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激流(1952)

1952年、東宝、西亀元貞脚本、谷口千吉脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

タイトル

我々の生活に絶対必要なダム。

(ダムで出来た湖で遊ぶ子供や若者の姿)

完成されたダムは、人口湖水とした思えないが、そこで遊び人たちは誰も、このボートの二人でさえも、この湖の底にかつては人が住んでいた村が沈んでいる事や、犠牲になった労働者たちの命が眠っているとは気づかない。

かつて、この湖の下に、どんな風景があったか、振り返ってみよう。

キャストロール

村の風景

尊い平和なその日、その日…

その平和も、破られるときが来た…

(伐採される木々)

列車が、終着駅の宮森に到着し、大勢の客が一斉にホームに降りる。

そこにやって来たのは、一人の男を出迎えに来たリウ(久慈あさみ)と云う娘。

気がつくと、全員降りた車両の中でただ一人、いびきをかいて寝ている男がいるではないか。

客席に入り「宮の森ですけど?』と告げると、起きた男はビックリしてホームに飛び降りる。

そんな男に近づいて来たリウは、「あんたブルトーザーでしょう?」と聞く。

ブルドーザーとは、東京から工事現場で働いている大学時代の友人加藤に呼ばれてやって来た小杉俊介(三船敏郎)のあだ名だった。

リウは車で迎えに来たと言うが、その車とはトラックだった。

食料を荷台に運び入れ、助手席にブルドーザーこと小杉を乗せ、自分は運転席に座ったリウに、店員が忘れ物だと良いながら、残った荷物を手渡しながら、リウの胸を触ったので、怒ったリウは、トラックから折り、その店員を道路に突き飛ばす。

出発したトラックの運転席で、小杉は大学に6年も行った為に、入るときは後輩だった加藤が卒業するときは先輩になったと説明する。

花巻温泉では、名物の鹿踊りをやっていたので、ちょっと見物がてら停車していると、地元の芸者らしき女が助手席に近づいて来て、この手紙をまあさんに渡してくれと小杉に頼む。

それを横目で睨んだリウは、郵便物以外の配達はしないと断るが、小杉は気安く、まあさんって誰だい?と聞く。

リウは、所長の松川さんの事だと教えながらも、嫌ね、男の人って。東京に妻子があるのに…と嫌な顔をする。

今日はわざわざボクの為に?と聞く小杉に、食料調達のついでによと答えるリウは、車の運転は、子供の頃から満州や朝鮮を点々としていた両親のやっているのを見て覚えたと言う。

その時、リウは、バックミラーに映った荷台の上で、勝手に商売もののビールを飲んでいる見知らぬ男を発見、車を降りて、その男に降りるよう怒鳴りつけるが、男は「おれは信州(多々良純)」と名乗っただけで、降りる気配を見せない。

ちょうど知り合いがトラックで通りかかったので、その知り合いに頼んで男を荷台から引きづり降ろしてもらい、再びトラックを出発させるが、気がつくと、又、先ほどの信州が荷台に乗って、へらへらしているではないか。

小杉は、乗せて行ってあげましょうと仲介に入るが、じゃあ、あいつの責任はあんたが持ってよとリウに釘を刺される。

「これより先、どてら姿はご遠慮ください」と書かれた看板を横目で見ながら。トラックはダム工事現場に到着する。

所長室に向かった小杉だったが、当の所長は現場に出ているとかでなかなか戻って来ない。

事務所で待つのを嫌った小杉は、自分も現場に行ってみる事にする。

ダム工事の現場は、思ったより大きく、ちょっと油断すると怪我をしそうな危険が一杯の場所だった。

その時突然、サイレン音が現場中に鳴り響き、事故が発生した事を知らせる。

岩場の斜面が崩れ、数名の作業員が下敷きになったらしく、大勢の作業員が現場に集まる。

小杉もその場に駆けつけ、大きな岩を何とか持ち上げようと人手を頼むが、その時、下で見ていた男が重機を持って来るよう命じていたので、今ここで手伝わない奴は人間じゃないと、小杉は思わず怒鳴りつけてしまう。

