TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

必勝歌

1945年、松竹京都、田坂具隆原作、清水宏+岸松雄脚色、溝口健二+田坂具隆+清水宏+マキノ正博+大曽根辰夫+高木孝一+市川哲夫演出作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

奈良を中心とする近畿地方の地図に紀元元年の文字、神代の神殿前のような場所に立つ数名の兵士たち。

紀元2601年、大東亜戦争…

記録フィルムによる、行進や進軍のイメージ。

突撃する小部隊の記録フィルム。

森の中、木の葉が舞い散る中に小部隊が休憩をしている。

突如、大きな爆発音に緊張し、全員地面に伏せるが、「異常なし!」との声。

それを聞いた小隊長(佐野周二)は、こうして寝そべっていると、国の河原で寝ているような気がしての…と部下たちに笑いかける。

それをきっかけとして、小隊長は部下たちに、故郷で一番印象に残っているものは何か?と質問する。

小石を投げ渡されたものが応える事になり、最初に小石を受け取った兵隊は、庭にあった柿の木ですと答え、別の兵隊に小石を投げ渡す。

ある者は、近くの工場の煙突から流れ出る煙の風向きが思い出されるだの、近くで聞こえる機銃掃射の音が、子供の頃、玄関前にあった敷石の上を下駄で走った音と同じなのでその頃を思い出すとか、正直にお母さんの顔などと、思い思いに発言する。

それを聞いていた小隊長は、部下たちを立たせると、これより我が隊は故郷に向かって帰還する。急いでいる者は飛行機でも良し、乗った事がないものは軍艦に乗っても良し、子供がある者は土産を持って行け、ただし、次の出撃命令があるまでだと言うと、全員に目をつぶらせ、「出発!」と声を上げる。

部下たちは全員直立不動で目をつぶり、各人、思い出の故郷へ、夢を馳せるのだった。

琴の音の中、富士山の勇姿。

雪国の田舎の様子。

一軒の農家の土間で、父親(大矢市次郎)と次男坊三平(島田照夫)が稲のもみ取り作業をしていた。

長男翔太は、特攻隊として敵の軍艦に体当たりして既に亡くなっていた。

三平は今、工場で働いている。

いろりの前に座った母親(沢村貞子)は風邪気味だと云う三平に煎じ薬を飲めと差し出す。

三平は、両親に勧められ、その苦い薬をぐいと飲み干す。

その後も働き続ける父親が、又持病の神経痛を起こすのではないかと案ずるが、父親は、今は草鞋や縄ないをやっているが、その内春になれば農作業で忙しくなるので、そうなりゃ、神経痛の方も出る暇がないだろうと笑い飛ばし、自分らはこうやって農業に体当たりしているし、お前も工場の仕事に体当たりしろ、日本人全体が自分の仕事に体当たりしている限り、この戦争に負けるはずがないと言い切るのだった。

その直後、戸を叩く音がするので、母親が返事をすると、近所の女が入り込んで来て、記者が立ち往生していると報告に来る。

それを聞いた父親は、すぐに服を着込み、雪かきに出かけようとする。

三平も手伝うと云うが、風邪をこじらせたら工場の仕事にさしさわるから、お前は寝ていろと云われてしまう。

出かけた父親は、近所の男女たちと共に、線路に積もった雪をかき出し、その甲斐あって停まっていた列車は動き始めるのだった。

「松枝国民学校古橋寮」

朝起きた子供たちは、近くの雪が残る河原に出かけ、川の水で顔を洗う。

その後、教師に引率され、近くの神社まで駆け足で向かうと、一礼して唄を歌い、その帰りに、山の上から里に向かい、「お父さん、お母さん、おはようございます!」と大声で挨拶するのだった。

