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東京五人男

1945年、東宝、山下与志一脚本、斎藤寅次郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

富士山の下を走り抜ける機関車。

満員の車内に大きな荷物を持ち込んでいた横山辰五郎(横山エンタツ)、藤木阿茶古(花菱アチャコ)は、他の客から闇物資を買い溜めしやがってと文句を言われるが、これは軍需工場から運ぶものだと反論する。

近くの座席で眠りこけているのは古川六郎(古川緑波)、北村権太(柳家権太楼)、そして石田松男(石田一松)が、ヴァイオリンを弾きながら「ノンキ節」を歌い始める。

東京

焼け野が原の大きな窪地の中にぽつんと建つトタン屋根の貧乏長屋では、今しも、いつまでも帰って来ない五人男たちの葬式が行われていた。

そこに帰って来たのが五人男たち。

「忌中」の札が貼ってあるので、誰か死んだのか?などと不思議がりながら、辰五郎は女房のお末(田中筆子)の名を呼ぶ。

読経の途中でその声に気づいた阿茶古の女房(戸田春子)から誰か呼んでいると云われたお末は、半信半疑ながら表に出てみると、そこに死んだはずの亭主が立っていたので、てっきり幽霊だと思い腰を抜かしてしまう。

後から出て来た辰五郎の女房と、石田の女房初江(飯田ふき江)は、夫が帰って来た事を知り抱きつく。

そんな様子を見ていた独身の権太と妻に先立たれた六郎は、つまらなそうに自分の家に帰る。

無事家に戻り落ち着いた阿茶古は、まだお布施をもらってないので立ち去りがたくしていた坊主に、金を渡して早く帰らせろとお末に文句を言う。

阿茶古の隣に住んでいる辰五郎は、女房から持って帰った麻袋は何かと聞かれ、墨や石鹸だと答えていた。

喜んだ女房だったが、しかしこれは社長のもので、自分のものは一つもないと聞くと、怒って亭主を外に放り出す。

隣の阿茶古も、同じように女房から放り出されていた。

阿茶古たちは、軍需工場の社長(鳥羽陽之助)の家に、運んで来た荷物を届けるが、謝礼は何もなかった。

六郎は、子供の為に何かもらえないかと頼んでみるが、それではと、飛鳥時代のものだから、誰にも言いなよと口止めされたあげく、社長から割れた壺を一つだけもらう。

がっかりしながら帰りかけた六郎は、女中のお竹が、犬に大量のえさを与えているのをうらやましげに見つめながら社長宅を後にする。

帰りすがら、壊れた壺を捨てようと、知らない家の門の前に置いておこうとする六郎だったが、すぐさま家の主人に見とがめられ、仕方なく持ち帰るしかなかった。

窪地の縁に座り、自分たちのみすぼらしい家を眺めていた五人は、戦後、人間の心もむちゃくちゃになったと嘆き、この状況を変える為に、みんなで手を合わせようと決意し合うが、一人、家を建てようと思うと抱負を述べた六郎は、思わず持っていた壺から手を離してしまったため、窪地の坂に転がせてしまう。

阿茶古は、路面電車の運転手、辰五郎は、その電車の車掌の仕事に復帰するが、毎日、電車は人が外にぶら下がる程の超満員だった。

乗客から、もっと電車を増やせと文句を言われた辰五郎は、もうすぐ作る計画はあるとだけ答える。

そんな電車の座席で居眠りをしていた一人の乗客は、半蔵門に着いたと起こされた途端、今まで履いていた靴を盗まれているのに気づき、仕方なく、靴下のまま降りる事になる。

ある停留所に着いた時、降りて、切符を買い忘れていた客から料金を受け取っていた辰五郎は、いつの間にか走り始めた電車を追いかけて走るはめになる。

桜丘総合配給所に勤める事になった松男は、少ない配給を待ちわびて列を作っている女たちの為に、早く配ろうと所長(石田守英)に声をかけるが、規則第一とうるさい所長は、朝の9時きっかりになるまで配ってはならないと云う。

その日配給の大根を、目方を量りながら配給を始めた松男だったが、所長は、泥を落とすなと云う。泥の重さまで目方に入れているらしいケチ振り。

並んだ女たちから、奥に積まれた芋はいつになったら配ってくれるのか、もう腐りかけているではないかと文句を言われた松男が、その事を所長に伝えると、まだ区役所の方から司令がいていないからとにべもない返事をされる。