小杉は全身の力を込め、岩を持ち上げようとするが、その筋肉の盛り上がりで、アンダーシャツの肩口がちぎれてしまう程だった。

その様子を、さっきの男がじっと見つめていた。

やがて重機が到着し、岩を持ち上げ、被害者たちを担架で運び出すが、助かる見込みはほとんどなさそうだった。

所長室に暗い顔で戻って来た男こそ、そきほど小杉の様子を見ていた男、所長の松川(清水将夫)だった。

松川は、所長室の窓を開け、裏手の広場で野球をしている少年たちを観る。

そこに、先ほどの事故で鮎川ら2名が即死、他の3人もダメだろうと知らせが届く。

部下は、鮎川の家は、長男が家出、長女は芸者に売られ、もう小学生の弟しか残ってないのに惨い事だと報告する。

その弟なら、今、外で野球をしているよと教えた松川は、診療所にいる鮎川の妻に電話をし事情を話すが、出て来た家内は、下の子供にはまだ、父親の死を教えないでくれと頼む。

ふと、部屋の椅子に置かれたリュックから音楽が聞こえて来たのに気づいた松川は、そのトランジスタラジオを手に取り、チューナーを回していたが、そこに入って来た小杉から奪い取られ、君は何ものだと誰何される。

松川は苦笑して、自分がここの所長だ。先ほど君から人非人呼ばわりされた男だと答えたので、小杉はばつが悪そうに立ち尽くす。

松川はさらに、トラックで迎えに行ったリウと云う娘は、自分が面倒を見ている孤児だと教える。

小杉に、ここでは測量をやってくれと依頼していた時、旧友の加藤(片桐余四郎)が来たので、小杉と加藤は思わず昔話に花が咲くが、松川所長は、加藤に、鮎川家に行き、香典を渡してくれと頼む。

さすがに、鮎川家の事情を知っている加藤は行きにくいと言い出したので、それじゃあ、小杉に行ってくれと云う事になる。

部屋を去りかけた小杉は、まあさんへと手紙を頼まれて来たと松川所長に手渡す。

松川がそれを読むと、ピカソが分からないなどとおっしゃるけど、なぜ分かろうとなさらないの?…と云う書き出しで、あなたって、本当に欠点がないのね。洋子はやっぱり、あなたと出なきゃ嫌と甘い内容だったが、すぐに小杉が戻って来て、間違いましたと言いながら、もう一通の手紙に方を松川に手渡し、今読んでいた手紙を奪い取るのだった。

自分に部屋に落ち着いた小杉を、リウが慌てた様子で呼びに来る。信州が暴れていると云うのだ。

信州は、大勢の見物客の中で痛めつけられていた。

相手のボス格は、篠原(堺左千夫)と云う男のようだった。

駆けつけた小杉は、相手を投げ飛ばすが、それを見てリウが喜んだのもつかの間、急に土下座して謝り始めたので、殴られっぱなしになる。

それでも、謝る相手をそれ以上傷つけられないと判断したのか、篠原は子分を連れて立ち去る。

小杉も、信州を背負って帰る。

自分のアパートに連れて来て寝かせ、自分は恋人洋子への手紙を書き始めた小杉は、信州の寝言がうるさいので、その顔の上に座布団を投げつける。

翌朝、小杉の隣りの住人が、食堂は7時までだぞと、窓から中に棒を突っ込み起こそうとするが、そこに寝ていたのは信州だけだった。

第二食堂では、リウが忙しそうに働いており、タバコを吸ってのんびりしている客は、外で吸ってくれと追い出していたが、小杉の姿を見ると、技師さんの食堂は向こうよと教える。

小杉は気にしないと言い、信州どこかで使ってくれないだろうか?と頼み込む。

その信州、所長から飯を食わせられると、礼の仁義を切り出すが、そんな奴はここにはいらないと相手にされなかった。

村から出て行く一家とすれ違いながら、見舞金を持った小杉は、リウの案内で鮎川の家に向かっていたが、途中、場違いな「トンコ節」のメロディーが流れて来る。

見ると、怪し気な店の前で子供たちがたむろしている。

リウの話では、夕べの篠原がやっている飲み屋で、いかがわしい事をやっているらしいと言う。

そこに、やはり、鮎川家の葬式に向かう小学校教諭の小林先生(沼田曜一)もやって来たので、子供たちは逃げてしまう。

小杉、リウ、小林先生は、鮎川家で焼香をすませると、香典を置き、すぐに立ち去ろうとするが、一人の老人が急に怒り出す。

しかし、鮎川の家内が謝罪しながら、3人を送り出してくれる。

小林先生は、鮎川の長男の作治はぐれて、借金を作り家出をしてしまったので、妹のふじ子さんは、その借金のカタで芸者になったが、葬式にも、温泉の掻き入れ時なので忙しいからと暇をもらえなかったらしいと嘆く。

