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憑神

2007年、「憑神」製作委員会、浅田次郎原作、小久保利己+土屋保文脚本、降旗康男脚本+監督作品。

※この作品は比較的最近の作品ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

幕末

京都には勤王派が集結、大いに盛り上がっていたが、江戸は、祭りの太鼓の息も上がらない寂れた雰囲気になっていた。

そんな太鼓の音を聞きながら、御徒組の下級武士、別所彦四郎(妻夫木聡)が帰宅して来る。

彦四郎は、井上権兵衛(石橋蓮司)の娘八重(笛木優子)と結婚し、一子一太郎までもうけていたが、ひょんな事から離縁され、今は実家に戻って来ていた。

実家の母屋は、兄の左兵衛(佐々木蔵之介)とその妻千代(鈴木砂羽)、その息子世之介が暮らしており、出戻って来た弟彦四郎は厄介者扱いされていた。

ただ一人、彦四郎に優しく接してくれたのは、離れに住んでいる母親イト(夏木マリ)だけで、その日も、空腹で帰って来た事を知っている彦四郎にこっそり金を渡し、酒でも飲んで来なさいと勧めるのだった。

その金を持って、馴染みの甚平(香川照之)がやっている夜鳴きそば屋で飲んでいた彦四郎に声をかけて来たのは、かつて昌平坂学問所で盟友だった榎本釜次郎こと榎本武揚(本田大輔)だった。

榎本は、オランダから帰って来て6年経ち、今では軍艦頭取に出世しており、今日は近くに仲間たちと飲みに来ていたらしい。

彦四郎の事を、今は五番町の小十人組組頭三百俵高井上家に婿として入って安泰な暮らしをしていると思っているらしかった榎本に、実は、配下の者が城中で喧嘩をした責任を取り、離縁したのだと彦四郎は説明する。

仲間たちに促され立ち去って行く榎本の姿を見ていた町人客の一人が、あの方は、向島にある「みめぐり稲荷」に参ったので出世したと噂する。

甚平も、今やすっかり榎本とは差がついてしまった彦四郎を哀れがり、明日にでも「みめぐり稲荷」に参って欲しいと彦四郎に頼む。

すっかり酔って帰路についていた彦四郎は、とある草むらで足下がふらつき転倒してしまうが、気がつくと、目の前に小さな祠があるではないか。

目をすかしてみると「三巡稲荷」と書いてある。

それを読んだ彦四郎は、わざわざ向島まで行かなくても、ここに分社があるではないかと、酔った勢いもあり、つい冗談半分で手を合わせて「なにとぞ宜しゅう」と願をかけてしまう。

すると、祠の両脇にあるロウソク立てに、火のついたロウソクが突如出現したので、彦四郎は肝をつぶしてしまうのだった。

タイトル

翌朝、兄の左兵衛は、趣味で買い集めた国定の浮世絵を眺め、一人悦にいっていた。

一方、離れでは、二日酔いで寝過ごしていた彦四郎を起こしたイトが、夕べ、あなたを送って来てくれた身分卑しからぬ風体のお人は誰だったのかと聞いていた。

彦四郎は、伊勢屋と云う大店の主人で、その用心棒を頼まれたが断ったなどと嘘をいってごまかすが、正直な所、夕べの記憶ははっきりしなかった。

その後、夕べの出来事が気になり、祠のあった草むらに行ってみた彦四郎は、そこで、大きな洋傘をさした不思議な商人風の男に出会う。

お主は誰かと名を聞くと、「稲荷…、いた、向島の伊勢屋と申します」と答えたその男(西田敏行)、お近づきの印に一献差し上げたいと言い出す。

付いて行った店では、芸者を上げてのどんちゃん騒ぎとなるが、いなり寿司を運んで来た女の顔がきつねに見えた事から、彦四郎は伊勢屋と名乗る男に、みめぐり稲荷の福の神だな?自分をどこまで出世させてくれるのだ?と聞いてみる。

