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いばらの王 -King of Thorn-

2010年、「いばらの王」製作委員会、岩原裕二原作、山口宏脚本、片山一良監督作品。

※この作品は新作ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

自由の女神像、摩天楼、車の渋滞

2012年、ニューヨーク、12月12日

空から何かが落ちて来たのに気づいた、ペットの犬が吠える。

落下して来たのは一人の少女だった。

少女の身体は路上に叩き付けられ、粉々に砕け散るが血は一滴も出ない。

その身体は、石膏像のようになっていたのだ。

テレビニュースでは、身体が石化して死亡する「メディウサ」と呼ばれる奇病が「S級伝染病」として認定されたと報じていた。

その奇病は、30~60日の潜伏期間を経た後、石化が始まると12時間以内に死亡し、死亡率100%。

この奇病の発生を受け、世界中は混乱に陥る。

国連も非常事態発生を宣言する。

そんな中、製薬会社のヴィナスゲイト社の総帥アイヴァン・コラル・ヴェガ(声 - 磯部勉)が、テレビを通じ重大発表をする。

同じ頃、合衆国安全保障局では、緊急会議が招集され、「メディウサ」がバイオテロである可能性が高いと言う発表が行われていた。

同時に、ヴィナスゲイト社は、ここ数年、全く新薬の発表をしておらず、カルト集団であるらしい事。

そしてその総帥アイヴァン・コラル・ヴェガは、元ロシアの一等捜査官であった過去があり、ある時期から「自分は選ばれし、神になる道を見つけた」などと云う妄言を吐くようになったとも報告される。

テレビでは、そのヴェガが、冷凍カプセルを開発したと発表していた。

万一「メディウサ」に感染しても、そのカプセルに入って、治療方法が見つかる日まで待つ事が出来るのだと。

安全保障局では、ヴェガへの強制捜査をするべきか否かを大統領にあおごうとするが、その大統領は、すでに「メディウサ」で死亡した事が明かされる。

ヴェガは、ただし、冷凍カプセルは160人分しかないと発表していた。

安全保障局では、オペレーションのコード名を「スリーピング・ビューティー」と名付け、すぐさま行動に移す決定がなされる。

「むかし、むかし、子宝に恵まれない王様と王女がいました…。ある日、水浴びをしていた王女に、蛙が、あなたは願いが叶います。天が子宝を授けますと声をかけ、その言葉通り、女の子が生まれます。」

バスに乗った一人の女性が本を読んでいる。

同じ車内には、日本人の双子姉妹、カスミ・イシキ(声 - 花澤香菜)とシズク・イシキ(声 - 仙台エリ)が乗っており、不安げに近づいて来る大きな西洋の城を見つめていた。

「誕生祝いが盛大に執り行われ、招待された13人魔女がそれぞれお祝いの言葉を王様と王女様に捧げ始めます」

それは「いばら姫」の物語だと二人の姉妹は気づく。

同じバスの乗客の中には、ゲームに夢中の小さな男の子もいた。

テレビクルーも同乗しており、レポーターが黒人にマイクを向けるが、黒人は不機嫌そうに断る。

バスの後部席では、何故か手錠をはめられた全身入れ墨の男がはしゃいでいた。

数台のバスは、大きな西洋の城に到着する。

そここそ、ヴィナスゲイト社の冷凍カプセルがある「コールドスリープセンター」であった。

2015年10月13日

タイトル

バスから降りて来る人々に、今まで同乗して来たBNNレポーターブリッジが「今の気持を…」と云ういつもながらの平凡な質問を投げかけるが、誰も答えようとはしない。

カスミとシズクも向けられたビデオカメラを遮る。

ただ一人、笑顔で「サイコーだぜ!」と答えたのは、例の手錠の入れ墨男だけだった。

そんなバス乗客たちたちは、折から近づいて来た一機のヘリコプターに気づく。

城の中に降り立ったヘリから降り立った中年男に、近づいて丁重に出迎えたのはアイヴァン・コラル・ヴェガだった。

城の中の案内所にやって来た双子姉妹のうち、カスミだけにブレスレッドがはめられる。

ここに来た患者がはめたブレスレッドには、どこにいても患者の位置や体調を確認出来る機能がついている事を教えられる。

今回、冷凍カプセルに入る権利を得たのは、妹のカスミだけで、シズクは付き添いでついて来ただけだったのだ。

「11番目の魔女がお祝いの言葉を言い終わった後、のけ者にされたと勘違いした13番目の魔女が、12番目の魔女を差し置いて呪いの言葉をかける。姫が15歳になった時、糸車の針に突かれ、死ぬだろう…と」

