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カックン超特急

1959年、新東宝、本木荘二郎原作、金田光夫+松井稔脚本、近江俊郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

下田近辺を配達している冨士運送のトラック運転手平助(由利徹)は、田んぼのあぜ道でエンストを起こしたトラックの下に潜り込み、修理していた。

助手のノブこと伸吉(南利明)がやいのやいのとうるさいので、ちょっと動かしてみろと平助は命ずる。

言われた通りに、運転席に戻ったノブは、そのままトラックを走らせてみる。

運転席から降りて来たノブはビックリ!

平助がペッシャンコになっていたからだ。

慌てたノブは、運転席からじょうろと空気入れを取って来ると、まずはじょうろでぺったんこになった平助の上から水をかけるが効果はない。

それでは言うので、口にチューブをくわえさせ、空気入れでスコスコ空気を入れて平吉の身体を膨らませる。

何とか立ち上がった平助は、何すんだ!あのままだったら、俺、カックンだったじゃないかと文句を言う。

タイトル

会社に戻った二人は、所長が呼んでいると聞かされ、てっきり遅れた事を叱られるとおどおどしながら社内に入るが、そこに馴染みの女子社員がいたので、気軽に声をかける二人。

所長室でいきなり謝る二人だったが、所長は何を謝っているのかと不思議がり、実は、東京への特急便に欠員が出来たので、今度二人に行ってもらいたいと言う。

手当も1000円上げてやると云われた二人は、一乗車1000円と思い込み大喜び。

しかし、一ヶ月で1000円と云われ、少ししゅんとするのだった。

それでも、その夜、自宅に帰った平吉は家族を前に鼻高々だった。

妻の民子(花岡菊子)は、娘の春子(大原栄子)におばあちゃんを食卓に連れて来させる。

おばあちゃんのモゴモゴ言う言葉を理解出来るのは、息子の平吉だけだった。

一方、ノブの方は、旅館に勤めている恋人の邦枝(池内淳子)に会いに来ていた。

玄関先にのみの夫婦のような客を送り出しに来た女中に頼むと、事情を知っている彼女は、来ている事を伝えるから裏で待っていろと云う。

その時お座敷では、邦枝と路子がちょうど客の相手をしていたが、まずは路子の方が邦恵に後を頼み部屋を出て行く。

そこに、先ほどの女中が邦枝に知らせに来たので、邦枝も客を残して、部屋を出て行ってしまう。

路子の相手は、平助の息子秋雄(白川晶雄)だった。

路子は、ミッチーと呼んでと、年下の秋雄に甘えかかる。

邦枝は、裏の川にかかる橋の所でノブと出会い、特急便に乗る事になったと知らされる。

邦枝は、東京に行ったら、きれいな人ばかりいるので浮気しちゃダメよと釘を刺すが、僕の目を見てよ。二つあるでしょうとノブは答える。

その頃、一人にされた客は、苛ついて、猪口に醤油を入れて口に含んでしまい、思わず吹き出してしまう。

邦枝が明日公休日だと知っているノブは、明日特急便が出かける途中、岡町でトラックに乗せてやると約束するが、その途端、バランスを崩して川に落ちてしまう。

自宅に帰って来た秋雄は、父親がやっていたような事をして来たと悪びれずに答えるが、それを聞いた平助は、手を出す前に巧く口説けよと助言する。

それを聞いた民子は呆れて間に入って来るが、平助は、俺が13でお前が18の時、お前が俺を口説いたんじゃないか、何で、俺が今38で、息子が25なんだとぼやき、夫婦喧嘩が始まる。

翌日、平助とノブは、初の特急便に乗り込んで会社を出発していた。

岡町に着いた所で、待っていた邦枝を拾い、運転席の真ん中に乗せてやり、彼女の長浜のお母さんの所まで乗せてやるのだとノブから聞かされると、事情を知らなかった平助は公私混同するなよとふくれる。

やがて、トラックの前に「天国行き」のバスがのろのろ運転で進路妨害をして来たので、苛ついたノブは、ハンドルを切って抜いてやれと平助をけしかけるが、本当の狙いは、ハンドルを切るたびに自分の身体が邦枝に乗りかかるようになるので、その時、どさくさに紛れて、彼女のほっぺにキスをするのだった。