ところが、伊勢屋は、実は私は、神は神でも貧乏神なのだと打ち明ける。

驚いた彦四郎は、貧乏神などにようはないと拒絶しようとするが、「なにとぞ宜しゅう」と手を合わされたではないかと言われると、反論しようがなくなる。

その夜、いつもの夜泣きそば屋で飲んでいた彦四郎は、甚平から、昨日自分も行って来たと「三囲稲荷」と書かれたお守り袋を見せられると、自分が手を合わせた「三巡稲荷」とは字が違っている事に気がつく。

そんな彦四郎の元に「お家で一大事です」と、息せき切って駆けつけて来たのは母のイトだった。

イトは、港屋が、我が家の俸禄を差し押さえると云って来たと言う。

しかし、帰宅してみると、いつもながらに能天気な兄、左兵衛は、御徒株を売れば良いとのんきに言っている。

千代も、世の中には徒株を欲しがっているものはたくさんおり、そうしたものたちに売れば、500両は下らないそうですなどと知識をひけらかす。

しかし、それを聞いていたイトは、別所の家を売るなど許しませんと声を荒げる。

左兵衛も又、兄夫婦の言葉を疑っていたが、千代が、グズグズしていると食べるものがなくなると迫るので、心当たりがあるのでと、返答をしばし待ってもらう。

彦四郎が当てにしていたのは、元婿入り先の井上軍兵衛(石橋蓮司)に力添えを頼む事だったが、吝嗇家で有名な権兵衛は、金を貸す事などに耳を貸すどころか、使用人の村田小文吾(佐藤隆太)に、彦四郎を追い出すように命ずる。

小文吾は、かつて優しくしてもらっていた彦四郎を追い出す役目を仰せつかった事が耐えられないらしく、外の料亭に入ると、彦四郎を「若旦那」と呼び、平身低頭無礼を詫びる。

彦四郎は気にしていないとなだめるが、小文吾は意外な事を打ち明ける。

実は、彦四郎が離縁されたきっかけとなった城内での喧嘩は、「種馬」としての用がすんだ彦四郎を追い出す為に、軍兵衛が仕組んだ猿芝居だったと言うのだ。

さすがに、それを聞いた彦四郎は頭に血が上り、止めようとした小文吾を投げ飛ばして気絶させてしまう。

そこに通りかかったのがあの貧乏神で、彦四郎の顔を見るなり、徒株を売っても、手に入る500両は借財のカタにしかならないと教える。

思わず、彦四郎は刀の鍔に手をかけるが、貧乏神は、ズタズタにされても自分ら神は死なないのだと言う。

その時、気がついた小文吾は、貧乏神を見るなり、人間ではないと見抜き、数珠を取り出して魔除けの呪文を唱え始める。

すると、さすがの貧乏神も苦しみ出し、500両のうち、かつかつ生きる程度には金を残してやるので、半貧乏と云う事で手を打たぬかと彦四郎に提案して来る。

しかし、そんな半端な申し出をうけるはずもなく、彦四郎は何とかしろと、苦悶する貧乏神に迫る。

すると、貧乏神は泣き出し、10年か100年に一度くらいしか用いない特別な方法を教えると言い出す。

彦四郎が小文吾に呪文を一旦止めさせ聞いてみると、それは、取り付いた相手が神を泣かせる程の場合にだけ用いられる「宿替え」と云う手法で、取り付いた相手の顔見知りに限り、災いを振る事が出来るのだと言う。

