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「可否道」より なんじゃもんじゃ

1963年、獅子文六「可否道」原作、松竹大船、白坂依志夫脚本、井上和男監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

とある家庭の夕べ、主人(須賀不二男)はテレビで巨人戦を観ている。

その後ろで、妻がゴキブリを追いかけていた。

そんな夫婦は、今年18になる息子陽介の帰りが遅いので心配していた。

今日はデートだと妻が言う。

そこに、伊東明子と名乗る恋人を連れた陽介が帰宅して来る。

自室に向かう二人の後ろ姿を心配そうに見つめる妻。

それは、フジテレビのテレビドラマ「表通り裏通り」の第101回の収録だった。

収録を終え、妻役をディレクターに褒められた女優坂井モエ子(森光子)は、スタジオを出た所で、マネージャーの飯島(長門裕之)から次のアフレコの仕事に向かうよう告げられるが、劇団「新汐」の芝居も観たいんだけどと迷う。

次の仕事は洋画のアフレコだった。

その頃、劇団「新汐」の舞台では、ベテラン女優三人(草笛光子ら)が稽古をしていたが、それを舞台裏から覗いていた若き劇団員丹野アンナ(加賀まりこ)は、あれじゃあ三人姉妹じゃなくて、三人婆よと悪口を言っていた。

演出家の塔之本勉 (川津祐介)も、この劇団も、創立から30年も経って動脈硬化を起こしていると舞台裏で批判する。

その夜、塔之本勉 の自宅マンションに集まった若き劇団員の一人、深井(穂積隆信)は、塔之本の贅沢な暮らしをプチブルジョアと罵倒し、君も生活革命を起こさないうちは新しい芝居など作れないと言い放つと、仲間を引き連れさっさと帰ってしまう。

そんな彼らは、エレベーターの前で、帰って来た坂井モエ子と出会うが、もっとゆっくりさすっていったら?と誘うモエ子を無視して、エレベーターに乗り込んでしまう。

部屋に入ったモエ子は、9つも年下ながら内縁の夫である塔之本勉、通称ベンちゃんが不機嫌そうにしているのを見て気にする。

全員帰ってしまったかと思っていたが、一人だけソファの下で熟睡している青年和田がいた。

塔之本は不機嫌の理由を何も説明しなかったので、モエ子は夕食の準備をすると言い、まずは得意のコーヒーを入れ始める。

コーヒーミルを回しながら、塔之本が読んでいる本の題名を聞くと、今度彼が舞台装置を手がける「河馬」と云う本だと言う。

コーヒーを運んで来たモエ子は、かつて14年もいた新劇を辞め、テレビ女優に転進していたが、その代償のように、塔之本の新劇への情熱に惚れて同棲を始めたのだった。

塔之本は、モエ子の入れたコーヒーを一口すするなり「美味い!」と声を上げる。

塔之本の方は、何よりも、モエ子の入れるコーヒーの巧さに参っていたのだ。

モエ子は、夫婦の家庭に無遠慮に寝ている和田を叩き起こして帰そうとする。

菅会長(加東大介) 、中村教授(松村達雄)、大久保画伯(宇佐美淳也) 、春遊亭珍馬(柳家小さん)の四人は、「茶道」ならぬ「コーヒー道」を世間に広めようとする「日本可否会」のメンバーだった。

その日集まった四人は、「利き酒」ならぬ「利きコーヒー」に興じていた。

大久保が、他の三人に同じコーヒーを配り、その味から、使用した豆の原産地を当てると云う趣向だったが、さすがに管がずば抜けており、6回全部正解する。

そこに、「日本可否会」メンバーの紅一点、坂井モエ子から電話が入り、「日本可否会」にテレビの「春夏秋冬」と云う番組に出演してみないかと云う誘いだった。

数時間後、当のモエ子が「可否会」に到着したので、菅代表はテレビ出演を良い世間への宣伝になると快諾し、中村は、いますぐに、モエ子に入れたドリップを飲みたいとせかす。