集会室に集められた患者たちを前に、ヴァン・コラル・ヴェガが質問を受付け、自分たちが冷凍カプセルで眠った後、万一、施設を守る人間たちが全員死亡した場合はどうなるのかと聞かれたので、「A.L.I.C.E」と名付けられたここの統括システムが城を恒久的に守り、冷凍カプセルは100年以上持つと保証する。

「12番目の魔女は、13番目の魔女の呪いを解く事は出来ないが、姫は100年眠り続けた後、目覚めることになろうと言葉をかける」

部屋の後ろで聞いていたBNNのレポーター、ブリッジが「冷凍睡眠している間、夢は見るのか?」と聞くと、ヴェガは、ここのシステムは夢すらコントロールして、穏やかな夢を保証しますと答える。

さらにヴェガは、ブレスレッドのもう一つの機能を説明し始め、上にある白い部分は、「メディウサ」の第二段階に入った時、黒い斑点が出て分かる仕組みになると患者たちに伝える。

その時、聞いていた患者の一人が悲鳴を上げ、すぐさま、看護士たちに別室に運ばれる。

その女性のブレスレッドの白い部分には、黒い印が浮かび上がっていた。

カスミとシズクは、風力発電の風車が見える海岸近くで最後の別れを惜しんでいた。

二人の両親は、「メディウサ」ですでに死亡していた。

カスミは自分一人生き残るのは嫌だ、ずっと一緒にいるって約束したじゃないとシズクに訴える。

しかしシズクはそんなカスミを励まし、約束パート2、私はずっと待ってるから、目が覚めたら真っ先に私を捜してね。願えば奇跡は必ず起きると言いながら、いつも姉妹でやっているように指切りげんまんしようと小指を差し出す。

カスミは患者服に着替えると身体検査に並び、カプセル内に持ち込むのは、メガネと補聴器だけと注意される。

途中、全身鏡に自分の姿を映してみたカスミは、今後は目覚めて鏡を見るたびに、同じ顔をした姉のシズクの事を思い出すだろうと考えていた。

その後、麻酔注射のようなものを首筋に撃たれた患者たちは、エレベーターで地下のカプセル室に案内される。

整然と並んだカプセルの一つに案内されたカスミは、メガネをカプセル内の横のトレイに起き横になる。

すると、ガラスケースが閉じ、「A.L.I.C.E」の声(久野美咲)が聞こえ、数字を数えるように指示する。

カスミは「7」まで数え終わった時、眠りに落ちる。

2015年10月15日

マシンガンを撃つ兵士らしき姿。

「かすみ、生きて!」シズクの声が聞こえたような気がして、カスミは目覚める。

ガラスケースが開いたので、何気にカプセルの縁に手を置こうとしたカスミは何か尖ったものを触り痛みを感じる。

見ると、巨大ないばらのようなもの植物の棘がある根がカプセルの周囲に生えているではないか。

やがて、周囲のカプセルも全て開き始める。

それぞれのカプセルから起きて来た患者たちが、階段を伝って下に集まり、今はどのくらい時代が経ったのかなどと声を掛け合うが、誰も答えられるはずもなかった。

その時、起き上がろうとしたカスミは、突如目の前に現れた、不気味な鳥ともコウモリともつかないモンスターに驚いて、カプセルから落ちかかる。

その手が滑り、下に落ちるが、下のカプセルに手を滑らせていたのと、床で待ち受けていた二人の男性が支えてくれたので、床への直撃は免れる。

下に降りていた患者たちも、カプセル室の上空に飛んでいる不気味なモンスターに気づき、みな一斉にエレベーターに殺到しようとする。

ただ、子供だけが、モンスターを見て「デスバットだ!」と嬉しそうに声を上げる。

ゲームで良く知っている怪物なのだと言う。

エレベーターの扉に殺到した患者たちは「OPEN」スイッチを押すと、我先にと開いた扉の中になだれ込むが、そこにエレベーターはなく、中に駆け込んだ患者たちは、深いシャフトの底に墜落して行く。