それを聞いた小文吾が、それだったら、大旦那の軍兵衛に振れば?と提案したので、彦四郎は貧乏神に、井上軍兵衛に「宿替え」するよう命ずる。

帰宅してみると、イトが「港屋の番頭が来て、手代が無礼なことを言ったと詫び、米一俵を置いて行った」と喜んでいるではないか。

一方、井上家では、不思議な事に家中にネズミが溢れ出し、そのネズミが倒した燭台の火が燃え広がり、あっという間に家は火に包まれてしまう。

もちろん、貧乏神の仕業であった。

金を持ち出せとわめく軍兵衛をはじめ、八重や一太郎まで焼き出されてしまう。

そこに駆けつけて来たのが、半鐘の音で目が覚めた彦四郎。

翌朝、権兵衛の妻の家に避難していた元妻八重に、イトが作った握り飯を持って見舞いに行く。

その後、切り株に腰を降ろしている貧乏神を見つけた彦四郎は、背後から近づきその首を絞め付けながら、「なぜ、八重や一太郎まで巻き込んだ!」と文句を言う。

すると、貧乏神は死んだまねをしたので、「神は死なぬと云ったではないか」と突っ込む彦四郎。

案の定、死んだ振りをしていただけだった貧乏神はすぐに目を開けると、お前のやる事は酷すぎると文句を言う彦四郎に、貧乏神の誇りを全うしたと答える。

さらに、自分に降りかかった不幸を他人に振るような方に蔑まれる覚えはないとも開き直るではないか。

雨が降って来たので、貧乏神は傘をさし、一旦帰りかけるが、すぐに戻って来て、後々の為にも行っておくが、三巡稲荷とは三度も巡って来る神の事で、宿替えの事はくれぐれも、次にお前様に近づく疫病神には内密にしてくれと頼む。

雨は豪雨になり、御徒組の左兵衛と彦四郎は、大川の決壊を防ぐため、土嚢積みの仕事にかり出される事になり、イトは家の中で仏壇を拝み、千代は雷に震えていた。

しかし、怠け癖の強い左兵衛は、すぐさま仕事から逃亡していた。

翌朝、世之介と一緒に握り飯を食っていた彦四郎は、世話役から左兵衛の所在を問われ、さっきまでいたはずだが…とごまかそうとするが、前々から左兵衛の怠けぶりは知られているらしく、組頭が兄の仕事には難儀が降りかかっており、早々に片をつけろと言われているのだと教えられる。

そんな事は知らない左兵衛は、家を出ようとした所で、泥だらけの徹夜作業から帰って来る仲間たちとすれ違い、いつものように調子の良い言い訳をしたので、呆れられていた。

その後、彦四郎と共に母屋に乗り込んできたイトは、世話役から聞いたが、紅葉山にある御影鎧の管理の仕事をちっとも左兵衛がやっていないので、いざと云うときに影武者が出来ない。このままではお役替えが必定だと説教する。

すると、それを聞いた左兵衛は、悪くない、お役替え、良いじゃないかと逆に喜びだしたので、イトは切れ、先祖代々、我が別所家は影武者の末裔として存続して来たのだと、いつもの説教をし始める。