そんな事は知らない平助は、何度かハンドルを切り、ようやくバスを追い抜く事に成功する。

その頃、平助の自宅では、妻の民子が、もう出発して1時間経ったから、東京に着いた頃じゃないかしらと春子に話しかけていたが、春子は呆れて、4時間はかかるわよと答えていた。

その頃、平助のトラックは、いちゃいちゃするノブたちに気を取られた隙にハンドルを切りそこね、崖っぷちの木の根っこに引っかかって立ち往生していた。

運転席から降りた平助は、ノブに後ろを見ていろと命ずるが、ノブは平助の後ろにぴったり寄り添い、笛を吹くので、俺の後ろじゃない!トラックの後ろを見ていろと平助は呆れる。

しかし、邦枝とベタベタしたいノブは、全く後ろへの注意など払わない。

そこに、先ほどのバスが追い抜くと、運転手が「ざまあみろ!」とノブたちをからかって立ち去って行く。

長浜に着いたトラックから降りたノブは、邦枝を実家まで送り届けると言い出し、平助を呆れさせる。

その後、ようやく本来の特急便に戻ったトラックだったが、とある海沿いの所で、崖から身を乗り出している女性を発見、自殺と思い込んだ二人はトラックを停めると、その女性に近づいて止める。

しかし、何を勘違いしているの!と怒った女性が言うには、ハンドバッグを落としてしまったので困っているだけだと云う。

見ると、確かに崖途中の木の枝にハンドバッグが引っかかっている。

女性に取って下さる?と甘い声をかけられると、断る訳にも行かず、上で平助が持ったロープにつかまり、ノブが崖を降りて行く。

何とか、木の枝の所まで降りて来たノブは、苦労の末にハンドバッグを手に取り、上に上がろうとするが、女に目がない平助は、ついロープを持つ手がおろそかになり、ノブは落ちそうになる。

どうにかこうにか上まで這い上がり、ハンドバッグを女性に手渡したノブだったが、なかなか自分が道に上がれない。

そこへ現れた女性の恋人らしき男が、あんなもの又買ってやるよと言いながら、二人に礼も言わずに立ち去って行ったので、すっかり無駄な汗をかいた平助とノブはカックンとなる。

しばらくトラックを走らせていた二人の前に、今度は又、男女が手を上げて飛び出して来る。

助手席から降りたノブが事情を聞こうとするが、男は口が不自由らしく、何を言っているのか分からない。

そこに降りて来た平助は、いつも母親の言葉を理解する力が優れているくらいなので、たちまり、身重の妻を産婆さんの所へ連れて行ってくれと云っているのだと理解する。

二人を運転席に乗せて出発する事にした平助だったが、ノブは乗る場所がなくなり、外のステップに立って移動する事になる。

産科医院の前に着いた時、すっかりノブはくしゃみを連発するようになってしまい、それを見た男が、胸元から何かを出そうとするので、金なんかいらないと断りながらも、ありがたく受け取った平助は、それが「風邪薬」だったと知りカックン。

富士山が見える海岸を歩く五人の娘たちがいた。

彼女たちは、金がなかったので空腹のまま歩いていたのだが、リーダー格のルミこと照美(大空真弓)が、食事をさせてくれそうな運転手を見つければ良いと言い出す。

そんな照美は、ちゃっかり平助たちのトラックに乗り込んでいた。

運転席に座った照美と、荷台に乗せてもらった娘たちは、明るい歌声を響かせる。

やがて、ドライブインに到着したので、照美はお礼にごちそうをしたいので一緒に食事をしませんかと平助たちに申し出る。

ノブは、急いでいるので…と断ろうとするが、平助の方は鼻の下を伸ばしてすぐに承諾する。

ドライブインで食事をした後、照美たち娘は、化粧を直して来ると席を立つ。

ところが、いつまで待っても帰って来ないので、ボーイを呼び止めて、さっきの娘たちはどうしたと聞くと、とっくに帰ったと云う。

驚いて、じゃあ、ここの勘定はどうなっているかと聞くと、払って行かなかったと云うではないか。

だまされた二人はカックンとなってトラックに戻る。

戸塚に近づいた頃、ノブがガソリンスタンドに寄ってくれと言い出す。

会社の小林から頼まれて、藤と云う娘に会うのだと云う。

その頃、冨士運輸の東京出張所では、新東洋映画の依頼主から、まだ小道具を入れた荷物は届かないのか?500人からのエキストラが待っているのにどうしてくれる!封切に間に合わなかったら責任を取ってもらうぞと云う抗議の電話を所長(大江満彦)が受けていた。