もう一件の犠牲者、立ち退きに頑強に反対している茂吉じいさんの家にも寄ってみるが、じいさんは墓堀りに行っていると家人が言う。

その頃、篠原の店には、権三と言う男が金を借りに来ていたが、借金のカタがないと言うので、篠原から「何か働いて返すと云う事だな?」と念を押されていた。

山の中で、土葬用の墓を掘っていた茂吉(高堂国典)じいさんの所にやって来た小杉、リウ、小林先生は、その穴の横にあるもう一つの墓を見つける。

二番目の息子の墓で、戦士だったので、髪と爪しかなかったとじいさんは言う。

その頃、篠原は、今のまま突貫工事でダムが半年くらいに完成してしまうと、この商売も終わってしまう。しかし、事故が起きさえすれば、工事の時間は伸びる。村の奴らを焚き付けてみろと権三に耳打ちしていた。

小杉は、茂吉じいさんに、これからの社会の為には電気の重要である、この村にも電気が欲しいとは思いませんか?と問いかけてみるが、じいさんは、他の大勢の人間がわしの事を気にかけてくれた事あるか?自分は電気などいらない。そっとしといてくれ。保証金などもらっても使い方が分からないと反論する。

小林先生は、持ちなれない保証金を手にしたため、慣れない商売を初めて失敗した南原権三の礼を小杉に教える。

三人は、茂吉じいさんの説得を諦め山を降りていたが、近くの川では子供たちが遊んでおり、近々互いに村を離れる話などしていた。

小林先生は、芸者になった妹は、今、ひな菊と言う名前で働いていると話していたが、そこに子供たちが、大変だ!人が流されている!と走って来る。

川に駆けつけてみると、確かに娘が流されている。

小杉は川に飛び込むと、その娘を抱きかかえ岸に上がって来る。

その顔を見た小林先生は、ひな菊の同級生だと言う。

リウは、通りかかった信州に、診療所の先生を読んで来るように指示する。

どうやら、そのお初(若山セツ子)と云う娘は妊娠しているようだった。

お初の実家に知らせに向かうが、心配して一緒に診療所に向かおうとする母親を家の中から止めたのは、鮎川の葬式で怒鳴っていた老人(小杉義男)だった。彼は、お初の父親だったのだ。

富山から来た近藤と言う工事人夫と仲良くなり、妊った後捨てられた娘など、自分の子供ではないので放っておけと言うのだ。

それを聞いていた信州は、お腹の子供は自分が引き受けた。後になって親子だなんて言い出すなよと、急に激高し出す。

診療所にいたお初を見舞った小杉と小林先生は、家から持って来た着物を渡しながら、泣かないと約束するなら、私の家に来ても良いわよとお初に言うのを聞き安心する。

その夜は、加藤と山川所長が小杉を近くの温泉宿に招き、ささやかな歓迎会が行われた。

加藤は、酒を飲まないと頑な態度だったので、気を効かせた芸者が、若い芸者を呼び寄せる。

すると、雛菊と呼ばれた芸者(田代百合子)が酔って座敷に現れたので、呼んだ芸者は、普段は全く飲まない子なのに?と不思議がる。

小杉は、雛菊と云う名前を聞き、その芸者こそ、事故で亡くなった鮎川の葬式に帰って来れなかった妹だと知る。

雛菊は急に踊ると言い出すが、途中で泣き崩れてしまう。

その頃、別の部屋では、宿の女将(沢村貞子)と、その情夫、太田黒、そして篠原が、ダム工事の妨害に付いて話し合っていた。

篠原は、太田黒から金を借りているので、向こうが突貫工事ならこちらも突貫だと、ダムの破壊工作を進めている事を打ち明けていた。

小杉は、雛菊に話しかかるが、そこにやって来た女将が雛菊に「ぜひもらいがかかったので来るように」と呼びに来る。

山川は、野暮な事をするなと断ろうとするが、雛菊自らが行くと言い出す。

廊下では、女将が雛菊に、どうせ誰かのものになるのだからと言い聞かせていた。

太田黒の待つ部屋に女将に連れて行かれた雛菊の様子を、小杉はじっと眺めていた。

ひな菊に対して、何の力にもなれない自分に腹が立った小杉は、裏庭に出て、ダムなんか出来ない方が良いのかもしれないと嘆息していた。

主役を失った歓迎会の席で、加藤が、小杉は柔道6段の猛者なのだが、以前、倒した相手が身体にハンデを背負ってしまった事から、その後一切喧嘩をしなくなり、すぐに謝るようになったのだと山川所長に説明していた。