ヘリで城にやって来た偉そうな中年男が、そこを覗き込むと、そこには、今落ちた患者たちを飲み込んだ、巨大な食虫植物の口のようなものが動いていた。

慌てて扉を閉めるが、一瞬早く下から伸びて来た食虫植物の触手が一人の患者を掴むと、閉まりかけた扉に叩き付ける。

廻りでそれを見ていた患者たちは、捕まった患者を助ける為にエレベーターの扉を開くべきか迷うが、すぐに患者は扉の中に引き込まれてしまう。

その時、メガネをかけた患者が別の扉を開いたので、生き残っていた者達は一斉にそちらに向かう。

そこは個室になっており、そこに逃げ込んだのは、カスミ、入れ墨男、黒人の大男、メガネ男、女性と子供、そして威張りくさった中年男の七人だけだった。

何とか外に連絡しようとした彼らだったが、電話線は切れていた。

いら立っている警官だと云う黒人の大男と入れ墨男はあれこれ言い合いを始め、つかみ合いになりそうになる。

すると女が、子供の前で止めてくれと注意し、立ち上がって入れ墨男の頬を叩く。

メガネをかけた男は、服が血まみれだったので重症かと皆案じたが、返り血だと云う。

子供は元気そうに、さっきエレベーター内にいたのは「ヘルワームだよ」と得意げに言う。

それがゲームの事だと女から聞いた中年男は、下らんと吐き捨て、自分はイタリアの上院議員アレッサンドロ・ペッチノ(声 - 廣田行生)だ、わしは動かんと威張る。

しかし、カスミが、もう人を残したくないと頼み、裸足で歩けるかと反抗し続けるペッチノに、入れ墨男が服を破り、足に巻き付けるよう命ずると、さすがにペッチノも折れ、皆について行く事になる。

「城にはいばらが絡み付き、まるで森のようになりました…」

靴代わりに足に服を巻き付けた7人は、いばらで覆われた廊下を進み始める。

何故か、廊下の脇には大量の水が皮のように流れていた。

メガネの男は技師らしかったが、冷却水のタンクが壊れ、海水が流れ込んでいるのだろうとみんなに教える。

一番後ろから付いて来ていたペッチノは、ヴィナスゲイトを訴えてやるとぶつぶつ文句を言っていたが、その背後から、何やら巨大な粘っこい水滴のようなものが落ちながら近づいて来るのに気づかなかった。

やがて、ペッチノは背後から近づいている巨大なモンスターに頭から食われる。

粘っこい水滴は、そのモンスターの口から流れ出ていたよだれだったのだ。

そのモンスターに気づいた子供は、逃げ出そうとする大人たちを制し、「デモンザウルスは目が見えないんだ。逃げると足音を聞かれる!」とゲームの知識を教える。

それを聞いた入れ墨男は、何を思ったのか、急に子供を抱き上げると、脇を流れている水流に投げ落とす。

続いて、驚く他のものたちも次々と水流に落とした入れ墨男は、自分も飛び込む。

何とか水の流れに乗り、浅瀬の階段にたどり着いた面々。

メガネの技師が、警備室に避難しようと皆を誘導しかけるが、気がつくとカスミの姿がない。

カスミは水流の底に沈んでいたが、又しても「カスミ、生きて!」と言うシズクの声が聞こえたので、目を開け、助けに飛び込んで近づいていた入れ墨男に向かって手を差し伸ばす。