丸善のガソリンスタンドに着いたトラックは、給油を頼み、お藤ちゃん(藤木の実)を呼んでもらう。

可愛らしいお藤ちゃんは、ノブに、横浜のスタンドにいる千葉さんにこれを持って行ってくれと、ガソリン缶とプレゼントのような紙包みを手渡す。

すっかり惚れられたと思い込んだノブは快諾すると、横浜のガソリンスタンドで千葉と云う人物を呼んでもらう。

すると、応対していた従業員の男(千葉徹 )が自分が千葉だと云うではないか。

お藤ちゃんから託されたと紙包みを手渡すと、千葉は、彼女は恋人で近々結婚するのだと嬉しそうに言うではないか。

又しても、ノブはカックンとなる。

東京出張所の所長は、伊東支社に電話を入れ、特急便がまだ着かないが、今日の運転手は誰だ?と問い合わせる。

実は昨日まで、下田辺りを廻らせていた連中だと聞くと、そんな奴ではダメだろうと社長は怒る。

電話を受けた支社の社員は、所長に、特急便がまだ着いていない事を知らせる。

その頃、東京に近づいていた平助は「遅れたのは不可抗力だから仕方ない」と言い訳をしながら運転をしていた。

平助の自宅では、秋雄が雑誌を読んで寝っ転がっていたが、そこに隣の小学生達ちゃん(江木俊夫)が遊びに来て、秋雄をからかっていた。

そこに春子があわてて帰って来て、トラックがまだ東京に着かないらしいと教えるが、秋雄は、父ちゃんの事だから、適当にどうにかやっているだろうとのんきに答える。

やがて、その言葉通り、東京出張所に平助とノブを乗せたトラックが到着する。

トラックを降りた二人は、所長が呼んでいると云われたので、遅れた事を怒られるのだと察し、社内に入ると、目に入った男に「途中で事故に遭い、不可抗力で遅れてしまって、すみませんでした」と謝るが、それは所長ではなかった。

後ろのソファに座っているのが所長だと云われた二人は、又同じ事を繰り返すが、その男も所長ではなく、隣に座っていた男が所長だと云う。

三たび同じことを言った二人に対し、処分は後でするから、とにかくすぐに、新東洋の撮影所に向かってくれと云う。

それを聞いた平助は、映画俳優や女優に会えるのか?とのんきに喜ぶ。

その頃、新東洋の撮影所内では、並木一路で国定忠治を撮っている最中だった。

しかし、この作品をヌンカに出品し、シランプリ賞を取りたいと意気込んでいた監督(藤村有弘)は、並木の芝居に満足せず、ダメ出しをする。

さらに、キャストの一人である由利徹が来ていない事にも苛立っており、助監督たちにどうなっているのかと癇癪をぶつける。

新東洋の社長室でも、由利の事は話題になっており、役不足で出て来ないと秘書から聞くと、話したいから電話をしてみろと社長は怒る。

秘書からの電話を受けた由利家の女中から、電話を替わった書生(人見明)は、今、先生はいない事になっている…と返事をごまかし、何とか本人に聞いてみると電話を切る。

由利の寝室に入って、撮影所から電話ですと知らせた書生だったが、布団の中から返事は一切しない。

何度か同じ事を繰り返しても返事がないので、頭に来た書生は、布団をかぶって寝ているような由利に対し、今度焼き入れてやろうか?俺の前の事を知らないかなどと凄みだす。

しかし、書生が殴りつけていたのは、由利の足の方で、由利(由利徹-二役)の頭は、布団の反対側から出て来る。

驚いた書生に、由利は「お前は陰日向がある。栃木の映画館に挨拶回りに言った時、売店で太鼓焼きを売っていたお前が、俺にくれた三つの太鼓焼きのうち、二つは冷めていたと言うと、書生は恐縮して、「あの二つは前日の残り物だった」と謝る。