とある町内の組長(小杉勇)は、朝家を出る時、鉄兜を忘れた事に気づき、妻から受け取る。

その前を、小学生たちが比島決戦の歌を歌いながら通り過ぎたので、組長も思わず唱和する。

町内を歩き始めた組長は、用水の水が凍っているのに気づくと、すぐさま側に落ちていたレンガで割り、水を補充しておくように、その山田家の奥さんに声をかける。

その後も、同じように用水が凍ってた荒井家にも声をかけ、出て来た奥さんが、割った氷を道に捨てると、そんな所に捨てると子供が滑ると注意する。

そんな組長、一人の男性が休日にも関わらず家の前に防空壕を作っているのを観て感心するが、ちょっと通り過ぎた後、急いで戻って、その防空壕の上に飛び乗る。

すると、案の定、簡単に崩れてしまったので、全部作り直すように男に注意するのだった。

工場で、少年飛行兵たちが鉢巻きを締める様子。

格納庫から戦闘機が運び出される様子。

そんな中、模型飛行機を飛ばしていた田舎の子供たちは、木に引っかかった飛行機の廻りに集まっていた。

そこに通りかかった上級生の雄一(沢村アキヲ=長門裕之)が木に登って、模型飛行機を取ってやるが、翼が壊れているので、これは大修理しなけゃダメだと教える。

家に戻った雄一は、作っておいた新しい模型飛行機を付いて来た子供たちに渡すと、壊れた方の飛行機は机の上に載せる。

そんな雄一に、室内で竹籠を作っていた父親(河村黎吉)が、お前、少年飛行兵に志願すると先生に云ったそうだが、なぜ父さんに相談しかったと詰問する。

雄一が黙っていると、わしが怒ると思ったのか?反対すると思ったのかと父親は問いつめる。

雄一がようやく「おとっつぁんが可哀想だから」と応えると、なおも父親は「なぜ可哀想なんだ?家が貧乏だからか?一人っ子だからか?」と問いつめ、「いつもお前が飛行機ばかり作っているのも見て、一度でも叱った事あるか?わしは、お前は常々少年飛行兵になるに違いないと見込んどった。少年飛行兵結構じゃないか。他の子供たちも皆少年飛行兵になって、敵艦に体当たりして、手柄を立てている。お前もそうならなけりゃダメだ」と言い聞かせ、小柄な雄一が、体格検査で不合格になるのではないかと、その場で身長を測ってみたり、背伸び体操をしろと励ますのだった。

そこに、又、飛行機を壊したと、近所の子供たちがやって来たので、父親は、少年飛行兵が一杯いるわと愉快そうに笑う。

又別の家、見合いから帰って来た信江(高峰三枝子)は、留守番をしていた義姉(轟夕起子)から、相手の事を聞かれ、恥ずかしそうに好印象を持った事を話しながらも、出生した兄の事を寂しく思わないかと律子に聞き返す。

そこに、両親も戻って来る。

その夜、律子は、枕を並べて寝ていた信江に、「女はやっぱり、できたら早く結婚をした方が良いと思うの」と声をかける。

それに対し信江は、「今日のお相手、銀行員とおっしゃるので、もっと固い方かと思っていたら、趣味の話を聞かれると、多少剣道を嗜みますと、その格好をしてみたので意外だった。目は子供のように優しくて…」と楽しそうに思い出話を始めたので、「若いうちは色々夢もあるだろうけど、結婚ってもっと厳しいもんじゃないかしら」と律子は言葉を添える。

翌日、勤め先から配給品を土産に持って信江が帰って来ると、出迎えた律子が、仲人の中西さんが来てらっしゃると教える。

見合いの話と分かっているので、さっそく、お茶を持って隣の部屋に信江が入ると、両親と中西さんがみな深刻そうな顔をしているではないか。

父親(坂本武)と中西さんが言うには、お相手の白川さんに夕べお召し(招集令状が来た)があったので、この話はなかった事にしてくれと言うのだ。

黙ってそれを聞いていた信江だったが、他にも2、3、心当たりがあると気を使う中西に対し。私を白川さんの所へ行かせて下さい。お相手にお召しが来たからと云って、すぐに他を捜せばよいとなったら、女は惨めすぎますと頭を下げる。

それを聞いていた母親は、「そうは言っても、万が一、相手の方がビッ●にでもおなりになったらそうする?」と聞くと、「その時こそ、自分が杖となって助ける」と信江が言うので、父親も「両足なくなってもか?」と確認する。