モエ子のコーヒーは、「可否会」全員も認める絶品の味だった。

その頃、アンナは、サドに傾倒している前衛写真家太田(津川雅彦)のモデルをバイトでやっていた。

アンナは、助手がむち打つ中、床を転がり廻る。

そんなアンナを、塔之本は、次回作「河馬」の準主役として抜擢しようと考えていた。

当のアンナは、夜遅くまでクラブでツイストを踊り、外車を持ったボーイフレンドに自宅アパートまで送ってもらっていた。

そんなアンナを、アパートの管理人である伯母(清川虹子)は叱りつける。

ある日、自宅マンションでモエ子が塔之本から、「河馬」の内容は、主人公以外の人間がある日急に河馬になってしまうと説明されていた時、突然、アンナがやって来る。

塔之本から、「河馬」の準主役に大抜擢してもらった礼に来たのだと言う。

塔之本は、今後は変なアルバイトはやめだ、テレビも。坂井モエ子みたいになったらおしまいだと、本人を目の前にして冗談めかして言う。

アンナは、サドはサイコーよと、聞いたばかりの名前を口にしインテリぶって見せる。

そんな二人の様子を横目で睨みながらコーヒーを入れて出しかけたモエ子だったが、アンナはすぐに帰ると言い出し、モエ子はその後ろ姿を睨みつけて送り出す。

テーブルに残ったコーヒーを飲んだ塔之本はまずい!焦げ臭いよと顔をしかめ、アンナの事を焼いてるな?僕たちの間には隠し事をしない約束だったじゃないか。確かに僕は今彼女に惚れている。生活革命しなくては行けないからねと塔之本は一方的にもエ子を煙に巻くような事を言う。

ベンちゃん、私に飽きたのね?とモエ子がすねると、「それもある」と塔之本は平然と言い放つ。

「可否会」の四人はテレビ出演して、レギュラーコメンテーターたち(徳川夢声 、渡辺紳一郎、奥野信太郎、サトウハチロー、近藤日出造)からの質問に色々答え、菅会長は「コーヒー道こそ新しい茶道です」と云う主張を世間に訴えていた。

人気脚本家の赤島(青島幸男)が原稿を書いていた食堂で、菅会長と二人になったモエ子は、塔之本が、自分がアンナへ嫉妬した事が原因でコーヒーがまずくなった事などを指摘した事などを打ち明け、夫婦関係がぎくしゃくしている事を相談するが、菅会長は、塔之本がそこまでコーヒーの味が分かる事に感心するばかり。

モエ子は、自分と塔之本が結ばれたのは新劇があったからだと主張するが、菅会長はコーヒーで結ばれたんだと一方的に結論づけ、君たちは世界でも稀なコーヒー夫婦なんだから自信を持てとアドバイスする。

その時、プロデューサーがモエ子に声をかけて来たので、モエ子は菅会長と別れるが、そのプロデューサーが言うには、森永の重役がモエ子に声をかけて来たらしい。

さらにプロデューサーは、「表通り裏通り」が近々終わる事も教える。

局を出た所で、モエ子は、腰元姿で時代劇に出ていたらしいアンナから声をかけられたので驚く。

テレビには出ないんじゃなかったの?とモエ子が皮肉を言うと、モエ子は亡くなった自分の母親に似ている。自分は小さい頃原爆で両親を亡くしているので…と、むしろアンナはすり寄って来て、テレビはテレビ、新劇は新劇と割り切って出来ると思うんですとあっけらかんと答える。

そこへマネージャーの飯島が来たので、アンナはモエ子に、良い役付くように工作して下さいねと、ちゃっかり頼んで去って行く。

そんなアンナを呆れたように見送った飯島は、MTVに企画があり、よろめきものだとモエ子に知らせる。

モエ子は、森永の専務矢頭(三井弘次)と食事をする。

矢頭は、会社のCMタレントを捜しており、視聴者は婦人か子供なので、美人で敵が多いし、平凡はダメ。平凡+αじゃなくちゃダメで、多分にあなたにはαがありますと褒める。