あの時、弟子にしてくれと泣いたのを忘れたのか?と釘を刺した由利だったが、気分が悪いから、撮影所には行かないと断る。

さらに由利は、俺がこんなにヒゲを伸ばしていたのも、明治天皇やりたかったからで、結局アラカンに持って行かれたもんねと愚痴ると、書生は「あの時は本当にカックンでしたね」と同情する。

俺は何の役だと聞く由利に、書生が清水の岩鉄だと教えると、何で俺が岩鉄なの?じっと顔を見てみい?と問いかけるように由利は書生を見る。

板割の浅太郎だろ?と由利が言うので、先生の万年溜めの芝居、忘れられませんと書生がお愛想を言うと、刀持って来いと、急に起き上がった由利が言い出す。

書生は呆れるが、言われる通りに刀を持たせると、布団の上に立った由利は、忠治の芝居をやり始める。

その内、俺、仕事がしたくなったから行くと言い出す。

スーツに着替え、玄関先まで出て来た由利だったが、書生の履いていた下駄の片方を脱がせ、受け取った下駄をその場で地面に落とすと裏になったので、やっぱり行くの止めたと言い出す。

一方、新東洋の撮影所に到着した平助は、トラックを降りると、女学生たちにサインをしていた高島忠夫と久保菜穂子を見つけると、野次馬根性で近づいて行く。

すると、そこに、食事代を払わせられたあの照美そっくりの女が現れたので、つい平助はカットなって文句を言いに詰め寄るが、それは女優の大空真弓だったので、側にいた高島忠夫らは驚く。

そんな平助に気づいたのが、由利徹の到着を今か遅しと待ち構えていた助監督たち(平凡太郎、白山雅一、谷村昌彦)だった。

助監っちは、由利に近づくと、監督がカンカンですよと説明しながら、戸惑う平助をスタジオの方に連れて行く。

ちょうど、スタジオから出て来た中村竜三郎は、「あ!中村竜三郎だ!」と気軽に声をかけて来た平助を見て、後輩に「今の由利ちゃんだろ?相変わらず良くふざけてばかりいるねぇ」と呆れてみせる。

助監たちが連れて来た平助を由利と思い込んだ監督は、すぐに国定忠次の岩鉄の衣装を着せ、芝居を始めさせる。

その間、ノブの方は、助監に文句を言われながら小道具の入った荷物を運ばされたので、すっかり疲れ果て帰ろうとしていたが、肝心の平助の姿が見えないので、トラックの所でイライラしながら待つしかなかった。

スタジオの中では、忠治役の並木が、岩鉄の事を「石松!」と呼びかけたり、平助の芝居があまりにも下手すぎるので、NGの連発だった。

休憩中、浅太郎役の南利明は、監督にこっそり外国製タバコなど手渡しながら、自分のアップが少ないですが…と、秘密の交渉をしていた。

監督は、カメラの鈴村一郎にチェックを確認しながら、撮影を続けて行く。

いよいよ万年溜めの池のシーンになり、捕手たちに囲まれた忠治一味の剣劇が始まるが、その途中、いきなり平助がカメラの方に近づいて来て、後ろで見学していた小畠絹子と北沢典子にサインをくれと云いだしたので、監督は平助に対し、どうにかしてるんじゃないか?と愕然とする。

勘違いが分かり、ようやくノブと一緒にトラックに乗った平助は、お前にそっくりな南と言う役者や大空真弓と云う女優に会ったなどと撮影所での出来事を話しながら帰路につく。

