のファン、つまり、現在の中年層をターゲットにしようと考えていたのか、もしくは、今現在の子供層を狙おうとしていたのか?

仮面ライダーのように、両方来るだろうと読んでいたのだとすると、かなり甘い企画だったような気がする。

結果的には「二兎追うものは一兎も得ず」になった作品なのではないだろうか。

 


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