何とかカスミを助け、階段の所に戻って来た入れ墨男だったが、又しても、巨大なよだれが落ちて来る。

見ると、何匹ものデモンザウルスが近づいているではないか。

慌てて、次の部屋に逃げ込んだ入れ墨男とカスミを、銃を見つけたらしい技師と黒人警官が援護する。

デモンザウルスに接近された入れ墨男も、銃をくれと叫ぶ。

カスミが、落ちていたスパナで壁を叩き、その音でデモンザウルスが木を取られている隙に、女がショットガンを入れ墨男に投げる。

入れ墨男が何とかモンスターを撃ち殺したに見えたので、黒人警官は安堵して近づいて来るが、倒れていた別のデモンザウルスが、まだ死んでいなかったらしく、突如警官に襲いかかり、壁に弾き飛ばす。

しかし、その直後、そのデモンザウルスは、石化して死んでしまったので、それを見たカスミたちはおののく。

「メディウサ」は人間にしか感染しない病気だったはずだからだ。

技師は、「変異したのかな?」と推論を述べる。

女が、負傷した警官の治療を行う。

元々その女は、看護士だったのだと云う。

しかし、その看護士は、突如、又ゲームの話をし出した子供を叱りつけ、あまつさえ、ぶとうと手まで振り上げる。

子供が怯え出したのに気づいた女は豹変し、前のように、子供を優しくあやし始める。

それを見ていた入れ墨男は、「ここにいるみんなはトラウマ持ちだな」とつぶやき、技師に向かい「お前は患者じゃない」と断定する。

狼狽する技師に対し、服の下にペンダントをしているのを指摘すると、技師はあれこれ弁解し始めるが嘘は明白だった。患者がカプセルに入る際、厳重に身体検査された事はみんな分かっていたし、技師が、この施設の内部事情に詳しいのも奇妙だった。

窮地に陥った技師は、急に、近くにいたカスミを掴まえると、その頭部に銃を突きつけ、「4ブロック言った先に非常階段がある」と言い残して、先にその部屋を出て行く。

二人きりになり、銃を降ろした技師は、「僕は君に会った事がある」とカスミに語りかける。

その頃、部屋のパソコンをいじっていた看護士は、今は、自分たちがカプセルに入ってから二日しか経過していない事実を知る。

扉が開き、光の中から、カスミと蠢くいばらが出て来るイメージ。

入れ墨男は、取りあえず、いばらをロープ代わりにして、鉄骨部分を登るよう提案する。

まず、子供を背負った看護士が登り、続いて警官が登る。

子供は無邪気に「気をつけて!迷いの塔には、いろんなトラップが仕掛けてあるから!」と叫ぶ。

その言葉通り、又してもデモンザウルスが出現したので、下に残っていた入れ墨男は、ガスボンベに向かって発砲し、爆発炎上させる。

カスミは、右足を負傷し、入院していたシズクを見舞った小学生時代の事を思い出していた。

その怪我は、自分のせいだと、カスミは思い込んでいた。

その後、二人はそろって「メディウサ」に感染する。

両親を「メディウサ」で亡くし、これからは、どんな事があっても二人きりで生きて行こうと決意していた頃だった。

二人は、約束の指切りをしようと小指を出し合うが、その時、シズクの首がもげて落ちる。

悪夢から現実に戻ったカスミは、不思議な標本室のような場所に出る。

そこには「ラルー」と書かれた不気味な動物の死骸がホルマリンの中に浮いていた。

撃たれたらしく傷ついたその身体は、一見猿に似ていたが、今まで見た事もないものだった。

その時カスミは、隣の部屋から聞こえて来る「患者を覚醒させた。停電を装った」などと言っている技師の声に気づき、扉の陰に隠れて内部の様子をうかがう。

部屋の中には、何故か入れ墨男が立ってそれを聞いており、技師は、パソコン上で何かのデータをメモリーカードにコピーしている最中のようだった。

入れ墨男が出て行った後、技師は、扉の影のカスミに気づき中を突きつけて入るように促す。

カスミがどうしてこんな事を?と聞くと、技師は「自分はこのコールドスリープの開発者だった。今上で、王のごとく振る舞っている彼奴に命じられてやったのだが、今となっては、髪に背く行為に手を染めてしまったと後悔している…」と打ち明けながら、カスミにメモリーカードを渡そうとする。