夕闇が迫る中、走るトラックの前に、又しても、一人の人影が立ちふさがる。

見ると、老人のようで、平助たちが降りて事情を聞くと、車に跳ねられたと云う。

気の毒がった二人は、老人を運転席に案内し、乗せようとするが、突然、トラックが発車してしまう。

残された平助とノブは、トラックを盗まれたと気づき慌てるが、後ろから車が近づいて来たので停めて、同乗させてもらい、逃げるトラックを追跡してもらう。

トラックの運転席には、老人の変装を取った男の他二人の男が乗り込んでいた。

追跡する青年が運転する車のラジオから、老人を首領とする三人組の銀行ギャングが湘南方面に逃げていると報ずる臨時ニュースが聞こえて来る。

今追っている連中がそいつらだと気づいた平助とノブは、運転する若者に、踏切の信号が鳴り始めても車を飛ばしてもらう。

やがて、トラックは通行止めにぶつかり、三人のギャングは銃を取り出し、車を降りると逃走を続ける。

そこに到着した平助、ノブらも、車を降り追跡する。

老人に変装していたボスは、拳銃を平助たちに突きつけて来るが、引き金を引いても弾は出なかった。

最初は銃に怯えていた平助たちだったが、弾が入ってない事を知ると、俄然勇気を出し、ギャングたちに飛びかかって行く。

運転手の青年も加勢し、三人のギャングたちは掴まえられてしまう。

特急便の二人が、銀行ギャングを捕まえたニュースは、でかでかと新聞各紙に掲載され、一躍有名になった平助とノブは、ある休日、家族や恋人を連れ、一緒にピクニックに来ていた。

そんな一行を前に、平助は、ギャングと戦ったときの武勇伝を大袈裟なジェスチャー月で説明していたが、気がつくと、妻の民子以外の姿は全員消えていた。

そんな民子の隣に座った平助は、この辺は、二人が昔良く来ていた場所だなと懐かしがる。

女学生だった民子と、まだ坊主頭だった中学生の平助は、この辺りで初めてのキスを交わしたのだった。

そんな回想に耽っていた二人は、からかうように笑う家族たちに取り囲まれていた事に気づく。

やがて、全員が小型車に乗り込むと、帰路につくのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

歌手の近江俊郎が監督をしたナンセンスコメディで、1時間5分の中編である。

いきなり由利徹がトラックに轢かれてぺちゃんこになる冒頭部から、ハチャメチャな内容を期待させるが、内容はそれほどでもない…と云うのが正直な印象。

まだ若々しい由利徹のおとぼけ振りはそれなりに面白いが、その他は新東宝の楽屋落ち止まりと云った感じで、爆笑を巻き起こすまでには至っていない。

特に主役の由利徹扮する平助の登場シーンに、イマイチ生彩がないのが残念。

後半、由利徹本人役で登場するワンシーンが唯一面白い程度。

特急便の前に次々と邪魔が入り…と云う着想は、平凡ながら、工夫次第でいくらでも面白くなりそうなのに、どのシチュエーションも突っ込み方が中途半端で、ハチャメチャさも少なく、何となく食い足りなさが残る。

新東宝を模した「新東洋映画撮影所」内の様子は珍しいが、クライマックスの見せ場としては盛り上がりに欠けると云うしかない。

特に、次々と登場する往年の新東宝の人気者の姿は、公開当時は、それなりに客を湧かせた見せ場だったのだろうが、今となっては、誰が誰だか識別出来なくなっており、意外性も話題性も失われているのがつらい。

高島忠夫、久保菜穂子、大空真弓、そして池内淳子辺りまでは、個人的に理解出来るが、後の役者たちはピンと来ない。

小畠絹子と北沢典子は、昔の新東宝作品で名前を見たな…と云った程度。

かえって、人見明、平凡太郎、藤村有弘、谷村昌彦ら喜劇陣たちの方が、後にテレビを中心に活躍していた事から、今でも顔を覚えているのが何とも皮肉。

ちらり登場する子供役の江木俊夫は、後でキャスト表を確認するまで気づかなかった。

監督としての近江俊郎の技量はどうかと云うと、この作品を観る限り、洒落っ気のある金持ちの道楽と云った印象で、一応プロスタッフが技術面を支えているし、最低限の娯楽映画の見せ方は知っているように見えるので、思った程素人っぽさはないが、特に演出の才能があったようには感じない。

銀行ギャングをやっつけた後のピクニックシーンなども、ちょっと締め方がもたもたしている印象を受け、惜しい気がする。

とは言え、マニア受けする笑いは入っており、特におかしいのは、由利徹が、大ヒットした「明治天皇と日露大戦争」(1957)に出たがっていたと云う件。

主役の明治天皇を、アラカン(嵐寛寿郎)に持って行かれたと嘆く辺りがおかしい。

国定忠次を撮っている監督が「ヌンカに出して、シランプリ賞を取りたい」と言うのも強烈。

これはもちろん、1951年のヴェネチア国際映画祭で黒澤の「羅生門」がグランプリを受賞して以降、熱心にカンヌ映画祭などに出品するために、巨匠たちに大作を撮らせていた大映の永田雅一社長に対する皮肉だと思う。