その言葉通り、裏庭にいた小杉の元に、部屋から逃げて来た雛菊が来たので、兄さんの借金を返せば、帰れるのだねと聞いていたが、その雛菊を追って来た篠原が来たので、小杉は雛菊をかばい、篠原を投げ飛ばすが、その後は土下座をして謝り始めたので、篠原からさんざん殴りつけられてしまう。

篠原は、いつの間にか自分の下駄がなくなっている事に気づくと、裸足のまま座敷に戻る。

小杉の元に駆け寄ったひな菊は礼を言うが、小杉は、慣れていると言いながら起き上がると、これを履きなさいと、今、こっそり奪い取った篠原の上等の下駄を差し出す。

それを見たひな菊は、思わず笑ってしまうのだった。

その頃、小杉の部屋の掃除をしていたリウは、小杉の机の上に伏せてあった恋人らしき陽子(島崎雪子)の写真を見つける。

そこに、小杉が戻って来て、雛菊からもらった千社札を見せたので、雛菊と云うのは小林先生の許嫁であると教え、陽子さんに申し訳がないんじゃないの?あなたが別な女性に取られでもしたら…。雛菊さんとか私とかと冗談めかして去って行ったので、残った小杉は複雑な顔になる。

翌日、食堂で働くようになったお初の事をじっと見つめていたのは信州だった。

その信州は、いまだに小杉に金をねだってぶらぶらしているだけ。

一方、篠原の方は権三や子分たちに、もっと茂吉を頑張らせろ。村民大会があるので、そこで村人たちを誘導し、半年で立ち退かせないように仕向けろと命じていた。

小杉と小林先生も参加した村民大会では、もっとごねて賠償金を釣り上げよう、茂吉じいさんのようにと焚き付けるものがいたが、すぐに、オラは金など目当てじゃないと茂吉じいさんが反論し出す。

それを聞いた別の農民が、金が目的じゃないものが孫娘を芸者に売り飛ばしたりするかと嫌みを言ったので、それを聞いた茂吉じいさんは、孫娘は必ずこの手で連れ戻す。孫が可愛くねえものなどあるがや…とがっくり力を落とす。

その頃、食堂に来た信州は、小杉からもらった金をお初に渡そうとし、生まれて来る子供を俺みたいにしたくないだろう?一緒に所帯を持とうと口説きかかるが、嘘だわ!嘘!近藤さんもそう云って私をだました!と、お初は拒絶する。

その様子を近くで見ていたリウが近づいて来て、酔っぱらいの怠け者でしかないあんたと所帯を持とうなんて女がいると思う?もっと仕事に精を出しなさい!小杉さんに言いつけるてやると、信州を叱りつける。