そこへ、お末がやって来て、蚊が出る季節にこたつを配給したり、いつもとんちんかんな配給をするのはどう言う事だと文句を言いに来る。

松男がそれに対応していた時、帰りかけていた一人の主婦が旧二三えづいて倒れたと言うので、急いでリヤカーを呼んで、病院まで運ばせる。

一方、所長は、耳の遠い老婆(藤間房子)が、腹を空かせている孫の為にミルクをもらいたいと相談を受け、だったら、たくさんの書類に判子をもらって来てくれといら立たしそうに説明していた。

そこへ戻って来た松男は、どうせ配給品が堪っているんだから、個別に配給したらどうかと提案するが、所長は規則があるからとの理由で頑として許可しない。

業を煮やした松男は、そこにいた老婆に勝手にミルクを手渡すと、手続きは今日中に全部自分がとって来ると所長に言い残し出かけて行く。

又、「ノンキ節」を歌いながら、チャリで、区役所に出かけた松男だったが、係は「会議中」との断り書きを置いたまま無人の状態。

次に行った場所でも「食事中」と貼り紙がしてあり、又待たされる。

あげくの果てに、乗って来ていたチャリは、片足をなくしたように見せかけ、松葉杖で近づいて来た男に盗まれてしまう。

その頃、一人、贅沢な弁当を一人で食べていた配給所の所長は、坊屋が熱を出したと慌ててやって来た妻(森川君子)に、保管してある氷を勝手に切って持ち帰らせようとしていたが、そこに松男が帰って来たので、一応、手続きをしなくては…とごまかし始める。

しかし、それを聞いた妻は、規則はあなたが作ったんじゃないですか!と逆上する。

一方、食料を手に入れる為に、とある農家にやって来た六郎は、その家の子供が、百円札で紙飛行機を作って遊んでいる姿を観て仰天する。

見ると、その家の子供たちは皆贅沢な暮らしをしていた。

畑で大根を抜いてその出来を調べていたその農家の主人(高勢実乗)は、一本十円として、5000本でたった五万円かと算盤勘定をしていた。

そんな主人に、疎開している子供の為に、何か食べ物を恵んでくれないかと頼み込む六郎。

しかし、交換の品物として持って来た妻の形見の着物は、こんな綿繊じゃ寝間着にもならないと娘にバカにされてしまう。

主人は、別の娘が持って来た砂糖入りのブラジルコーヒーを「甘すぎる」と、一口飲んだだけで捨ててしまい、ちょっと傷んだだけの果物も、捨てろと子供たちに命ずる有様。

六郎がはめていた腕時計を差し出すと、主人は、左腕につけた数個の豪華な腕時計を見せただけではなく、箱に入れた大量の高級時計を見せて来る。

それではと、着ていた背広を渡そうとする六郎に、主人は、畑のかかしが来ているモーニングを指差してみせる。

六郎がタバコを差し出そうとすると、主人は高級葉巻を取り出したので、六郎がマッチを擦って火をつけようとすると、さっさと高級ライターで主人は自分で火をつけてしまう。

その時、又別の娘が主人に近づいて来て、今あるピアノでは物足りないので、蓋がついたグランドピアノが欲しいとねだる。

それを聞いた主人は六郎に向かい、今度来る時、グランドピアノでも持って来たら何でも売ってやると無茶な事を言い出す。

がっかりした六郎は、その足で芋でも分けてもらおうと別の農家を訪ねてみるが、そこの主人(高堂国典)はたいそう親切で、学童疎開の子供の為と聞くと、大量の食料を持たせてくれる。

さすがに、リュックサック一杯の芋と二俵の米俵、さらに大根など野菜までそこの家の女房が持たせてくれたので、感謝しながらも六郎は、荷物の重さで歩けなくなってしまうのだった。

権太が働き始めたのは、地元にある「桜丘国民酒場」

しかし、ここの店主弁造(永井柳筰)も悪党で、表で並んでいる客の数を無視して、常連の社長と配給所の所長に配給券をごっそり手渡す。

その見返りとして、弁造は二人から色々物資を横流ししてもらっていたのだ。

そんな社長、これまでのツケを払おうと、ポケットを捜すが財布がない。さてはすられたかと憮然としている所にやって来た素性の悪い男が、ツケを払うと財布を取り出したのを観ると、それがすられた社長の財布。