すると、その説教に聞き飽きていた左兵衛は、途中から自分が説教の続きを復唱し始め、あげくの果てに、今後はこの彦四郎に影武者をやらせれば?と言い出す。

大川の縁で休んでいた町民たちには、松平伊賀守より差し入れの酒が届いていた。

それを甚平と二人で飲みながら、兄の代わりになった事情を話していた彦四郎は、急なめまいを覚える。

驚いた甚平が、彦四郎の額に手を当てるとすごい熱がある。

そこに近づいて来て、家まで自分が送って行ってやろうと申し出たのは、九頭竜爲右エ門(赤井英和)と名乗る関取だった。

しかし、相撲びいきの甚平が、すぐに九頭竜の事を怪しみ出す。

江戸にはそんな名前の関取はいないと九頭竜を遠ざけて耳打ちする。

九頭竜は、自分は大阪相撲の力士だと言うが、大川の水に映った九頭竜の顔はきつねに見えたので、甚平は自分の目に狂いがない事に確信を持つ。

九頭竜は、あの男は今後病が悪化し、手足の先から腐って死んで行くんやと言う。

それを聞いた甚平は、あの人は榎本の上にいる秀才なんだ。たっての願い聞いてくれ。左兵衛の方へ「宿替え」をやってくれないかと頼む。

九頭竜は、前任者の貧乏神がそんな秘技を披露していた事に驚くが、自分はそんな事は出来ないと拒絶する。

翌日、左兵衛は病気で身体が弱っている彦四郎を無理矢理連れ、城の中の「御影鎧の蔵」にやって来る。

蜘蛛の巣が張りまくっているその蔵の中で、彦四郎は兄の後任に任じられる。

左兵衛は、三日に一日、四つから九つ半の間だけ来れば良く、その気があれば、ホコリ払って、鎧を磨くも良かろうとアドバイスする。

今日を限りに、お前は別所家の主人だが、世之介が元服したら、潔く譲ってやってくれと虫の良い事を頼んでさっさと帰ってしまう。

その場に潜んでいた九頭竜に、彦四郎は、出世などいらないが、自分には別所家と我が子がいるのでしばらく猶予くれ、この病を少し楽にしてくれと頼む。

しかし、九頭竜はその場から黙って消えて行く。

その九頭竜は、左兵衛に招かれ、別所家の母屋の家督相続の祝いの席で四股を踏んでいた。

ところが、その中心となるべき彦四郎は、離れで寝込んでいた。

その横で見舞っていたのは、井上家から暇を出され、今は山伏になって改めて修行中だと云う小文吾だった。

小文吾は、九頭竜を退散させるため、魔除けの呪文を唱え出す。

九頭竜は、始め苦しがっていたように見えたが、くしゃみをしただけで、後は何事もないように鼻くそを丸めて飛ばす。

その飛んで来た鼻くそは、小文吾の身体に礫のように当り、小文吾は「今度の敵は手強い」と呟いたまま倒れてしまう。

ある日、「御影鎧の蔵」にいた彦四郎の元に、榎本武揚が軍艦奉行の勝海舟(江口洋介)を連れてやって来る。

勝は、彦四郎の顔を見ると驚いたようで、上様に対面したら納得すると彦四郎に告げた後、これから時代は天皇様の時代となり、武士の時代は終わる。

これららは我々も日本国民と云う事になるので、その一員として新しい時代を築いて行くのが、武士の本懐ではないかと説く。

その時、又しても九頭竜が出現したので、勝はその姿を観て大いに怪しむが、黙って帰る。

榎本も又、近いうちに大阪に向かうと彦四郎に告げ、帰って行く。

九頭竜は、あんな立派な人間と知り合いだったとはと彦四郎の事をちょっと見直したようで、取り憑くべき奴はぎょうさんおると思うと云い出す。

それを聞いた彦四郎は、又、軍兵衛に振るのではあるまいなと疑う。

心配して、八重の元へ向かった彦四郎だったが、剣の稽古をしていた一太郎は、彼の姿を見るなり立ち去ってしまう。

彦四郎は八重を抱きしめ、口づけを交すと、頑張るんだぞと励ますしかなかった。

そんな中、実家では、千代が、左兵衛が血を吐いたと離れに駆け込んで来る。

罰が当たったのですと言い放ったイトは、自分が母屋に移り、離れは彦四郎に譲ると言い出す。

さらに、家康公より、御影番と共に頂戴した宝刀、御紋康継をここへと言うイトに、左兵衛はこれだけは…と守ろうとする。

これからその宝刀を守る事になった彦四郎が、受け取った御紋康継を抜こうとすると、刃は錆び付いていた。

だから嫌だって言ったじゃないですか…とふて腐れた左兵衛だったが、彼の目には、部屋の隅でじっと自分を見つめている九頭竜の姿が見えるらしく、わしはもう終わりだ。あやつ、お迎えだ!と狂乱する。