そのカスミの背後には、デモンザウルスが迫っていたが、技師は「報いは受ける」と叫び、カスミの身体を弾き飛ばすと、自らデモンザウルスに食われて果てる。

そこへ戻って来た入れ墨男がデモンザウルスを撃ちながら、カスミを逃がす。

カスミは廊下を走り、途中、廊下が落ちてしまっている部分をジャンプして向こう岸にたどり着こうとするが、わずかに足らず、手を引っかけただけでぶら下がる。

入れ墨男が同じようにジャンプし、カスミを引き上げてくれるが、「これで借りは返したぞ。取引だ。それを渡しな」と言いながら、片手だけで手を握ったカスミの身体を、溝の方に傾ける。

技師から預ったメモリーカードを寄越せと云っているのだった。

カスミは「あんたは何者?」と言いながら、握られた相手の腕の入れ墨を観ていたが、そこに「ローラ」と書かれているのを知る。

その時、再び、デモンザウルスが襲いかかって来たので、カスミがそれを知らせ、入れ墨男は再びモンスターと戦い始める。

ショットガンの弾が尽き、ナイフで戦うしかなかった入れ墨男だったが、その時、しつこいデモンザウルスの身体が燃え上がる。

気がつくと、黒人警官と看護士が、急ごしらえの火炎瓶のようなものを投げつけてくれたのだった。

しかし、その炎の中に、カスミが落としてしまったメモリーカードもあった。

入れ墨男は「これで誰もお前を追う理由がなくなる」とカスミを慰める。

警官と看護士に付いて入った部屋は、抜け道がない酒蔵だった。

入れ墨男は、自分はSASのマルコ・オーエン(声 - 森川智之)で、「メディウサ」がバイオテロである可能性があるため、その証拠を掴むため身分を偽ってここに潜入したと正体を明かす。

看護士の女は、全部夢だった方がマシよ…と呟く。

マルコは、ここのリーダーは患者に接触する機会が多いはずなのにいまだに感染していない。つまり「メディウサ」の治療法があるのではないかと推論を述べる。

その直後、地震が起き部屋が大きく揺れる。

それに呼応するかのごとく、いばらの触手が動き始め、部屋の扉を開けようとしているように見えたので、黒人警官はあわてて扉を押さえつける。

しかし、扉を押している感覚は人間らしかったので、そっと開けてみると、入って来たのは、あろう事か、今話していたばかりの人物、アイヴァン・コラル・ヴェガだった。

マルコが猟銃を向けている事に気づいたヴェガは、撃たないでくれと止める。

この事態の説明を求めたマルコに、ヴェガは「被験者が暴走したのだ」と明かす。

何の実験をしていたのかと聞くと「夢を現実にするとでも言っておこう…」とヴェガは答える。

その時、扉から、冷却用の海水が流れ込んで来たので、マルコはヴェガに、ここにやって来た訳を聞く。

黙ってヴェガが指差した壁を破壊してみたマルコは、その奥に階段がある事に気づく。

それを見た子供は「最終ダンジョンだね!」と喜ぶ。

「8年前、ロシアのある村に宇宙から隕石が落下して来た…」

階段を先導しながら、ヴェガが説明する。

「村は全滅したが、調査に向かった我々は一人の少女だけが助かっていたのを発見する。さらに、そこで我々はUMA(未確認生物)を発見したので銃殺したが、その死骸に少女は抱きつき泣いていた。私はその生物はどう考えても理論的ではなく、少女が空想から生み出した生物だと私だけが気がついた。これを神の啓爾と解釈しないでおけようか?」とヴェガは続ける。

「人間はなぜ他の動物より進化したのか?進化したいと願ったからだ。私はそれをコントロールしようとした。しかし、その少女アリスは実験の犠牲になってしまった。その死に報いようと、その後新たな可能性を秘めた被験者を見つけ、一気に人間を進化をさせようとしたのが、大国に邪魔されてしまった」

「そんな中、一人の少女がラボに運び込まれた。驚いた事に第二の適合者だったが、精神が破綻していたため、A.L.I.S.は止めどなく暴走してしまった」と説明を終えたヴェガに、「主電源を止めれば食い止められたのでは?」とマルコは聞くが、「出来なかったんだ。最高の素材だったから…」とヴェガは答えながら、隠し持っていた銃を突きつけて来る。