実はインスタントコーヒーでニューアロマを発売する事になったので、あなたにはヨーロッパに行ってもらい、宣伝用フィルムを撮りたいと言うではないか。

モエ子は、塔之本もかねがね、ヨーロッパの芝居を見たがっていたので、この話に大いに乗り気になる。

その日帰宅したモエ子は、この話を塔之本に伝え、実は自分には貯金が300万程あるので、それを降ろせばベンちゃんもヨーロッパへ一緒に行ける。後はあなたの心がけ次第よとアンナとの浮気は辞めるようちらつかせながら話を持ちかけるが、塔之本は逆に、自分たちは浮気ではなくて真剣、純粋なんだといきり立つ。

頭に来たモエ子は、そんな純粋な子がどうしてテレビなんかに出ているのかしらと告げ口をするが、塔之本はますます、アンナは大女優の器だと絶賛する。

モエ子が出演したインスタントコーヒーのCF試写を見た矢頭は、モエ子の存在感を絶賛する。

ところが、そのインスタントコーヒーの新聞広告を見た菅会長は激怒する。

いやしくも「可否会」メンバーが、インスタントの宣伝に出るとは何事かと云うのである。

同じ広告を朝刊で見たらしい珍馬からも電話がかかって来る。

菅会長は、坂井君にも言うと伝える。

珍馬は、ちょうど弟子の練習中だったが、弟子の春遊亭頓馬(柳家さん治-現:小三治)が、落語にツイストを取り入れてみたらどうでしょう?などと突飛なアイデアを出したので、俺の目が黒いうちは「ジャズ入りインスタント落語」なんてやらせないと、厳しく叱りつける。

テレビ局でモエ子を掴まえた菅会長は、インスタントは我ら共通の敵ですよ!私はあなたに片腕になって欲しい。二代目になって欲しいのだ!と必死にCMを降りるよう説得するが、モエ子は、飲んでおいしければ、インスタントでも良いと思っていると自説を述べる。

その頃、アンナから、フランソワ役のイメージが掴めないと相談された塔之本は、無人の舞台に彼女一人を連れて来ると、新作「河馬」の演出を説明し出す。

しかし、アンナが、相手がいないとやりにくい。先生河馬の役をやってと甘えて来たので、つい役者でもないのに、舞台に上がると河馬の仮面をかぶり相手をしてやる事にする。

すると、アンナはいきなり「私は先生が好き!」と塔之本に抱きつき、キスをして来る。

そんな事とも知らず、モエ子はテレビ局で、女子学生からサイン攻めに会い喜んでいた。

後日彼女は、プロデューサーに勧められ、主演が決まった連ドラの原作者に挨拶をするため、海辺にまでやって来る。

モエ子は、16年も夫に尽くして来た妻が、娘の恋人を好きになると云うような難しい設定が出来るでしょうか?と相談するが、原作者から褒められたので、すっかり上機嫌になり、プロデューサーと連れ立って中華料理屋に出かける。

すると、プロデューサーは、娘役には丹野アンナを考えていると言うではないか。

一瞬戸惑ったモエ子だったが、あんたにびしびし鍛えて欲しいと言われると、それも面白いかもしれないと考え始める。

すっかり酩酊し、上機嫌で帰宅したモエ子だったが、チャイムを鳴らしても中から応答がないので、仕方なく合鍵でドアを開けて部屋になるが誰もいない。

土産の中華料理をフライパンと鍋に移し、暖める準備を整えてベッドルームに向かったモエ子は、鏡台に置かれている一通の手紙に気がつく。

中には、ついに背活革命の時が来た。今日からボクは家を出てアンナと暮らします。いつまでも君の世話になってばかりもいれません。幸せを祈っておりますと言う塔之本の置き手紙だった。