それを隣の部屋で聞いていた律子は、思わず泣き出すのだった。

やがて、父親は、「偉い、偉いぞ!」と信江を褒め、中西に、この縁談を進めてくれるよう頼む。

それを聞いた中西も、信江の態度に感心するのだった。

やがて、信江は花嫁姿になる。

律子は戦地の夫に対し、書いた手紙を自分で読み返していた。

信江ちゃんは氏神様の前で立派に式を挙げました。子供だ、子供だと思っていましたけれど、今では、私の方が教えられるような立派な大人になっていました…と。

シーン変わって、満員電車の中、一人の工員川西(三井秀男=三井弘次)が、酔っているらしく、身体をふらつかせて隣の客の身体にもたれかかるので、友人の工員中村(斎藤達雄)が、しきりに周囲の客に謝っている。

もたれかかられた男は笑顔で気になさらないでと中村に返事をするが、酔った川西がなおも身体をぐらつかせているのを見かねたのか、窓際の自分の位置と変わってやる。

恐縮した中村だったが、窓際に立った川西は、窓に手を添えて立ちながらも身体が揺れている。

それを見かねた座席に座った男が、自分は次で降りるから座りなさいと席を勧めてくれる。

さらに、恐縮する中村だったが、椅子に腰掛けた川西は、とうとう眠りこけ始め、隣に座っていた陸軍中尉(高田浩吉)の肩に頭を乗せようとする。

中村は、さらに恐縮して頭を下げるが、中尉は意に介する風もなく、しばらく川西の身体を支えていたが、やがて自分も立って、中村に座れと勧めると、「大事な身体ですから大切にしてやって下さい」とねぎらいの言葉までかけてくれるのだった。

とある病院に空襲警報が鳴る。

看護婦たちは、滑り台を使って患者たちを外に誘導したり、ベッドを移動させたりする。

都内でも、全員、地下の避難所に逃げ込む。

都電や数台の車以外、人っ子一人いなくなったビル街。

やがて空襲が始まるが、避難所で伏せていた母親(田中絹代)の抱いた赤ん坊が泣き出す。

母親は懸命に子守唄を歌ってあやし始める。

東部軍情報が発せられ、敵空襲の被害は軽微との報告。

母親は、ようやく少し大人しくなった赤ん坊に、子守唄を歌い続けていた。

それでも、火の海と化した家々を、消防隊が必死に消火する。

ビル街も、火に包まれていた。

国民学校。

先生が小学生を前に、お父さん、お母さんたちも毎日焼夷弾や爆弾と戦っていますが、決して怖がったりしていませんよと話しかけると、思わず聞いていた少女が立ち上がり「お父さん万歳!」と叫ぶ、すぐに「お母さん万歳!」と別の声があがり、クラス中の子供たちが手を上げて立ち上がるのだった。

「♩むかし〜むかし〜その昔〜、椎の木林のすぐ側に〜」と、雪ん子風の衣装を着た大人のお遊戯風レビューが始まる。

続いて、スケーターワルツのメロディーに乗って、天女風の衣装を来た女性たちが桜の花の下を舞う。

最後に、又、雪ん子風のレビューで終わる。

母親(吉川満子)に迎えられ、久々に実家に帰って来た海軍中尉・一野誠(上原謙)は、妹弓子(星美千子)の待つ自宅に帰って来る。

亡き父親が遺した日記を熱心に読んでいた誠は、自分が生まれた日が、ちょうどワシントン条約締結の日だった事を知る。

母親は、お前の生まれた事とその後の出世が、お父さんの自慢だったんですよと話しかけるが、誠は、もう少し生きていてくれたら、もっと喜んで頂けたのに…と無念がる。

それを隣の部屋で聞いていた赤十字看護婦である弓子は、兄さん、今度は一戦に行くんじゃない?私も早く一戦に出たいわと聞いて来る。

一戦は大変だぞと言いながら近づいてきた誠に、弓子は「ブエノスアイレス号の沈没の事、知ってる?」と聞いて来る。

赤十字の病院船だったブエノスアイレス号は、敵機の攻撃を受け、たちまち沈み始めたので、乗っていた看護婦たちは重傷者をボートに移そうと必死に頑張ったが、その時、重傷者たちは、自分たちは良いから、あなたたちの方が助かってくれと云ったと云う。