その銃を撃ち落としたのはカスミだった。

「もう、誰も死なせません。その少女の所へ連れて行って」とカスミが言っている最中、突如、子供が勝手に階段を上り始める。

同時に、城全体が崩壊を始めたので、看護士やカスミは子供の後を追うが、ヴェガは一人その場に残っていた。

やがて、又デモンザウルスが出現したので、マルコが援護しようとするが、弾が尽きてしまう。

マルコはデモンザウルスにくわえられ、「すまない…、ローラ…」と死を覚悟する。

それを救ってくれたのは、黒人警官だった。

大量の海水が城に流れ込む中、子供は何かを知っているかのように階段を上り続ける。

しかし、その階段も尽き、塔の中央部の下から水が渦巻きながら登って来る。

子供に追いついた看護士は「私から子供を取り上げないで!」と叫びながら、急に何かから醒めたように目を開けた子供を抱きしめる。

カスミも階段の最上部に到着し、遅れて登って来たマルコが、黒人警官ロン・ポートマン(声 - 乃村健次)は殉死したと教える。

さらにマルコは、「A.L.I.S.、そのガキを洗脳したな?」と呼びかける。

「知覚者の命を守るのが私の使命と気づいたからです」と、A.L.I.S.の声が響き渡る。

マルコは、子供に「水に飛び込めティム!そして浮かび上がるものに捕まるんだ!」と叫ぶ。

ティムことティモシー・レイゼンバック(声 - 矢島晶子)は、「パパとママとを仲直りさせたかったんだ」と言い、看護士と一緒に迫り来る水に身を投げる。

カスミとマルコも飛び込が、カスミは、水と一緒に渦巻いていた木材で頭を打ち、一瞬気絶状態になる中、過去の事を思い出す。

シャワー室で左手を剃刀で切り、自殺を図ったときの事だった。

すぐに気がついたシズクが止めに来て理由を聞くが、カスミは、小学生時代、シズクが片足を怪我した原因が自分にあるとずっと責め続けていたのだった。

そこに、自分だけのコールドスリープの当選通知が届いたので、自分が死んで、シズクを生かそうとしたのだった。

塔の上部から、噴水のように吹き上がった海水に乗り、四人は地上に戻る。

マルコは、落ちていたメガネをカスミに手渡す。

濃い霧の中に浮かび上がった城は、いばらで包み込まれていた。

そして、そのいばらの各所に、城に侵入しようとしたのか、特殊部隊の人間たちの死骸が引っかかっていた。

「何人もの王子が城にやって来た。やがて、王子たちもいばらに呑まれ、餌食になってしまったのです」

この城に入る時、シズクと一緒に島の端に向かって歩いていたのを思い出すカスミ。

「願いのない所に奇跡は起こらない」カスミは呟いていた。

特殊部隊のものなのか、乗り捨てられていたヘリの操縦室に乗り込んだマルコは、そこにあった記録ビデオを再生する。

そこには、担架に乗せられた被験者らしき少女の姿が映し出されていた。

それはカスミのように見えた。

カスミは、突然走り始め一人城門から再び城の中に入ろうとする。

それを追ったマルコは「城の中にいるのは、お前の知っている姉じゃない!」と制止しようとするが、目の前で城門と繋がる橋が崩れ落ち、カスミはそのまま一人で城に戻ってしまう。

次の瞬間、城を覆っていたいばらが動きだし、巨大なモンスターのような姿に変化して行く。

マルコはヘリに戻り、カスミを救出しようとするが、そんなマルコのこめかみに銃を突きつけ「私とこの子を遠くへ連れて行くのよ」と脅したのは、看護士キャサリン・ターナー(声 - 大原さやか)だった。

「私は、残った命をこの子のために使おうと決めたの」とターナーは言う。

取りあえず、ヘリが動いたので浮上させたマルコは、変貌するいばらを観ながら、「やつは世界中をいばらで覆い尽くすつもりだ」と叫ぶ。

それを聞いていたティムは「いばらの王だ!」と喜ぶ。

「そもそも…、姫は目覚めて幸せだったのか?王子に会いたいのなら、夢の中にいた方がいつでも会えるし、キスだって出来る。夢は常に現実に裏切られる。」とマルコは呟くが、その時、突然、ターナーが咳き込み始め、銃を暴発し始める。