そんな九頭竜を庭先に呼んだ彦四郎は、まさか、兄に宿替えしたのでは?と聞くが、九頭竜は、自分は種をまいただけであり、結果は人間次第であると言葉を濁す。

あいつは、わしが一番苦手な能天気の性分なので、ひょっとすると死なないかも知れないと教え、自分は大阪に帰ると言う。

そんな九頭竜を、餞別代わりにと夜鳴きそば屋に彦四郎は誘う。

甚平は、九頭竜に、彦四郎は親の代から世話になっている人物だから、次ぎに来る神には、俺に付かせろと九頭竜に迫るが、九頭竜が、次ぎに来る神は死神だと教えると、急に怯えて謝ると、そそくさとその場から逃げ去って行く。

彦四郎は、死神に命の身代わりするなぞせんと言い切ったので、九頭竜はごっつぁんですと云い、消え去って行く。

彦四郎は、自分が預る事になった宝刀、御紋康継を刀鍛冶(上田耕一)に鍛え直してもらいに行く。

すると、刀鍛冶は、この刀は康継ではなく偽物であり、これを代々本物だと受け継がれて来た言葉は形には叶わないと言い出す。

それでも、彦四郎は、言葉に込めた願いを形にしてもらえぬものかと頼む。

帰宅途中だった彦四郎は、足下に転がって来たマリを拾ってやり、少女に渡すが、その少女は、今知らないおじちゃんが家に来ているので帰れないと言い、腹を空かせているようだった。

それで、彦四郎はその少女を家に連れて来て夕食を振る舞う事にする。

その少女の名を尋ねると「おつや」(森迫永依)と言うではないか。

おつやは、最初は遠慮していたが、その内、何倍もご飯をお代わりする大食漢振りを見せて、千代を呆れさせる。

食後、腹の調子が悪かったので、棚の上の熊の胆(くまのい)を飲みましたとイトに報告した彦四郎だったが、それは、熊の胆ではなく「猫いらず」なので、すぐ吐き出すようにと云われる。

「油断大敵」と云うカルタをする近所の少女たちの声が聞こえたので、ふと、一緒に遊んでいるおつやの顔を見ると笑っており、その顔は一瞬、きつねに見えた。

翌日、茶店で小文吾に出会い、おつやの事を話した彦四郎は、真っ正面から戦ってみると決意を述べるが、次の瞬間、御簾の間から刀が差し込まれたので、身体をかわし、襲撃者の姿を確認すると、何と我が子、一太郎であった。

一太郎は、お前のおかげでお家断絶だと言うではないか。

小文吾に連れられ、慌てて駆けつけて来た八重が謝罪し、御徒番五十人番頭の職を解かれ、家は断絶してしまったと云う。

そんな自分たちの様子を遠くから眺めて笑っているおつやの姿を認めた彦四郎は、急いで追いかけ、町の真ん中で折檻しようとするが、子供を虐めているとしか見えない仲人たちが諌める。

それでも、おつやを追って神社の中までやって来た彦四郎は、転がっているマリを発見する。

一太郎に自分の命を襲わせるとは…と彦四郎が、激怒すると、木の陰から姿を表したおつやが、褒めてくれてありがとう。息子だからこそ、おじちゃん、殺されると思ったんだけど…と答える。

彦四郎はおつやに小刀を差し出し、わしを斬れと命ずる。

しかしおつやは、自分は死のお膳立てをするだけで、直接手を下せないのだと教える。

そんなおつやを連れ、甚平のそばを食べさせに行くが、甚平はおつやが死神だと知ると、又、スタコラ逃げ去ってしまう。

彦四郎は、犬死だけはしたくない。武士としての本懐を遂げたいので、しばし待てとおつやに頼む。

するとおつやは、上からもやいのやいのと云われているので、早くして欲しいと云いながら姿を消す。

慶應4年正月

薩長と戦う為、幕府は大阪に出陣する。

それを瓦版で知った彦四郎は、影武者である自分を江戸において行くとは…と嘆き、小文吾と共に、死に花を咲かせるため、大阪に経つ事を決めるが、そこに又おつやが現れ、行っても無駄だ。上様って最低だもの。海洋丸と云う軍艦でさっさと逃げちゃったと云うではないか。