信州が立ち去った後、でもあの人があそこまで言うと云うのは、それなりの気持があるのかもしれないわと、リウはお初に語りかける。

小杉は所長室で山川所長に、ダムなんか出来ない方が良いんじゃないかと云う自分の気持を打ち明けていた。

100人が幸せになる為に、一人が犠牲になっても良いのかと云うのである。

しかし、山川所長は、工事が始まって足掛け3年間、村の面倒は色々見ているじゃないか。どうしても立ち退かないと言うなら、強制立ち退きしかないと反論する。

小杉は、例え村から老人を追い出しても、老人から村を追い出す事は出来ないと主張する。

そこにリウがお客様よとやって来る。

客と云うのは、東京からやって来た小杉の恋人陽子であった。

小杉が出迎えに部屋を出た後、君を迎えにやるとは酷い男だと、小杉の事を憤慨するが、リウは気にしないかのように「きれいな人よ」と答えるだけだった。

小杉は陽子を連れ、工事現場を案内していたが、その様子を所長室から松川は眺めていた。

そんな松川に、近々丸一日潰して慰労大会を開きましょうと部下が進言する。

小杉は、嫌がる陽子をおぶって、ここが、ダムの中枢部であり、自分は毎日、ひび割れなどが出来ていないか確認しているのだと説明しながら、排水溝の中を移動していた。

同じ頃、篠原も、ダムの中で一番弱い部分を攻めるんだと、子分たちと相談していた。

そこに権三が来て、約束の金をくれと云うので、村民大会で成果がなかった事を盾に、篠原は追っ払ってしまう。

小杉の部屋に来た陽子は、写真立てに入っていた自分の写真を眺めていた。

そこに、カルピスを持った小杉が戻って来たので、自分はそろそろおいとますると言い出す。

陽子は何か大切な用があって来たので、泊るとばかり思い込んでいた小杉は驚く。

しかし陽子は、何も言わず、涙ながらに帰って行く。

工事関係者が一堂に集う演芸会の日がやって来た。

食堂で編み物をしていたお初に、あんたも今日は休みにしたらと勧めたリウだったが、お初はこの方が好きと言いながら残る。

そこへ、信州が着物を持ってお初の元にやって来て、又、自分と所帯を持ってくれと頼む。

その誠意に打たれたお初はつい頷いてしまうが、リウから、収入もないあんたがどうやって所帯を持つのと追求されると、金は作ってみせると言い残して信州は悔しがる。

そこに、お初の両親がやって来て、村を出る事にしたので娘を連れ戻すと言い出す。

信州は、前にあんな娘は親子でも何でもないと言っていた父親がのこのこと現れたので文句を言い始めるが、お初が母親に抱きついて泣き出すと、待ってくれ、今日の晩まで待ってくれと両親たちに言い残し、信州は店を飛び出して行く。

信州は篠原に金を借りに来ると、前金だと札束を出され、仕事を依頼される。

信州が去った後、篠原の元にやって来た太田黒は、わしが貸した金はもうどうでも良いから、無茶なまねは止めろ。下手人の口からこちらの事がバレたら大変だと怯えた様子を見せるが、篠原は笑いながら、下手人なんていませんよ。死人に口なしですからと答える。

その頃、小杉は自室で、陽子への手紙を書きかけていたが、何度も破り捨てていた。

演芸会場にやって来たリウは、信州の姿を探していた。

やがて、小杉の部屋にやって来たリウは、さっき、信州がこんな大金をお初に置いて行ったと札束を見せる。

何か訳があるに違いないと読んだ小杉はリウと共に、信州を探し始める。

その信州は、排水溝の中で、たくさんのダイナマイトを仕掛け終わった篠原と子分たちから、俺たちがここを出てから500数えてから導火線に火をつけろ。導火線は長いんだから、お前が逃げる時間は十分あるんだ、安心しろと言われていた。

さすがに怯えた信州は、誰か一緒にいてくれと懇願するが、一升瓶だけを渡される。

排水溝を出た篠原は、子分たちに、排水溝の出口を塞ぐように命じる。

子分たちは、板で穴を塞ぐと、それに心張り棒を何本もあてがって、中から信州が出られないようにする。

中では、酒を飲みながら、信州が数を数えていた。

そこにやって来た小杉とリウは、逃げようとしていた篠原一味を発見、飛びかかって来る相手を次々に川に放り込んで行く。

500まで数え終わった信州は、何本もの導火線に次々と火をつけて行く。

外では、小杉が子分たちと戦っていたが、そんな小杉を、篠原が拳銃で狙っていたので、背後から近づいたリウは、金棒で後頭部を殴りつける。

篠原は倒れ込んだトロッコごと、川に転落する。

演芸会場ではカンカンダンスがにぎやかに披露されていたが、そこに、工事現場が大変だとの知らせがやって来る。

観客たちは一斉に工事現場に走り出す。

小杉は必死に、心張り棒を外し、大きな岩を持ち上げ、排水溝を塞いでいる板を外そうとしていた。

中では、逃げられなくなった信州がわめいていた。

何とか、板を外し、信州を助け出した小杉は、自ら排水溝の中に入り込み、導火線を次々と消し始める。

すると、信州も押さえつけていたリウの腹に頭突きをして気絶させると、又排水溝の中に戻り、導火線を消し始める。

小杉は必死に片面の導火線を全部消し終わるが、片面の方を消していた信州は最後の一本が間に合わず、爆発が起きる。

信州はその犠牲となったが、小杉は左手を負傷しただけで現場に復帰する。

出迎えた松川所長は、君は今回の事で英雄になったと小杉を賞賛する。

そこに、雛菊がやって来て、礼を言いたいと小杉に近づく。

そこに屋って来たリウは、雛菊の姿を見るなり、すぐに帰りなさいと追い立てる。

小杉も一緒に行きたがるが、それを止めたリウは、夕べあの子のおじいちゃんが自殺したそうよ。あの子はまだ知らないのよと教える。

鮎川家が引っ越す日、小杉、リウ、小林先生も見送りに来ていたが、小学生の三男ヤスオは、おばあちゃんに持って来いと言われたと畑の土を袋に詰めていた。

立ち退きも完了し、無事ダムは完成する。

発電所のスイッチが入れられたのを見届けた松川所長は、雪が来ないうちに終わった。今度は九州か…と呟いていた。

そんな小杉の元に陽子から手紙が届いていた。

中を読むと、婚約をを取り消して欲しい。この頃、あなたからの手紙の内容は工事の事ばかりで、だんだん私は付いて行けなくなりました。生きる次元が違ってしまったのです。前にうかがった時、その事を言おうと思っていたのだけれど言えなかったと書かれてあった。