いっぺんに酔いが冷めたモエ子は、逆上のあまり、塔之本が残して行った品類を破り始める。

5年も人に食べさせてもらっておいて…と言いながら、モエ子は台所のフライパンや鍋の中身をゴミ箱に放り投げる。

そしてベッドの上に横たわったモエ子は泣きながら「こんなに愛しているのに…、こんなに尽くしているのに…、ひどい、ベンちゃん…」と呟く。

モエ子は、広い砂丘を一人で歩いているようなイメージを浮かべる。

翌日、見知らぬ中年女がいきなりモエ子の部屋のチャイムを鳴らす。

誰かと思ってドアを開けたモエ子に、その女は、アンナの伯母であると名乗り、この度は飛んだ事で、御愁傷様ですと縁起でもない挨拶をする。

旦那は28でしょう?などと馴れ馴れしい口調で、ソファに座り込んだ伯母は、誘惑されたアンナの方は未成年なので訴えますよ。投書しますよ。そうすると、有名人のあなたに迷惑がかかるし…などと、見え透いた脅し言葉を並べて来る。

自分には、安子を神戸の両親から預った責任があると言うのを聞いたモエ子は、アンナの本名や、両親が実はまだ健在である事を知り呆れてしまう。

アンナは昔から虚言癖があるのだそうだ。

さらに伯母は、塔之本には正式に結婚してもらいたいので、あなたの方はきっぱり籍を抜いてくれと迫って来たので、籍なんか最初から入れてないとモエ子も反論する。

伯母は、夕べ二人に会って来たと言い、劇団の女部屋に二人はいたと教えてくれた。

そんな図々しい伯母だったが、モエ子が入れたコーヒーにはさすがに驚いたらしく、おいしいと褒める。

最終的に伯母が切り出したのは、アンナが溜めた下宿代を食費も含め2万ばかり払ってくれ、塔之本に請求したら30円しか持っていなかったからだと言う。

相手の本性を見抜いたモエ子は、その場で金を払ってやり部屋から追い出す。

伯母はモエ子に、あんたが親代わりになって、二人の面倒を見てくれるとありがたいんだけどなどと言い残して出て行ったので、モエ子はしゃくに触り、台所から食塩を持って来ると、中身をドアにぶちまけ、指にはめていた結婚指輪も引き抜いて捨てる。

「可否会」では、シナモンとクローブを入れたダイアフリックコーヒーを入れていたが、モエ子がやって来たと聞いた珍馬は、声を潜めて、テレビ寄席に行った時、坂井モエ子さんが夫婦別れしたそうですと男会員たちに報告する。

やがて、モエ子が合流したので、それとなく話を切り出すと、モエ子はテレビドラマにぶつけると言うが、それを聞いた菅会長は、否、コーヒーにです。コーヒーはあなたに人間本来の心を教えるでしょうと言い切る。

ボーイフレンドに車でテレビ局まで送って来てもらったアンナは、エレベーターに乗り込んだ時、先に乗っていたモエ子と二人きりになる。

よろめきものの連ドラ「妻の告白」が始まる。

妻役のモエ子は、娘ミナ役のアンナと共演するようになるが、モニターを観ていたディレクターは、アンナの奔放な魅力に対し、モエ子の演技にすっかり生彩がなくなっている事に気づく。

メイク室で二人きりになったモエ子は、アンナに本番で勝手にセリフを変えたり、私のセリフを奪わないでと文句を言うが、アンナはあまり気にしていないようで、ベンちゃんの生活革命のために今の生活を始めたとか、料理が出来ない私が毎日コロッケばかり出すので、先生、下痢しちゃったとか、いつ結婚するのと聞いたモエ子には、もうしていますなどと、あっけらかんと答える。