戦っている家臣を置いて、上様だけが逃げるとはどうしても信用出来ない彦四郎と小文吾は、おつやから教わった上陸地へと向かい、上様と出会うチャンスを待ち受ける。

その甲斐あって、やがて、馬に乗った上様が通りかかったので、その前に土下座した彦四郎が、影武者としての自分の身分を明かすと、上様が許しを与えてくれたので、顔を上げ、初めて上様の顔を見る。

驚いた事に、慶喜は、彦四郎と瓜二つだった。

慶喜は、影武者を願い出た彦四郎に、最初はならば、しばらく代わりをやってくれと冗談を言うが、命あっての物種、命を粗末にするではないぞと言いおき、その場から去って行く。

彦四郎は絶叫していた。

行きの中、帰宅すると、そこにおつやが待っていた。

慶喜はどうだったと聞くので、腹空いているだろう?と返事をはぐらかせた彦四郎は、おつやの為に粥を焚いてやる。

さらに、布団も敷いてやろうかと云うので、おつやは、おじちゃん、どうして優しくしてくれるの?と聞いて来る。

彦四郎は、自分が何をなすべきか、生きる意味を考えるようになっていたが、上様に会って悟った。人間には神に出来ぬ事があると言う。

それを聞いたおつやが、不思議そうに、私たちから見れば、人間なんて虫けらみたいなものだよと云うので、彦四郎は、一つだけ神に出来ぬ事がある。それは、志の為に死ぬ事だ。死ぬ事がある為に、人間は何事をも成し遂げられるのだ。死ぬ事で輝く事もあるのだと教える。

それを聞いたおつやは、そうなったらすごいねと感心する。

彦四郎は、しばしの時をくれと頼む。

2月、慶喜は上の寛永寺にこもった。

小文吾が甚平のそば屋で彦四郎と会っていると、そこにおつやがやって来て、この前の話を聞いていたら、おじちゃんの方が素敵で、私の方が惨めに思えちゃった。だから、慶喜に「宿替え」をする事にしたと言い出す。

彦四郎は慌てて、上様はわしの知り合いではないと反論するが、この前会ったじゃない。慶喜は水戸に逃げちゃうつもりなんだよとおつやは言う。

寛永寺に小文吾を連れて来て、魔除けの呪文を唱えさせてみた彦四郎だったが、小文吾はすぐに苦しみ出す。

おつやの力は、これまでの神の中でずば抜けた強さらしかった。

寺の中には、おつやが歌う手鞠歌が響いていた。

仕方ないので、寺の中に忍び入った彦四郎は、来ないで!と止めるおつやの発言を無視して、「出会え!出会え!上様の一大事でござる!」と大声を上げ、おつやの邪魔をする。

せっかく上手くいきかけていたのに…と、おつやは悔しがり、おじちゃんの所へ戻って来るよと云う。

彦四郎は頼む、お前を迷わせたのはわしのせいじゃ。又、泣かせてしまったか。わしに「宿替え」をしてくれと頼むが、「宿替え」は一回しか出来ないとおつやは答え、本当言うと、おじちゃんの事、好きになったのかもと言う。

おつやの言葉通り、慶喜は水戸に引きこもり、上の寛永寺には、武士たちが集結した。

左兵衛一家は、戦に巻き込まれては叶わないと、田舎に引きこもる事になり、そこに、刀鍛冶が研ぎ直した刀を持って訪ねて来る。

離れでその刀を見つめた彦四郎は、俺もお前も同じ偽物同士か…と呟く。

そこに一太郎がやって来て、世之介はいないかと聞いて来る。

訳を聞くと、道場で、寛永寺に一緒にこもると約束したのだと言う。

そこへ、両親を送り届けて来たと云いながら、世之介が戻って来たので、彦四郎は二人に「落ち着け!お前たちを上野の山などに行かせぬ。上様の引退により、侍の世は終わったのだ。新しい世の中を作るのはそなたたちしかおらぬ。一刻の興奮に駆られ、命を粗末にしてはならぬ」と説得し始める。