怒った社長は、その男に仲間のものをするなと注意する。

そこに集まった面々は、立場を利用して甘い汁を吸っていた悪党仲間同士だったのだ。

そんな悪党たちは、社長が持っている土地に、キャバレーを建てて儲けようと云う計画を相談し始める。

しかし、その場所には、汚い合舎が建っていると弁造が言うと、社長は追っ払えば良いと言い出す。

権太が、外で待たされている客たちに、人数制限の断りをしていると、その横を、泥酔した社長と配給所所長が上機嫌で帰って行く。

翌朝、社長命令で合舎にやって来た愚連隊たちは、寝ていた辰五郎や阿茶古の布団をはぐと、どんどん家財道具を外に出そうとし始める。

辰五郎が、出て行けと云われても自分たちには行き場がないと訴えると、上野へでも行けと云われてしまう。

そんな所に帰って来たのが、二人の女房たち。

家の前の空き地に大きな「キャバレー天国建設予定地 女給募集」と書いてるのを見ると、女給にでもなろうかしらなんてはしゃいでいた女房たちだったが、家の表に立たされている亭主たちの姿と、家の中で勝手に酒を飲んでいた愚連隊に気づくと、急に顔を引き締め、無言でたすきを締め出す。

そんな女房に、黙って箒を渡す辰五郎。

それを手にしたお末は、いきなり愚連隊たちを箒で叩き始め、表に追い出してしまう。

そんな勇ましい女房の後ろから、おっかなびっくり罵倒を浴びせる辰五郎たち。

ある日、いつものように路面電車を運転していた阿茶古は、呼び鈴が「チンチン鳴ったので、返事の紐を引く。

すると、後ろにいた車掌の辰五郎も、それに答えて返事の紐を引いて、呼び鈴を鳴らす。

実は、満員で掴まる所がなかった客の一人が、電車が揺れるたびに、頭の上を通っていた呼び鈴用の紐を掴んでしまっていたのだが、それに気づかない阿茶古は、途中で電車を止めると、何事かと降りて来た辰五郎に向かって、何の用で呼び鈴を鳴らしているのか、運転する気が散ると文句を言う。

言われた辰五郎の方も、意味が分からないので適当に返事をし、又電車は発車する。

しかし、同じ事が繰り返され、怒った阿茶古が紐を引っ張ろうとすると、途中で切れている事に気づき、又電車を止めて外に出る。

又しても、事情が分からぬ辰五郎も降りて来て、電車の中央付近で口喧嘩が始まるが、それを見かねた女車掌が注意したので、何とかその場は収まる。

桜丘配給所では、芋の配給を呼びかけていた。

その声を聞いて女性たちが長蛇の列を作る。

その横で、持って来た芋の入った袋の紐を解きながら、松男は又しても「ノンキ節」を歌い始める。

やがて、列の女性たちも、歌いながら、配給の芋をもらい始める。

桜丘国民酒場では、飲みに入った六郎が、隣の客が、子供用の下駄を履いているんだと愚痴っているのを聞き、それを譲ってくれないかと持ちかけ、自分が飲みかけていたお銚子と交換してもらえたので喜んでいた。

桜丘の駅前に来た六郎は、線路を覗き込んでいる多数の人だかりに気付き、何事かと聞くと、疎開していた学童が帰って来るのだと云う。

その直後、到着して来た電車から大勢の子供たちが降り、その中に、長い間離ればなれになっていた一人息子の一郎(小高つとむ)を見つけた六郎は、喜んで呼びかけるが、引率していた教師から、挨拶がすむまでダメだと注意される。

しかし、駅前で始まったその教師の挨拶はやたらに長く、聞いていた子供たちも飽きてあくびをし始めるし、六郎もうたた寝をしてしまう始末。

やがて、誰もいなくなった駅前広場で、父親を捜していた一郎は、すっかり眠りこけていた六郎を起こし、抱き合って再会を喜び合うのだった

その夜、合舎の前にある露天風呂に親子で入った六郎は「お殿様でも家来でも、お風呂入るときは、皆はだか〜♪」と、楽しげに歌っていた。

それを、トタン屋根の一部を開け聞いていた辰五郎と阿茶古は、すぐに、外に飛び出すと、自分も風呂に入れてもらえまいかと頼む。

阿茶古の頼みを六郎が快諾すると、後から出て来た辰五郎が、五円出すから、こいつより先に自分を風呂に入れてくれ、こいつは汚いからと言うので、それを聞いていた阿茶古は怒り出す。