さらにアンナは、最近、新劇もセンチな夢じゃないかと考え、辞めようかと思い悩んでいると打ち明けたりする。

その頃、塔之本は、劇団女優のアパートでアンナの帰りを待っていた。

しかし、アンナはボウリングをして遊んで帰ると、テレビやっていると辛いわと、塔之本に今までダメ出しをされていたかのごとく嘘をつく。

一日の約束で泊めてやった塔之本とアンナが、もう一週間も居座り、夫婦ごっこを始めたのにいらだちを感じた女優は文句を言うが、アンナは、私達はあらゆる障害を乗り越えなくちゃと塔之本に抱きつくだけだった。

小さなついたて一枚の向こう側でいちゃいちゃされて眠れない女優は睡眠薬を飲むと言い出す。

テレビ局で赤島は、プロデューサー、連ドラ「妻に告白」のモエ子のシーンを少なくするように指示され、あれこれない知恵を絞り出していた。

飯島は、アンナを劇団「新汐」から引き抜き、自分のエトワールプロダクションに引き抜くと決意、それをアンナに伝える。

一方モエ子に再会した森永の矢頭は、最近、あんたの演技には刺々しいプラスαが出て来たので、ヨーロッパ行きも含め、しばらく様子を見てみたいと言われる。

飯島の自宅は、子供が六人もいる貧しい家庭だったが、野心に燃える飯島は張り切っていた。

そこにモエ子から電話が入り、「妻の告白」で主役であるはずの自分のセリフがたった3つしかないのはどう言う事か。それに最近ちっとも仕事を取って来ないじゃないと抗議が入る。

適当に返事をして電話を切った飯島は、タレントの寿命はあっという間や、坂井モエ子ももうおしまいやなと嘆息する。

その後、飯島はアンナに、連ドラが決まったと伝えていた。

丹那アンナは瞬く間にマスコミ界のアイドルになって行く。

その頃「可否会」では、中村教授と大久保画伯が、妻を15年前に亡くして以来独身を続けている菅会長に、モエ子を奥さんに持ちなさいと薦めていた。

その話に、菅会長も満更ではなさそうだった。

中村教授と大久保画伯は、すぐさま、モエ子のマンションを訪れると、今度「可否会」の会合があると誘いに来る。

その日の「可否会」は、屋外での野点の雰囲気をまね、「山賊風ともマドロス風」共呼ばれる野手溢れるコーヒーの入れ方をしていた。

全員にコーヒーが行き渡ると、やがて、中村教授と大久保画伯は散歩して来ると席を離れ、珍馬師匠もトイレに行くと席を離れたので、その場には、菅会長と事情を知らないモエ子だけが残される事になる。

もちろん、席を離れた三人は、最初から二人に、見合いをさせるつもりの作戦だったのだ。

菅会長はモエ子と二人きりで散策をしながら、「可否道」のために私の片腕になってもらいたい。「可否道」のために一心同体に…、「可否道」の事、来週発表しますなどと、いつものように一方的な話をしていた。

そんな勝手な申し込みを聞いていたモエ子は、それだけのために結婚を?と疑問を小声で口に出していた。

ある日、まだ劇団女優のアパートに居候してアンナの帰りを待っていた塔之本の所に、飯島がやって来て、勝手にテレビを付けようとするが、それは壊れていると知ると、アンナは自分の家に預り育てようと思うと切り出して来る。実家は妻も子供もいるので安全やし、アンナはまだ新劇精神を持っているから安心してくれと言っている。今日は下着や身の回りのものを取りに来たのだと言うので、塔之本は素直に荷物を渡してやる。

しかし、飯島が荷物を持ってやって来たのは、アンナの為に買ってやった新しいマンションの一室だった。

アンナはそこで、テープレコーダー相手に発声練習をしていた。

ベンちゃんは紐みたいなもんや、あんなヒモ男は切り捨てるべきやと思うと飯島がアンナに言うと、アンナも飯島に抱きついて来る。

今ではアンナは、すっかり身も心も飯島に乗り換えていたのだ。

マンションのベッドに横になっていたモエ子は、チャイムが鳴ったので、台所に付いているマイクで返事をすると、「ボクだよ、入れてくれよ。ちょっと会いに来たんだ」と云う塔之本の声が聞こえて来たので、慌てて「アンナちゃんの元へ返りなさい!」と追い返そうとするが、「アンナはもういないよ」と言いながら、塔之本は勝手に合鍵を使って部屋に入って来る。