その言い分を納得した一太郎を八重に託しに行った彦四郎は、後を頼む。行く場所を見つけた。次に会うのが楽しみじゃと言いおき、抱きしめて別れを告げた彦四郎は、その後、まだ寝ていたイトに、外から秘かに挨拶をした後、家を後にする。

外で待ち受けていたおつやが、やっぱり行くの?と問いかけて来る。

彦四郎は、御奉公ではないと答える。

すると、おつやは、神様稼業嫌になった。「相対死に」(心中)って事なら出来る。笑われたって良いじゃない。あたいも大好き!もうどうしようもないのさと言い出すと、「契ったよ。もう別れない!」と言いながら、彦四郎の心臓部分に合体する。

彦四郎は「そうか!天下の笑われものになってみようぜ!」と、自らの胸に語りかけると、城に向かい、影武者鎧を着込む。

外では、新門辰五郎の馬印を持って待ち受けていた。

馬にまたがった彦四郎の元に近づいて来た勝海舟は、「軍事総帥として、後始末だけは引き受けた。水戸へ蟄居しているのが影武者だ」と語りかけ、手みやげとして持って来た小銭の入った袋を彦四郎に手渡すと、「新公方様、出陣でござるぞ!」と声を上げる。

甚平が橋の上で水を捨てていると、馬に乗った彦四郎が通りかかり、これまでの代金だと、小銭袋を手渡し、「自分はただの江戸っ子だい」と言いおいて去って行く。

それを甚平らが、「え~い よいとこらせ…」と歌って見送る。

上野では、官軍らと寛永寺にこもった侍たちとの壮絶な戦いが繰り広げられていた。

城の上で待ち受けていた彦四郎と小文吾は、官軍が放った大砲で一瞬にして砕け散った。

おつやの声だけが響く。

「おじちゃん?おじちゃん?返事して!あたいを置いて死んじゃったの?」

小文吾の手から離れた馬印が舞い上がり、やがて炎に包まれ燃え上がる。

時代は現代

旅客機が飛び立つ地域に立っているには、原作者の浅田次郎氏。

浅田氏は、稲荷の祠を見つけ、怖そうに後ずさる。

すると、おつやの声が聞こえる。

「ねえ聞いて!おじちゃんはすごく輝いていたよ」

それを聞いた浅田氏は、にっこり微笑むのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

時代劇ファンタジーとでも言うべき作品だが、笑う要素も泣く要素も、感動する様子も少ない一種独特と云うか、微妙な内容になっている。

決して出来が悪いと云う感じでもないが、一体、どう言う客層を想定して作ったのか首を傾げたくなる部分がある。

テーマは、黒澤の「生きる」などに近く、「死を前にした人間が初めて真剣に自分の生きる意味を考え、それを実行する事で輝く事が出来る」と云う事だろうが、それにしては、あまりに全体的に現実感がなさ過ぎるのが気になる。

もちろん、ファンタジーと云う新しい切り口で、語り口で…と云う事だろうが、今ひとつ、胸に迫るものがないのだ。

幕末と云う時代背景に影武者と云う組み合わせも、新奇に感じると云うよりは、時代錯誤めいて映る。

テレビの実写版「ちびまる子ちゃん」で脚光を浴びた森迫永依ちゃんの起用も、今ひとつ微妙。

かなり背が伸びており、死神とのギャップとなるべき愛くるしさを表現するには、ちょっと無理を感じないでもない。

エンドロールの、アニメで動くスタッフタイトルなど、工夫を感じ面白い部分もあるのだが、肝心のドラマ自体が散漫な印象で、今ひとつぐいぐい惹き込む力に欠けているように感じる。

三人の神の登場がストーリーを盛り上げていると云うより、三つのエピソードを繋げたオムニバス風に感じてしまうのだ。

こうした構成が、全体の印象を弱めてしまった要因かも知れない。

 


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