ヘリは傾き、ターナーは外へ落ちそうになる。その手を握りしめるティムだったが、そのままヘリは墜落し、振り落とされたマルコは、城の屋根の上に落ち、転がりながら落ちた先は、カスミがコンピューターをいじっていたコントロールルームだった。

起き上がったマルコは、「何かをやり遂げたくて軍隊に入ったが、結局、何も出来ない事が分かっただけだった」と自嘲しながらも、A.L.I.Sの真相にはたどり着けなかった事を明かす。

その頃、墜落したヘリの中で気づいたティムは、ターナー看護士が石化して死亡している姿を見つける。

「王子は、いばらに導かれるままに、奥に入ったいきました」

マルコとカスミは、施設の中枢部らしき「LEVEL0」と書かれた部屋にたどり着く。

その時マルコはカスミに対し「実は俺も、お前に会った事がある」と打ち明ける。

カスミは「私にしか止められない…」と答えたので、「良い覚悟だ」とマルコは褒める。

扉を開き中に入ると、そこは自分たちが逃げ出して来たカプセル室だったが、モンスターやいばらは影も形もなく、きれいな元のままの状態だった。

さらに、マルコはそこに、死んだはずの妹ローラが立っているのを見て愕然とする。

しかも、自分が大学の卒業祝いとして贈った赤いドレスを着ているではないか。

あり得ない事だった。

ローラの形を借りたA.L.I.Sに修正するようマルコは呼びかけるが、メガネをかけた東洋人の少女を命を賭けて守れと命じられていると答える。

SQ資格者を保護する事になる。

意図的に残された七人は皆精神的なもろさ、つまりトラウマの持ち主たちだった。

それは裏返せば、精神集中力があると云う事。

最初に死んだイタリアの政治家だって、汚職で死んだ弟の事を死ぬまで恥じていた…と、ローラの形を借りたA.L.I.Sは教える。

その時、扉が開き、蠢くいばらと共に、カスミが入って来る。

「あなたも、大切な人を失ったの?」と言いながら、ローラの形を借りたA.L.I.Sはマルコを強烈なキックで痛めつける。

傷つきながらも、マルコは必死に考え続ける。

一体何が、俺にローラを見せているのか?

カプセルに入る前、首筋に撃たれた注射の事を思い出したマルコは、あの時、生体チップを埋め込まれた事に気づく。

そのマルコは、ローラの形を借りたA.L.I.Sに銃を突きつける。

ローラの形を借りたA.L.I.Sは「撃てるの?妹を」と嘲るが、マルコは「俺にとってのローラは、3年前、ニューヨークで飛び降りた妹だけだ!さようならローラ!」と言いながら、自らの首筋に向かい発砲する。

首筋の表皮付近に埋め込まれていた生体チップが取れる。

今まで目の前に立っていたローラの形を借りたA.L.I.Sは、いばらの集積の不気味なモンスターに変化していた。

「世界を、いばらに覆い尽くされても良いの」と問いかけるいばらの集積に発砲した
マルコは、メインコントローラーに近づくとパスワードを打ち込み、最後のリターンボタンを押そうとするが、背後から撃たれる。