結局、二人一緒に露天風呂に入る事になり、互いに違う唄を歌おうとして、互いに影響され、歌が途中で変わってしまうと云うとんちんかんな事になってしまう。

その頃、こちらも銭湯帰りの松男は、配給所から物資を持ち出し、それを荷車に乗せて運び出す怪し気な三人組の姿を目撃していた。

六郎は、煎餅布団で寒がる一郎の為、一升瓶にお湯を入れ、それを湯たんぽ代わりに渡してやるが、手作りの家はすきま風だらけなので、取り急ぎ、板で塞いで応急処理をしてやる。

それでも、布団の中の一郎が寒がるので、湯気を立ててやろうと、紙を丸めてランプの近くに穴にいれ、火をつけようとすると、その陽が上にあったカーテンに引火してしまう。

慌てた二人が家を飛び出し、六郎は表にあったバケツで水をかけ、難を逃れるが、気がつくと、辰五郎と阿茶古は、底が抜けた風呂の木枠だけを電車ごっこの子供のように持って彷徨っていた。

翌日の日曜日、六郎は風邪をこじらせた一郎を診てもらおうと、近所の「森田医院」に駆け込むが、窓から顔をのぞかせた看護婦は、休日に風邪を引かれても困ると横柄な態度。

困った六郎は「古川大将の坊ちゃんが大変なんです」と言い出し、それを聞いた看護婦と、その直後に窓から顔を出した医者も慌てて玄関に出て来る。

しかし人力車に引手がどこかに行ってしまっていると医者が言うので、仕方なく六郎自らが人力車を引く事になる。

医者が連れて来られたのは、六郎のあばら屋だった。

医者は、古川大将の家なんて嘘じゃないか!これは詐欺だ!帰ると言い出したので、六郎は、実は自分は常日頃、古川大将と呼ばれているのだと説明する。

にわかに信じかねていた医者だったが、たまたま二人の側を通りかかった近所の男が、六郎の事を「古川大将!」と呼びかけたので、医者は仕方なく、あばら屋の中に入る事にする。

しかし、あまりに酷い家の中を見た医者は、こんな所に住んでいては、健康なものでも病気になると呆れる。

患者の家が貧乏だと知った医者は、今は薬がないのだと言い訳を始めるが、側に置いてあった一升瓶を見つけると、「魚心あれば水心…、その酒で薬を何とかしてやる」と言い、一郎の脈を診ながら、勝手に一升瓶を手にする。

しかし、それを見ていた六郎は「それは湯たんぽです」と教えるしかなかった。

ある日、新聞に「貸家一万戸作る」と政府の方針がでかでかと載り、「簡易住宅建設株式会社」には大勢の募集者が詰めかける。

しかし、建築資材はあっても大工がいないとダメだったり、建設資材はあっても土地がなければダメだったりと、担当者は皆断っている。

ようやく自分の番になった六郎が、新聞に家を作ると書いていたではないかと文句を言うと、あれはあくまでも計画で、今まで計画通りに事が進んだ事が一度でもあるか?と、担当者は逆切れをしてしまう始末。

その側のポスターには「2400円で家が建つ」などと夢のような文句が書かれてあった。

その日休業だった桜丘国民酒場では、店主の弁造が、燃料用アルコールを水で薄めてとっくりに移しているのを見ていた権太が、そんなもの飲ませたら、首が曲がってしまいますよと注意するが、弁造は笑いながら、これと水を1対1の割合で混ぜると、22年もののウィスキーそっくりの味になるんだと自慢する。

その酒は、いつものように店を独占していた社長と所長の二人に振る舞われていた。

弁造は、そんな二人に、「キャバレー天国」のポスターが出来たと見せる。

そんな中、裏口から入って来た男が、厨房に一人残っていた権太に、帳簿を見せてくれ、調べたい事があると云って来る。

権太が素直に帳簿を見せていると、客席からそれに気づいた弁造があわてて社長と所長を物置に隠れるように言い、自分はテーブルの上に置いてあった偽酒を隠して厨房に戻る。

帳簿を調べていた役人風の男は、酒を闇で横流ししているものがいるとの投書があったので調べに来たと云う。

それを聞いた弁造は、自分はそんな事はしていないと云いながら、男を客席に連れて行くと、偽酒を振る舞い出す。

客席の横の物置に閉じ込められていた社長と所長は、酒がなくなって来たので場が持たなくなっていたが、目の前の木箱に入った燃料用アルコールに気づくと、すぐにそれを飲み始める。