松川はリウに、小杉は東京に戻るようだ。しょせん、あれだけの男だったようだよと教える。

着物に着替え、完成したダムを横目に見ながら、小杉に別れを告げに来たリウは、山の中で陽子からの手紙や写真を焼いていた小杉を発見し、自分たちは九州に向かうのでこれでお別れねと挨拶する。

すると、立ち上がった小杉も、僕も九州に行くと言い出したので、リウの表情は輝く。

その後二人は、亡くなった信州の墓参りをしているお初に出会う。

お初は生まれた赤ん坊を背負っていた。

小杉とリウは、お初を伴い、一緒に山道を降りるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

建設省と西松建設が協賛したダム工事の映画。

後年の「黒部の太陽」を連想するが、もっと通俗味が強く、若き三船の魅力も相まって、それなりにまとまった娯楽作品になってる。

冒頭部分を観ていると「建設会社のPR映画」なのかな?と思わせるが、内容を観て行くと、必ずしもダム工事や建設作業を礼賛している訳でもなく、どちらかと言うと、立ち退きを迫られる村人たちの苦悩の方に重きを置いて描かれているようにも見える。

堺左千夫演じる篠原は通俗アクションの典型的小悪党として登場している事が分かるが、今ひとつ良く分からないのが、多々良純扮する信州の存在。

不幸な過去から人生を踏み誤った人物のように思えるが、最後まで感情移入したくなるような人物になっていないので釈然としないのだ。

登場の仕方、小杉に一方的に面倒を見てもらっている前半の展開から、普通の娯楽映画だったら、後半、少しは真人間になって人に尽くしたり、真面目に働くようになったと云う姿を描き、観客に多少は感情移入するように仕向けた上で、お初に惚れてプロポーズをしたのに断られたり、最後、小杉を助けて命を落とすと言う悲劇に持って行くはずで、本作では、その途中の更生振りが描かれていないので、最後の最後まで、信州に対する同情心が湧いて来ないのだ。

太田黒の登場も中途半端で、篠原の行動に拍車をかけた単なる小心者の金持ちと言う以上には存在意義がなく、こちらもあまり印象に残らない。

この辺がはっきり描かれていないので、ラスト、なぜ急に、お初が帰宅を許されたのか辺りの事情が分からない。

おそらく、篠原一派が掴まり、その口から、ダム工事妨害の背後に自分がいる事がバレたか、バレそうになったのを恐れた太田黒が、温泉宿の女将と相談し、雛菊を開放してやったのだろうと推測出来るくらい。

茂吉じいさんの自殺も唐突すぎて、その自殺と、雛菊の開放が何か関係があるのかどうかが良く分からない。

単に、自分の手で孫娘を取り戻したいと願いながらも、現実には、何も助ける術を持たない、貧しく非力な自分に対する絶望感からの自殺なのか?

主人公である小杉すらも、ダムなど出来ない方が良いのではないかなどと言っているので、どちらかと言うと、監督の狙いは、文明の名の下に犠牲になって行く貧しい人々への同情心、失われて行く平和な過去への郷愁などの気持の方が強かったのではないかと感じる。

最終的に、小杉に惚れている久慈あさみ演ずるリウとの関係を観客に予見させる為の小道具扱いにされているだけのようにも感じる小杉の許嫁役の陽子も、何となく、お高く留った深窓の令嬢風の薄っぺらい女性としてしか描かれていないため、そんな娘と付き合っていた小杉の価値観にさえ疑問を感じてしまう。

全体的に人物造型が類型的な事と、悲劇性の演出ばかりが目立つため、古くさい通俗活劇の域を出ていないような印象を受けてしまうのかもしれない。

とは言え、若い三船はそれなりに魅力的だし、真面目な教師を演じている沼田曜一や、茂吉老人を演じている高堂国典の渋さなどは印象に残る。

クライマックスの演芸会場、舞台上でのカンカン踊りに重なる伊福部昭の「宇宙大戦争マーチ」風のメロディが、怪獣世代の気持を高ぶらせてくれるのが嬉しい。