「アンナ、どうしたって?」とモエ子が仕方なく聞くと、「出ていたっきり帰らないんだ。一時的にテレビの悪魔的魅力に犯されているだけさ」と塔之本は言う。

そんな塔之本にモエ子は「縁談進行中よ。菅さんよ」と脅してみるが、塔之本は「あの人は立派だよ。おめでとう」と気にしていない様子で、悪いけど風呂に入れてくれないかと厚かましくも頼んで来る。

仕方なくモエ子は、すぐに帰る事を条件に風呂を使う事を許すが、そこへ突然やって来たのが菅会長だった。

風呂場の音が聞こえて来るのを気にしながら、部屋に招き入れたモエ子だったが、菅会長は、「可否道」の発表と結婚の発表を一緒にする事にした。君にはテレビを辞めてもらい、家元の妻として手伝ってもらいたいと一方的に告げると、図々しくも「コーヒーを一服」とねだる。

台所でコーヒーの準備を始めたモエ子だったが、途中でばかばかしくなり、インスタントコーヒーを取り出すと、それにお湯を注ぐ。

その時、風呂から塔之本が出て来て、こちらも図々しく「コーヒーを飲ませてくれないか」とねだったので、菅会長は唖然とするが、そんな二人に、インスタントコーヒーをモエ子は差し出す。

すると、コーヒーの味にあれほどうるさかった二人が、そのインスタントコーヒーを飲んで「美味い!」と褒めるではないか。

横に立っていたモエ子は唖然としてしまう。

さらに塔之本は、又、ボクにコーヒーを飲ませてくれないかと言い出し、菅会長の方は、すでに権利の移行が行われていると主張し出したので、堪忍袋の緒が切れたモエ子は「お黙りなさい!誰があんたたちと結婚するもんですか!あんたたち、コーヒーの話ばかりで、ただの一度も私を愛してるなんて言ってもくれなかったじゃない。もう一生コーヒーなんか入れないわ。テレビも芝居ももう辞めたわ!」と怒鳴りつけ、二人を部屋から追い出してしまう。

冗談じゃないわ!私ってやっぱり一人ぽっち…、負けるもんか誰にも。そうだ、ヨーロッパ旅行に行こう!自分のお金で…と思いついたモエ子は、早速銀行へ行き、預金をおろすと、羽田空港に向かう。

空港内は、色々な見送り客でごった返しており、一人旅のモエ子は少し不安になるが、パンアメリカンのタラップを登ると、何だか清々しい気持で日本を振り返るのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

一見、自己主張が強そうな人気テレビ女優が、自分以上にわがまま勝手な人間たちに翻弄されて行く様を描いたユーモア作品。

タイトルは「『可否道』より なんじゃもんじゃ」となっているが、画面上は、「なんじゃもんじゃ」が大きくメインで中央に書かれ、その右下に小さく補助的に「『可否道』より」と出て来る。

コーヒーを小道具として使っているが、最終的に、通の味覚や蘊蓄そのものを皮肉っている。

男も女もなく、人間そのものの自己中心的な部分を皮肉っている内容とも言える。

ちょっと盛りを過ぎた中堅女優を演じている森光子も若々しいが、奔放で計算高い小娘を演じている加賀まりこや、年下の内縁の夫を演じている川津祐介らがとにかく若くて魅力的。

青島幸男や津川雅彦、長門裕之と言った当時の若者たちと、加東大介らに代表される中年男たちの対比も面白い。

色々珍しいゲストもちらりと登場していて楽しいが、劇団「新汐」の三婆と揶揄されている女優たちの一人は水野久美ではないだろうか?

劇中ではっきりと「森永」と特定企業名を出し、そのインスタントコーヒーを何度も画面に出しているのは、もちろんタイアップと云う事だろう。