振る舞い酒に喜んでいた役人風の男は、隣から聞こえて来たしゃっくりを不審がるが、弁造はあわてて、あれはネズミだとごまかす。

しかし、そのしゃっくりは、弁造と役人の口からも出て来る。

やがて、すっかり酩酊した社長と所長が「怒るのも、怒るのも、あったり前でしょう〜♪」と歌いながら物置から出て来るが、その首はしっかり曲がっていた。

それを見て驚いた役人と弁造の首も曲がっていたので、権太は、やっぱりあんなものを飲んだらいけなかったんだ。早く医者に行った方が良いと勧める。

その頃、阿茶古と辰五郎は、互いに妻と二人で夕食のお膳を囲んでいたが、辰五郎が大きな声で「卿は刺身か、豚カツもうまいな」などと嘘を言い出す。

それを隣で聞いていた阿茶古も、嘘をつき始め、互いに隣の反応が気になるので、トタン屋根の一部を開けて覗き合うが目が合ってしまう。

下に降りた二人は、薄い板壁に耳をそばだてて隣の音を聞こうとするが、気がつくと、壁がどんでん返しになっており、気づかずとなりの部屋に入り込んだ二人は、そのままお膳の前に座り、目の前の女房が違っていたので慌てて元の部屋に戻る。

それでも、見栄の張り合いが収まらない二人は、辰五郎がレコードをかけて踊り出すと、阿茶古の方は女房に三味線を弾かせ、それに合わせて歌い始めるのだった。

その夜、合舎の周辺に大雨が降り出す。

大量の水が窪地に流れ込み、六郎のあばら屋は、その水に流され始める。

社長宅からもらって来たあの割れた壺が、寝ていた一郎の頭に当り、それで目覚めた一郎は、家の様子がおかしいと、隣で寝ていた六郎をゆり越す。

あばら屋は、大量の水に押し流され、さらに斜面を落ち始める。

六郎が窓を開けてみると大量の水が流れ込んで来たので、慌てた一郎は、家の一部の木材をはぎ取って一郎に渡すと「漕ぐんだ!」と命ずる。

二人の父子は、必死に家の窓から出した木材をオール代わりにして、大量の水に流されていた家の方向を保とうとする。

その頃、国民酒場にいた社長は、所長から、そろそろ米や砂糖を処分しないと…と持ちかけられ、心配しないでも、物資は全て防空壕の中に隠しているからと太鼓判を押していた。

しかしそこに、女中のお竹が、防空壕が浸水したと駆け込んで来る。

寝ていた辰五郎も、雨漏りで、布団を移動しているうち、部屋中、鍋やたらいだらけになっていた。

仕方がないので、屋根を修理しようと登ると、そこでは、隣の阿茶古も同じように屋根の修理の為登って来ていた。

しかし、強風のため、トタン屋根の片側がそっくりまくれ上がり、それを元に戻そうとしていた二人は、逆に挟まれてしまい身動きが取れなくなる。

そこに通りかかったのが松男で、屋根の上の二人に気づくと、急いで梯子を上がって来て、二人を救助してくれる。

何とか屋根を応急処置し、下に降りて来た辰五郎だったが、自分の部屋の方は水が胸まで入ってしまったので、今夜はここに泊めてくれと阿茶古に頼む。

ところが、その内、今度は合舎全体が傾き始めたので、松男と阿茶古、辰五郎の三人は、表から家を支えようとする。

そこにやって来たのが権太で、社長たちが今、防空壕に入れていた隠匿物資を運び出していると三人に教える。

権太が一人で合舎につっかい棒をして傾きを防いでいる間、三人は、そのまま社長の家の防空壕へ出かける。

防空壕では、社長と所長、弁造、そして愚連隊の二人が、必死に隠匿物資を屋敷に運び入れている最中だった。

そこに大八車を引いてやって来た三人は、そのまま手伝いと間違われ、物資の運び出しを頼まれる。

三人は、大量の軍用物資や、配給所や酒場の品物が、防空壕へ運び込まれていた事実を知ると憤慨するが、そんな三人が合流したと共に自分たちの大八車に荷物を積んでいるのに気づいた社長は、屋敷に運べと叱りつける。