倒れながらもマルコは、最後の気力で「リターンボタン」を押す。

「あなたも大切な人を失ったの?夢だったら良かったのに…」

「目が覚めたら、すぐに私を捜して…」

コールドスリープセンターに入る直前、カスミとシズクが島の端で、最後の指切りをしようとしていた時…

カスミは、シズクの小指を払いのけると、「生き残ってもひとりぼっちは嫌!」とだだをこねる。

「カスミ、生きて!」シズクが言い聞かす。

「リラックスして…」いつの間にか、カスミはカプセルの中に入り、A.L.I.Sの声で眠りにつく時に戻っていた。

「又、夢か…」そう呟いたカスミは、自分の言葉に疑問を感じる。

「夢?夢じゃない!マルコさん!」カスミは、いばらに囲まれた室内で気がつく。

部屋の中央部には、いばらの檻のようなものがあり、どうやらそこにシズクがいるような気がしたカスミは、這いながら近づこうとするが、電気ショックのような攻撃を受ける。

「お願い!私をそっとしといて…」カスミの足をシズクになりかけたいばらの集積が掴んで邪魔をしている。

「オルタナティブね。なぜ邪魔するの?私は、絶対、しずくを助けて、この悪夢を終わらせる!」カスミは叫ぶ。

城と一体化し、翼の生えたモンスターと化していたいばらの集積が吠える。

カスミの邪魔をしていたいばらが消える。

中央部にたどり着いたカスミは、ベッドに寝ているシズクに声をかける。

「シズク!目をさまして!私の声を聞いて!」

その時、寝ているシズクの左手首の傷跡に気づく。

傷跡?自殺しかけたのは私なのに…?そう思ったカスミが自分の左手首を見ると、さっきまであったはずの傷がない。

「ダメ!思い出しちゃダメ!」

最後の別れをしていた島の端で、衆院を拒否しようとするカスミとシズクはもみ合う形となり、気がつくと救護班が駆けつけていた。

ふと崖下を覗いた少女は、崖下の岩に叩き付けられ死亡した姉妹の姿を見てしまう。

「カスミ〜!!」

墜落死していたのはカスミだった。

それを見たシズクの頭部が、爆発したかのように見えた。

救護班に取り押さえられ担架に乗せられたシズクの側に、カスミのかけていたメガネが落ちていた。

実験室に運び込まれたシズクは、培養液の中で身体が分裂する。

全ての事を思い出したカスミは、自分自身が、シズクが作り出したオルタナティブだった事に気づく。

ずっと助けてもらっていたのは私だったのだ。

いばらの中に浮かんだシズクが語りかける。「これからカスミと一緒に生きて行く」

伸びて来た小指に小指を絡めて「指切りげんまん」をするカスミ。

死んだと思っていたマルコが叫ぶ。「自壊するぞ!」

その言葉通り、いばらに囲まれた城は崩壊を始める。

城から逃げ出すカスミとマルコ。

対岸にまで逃げ込み、いばらが石化し、動かなくなった城を見返したカスミは、「私自身が、シズクが観た夢だったんだ…」と呟く。

気がつくと、側に座り込んでいたマルコは動かなくなっていた。

息を引き取ったマルコに、そっとキスするカスミ。

「おねえちゃ〜ん!」呼びかけて来たのは、生き残っていたティムだった。

そのティムに近づいたカスミは、これからどうするの?と聞かれると、自分たちの腕にはめられていた腕輪を外し捨てる。

「行きましょう!人間のいる所へ」そう云うと、ティムの手を取り、カスミは歩き始めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

ロリコンキャラ風の双子姉妹が主人公である事から、人によっては、とっかかりにくいと感じる向きもあるかも知れないが、ベースはしっかり考え抜かれたSFアドベンチャーミステリーとでも言いたくなるような構成になっている。

コールドスリープに入る前、夢をコントロールすると云う説明がある事。

目覚めた患者たちを襲撃するモンスターの名前を子供が知っている事などから、勘の良い人ならすぐに、これは「夢を扱った内容ではないか?」と気づくはずである。

前半部分は、生き残った患者たちのサバイバルを描く、良くあるパターンのハリウッド映画展開なのだが、生き残っている患者たちの特異な性格や過去が少しずつ明らかになって行くにつれ、単純な話ではない事に気づいて行く仕掛けになっている。

随所に、過去のSF映画などを連想させるアイデアや、ハリウッド風のステレオタイプなキャラクターの影響が見受けられるが、特にオリジナリティが弱いと感じる程でもなく、これはこれで、独自の世界観を持った内容に仕上がっている。

モンスター表現などにもう少しオリジナリティがあったら…と感じないでもないが、この設定だとむしろ「どこかで見たようなキャラクター」である方が正解なのかも知れない。

娯楽としては十分楽しめるし、完成度もかなり高い作品だと思う。