しかし、婦長命令で、看護婦たちは全員、看護婦としての制服に着替え、自分たちの仕事を全うさせて下さいと頼み込み、何とか、重傷者たちをボートに乗せた後、船と運命を共にしたと云うのだ。

その時、敵機は、またもや、とどめを刺すかのように、機銃掃射して来たと云う。

沈没後、重油だらけの海面に浮かんだ看護婦たち数名は、海底から聞こえて来る「赤十字の社歌」を確かに聞いたとも。

話に聞き入り、出発が遅れてしまった誠は、急いで家を出ると、途中で脱帽し、実家に向かって深く頭を下げてから帰るのだった。

特攻隊の基地で、飛び立つ飛行機を見送る羽織袴の老人たち数名。

彼らは、特攻隊で子供らを亡くした遺族たちだった。

今日は、慰労のため、基地に招かれていたのだ。

案内する兵隊は、この前特攻して行った三浦中尉は、この近所の神社で、武運長久を祈って頂いたのだが、その時、自分たちの武運長久を祈って頂くのはありがたいが、それよりも、敵に一機残らず体当たり出来るよう祈って頂きたいと申し出たと云うエピソードを披露する。

その後、遺族たちは、軍神室に安置してある銅像を見上げる。

遺族たちは、亡くした子弟たちが生前最後に時を過ごした部屋に案内され、酒を振る舞われる。

接待する隊長は、大河内曹長の父(荒木忍)やその兄貴分だったと云う黒田の父親に、生前の二人の様子などを話して聞かせる。

やがて、興が盛り上がった所で、隊長が三人の部下を従えて、一曲披露し、その後、我々は、昨日も今日も、特攻に出かけ、日本近海に敵あらば、一機も通さない覚悟です。ご遺族の子弟たちの死を無駄にはしませんと挨拶し、遺族たちは感涙にむせび泣く。

さらに、その後、遺族たちから望まれるままに、三人の部下が唄を披露するのだった。

どこかの講堂で、合唱隊が唄を歌うシーン。

森の中で目をつぶって故郷に思いを馳せていた兵隊たちは目を開ける。

本部からの伝令が走りより、明朝総攻撃をかけると伝えて来たからだった。

それを聞いた小隊長は「よし!」と奮い立つのだった。

進軍、造船所のシーン、海戦のシーン、学徒動員の行進、特攻隊出撃のシーンなどが記録フィルムで流れる。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

昭和20年2月に完成した、典型的な国威高揚(プロパガンダ映画)だが、正直映画としての見所は少ない。

銃後を守る国民たちへの啓蒙的内容を、いくつかのエピソードで羅列しただけと云う印象しかなく、松竹映画らしく、戦闘シーンなどは一切なく、大半が記録フィルムを繋げただけ。

当時の生活風景などを知ったり、若き日の俳優の姿を珍しがるくらいがせいぜいか。

個人的に興味深かったのは、「ブエノスアイレス号の沈没」の話。

当時、病院船は攻撃してはいけない国際協定だったはずだが、この話が事実だとすると、アメリカは協定を破っていた事になる。

その卑劣さを世間に訴える為のエピソードである事は明らかなのだが…。

当時の女優たちが、皆、丸顔と云うか、四角顔と言っても良いような顔立ちなのも時代を感じさせる。

食料の関係で全体的にむくんでいたのか、顎が今の女性よりも発達していたと云う事かも知れない。

今観ても、すぐに名前が分かる俳優も入れば、分からない人もいる。

当時子役だった長門裕之などはさすがに分からない。

逆に、三井弘次などは、ほとんど印象が変わっていないので、すぐに分かる所がおかしい。

全体的に古いフィルムと云う事もあり、音声が聞き取りにくいのが残念。

一部、極端に聞き取りにくい箇所(轟夕起子と高峰三枝子が、夜、布団の中で話し合うシーン)には、字幕が付いている。