愚連隊たちと砂糖袋を奪い合っていた辰五郎や阿茶古は、袋が破れてこぼれ出した大量の砂糖を嬉しそうに嘗め始める。

業を煮やした辰五郎は、落ちていた木材を拾い上げると、防空壕の上に陣取り、出て来る男たちの頭を殴りつけ、それを松男が防空壕の中に戻して行く。

うっかり、仲間の阿茶古や松男の頭も殴ってしまった辰五郎だったが、社長たちを全員防空壕に閉じ込め終えると、品物を全部屋敷に運び込む。

すると、どこからか電話が鳴っているので、受話器を取った辰五郎の耳に聞こえて来たのは、防空壕から電話をかけて来た社長の声だった。

社長は、胸まで水に浸かった防空壕から助けてくれと命乞いして来るが、辰五郎は許さないと云う。

続いて電話を替わった所長の相手をしたのは松男で、隠匿していた物資を全部配給所に返せと要求する。

さらに電話を替わった弁造の相手をしたのは権太で、今後は一切メチルアルコールなんて売るなと釘を刺す。

電話を替わった社長に、こちらも替わった辰五郎が、立ち退きなど止めろと云う。

その時、気絶から目が覚めた阿茶古が受話器を受け取り、社長に暴力団どついたれ!と泣きそうになりながら訴えたので、仕方なく、水の中、近くにいた二人の子分を殴りつけた社長だったが、逆に、二人にぼこぼこにされてしまう。

嵐が過ぎたある日、六郎と一郎は、小さなあばら屋を荷車に積んで、元の場所に戻って来ていた。

「桜丘総合配給所」の看板は「桜丘生活協同組合」に取り替えられていた。

その前では、松男や辰五郎、阿茶古、権太たちが、近所の主婦たちに、レインコート、靴、手袋、毛布、一級酒、砂糖などを無料で配布していた。

そして、群衆を前に、壇に登った松男が挨拶をする。

今後は、政府に頼らないで、自分たちに必要なものを自分たちのてで何とか手に出来るよう実行したい。まずは食料を量産したいと云うのだ。

しかし、聞いていた群衆から「土地はどうする?」などと云った野次が飛ぶ。

すぐに壇を降りた松男は、側にいた四人と肩を組んで相談すると、群衆の中に混じっていた社長を呼び、一緒に壇上に上がると、土地は社長が無償で提供してくれると発表する。

社長はビックリするが、覚悟を決めたのか、三万町の自宅も提供すると宣言する。

それを聞いた松男は、土地は確保出来た。我々は直ちに実行しようと群衆に呼びかける。

やがて、町民たちは全員、「三合提供絶対確保」などと書かれた横断幕や鍬を持って、歌いながら町を練り歩くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

往年の人気喜劇陣主演の風刺コメディ。

戦後、すっかり荒廃した町と人の心を立て直そうとする、意気盛んな五人組が主人公だが、正義漢っぽく描かれているのは、石田松男を演じている石田一松だけで、後の四人は、むしろ、何も考えていないボケ役と云った方が正しい。

石田が歌う「ノンキ節」が、当時の世相を皮肉る内容なので、それと映画のキャラクターを合わせたのかも知れない。

配給の芋に長い列を作る女性たちを皮肉り、「女性参政権の投票にもこれだけ並ぶと良いがね」などと歌うシーンは痛快。

六郎を演じている古川緑波にいたっては、妻に先立たれ、一人息子とつましく生きようとする良き父親と云った描かれ方で、少し、他の四人とは距離を置いているような感じがする。

権太を演じている柳家権太楼の登場場面も意外に少なく、この辺は、当時の芸人さんたちのスケジュールの関係でそうなったのかも知れない。

権太が後半の電話のシーンで、ちょっと長目のセリフを言うアップシーンなどは、明らかにカンペを読んでいるような気配までする。

メインは、エンタツ、アチャココンビの意地の張り合い。

二人が乗っている「日比谷行き」路面電車の姿も珍しい。

辰五郎と云う男の車掌の他に、車両中央部のドアの所には、別の女性の車掌も乗っていた事が分かる。

窪地に建つ合舎に大雨が降って、六郎の家が押し流される所などは、円谷英二の手によるミニチュア特撮である。

何もない桜丘のロケ地は、当時の砧周辺か?

戦後間もない時期の作品だけに、やや説教臭いまじめな内容になっているが、当時の民衆の心を潤す為には必要な作品だったのかも知れない。